( ^ω^)ブーンが大仕事を成し遂げるようです

29: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 11:57 7xU0TiHUO

5-chapter6


今北村・上空

風が静かに舞う、何もないはずの空間。
その空間で、茶色いマントのような布を羽織った女性と、灰色の毛皮を纏った獣が相対。
両者、形状や色こそ違うものの翼を持ち、それにより滞空を可能にしている。

ぶつかり合っては弾き合い――
絶え間なく攻防が続く。

女性は手に持った鉄槌を武器として扱い、
対する獣はもはや鉄以上に頑強な両腕とその腕の先に備えた鋭い爪を攻撃手段としていた。

ミ,,゚Д゚彡「ガルッ!」

魔獣ギコ・フッサールは雷を纏った、その鋭い爪をのー目掛けて振り下ろし――

(*゚A゚)「何や…」

のーは軽くぼやきながら、それを鉄槌で阻む。

彼女がぼやくのも無理はない。
最初の対峙の時とは大きく戦況が違っていたのだ。



30: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:00 7xU0TiHUO

当初、フッサールは雷や炎、巨大な氷柱といった魔力を用いた単調な攻撃がメインだったのだが、
今ではそれらに加えて爪による打撃も積極的に行うようになり
さらにはバシリスクの力であった黒光の蛇も次々と生み出して攻撃を重ねてくる。

(*゚A゚)「(先輩…猫さんに何教えたんや)」

彼女が発する対自然結界は、名の通り自然を操る攻撃を一切遮断出来るのだが、
それ以外の攻撃に対する抵抗力は皆無。
相手が黒光の蛇や爪による攻撃もしてくる今、当初の余裕はなくなっていた。



31: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:02 7xU0TiHUO

(*゚A゚)「…守ってばっかじゃ勝てへんよな。けど一体どないすればええんや」

同類の存在ではあるが、のーはつーとは違って遠距離からの攻撃手段を持っていない。
持ち前の怪力と、鉄槌・クラッシュの破壊力だけがこちらの強みだ。

(*゚A゚)「全く、融通利かへんなぁ…自分にも先輩みたいなモンがあったってバチは当たらへん――」

言い終わる前に鉄槌を振り下ろす。
その先には、灰色の獣の腕が。

ミ,,゚Д゚彡「訳のわからんことを言う暇はない」
(*゚A゚)「やっぱなぁ…けど」



32: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:05 7xU0TiHUO

彼女は不敵な笑いを浮かべる。
次の瞬間。

ミ,,゚Д゚彡「!?」

突如、フッサールの身が何かに突き飛ばされる。
原因は、のーの背から生えている硬質な漆黒の翼。

(*゚A゚)「うん、この不格好な翼もたまには役に立つわ」

彼女の鉄のような翼は、ただ飛行するためだけのものではない。
その硬さを利用した、『叩きつける』という攻撃の可能性をも秘めているのだ。

(*゚A゚)「あはは、いくら強い奴でも不意打ち喰らえば――」
ミ,,゚Д゚彡「…そんなもんか?」

フッサールは何事もなかったかのように再びのーとの間合いを詰めてきていた。
どうやらほぼ無傷な様子。

(*゚A゚)「…何やねん」



33: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:08 7xU0TiHUO

( ^ω^)「……」

ブーンはその様子を少し離れて伺っていた。

( ^ω^)「のーちゃんは無事だったことは良かったとして…」

問題はどうやって攻めるか。
フッサールは幽霊のような存在ではないため、ただの銃や刃でも攻撃を当てることは出来る。
出来るのだが、奴の驚異的な防御力を考えるといずれも効果を出さないことは目に見えている。
さらに、しぃの忠告が正しければ奴は不死身であり、戦闘に終止符を打つには奴を再び封印するしかない。

だがそのためには、まずこちらからも攻撃を与えなくてはならず
しかし一人や二人の攻撃で弱らせることは不可能に近い。
やはり、一度は地に降ろす必要がありそうだ。

( ^ω^)「とにかく…僕もいくお」

考えている余裕はない。
まずは動け。

自分自身にそう言い聞かせながら、ブーンは飛翔していく。



34: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:13 7xU0TiHUO

のーとフッサールは互いの出方を伺いつつ、暫し動きを止めていた。
――だが

ミ,,゚Д゚彡「いくぞ!」

再び先に動き出したのはフッサール。

(*゚A゚)「かかってこいや!」

のーはクラッシュを構える。
攻撃を防御しつつ、カウンターを入れるつもりだ。

ミ,,゚Д゚彡「無駄だ…引き裂いてやる…」

獣の特徴ともいえる、鋭い爪。
その爪を備えた指、さらにその指を束ねている腕をのーの喉元目掛けて伸ばし――



35: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:16 7xU0TiHUO

ミ,,゚Д゚彡「!?」

標的の姿が消えた。
――いや、上だ。

(*゚A゚)「引っかかりおったな!」

攻撃を受け止めようと身構えたのはフェイク。
フッサールがそれに気付いた時には既にのーは攻撃態勢に入っていた。

(*゚A゚)「今度はこっちの番や!」

一瞬でクラッシュの柄が伸び――

(*゚A゚)「喰らっとけ…振り子落とし!」

柄を手にした右腕を前に突き出し、その力を抜く。
長く伸びた鉄槌の先が重力によって振り下ろされ、それは振り子のような軌道を描き――

ミ#)Д゚彡「ギャウン!?」

真下にいたフッサールの右頬を捉えた。



36: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:30 7xU0TiHUO

(*゚A゚)「硬いのは腕だけか…? こりゃいけるわ!」

一瞬でクラッシュを元の長さに戻し、背負う。
そして降下。
未だ怯んだままのフッサールを左腕で捉え――

(*゚A゚)「覚悟せい!」
ミ;,,゚Д゚彡「素手…!?
       腕だけで一体何を…グッ!」


殴る、殴る、殴る。
無防備であったフッサールの頭部を容赦なく殴りつける。
その可愛らしい外見からは想像もつかぬ、小細工なしの恐ろしい戦法。
まさにボコボコ殴りだ。


――だが

ミ,,゚Д゚彡「お前…あんまし俺を嘗めるな!」
(*゚A゚)「!」

数発殴られた後、フッサールは連続殴打から抜け出す。
顔から流れ出た虹色の血は灰色の毛皮に飛び散っているが、その身にダメージは殆どない。

(*゚A゚)「そんな…」
腕程の防御力がないはずである頭部を殴っても、これといった効果が出ていない。
先程から幾ら攻撃しても全く倒れる気配すら見せぬフッサールの、その小柄な姿は不気味にすら思える。



37: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:35 7xU0TiHUO

フッサールは口から唾液と混じった虹色の血を吐きつつ

ミ,,゚Д゚彡「殴られたからにはその仕返しはしないとな……
      命のないお前は消し去ってやるのがちょうどいいか!」

両腕の爪を光らせた時だ。

ミ,,゚Д゚彡「…ガルルッ!?」

何かを察知したのか、獣が発するような声をあげてその場から離れる。
その背後には銀色の刀を構えた――本来この空という戦場に在るべきではない存在の姿。

( ^ω^)「来たお!」
(*゚A゚)「おっ…無事やったんですか」

のーはブーンの姿を確認すると安堵の表情。

(*゚A゚)「ところで先輩はどないしたん?」
( ^ω^)「つーは魔界に帰ったっぽいお。だから安心するお」
(*゚A゚)「(先輩相手によう頑張ったなぁ)
    なら、これで何の心配もなしに戦える訳や!」

背負っていたクラッシュに手を掛ける。
それは驚異的な重量を誇るらしいのだが
彼女はそれを軽々と、そして慣れた手つきで構えた。

( ^ω^)「その武器はつーが持っていた鎌みたいに何かあるのかお?」
(*゚A゚)「うん、こいつはすっごい破壊力持っとる。後は重量と柄の長さを自由に調整出来る…って言えばええのかな?
    因みに元のサイズでもこの世でいう50kgはあるんよ」
(; ^ω^)「ちょwwwwねーよwwwww」
(*゚A゚)「まあ詳しいことは終わった後にしようや」
( ^ω^)「は…把握」



38: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:38 7xU0TiHUO

さて、地上には姿形を取り戻した小型戦車が二台。

((゚∀゚∩∩゚∀゚))「なおったよ!」
( ><)「す…凄いんです!」

しぃの再生呪文の変換魔術により、外見は元通り。
だが、これほどのものを再生するためには多大な精神力や魔力を扱うらしく、力を使い切ったしぃは現在深い眠りについている。

( ・∀・)「それにしてもしぃの奴、ここまでやってのけるとは…」
( ^Д^)「あいつ本当に人間か?
     …ま、流石はGの子孫といったところか」



39: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:40 7xU0TiHUO

( ,,゚Д゚)「…ちゃんと動くといいがな」

点検のためにギコが内部に入るが、すぐに出てきて言う。

( ,,゚Д゚)「弾がない、ミサイルもない…ぶっ放すものは全部焼けちまったみたいだ。
      しかも試し撃ちしようとしても大砲動かないぞ」

どうやら搭載武器までは修復できなかったようだ。

( ・∀・)「今は戦場とはいえここは村だぞ…試し撃ちはどうかと思うが」

これでは使いものにならないが、しかしこの男はそんな問題すらも一人で解決してしまう。

( ・∀・)「まあ落ち着け。
     爆弾ならいくらか持ってるから、僕のを使うといい」
( ,,゚Д゚)「え?」



40: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:44 7xU0TiHUO

導火線の付いたごく普通の爆弾に手榴弾――
モララーは現在自分が持っている火薬類を全て場に広げる。

( ・∀・)「こんだけあればいいんじゃないかな?」
( ,,゚Д゚)「お前、どこでこんなものを…」
( ・∀・)「訳は聞くな。
     …あ、密輸とかそんなんじゃないからそこは安心してくれ」

続いて工具箱を取り出し

( ・∀・)「…大砲は僕が修理してみせる。ちょっとばかり待っていたまえよ」
(;,,゚Д゚)「なあ、お前…一体何者だ」

早速修理に取りかかろうとするモララーに、ギコは疑問を浴びせる。
対し、モララーは首から上だけを振り返り

( ・∀・)「ただのマッドサイエンティストさ。
     …製作品は常識外れだけどね」

と、緊迫とした状況に似合わぬ、楽しげな口調で返すのだった。



42: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:50 7xU0TiHUO

上空。

ブーンとのーはフッサールに対する攻撃手段を考え、互いに言葉を交わしている。
ブーンは、フッサールは不死身であることを既にのーに告げた。
奴が不死身であることを前提にして作戦を立てている。

ミ,,゚Д゚彡「……」

対し、フッサールはそれを納得いかぬ様子で眺める。

ミ,,゚Д゚彡「人間…もう一度聞くが、飛ぶことも出来ないはずのお前が何故?」

ブーンはフッサールへ目を向け

( ^ω^)「さあ?
      僕も詳しいことはわからないから答えようがないお!」
ミ,,゚Д゚彡「そうか…いずれにせよ、俺は人間などにやられはせん」

両腕が白い光を纏い

ミ,,゚Д゚彡「墜ちろ」

雷が放たれる。
だが

( ^ω^)「そう簡単に当たってたまるかお!」

ブーンは左方に飛ぶ。
直後、ブーンがいた位置を雷が通過。

ミ,,゚Д゚彡「…ほう」

もはや、この程度の回避運動はお手のものだ。



43: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 12:55 7xU0TiHUO

( ^ω^)「そう…僕達人間は本来飛ぶことは出来ないし
      一人一人の力はお前よりも遥かに劣っているのかもしれないお」

だが

( ^ω^)「僕は今、こうして空にいるお。僕が飛べる理由なんてわからないけど、そんなことはどうでもいいんだお。
      そして、飛べるからにはきっと役目があるはずだお」

それは

( ^ω^)「僕と同じく空にいるお前の暴走を阻止し、お前を再び封印するお。
      そしてどんなに弱くても、どんなに無力でも、1%でも可能性がある限り勝機はあるってことを証明してやるお!」

言葉を終えると同時にブーンの目の色が変わり、手にした銀色の刀をフッサールへと向ける。

(*゚A゚)「(はー…かっけえなぁ)」

のーは感心しながらクラッシュを軽く振り回し、改めて構える。

いつでも来い、と言わんばかりの態勢だ。



44: ◆wAHFcbB0FI :05/20(日) 13:00 7xU0TiHUO

それに対し、フッサールは牙を剥き唸る。
先程よりも遥かに強く、そして凶悪なオーラがフッサールの周囲を取り巻く。

ミ,,゚Д゚彡「なら…どんなに足掻こうが、それは無駄な足掻きということをお前等の骨に刻み込んでやる。
      俺はありとあらゆる地の破壊を望み、生きとし生ける者全てを破滅に導く唯一の存在…
      俺に立ちはだかり、命を縮めることを悔やめ!」

だが、激しい殺気と威圧感を受けながらも、二人は怯むことも狼狽えることもない。

( ^ω^)「僕は…戦うお。
      絶対に! お前に世界を壊させる訳にはいかないんだお!」

この叫びが、魔獣との戦いの幕開けの合図となった。



戻るchapter7