( ><)好きなように生きるようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:06:30.63 ID:WRjGnBIiO
-
ビロードは、なんともつまらなそうな瞳で、遠くの空を飛んでいる戦闘機をじっと見ていた。
最近はずいぶん頻繁に飛んでいるようだ。
自由な空を、目にも止まらぬスピードで駆けている。
このVIPと隣国との戦争が始まって以来毎日、巡視の戦闘機が、国中を飛び回っている。
( ><)「……」
彼の手には、それと同じ戦闘機の模型が握られている。窓からの日光を受けて、鈍色に輝いていた。
ビロードの目は幼気に光る。しかしながら、切なそうな色も覗いている。
ため息が小さな部屋にこもった。
( ><)「空……飛びたいんです」
( ><)好きなように生きるようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:09:22.86 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「……」
ビロードは戦闘機の模型を指で弄ぶ。ぐるぐる回したり、右手から左手の空を飛ばしたり。
その遊びがどれだけ虚しいか、彼自身もわかっている。
それでも、ビロードにとってこれ以上に面白い一人遊びは、一つも無いのだ。
( ><)「……ブーン?」
なのでビロードは、窓際に気配を感じてすぐ、模型を膝に置いた。
そして、気配に尋ねた。
『バレたかお』
ビロードの睨んだ窓際の空間に、一瞬だけ亀裂が走る。
その裂け目の向こうから、白く小さな二足歩行の生物が、ひょっこり現れて手を振った。
( ^ω^)ノシ「おいすー! 流石ビロードは勘が鋭いお」
( ><)「やっぱりブーンなんです」
ビロードは、突然の出来事にさほど驚くでもなく、生物、ブーンを手の甲に乗せた。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:11:37.37 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「気休めの手紙なら、捨てていいんです。僕の病気に効く薬なんて、出来やしないんです」
手の上で胸を張るブーンをベッドに落として、ビロードはまたため息をつく。
不治の心臓病。そのビロードの病は、明確な名前もない。もちろん、確実な治療法も。
( ^ω^)「頑張ったお父さんに失礼だお、ビロード。VIPの兵士になるんだろお?」
( ><)「病気が治ったら、なんです。でもってその病気は、治りっこないんです」
ビロードの背中をよじ登りながらブーンは語気を強め、ビロードも反論する。
ブーンは「まったく、もお」と頬を膨らませ、肩に乗り、どこからか小さな包みを取り出した。
( ^ω^)「今日持ってきたのは、手紙じゃないお」
( ><)「それ、なんです?」
( ^ω^)「薬。ビロードの病気専用の、特効薬だお」
ビロードの目が一瞬輝いて、すぐにもとのように沈む。
( ><)「どうせ気休めの薬なんです」
( ^ω^)「だから、頑張ったお父さんに失礼だお。痛み止めなんかじゃないんだお」
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:14:16.20 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「……ほんとう、なんです?」
どれほどブーンが言っても、まだ信じきれないといった様子でビロードは首を傾げる。
( ^ω^)「本当に。なんだお、ったく。この喜びを分かち合おうと思ってたのに……」
ブーンはどこから取り出したか、小包みをほどき、差し出されたビロードの手のひらに中身をひっくり返す。
ごく小さなカプセルが手に落ちる。
( ^ω^)「まぁ論より証拠、使ってみたらいいお」
害はないから、とブーンは笑った。害はないはず、の間違いだろうとビロードは口ごもった。
( ><)「注意書きとかはないんです?」
橙色透明の液体カプセルをつまんで、まじまじと眺めながら、ビロードは包みをひったくる。
しかし、それらしいものは認められなかった。
( ^ω^)「まだ名前もない新薬だお。水無し1カプセル、それだけだお」
( ><)「……本当に効くんです?」
疑ったまま、ビロードはカプセルを口に放り込む。
昔は苦手だったカプセル剤も、今や唾をのむように容易い。ビロードはまるで場違いな回想をした。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:16:38.79 ID:WRjGnBIiO
-
( ^ω^)「どうだお……?」
ブーンがおずおずと訊く。
( ><)「……特に、なんともないで……」
ビロードが諦めた表情で笑おうとしたとき、突如彼の体に異変が起こった。
(;><)「! ……く、苦しい……んです……?」
(;^ω^)「ビロード!?」
ビロードはベッドに崩れ落ち、マットレスを叩いて肩で息をする。
額に汗がにじみ、苦しそうと言うのは言わずもがな、彼の体になにか重大な変化が起こっているのは明らかだった。
(;><)「胸が熱い……なんです、これ、あ……」
胸を抑えて、ビロードは嘔吐感を堪える。
しかし、その時にはもう、鼓動が感じられなれないほど弱々しくなっており、
ビロードは自身が確実に死に近づいているのを、ひしひしと感じていた。
(;><)「……ブーン、お父さんに……死ね!って……伝えて……」
(;^ω^)「でも、ビロード!」
(;><)「いいから……行ってなんです!」
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:19:03.71 ID:WRjGnBIiO
-
ビロードが必死に声を荒げると、ブーンはそれ以上口を開く気が失せた。
黙って腕を広げると、耳障りな鳴き声をあげ、亜空間と繋がる亀裂をつくり、入り込んだ。
(;><)「う゛っ!! がは、お゛えええええぇぇ……」
嘔吐感が限界になり、ビロードは吐瀉物を両手で受け止める。
妙に重量感があった。不思議に思ったビロードが見てみると、それは未だ微かな脈動を続ける、歪な心臓だった。
さあっと血の気が引いて、ビロードは自分の左胸に触れる。
しかしそこには、強靭な鼓動が確かに存在しているだけだった。
いくら医学知識に乏しいビロードでも、こんな症状は存在しないのは知っている。
心臓の脈が切れ、わざわざ消化器官にワープして、口から出てくるなんて物理的に有り得ない。
それが実現した自分の体は、いったい何なのだ?
ビロードは、かつてない血の巡りの速さを感じながらも、自分が健康体になったとは思えずにいた。
( ><)「……落ち着いたんです」
まだ興奮は収まらないが、彼は呼吸を無理矢理整えて、立ち上がる。
( ><)「……」
あれだけ脈拍が早まると、いつも倒れていたのだが、今のところはそれがない。
本当に効いたのか。かなりの荒療治だったが、自分は健康体になったのか。
疑いつつも、ビロードは口角がゆるむのを感じた。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:21:51.40 ID:WRjGnBIiO
-
*
一方、その頃。
(;^ω^)「痛いっ!」
ブーンは頭を押さえて、へたりこみながら、中年の男を睨み付けていた。
( <●><●>)「ホライゾンの中でも、メジャー種は冷静さが特長である。はずだったんですがね。この私にわからないことを増やさないでください」
男は苛立たしく、ボールペンをノックし続ける。ギョロ目が怒りを誇張していて、助手もたじろいでいる。
(;^ω^)「ぼ、僕はビロードに一刻も早く伝えたくて……」
( <●><●>)「その気持ちはわかってます。ですが、情報を正確に伝えることも忘れないでください」
(;^ω^)「でも、ベルベットから伺ったことはちゃんと……」
( <●><●>)「私が伝えきる前に、あなたは勝手に走り出しました」
( ^ω^)「え、あれ……?」
ギョロ目の男は、わざとらしい嘆息をもらす。この男のもとで働く助手たちは苦労しているだろうと思う。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:24:01.61 ID:WRjGnBIiO
-
( <●><●>)「兎も角、あの薬でビロードが死ぬはずはありませんし、治らないはずもありません。いいから早く戻りなさい」
( ^ω^)「お……わかりましたお。あ、様子を見て、一度報告したほうがいいですかお?」
( <●><●>)「……無用です。私は仕事に戻りますよ」
ブーンが言ったのを突っぱね、男は手持ちぶさたを三角フラスコで埋める。
突然、器具の掃除を始めた彼を、助手たちは呆然と見ていた。
( <●><●>)「あ、そうそう。ビロードにこう伝えてください」
男は、同じく呆然としているブーンに耳打ちする。それを聞き、ブーンは顔を綻ばせる。
( ^ω^)「わかりましたお! では、御用があったらお呼びくださいお」
ブーンは空間を切り開いて、亜空間に入り込む。
空間のキズがなくなったのを見計らい、男は心よりの嘆息をついた。
( <●><●>)「申し訳ありません、ビロード……」
*
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:26:35.52 ID:WRjGnBIiO
-
(;><)「はっ、ふあっくしょおい! ブヘンブヘン!」
ビロードのくしゃみが、彼の容姿から想像するものより遥かにうるさく汚いことはさて置き、
彼は裾の長い普段着に身を包み、マントを羽織り、数年ぶりとなる外履きを履いていた。
あれだけ暇があったのだから、常日頃、靴紐を結ぶ練習をしておけばよかった、と嘆息をつく。
結局、適当な片結びにして、ビロードは土間に降りた。
( ><)「しっかし、お父さんもホラーな薬を送りつけたもんです」
悪態をつき、緊張が少しほぐれたところで、ビロードはドアに手をつく。
この先に、自分が何度となく憧れた自由の世界が広がっている。
道行く人に訊ねながら、軍の施設を目指そう。
目標も道筋も、抱く感想も決めた。さあ扉を開けて、外の風を受けよう。
( ><)「いざ!」
( ><)「……行くんです!」
( ><)「行くったら行くんです!」
( ><)「レッツゴー!」
( ><)「エクスペリアームズ! 足よ動け!」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:29:05.33 ID:WRjGnBIiO
-
いざとなると、ビロードは足がまったく動かなくなった。
勇気がないのは、自身の欠点として自覚している。克服しなければ、とビロードは意気込んで、足踏みを続ける。
ドアの向こうで口笛を吹いている寒風が、嵐の予兆を運んでいるような気がする。
(;><)「僕は……ん?」
と、強張った肩に、生えてくるかのような自然さでブーンが現れ、乗った。
( ^ω^)「ビロード! 無事だったかお!」
( ><)「……無事なのかどうかは微妙なとこなんです」
その僅かな重みに、肩が降りるのがわかった。ビロードはごく自然な動作でドアを開ける。
見知った誰かがいるというのは、とても心強かった。
逆に言えば、彼はこれでまた、勇気のなさを克服することができなくなったのだ。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:31:40.58 ID:WRjGnBIiO
-
さて、ビロードが踏み出した一歩外は、荒廃していた。
( ><)「……なんです、これ」
大陸の半島に佇む小国VIPが、こたびの戦争で劣勢に立たされていることは、ビロードも知っていた。
しかし、まさか道路に人が倒れていて、それを助ける人もいない。立っている人が一人もいないなんて。
風がいやに冷たく思えた。
( ^ω^)「ビロードが思う以上に、VIPの戦況は危機的なんだお」
肩のブーンが低い声で言った。
(;><)「こんなの……見てらんないです……」
ガラスを通してあれほど綺麗に見えた空が、黄土色に淀んでいる。ビロードはマントを翻し、通りを駆ける。
走るのも、ひどく懐かしい感覚だった。
( ><)「ブーン、繁華街はどっちなんです?」
( ^ω^)「……」
繁華街に出れば、疎らにでも人が居るはずだ。そう思い、ビロードは走りながら訊く。
しかし、ブーンはしっかり掴まっているだけで、何も答えない。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:35:09.96 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「……ブーン、まさか」
ビロードは知識はないけれど、察しはよい。ブーンの沈黙の意味に勘づいた。
足が震えながら止まってしまう。
( ><)「さっきの所が……僕の家の前が、繁華街だったんですか?」
( ^ω^)「……うん。今のVIPじゃ、亡命があちこちであって。人口は激減、兵力も乏しいお。
かつての歓楽街が、今や廃墟だらけのゴーストタウン、ってのも珍しいことじゃないお」
(;><)「ゴーストタウン! お化けが出るんですか!?」
( ^ω^)「出そうな感じではあるけど……」
ブーンはビロードの足元に転がっている死体を一瞥して言った。
( ^ω^)「ともかくだお、この先に軍用施設があったはずだお。そこに向かうお。兵士になるんだろお?」
( ><)「わかってます!」
通りの奥を指差し(指はないので腕だが)、ブーンは身を乗り出す。
まだ霞みがかって、はっきりとは見えないのだが、確かに大きな建物があるようだ。
ビロードは父親譲りの口調で頷いて、ブーンの指差したほうに歩き出した。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:36:37.66 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「でも、そんな簡単に兵士になれるんです?」
荒廃した風に、地面の色のマントを靡かせながら、ビロードは気がかりなことを言った。
( ^ω^)「この惨状を見て、まだ言うかお。でもまあ、確かに僕もちょっと不安だったけど……」
( ><)「だった?」
( ^ω^)「お父さんが便宜をはかってくれたみたいだお。ベルベットの息子と言えば通じるって」
( ><)「便器を測るってwwwwww馬鹿かwwwwwwwww」
( ^ω^)「……」
( ><)「さすがに冗談ですよ」
( ^ω^)「馬鹿に馬鹿の振りをされてもわからないお」
( ><)「うっせーんです。僕だって、馬鹿を気にしてはいるんです」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:39:09.14 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「あの天才ベルベットの息子ってだけで、生まれる前から神童扱い……。
蓋を開けてみたら、なんて何度言われたことか」
彼の父は、戦争以前にある薬学理論を立ち上げ、究極の薬を完成させたらしい。
天才の称号を得た父の息子に、期待がかかるのは当然のことだった。
ビロードに心臓病があると知られても、「その分頭がよいはず」と妙な信頼を寄せられた。
結果、ビロードはとてもバカだった。
ただし期待されたぶん、いくらか猛勉強の時代があって、多少の知識は得ている。奴隷になるほどの無知でもない。
その口癖から、父はワカッテマスというあだ名があり、自らはワカンナイデスと蔑まれていることも知っていた。
ビロードは、それでもプライドを持って生きていた。
( ><)「僕は中の中なんです。馬鹿にされるほどのもんじゃないです」
( ^ω^)「でも、天才じゃない」
( ><)「……あの父さんじゃなかったら、こんなことも言われないんです」
( ^ω^)「お父さんが嫌いかお?」
( ><)「……わかんないです」
特に父を嫌った記憶はない。かといって好きかと問われても頷けない。ビロードは曖昧に首を傾げた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:41:49.48 ID:WRjGnBIiO
-
( ^ω^)「ともかく、お父さんが用意してくれた兵士になるチャンスだお。はやくあの建物に着こうお」
( ><)「んー」
ビロードは安眠を邪魔された猫のような声を上げて、頷く。
そして少し歩調を速くした。
( ><)「……VIPは本当に勝てるんです?」
( ^ω^)「ビロードがいれば、ね」
( ><)「そんな適当なお世辞……」
( ^ω^)「ほんとに勘ばかりいいんだから……」
( ><)「ねぇ、お世辞ならお世辞じゃないって言ってくれる?」
( ^ω^)「何その天邪鬼。めんどくさいお」
そんなやりとりをしながら、ビロードは荒れ果てた通りを一直線に歩く。
ちょうど日が照ってきた頃、いよいよその全貌が目に見えるほどになってきた。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:44:06.83 ID:WRjGnBIiO
-
ばかでかい金庫のようだ、というのがその建物に対してビロードが抱いた印象だ。
外観は、真っ黒く塗られた分厚い鉄でほぼ立方体に見える。
唯一入口らしいところには、図体のでかい兵士が三人、目を光らせていた。
上は開いているのだろうが、足掛かりも無いし、ヤモリでなければ侵入は不可能だろう。
改めて、国というものを知った。
( ><)「すごく……大きいです……」
(;^ω^)「ビロード、この建物すごいお。パスワード制御のバリアが張られて、僕らホライゾンでも侵入できないお!」
( ><)「……侵入しようとしたんですか?」
( ^ω^)「はっは、まさか。三回ほどパスワードを叩いてみただけだお」
( ><)「……行くんです」
ブーンを肩から払い落として、ビロードはなおも、黒く目立つ軍用施設を目指す。
近づくにつれ、遠くから見えていたより建物が大きいことがわかっていく。
遠近法のではなく、本当に大きくなっているかのようで、少し酔った。
やがて、目の前に夜空が広がるかのように、建物の壁が広がると、見張りの一人が声をかけてくる。
体はでかいが、鎧兜をむちゃくちゃに着けた騎士であり、きっと奴隷あがりだろうと勝手に思った。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:46:30.11 ID:WRjGnBIiO
-
『何か御用で?』
(;><)「え、あ、えっと」
しかし適当騎士は、思いのほか仕事慣れしている声を出した。
奴隷上がりではないな、と関係ないことばかり頭を巡り、ビロードは小さく吃る。
( ^ω^)「ベルベットの息子のビロードですお。話は通ってますかお?」
答えるのはブーンがやってくれた。ビロードはほっとして、はい、と合いの手を入れる。
『ベルベット、ビロード……えぇ、聞いております。ホライゾンは連れていきますか?』
ブーンが僕を見上げる。
そりゃあ、連れていかないとは言えないだろう。
( ><)「はい、是非」
『了解。今ドアを開きます』
兵士が壁に触れ、その手をせわしなく動かすと、一部がスライドして開いた。
半ば押し込められるように、ビロードは壁の向こうに入る。適当騎士も付いてきた。
中は廊下のような場所だ。開いていた壁が閉まる。
そこで兵士は兜を取った。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:49:05.17 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「あーあ、すっげぇ蒸れた。気持ちわりい」
ビロードのマントと同じ色をした短髪の、鼻につくほどのイケメンが顔を出した。
(;><)「え、え?」
_
( ゚∀゚)「ったく、お前よう……これから戦うぞって奴が、あんまり名前を言いふらすなよな。
死なれたときに心に残っちまうだろうが」
強烈な人だお、とブーンが囁いた。ビロードは無言で同意しておく。
(;><)「……ご、ごめんなさい……」
_
( ゚∀゚)「いーのいーの! 久々の志願だしな、怒ってない!」
(;><)「あ、あうぅ」
気さくな人だとは思うし、印象も悪いものではないが、こんなに豹変されると戸惑う。
ビロードは大振りの握手で千切れそうになった手首を労りながら、この男のつかみ所を探っていた。
_
( ゚∀゚)「ここはそんな厳しいとこじゃねえみたいだから、まぁ肩の力抜けって」
( ><)「みたい……ですか?」
_
( ゚∀゚)「あー……ここって人の巡り激しいからなぁ。俺でも知らんことのほうが多いかも」
男は髪が吸った汗やら何やら汚いものを、籠手をつけたままの手で払う。
そしてひと息吐き出し、廊下の奥を指差す。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:51:36.47 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「とりあえず、責任者に回すぜ。細かいことは聞いてないんだ」
背中を押されて歩き出した廊下には、おびただしい数のドアが並んでいた。
どうやら、ほとんどが兵士たちの寮らしい。だが、人の気配はしなかった。
( ^ω^)「どこにも名札が掛かってないお」
( ><)「そうみたいです。迂闊に名乗らない方が良さそうなんです」
ビロードは心なしか姿勢を低くして、名前のわからないイケメンの後を歩く。
廊下は閑散としていた。途中ビロードたちが見たのは、飛行服を着て、
フルフェイスのヘルメットを被ったままとぼとぼ歩く、一人の兵士だけだった。
( ^ω^)「なんか今の人、しょんぼりしてたお」
_
( ゚∀゚)「そうなんだよなぁ」
ブーンが小さな声でぼやいたのを、男がはっきりと聞き取っていた。肩のブーンはひっくり返って、廊下に落っこちた。
_
( ゚∀゚)「ま、死ににいくってのに、普通元気ねえよ」
( ><)「死……」
からから笑って男は言ったのだが、反してビロードは唇を噛みしめる。
彼には男の声が、死という言葉でなく、死という現象として響いた。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:54:05.09 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「死が怖いか?」
男は小動物と指先で戯れているような笑みでビロードに尋ねる。
( ><)「……怖いですけど、死にたくない訳じゃないんです」
もともと死んでいたような命だ。夢を叶えて死ぬのならば、あの小さな部屋で百歳生きるより望ましい。
ビロードは、コクピットで超馬力のエンジンを全開にする想像をした。
やはり、何より空が飛びたい。空を駆けたい。
_
( ゚∀゚)「よっし、いい心がけだ」
男は親指を立てる。そして、急に立ち止まる。
_
( ゚∀゚)「うん、気に入った。ビロード、俺の名前はジョルジュだ」
ビロードは、この男の方から言うことはないだろうと思っていた彼の名前を、唐突に知ることとなった。
_
( ゚∀゚)「俺が逝ったときは、その名前で墓を立ててくれよな、マブダチ」
(;><)「……強引な人なんです」
自分は手頃だったのだろうか? そう思ったが、あまりに失礼なので押し止めておいた。
ともかく、これからの生活が、このジョルジュという人に頼りがちになりそうだというのは、ビロードの予想したことである。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:56:41.10 ID:WRjGnBIiO
-
長々と回廊を巡り、階段を上がり。上り階段がようやく無くなった。
_
( ゚∀゚)「ここが最上階だ。俺らは滅多に来ないところだな」
( ^ω^)「確かに……この埃っぽさがなんとも」
ビロードの肩にワープして戻ってきたブーンの言う通り、掃除こそしてあるが、人がちっとも来てないらしい。
隅に積もっている埃がどうも目立つ。
_
( ゚∀゚)「おいビロード、この天然ウザのホライゾンはどうにかならないか?」
( ><)「……天然ではないと思うんです」
_
(;゚∀゚)「狙ってウザいのかよ……こいつぁしんどいな」
ジョルジュは額を押さえて、邪気眼を疼かせながら、壁にもたれて座り込む。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 20:59:08.56 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「そこ、隊長の部屋だからよ。話は行ってるから、ぱぱっと会ってこい。俺は鎧を脱ぐぜ!」
彼の籠手が指差す先には、サインペンで「ミルナ隊長」と、くすんだ木材のかけらに書いてあるような、ないような。
しょっちゅう隊長が変わっているのだろうか。
きっとその殆どが、二階級特進とかで隊長位を去っているのだ。
戦いで隊長が前線に立つほど、VIPは紛糾している。
( ^ω^)「あ……ありがとう……。一応、礼言っとく」
_
( ゚∀゚)「なんでちょっとツンデレっぽくなってんだよ気持ちわりい」
( ^ω^)「女成分が足りないし……」
_
( ゚∀゚)「いらない」
ビロードは彼らを放っておき、隊長の部屋に入るために、そのドアを二つノックした。
『入れ』
含蓄のありそうな、おっさんの声がする。
(;><)「……失礼するんです」
急激に緊張が高まり、ビロードは肩を強ばらせながら、ドアノブを捻った。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:01:33.39 ID:WRjGnBIiO
-
( ゚д゚ )「おや、見ない顔だね」
北の将軍のような、目立ちすぎない、ただし威厳のある軍服を着た男が、開け放した窓際で言う。
(;><)「は、はい。今日からお世話になる、……ベルベットの息子です」
( ゚д゚ )「あぁ、あの。大変だね」
( ><)「い、いえ、僕の決めたことなんです!」
ビロードは胸を張ると、隊長ミルナは不思議そうな目をした。
( ゚д゚ )「君が? ……まぁいい、寮は適当に使ってくれ。ただし、外に出ることは出来ないから、そのつもりで。
あぁそれから、訓練も忘れないように」
(;><)「は、はいなんです!」
ミルナの妙な視線が気にはなったが、口に出すことは出来なかった。
( ゚д゚ )「次の作戦は一週間後だ。可能なら参加してほしいが」
一週間。そんなにすぐ、自分は戦場の空を舞うことになるのか。そう思いながら頷く。ビロードは夢の実現をつぶさに感じた。
( ゚д゚ )「やってくれるか。それなら、全力を尽くせるよう、しっかり訓練をするようにな」
( ><)「了解なんです! 失礼します!」
気持ち悪いくらいきびきびした動きで、ビロードは一礼し、その部屋をあとにした。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:04:13.67 ID:WRjGnBIiO
- _
(*゚∀゚)「はっはっ、面白いな! 他にもあるのか?」
(^ω^*川「流石にもうないわよ」
_
(*゚∀゚)「ぺニスかwwwきめぇwww」
从 ^ω从「あ? てめぇ、あんまりなめた口利いてるとひでぇぞ?」
_
( ;∀;)「だはははは!! ブーン、おめーマジおもしれーな!」
打ち解けていた。
( ><)「何やってんです、あんたら……」
川 ^ ω^)「女AAごっこだ。知らないか?」
_
( ;∀;)「イヒヒヒヒ!! たまんねー」
( ><)「知らないよ……あんたらのツボはよくわかんないです」
ビロードはため息をついてぼやき、薄着のジョルジュを見て、ふとマントを外した。
( ><)「ずいぶん訓練の期間が短いんですね……一週間で実戦らしいです」
_
( ゚∀゚)「そうだな。まぁ何てことはない。一週間もありゃあ、うまく扱えるようになるさ」
ジョルジュは、真面目な顔に戻っていた。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:06:33.67 ID:WRjGnBIiO
-
ジョルジュは「曲芸をするわけでもないんだし」と付け加え、鎧の脱け殻を持って立ち上がった。
_
( ゚∀゚)「んじゃあ、行くか。だいぶ時間も遅いし、今日は施設の説明に終始するぜ」
( ><)「わかりました」
( ^ω^)「アイアイオー!」
ゆっくりとした歩調で、もと来た道を戻る。
途中にあったジョルジュの部屋にマントと鎧を置いて、彼は上着とだぼだぼのズボンを履いてきた。
_
( ゚∀゚)「さて、まずは……食堂の場所を教えておこうか」
( ><)「美味しいんです?」
_
( ゚∀゚)「うまいうまい。アンド激安。なんてったって無料」
(;><)「VIPスゲー!」
_
( ゚∀゚)「時間も時間だ。いい肉食って体力つけるか!」
血圧を上げないために、ビロードは食べるものを制限されていた。が、今は天才お墨付きの健康体のはずだ。
塩分油分たっぷりの食事を想像し、すでに唾液の分泌が始まっている。
(*><)「は、はは早く連れてってくだしあ!」
_
( ゚∀゚)「うへはは、焦るなって」
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:09:09.43 ID:WRjGnBIiO
-
( ^ω^)(……おかしいお)
キラキラ輝くご馳走を先に、武者震いをするビロードの肩で、ブーンは疑問を浮かべていた。
( ^ω^)(一週間で実戦なんて、そんな雑兵に戦わせて、勝てるはずがないお)
ただでさえ戦力も小さいVIP国だ。質がなければ敵の大国には敵いっこない。
しかしながら、ビロードはそう言っていた。
空戦だろうが海戦だろうが、統率が完全にとれていれば、いかに兵力が小さくとも、なかなかの戦いを見せる。
逆に言えば、統率がとれていないと、大きな兵力があっても、その戦いはお粗末なものになる。
そしてVIPの場合は、兵力がなく、兵が未熟なために命令も行き届かないだろう。
( ^ω^)(よく今まで保ったもんだお……でも、このままじゃ……VIPは敗けるお)
ブーンは身震いをした。
これはつまり、自分の両脇で、やれ下乳だの、やれ乳首だのと火花を散らしている二人が、死ぬということだ。
( ^ω^)(……けど、きっと……今までVIPが完全に敗けてないのは……あの部隊があるんだお)
ビロードやジョルジュのいるところは、自分の危惧している場所なのだろうか。
これ以上考えるのが嫌になり、ブーンは首を振って、まとめた思考をみんな払い飛ばした。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:12:43.47 ID:WRjGnBIiO
-
(;><)「ハムッ! ハフハフ、ハフュ! フホハフ! ウゲホッ!」
_
(;゚∀゚)「飛ばすな汚い!」
(*><)「ごめんなさいなんです! モグハフッ!」
lw´^ω^ノv「米でなくライスか……それもまた良し」
_
(;゚∀゚)「ブフゥッ!!」
(;><)「汚ねええええええ!!」
見るに耐えない食卓は、一時間程度でどうにか片付けられた。
ビロードはジョルジュの口に入った米を、ジョルジュはビロードのをそれぞれ鼻に乗っけて、椅子を立った。
_
( ゚∀゚)「いやー、迷惑かけたかけた」
( ^ω^)「高楊枝で言うことじゃないお」
_
( ゚∀゚)「反省してる。さて、次はどこに行こうか?」
( ><)「ん……わかんないです。好きにしていいんです」
ビロードはお手上げして、判断をジョルジュに任せた。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:15:07.73 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「あー、言っても目立ったものは……そうだ、図書館はどうだ?」
( ><)「図書館……ですか?」
前に父に連れられ来たことがあるが、ビロードは図書館が好きではなかった。
誰が読むのかも解らないような専門書が堆く積まれていて、窮屈に感じるし、
絵本も読む気にはならない、かといって字ばかりの物語は、開いただけで胸が苦しくなる。
要するに、ただ本が嫌いなのだ。
( ^ω^)「行ってみようお、ビロード」
( ><)「えー……」
_
( ゚∀゚)「良いじゃないか。ホライゾンは大事にしないと逃げるぜ?」
( ><)「……ジョルジュさんのホライゾンは?」
_
( ゚∀゚)「メスでさ……おっぱい揉んだら、逃げた……」
( ><)「あれに欲情したんですか、あんた……」
ビロードは心底呆れて、ため息をついた。ジョルジュの口が何か言いたげに動いたが、すぐに噤まれた。
(;><)「……言い訳は?」
_
( ゚∀゚)「ない。男は戦友に隠し事はしないぜ」
(;><)「訊かなきゃよかったんです……」
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:17:36.60 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「それじゃあ……図書館、行くんです。ホライゾンが居ないと、何か誤解が生じそうな気がするんです」
( ^ω^)「……僕はオスだけど?」
_
( ゚∀゚)「戦場はな、いろいろあるんだよ。ビロード、案内する」
(;><)「了解!」
ジョルジュがさりげなく言った一言に、ブーンは背筋を凍らせた。
気づいているのかいないのか、ビロードは少し脂汗を浮かばせながら、ジョルジュの後に着いていく。
食堂と図書館は同じ階層にあったため、移動時間はとられなかった。
きっと、その迫力に足がすくんでいた時間の方が長い。
_
( ゚∀゚)「国営図書館って、すげえだろ?」
( ><)「ここに無い本は無さそうなんです……」
軍用施設の中の、一設備でありながら、それを全く感じさせない、雲まで届きそうな天井。
天辺に開けられた天窓からは、荒んだ風など一陣も見えず、ただ日光が注いでいる。
( ^ω^)「こりゃすごい!」
ブーンが跳びはね、若草色のマットに落ちた。
( ^ω^)「僕ちょっと、調べごとしてくるお!」
そして、巨大な図書館の奥に駆けていく。小さな姿はすぐに見えなくなった。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:20:12.92 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「知識欲の強いホライゾンだな?」
ジョルジュは感心したように言う。しかしビロードは、誇らしそうな顔はちっともしない。
( ><)「……普段はこんな奴じゃないです。わかんないですけど、何か隠してるんです」
_
( ゚∀゚)「俺たちに黙って調べなきゃならないこと……何だろうな?」
( ><)「さあ……僕らも、適当に本を漁りますか」
_
( ゚∀゚)「ブーンのことは良いのか?」
( ><)「あいつは、悪い隠し事はしないんです」
_
( ゚∀゚)「というか、出来なさそうだな」
たしかに、とビロードは笑って、目の前に立ち聳える本の宝庫に歩みを進めた。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:22:52.19 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)(と言っても、読みたい本なんてないんです……)
ジョルジュは探している本があるらしく、別のコーナーに入り浸っている。
手持ちぶさたををどう埋めるか。ビロードはとにかく、何か本を読むことに決めた。
( ><)「あっ」
あちこちをぶらついた末に、どこかで聞いたことのある名前を見つけた。
本の名前ではない。ビロードの目を引いたのは、その著者名だ。
( ><)「天才が開発した究極の薬の数々……著、ベルベット……」
特に心を惹かれるタイトルではない。むしろビロードとしては、開きたくない類いの本だ。
しかし彼は、その本をわざわざ本棚から引っ張り出して、腕に抱えて開いた。
ひょっとしたら、自分を治した薬のことが載っているかもしれない。
ビロードも、あれが新薬だと知ってはいたが、淡い予感がくっついて離れなかったのだ。
(;><)「えっと、四肢再生薬「五体不満足」……安定剤「自治厨」……違うんです」
探し疲れ、本の出版日を見ると、去年の夏であった。
それでも、彼は閲覧用の椅子に座り、腰を据えて本を読み続ける。自身の勘を盲信しているのだ。
そして、彼の勘は今回も当たってしまった。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:25:50.04 ID:WRjGnBIiO
- とっくに天窓から太陽は見えなくなっていた。西日が鬱陶しく視界を刺してくるのも気にならない。
( ><)「……う、嘘なんです……」
ビロードは首を横に振る。
ただ、それは理性が出している答えであり、彼の優れているところ、本能、勘は首肯していた。
本にへばりつくようにして、もう一度ビロードは、丸禁がついたページの文字を追う。
(;><)「万能薬「スカルチノフ」……橙色透明の液薬、ごく少量で効果を発揮する。
服用すると、異常のある部位を排出し、新たな同じ部位を生成する。
現在確認されている病気すべてに同様の効果がある。免疫を高め、一切の病気を受け付けなくし、
それより一週間の健康が約束される。しかし一週間後には、」
そこでビロードは勢いよく本を閉じた。
やはり同じ文があった。絶対の死も約束されている、と。
( ><)「嘘なんです、嘘なんです……こんな薬……許されないんです……」
( ><)「でもだから、禁止薬剤に指定されていた……けど、だったら……あぁだけど、父さんなら簡単に……」
薬の特徴としては合致していた。
父は本来液体だったその薬を、カプセルに詰めて渡しただけなのだろう。
ビロードは否定できる頭を備えていなかった。与えられた情報のもと、肯定することは出来た。
( ><)「……父さんは、あれを新薬と言ったんです。薬の色が被ることぐらい、いくらでもあるんです」
盲信的な言い訳を用いる他、精神を保つ方法がない。
ビロードは本の表紙を睨みながら、この本を開いた自分を恨むことにした。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:27:38.85 ID:WRjGnBIiO
-
*
一方でジョルジュは、ごく薄い本を床に開き、妙に盛り上がったページと睨み合っていた。
_
( ゚∀゚)「飛び出すおっぱい本……悪くない……」
彼はその本を閉じ、脇に抱えると受付に歩いていく。
_
( ゚∀゚)「よし」
布袋に入った飛び出すおっぱい本を提げ、ジョルジュは足早に図書館の外へ出ていった。
意気揚々と階段を上がる彼の背中は、希望に満ちていた。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:30:05.66 ID:WRjGnBIiO
-
*
( ^ω^)「……VIP特別攻撃隊、ね」
そしてこちらは、調べごとがあるといって、一足先に図書館に入っていたブーン。
高い本棚の上で本を開き、気難しく眉根を寄せていた。
( ^ω^)「つまり特攻隊……今時、時代遅れも甚だしいお……」
しかし、推測は確信に変わったが、ここが特攻隊の施設なのか、という証拠は見つかっていない。
ここの隊長に訊けばわかるに違いないが、ビロードも呼び出されて真実を知ってしまう可能性がある。
( ^ω^)「なんとか尻尾を掴みたいところだお。でもって、ビロードを連れ出さないと」
ブーンは頷いて、空間移動を多用しながら本を元に戻した。
( ^ω^)(一週間、まだどうにかなるお。犬死になんて、絶対にさせないお)
本棚を伝って床に降りて、ブーンはまた別の本を探しに歩き始める。
人の足に気を付けながら、本棚の分類を一つ一つ見ていく。
( ^ω^)「……あった」
足を止めて見上げた先には、大きな本棚が、戦術書と書かれた札を付けて立っていた。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:32:43.26 ID:WRjGnBIiO
-
ブーンはその中でも、空戦に関わる事柄を記してある本を探した。
もしここが特攻隊でなくとも、未熟な兵が何もできずに撃墜されるのはよくあることだ。
( ^ω^)「あの頃より、機銃は進化してるようだお……どう避けるか……」
ビロードには短期間の訓練で、可能な限り安全な戦いを覚えさせる。
かつての主人は、VIPと遠く離れた国で起こった戦争に首を突っ込み、大胆が過ぎた故に死んだ。
苦しみを持っているが故に、ビロードに戦死だけはしてほしくない。
ブーンは戦いに勝つことよりも、生き延びるための知識を詰め込みはじめた。
*
ブーンは生き延びる道を探し、ビロードはウォーリーを探していた頃。
飛び出すおっぱい本を小脇に抱えたまま、ジョルジュは隊長室のドアをノックしていた。
一度、二度ノックの音が響く。
_
( ゚∀゚)「……俺です」
『……あぁ、お前か。入れ』
扉の向こうで少し沈黙があり、やがてすっきりしたような声が返ってきた。
ジョルジュはドアの前でひとつ頭を垂らすと、ノブを捻る。その部屋中を巡っているらしい風が、彼の短髪を揺らした。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:35:18.84 ID:WRjGnBIiO
-
( ゚д゚ )「今日は風がやたら強い。何かあると思っていたよ」
ミルナは声が通るよう、窓を閉めて風を遮った。そして、久しいジョルジュの顔を見つめる。
_
( ゚∀゚)「隊長は悪い事を、みんな風の所為にしますよね」
( ゚д゚ )「……私は良い事と思っているかも知れんぞ」
_
( ゚∀゚)「なるほど、心にもないことを仰いますね。ともかく、解ってるらっしゃるなら話が早い」
ジョルジュは息を吸う。ミルナは、彼から目を離さず、じっと様子を見ていたが、そこで初めて目を逸らした。
( ゚д゚)「……いつの作戦でいくのだ? 来週か? 来月か?」
_
( ゚∀゚)「……来週です。やっと、俺の名前を教えたいマブダチを見つけることが出来ましたから、彼の代わりに」
ジョルジュはいつものように笑みを浮かべていた。決して無理に作っていない、角の丸い笑みだ。
彼の心が真摯に窺えた。だからこそミルナは、表情を、声色を崩さずに応対する。
( ゚д゚)「そうか、早いな。……いや、そりゃまぁかなり遅くはあるのだが」
_
( ゚∀゚)「死にたくないってごねたことは反省してますよ。後悔は皆無ですけど」
( ゚д゚)「あぁ、悔いなく死ぬのが、一番良い」
ミルナは再び窓を開いた。やはり風は強く、吹き荒んでいた。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:37:37.05 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「ミルナ隊長」
( ゚д゚ )「なんだ」
短い言葉を互いに言い合った。
_
( ゚∀゚)「今まで、ありがとうございました。……最後に、俺の名前を言いましょうか?」
( ゚д゚ )「……お前は、お前だ。それで事足りてる」
_
( ゚∀゚)「そうですか」
頭を掻いて、ジョルジュはわざとらしく笑う。
自身の名前で悼んで欲しかったのだろうが、それもミルナからしたら酷なことだ。ジョルジュは一歩さがった。
_
( ゚∀゚)「それでは、一週間後の作戦に参加させて頂きます。よろしくお願いします」
( ゚д゚)「あぁ、ちゃんとやっとくよ」
ミルナは視線を逸らして、ドアの閉まる音を聞くのだった。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:40:54.51 ID:WRjGnBIiO
-
*
( ><)「調べごとは終わったんです?」
図書館の玄関口に、ブーンを手の甲に乗っけたビロードは立っていた。
ブーンが本をいくつか借りたらしい。分厚い戦術書が、ビロードの片一方の手からぶら下がっている。
( ^ω^)「まだ終わった訳じゃないけど……今日は引き上げるお。ビロードこそ、ちゃんと本読んでた?」
(*><)「すっごく面白い本があったんです! ウォーリーを探せっていう」
( ^ω^)「あれ、ジョルジュは?」
( ><)「無視?」
ブーンは辺りを見回すが、ジョルジュの姿は無い。ビロードが図書館の中をざっと見ても同じだった。
いかにも自由人といった風な彼だったから、きっとどこかをぶらついて、しばらくしたら戻ってくるのだろう。
そう思いビロードは、手近なベンチに腰かけ、ブーンを降ろす。
ビロードは廊下を吹き抜けている風に、髪を靡かせる。
相変わらずここには誰もいない。思えば図書館にも人は少なかった。きっと皆、訓練に勤しんでいるのだろう。
もう一度風が流れた。訓練では空を飛ぶのだろうか。
風を切る感覚は、どれほど快いのだろうか。一週間後には、自由に空を飛べるようになるのだろうか。
たった、一週間で。
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:43:05.77 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「……ブーン」
ビロードはベンチに寝転がっているブーンの首根っこをつまみ上げて、目の前に持ってきた。
(;^ω^)「な、なに?」
ブーンが戸惑っているのは、ビロードの言うことを予見しているからでなく、
彼に言っていない隠し事について訊かれるのでは、と思ったからだ。
何とかビロードを生かそうということばかりで、言い訳を用意してなかった。
( ><)「もしも、ぼくが……ぼくが、あと一週間で絶対に死ぬなら……どうするんです?」
(;^ω^)「……ビロード……?」
死ぬわけがない、と根拠のない慰めを言うことさえ出来ない。
悲痛そうな目に見つめられながら、ブーンは、いっそ話すか、言い訳をするのか、という線で迷い始めた。
ビロードが口を開く。
( ><)「……僕は、勘が良いから……見つけちゃったんです」
(;^ω^)「……ビロード、もしかして……」
彼はゆっくり、首肯した。
- 79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:45:19.48 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「たまたま見た本に、書いてあったんです。絶対の死が約束されてるんですって」
( ^ω^)「絶対なんて……諦めたら、いけないお……」
ブーンの声にも力がこもらない。
知ってしまったなら、最早隠すこともない。だというのに、喉が震えて言い出せなかった。
( ><)「……たしかに、絶対とは言えないんです。けど、多分……」
(;^ω^)「ビロード、やめてくれお……」
ぶら下げられたままの悲痛さ三割減で、ひたすらブーンは懇願し続ける。
そして彼をじっと見ていたビロードは、やがて首を垂れた。
( ><)「……ごめんなさいなんです……」
そう言ってビロードはまた、ブーンをベンチに落とす。着地の際、ブーンは一度跳ねて、尻を痛そうに擦った。
(;^ω^)「いや、いいんだお……」
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:47:58.15 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「……ブーン」
ビロードは俯いたまま、ぼそぼそと呟く。
( ><)「父さんは……何故あの薬を飲ませてまで……僕をここに連れてきたんです……」
( ^ω^)「……! そう言えば、ここまでの事は、全部ベルベットが関わってるお……」
ブーンはしばらく、腕を組んでうろつき、ぶつぶつ何かを考えていた。
それからビロードを見上げた。ブーンの顔には、決意の色が浮かんでいる。
( ^ω^)「ビロード……お父さんに訊いてみるかお?」
( ><)「……」
或いは、自分の知ったことも話す気でいた。しかしビロードは首を横に振る。
( ><)「……絶対じゃないんです。僕は父さんを信じてるんです」
( ^ω^)「うん……そっか、悪かったお」
それから二人は何も話さず、大きな葉の観葉植物が風に揺れるのを、ただぼんやりと見ていた。
やがて、ジョルジュが戻ってきた。
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:50:25.45 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「やあやあ、勝手に消えてすまなかった」
先ほどまでと至って変わりなく、軽々しくジョルジュは手を挙げ、会釈する。
( ><)「ジョルジュ。どこ行ってたんです?」
_
( ゚∀゚)「ん、来週の一大作戦に参加するよーって言ってきた」
そう装っているのかは解らないが、普段通りのペースでジョルジュは大変な事を言った。
(;^ω^)「なっ!」
ブーンは声を大にし立ち上がる。
まるで、その反応が予想外だと言いたげに、ジョルジュは「うわっ」と声を上げて仰け反った。
_
(;゚∀゚)「ほ、本当だよ。俺がそんな悪い嘘吐くと思うのか?」
(;^ω^)「あー……でも、ジョルジュが来てくれるなら心強いお!」
_
(;゚∀゚)「うぁ、否定しないのか……」
ジョルジュは露骨に傷付いた様子で、すごすごと歩き始める。長く伸びた影が、哀愁を強調していた。
_
( ゚∀゚)「……部屋、帰ろう」
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:52:34.45 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「はいなんです」
なおも施設内をうろつく気力は、二人と一匹には残っていなかった。
とんでもない絶望に覆い尽くされているのだ、歩いたって何も見えやしないだろう。
ジョルジュの背中について、ビロードは肩を落として歩く。落ちた肩で、ブーンが「考える人」のポーズをしている。
_
( ゚∀゚)「……なんか、どうしたお前ら?」
(*^ω^*)「何でもないっぽ」
_
(;゚∀゚)「……フプッ」
( ><)「……よく飽きないですね」
白々しい目で、ビロードは言った。そして少し口元を緩めて、こう訊く。
( ><)「ジョルジュ……どうしていきなり戦いに? 話を聞く限り、あなたはこれまで一度も戦場に行ったことがないですよね?」
_
( ゚∀゚)「ん? 当たり前じゃないか。ま、理由ってーと……照れ臭いんだけどもな」
ジョルジュは、待ってましたとばかりに振り返り、後ろ向きに歩きながら、頭を掻いた。
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:55:13.48 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「お前に会ったときに言ったよな。いよいよ俺の墓を掘らせるに値する人間に会えたってよ」
( ><)「そんな感じのことはまぁ、言われたんです」
ビロードが情けなく丸まった背中をしゃんと伸ばし、反動でブーンが落ちた。
拾って、ポケットに入れておく。ジョルジュの話を聞くのに夢中になっていて、ブーンが聞き耳をたて始めたのには気づかなかった。
_
( ゚∀゚)「話はもう、半年は前に遡る。……そうだな、これは長くなるし、部屋に戻って話そう」
( ><)「あ……ですね、もう疲れたんです」
それまで張り詰めていた空気が、ジョルジュの背中が見えたことで解かれた。
ビロードは何か言いたそうにしたが、脚に溜まった疲れを感じ、言うようにする。
( ^ω^)(どうやら……ジョルジュの話を聞き逃さないようにしないといかんお)
ブーンは何も言わずに、ポケットに潜り込み、今夜をどう使うかを考え始めた。
やがてジョルジュの部屋に着くと、彼は神妙な面持ちでベッドに座る。ビロードも向かい合った。
_
( ゚∀゚)「まぁ、つまんない話だが聞けや」
居住まいを正すと、ジョルジュは咳払いを一つし、「むかーし、むかし」とありがちな冒頭で話を始めた。
- 89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 21:57:22.67 ID:WRjGnBIiO
-
*
時はおよそ半年前のこと。
まだVIPの人々が、戦争という言葉をよく知らなかったころのお話。
その夜、ジョルジュ長岡は、いつものようにオオカミ村の集会所で若い住民たちと言い争っておりました。
_
(#゚∀゚)「もうすぐ戦争が始まるんだ! VIPで生きたくないのかよ!」
彼は情熱的な若者であり、また腕っぷしにも自信を有していました。
なので彼は、もうすぐ始まる戦争に向けて、オオカミ村の代表として兵士になろうとしていたのです。
しかしながら、彼にはその仕度金がありませんでした。
VIPの兵士になるには、徴兵を待つか、自ら王都まで志願しに行かなくてはなりません。
普通は徴兵をされて行くのですか、彼の村にいる人間は、五十人に足りません。きっと徴兵がくるのは最後になるでしょう。
それでは手遅れなので、ジョルジュは毎日、王都に行くための資金を、人々から募っていたのです。
が。
( ∵)「ジョルジュ、何度も言ったろう。VIPは勝てないから逃げよう」
川 ゚ -゚)「ラウンジ湾岸のロビーという街が私たちを受け入れてくれるのだ。あやかろう」
ジョルジュのほかの若者たちは、消極的でした。
- 91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:00:04.81 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「俺に、ラウンジに下れって言うのか……」
( ∵)「そんなことは言ってない……ただ、生きてほしいだけだ」
_
(#゚∀゚)「ビコーズ! それならお前は、VIPのみんなを見殺しにできるのか!」
( ∵)「……出来る。僕や君が一人死ぬより、よほどましだと思う」
_
(#゚∀゚)「てめぇ……ぶっ壊す!」
川 ゚ -゚)「落ち着くんだジョルジュ。熱くなっても話は進まない」
話し合いは、いつも平行線。互いに譲りませんでした。
ジョルジュだって死にたい訳ではありませんし、彼らの言い分も、自分を案じているからこそと解っていました。
しかしだからこそ、彼はその甘っちょろい考え方が気に食わなかったのです。
_
( ∀ )「……悪い。けどよ、やっぱり戦わずしてなんて……」
( ∵)「……だが、戦いは死と隣り合わせじゃないか。僕らが死んだら、ばあば達はどうやって生きていけばいいんだ」
_
( ゚∀゚)「……」
過疎化が進んだオオカミ村は、老人たちの人口が最も多いのです。
彼らの面倒をみるのも、若者たちの役目でした。
- 93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:02:54.49 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「だから……俺一人で行くってんだろ。ばあば達のことはお前らに頼む」
川 ゚ -゚)「君がいないとそれが出来ないから、引き止めているんだが。ジョルジュが居ないと、獣を倒せる人がいない」
_
( ゚∀゚)「ボウガンくらい使えるだろ。嘘は止せよ」
川 ゚ -゚)「嘘じゃない。ジョルジュはオオカミを守る要じゃないか」
( ∵)「ジョルジュ、国を思う気持ちは分かるが、この村のことを忘れるなよ」
村人たちの絆は、少数ゆえにとても強かったのです。誰もがジョルジュに反対し、共に逃げようと言いました。
_
( ∀ )「でも……俺たちはこの村に育ててもらった……。隷属だった俺たちを、この村は受け入れてくれた。
けど、この村だけでは駄目なんだ。ここがあるVIPって国を、俺は裏切れねえんだ……」
( ∵)「……」
川 ゚ -゚)「……」
しかしジョルジュだけは、固執してその土地を守りたがります。
そうした気持ちに触れると、若者たちは何も言えなくなってしまうのです。彼らも、気持ちは同じだったのです。
川 ゚ -゚)「また……明日話そう」
_
( ゚∀゚)「あぁ……」
そう言われましたが、ジョルジュは既に決意を固めていました。
若者たちの気持ちを一番理解していなかったのは、他でもないジョルジュでした。
- 95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:05:11.07 ID:WRjGnBIiO
-
その夜、ジョルジュはみすぼらしい小屋で、愛用の猟剣を研いでいました。
ノハ;゚听)「おーいジョルジュ! 私を檻に閉じ込めーの刀研ぎーの、何するつもりだー! 私はおいしくないぞー!」
_
( ∀ )「大丈夫だ、ヒートには関係ない」
ノパ听)「そうか、分かった! でもせまいから早く出してくれー!」
彼の横で、鉄格子をがたがた揺らす小さなホライゾン。名前をヒートといいました。
普通のホライゾンであれば、空間移動を行えるのですが、彼女はそれが出来ません。
ヒートは、山で怪我をしているところをジョルジュに保護されたホライゾンなのです。
もう傷は癒えたのですが、ホライゾンの持っている空間移動の能力は、彼女から失われていました。
ジョルジュは彼女を山に返す訳にもいかず、家において保護を続けました。
物覚えがよく、言葉もすぐに覚えたヒートは、ジョルジュによく懐きました。
狩りにも毎日付いてきて、帰ってきては料理の勉強をしていました。
ジョルジュが悪いと言っても、
ノハ*゚听)『いーのいーの! ジョルジュのお嫁さんになるんだから!』
と口癖のように言って聞きません。
傍目から見ても、空間移動が出来ない以外は、理想的なホライゾンでした。
_
( ∀ )「……それは出来ない。悪いな」
だから、ジョルジュの声は震えていたのです。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:07:33.01 ID:WRjGnBIiO
-
ノハ;゚听)「な、何ぃ! なんでだぁ!」
_
(;゚∀゚)「いや……ちょっと、でかい熊と戦ってくるから……」
ノパ听)「じゃあその荷物を置いてけ! そんななりでクマと戦えるか! クマなめんな!」
ジョルジュは大きなリュックに、狩った生き物の干し肉を詰め込んでいました。
歩いて王都まで行くつもりだったのでしょう。
ノパ听)「でかい熊って、お隣さんのことだろやい! ビコーズさんやクーさんに黙って行くのだけはやめろっての!」
_
(;゚∀゚)「だから違うって……」
彼は言い訳しかけて、項垂れました。
_
( ∀ )「……仕方ねえだろ。このままじゃ、皆死ぬじゃねえか」
その言葉に、ヒートは檻を揺らすのをやめた。
ノパ听)「……仕方ないって、何さ」
_
( ∀ )「仕方ないは、仕方ないだ。どこに逃げたって俺たちは追われる身だろ」
ノハ#゚听)「だからって仲間を見捨てて死にに行くのか! おかしいじゃないか! 人の気持ちを考えろよ!」
ヒートは小さな体からビリビリ声を張り上げました。
声も言葉も心も、ジョルジュに響きます。荷物を置きたくもなりました。
- 98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:10:12.10 ID:WRjGnBIiO
-
ノハ--)「……でも、行くんだよな」
急にしおらしくなって、ヒートは目を閉じました。
_
( ゚∀゚)「……あぁ」
ジョルジュが頷くと、ヒートは、ぽてんと檻の中で寝転がります。
ノハ--)「じゃあもう勝手にしろ。けど、お前がここに戻ってくるまで、私はこの檻から出ないぞ」
_
(;゚∀゚)「なに言ってんだ……お前はビコーズたちとラウンジに逃げるんだろ」
ノハ--)「やーだ。ジョルジュの言うことなんてもう聞かないよ」
_
( ゚∀゚)「……分かった。それなら俺はちゃちゃっと戦争止めて戻ってくら。そしたらその檻を出るんだな?」
ノパ听)「……おう!」
_
( ゚∀゚)「よし。すまないな、ヒート。少し待ってろよな」
威勢のいい声に頷いて、ジョルジュはドアを開いて外へ出ました。
あばら屋を吹き抜けて、小さな声が聞こえました。
ノパ听)「……行っちゃうのか……」
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:12:33.55 ID:WRjGnBIiO
-
ジョルジュはその日から一日何時間も歩き、山間を離れて、半島の真ん中にある王都を目指しました。
途中何度か、馭者に王都行きの馬車を勧められましたが、ジョルジュはお金がなく断ります。
道程も半分ほどになったところで、ラウンジがVIPへ侵攻し、戦争が始まりました。
必死に足を動かしながら、ジョルジュは情報収集も欠かしません。
旅人を見つければ、オオカミ村がどうなっているか尋ね、まだ何ともないと聞けば両手を上げて喜びました。
そんな日々が続き、いよいよ王都を目の前にしたある日のこと。
王都から出てきた馬車の馭者は、わざわざ寂れた村の安否を訊いてきたジョルジュの気持ちなど、
歯牙にもかけないといった様子で、平坦に言いました。
(´・ω・`)「ああ、オオカミですか? 使いのホライゾンに聞きましたが、ラウンジの攻撃を受けたそうですよ」
_
( ゚∀゚)「え?」
(´・ω・`)「小さな村だもんですから全滅でしたかねー。とりあえず生存確認は聞いてないですよ」
馭者は最後に一言だけ、「残念なことです」と言いました。なんの慰めにもなりませんでした。
ジョルジュは絶望に打ちひしがれながら、足だけは動かしました。
オオカミの人々を殺したラウンジの連中を、一人残らず殺すためでした。
- 102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:15:34.94 ID:WRjGnBIiO
- _
( ∀ )「ビコーズ……クー……ヒート……」
ジョルジュが駄々をこねていなければ、みんなラウンジ湾岸の街に早々に逃げていたのです。
そして、VIPが着実に滅びていくのを、噂話で聞いていればよかったのです。
彼が一番恨むべきは自分でした。
_
( ゚∀゚)「……みんな、俺のせい……だな」
ラウンジが憎いのと同時、自分が憎くなりました。
戦場で死ぬ覚悟というより、死ぬ決意をジョルジュは固めたのです。
_
( ゚∀゚)「……待ってろ、すぐに戻るからな」
ジョルジュは目の前に聳える王都の門に向かって走り出しました。
つまり、全速力で死に近づいているということ。しかしジョルジュは、それを真に理解してはいませんでした。
_
( ゚∀゚)(一刻も早く……ラウンジの奴らに復讐して死ぬ……それが俺に出来ることだ)
王都は、ちょうど今日のように寒風が吹き荒んでいました。
街に立っている人は一人もおらず、壁にもたれ掛かる人がいても、その瞳に生気はありません。
軍隊のために重税が課されているのでしょう。見るからに貧しそうな人ばかりです。
ジョルジュは奴隷上がりでしたから、その姿に同情したのでしょう、彼らのために余った食料を置いていきました。
('A`)「ありがてぇ、ありがてぇ……兄さん、ありがとうな」
_
( ゚∀゚)「なぁに」
そして彼は、久しぶりの食事に顔をほころばせる老若男女に、軍事施設の場所を尋ねます。
- 104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:17:56.99 ID:WRjGnBIiO
-
('A`)「戦争が始まってしばらくして、急にできた建物なんだ」
男が指を差した先には、丘に立った真っ黒い立方体がありました。
まさに、今ビロードたちのいる、兵士たちの宿舎です。
_
( ゚∀゚)「ありがとう」
('A`)「……あんたも、VIPのために戦うんか」
男は去ろうとしたジョルジュに言いました。
('A`)「今のVIPに、何が残ってる? どうしてこんな国のために、兄さんは命を捨てるんだ」
その問いに、ジョルジュは振り返り、ふっと笑って答えます。
_
( ゚∀゚)「こんな国だから、俺なんかの命を捨てるにはちょうど良いんだ」
荷物を下ろし、軽くなった肩をぐるりと回し、ジョルジュは逃げるように黒い箱に向かいました。
いくつもの声が彼を引き留めます。しかしそれは、あの時も同じことでした。
同じようにジョルジュは止まりません。同じように悪い結果が待っているとしても、です。
やがて、彼を追いかける人はいなくなりました。
_
( ゚∀゚)「……あの男に、俺の情けなさを後世に伝えてもらえば良かったかな……」
これがジョルジュの迷いの始まりでした。
- 106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:20:14.66 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「こいつぁでかいな」
施設のすぐ傍まで来たとき、ジョルジュは正直な感想を口にしました。
しかし、三人いると思った騎士は、二つが空っぽの鎧です。
VIPはもともと人口の多い国ではないので、やはり兵士不足にも悩んでいるのだと、すぐにわかりました。
『何か御用で?』
中身のある騎士が、くぐもった声でジョルジュに訊きます。
_
( ゚∀゚)「ラウンジをぶっ壊しに来た」
『……わかりました、今扉を開きます』
闘志を燃やすジョルジュに、騎士は少し引いた様子でした。彼はさっと壁に手を添え、入り口を出現させます。
それからジョルジュを振り返り、敬礼をしました。
『宿舎棟の最上階に、隊長の部屋があります。挨拶をしに行くといいでしょう』
_
( ゚∀゚)「わかった、サンキューな」
軽く手を振り、ジョルジュは建物に入りました。
廊下を抜けると、訓練場、宿舎棟、管理棟と分かれた矢印があり、ジョルジュは言われた通りに宿舎棟の矢印に従います。
何度も階段を上るのはなかなか骨が折れましたが、それほど体力を削られるでもなく、隊長の部屋らしい所に着きました。
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:22:41.16 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「ミルナ隊長……ただ者じゃないな」
隊長室のドアはガタガタ揺れていて、ジョルジュにはそれがミルナという男の威圧に思えました。
実際はただ風が吹き付けていただけなのですが。ジョルジュは武者震いをし、揺れるドアをノックします。
『入れ』
渋い声が、風が駆け巡る中から聞こえてきました。
_
(;゚∀゚)「失礼します」
ジョルジュは冷や汗をかきながら、ドアノブを捻ります。
体格には自信があった彼でさえ押し出されるような、吹き付ける風の中で、ミルナはじっと立っていました。
( ゚д゚ )「風が強い日は何かあるな」
_
(;゚∀゚)「……?」
( ゚д゚ )「男。VIPのために命を投げ出せるか? 我が特攻隊で死ぬことを、受け入れられるか?」
ミルナは風のように奔放に話す男でした。ジョルジュは反射的に頷きましたが、その後でこの質問に首を捻りました。
- 114 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [さるでした] 投稿日: 2008/11/14(金) 22:40:13.31 ID:WRjGnBIiO
- _
(;゚∀゚)「ちょ、ちょっと待ってください。と、とっ……特攻隊、って」
( ゚д゚ )「え?」
_
(;゚∀゚)「え? じゃなくて……」
ぽかんとした表情で、ミルナは訊き返します。確かに聞こえた、特攻隊という単語。ジョルジュに戦慄が走りました。
そう言えば旅の途中、厳つい傭兵がそんな噂を話していたのを耳にした気がします。
ジョルジュは単に噂だろうと、聞き流していました。
( ゚д゚ )「……知らなかったのか」
ミルナは頭を抱えて、高そうな椅子に座りました。
( ゚д゚ )「そうだ……ここはVIPの特攻隊……特攻というのは戦闘機に爆薬を積み、」
_
(;゚∀゚)「帰らせてください!」
ミルナの話を遮って、ジョルジュは叫びます。自分でも何故そんなことを言うのか解りませんでした。
彼自身、ラウンジに一矢報いたいと思っていたはずです、死してオオカミに贖罪を果たしたいと思っていたはずです。
- 117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:43:11.47 ID:WRjGnBIiO
- _
(;゚∀゚)「俺は……い、命を無駄にするような死に方はしちゃいけないんです。ラウンジをぶっ潰してやらなきゃ……」
腕を振り、ジョルジュは懇願します。ミルナは優しい表情で頷いたのですが、口をついたのは厳しい言葉でした。
( ゚д゚ )「成る程な。……しかし、やはりここから出すことはできない」
_
(;゚∀゚)「どうして!」
その理由は、なんとなく察することが出来ました。
( ゚д゚ )「この特攻隊の件は、言わば国家機密なんだ。それを知った者を、外には出せない」
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュは考えました。どうにかここを逃げ出して、まともな部隊に志願し直さなければいけません。
しかし、この建物はどうやら、鼠一匹這い出る隙も無さそうです。
走って逃げても、隅っこで捕まるだけでしょう。
( ゚д゚ )「……迷いがあるか」
_
(;゚∀゚)「う……」
ミルナの真っ直ぐな瞳に射抜かれ、ジョルジュは呻きます。そうしている内、ミルナが口を開きました。
( ゚д゚ )「お前の決心がつくまで待つ。それまで門番の任を与えよう」
ミルナの言葉は、もしジョルジュが逃げたとしても、逃げ切れないであろうという自信の現れでした。
彼は腹をくくって、必死に
- 119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:46:09.42 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「俺は……俺の身勝手で、多くの仲間を死に至らしめました。俺の汚名を、誰かに、後世に伝えてほしいのです」
ミルナはふむ、と頷きます。
_
( ゚∀゚)「その誰かが見つかるまで……ここにいて良いですか」
( ゚д゚ )「……その役目は私には勤まらんのだな。私が君の帰り道を塞いだのだものな」
_
( ゚∀゚)「……はい。すいません」
つまるところ、ジョルジュは自分の罪の重さを忘れ、孤独な死を嫌がったのです。
気持ちを深く汲み取ってくれるミルナ相手に、言い訳は簡単でした。彼はゆっくり頷いてくれました。
_
( ゚∀゚)「それでは、お世話になります」
ジョルジュは深くお辞儀をしました。
本当に心からの感謝を込めて、頭を下げました。
必ず約束を守ろうと、ジョルジュは誓いました。
部屋を後にし、ドアを閉めたあとで、ジョルジュは名乗っていないことに気づきました。
_
( ゚∀゚)「……ま、いっか」
ミルナだって、どうせ死ぬ人の名前など知りたくないに違いありません。
まぁ、これからずいぶん仲の良い間柄になるのですが、それも関係のない話です。
ジョルジュは頭を掻いて、宿舎棟の階段を下り、空き部屋を探し始めました。
- 122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:49:14.37 ID:WRjGnBIiO
-
*
_
( ゚∀゚)「そんなところだ」
語り終えたジョルジュは、自嘲気味に、目だけを笑わせていた。
が、向かい合うビロードは、ゆらゆら舟を漕いでいた。
叩き起こしたいが、そうしたらまた同じ話をしなければならないだろう。
ジョルジュはビロードのポケットを裏返し、ブーンを引っ張り出す。
_
( ゚∀゚)「ところでさ、」
( ^ω^)「はい、聞いてましたお。すみません」
_
( ゚∀゚)「正直でよろしい」
聞いていたなら話が早い。いずれブーンから話すことだろう。
ジョルジュは、やたら汗ばんでいるブーンをビロードのベッドに放り投げ、煙草とマッチを手にとって、ドアを引く。
_
( ゚∀゚)「ちょっとタバコ吸ってくる。外に出たかったら、一階のどこかにホライゾンルームがあるから、はじめに行っておけよ」
( ^ω^)「あ、うん」
- 125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:52:09.54 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「じゃ」
バタン、とドアが閉まると同時、ブーンはくるりと回って立ち上がった。
( ^ω^)「一階のどこか、ホライゾンルームね」
ブーンは口角を歪ませると、すぐさま空間を切り開き、あっという間に一階の廊下に現れる。
ジョルジュの話はよほど長かったようだ。窓の外は既に真っ暗になっている。
ただ風は相変わらず、らしくない夜風を吹かしていた。ミルナがいれば、また何か言うだろう。
( ^ω^)(にしても、ジョルジュはいつ気づいてたんだお……まぁ、これで確信が持てたお。ここはVIPの特攻隊。
そして、ベルベットの奴はあの『スカルチノフ』を新薬と偽って、ビロードに飲ませたに違いないお)
ブーンは月明かりだけに照らされる廊下の月影を走る。相変わらず誰も通らない、幽霊屋敷のような場所だ。
確かに、幽霊がさまよっていても可笑しくない。
しかし、あの悪戯好きそうなジョルジュが話さないのだから、きっと居ないのだろう。
独り言を言って、自己を奮い立たせる必要もない。
( ^ω^)(あった、ホライゾンルーム)
HRと略した札が、廊下に飛び出ていた。
ごく小さな扉と、人間が通れるほどの扉が一つずつ立っている。
ブーンはその小さな扉を開き、中に入ってすぐそばにあったスイッチを押した。
- 130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:55:05.72 ID:WRjGnBIiO
-
(;^^ω)「ホマッ! 誰だホマ!」
( ^ω^)「うっわぁ気持ちわりぃ」
そこには、一匹のホライゾンが眠っていた。
明かりが瞬きながら点くと、そいつはいきなりの出来事に七転八倒しながら叫んで、起き上がる。
一連の気持ち悪い動作と、どうやら生来らしい気持ち悪い顔に、ブーンは心からの嫌悪を口にした。
(;^^ω)「あれ、な、なぁんだ……ホライゾンかホマ……」
( ^ω^)「少しでも残念そうに言うなお……死にたくなるお」
(;^^ω)「でも、僕もホライゾンだから……手紙を運びたいんだホマ……」
( ^ω^)「……」
ひとまずブーンは、そのホマホマうるさいホライゾンに最低限の事情を説明し、
亜空間のロックを解くパスワードを教えてもらった。
( ^^ω)「これを忘れたら、ここから出ることも、ここに戻ることもできないホマよ!」
( ^ω^)「はいはい、わかってるお」
これで、ベルベットを問い質すことができる。
- 132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 22:58:11.42 ID:WRjGnBIiO
-
ビロードから、自分が一週間で死ぬとしたら、と言われたときにはもう、薬のことを知ったのだろうと択一していた。
空軍に対して、異常なまでの信頼を寄せている彼が、特攻隊のことを信じるはずがないからだ。
だからこそ、そんなビロードを騙して、彼を特攻隊に入れたベルベットを許すことは出来なかった。
彼を説き伏せ、この一週間でビロードを治す薬を開発させる。
それから、ベルベットの名をかざし、ビロードをあの施設から連れ出す。
それがブーンのとれる最良の手段だったであろう。
( ^^ω)「話してくれて、ありがとうホマ。それじゃあ、僕はもう寝るホマ」
( ^ω^)「……おやすみなさいだお」
目を閉じたホライゾンを見つめ、ブーンはなんとも言えない気持ちで、小さなスイッチを切った。
そして、いつものように亜空間に押し入っていく。
( ^ω^)(寝る、か……)
ホライゾンという生き物は、たいてい不眠でいい。
彼らが眠る時は、200年目あたりの、寿命が近づき始めた頃である。
ブーンはまだ50ほどの若いホライゾンだった。ビロードには頻繁に手紙を頼まれるし、
彼はホライゾンとして充実しているに違いない。あの年老いたホライゾンが、急に別の意味で哀れに思えてきた。
( ^ω^)(……今の僕には関係ないお)
ブーンは首を振り、パスワードを言ってから亜空間を脱出する。
明かりでよりまっさらに見える白衣が、まず目に入った。
- 134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:01:23.81 ID:WRjGnBIiO
-
( <●><●>)「こんな時間に何の」
( ^ω^)「死ね」
どこからか、ビロードがたまに遊んでいたBB弾を取り出し、ベルベットの口に放り投げる。
一つや二つではない。ほぼ一瞬で投げきったその数は、二十前後になる。
( <○><○>)「……え、なにこれ、わかんないんです」
( ^ω^)「ベルベット。あんたには失望したお」
あまりに突然すぎる出来事に、ベルベットは目を白黒させていた。
舌の裏で蠢く異物感は拭い去りがたく、ベルベットは何度も咳をする。
(;<○><○>)「ふ……どうやら、この仕打ち……どうやらもう気付いたようですね、ブーン」
( ^ω^)「あぁ。今朝がた、あんたにぶたれた時に、何かおかしいとは思ってたお」
ブーンは、ベルベットの背中がわで大爆笑している学生たちに見向きもせず、冷たく言い放つ。
( ^ω^)「いくら僕でも、伝言を忘れたりはしないお。あんたは薬の効き方なんて最初から伝えてなかったんだお。
それを言ったら、僕が必ず薬の正体に気付くと、あんたは解ってたから」
- 139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:09:15.45 ID:WRjGnBIiO
-
( <○><○>)「ええ、そうですね」
ベルベットは涙目ながら、悪びれた様子なく言う。
( <○><○>)「しかし早かったですね。一週間はもつと思っていたのですが」
( ^ω^)「こっちには、ウォーリーを探せから、
ラウンジの使用する光線銃について書かれた本まで置いてある図書館がついてるんだお。一週間もとられんお」
ブーンは自身を落ち着けようと、息を吐いた。
( ^ω^)「なんなんだお。あんたは、簡単に妥協するような男だったのかお。ビロードの薬を作れないからって、あんな……」
( <○><○>)「……すいません……」
( ^ω^)「言い訳くらいないのかお?」
ベルベットは首を横に振る。
( <○><○>)「……私は、ビロードに望まぬ死を押し付けた……どんな事情があっても、それは変わりませんから」
( ^ω^)「全くだお。よくわかってる」
ブーンは呆れ果てた様子でベルベットを睨みつける。そして、両の手の平を前に突き出し、力を込めた。
( ^ω^)「それならまぁ、話が早いお。じゃ、お前も死ねお」
- 143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:12:57.87 ID:WRjGnBIiO
-
( <●><●>)「……わかりました」
両手に力を込めて、ベルベットの足元の空間を裂き、拡げる。
ぽっかりと出来た穴に、ベルベットはずるずる引きずり込まれる。
( <●><●>)「でも、私をここに落とす必要はありませんよ。あなたもわかっているでしょう」
ベルベットは見る間に沈んでいく。すでに腰ほどまで、亜空間に浸かっていた。
( ^ω^)「……」
咄嗟の命乞いではないようだ。何しろ相手は天才ワカッテマスだ。考えなしに言葉を口にしたりしない。
( ^ω^)「一週間で万能薬の効果を抑える薬を開発。出来んのかお」
( <●><●>)「……何か抜け道はあるはずです。自身の産物を超せなくなった天才など、ただの自惚れです」
彼の足元に開けた穴を閉じ、ベルベットを元の世界に押し出す。
白衣の端が、亜空間特有の有毒ガスを受けて腐食していた。人間が長時間吸い込めば死に至るものだ。
にも関わらず、ベルベットは平気な顔で汚れた白衣の端を引きちぎると、そこらに放り捨てた。
- 151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:28:45.63 ID:WRjGnBIiO
-
( <●><●>)「私は諦めていました。もはやビロードは死ぬ以外ないと決め付けていました。それは違います。
何にでも抜け道がある。それが薬学でした。これから私はビロードを救う手段を考えましょう」
( ^ω^)「……あんたは、どうして」
ブーンの目には今、ベルベットが息子に死を命じるような男にはどうしても見えなかった。
ブーンが問うと、彼は寂しそうな背中を向けて去っていく。
(;^ω^)「ベルベット……?」
何かを隠されている。
それは直感で判ったが、一体何を隠しているのだろう。
部下たちに指示を出すベルベットの背中は、何も語っていなかった。
( ^ω^)「……任せるしかないかお」
自分には薬学の知識はない。ここからはベルベットに任せる他ないのだ。
あとは、ビロードを施設から逃がす方法を考えなければいけない。
近く、ビロードにも真実を告げよう。
そう思いながら、そっとブーンは消えた。
- 154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:33:14.45 ID:WRjGnBIiO
-
部屋に戻ると既に、二人は眠りについていた。
ビロードはいつものように、聞くに耐えない鼾をかいて、爆睡している。
( ^ω^)「……ジョルジュが、ロビー町で亡命者の受け入れをしてるって言ってたお……」
ビロードが逃げるなら、そこに連れていくのが一番良いだろう。
しかし、あそこが受け入れると言ったのは、オオカミの人だけかも知れない。
それにまず、この施設から脱出する手段もない。
( ^ω^)「これは最終手段だお」
ブーンは何度か腕組みをして唸っていたが、現在は判断材料が少なすぎることを理由に寝転がった。
( ^ω^)「……ビロードは、ここが特攻隊だってことを信じて、逃げてくれるだろうかお」
予想がつく範囲での一番の心配は、専らそれだ。
前にも言ったように、ビロードはVIPの空軍に対し、妙に信頼を寄せている。
その黒い部分を話しても、簡単に信じてもらえるとは思いがたい。
( ^ω^)「……なんとか、なるかおー?」
ビロードの鼾が、今夜ばかりは五月蝿く思えた。
- 158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:36:07.12 ID:WRjGnBIiO
-
( ><)「おはようなんです!」
_
(;゚∀゚)「……ああ、おはようさん」
ビロードはかつてない良い寝覚めに、朝っぱらからテンションを上げていた。
見ていると、ブーンはベルベットの判断が正しいかのような、妙な感覚に襲われる。
認める気はさらさらないが、ブーンは心の箍がゆるむような気がした。
(*><)「うほっ! これが飛行服! すごくモコモコなんです!」
_
(;゚∀゚)「テンション……朝から……」
クロゼットの中には、様々なサイズの飛行服が並んでいる。中には部隊長位用のものも混ざっている。
ついでに言えば、ビロードの着ようとしているやつは、部隊長位の飛行服のはずだ。
( ^ω^)「似合ってるじゃんかお……」
しかし最早、VIPでは一階級間違えるくらい些事だろう。
ブーンは顎を撫でて、ふふんと笑った。
(;><)「……暑いんです!」
_
(;゚∀゚)「元気だねぇ……」
ジョルジュはと言えば、悪い夢を見たようで、しきりに汗を拭いていた。
六日後死ぬと解っているだけ、眠るのは大きな意味を持っているのだろう。
一人で煙草を吸っていたとき、何を思っていたのだろうか。知る由はない。
- 161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:40:08.33 ID:WRjGnBIiO
- _
( ゚∀゚)「ともかく、まずは朝飯だな。脳味噌働かせないと仕様がねえ」
( ><)「僕の脳味噌はニートだ」
_
( ゚∀゚)「ツッコミにくいボケするな」
( ><)「ごめんなさい」
ブーンは、「ビロード達の食事に付き合うのは健康に悪い」と言って、二人が着替えても寝転んだままでいた。
( ^ω^)「適当にパンでも持ってかえってきてお」
_
( ゚∀゚)「……」
最初は、仕方ないと言ったジョルジュだったが、ブーンの余計な一言が癇に触れたようだ。
(;^ω^)「アッー!」
_
(#゚∀゚)「働かざる者食うべからずゥ!!」
( ><)(うるせー……)
ブーンは大きな手にふん掴まれて、下の食堂へ連れてこられることとなった。
これでまた一層、朝食の席がうるさくなる。しかしビロードは、ジョルジュが元気を取り戻して、嬉しくもあった。
- 164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:43:36.38 ID:WRjGnBIiO
-
(;^ω^)「……」
あまりにグロテスクなので省略するが、やはり食事の光景は凄惨なものだった。
バナナを一房、バタートーストも一斤平らげ、大盛りのレタスサラダをお代わりした。
そうして、過剰に脳を目覚めさせたところで、ビロード達は部屋に戻ってきた。
_
( ゚∀゚)「さて、と。訓練は10時からだ。ちゃちゃっと行こうか」
( ><)「はいなんです!」
試行錯誤しつつ、訓練用の飛行服に袖を通すビロードに聞こえないよう、ブーンはジョルジュの肩で言う。
( ^ω^)「……ジョルジュ、ビロードも訓練に?」
_
( ゚∀゚)「あぁ。今はぐだぐだ話してる時間はないからな。訓練のあとだ」
確かに、とブーンは頷く。
時計はもう10時寸前を指しているし、深刻な話をする時間はない。
( ><)「なんです?」
_
( ゚∀゚)「なぁんでもねぇよ。準備が出来たなら行くぜ」
(*><)「はいなんです! 緊張するんです!」
手放しで喜んでいるビロードを見ていると、隠し事をしているのが、ひどく悪いことであるように、ブーン達には思えた。
- 166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:47:11.14 ID:WRjGnBIiO
-
ブーンを胸ポケットに入れたビロードとジョルジュは、一階まで降りてきてすぐ訓練場に向かった。
弱い風が流れ、日差しが照りつけるコンクリート舗装に、三機の戦闘機が並んでいる。
ビロードが模型を持っていたものだ。
(*><)「おほおおぉっ!」
いよいよビロードはテンションが上がりすぎて、奇声を発し始めた。
こうなったら手のつけようがない。
ジョルジュは腰に手を置き、細い戦闘機にぺたぺた指紋をつけるビロードを見守っていた。
(*><)「ジョルジュ! これ、僕の家の窓からいつも見えてたやつです! ここから飛んでたんですね!」
_
( ゚∀゚)「ああ、そうっぽいな」
どことなく苦しげな表情で、ジョルジュは首をかしげる。
しかし、ビロードが腹が痛いのかと何度もしつこく尋ねるので、最後は笑っていた。
ジョルジュがなぜ、ビロードをああも気に入ったのか解った気がした。
ああいうタイプは、ジョルジュによく合いそうだ。
( ^ω^)「……教官、って誰がやるんだろお」
10時はもう過ぎただろうが、訓練場には彼らのほか誰もいない。
不安になってブーンがこぼした。
- 169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:50:07.82 ID:WRjGnBIiO
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( ゚∀゚)「いや、そういうのは必要ないと思うがなぁ」
(;^ω^)「ナヌーーーー!!」
ブーンの口に残っていたほうれん草が吹き飛んだ。
どうやらビロードが愛でている機体にへばりついたようだが、その迷彩柄に紛れて消えてしまった。
(;^ω^)「必要ないってじゃ、じゃあ……どうすんだお」
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( ゚∀゚)「心配ないさ。な、ビロード」
( ><)「はいなんです!」
ビロードはびっと高く手をあげる。訳がわからず、ブーンは頭を掻いた。
(;^ω^)「いやいやいや。何示し合わせて……」
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( ゚∀゚)「そうじゃない。ビロードは知ってるよな、この戦闘機のヒミツ」
( ><)「はいなんです!」
( ^ω^)「秘密……?」
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( ゚∀゚)「まぁ、見てな」
ジョルジュは戦闘機の扉を勝手に開き、中をブーンに見せた。
- 172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:53:12.45 ID:WRjGnBIiO
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( ^ω^)「一体……!」
そこには、複雑な数字や何を知らせるか解らないランプ、卑猥な形をしたレバーなんかは一つもない。
ただ、長時間座ると尻を痛くしそうな椅子と、天井とつながったヘルメットが置かれている。
その額辺りが、緑から青へ、青から緑へと色をグラデーションさせていた。
人を落ち着かせるべき色が織り成すそのグラデーションは、どうしてかブーンの心を沸き立たせた。
このランプは、まともなものを表すランプではない。ブーンの直感であった。
(;^ω^)「これって、……何だお?」
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( ゚∀゚)「おいおい知らんのかい。しゃあねえ、ビロード大先生、ご教授くだせえ」
ビロードが肩を叩かれ、一歩前に進み出る。
( ><)「はいなんです! これは、はるか東方で開発された、画期的な自動操縦プログラムなんです!
このヘルメットが脳波を感知して、思うだけでその通りに機体を自由に操れるんです!」
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( ゚∀゚)「よっ、軍事オタク!」
( ><)「軍事は余計なんです!」
( ^ω^)(ビロードってこんなキャラだったっけ……)
- 174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/14(金) 23:57:31.87 ID:WRjGnBIiO
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( ^ω^)「って、ええええええええ! 何その……ええええええええ!」
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( ゚∀゚)「最先端だろ?」
(;^ω^)「うぜぇ……」
ジョルジュはからからと笑う。ブーンは腕を振り回してぎゃあぎゃあ騒いだが、誰も聞かなかった。
(;^ω^)「じゃあ、百歩譲って人の心に潜り込むようなプログラムを許すとするお、
でもだからって、ほんとにこのプログラムで、飛行経験のないジョルジュが戦場に出れるのかお!?」
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ジョルジュ「出来る、出来ないじゃねぇよ。やるんだ」
月並みな台詞も、イケメンが言うとしっかり決まった。
(;^ω^)「だからうぜぇって! 命を推した戦場なんだろうがお! 本気で戦うべきじゃないのかお!」
対峙するブーンは更に昂る。すると、ジョルジュはいきなり鋭い目つきになって、こう言った。
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ジョルジュ「いくら訓練を積んだって、それは実戦とは違う。知ってるだろ、内藤のブーン」
(;^ω^)「は……ジョルジュ、いま」
ブーンが明らかに勢いを失う。これまで以上に多くの汗をかき始めた。
ジョルジュの発言に、ブーンはどう見ても心を揺さぶられていた。
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 00:00:05.04 ID:hvile8WxO
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(;^ω^)「……」
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( ゚∀゚)「……」
( (><)「こうしてヘルメットを被って、」
(;^ω^)(ボンバーマンみたいだお……)
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( ゚∀゚)「……さて、ブーン。ビロードが置いてけぼりだ。話を聞いてやろうぜ」
( (><)「え?」
( ^ω^)「……うん。ビロード、最初から頼むお」
再びジョルジュが呼んだ、ブーンという名前。
ブーンはそこに、何か深意が隠されているような気がしたが、何も汲み取れなかった。
解るのは、ジョルジュと自分の前の主人に、何かしらの関連があるということだけだ。
( ><)「……はいなんです」
その関連とはなにかを、というのを知りたい気は、まったくしなかった。
- 179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 00:03:12.19 ID:hvile8WxO
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簡潔に言うと、今日の訓練だけで、ビロードとジョルジュは大体の飛行の感覚を掴んでいた。
ブーンが見て思うのだから、そう思って良いだろう。
昼食を挟み、広い訓練場で銃弾など飛来物をかわす訓練も行なった。
イメージした通りの動きを、プログラムが自動で入力してくれるので、動きをよく知っているビロードは特にうまかった。
しかし、一連の動作を繰り返す訓練をする最中、ブーンの頭にはずっとジョルジュの言葉が響いていた。
( ^ω^)(……どれだけ訓練を積んだって、それは実戦とは違う……かお)
ブーンのかつての主人は、よく訓練を積んでいた。戦場で必ず活躍すると意気込み、誰よりいい動きをしていた。
だが、実戦になると彼の動きは一変する。怖じ気付き、敵の前に立つことが出来なかったのだ。
結果、内藤は死んだ。
( ^ω^)(最後に、内藤さんが言ってた言葉だお……どうしてジョルジュが……)
ビロードのことを笑顔で褒めながら、ブーンは考えていた。
ジョルジュのあれが作り話とは思えない。
そういえば、彼は元奴隷と言っていた。その時代に、主人から話を聞いたのだろうか。
( ^ω^)(解らないけど……興味ないお)
結局、ブーンはその日、考えることをやめた。自分にはもっと大事なことがあるはずに違いなかった。
- 181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 00:06:09.28 ID:hvile8WxO
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*
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( ゚∀゚)「カレーうめー!」
( ><)「もんじゃうめー!」
( ^ω^)「ウンコうめー!」
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(;゚∀゚)「ちょ……カレー食ってる時にウンコの話すんなよー! オゥエゲェッ!!」
(;><)「も、もんじゃ食ってる時にゲロすんななんでs……オロロロロ!!」
( ^ω^)「……それはもんじゃに限らずだと思うお……ウプ……」
夕食も凄惨な光景に終始し、ビロード達は半ば追い出されるように部屋へ戻ることになった。
ビロードが階段を一段上がるたび、ブーンの緊張の糸が張り詰める。
これからビロードに、信じがたい真実を伝えなければいけない。
そう思うと、背筋が寒くなった。
- 184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 00:10:08.11 ID:hvile8WxO
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( ゚∀゚)「何だかんだ言っても、やっぱりゲロの原因は朝飯を食い過ぎたことだと思うんだ」
(;><)「ジョルジュの所為です……みんなもらいゲロなんです」
( ^ω^)「……思い出すと吐くから、やめようかお」
それぞれ口を濯いでから、それぞれベッドに横たわり。
ブーンが起き上がると、ビロードもジョルジュも起き上がった。
( ^ω^)「ジョルジュ、そろそろ話してもいいかお」
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( ゚∀゚)「あー、良いんじゃないか」
( ><)「……なんなんです?」
( ^ω^)「……」
戸惑うビロードを他所に、ブーンとジョルジュは今一度、頷き合った。
そして、今自分たちのいるこの場所の名前を、その名前がどういう意味かを、語り始める。
( ^ω^)「ビロード、よく聞いてほしいお」
( ><)「……」
ビロードは、静かに頷いた。
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