( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

2: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:13:54.14 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「――――ッ!」

ギャギャアと薄気味悪く動物たちが鳴く森の中を、必死で駆けていた。
薄暗く、遠くまで見えない通路が、より一層恐怖心を煽っていた。

「あはははは!!」

少し離れた位置からは笑い声がつけてくる。
振り返る暇はなく、正確な位置を分かるすべもない。

(;^ω^)「なんだってんだお!」

「あはははは!!」

笑い声は少しずつ寄ってくる。

その「人ではない何か」に捕まってはならないと、ブーンは理解していた。
四肢の望みを叶えるという目的は、頭から完全に抜け落ちていた。



3: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:14:50.83 ID:RfPYm7oO0



( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

       <第5話 垂れ桜と鬼の姫>



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/07(土) 21:16:24.34 ID:RfPYm7oO0

――――話は少し遡る。

時は流れ、季節は春。
雪は溶け、新たな命が芽生え始めていた。

今度は左腕の望みをかなえるべく旅をしていた。

( ^ω^)「ポカポカおー」

春の陽気に当てられたのか、歌いながらに道を行く。

今回は特に急ぐこともないようで、自分のテンポを維持しながら歩いていた。
たまに見かける木には、ぽつぽつとつぼみが見えていた。

直に花を咲かすのだろう。



5: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:18:33.59 ID:RfPYm7oO0

ロマネスクの時とは違い、焦る様子はまるでない。

次に違和感を見せた部位、「左腕」はだいぶのんびりとしたものだった。
まるで、この季節のこの風景を楽しむといったように。

時折吹く暖かな風が頬をくすぐる。
それがたまらなく気持ち良かった。

それこそ、夢の中に入り込んでしまったのではないかと言うぐらいに。


しかし、これは間違いなく現実。
だからこそ、ここまで気持ち良く感じられるのだろうとブーンは一人納得する。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/07(土) 21:21:02.18 ID:RfPYm7oO0

今歩いている所を一言で言うのなら「山」だ。
道は山なりの場所が多く、周りには木々。

たまに見える石垣や、岩が積み重なったモノに生える苔。
それらは自然の在り方をそのまま表しているかのようで、見る度に見惚れてしまう。

雲のない、からっぽの空は、この旅で見た中で一番近い。
それでも、それに手が届くなんてことは無かった。

( ^ω^)「んん?」

見るもの見るものに気を取られながら歩いていくと、何かが見えた。
石で造られた、小さな、人を象ったかのような物。

それがいくつか並んでいた。
ブーンにはそれが何なのか分かっていなかったが、それらは「地蔵」と呼ばれるものだった。

笠を被っている者もあれば、前掛けをしている者もある。



9: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:24:09.39 ID:RfPYm7oO0

それらにも所々に苔が生えていた。
ブーンは興味深そうに、それらを一つずつ眺めていた。

(;^ω^)「うわっ!」

地蔵の列が切れた所、そこは死角になっていた。
その場所には本当に「ちょこん」と、女の子が座っていた。

ミセ*゚ー゚)リ

幼い女の子。
その子は何を言うわけでもなく、ただ地蔵と共に並んでいた。

着ている物は和服で、袖からちらちらと見える肌は白い。
それと合わさってか、ブーンには彼女が人形のように見えていた。

(;^ω^)「君は、こんな所で何をしているんだお?」



10: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:26:42.30 ID:RfPYm7oO0

ブーンは少女の目線に合わせるように屈み、話しかける。
それでも少女はニコニコと微笑むだけで何も答えてはくれない。

( ^ω^)「隣に座ってもいいかお?」

ミセ*゚ー゚)リ コク

( ^ω^)「じゃあ失礼するお」

風が吹けば柔らかに揺れる木々。
どこからか聞こえる鳥の囀り。

すでに咲いている花は甘い香りを漂わせる。

少女はブーンをじっと見つめる。
ブーンも最初こそ目を合わせていたが、途中から照れくさくなってそっと視線をずらした。

( ^ω^)「いい風だおー」

またふわりと風が吹く。
少女の髪の毛はそれに揺れる。



13: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:28:44.73 ID:RfPYm7oO0

苔の生えた地蔵と、少女に旅人。
これらが並ぶ姿はとても異様だ。

後ろには大きな木が一本。
それこそ周りから浮くほどの。

それが陽の光を優しく拒み、静かな木洩れ日を零す。
ブーンが前に見た、芸術品のような風景。

それに負けない美しさを作りだしていた。
静かな時間がゆっくりと過ぎる。

すると、少女が立ち上がった。

(;^ω^)「ど、どうしたお?」

突然の動きに焦るも、同じように立ち上がる。
少女はどこからか「毬」を取り出し、弾ませながら進んで行く。

少しすると振り返り、ブーンを見る。
ブーンが近づけば、にっこりとほほ笑み、また背を向け進む。



16: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:30:28.22 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)(付いて行けばいいのかお?)

幸いにも、違和感が指す方向と一緒だったため、少女について行くことにした。
楽しそうに毬をついて進む少女。

ふわりふわりと踊るように髪が揺れている。
そんな少女の姿が、どこか不思議に思えた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女が立ち止まり、少し向こうを指していた。
ブーンはその指さされた方向をじっと見つめる。

小屋のようなものに、旗が立てられている。
近づきながら眺めていると、また新たなものを確認できた。



18: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:32:51.57 ID:RfPYm7oO0

木でできた椅子。
そこにさす日差しを防ぐように立てられた、大きく、真っ赤な色をした傘。

木々に隣接する大きな岩の傍にも、同じようにして傘が立てられていた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女は「早く早く」と言わんばかりに指をさす。
ブーンも好奇心の為か足を早めた。

すぐ傍までくれば、旗に書かれている文字が見えた。
「茶屋」と書かれたそれは、ひらひらと風に煽られている。

( ^ω^)「誰かいるのかお?」

開きっぱなしの扉にかかる暖簾。
それを手で撫でるようにしながら、すっ、とくぐる。
  _
( ゚∀゚)「いらっしゃい」

声をかけてきたのは、頭に手拭を巻いた男。
真っ黒な甚平を着ている。



19: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:35:23.36 ID:RfPYm7oO0

少女はじっとお品書きを眺めている。
人差し指を唇につけ、ただじっと。
  _
( ゚∀゚)「お客さん一人かい?姿を見るに旅人さんみたいだけど」

( ^ω^)「え?」

普段は、一人で旅をしている。
これは、まあ間違いではないだろう。

傍から見たらそうにしか見えない。

だけど今は少なくともそうでは無い筈だ。
少女と一緒に入ってきたのだから。

( ^ω^)「その子・・・」

もしかしたら娘さんだろうか。
そう思って少女の方を見る。



21: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:37:38.65 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「・・・その子?」

男は店を見回したあと、顔を顰めながらブーンを見る。
ブーンは困りながらも再び口にする。

(;^ω^)「え、だってそこに女の子が・・・」

少女はニコニコと笑いながらお品書きを指さしている。
書かれているのは「蕨餅」。

その笑顔は確かに目の前にある。
  _
( ゚∀゚)「話を聞こうか。とりあえず、なんか食います?」

( ^ω^)「あ、蕨餅を二つ」
  _
( ゚∀゚)「どうも!食べたい所で待っててください」

ああ、何か色んな意味で成長したなあ、などと思いながら少女について行く。
外の大きな岩に腰をかけるようにして、お茶が運ばれてくるのを待った。



23: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:39:53.79 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「はい、お待たせしましたー」

少しすると注文した物が運ばれてきた。
蕨餅とお茶が三つずつ。

( ^ω^)「・・・三つ?」
  _
( *゚∀゚)「・・・俺の分。腹減っちゃって」

照れくさそうに笑う店員をみて、自然と気が楽になる。
少女は目をキラキラと輝かせ、餅を見つめている。
  _
(;゚∀゚)「えっと、これはどちらに置けばいいのでしょう」

ブーンは男から餅を受け取ると少女の傍に、それをそっと置いた。
  _
( ゚∀゚)「本当にいるんですね」

ブーンはこくりと頷く。
隣に男が腰掛け、ブーンは挟まれる形になった。



24: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:42:43.12 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「驚かないんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、何かするような子じゃないんだろう?」

そう言って男はブーンの隣を眺める。
そこには少女がいるのだが、おそらく男の眼に映っては無いのだろう。

( ^ω^)「はい。寧ろ居て欲しくなるような子ですお」
  _
( ゚∀゚)「なら問題ないさ」

( ^ω^)「なんだか慣れてますね」
  _
( ゚∀゚)「・・・そうかもな。この地域ではよく聞くし」

実際に出会ったのは今日が初めてだけど、と付け足しからからと笑う。
少女はブーンにしか見えていない。

しかし、ブーンは特に驚こうともしなかった。
様々な生き方を見てきた今、この少女が何かは関係なかった。



25: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:45:43.48 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「旅人だよな?あんた」

ブーンそれを肯定すると、男は話を始めた。
  _
( ゚∀゚)「ここら辺にはな、古道があったんだ」

あった、ということはつまり。
  _
( ゚∀゚)「いつの間にか無くなってたんだ。でもたーまに現れるらしい。
     それ以来ここら辺では神様たちが自分達専用の道にしたって言い伝えが出来たんだ」

その話を聞いた時だった。
ブーンは冷や汗をかいた。
顔を思いっきり引き攣らせて。

(;^ω^)「あの・・・その道って」
  _
( ゚∀゚)「神々の通り道とか、神隠しの道とかいろいろ呼ばれてるよ。
     神、とか言えば聞こえはいいけど、実際はどうなんだか。」

(;^ω^)「あー」

様々な生き方を見てきた、この考えをすぐに取り払ってしまいたかった。
左腕ははしゃいでいる。



27: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:49:20.34 ID:RfPYm7oO0

ブーンはそれから暫く放心していた。
少しずつ心を取り戻し、立ちあがる。

少女は少し開いた空間で毬をついて遊んでいた。
彼女に渡した皿の餅は無くなっていた。
  _
( ゚∀゚)「行くのかい?」

(;^ω^)「ええ」

少女はブーンに付いて行くようにして店の前に足を運ぶ。

( ^ω^)「君は、どうするんだお?」

とは言っても付いてこられても困る。
少女は男の顔を見上げる。
  _
( ゚∀゚)「なあ、その子どこに居る?」

ブーンは男の質問に答える。
すると、しゃがみ込んで、そっと話しかけた。



28: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:51:57.05 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「今度から、毎日餅食わせてやるからさ、ここに居ねえか?」

せっかく知り合ったんだし。
そう言うと少女は嬉しそうに頷いた。

( ^ω^)「とっても喜んでますお」
  _
( *゚∀゚)「よっしゃ!今日からうちの看板娘だ。見えないけど」

二人は一頻り笑うと、軽く別れを告げた。
少女はその間ずっと微笑んでいた。

森に佇む一軒の茶屋。
そこは接客下手な店主が、趣味で始めた店。

それから暫くして、その店はかなり有名な店となる。
人からも、そうでないモノからも愛される。
しかしそれはまた別のお話。



30: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:54:01.99 ID:RfPYm7oO0

――――穏やかな風が吹く。

それとは反対に、ブーンは気が気でなかった。
悟ってしまったのだ、左腕の反応からどこに行きたいのかを。

最早、「行く」という表現より「逝く」の方が正しいかもしれない。
少し泣きたくなるようなブーンを無視して、左腕は子供のようにはしゃぐ。

昔馴染みに会うかのように、じっとしていない。

(;^ω^)「とんでもないお・・・」

古道に入りたがる左腕。
無くなったはずの入り口を知っているかのようにブーンを進ませる。

( ;ω;)「やめよう?ね?」

――――おろおろと目を潤ませるブーン。

今さら何を、そう言うようにして山道を進ませる。
先程まで歩いていた、地面がむき出しになった正規の道では無い。



32: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:57:45.54 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「雰囲気ありすぎだお・・・」

山道を進んで見つけたのは鳥居。
左右二本の柱の上に笠木を渡し、その下に柱を繋げるようにして貫が入っている。

木々に殆どの陽が遮られているため、どんよりとしている。
その暗がりに立つ、真っ赤なそれは、まるで黄泉平坂のようだった。

(;^ω^)「諦めろ、行くしかないお」

自分に言い聞かせ、唾を呑む。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る一歩を踏み出す。

鳥居をくぐった瞬間、全身に鳥肌が立つのが分かった。
「何もかもが変わった」。

先程までの穏やかな空気は一転した。
何かから、と言うよりも自分以外のモノすべてから視られている。

それは木々であったり、石であったり、それこそ「人でない何か」だったり。

そんな感覚に陥った。



33: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:00:01.01 ID:RfPYm7oO0

その道を、恐る恐る歩いて行く。
古道だったこともあり、道は造られていた。

( ^ω^)「意外と・・・安心?」

きょろきょろとあたりを見回しながら道を進む。
時折聞こえる動物たちの不気味な鳴き声に、少し怖じけた。

( ^ω^)「歌・・でも歌えばいいのかお」

気分を変えるようにして、歌を口ずさむ。
そう、これがいけなかった。

少しすると、擦れた音を立てながら後方の茂みが揺れた。
出てきたのはブーンの腰辺りの背をした、人のようなもの。

( ><)「人なんて久しぶりなんです」

一目で人じゃないと理解する。
鼠色をした肌に、頭から出た二本の小さな突起。

鬼、という単語が頭に浮かんだ。
その瞬間にはブーンは駆けていた。



35: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:02:14.11 ID:RfPYm7oO0

――――そして今に至る。

(;^ω^)「ああ!!もう」

恐怖で足が竦むなんてことが無かったのが不幸中の幸いだろう。
鬼の姿をしたそれから、ある程度は距離を取っていたのだから。

「鬼ごっこなんです」

げらげらと下品な笑いが近づいてくる。
そしてこの状況下でもっともベタな展開が一つある。

(;^ω^)「!!」

転倒だ。

地面からはみ出した木の根が行く手を遮った。
そして後ろを向くと、笑い声。

( *><)「焼くのも煮るのも悪くない。でも生が一番!」

(;^ω^)「ぼ、僕は美味しくないお!」

( *><)「食べてみなくちゃあ、わかんないです」

ああ、もっともな発言だと考える。



36: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:04:01.05 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)

( *><)

焦る人間、笑う鬼。
血の気のない手がゆっくりとブーンにのびる。

その時だった、左腕が逃げるように唆す。
ブーンもそれはしたいと思っているようだが、ここにきて足に力が入らなかった。

そして、自分のことを守るように手をかざした。
目を強く閉じ、再び開ける。

その動作が何秒だったかは分からなかった。
それこそ瞬く間だったかもしれないし、数分かもしれない。
しかし、目が映し出した光景は閉じる前とは変っていた。

腕が無くなっている。



38: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:06:00.81 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「え?」

ごろりと転がる腕は、鼠色をしている。
ブーンは痛みを感じていない。

(;><)「誰です!?」

鬼はきっと顔を上げるようにして睨む。
ブーンもすかさずその方向に目をやる。

「友人に手を出されるのは趣味じゃない」

(;><)「童子?」

どうじ、という言葉が耳に響く。
鬼は少し距離をとる。

「ほら、殴られたくなければさっさと去れ」

(;><)「は、はい!」

「忘れものだ」

そう言って切り落とされた腕を投げつけた。
鬼はそれを受け取ると、振りむかずに走って行った。



39: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:09:01.68 ID:RfPYm7oO0

助けてくれたであろう人物を見る。

こちらは地に座っていて、向こうは立っているため、身長は分からない。
薄暗いため定かではないが、おそらく白の着物。

その上から、黒く、長い羽織を重ねていた。
羽織の下の方には、桜の花びらの模様がちらちらと窺える。

片手には瓢箪。
動くたびに、中からはちゃぷちゃぷと液体の揺れる音がした。

そして最も目を見張るべきが顔である。
般若のような鬼の面。
口元が欠けていて、そこからは口が見えていた。

その口は笑っていない。

ここで、ブーンは目の前の人物が言っていた言葉を口にする。

(;^ω^)「友人?」

驚いて言った言葉に、目の前の者は
「む」と音をたてた。



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