( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

3: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:02:27.72 ID:UbfNnEvZ0
  
その5 「屍は笑う」

都市警察最下層東分署に戻ったギコは、一連の怪死事件についてのレポートをまとめていた。
心臓えぐりはもちろん、ミンチ殺人などの変死事件。
それら全てが『悪魔憑き』によるものであると断定することは難しいが、その可能性は非常に高い。

ギコがこのレポートを上に提出するのは、実はこれで10回目である。
回を重ねるごとに新たな事件を加えて提出。
事件が起こる度に行われるレポート作成は、もはや彼にとってルーチンワークになりつつある。

レポートの内容は明朗にして単純。
だが、『悪魔憑き』を初めとするその内容は、普通人にとっては到底信じられるものではない。
提出される度にゴミ箱で発見されるレポートを見て、ギコは何度もため息をついている。



4: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:06:04.14 ID:UbfNnEvZ0
  
もちろん、いきなり全てを理解しろというのは難しい要求であることは百も承知だった。
しかし、上層部の反応はなしのつぶて。
内容によっては確実な裏付けを取れているものすらあるというのに。

(,,゚Д゚)「どう思う、兄者」

レポート作成の手は休めずに、ギコが傍らに立つ色の白い男に問いかける。

( ´_ゝ`)「やはり、何らかの手が回っていると考えるべきでしょう」
(,,゚Д゚)「そうか……。しかし、そんなことが可能だと思うか?」
( ´_ゝ`)「我々を動かす存在が絶対的な合理性を持つとはいえ、それは絶対的な不可侵と同義ではありません」
(,,゚Д゚)「そうだな。もはやその可能性は否定できない……。いや、肯定せざるを得ないようだ」

ため息をつくギコ。
兄者と呼ばれた男は、ギコを労うようにコーヒーの準備を始めた。
兄者のコーヒーは薄かった。


その後ギコが提出したレポートは、その1時間後に細切れの残骸となってゴミ箱から発見された。
ギコの不審は確信に変わった。



6: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:12:22.44 ID:UbfNnEvZ0
  
バーボンハウス レストルーム

気を失ったブーンが目を覚ますと、そこはバーボンハウスのレストルームだった。
白い天井に蛍光灯が灯り、青白い光を放っている。
オーナーのショボンが休む際に使うそこは、主人の性格を反映してか、狭いながらも綺麗に片づいている。
ベッドの脇には小さなテーブル、据え付けの棚にはショボンの趣味であるカクテルや酒類関係の本が数冊。
シーツの清潔な匂いが、ブーンの鼻腔を優しく通り抜けた。
常に腐臭とけばけばしい香水の匂いに満たされている最下層では遭遇できない清潔な環境。
少し前まではブーンも同じような環境で生活していたが、今では若干の違和感を感じる。

( ^ω^)「ボクは……」

気を失う前の記憶をつなぎ合わせて、ブーンは自分の身に起こったことを推測した。
おそらく、ギコに支え起こされてからすぐに、自分は気を失ったのであろう事。
自分をここに連れてきたのは、ギコであろう事。
ここに寝かせているのはショボンのはからいであろうこと。
そして、何よりも大切なツンが生きているであろうこと。

断片的な記憶をとりとめなく浮かび上がらせていると、部屋にある唯一の扉からショボンが顔を覗かせた。



7: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:19:42.42 ID:UbfNnEvZ0
  
(´・ω・`)「やぁ、起きたようだね」
( ^ω^)「ショボン……」
(´・ω・`)「ああ、無理して起きあがらない方がいいよ。それなりに酷い怪我だからね」

身を起こそうとするブーンを見て、ショボンがそれをやんわりと制した。
ショボンの言葉通り、少し体を動かすだけで体が激しく痛みを訴えた。
軽く消毒液の臭いが漂うことに、ブーンは気づく。
手当もショボンがしてくれたのか。
ブーンは高校時代からの友人に、深く感謝の意を覚えた。

(´・ω・`)「とりあえず、寝ながら話を聞いて欲しい」
( ^ω^)「わかったお」
(´・ω・`)「まずは、そうだな。ここに至るまでの経緯でも説明しようか」

そう言ってショボンは、ブーンが気を失っていた間の出来事を語り始める。



8: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:24:10.67 ID:UbfNnEvZ0
  
ブーンを運んだのは、やはりギコだった。
気を失ったブーンを運ぶ場所が、他に思いつかなかったのだという。
ブーンはギコにも感謝した。
一度顔を合わせただけの間柄だけに、その場に捨て置かれても文句は言えないところだ。

バーボンハウスにブーンを運び込むと、ギコはすぐに職場へと戻っていったという。
去り際に一言、『ブーンが起きたら俺の所まで来るように言って欲しい』と言い残して。
ついでに、顔パスで出入りできるように取りはからっておくとも言ったそうだ。
どうやらギコはそこそこの地位にいる人物らしい。

だが、ブーンは一向に目を覚まさなかった。
外傷もさることながら、長時間にわたるGの連続負荷が深刻なダメージを与えていた。
ここに運び込まれてから三日間も眠り続けていたことを知って、ブーンはとても驚いた。

近場の闇医者に往診してもらったところ、ブーンは疲労による一時的な昏睡と診断された。
脳への障害等はないと聞いて、ショボンは大きく安堵した。
それからの数日は、医者に渡された栄養剤を一日に一度注射して、あとは安静にさせる日々が続く。
ブーンはその間、死んだように眠り続けて、そして今日やっと長い眠りから起きあがることができた。



9: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:27:02.24 ID:UbfNnEvZ0
  
( ^ω^)「本当にすまなかったお、ショボン。なんと言えばいいか……」
(´・ω・`)「お礼なんていいさ。当然のことをしたまでだからね」

ベッド脇の椅子に腰掛けて、ショボンはブーンの足の包帯を交換しながら答えた。
当然の行為と断じてはいるが、ブーンはその介護が当然のものではないことを知っている。
寝ていても人間は、特にその内臓は働き続けるものだ。
糞尿等の排泄行為はもちろん、垢やフケ、汗等の汚物を人間は常に吐き出し続ける。
それら全てを、しかも他人のそれを取り除き、世話する労力と精神的不快感は並のものではない。

だが、今のブーンは清潔な状態に保たれていた。
排泄物の処理はもちろんのこと、肌も綺麗に汚れはぬぐい取られ、さらさらとしたシーツの感触を返してくる。
最近は面倒になって洗えていなかった頭髪すらも洗髪され、ブーンは頭が軽くなった感触すら覚えた。

( ^ω^)(ありがとう、ショボン)

礼を言われることを拒む友人に、心の中で深く礼を言う。
最下層に移り住んでからは感じることのなかった人の温もりを、ブーンは安らかな気持ちで受け取っていた。



11: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:31:57.84 ID:UbfNnEvZ0
  
( ^ω^)「そういえば、ギコ……さん、からは何か連絡はなかったのかお?」

呼び慣れない名前のために、ブーンは少しどもってしまった。

(´・ω・`)「何の音沙汰もないよ。君を連れてきて、それっきりさ」
( ^ω^)「そうかお。じゃあ、こちらから出向くしかないかお」
(´・ω・`)「出向くって……まさか都市警に? 直接?」
( ^ω^)「それしか情報を得る方法はないお」
(´・ω・`)「ちょっとまって、まってよ。何か方法が見つかったっていったじゃないか」
( ^ω^)「確かに見つかったお。でも、新しい情報を得るには、あの人に会うしかないお」
(´・ω・`)「……わかった」

ため息をつくショボン。
ブーンは昔からこうだった。
一度決めたことだけは必ずやり抜く。
年を重ねることによってその手段や知識は変化していったが、その正確だけはかわらなかった。

(´・ω・`)「とりあえず、説明してくれるかな。今度こそ全部をね」



14: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:37:31.41 ID:UbfNnEvZ0
  
『メリルヴィルの晩餐』 礼拝堂

四方を暗幕に囲まれたそこは、ただひたすらにシンと静まりかえっていた。
100m四方の空間。
照明は正方形を描くようにして立てられた小さなガス灯の明かりのみ。
ゆらゆらと揺らめく青白い炎が、その場に佇む四つの人影を淡く照らし出す。
15: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:40:49.42 ID:UbfNnEvZ0   
/ ,' 3「――というわけで、ジョルジュの捕獲は失敗じゃ」

三日前の一部始終を話し終えた老人が、そう言って話を締めくくる。
顎髭をしごきながら、長話に疲れたとばかりに大きく息を吐く。

/ ,' 3「まあ、ジョルジュの性格からして素直に戻るとはおもえんかったがの」
(*゚ー゚)「まあねー。彼、一度思いこんだらとことん突っ走る性格みたいだし」
('A`)「……馬鹿が」
( ゚∋゚)「……」

老人の言葉に対して、他の3人はそれぞれの反応を返す。
青い薄衣を纏った美しい女性は明るく。
赤黒いパーカーを羽織った細身の男は陰鬱に。
白いタンクトップのみの大男は沈黙で。

年齢も性別もちぐはぐな一団は、一見するとたまたま行き会った何の繋がりもない間柄にも見える。
だが、その身から噴出するどす黒い気配だけは、全員がほぼ同一。
それだけで彼らが何らかの目的を共有する者であることがはっきりとわかる。



16: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:46:11.15 ID:UbfNnEvZ0
  
(*゚ー゚)「それで、荒巻さんはどーするの?」
/ ,' 3「ふむ。儂としてはできるだけ計画を遅延させたくはないのだがな」
(*゚ー゚)「あら。じゃあ、ジョルジュ君は捨てちゃうの?」
/ ,' 3「そんなもったいないことはせんよ。機を見て接触し、説得するつもりじゃ」
(*゚ー゚)「荒巻さんてねばり強いよねー」
/ ,' 3「お前さんがあっけらかんとしすぎておるんじゃよ、しぃ」

荒巻と呼ばれた老人が、明るく笑う女性にたしなめるように話しかける。
孫と祖父ほども歳が違う二人は普通に会話をしているように見えるだろう。
だが、その表情には親しみや仲間意識などは欠片も見受けられない。



18: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:49:46.62 ID:UbfNnEvZ0
  
/ ,' 3「おお、そうじゃ。ギコからお前さんあてに言づてを預かっておるぞ」
(*゚ー゚)「ギコくんから?」
/ ,' 3「『出来ることなら二度と目の前に現れるな』だそうじゃ」

一見淡々と、だがひたすらに殺伐とした会話を交わしながら。
荒巻が思い出したかのように、ギコから頼まれていた言葉をしぃに伝える。

(*゚ー゚)「ふぅん……そう、ギコくんが。そんなこと言ったんだ。へえー」
/ ,' 3「ほ。嬉しそうじゃな、しぃ」
(*゚ー゚)「もちろん嬉しいに決まってるじゃない」

花びらのような唇をほころばせてしぃが笑う。

(*゚ー゚)「目の前に現れるなっていうことは、現れたら心が揺らぐってことでしょ?
    つまり、まだギコくんは私の事が好きなの。好きで好きで仕方がないのよ」
/ ,' 3「あれだけきっぱりと別れたくせに、大した自信じゃのう」
(*゚ー゚)「当然よ。彼にとって私は、それだけの価値と魅力があると信じてるもの」
/ ,' 3「それは女のカンかね?」
(*゚ー゚)「んーん。どっちかっていうと、深い愛のなせる業、かしらねー。女冥利につきるわー」

いやーん、私ってばア・ク・ジョ☆ などと言いながら身をくねらせるしぃ。
それを憎々しげに見て、細身の男が口を開く。



21: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:54:37.49 ID:UbfNnEvZ0
  
('A`)「キモい仕草してんじゃねえ、売女が」
(*゚ー゚)「なーによ、いきなり。あ、もしかしてドクオっちてば、妬いてんの?」
('A`)「空っぽの頭、吹き飛ばしてやろうか。つか、何がドクオっちだよ。俺の名前はドクオだ」
(*゚ー゚)「親愛の表現ってやつじゃないの。ツンケンしてたら包茎も治らないわよ? 包茎は相手したげなーい」
('A`)「俺は包茎じゃねぇ。お前の病気持ちクサレマンコに突っ込む気なんざハナっからねぇよ」

ドクオと呼ばれた男としぃの毒舌が絡み合う。
あたりに明確な殺気が沸き立ち、一触即発の雰囲気が周囲を飲み込んだ。
二人の間に挟まれた荒巻が大きく嘆息。

/ ,' 3「やれやれ。あまりドクオを挑発するでない、しぃ」
(*゚ー゚)「だあーってぇー」
/ ,' 3「だまらっしゃい。ドクオもドクオじゃ、安っぽい挑発にのっておる場合か」
('A`)「チッ。わかってるよ」

殺意を無理矢理散らされて、ドクオはバツが悪そうに顔をしかめる。



22: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/18(水) 23:58:44.68 ID:UbfNnEvZ0
  
('A`)「それより、そんな場合じゃねぇってんなら、今すぐにでも動くべきだろ」
/ ,' 3「もちろんその通りじゃ。しかし、迂闊に動けば都市は我々を排除する」
('A`)「ハ。人口無能のご機嫌伺いってか? 俺はやだね」

吐き捨ててドクオがその場を離れようとする。
その背にあわてて荒巻が声をかけた。

/ ,' 3「こりゃ、またんかドクオ!!」
('A`)「うるせーな。やることはわかってんだから、グダグダ言わずにやりゃいいんだよ」

ひたすらに陰鬱な表情に暗い笑みを浮かべながら、ドクオがその場からかき消える。
それを見た荒巻がため息をついて沈黙する大男を見やると、大男もまたその場から姿を消していた。
荒巻は何度目ともしれないため息をついた。

/ ,' 3「やれやれ。話を聞かないやつばっかりじゃ」
(*゚ー゚)「少しなら同情してあげてもいーわよ」

かつての恋人と全く同じセリフを吐くしぃに、荒巻は顔をしかめて見せた。



23: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:03:44.49 ID:lVpI7dKS0
  
都市警察最下層東分署 応接室

中のスポンジがところどころ飛び出た、安っぽいソファーセット。
座り心地のあまりよくないそれに尻を乗せて、ブーンは居心地悪そうに辺りを見回した。
灰色の壁はところどころ黒い染みが浮かび、その染みは床の薄っぺらなカーペットまで浸食している。

部屋の中の調度品はとても少ない。
ソファーセットに挟まれるように置かれた木のテーブル。
その上のテーブルクロスと、ガラス製の灰皿。
部屋の隅にある予備のパイプ椅子。
それが部屋にある調度品の全てだった。

シンプルと言えば聞こえはいいが、殺風景と言えばそれまで。
都市政府直轄の都市警察といえど、最下層の分署ともなれば中身はこれこの通りだ。



25: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:08:15.18 ID:lVpI7dKS0
  
ブーンが周囲の観察を終えてしばらくたった頃、ドアを押し開けてギコと二人の男が入ってきた。

(,,゚Д゚)「待たせてすまんな、ブーン」
( ´_ゝ`)(´<_` )「……」

いつも通りの軍用コートを羽織ったギコ。その手には黒いファイルケースを持っていた。
その後ろに続く顔の非常によく似た男達は、グレーの制服を着用している。

(,,゚Д゚)「思ったよりもお前の行動が早かったため、資料を用意できていなかった」
( ^ω^)「いや、かま……いませんお、ギコ、さん」
(,,゚Д゚)「俺のことはギコでいい。敬語も無用だ」

一応年上であることを意識したブーンの気遣いを、ずっぱりとギコが斬り捨てる。
軽くヘコむブーンを顧みることなく、ギコはブーンの向かいに腰を下ろした。
残る顔のよく似た男達は、ギコの後ろにやすめの姿勢で待機する。



27: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:16:46.85 ID:lVpI7dKS0
  
(,,゚Д゚)「お前を直接こちらで保護することも出来たのだが、こちらにも都合があってな」
( ^ω^)「あ……ボクをショボンの所に運んでくれて、ありがとうだお」

今更ながらに感謝の意を述べるブーン。
ギコは鬼気せまる勢いだった三日前のブーンとの違いに、少し驚いたような表情をみせる。
頭にハテナマークを浮かべながら見返すブーンを見て、ギコは何かに納得したように小さく頷いた。

(,,゚Д゚)「そうか。それがお前の本来の顔か」
( ^ω^)「へ? 顔?」
(,,゚Д゚)「いや、なんでもない。いい顔だ」

突然顔の話を振られたブーンは頭上のハテナマークを増加させる。
更に、脈絡もなく顔を褒められて、ブーンのハテナマークは最大限に増殖した。
そんなブーンを見て、ギコは小さく笑った。



28: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:20:15.78 ID:lVpI7dKS0
  
(,,゚Д゚)「さて。世間話もいいが、そろそろ本題に入ろう」
( ^ω^)「そっちから振ったくせに……」
(,,゚Д゚)「都合の悪いことはあまり気にしないタチだ。きこえんな」
(;^ω^)(もしかして、この人もの凄く性格悪いんじゃないのかお)

平然と言い放つギコに呆れてものも言えないブーン。

(,,゚Д゚)「ところで、お前の友人はどうした」
( ^ω^)「ショボンのことかお? ショボンは店に残ってるお」
(,,゚Д゚)「そいつは、どこまでこの件に深く関わっている?」
( ^ω^)「とりあえず、ボクの知ってることは全て伝えたお」

ショボンに情報提供を頼んだ際、ブーンはあえて一部のことを秘匿した。
特に『悪魔憑き』に関することに対しては、何一つ情報を公開しなかった。
信じて貰えないかもしれないと思ったのではない。
最後の頼みの綱であるショボンに見捨てられたくはない。
悪魔と一体になった自分を嫌って欲しくない。
そう思ったブーンは、どうしてもそのことをショボンに話すことはできなかったのだ。



29: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:27:46.71 ID:lVpI7dKS0
  
(,,゚Д゚)「そうか。それで、相手の反応は?」
( ^ω^)「見損なうな、って言われて、思いっきり殴られたお」

そう言って、未だに赤みの残る頬を撫でるブーン。
口の中は激しく切れており、未だに痛みが残っているが、ブーンはその痛みを嬉しく思う。
その痛みは信じ抜くことができなかった友人に対する贖罪。
その痛みは信じてくれた友人との絆。

(,,゚Д゚)「では、完全に巻き込まれた形であるとはいえ、立派な関係者だな」

嬉しそうなブーンとは対照的に、ギコは苦い表情を浮かべる。
そして背後の男達に、ショボンの保護を指示した。
指示を受けた男達のうち左側に立つ男が、頷くと携帯端末を取り出してどこかに連絡を取り始める。
おそらくはショボンの保護を伝えたのだろう。
それらの様子を見て、ブーンは友人を危険に巻き込んだ責任から、暗い気持ちが腹に溜まるのを感じた。



30: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:30:38.99 ID:lVpI7dKS0
  
落ち込むブーン。
その暗い顔を見て、ギコが取って付けたようにフォローする。

(,,゚Д゚)「起こってしまったことは仕方がない。
    それに、遠からず最下層市民は全て保護する計画だった。気にするな」
( ^ω^)「全市民を……保護?」
(,,゚Д゚)「そうだ。俺の知りうる限りでは、すでに奴らの計画は始まっている。
    そしてその計画の中には、最下層全域を巻き込む計画があったことは確かだ」

淡々と知っている情報を公開するギコ。
その口ぶりは、まるで見てきたかのように確かだ。

( ^ω^)(そういえば……あの時)

ブーンは三日前の、老人とギコのやり取りを思い出す。
組織に属すると思われる老人は、ギコに対して『帰ってこないか』と誘いをかけていた。



32: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/19(木) 00:35:19.80 ID:lVpI7dKS0
  
( ^ω^)(つまり……ギコは、組織にいたことがある?)

それも、計画の段取りを。
全容を知ることができた立場として。

( ^ω^)「ギコ……あんた、昔は」

ブーンは心の内にわだかまる疑問をギコにぶつけようとして口を開いた。
だが、丁度その時。
応接室に、いや分署全体に、不吉なサイレンが鳴り響く。
聞く者を否応なく不安の底にぶち込む音は、全てを圧してがなり立てた。

(;^ω^)「な、なんだお!?」
(,,゚Д゚)「まさか……」

ブーンとギコが慌てて腰を上げる。
その瞬間、ブーンの足、正確にはその不完全な癒合部分が、鮮明な痛みを発し始めた。
その痛みはブーンの足に取り付く悪魔がざわつくことにより生まれる痛み。
そして悪魔がざわつく理由は――同類が近くに現出した場合のみ。

(,,゚Д゚)「どうやら説明している時間はなくなったようだ」

ギコが重苦しい声音で言った。



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