('A`) 数えるようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:34:26.55 ID:6NVf4nwU0
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                                                 
                       ...                          
                    ...::::::::::::::...                        
          .................................::::::::::::::::::::::::::..................................



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:35:09.33 ID:6NVf4nwU0



     ・・・・・13058647 35



  いつからだろう 宙に浮かぶ影に気づいたのは
ぃ いつからだろう その影が数字だと気づいたのは
  いつからだろう 数字が人に憑いている事に気づいたのは
 ぉぃ
  いつからだろう その数字が――
      おい

              おい!



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:35:47.12 ID:6NVf4nwU0

( ^ω^) 「ドクオ!」

(;'A`) 「っ!? …あ、ワリーワリー聞いてなかった」

(;^ω^) 「全く…今生二度とないイベントなんだからしっかり聞いて欲しいお」

  ややメタボ気味な親友の呼びかけで、俺は自分の世界から引っ張り出された
  彼…内藤の手元には、『修学旅行・二泊四日』と印刷されたしおりが握られている
――――イベント。 俺たちは三日後、高校生活の締めくくりとして沖縄へ修学旅行に行く
  人生初の飛行機にのって、人生初の本島脱出をし、人生最後の馬鹿騒ぎをする予定だ
  四日間の沖縄旅行のうち三日目は全面的に自由行動で、好きなように遊べるらしく
  たった今その日、どこで何をしようかとみんなで話し合っていた所だ  …ったらしい。

  …この二泊四日というのはしおりの印刷ミスでもなんでもなく
  日程の中ほどで、深夜にバスに乗り込み島の南部から北部に移動するという
  教育者が学徒を引率して行く旅行とは思えない内容のためであり、

(´・ω・`) 「三日目の夜は寝かせないよ(はぁと)」

  と、同じ部屋で数日の生活を共にする仲間の一人が宣言したせいでもある。
  どうやら、俺が睡眠を貪ることができるのは初日の夜だけのようだ…
  心の中で溜め息を吐き出し、内藤の方に耳を傾ける。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:36:36.28 ID:6NVf4nwU0

(*^ω^) 「で、三日目の行き先なんだけど―――」

  クラスメイトたちはそれぞれ仲のいいグループで固まって昼食を摂っている
  パンにおにぎりに弁当… 見渡せば口に入れる昼食はさまざまだが、
  口から出る話題はどこを見ても三日後の事のようだ。

――――だが、そんなことは最初から気に掛けてはいなかった。
  俺はただ呆然と、目の前にいる親友の近くを漂う数字に意識を奪われていた


         4089 28


  内藤の近くには、“僅か四桁”の数字と、せわしなく動く二桁の数字が並んでいた
  十七年生きてきたが、何故こんな数字が見えるのかは未だ皆目見当もつかない
  それでも永くこの眼と付き合ってきて、分かったことは二つ。
  一つは、忙しく動く二桁の数字は60秒をカウントする秒針だという事

  一つは、この大きな数字が0になったとき、その人は死んでしまうという事。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:37:49.19 ID:6NVf4nwU0

  要するに人の寿命が見えるのだ
  8桁以降の数字はなぜか見えないが、それは数字の羅列として表されている
  この数が、この人の命のろうそくの長さなのだ。
  その蝋燭が短い人を見かけるたびに、どうしようもない思いに駆られる
  だけど、何も変わらない
  俺が何かしたって、他人に寿命を告げてみたって、結局は変わらなかった。
  だから、ますます心が締め付けられる。

  小さい頃、切羽詰った様子の中年男性を見かけた
  暗い顔してマンションの屋上に上っていくヒゲ面の男だったが
  なによりも誰の近くにでもごちゃごちゃと並んだ数字の列が
  酷くこざっぱりとしていたのが印象深かった。
  まだ幼かったから、その数字の意味は全く分かっていなかった
  もしかしたら数字だって事すら分かっていなかったかもしれないが。

(i|l´ハ`) 「もうだめだ…借金は増える一方、家にはヤクザが押しかけ
       家財道具はすべて借金の肩にもっていかれ、女房には逃げられた…」

        11 05

('-`) (あのおじちゃん、高いところが好きなのかなぁ…危ないなぁ)

         6 39

(i|l ハ ) 「子供たちには迷惑を掛けるな…すまない、すまない―――」

         0 01



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:38:13.97 ID:6NVf4nwU0
  当時の俺から見て、その男は泣いていたように見えた気がする
  あっと思うと、工事現場から鉄骨が落ちるような、巨大なバケツが水をぶちまけた様な音が響いた
              .. . .
  知らないおじちゃんだった物の上には、しばらく丸が三つ並んでいた。



  それから幾年か経ち、時計の読み方を理解した頃から
  徐々にこの数字の意味を一緒に理解していった。
  数字を少ない人を見かければ、ある時は影で見守り、ある時は直接それを告げた。
  ある人は鼻で笑いとばして、臓の病であっというまに死んだ
  ある人は愚直にも信用して、ビクビクと怯えながら交通事故で死んだ
  ある人はただ絶望して、自ら命を絶った
  ある人はやんわりと微笑んで、もうわかっていると答え――――

  俺には何もできないことを悟った。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:39:28.77 ID:6NVf4nwU0

  そして今また、目の前に明らかに少ない数字が漂っている
  内藤ホライゾン。俺の親友だ
  異変に気づいたのは数年前に出会ってからの数週間後
  他のクラスメイトと比べて、桁が少なくなっていた
  ほかの人達は八桁+ぼやけて見えない領域が確かに浮かんでいる
  なのに目の前の男には7桁の数字しかない
  俺が内藤に興味を持ったのも、そのときからだった。
  出会いはそんな物だったが それでも気がつけば俺達は互いに頼って互いに馬鹿をやる関係になっていた

        4084 51

  その出会いから二年半、気がつけば目の前の男の蝋燭は、吹けば消えそうなくらい短くなっていた。
  1時丁度に鳴るチャイムが俺を再び現実に引きずり戻した
  話はまるで聞いていなかったが、目的地は大体決まったようだ。
  俺はさり気なく携帯に『正午 4084』とメモを残して 次の授業の準備に取り掛かった
  五時間目の授業は政治経済 最近は大国の小競り合いが絶えず
  国が指定した内容そっちのけでそれについての話だ
  俺は、ただノートを取る作業に集中することにした。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:39:55.79 ID:6NVf4nwU0

  授業が終わり、疲れた体を引きずって家に帰った 風呂はいい、体が洗われる。
  風呂から上がりいつも通りの夕食をとって自室に戻る
  携帯のメモをノートに書き写し、そのまま携帯を電卓代わりに計算していった
  41084 この数は小さな数字が60を数えるたびに1づつ減っていく つまり内藤の寿命は4084分。

( 'A`) 「これを60で割るとおよそ68時間 僅か二日と20時間…あ――――」

  気付いてしまった
  時刻は22:07 今日の正午から数えておよそ10時間が経過している。
  簡単な算数の問題だ。今から10時間後は明日の朝8時 その二日後はつまり三日後の…

     「…あぁ」

  手を組み、そこにもたれ掛かる様にして俯いた
  親友を失うのが怖かったのは確かだが
  なによりそれを分かっていながらどうすることもできない自分が情けなかった

  修学旅行の朝、親友を失う事が分かったしまった俺は
  その後の二日間、旅行を楽しむ雰囲気には程遠かった
  何も知らない友達が無性に羨ましかった

  その朝は来てしまった



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:40:28.45 ID:6NVf4nwU0

(*^ω^) 「おっおっ ついにこの日がやってきたお!」

  人の気も知らないでこいつは無邪気にはしゃぎ回っている 当たり前だが。
  きっと人生でも指折りの一大イベントだろうから なにもおかしなことは無い
  むしろおかしいのは俺のほうだろう、楽しみどころかこの日が一生来なければいいとさえ思っていたのだから。
  今日の朝、目の前で楽しそうに笑ってる俺の親友は居なくなってしまうんだ
  無論俺からしてみればこんな日を待ち望むほうがどうかしている。
  もっとも、こんなこと誰も理解できないし 俺ですら理解したくないのだが

('A`) 「そう…だな」

  葬式のような暗い返事を返す。
  その反応に少しだけ違和感を感じた内藤が、一瞬だけ頭の上に疑問符を浮かべたが
  すぐにこのお祭りムードに飲み込まれて、違和感は見えなくなった

  航空券が配られ、全員が飛行機に入る準備をする
  フライト時間は9時 そこから3、4時間ほどかけて南の島まで飛ぶ予定だが
  無事に沖縄に着くことは無いと断言してもいい
  飛行機の座席に座るまで ただ呆然とこの眼とその運命を呪った



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:40:58.35 ID:6NVf4nwU0

  他愛も無い談笑が周りから聞こえる
  しばらくすると飛行機は滑走路に向かって進み始め、
  午前九時、姿も知らぬ死神と見慣れた顔の被害者を乗せた飛行機は離陸した

  しばらくの間急角度で飛んでいた飛行機は上空で安定したらしく
  シートベルト着用サインは15分程で解除された
  離陸してからずっと、隣の席に座っていた内藤と何気ない話を続けた

( ^ω^) 「さて…ちょっとトイレいってくるお」

('A`) 「ああ…」

  適当に相槌を打って内藤のほうを見た
  大きな数字が1を切っていた。 すべてが0になるまで42秒

(;^ω^) 「? …どうしたんだお?」

('A`) 「なんでも…ねぇよ」

  30秒を切った。内藤が再びトイレに向かって歩いていく
  トイレのドアが開いた どうやら先に別の男が入っていたようだ
  出てきたのはかなりガタイのいい男だ。遠めで見ればまるで軍人か何かのようだ
  男は内藤の方に歩いていき、2mほどのところで立ち止まった
  そして急に腕を伸ばし、手に持った“何か”を内藤のほうに向けた



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:41:25.40 ID:6NVf4nwU0

( ^ω^) 「お…?」


  パァン…と 乾いた音が轟音が機内に響いた

( <●><●>)「騒ぐんじゃねぇお前ら!おかしなことをしてみろ!どうなるか分かってるな!」

  安っぽい脅し文句、ガタイのいい男が怒声を上げた




              0 00





  9時24分 顔を黒い赤で染めた親友の上に多すぎる天使の輪が浮かんだ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:41:52.49 ID:6NVf4nwU0

――――すぐにその男は取り押さえられたが 無論親友は帰って来なかった。
  テレビのニュースでは犯行は未然に防がれた などと報道されている
  確かにハイジャックという目的は阻止したのだろうが、それだけだ
  凶行は阻止できなかった 何も未然ではない。



  その日を境に 人の周りにごちゃごちゃと漂っていた数列は姿を消した
  正確には数字が姿を消したのではなく、俺が見えなくなっただけだろう。
  たしかにその不思議な力は姿を消したが 何一つ心残りはなかった
  俺の気持ちを落ち込ませる以外に何一つ役に立たないのだから
  こんな眼は存在しない方がいいのだろう。
  気がつけば俺は至って普通の人間になり、それを当たり前と思うようになった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:42:15.80 ID:6NVf4nwU0


――――あれからもう5年が過ぎた。
  俺は余計なことに神経を使う必要が無くなり、無事に大学を卒業して
  今では新卒の立派な一社会人だ。
  順風満帆とまではいかないが、ようやく好調に滑り出した俺の人生とは逆に
  数年前までは小競り合いだけだった国々の関係は次第に悪化し
  世界情勢はどんどん大シケに飲まれていっている

        1452 13

  あれから五年 俺の目の前にはまた、見えないはずの数字が移っていた。
  昼休みに屋上へ上がって下を眺めれば、
  またごちゃごちゃとした数列達が尾を引いてたなびいている
  ただ一つ五年前と違う所は、他の誰もがほとんど同じ数字を刻んでいること
  誤差はあれどもせいぜい大きい数字の1程度しか違わない数達。
  俺の頭脳が小学生の問題を間違えない程度はあるなら
  おおよそ明日の12時過ぎって所でカウントダウンを終えるようだ
  こんなに大勢の人間が、同時に死ぬなんてことがありえるだろうか
  いや、ない。そう結論付けた俺は、とうとう自分の目はおかしくなったか。と苦笑した

  一服を終えて自分の机に戻ると、人がまばらになった部屋の片隅にあるテレビから
  戦争だ、核だのと随分と物騒なニュースが聞こえてきた。
  …まさか、な。
  その予感を忘れるかのように、机の上の仕事に手をつけだした。


……明…にも、…を使用しての大規………争が…国で…



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/01(日) 02:42:52.28 ID:6NVf4nwU0

  翌日の昼休み、昨日と同じ屋上に上がってきていた。
  片隅のベンチに倒れるように座り込み、まばらに雲が散りばめられた空を見上げた
  背もたれに肘をかけて、視線を上空から下に落とした


                                 0 12
         0 14
                     0 09



  ああ…向こうの奴はあと14秒、その隣は9秒か…
  はは。鼻で笑って薄ら笑いを浮かべて、視線を上に戻した。

('∀`) 「まったく…俺は本当にどうかしちまったのかな」



  誰に言うでもなく呟き、空が目に刺さるほどに真っ白く染まるのを

  俺はただぼうっと見続けた。


                                    fin.



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