( ^ω^)変わった人達のようです

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:33:04.96 ID:CcPdhQurO

 ひたん。

 1と書かれた部屋から出て来た僕は、目を瞑って俯きます。

 ああ、彼は幸せなんだなあ、と。

 噛み締めるように、ゆっくりと目を開けて、隣の扉を見ました。

 左隣の扉には2。
 少しだけ移動して、ドアノブを捻ってドアを開けました。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:36:08.95 ID:CcPdhQurO



 それは、双子を愛した彼らの話。

 それは、同じ顔をした二人の話。

 それは、半身に抱いた愛の話。

 彼らのひずんだ愛情は、何を求めるのでしょうか。



『ふたつのこころ。』



 始まりは、生まれ落ちた二つの心。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:39:03.98 ID:CcPdhQurO

 ドアを開けた先には、1の部屋と同じベッドと椅子。
 ベッドには彼、兄が。
 椅子には彼、弟が座っていました。


( ^ω^)「兄者、お邪魔するお」

( ´_ゝ`)「あ、内藤じゃないか、どうしたんだ?」

( ^ω^)「遊びに来ましたお」

( ´_ゝ`)「野郎同士で遊ぶってもなあ……まあ良いや、座れよ。弟者、こっちに」

(´<_` )「ああ、わかった」

( ^ω^)「失礼しますお」

( ´_ゝ`)「失礼されます」(´<_` )

(;^ω^)「おー……」

( ´_ゝ`)「ははは、そんな困った顔するなよニヤケ面、まあ何もないけど寛いでくれ、茶なんか出さないけどな」

(;^ω^)「最初から期待してないお……」

( ´_ゝ`)「これは手厳しい」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:42:21.14 ID:CcPdhQurO
( ´_ゝ`)「さて」

( ^ω^)「お?」

( ´_ゝ`)「話があるんじゃないのか? こんな所に来て、何もないじゃ済まさんさ」

( ^ω^)「お……」

( ´_ゝ`)「言ってみろよ内藤、聞いてやるさ」

( ^ω^)「……僕は話をしに来たんじゃなくて、話を、聞きに来たんだお」

( ´_ゝ`)「なんと、逆だったとは……しかし俺の話なんぞ楽しくも無かろうに、俺は弟者と違って話が下手だ」

( ^ω^)「それでも」

( ´_ゝ`)「なんなら弟者にタッチ……ん?」

( ^ω^)「僕は、兄者に聞きたいんだお」

( ´_ゝ`)「…………」

( ^ω^)「聞きたいんだお」

( ´_ゝ`)「……強情な奴め、しょうがないからワガママ野郎の期待に応えてやるか……さ、何を聞きたい? 恋愛遍歴か?」

( ^ω^)「んなもんどうでも良いお」

( ´_ゝ`)「ひっでぇなお前」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:45:34.86 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「じゃあ何が聞きたいんだよ……恋愛遍歴じゃないなら何だ、性癖か」

( ^ω^)「だからどうでも良い……いや、少し、良くないかも知れないお」

( ´_ゝ`)「お前に恋はしないぞ」

( ^ω^)「余計な事言ってると鼻もぐお、聞きなさいお」

( ´_ゝ`)「うわこえぇ……何だよ、言えよもう……」

( ^ω^)「どうして、あんな事をしたか」

( ´_ゝ`)「……何で、こんな事をしているか、か」

( ^ω^)「聞かせてくれる、かお?」

( ´_ゝ`)「…………良いよ、話が下手で混乱しても知らんからな。
       非人道的だって、非生産的だって、笑っても良いからな」

( ^ω^)「笑わないお、僕は、笑わないお」

( ´_ゝ`)「よく言うよニヤケ面め……」



 始まりは、すれ違う二つの心だった。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:48:15.58 ID:CcPdhQurO

 彼らは双子でした。
 まるきり同じに近い身体、そしてぴったり同じ事を言い、考え、感じるその心。

 彼らは、双子でした。
 クローンの様な、存在。


( ´_ゝ`)「ええと、な……何が始まりだったのか…………いや、生まれた時からある意味、始まってた、のかな」


 兄は好奇心が旺盛で人当たりの良い、外向的な性格。
 弟は人と関わる事を避けて本の世界にのめり込む様な、内向的な性格。

 それでも二人はとても仲が良く、兄が弟を連れて遊び回っていました。
 弟はそんな兄が好きで、兄もそんな弟が好きでした。


( ´_ゝ`)「ただ、一番大きな変化があったのはー……中、いや、高……んん? ……まあ十代の半ばくらい、か……?」


 おとなしい弟を連れ回す明るい兄。
 そんな関係の二人は歳を重ねる毎に増して行く、ある違和感に気付きました。

 それは、お互いに全く恋愛話がないと言う事。

 二人は、誰かに恋をすると言う事を知りませんでした。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:51:07.86 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「いや驚いた、よくよく考えてみりゃ弟者も俺も恋愛沙汰には無縁でな。
       それを弟者に言ったらやっぱりポカンとしてさ、もうアホ面アホ面、俺も似たような顔だけど。
       それを言ってからな、なんか、こう……ぎくしゃくって言うのか、しだしてな」


 その話題を境に、二人の間に生まれた壁。
 端から見れば相変わらず、弟で遊ぶ兄、その兄に冷たく当たりながらも楽しそうな弟。
 変わらなく見えて、変わった二人。

 不思議と、違和感は膨らむばかり。


 そしてある日、夕暮れ時。
 弟の部屋に入ってきた兄に向かって、弟は兄に言いました。

『俺に構わないでくれ、関わらないでくれ』

 兄は突然の言葉に目を丸くするばかりで状況が飲み込めず、弟の言葉の冷たさと意味を理解しきれず、驚いた顔のまま弟に追い出されてしまいました。


( ´_ゝ`)「あれが高校生、くらい、か? 驚いたさ、色恋沙汰に無縁って分かった時よりも驚いた。
       今まで弟者は何だかんだ言いながら結構楽しそうにしてたんだ、それなのに、いきなりもう構うなって。
       怒るとか悲しむとかよりも、驚きのが勝ってな、何も言えなかった」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:54:03.53 ID:CcPdhQurO

 翌日から、兄は弟に言われた通り、構う事を止めました。
 理由は分からないけれど、弟が言うならばしょうがない。

 兄は困った顔で、それでも笑って、弟との関わりを少しずつ断ち切って行きます。


 弟に話し掛ける事はなくなり、弟の話題を出す事もなくなり、弟と共通の趣味も手放して。
 兄はただ、弟に言われた通りに構わないように、関わらないように。
 学校で顔を合わせても、目を合わせる事は無く。


 二人の間の距離は、みるみる内に広がって行きました。


 そうなれば周囲の人間もおかしいと思い、兄にその事を問いますが、兄はただ、困った様な笑顔だけを返しました。
 何かを言うわけでもなく、ただ、困った様に細い目を更に細くして、笑っていました。


 頑なに何も答えようとしない兄の姿に諦めたのか、周囲の人間は弟の事を聞くのを止めました。


 急に遠くなった兄弟の距離。
 その大きな距離をそのままに、数年の月日が流れました。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:57:31.48 ID:CcPdhQurO

 その数年は、弟を失ったとも言える兄にとって、苦痛の日々でした。

 毎日顔を合わせて、話して、いじくって、遊んで、笑って。
 幸せだったそれら全てを失った兄は、何を糧として生きれば良いのか分からなくなっていました。


 そうして気付く事は、兄の弟に対する依存。
 己の半身である弟が居たからこそ持てていた自己が、ゆっくりと足元から崩れて行く感覚。

 兄はそれでも以前と同じように明るく振る舞います。
 けれど兄が明るく振る舞えば振る舞うほど、その笑顔は悲しみは色濃くなるばかり。


( ´_ゝ`)「寂しかったなあ、あれは。
       俺は弟者大好き兄者って奴だからさ、弟者が、こう……側から居なくなるっての、想像すらしてなくてな。
       どうすれば良いのか分からないけど、取り敢えず笑ってた、笑ってりゃまあ良いと思ってた。
       でも結局、阿呆みたいに寂しくて、我慢するしかなくてなぁ」


 ベッドの中で一人、身を抱いて訳の分からない感情に苛まれながら枕を噛んで。
 毎晩毎晩、何がいけなかったのか、嫌われていたのかと自問自答を繰り返して。

 弟は、変わらず部屋にこもって本を読み、必要最低限の事はせず、言いもしません。
 兄と関わらなくなっただけで、弟の閉鎖された世界はさらに狭まったみたいでした。

 端から見れば明るい、当人からすれば孤独でしょうがない兄の毎日。
 その毎日に、打たれる終止符。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:00:14.46 ID:CcPdhQurO

( ´_ゝ`)「でもな、俺が大学に入ってすぐの頃、これは忘れてないぞ。
       この時な、弟者が俺の部屋に来てさ、ビックリしたよそりゃあもう、何年も口をきいてなかった弟が俺の部屋に来たんだから。
       俺ビックリしてばっかりだな、ははは」


 あの日と同じ様な夕暮れ時。
 弟は兄の座る椅子の側までやって来て、項垂れていました。



『どうしたんだ? 弟者』

「ぁ、に、じゃ」

『何だ何だ、情けない声を出して』

「俺は、どう、すれば良いんだ?」

『話が全く見えん、取り敢えず座れ』

「兄者、俺は、」

『ん?』

「ぁ、あ……ああ、もう……」

『何だ気持ち悪いな……』



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:03:16.68 ID:CcPdhQurO

『ごめん、な、兄者』

「は?」

『ご、め……』

「何だよ気持ち悪い、気にするな気にするな」

『あ、ぁ』

「どうしたんだ弟者、お前はもっと冷静に突っ込む奴だろう? 今日は様子がおかしいぞ」

『俺は、俺は……兄者、が、兄者を、』

「俺を?」



兄者を殺したい。



『…………は?』

「どうすれば良いんだよ、どうすれば良いんだよ兄者、もう嫌だ、もう嫌なんだ!!」

『お、おい、時に落ち着け弟者、ちゃんと説明しろ。そんなに俺が嫌いなのか?』



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:06:27.18 ID:CcPdhQurO
『違う、違うっ!! 逆だ、逆なんだ! 俺は兄者が好きなんだ、だから殺したいんだ!!』

「お、弟者? ええと、……俺にはまだ、何が何だかよく分からないんだが……取り敢えず落ち着け、うん。
 で、あー……好きとな?」

『好きだよ、兄者が』

「あ、お、おう、俺も弟者が好きだからな、うん」

『兄弟としてではなくだ』

「……なん、と……え? あ、そ、そうなの? いいいいつから?」

『知らん、ずっと前からだ。兄者の首とか、指とか、耳とか、唇とか、鎖骨とか。好きなんだ』

「それ何てフェティシズム……」

『しょうがないだろう、好きなんだから』

「うんまあ、そうなんだけどさ……」

『なあ兄者』

「ん?」

『気持ち悪いと思うか? 双子の弟に告白されて』

「いや、別に?」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:09:09.83 ID:CcPdhQurO

「……え?」

『いや、俺も弟者好きだしな』

「……だから、兄者」

『兄弟としてではなくだ』

「…………兄、者?」

『当たり前だろう、双子なんだから』

「は……はは、はははっ、なんだよ、俺がこんなに悩んで、兄者と距離を置いてた、のに」

『ははは、流石だよな俺ら』

「ああ……流石だよな、俺ら……」



 やっと一つに戻れた二人は、泣いていました。
 やっと一つになれた二人は、笑っていました。


 二人でベッドに潜り込んで、久し振りに交わす言葉は、どれも幸せに満ちていました。
 二人は笑って、幸せを言い合いました。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:12:05.99 ID:CcPdhQurO


 そして兄は問いました。

「俺を殺したいのか?」


 そして弟は答えました。

『いや、今は、殺したくはない』


 またも兄は問いました。

「そうか、なら、殺してほしいか?」


 またも弟は答えました。

『ああ、兄者に、殺されたい』


 そうして兄は、静かに静かに、弟の首に手を掛けました。

 今が幸せなら、今で止まれば良い。


ぺきり。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:15:16.96 ID:CcPdhQurOO


( ´_ゝ`)「さ、これで話はおしまいだ、満足か?」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( ´_ゝ`)「俺はな、弟者な依存してたんだ。弟者もまた、俺に依存してたのかな。
       男同士の近親相姦のオチに、救いがあるわけないだろう」

( ^ω^)「だから……」

( ´_ゝ`)「だから止めたんだ。もう俺は弟者と一つになりすぎて、混ざって、俺が弟者なのか兄者なのかも分からなくなった。
       頭がおかしいんだと自分でも分かっていた、だから俺は、止めた」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「なあ内藤、俺はな…………いや、もう、良いか……」

( ^ω^)「……じゃあ、僕は失礼するお。話を聞かせてくれて有り難うだお、兄者」

( ´_ゝ`)「本当に、軽蔑も笑いもしないんだな」

( ^ω^)「当たり前だお。……じゃ、兄者、また」

( ´_ゝ`)「ああ、有り難う、内藤…………俺は─────」


ぱたん。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 21:18:33.51 ID:CcPdhQurO



俺だって、殺したいほど、愛していた。



 扉を閉める時に聞こえたその言葉に、僕は小さく、きつく、奥歯を噛み締めました。

 ああ、彼もまた、幸せなのだなあ、と。



 背筋をぞわぞわ
 彼の言葉が、絡み付く。




『ふたつのこころ。』
おしまい。



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