( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです
- 6: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:16:15.60 ID:iklecO660
- その11「生への渇望」
おーん、おーんという耳鳴りを聞きながら、ブーンの意識は再び『無』の空間――ブーンの深層意識へと戻ってきた。
周囲から冷たい闇が消えたことを感じ取り、ブーンがゆっくりと目を開く。
( ´ω`)「……」
周囲には相変わらず何も存在せず、何にも触れることは出来ない。
暗く虚ろな空間は、今のブーンの心境を表わすかのように、どこまでもどこまでも空虚だった。
( ω )「……思い出したかお」
ふわり、と。
目を開いたブーンの前に、一つの人影が舞い降りた。
曖昧な輪郭をした、闇色の人影。
その背中には六対十二枚の翼がゆらめき、黒い背光のごとくその身を飾っていた。
それは、堕天使『アザゼル』が遺した記憶の欠片であり、ブーンにとっての最後の『鍵』。
( ´ω`)「思い出したお……全て……」
『記憶』の問いかけに、ブーンは俯きながら答える。
その顔には悲痛としか言い表せない表情が色濃く浮かび、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
- 8: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:17:36.33 ID:iklecO660
- ( ω )「ならば……決断の時だお」
『記憶』が、ばさり、と翼を広げる。
( ω )「お前は自らの過去と、その過ちを知ったお。お前はブーンでありながら、いまや同時に堕天使アザゼルでもある。
転生のために分けられた意識と記憶は、今ここに再び一つとなったんだお」
そう言って、『記憶』はブーンの目の前までゆっくりと移動すると、再び口を開いた。
( ω )「決断しろお。過去の罪と穢れ、それを内包した『記憶』を受け入れるかどうかを。そして……」
ぐう、とブーンの顔に自らの顔を近づけて、『記憶』が問う。
( ω )「再び、堕天使『アザゼル』として転生する気はあるかを」
ギラついた双眸でブーンを真正面から睨み据えながら。
アザゼルの残した『記憶』は、記憶を失い人間として生きてきたアザゼルを試す。
かつて一つだった彼らは、人間に転生し、輪廻の輪に加わるために二つに分かれ、光と影に住み分けた。
『記憶』と『意識』。
人間になるために二つに分かれた彼らが一つになるということ。
それはつまり、ブーンが再び『堕天使』として転生するということ。
堕天使としての穢れ、その罪、その全てを。
今、再び魂に刻み込むということ。
- 12: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:19:25.01 ID:iklecO660
- ( ω )「堕天使として転生すれば……そうすれば、致命傷を負った体は再構築され、無くなった悪魔の力よりもより強い
『アザゼル』の力を得ることができるお」
『記憶』は続ける。
( ω )「でも、堕天使として転生したが最後……お前の魂はこれ以上なく穢れて、二度と人間には戻れないお。
ツンと共に人間として歩むことは出来なくなり、ジョルジュを倒した後に待つのは『地獄堕ち』だお」
そう言って、『記憶』はブーンの額に自らのそれを重ね合わせた。
曖昧な輪郭が額を中心に揺らぎ、ブーンの心を写すかのように不安定に揺らめく。
( ω )「それでも、お前は転生を望むのかお。許されない罪により、再び冷たい闇の世界に囚われる事を知りながら。
今ならまだお前は、人間として死ねる。ジョルジュによって堕とされたツンと同じ地獄に行くことも出来るお。
それでも――」
( ´ω`)「それでも、ボクは転生を望むお」
自らが切り離した『記憶』が次の言葉を綴るよりも早く。
ブーンは大きく頷いて、『記憶』の言葉を遮った。
ブーンの目は静かな色をたたえ、そこには欠片ほどの迷いも見て取ることは出来ない。
あくまでも冷静で、平穏な気持ちをもって、ブーンは自分の運命を決断していた。
堕天使としての転生を望み、ツンを助けることを。
- 14: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:21:07.12 ID:iklecO660
- ( ´ω`)「……」
( ω )「……」
しばし至近距離で見つめ合う。
視線を逸らしたのは、『記憶』が先だった。
ブーンの目の前に居る『記憶』が、ぐにゃりととろけて姿を変える。
翼が縮み、髪の毛が伸び、背はブーンよりも小さくなって。
数瞬の後に、それはブーンの、そしてアザゼルの大切な人へと変貌を遂げた。
ξ゚听)ξ「……どうして?」
( ´ω`)「?」
ξ゚听)ξ「何故、そうまでして……昨日までは声も味も覚えていなかった女のために、自分を犠牲にするの?」
わからない、という風に『記憶』が姿を変えたツンが問いかける。
ブーンはツンの言葉に、かぶりを振って答えた。
( ´ω`)「……ボクにも正直、何故そんなことをするのかなんてわからないお。
きっと理由なんてないんじゃないのかお」
ξ゚听)ξ「……」
( ´ω`)「ボクが過去を知って、記憶を取り戻して思ったことは一つ。ツンを助けたい、ただそれだけだお」
ξ゚听)ξ「それが例え、今は自分の事を覚えてすらいない人でも? 自分が覚えていなかった人でも?」
( ´ω`)「もちろんだお」
『記憶』が縋るように投げかけた問いかけに、ブーンは静かに頷いた。
- 17: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:23:13.43 ID:iklecO660
- ( ´ω`)「強いて言うなら、贖罪なんだお。ボクは過去に犯した罪を悔いて、人間に転生するために記憶を捨てたお。
それは、何も行動せず、ただ自分の望みだけを優先させただけのエゴ。醜い行為だお……。
その代償が今の状況なら、ボクにできることは、今出来る限りの全てをすること。それがボクの理由だお」
そう言ったブーンの瞳には、強い輝きと穏やかな光が、混然一体となって浮かんでいる。
過去の罪を悔やみ続けながら、地獄で過ごした日々。その間、ずっと願い続けるだけだった幸福な未来。
それを受容するために動かなかった結果、その不条理な結果を打ち崩すため。ブーンは今、決断する。
ξ゚听)ξ「……そう」
ブーンから身を離し、ツンは俯くようにして顔を伏せた。
その顔には強い悲しみと諦観が色濃く浮かび、ツンの美しい顔に暗い影を落としている。
愛しい人のそんな顔を見て、ブーンはたまらず口を開いた。
( ´ω`)「でも……ボクが決断した理由は、それだけじゃないんだお」
ξ゚听)ξ「え……?」
( ´ω`)「確かにボクは、過去の過ちを悔いているお。でも、本当はそんなことはどうでもいいんだお」
ブーンはツンに近づいて、優しく小さな肩を抱きしめた。
今目の前にいるのは、本当のツンではなく、ただ『記憶』の中にあるツンの思い出が形を変えて現れたもの。
そう知っていてもなお、ブーンはツンを抱きしめずにはいられなかった。
( ^ω^)「ボクは、ツンを助けたいんだお。過去の罪を払拭するためでも、アザゼルとしてでもなく。
ボク個人の気持ちとして……今はツンを助けたいんだお」
それは、アザゼルとしての記憶を持たない頃から、ブーンがずっと持っていた行動理念。ただ一つの、ブーンとしての願い。
- 20: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:24:23.70 ID:iklecO660
- ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」
( ^ω^)「どういたしまして、だお」
にこりと微笑んで、ツンから身を離すその瞬間、ブーンは、体の中で何かが組み変わる音を聞いた。
ブーンの一番深い場所、その最奥部。そこで組み変わる、ブーンがブーンとして生きていた証。
ブーンは、この短い会合が、終わりを告げようとしていることを理解した。
( ^ω^)「じゃあ……ボクはそろそろ行くお」
ξ゚听)ξ「うん……。気をつけてね」
そう言ったツンの体が、ポロポロと崩れ、小さな粒子となっていく。
小さな粒子になったツンの体は、さらに小さな粒子となり、やがて周囲の闇に溶けていった。
( ^ω^)「また……会えるおね?」
ξ゚ー゚)ξ「……会えるよ。あなたが生きている限り。必ず、会える」
ふと不安になったブーンが口を開く。
ツンは、ふわり、と優しく笑って頷いた。
ξ゚ー゚)ξ「だから……死なないで」
その言葉を最後に残して、ツンの姿をした『記憶』は、跡形もなく溶け消えた。
しかし、ブーンには解る。
『記憶』は消えてしまったのではなく、自分の中に戻ってきたのだということが。
- 21: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:25:47.37 ID:iklecO660
- ( ^ω^)(ツン……ボクは必ず、ツンを助けるお)
冷たい復讐の気持ちのみを抱えていたブーンの心に、暖かい記憶と意思が流れ込んだ。
それは、魂を穢す汚れた記憶。でも、大切な記憶。
ずっと見つからなかった最後のピースを得たかのように。
ブーンの中で組み変わり続けていた何かが、そのスピードを増す。
確実にブーンの属性を負へと傾倒させるはずのそれは、何故か今のブーンにとって、とても心地よい物に思えた。
全てが組み変わり、根本から再構築されるブーン。
やがてブーンの意識はアザゼルの記憶と完全に一つになり、神話の時代と自分の生きた時代の区別が付かなくなっていく。
闇色に染まるブーンの心。その中にしまいこまれた光の記憶。
それら全てを自分のものとして――
――ブーンは再び、現実世界に産声を上げた。
※ブーン
22歳。元貿易公司社員。
アザゼルとして生きた過去を持つ人間。『メリルヴィルの晩餐』が過去に行った『悪魔降ろし』で召喚された堕天使だが、
『鏡』の支配を振り切って、人間に転生していた。
一ヶ月前に『メリルヴィルの晩餐』にツン共々拉致され、悪魔憑きの儀式を受けさせられる。
空席となっていた『禄存』の座につくべく儀式を受けるが、適正が存在しないために失敗。
しかし、ブーンは『アザゼル』の魂を持っていたため、魂が適合。不完全な形で悪魔が癒合した。
『出来損ない』として組織から解放されてからは会社を辞め、最下層に居を移してツンの捜索に打ち込む。
- 23: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:27:41.82 ID:iklecO660
- 中方都市 上空
ブーンの下半身を『喰らった』ジョルジュは、落下していくブーンを見るともなしにぼんやりと目で追った。
臓物を撒き散らし、血を振りまきながら落下していくブーン。
悪魔ごと下半身を喰われたその身にはすでに何の力もなく、残った上半身が地面に叩き付けられるのは明白だった。
( ゚∀゚)「……なんだよ。あっさり逝っちまいやがって……」
そう言って、唾を吐き捨てるジョルジュ。
憎々しげな言葉とは裏腹に、しかしジョルジュの顔には、一抹の寂しさのような表情が浮かんでいる。
( ゚∀゚)「せっかく……せっかくよぉ。一緒に居られる奴が出来たと……そう思ったのによ……」
大きくため息をつきながら、ジョルジュはブーンの残りカスから視線を逸らした。
力を失い、命を失いつつあるそれに、ジョルジュはもう何の魅力も感じない。
つい先ほどまでブーンに対して感じていた『親近感』は、ジョルジュの中から消え去っていた。
( ゚∀゚)「ッハ。やっぱり、俺はボッチ……か。一人で生きて、一人で死んで。んで……最後は一人で地獄堕ち、と」
ハハハ、と笑うジョルジュ。
どこまでも乾いた笑いは、砂混じりの空気に混じって、数mも進まないうちに空中へと消えた。
乾いた空気に、乾いた笑い声。
全てを包み込む大空にすら聞き遂げられない嗤いは、どこかもの悲しい。
- 24: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:28:35.06 ID:iklecO660
- ( ゚∀゚)「は、ハハハ、ヒハハハ、は、はひ、ひっ、ひ……」
笑い続けるジョルジュ。
しかしその声は段々と擦れて消えて、やがて彼は空中で俯くようにして嗚咽をあげ始めた。
体がガクガクと震え始め、暗い青色のブルゾンがこすれて耳障りな音を立てる。
ジョルジュの体の中に、逃れがたい虚無感と恐怖がむくむくと頭をもたげていく。
( ゚A゚)「は、はー、はーっ、っひ……嫌だ……もうひとりぼっちは嫌だ……一人で死ぬのなんてゴメンだ……
何で……何で俺は地獄に堕ちなきゃなんねーんだよ……嫌だ、いやだぁ……」
両腕で自らの肩を抱きしめ、震えを止めようとするジョルジュ。
しかしそれは叶わず、ジョルジュの震えは一層激しくなって心を揺らした。
(;゚A゚)「くそ、クソ、嫌だ、嫌だよォ……一人で永遠に地獄にいるのなんて、絶対に嫌だ……
俺はただ、仲間が、トモダチが欲しかっただけなのに。なのに、地獄堕ち? クソ、何でそんな……」
ジョルジュはブツブツと呟くように呪詛の言葉を垂れ流し続ける。
その顔には、常に浮かんでいる人を食った凶笑ではなく、恐怖に震える子供のような怯えだけがあった。
( ;A;)「あぁ、ちくしょう……また、狂えなくなってきやがった……。殺して、ぶちまけて、腐らせてれば、
その間は狂っていられるのに……クソ、ブーン、くそ、てめぇがあっさり死ぬから、デキソコナイが、っく」
ついには両目から涙を流し、体を大きく震わせてひくつくような嗚咽を漏らすジョルジュ。
都市を滅ぼし、全てを地獄に誘うべく行動するあざ笑う殺人者は、
ひとりぼっちになった夕闇の迫る空で、ただ一人泣いていた。
- 25: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:30:11.80 ID:iklecO660
- ジョルジュは27年前、中方都市の最上層で生まれた。
両親は都市政府の要人。
金も人脈も、それこそ有り余るほどに持っていた。
豪勢な食事と、立派な服。
太陽の恩恵を十二分に受けることの出来る、広くて清潔な一人部屋。
欲しい物、欲しくなる物を手当たり次第に与えられて、ジョルジュは何の不自由もない子供時代を過ごした。
その頃のジョルジュは、そんな生活が当たり前であると思っていたし、それ以外の生活は知らない。
同年代の子供達が一生口に出来ないような高価な食事を残飯として捨てても、ジョルジュの心は痛まなかった。
ジョルジュが自分の暮らしに疑問を持ち始めたのは、小等部に入学してから。
退屈な授業を毎日受けて、必要かどうかも判らない知識を詰め込まれる日々。
その中でジョルジュは多くの『友達』を持つことが出来たが、その多くは自分と違う生活を強いられていた。
例えば、服装。
ジョルジュが着ている服は肌触りのいい天然生地のオーダーメイドだったが、友人達はそうではない。
大半が化学繊維の量販品を身に纏い、所々にほつれを直した跡がある。
例えば、食事。
小等部では、毎日の昼食が支給されていたが、友人達の中にはそれを支給されない者達が居た。
その友人達は皆、ふくよかな自分とは違ってガリガリのやせっぽち。
たまにジョルジュの残り物をもらっては、貪るように食べていた。
自分にとって当たり前のように与えられていた物が、与えられていない友人達。
その中で6年間を過ごした彼は、少しずつ自分と友人達との明確な格差を知ることになった。
- 27: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:31:08.76 ID:iklecO660
- 異変が起こり始めたのは、それから数年の後。
ジョルジュが高校生になった頃、ジョルジュの身の回りでそれは起こり始めた。
異変とは、失踪。昨日までは普通に顔を合わせていた者達が、次々と姿を消していく。
隣のクラスにいた誰それが、前の席にいた誰彼が、ある日突然、唐突に消える。
なんの前触れもなく消えるクラスメイト達は、しかし特に騒がれることもなく、
最初から居なかったかのように処理された。
居なくなるのは、決まって家が裕福ではない者達。
この世界の腐った仕組みを漠然と理解し始めていたジョルジュは、最初これらの現象を深刻には捉えていなかった。
『ああ、金が無くなって夜逃げでもしやがったのかな』
そう考えて、一つため息をつくだけ。
親しい友人が消えた時ですら、ジョルジュは同じ反応を返すのみだった。
しかし、ジョルジュは自分の考えが間違っていたことを知る。
ある日、興味本位で下りた最下層で。
ジョルジュは、腐臭と汚物にまみれながらも無邪気に笑う、消えたはずの『友人』に出会ったからだ。
汚らしい自分の姿を隠すでもなく、道ばたで堂々と佇む友人。
ジョルジュはその姿に驚き、ついで人並みの哀れみの声をかけた。
そんな姿で辛いだろう。
こんな暮らしで苦しいだろう。
自分の持つことのできる金が彼らにとって明日を生きる糧となることを知っていたジョルジュは、
悪意無く彼に手持ちの金を渡そうとした。
だが。
- 28: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:33:13.62 ID:iklecO660
- 『お前からもらった金などいるものか』
『友人』だったはずの男は、金を差し出すジョルジュの手を払いのけて言い放った。
ぎらぎらと光る双眸でジョルジュを睨み、明確な拒絶を表わす男。
その顔に浮かぶ色は憎しみ。
暗い目はジョルジュを『友人』ではなく、下から睨み上げるように『憎悪』の対象として見ていた。
『お前はそれで満足かもしれんがな。虫唾が走るんだよ、そんな偽善』
『金持ちの家に生まれたからといって、俺達が腹を空かしてる前で残飯を捨てるような奴のくせに』
『友達面して、今更余計なことするな。俺は、組織に入ることが出来て、今とても幸せなんだ』
吐き捨てるようにそう言うと、『友人』だった男はジョルジュに背を向けて歩み去った。
後には、地面に散らばった金と、呆然と立ちつくすジョルジュ。
我先にと金を拾うストリート・キッズから金を取り返そうともせず、ジョルジュはその場に立ちつくしていた。
そしてその時、ジョルジュは気づいた。
自分がいかに恵まれていたのかを。その恵まれた環境のために、どれだけ疎まれていたのかを。
ジョルジュが『友人』だと思っていた関係が、どんなに一方的な物であったのかすらも。
金と地位と名誉。無菌室で育ったジョルジュ。
関係ないと思っていた友人達との格差は、その実最も分かり易い形でジョルジュを完全に隔離してしまっていた。
いると思っていた友人。でも、存在すらしていなかった友人。
そのことを理解した時、ジョルジュは生まれて初めて『一人ぼっちの自分』を見つけ――恐怖した。
- 30: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:34:57.86 ID:iklecO660
- ( ;A;)「クソ、くそくそくそくそくそ、クソッタレが……収まれ、収まれよ……ガタガタ震えんじゃねぇ」
ジョルジュの心臓を満たす、氷のナイフを突き込まれたかのような孤独感。
それに負けまいとするかのように、ジョルジュは強く強く自分の肩を握りしめる。
( ;A;)「違う……そうさ違うんだ。俺はもう温室育ちの一人ぼっちじゃねぇ。家は捨てたし、
あいつと同じ組織にだって入った。だから、だから……」
家を捨て、名前を捨て、金を捨てて『友人』と同じ目線に立って。
その上で、彼と同じ組織に入信したジョルジュ。
そうすることによって、ジョルジュは『友人』との垣根を取り払い、一人ぼっちではなくなった筈だった。
なのに。
( ;A;)「なのに、何で俺はこんなに震えてんだ……もう寂しくない筈だろ、トモダチだって出来た筈だろ」
そう言って、強くブルゾンを握るジョルジュ。
ブルゾンの縫合がブチブチと千切れ、生地が破ける音を聞きながら。
ジョルジュは、一つのことに気づいた。気づいてしまった。
( ;A;)「……でも、俺はあいつを殺しちまったじゃねぇか……」
ジョルジュの『友人』。同じ組織に入信した仲間。
『友人』になるために入信した組織をジョルジュが抜けようとした時に、ジョルジュの前に立ちふさがった男。
同じ七柱の『禄存』についていた『渋沢』を、ジョルジュは既にその手にかけて、殺している。
- 31: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:36:04.84 ID:iklecO660
- ( ;A;)「……ああ、なんだ……。じゃあ、俺はやっぱりボッチなんじゃねーか……」
両目からだらだらと涙を流しながら、ジョルジュはぼんやりと呟いた。
空を赤く染めていた太陽が、ゆっくりと遙か向こうの稜線に沈んでいく。
闇色に染まり始めた紫色の世界で、ジョルジュは一人孤独に浮かんでいた。
風はゆるやかに流れ、ジョルジュの脇をすり抜けていく。
背中に生やした翼の羽ばたきですら、ジョルジュの耳には入らない。
孤独感と、絶望感と、虚無感と。
それらがない交ぜになった、ただひたすらに抑えがたい恐怖心。
人を殺し続け、狂い続けていたジョルジュは、ふと自分の辿ってきた過去を振り返った。
それは豊かな幸福の記憶に始まり、孤独と絶望のうちに収束する記憶。
――『いいよなぁ、お前は。馬鹿みてーに女のケツを追っかけ回して、地獄なんざ怖くねーってな顔して。
あれかね。俺もそーゆー相手見つけてりゃ、少しはマシだったのかねぇ……』
自分でブーンに言った言葉を思い出すジョルジュ。
その言葉は紛れもないジョルジュの本音で、嘘偽りのない彼の望みそのもの。
孤独を恐れ、殺戮を繰り返し、狂い疲れた殺人鬼の、小さな小さな最後の希望。
( ;A;)「ッハ……。今更、だよなぁ。俺にはもう、誰もいないしよぉ……。共に歩む奴も、
俺と戦う奴もいない。もう、俺の傍には誰も……いねぇ……」
風邪に掻き消されそうな程に小さな声で呟き、項垂れるジョルジュ。
しかし。
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