( ΦωΦ)おばけとかのようです

5: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:43:14.98 ID:c7AJKw4QO

ミ#,゚Д゚彡「退けゴルァ! 食わせろ!」

【#  】ゞ゚)「嫌です!」

(;ΦωΦ)「そう言いながら我輩の後ろに隠れるなオサム! ええい抱き上げるな!」

三<_フ#゚Д゚彡フ「離れろゴルァ!」ガシィィン!

<_フ#゚Д゚彡フ『猫目を返せ!』

<_フ∩#゚Д゚彡フ「ウゼェよオレンジ!」

【#  】ゞ゚)「だが断る!」

(;ΦωΦ)「取り敢えず下ろせよ!」

【#  】ゞ゚)「御館様は私が守る!」

(;ΦωΦ)「人の話は聞きませんか!?」



 ( ΦωΦ)おばけとかのようです 八墓村



9: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:45:37.21 ID:c7AJKw4QO

/ ゚、。 /「元気だな」

l从・∀・ノ!リ人「たのしそーなのじゃー」

(#゚;;-゚)「妹者さん、これは幾つですか?」

l从・∀・ノ!リ人「えっと、さんたすきゅーでー……」

/ ゚、。 /「手」

l从・∀・ノ!リ人「きゅー……じゅー……指がたりないのじゃ!」

/ ゚、。 /「まげろ」

l从・∀・ノ!リ人「! じゅー、じゅーいち、じゅーに……じゅーに!」

(#゚;;-゚)「正解です」

/ ゚、。 /「よくできました」



11: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:47:10.61 ID:c7AJKw4QO

(*‘ω‘*)「おーおー平和だっぽ……よいせ」

(*‘ω‘*)「家計簿が……うわ真っ赤」

(*‘ω‘*)「通帳も……うぇ、残高がせつねぇっぽ……」

(*‘ω‘*)「はー……」

|ー゚)゙フ

(*‘ω‘*)「人数が増えたから、家計が相当ヤベェっぽ……このままじゃ明日食う分も……」

|−゚)フ!

(*‘ω‘*)「あのババア、さっさと入金しろっぽ……いちOLの稼ぎで八人食わせるのは無茶だっぽ……」

|ミ

(*‘ω‘*)「宝くじ当たらねぇかな……あ、買ってないから無理かっぽ」



14: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:49:25.41 ID:c7AJKw4QO

( ΦωΦ)「買い物行くから留守番頼んだぞー」

(*‘ω‘*)「んじゃ行ってくるっぽー」

/ ゚、。 /「いってら」

【+  】ゞ゚)「お気をつけて、御館様! 姉上様!」


ばたん


<_プ−゚)フ「……」

(#゚;;-゚)「どうしたんですか? エクストさん」

<_プ−゚)フ「うー……」

l从・∀・ノ!リ人「何かあったのじゃー?」

<_プ−゚)フ「……さっき、ねーちゃんがな」



15: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:51:09.30 ID:c7AJKw4QO

ミ,,゚Д゚彡「あー……」

【+  】ゞ゚)「確かに、八人は……」

/ ゚、。 /……

<_プ−゚)フ「俺らに、何か出来ないかなー……」

l从・д・`ノ!リ人「ごはんたべらんないのじゃー……?」

(#゚;;-゚)「んー……あ、」

/ ゚、。 /?

(#゚;;-゚)「私の知り合いに、人間にまぎれこんで生活してる人が居るんです」

ミ,,゚Д゚彡「へー、じゃあ見た目は人間にちけぇんだな」

(#゚;;-゚)「ですから、その人にお願いしたら、私達にも出来るお仕事を紹介してくれるかもです」

<_プー゚)フ!



18: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:53:04.71 ID:c7AJKw4QO

【+  】ゞ゚)「では、その方を訪ねてみますか?」

l从・∀・ノ!リ人「おしごとなのじゃ?」

/ ゚、。 /「しごと」

ミ,,゚Д゚彡「仕事なぁ……」

(#゚;;-゚)「では明日、ロマネスクさん達が起きる前に訪ねてみましょうか?」

<_プー゚)フ「何で起きる前なんだ?」

/ ゚、。 /「しごとする、言ったら反対する」

【+  】ゞ゚)「反対なさるでしょうね」

ミ,,゚Д゚彡「起きる前に行って、起きる前に帰ってこれば良いわけだな」



19: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:55:06.94 ID:c7AJKw4QO

(#゚;;-゚)「その日はお話だけでしょうからね、じゃあ、明日の早朝に」

l从・∀・ノ!リ人「はやおきなのじゃ!」

<_プー゚)フ「猫目達には秘密だな!」

/ ゚、。 /「あ、」

【+  】ゞ゚)?

/ ゚、。 /「1ヶ月後」

l从・∀・ノ!リ人?

ミ,,゚Д゚彡「……ああ、なるほどな」

(#゚;;-゚)「あ、なるほど」

<_プー゚)フ「……ワクワクしてきた!」

(#゚;;-゚)「じゃあ、今日は早めに寝ましょうです」

l从・∀・ノ!リ人「はーいなのじゃー!」



21: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:57:05.39 ID:c7AJKw4QO


 ( ゚∋゚)ちちち、ちゅんちゅん。


( +ω+)「んー……寒い……」

( Φω+)「む……ああ、朝か……」


 ベッドの上、少し隙間の空いた布団から流れる冷たい空気。
 朝日を浴びながら上体を起こして伸びをし、あくび。
 目を擦って隣で寝ているエクストを起こし────ん?


( ΦωΦ)「エクストが居らん……先に起きたか?」


 鈴木はいつも早く起きるが、エクストは我輩と一緒に起きる。
 故に、我輩より早く起きる事は今まで無かったので、少し首を傾げた。

 部屋の中をぐるりと見ると、オサムの棺桶も見当たらない。
 みんな揃って早起きか、珍しい事もあるものだ。



25: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 18:59:19.63 ID:c7AJKw4QO

 ベッドから降りてパジャマを脱ぐと、肌が冬の空気に触れてぞわりと鳥肌が立つ。
 寒さに体を震わせながら、壁に掛けている制服に手を伸ばして着込んだ。

 背負う形の鞄と手編みの黒いマフラーと手袋を手に、自室を後にする。
 とんとん、と階段を降りてリビングに足を踏み入れた。

 エクストやオサムがこたつに入ってのんびりしているかと思えば、姿は見えない。
 そう言えば、いつもは階段を降りる時に賑やかしい声が聞こえる筈なのに、今日は聞こえなかった。
 おかしいな、とまたも首を傾げる。

 鞄とマフラー、手袋を置いて洗面所へ。
 歯磨きをしてから袖をまくり、冷たい水で顔を洗って、乾いたタオルで顔を拭く。
 蒸しタオルに手を伸ばす、が、その手は空しく冷えた台に触れるだけ。


( ΦωΦ)?


 蒸しタオルが無いとは、鈴木にしては珍しいな。忙しかったのだろうか。
 冷え冷えの頬に手をやりながらリビングに戻り、外に繋がるガラス戸を開けた。



26: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:01:18.66 ID:c7AJKw4QO

 人の気配が無い。
 サンダルを履いて外に出て、でぃや妹者の姿を探す。
 でぃが寝床にしている地面の穴に近付いて中を覗き込んでも、その姿は見付けられない。

 そのまま玄関へと回って犬小屋の中を覗くも、同じように犬の姿は無い。

 ますます、おかしい。


( ΦωΦ)? ? ?


 頭に浮かぶ疑問符。
 それと同時に、いつもそこに居るべき奴等が居ない事に対する不安が浮かんだ。

 駆け足で庭に戻り、サンダルを脱ぎ捨てて部屋に上がる。
 そして家の中を走り回って、奴等の姿を探し、名を呼んだ。

 その呼び声は次第に叫びに近くなり、家中のドアを開けて探し回って。
 それでも影すら見えない事に、焦りを産んだ。



27: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:03:02.60 ID:c7AJKw4QO

(;ΦωΦ)「エクスト! 鈴木! 妹者! 居らんのか!?」


 寒いにも拘わらずぽたりと落ちる汗。
 これが冷や汗と言う奴なのか、混乱しきっていた我輩には分からなかった。


(;ΦωΦ)「犬! でぃ! オサム! 返事くらいしろ!!」

(*‘ω‘*)「んー……うるせぇっぽ、どうしたっぽ?」

(;ΦωΦ)「ね、ねーちゃん! みんなが居らんのである!」

(*‘ω‘*)「は? 居ないって……んな訳ねぇっぽ?」

(;ΦωΦ)「実際に居らんのである! どこにも、誰も!!」

(*‘ω‘*)「取り敢えず落ち着けっぽ弟、もしかしたらみんなでどっか出掛けてんのかも知れねぇっぽ」

(;ΦωΦ)「しかし今までそんな事なかったのである! 出て行くならば書き置きの一つくらいあってもおかしくないのである!!」

(*‘ω‘*)「落ち着けって言わなかったっぽ? 深呼吸して、まずは落ち着けっぽ」

(;ΦωΦ)「あ……あぁ、すまんのである……」



30: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:05:10.90 ID:c7AJKw4QO

 眠そうに部屋から出てきた姉は、取り乱す我輩の姿に目が覚めたのか、我輩の両肩を掴んで顔を覗き込む。
 冷静さを持った目で睨むように見つめられ、我輩は肩を落として深呼吸をした。

 奥歯がかちかちと震え、冷静とは言えない状態ではあるが、何とか落ち着かせる。
 汗を垂らしたまま姉を見下ろし、何かを訴える。
 けれど我輩自身、何を訴えたいのか分からない。
 未だ混乱している我輩から手を離し、姉は台所へと歩いて行った。


(;ΦωΦ)「ね……ねーちゃん……」

(*‘ω‘*)「多少は落ち着いたみたいっぽ、ほら、茶あ飲めっぽ」

(;ΦωΦ)「あぁ……ありがとう、である」


 湯気がゆらゆらと立ち上る湯飲みを台所のテーブルに置き、姉は寝巻きのまま椅子に腰掛ける。
 我輩もそれに続いて、椅子に座って湯飲みを両手で握った。

 その暖かさに、少しだけほっとする。



31: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:07:09.98 ID:c7AJKw4QO

( ΦωΦ)「ねーちゃん、時間は大丈夫なのであるか?」

(*‘ω‘*)「今日は昼からだっぽ」

( ΦωΦ)「そう、か……」


 頬杖をついて我輩を見るねーちゃん。
 その視線を浴びながら、空っぽの胃に熱いお茶をゆっくりと流し込んで行く。

 ほう、と息を吐くと、残っていた混乱も少しずつ引いていった。
 やっとこさ落ち着いた我輩は、壁に掛けられている時計を見上げて時間を確認する。

 時間はもう朝の八時を回っており、いい加減家を出ねば遅刻する時間帯。
 お茶を飲み終えた我輩は席を立ち、リビングに。

 手袋をはめてマフラーを巻き、鞄を背負う。
 そのまま玄関まで足を運ぶと、カーディガンを羽織った姉が一緒に出てきた。


(*‘ω‘*)「何も居なくなったって決まった訳じゃねぇっぽ、だから落ち着いて、学校行ってこいっぽ」

( ΦωΦ)「うむ……把握である……行ってきます」

(*‘ω‘*)「行ってらっしゃいっぽ」



35: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:09:06.54 ID:c7AJKw4QO

 珍しく姉に見送られ、我輩は家を後にする。
 冷たく、きんとはりつめた空気が身を包んだ。

 何故、居ないのだろう。
 何故、居なくなったのだろう。

 人外達を思い出しながら、脳に巡るのはこの事ばかり。

 我が家に居る事が嫌になったのだろうか、それならば、一言くれれば良かったのに。
 嫌だと言うならば引き留めず、感謝をのべて送り出した。

 それとも、挨拶すらしたくなかったのか。
 いや、それは無いと思いたい。
 皆に嫌われてはいなかった筈、嫌われては、いなかった筈。

 我輩と同じように好いて居たと思うのは、間違っているのだろうか。
 我輩の一方的な勘違いだったのだろうか。
 それとも、あれらはみんな、夢だったのか。


( ΦωΦ)「……はぁ」


 いつの間にか着いていた学校、ぼんやりと靴を履き替えて教室に向かい、ため息混じりに席へと。



38: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:11:12.87 ID:c7AJKw4QO

 何時もと同じように友人と話し、授業を受け、ノートに文字列をだらだらと書いては、ため息。
 半ば上の空の状態で過ごしていると、鳴り響くチャイムの音。

 教師が簡単な挨拶を済ませて教室から出て行き、生徒達は席を立ったり、鞄から弁当を取り出したりしている。

 ああ、もう昼休みか。
 あっという間だな、とぼんやり椅子に座っていると、友人が弁当と椅子を持って近づいてきた。


( ^ω^)「杉浦ー昼飯だおー!」

('A`)「ん? 弁当どうしたんだ? 杉浦」

( ΦωΦ)「ん、あぁ……今日は、無いのである」

('A`)「無いって……珍しいな、鈴木と喧嘩でもしたか?」

( ΦωΦ)「いや……購買で、パン買ってくるのである」



39: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:13:13.54 ID:c7AJKw4QO

 席を立ち、財布を持って不思議そうに首を傾げる友人に背を向ける。
 その喧嘩をする相手が居なくなったのだとは、何故か言えなかった。

 しかし、皆が人外達を覚えていると言う事は、夢ではなかったと言う事。
 それに対して喜ぶべきか、悲しむべきか。
 やはり、我輩には分からなかった。



 生徒達にもみくちゃにされながら購入した菓子パンと牛乳を、胃の中に押し込む。
 味は、分からない。
 それでも、余り美味いと感じない事だけは分かる。

 そうして思い知らされるのは、我輩が毎日、いかに美味い弁当を作ってもらって居たかと言う事。

 鈴木が拵える弁当は、冷たくなっても美味しくて、栄養のバランスや好きな物を考えてあって。

 ああ、鈴木の飯が、食いたいな。

 たった一日、弁当が無いだけでそう思えてしまう。
 鈴木が来るまでは毎日、自分で作った弁当であったり菓子パンであったりした筈なのに。
 いつの間にか、こんなにも舌が肥えてしまった。

 ツンツンと冷たくされる事も少なくはなかったが、それでも毎日、我輩の代わりに家事をして料理を作ってくれていた鈴木。
 ちゃんと、感謝と礼をしておけばよかった。



41: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:15:08.35 ID:c7AJKw4QO

 その後も始終上の空で授業を終え、あっという間に夕方の下校時間。
 友人と別れて一人歩く帰り道、ポケットに両手を突っ込んで空を見上げた。

 うっすらオレンジの空には雲がぷかぷかと浮かんでいるだけ。
 なんとなくエクストを思い出し、心なしか、胸が痛んだ。

 帰ってこないと決まったわけではない。
 けれど、胸いっぱいに広がる不安は、消える事はないのだ。



 がちゃ、かちゃん。

 玄関の鍵を開けて、ドアノブを握り、深呼吸。
 ゆっくりとドアを開けて我が家に足を踏み入れると、不安を胸にしたまま、口を開く。


( ΦωΦ)「……ただいまで、ある」


 しんとした家の中に、空しく響いて、消えてゆく。
 もしかしたら帰ってるかも、とほのかに期待していた我輩の胸に、またぢくぢくと痛みが走った。



43: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:17:23.38 ID:c7AJKw4QO

 ドアと鍵を締めて靴を脱ぎ、家に上がる。

 誰も居ない家に帰るのも久し振りで、何だか、妙に寂しさを感じる。
 いつもなら妹者なんかが出迎えてくれ、飛び付いてきたりしていたのに。

 天真爛漫と言うか、ひどく子供らしいあの声や姿を感じられないと言う事は、意外にも、堪える。


( +ω+)「……」


 独り言を呟く気分にもなれず、マフラーを外しながら階段を上る。
 自室のドアを開けて鞄を下ろし、マフラーと手袋をその上に乗せた。

 制服を脱いでハンガーに掛け、肌着姿で箪笥から部屋着を取り出す。

 黒い薄手のセーターとジーンズを取り出して着込んでいると、ふと思い出すのは、冷たい手。



46: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:19:09.31 ID:c7AJKw4QO

 我輩が帰宅して着替えていると、お疲れ様ですとか何とか言って、冷えきった指先で裸の肩を揉んでくるオサムの手。
 毎日の様に寒いだ冷たいだと肌を粟立てながら騒いでいたのだが、それでも譲らずにやたらとマッサージをして来た。

 ああ、指先がきんきんに冷えていても構わないから、何時ものように、


( ΦωΦ)「……家事、するか」


 続き掛けていた思考を無理矢理止めて、部屋を出る。
 暗くなり始めたリビングの電気をつけて脱衣所に向かい、洗濯物をカゴに詰め込んだ。

 そう言えば、オサムや犬が我輩の服を着ていたから少し洗濯物が多い。
 我輩より背が高いのに無理をして着るから、寒そうだったな。

 カゴを持ってリビングのガラス戸を開け、外に出る。
 今から干したのでは乾かないだろうなと思いつつも、余り考えず、
 洗濯物をハンガーに掛け、物干し台に引っ掛けて行く。



47: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:21:05.77 ID:c7AJKw4QO

 何時もは鈴木が干してくれていた洗濯物。
 取り込むのは我輩の仕事で、よくでぃと話しながら取り込んでいた。

 話す内容は大して意味もない日常会話ばかり。
 冬にも咲く花だとか、寒いから腐敗が遅いだとか。
 庭いじりが好きなでぃには、よく花の話しなんかを聞いたものだ。

 でぃとの会話は他の奴等に比べると穏やかで、平和で。
 取り立てて珍しい事なんかを話しはしなかったが、その普通さに落ち着いた。

 たまにモララーとののろけ話を聞かされたりもしたが、色恋沙汰には疎い我輩には、少し珍しく思えたのを覚えている。


( ΦωΦ)「……ふぅ」


 洗濯物を干し終え、リビングに戻ってガラス戸を閉める。
 カゴを脱衣所に置いてくると、今度は台所へと向かった。

 買い物用の鞄と食費用の財布をポケットにねじ込み、冷蔵庫を開けて中を確認する。



50: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:23:27.05 ID:c7AJKw4QO

 野菜が少し、肉も少し。
 白菜が半分残っているので、これを使おう。

 冷蔵庫のドアを閉めて、玄関へと足を向ける。
 玄関で靴を履いてドアを開ければ、朝よりも冷たくなった空気がざわざわと我輩の頬を撫でた。

 外へ出て玄関の鍵を掛け、歩き出す。
 視界の端に入った赤い屋根の犬小屋に、何度目かも分からぬため息を溢した。

 幼い頃に飼っていたビーグル、その小屋を引っ張り出して来て修理し、犬の小屋にした犬小屋。
 本来は犬ではなく狼である犬には少し狭かった様だが、意外にも大して嫌がらずに入っていたな。
 鎖も首輪もビーグルのお下がりで窮屈そうではあったものの、犬は大人しく犬としての扱いを受け入れていた。

 狼男だ何だと噛みついていた癖に、変に聞き分けの良い奴だった。
 ぎゃんぎゃんと喧しい奴だったが、否、だからこそ、居なくなれば寂しいもので。


( ΦωΦ)「……名前くらい、呼んでやれば、よかったか……」



52: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:25:22.67 ID:c7AJKw4QO

 あれこれと考えながら俯いて歩いていれば、時間の流れは早く感じる。
 気が付けば辿り着いていたスーパーに入り、カゴを片手に夕飯の材料を求めて歩く。

 鶏肉、つくね、野菜、白滝、豆腐、あぶらげ。
 ろくに考えずにカゴの中に材料を入れて行き、最後に袋入りのみかんをカゴに入れて、レジに並んだ。
 さくさく会計を済ませ、サッカー台で買った物を持参した袋に詰める。

 そうして片手にずっしりとした重みを感じながら、再び帰路に就いた。



 誰に言うでもないただいまを呟いて帰宅した我輩は、やたらと静かな家の中、半ば無意識の内に台所に立っていた。

 料理をするのは久し振りだな、等と思うと同時に、いつも鈴木に押し付けていて申し訳なかったと後悔する。
 今さら後悔したところで遅いのかも知れないが、それでも思わずには居られなくて。

 とんとんとん、包丁の音は好きな筈なのに、今は妙に寂しく感じる。
 しゅんしゅん、とお湯が沸く音すら寂しくて、我輩は自分の弱さに、またもため息をついた。

 たった一日一人になっただけで、こうも孤独を感じるとは。
 しかしいつも賑やかな家に静けさが訪れると、誰しもがこうなるのかも知れない。

 賑やかで、喧しくて、明るくて、いろんな声や音が聞こえていた家の中には
 今は、火や包丁の音、我輩が発する微かな呼吸音くらいしか聞こえない。

 ああ、誰かと、話したい。



53: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:27:04.27 ID:c7AJKw4QO

 何だかんだで我輩のあとをくっついて回っていたオレンジ色のおばけ。
 エクストは人外の中で、一番長く我輩と一緒に居た。
 あの少年の様な高い声で、大声でバカな事を言っていたエクストすら、今は居ない。

 耳に入る事が当たり前になっていた声が途絶えた。
 そう思うと無性に切なくて、包丁を握る手に、余計な力がこもる。


 ぷるるるる。


( ΦωΦ)「……ん、電話か」


 包丁を置いてリビングにある電話の元まで移動すると、がちゃり、受話器を持ち上げ、耳にあてた。



54: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:29:40.44 ID:c7AJKw4QO

( ΦωΦ)「はいもしもし、杉浦である」

 『弟ー、姉だっぽ』

( ΦωΦ)「む? どうしたのだ、ねーちゃん」

 『今日残業が入ったから遅くなるっぽ、晩飯食ってくるから待たなくて良いっぽ』

( ΦωΦ)「うむ、把握したのである。気を付けて帰って来るように」

 『おう、戸締まりちゃんとして暖かくしとけっぽ。んじゃー』


 電話が切れ、そっと受話器を元の位置に戻すと再び台所へ。
 ねーちゃんが遅くなるらしく、夕飯は一人だけ。
 一人飯と言うのも久々だな、と夕飯の準備の続きに取りかかった。



57: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:31:15.47 ID:c7AJKw4QO

 こたつの上には、一人分には見えない大量の鍋。
 くつくつと湯気を立ち上らせるその中には、様々な野菜や肉、豆腐や白滝が煮込まれている。


( ΦωΦ)「……一人分の飯の作り方を、忘れてしまったな……」


 つい出してしまった多人数分の食器を机の端に押しやって、はふはふと白菜を口に運ぶ。
 味は悪くない筈なのに、味気ない。

 ほぼ無音に近い状態で食べる夕飯は、どうしようもなく切なかった。


 一人で食べる夕飯は慣れていた筈なのに、何故、こうも一人が苦しいのか。

 何時も何時も、大騒ぎされては迷惑をかけられていた筈なのに、静かな事を喜んでもおかしくない筈なのに、
 何故に、こうも寂しいのか。


 ごく、と無理矢理に口の中の物を飲み下し、箸の動きを止めて、項垂れた。

 帰ってくるなら早く帰ってこい。
 貴様らのせいで、一人で居る事がこんなにも、こんなにも苦手になってしまったではないか。



59: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:33:15.64 ID:c7AJKw4QO

 大して食べる事もなく食事を終わらせた我輩は、残った鍋に蓋をして台所のコンロに置き、後片付けを済ませた。

 庭に洗濯物を取り込みに出るも、洗濯物は全て生乾き。
 片っ端から取り込んで、脱衣所にある乾燥機に詰め込んだ。

 自室へ着替えを取りに行ってから脱衣所に戻ると、服を脱いで洗濯機に入れ、風呂場へと。
 ゆっくりとお湯に浸かる気にはなれず、体や頭を洗い歯を磨いた後は、熱いシャワーのみで風呂を済ませる。


( ΦωΦ)「……はぁ」


 もう回数を数えようとも思わぬ溜め息は無意識の内にこぼれ落ち、タオルで頭を拭きながら自室へと戻って行く。
 冷えた廊下が暖まった爪先の温度を奪い、自室に入る頃には、足は冷えきっていた。

 カーペットの敷かれた部屋の真ん中に行くと、ぺたんと座り込んでベッドの側面に背中を預ける。
 少しだけ暖かい背中に、何故かほっとした。



61: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:35:12.41 ID:c7AJKw4QO

 頭の中をぐるぐるするのは人外の事ばかり。
 ちゃんと飯は食えているか、寒い思いはしていないか、事故にあったりはしていないか。

 不安や心配や寂しさが、一緒くたになって襲ってくる。
 ベッドの上から枕を下ろすと、枕を両腕で強く抱きながら三角座り。

 布団や枕しか暖かくなれそうな物が存在しない、殺風景な我輩の部屋。
 一人で居るには、少しばかり広く感じた。


 ふと、枕を置いて四つん這いになり、クローゼットの前に移動する。
 がたん、と扉を開けて中を探れば、指先に当たる大きな箱。
 それを両手で掴んで、ずりずり後退しながら引きずり出す。

 部屋の真ん中に置かれた、大きな段ボール箱。
 その側面には、黒いマジックで書かれた『手芸部、杉浦』のかすれた文字。


( ΦωΦ)「……久しぶりに、何か作るか」



62: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:37:04.89 ID:c7AJKw4QO

 料理研究部と掛け持ちをしていた手芸部、その頃に使っていた裁縫道具や色とりどりの布の山。
 手芸は高校入学と同時に止めてしまっていたが、今なら寂しさをまぎらわせる為にもやって良いかも知れん。

 段ボール箱から裁縫箱と数枚の布、綿を取り出す。
 そして立ち上がって学習机の前に座ると、引き出しから白い紙と筆記用具を出し、型紙を描き始めた。

 ずいぶん久しぶりな作業ではあるが、昔とった杵柄とでも言うのか、慣れたもの。

 思ったよりも手間取る事もなく描かれる、何枚もの型紙。
 白い紙に様々な形の線を踊らせる、その作業は、思いの外没頭出来た。


( +ω+)「んー……うぐぐ、肩が凝る……」

( ΦωΦ)「む、もう十時か……そろそろ寝るかな」


 懐かしいとも言える作業は、あっという間に時間を奪う。
 すっかり冷えた体に軽く肩を震わせて、ペンを置いて椅子から立つ。

 ぐぐ、と伸びをするとそのまま部屋の電気を消して、枕を片手にベッドに潜り込んだ。


 妙に広いベッドの中に少し眉を寄せたが、もう何も考えるまい、と目を瞑る。
 ゆっくりゆっくり、冷たい睡魔が我輩の頭を痺れさせていった。



64: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:39:10.30 ID:c7AJKw4QO


 型紙の束が出来上がる頃には、時間は流れ、人外達が居なくなって数日が経っていた。
 探そうにもどこを探せば良いか分からず、待つにも孤独が重すぎて。
 我輩は現実から逃避するように、毎日、針と糸をせっせと動かしていた。

 学校の授業は集中出来るから、逆に頑張れた。
 いつもよりも力を入れて受ける授業、昼食の時も参考書を見ながら食事をする我輩の姿は、異様だったのだろうか。

 ある日の昼休み、友人達が我輩に声をかけてきた。


( ^ω^)「杉浦……どうしたんだお?」

( ΦωΦ)「……あ、何が、だ?」

('A`)「最近、調子悪そうだぞ」

( ΦωΦ)「いや、そんな事は……」

( ^ω^)「……エクスト、見なくなったおね、毎日ついてきてたのに」

('A`;)「おい内藤っ!」



67: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:41:54.57 ID:c7AJKw4QO

( ΦωΦ)「……」

( ^ω^)「杉浦」

( ΦωΦ)「何で、あるか」

( ^ω^)「僕らだって杉浦の友達だお、何かあったなら相談くらい乗らせろお、話くらいは聞かせろお」

( ΦωΦ)「あ、」

( ^ω^)「僕らはそんなに頼りないかお? 何も言えないほど信用できないのかお? それとも、言いづらいほど深刻な事なのかお?」

( ΦωΦ)「……すまん内藤、ドクオ」

('A`)「杉浦……」

( ・∀・)「僕も居るからね」

( ΦωΦ)「ああ、ありがとう、モララー」

( ^ω^)「……聞かせてもらえる、かお?」

( ΦωΦ)「……ああ、勿論だ」



70: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:43:11.14 ID:c7AJKw4QO

 親しい友人に言われて、やっと、我輩は端から見てもおかしかったのだと気付いた。
 そして、友人達に心配をかける前に相談すれば良かったと、後悔する。

 我輩の机のまわりに寄ってきた三人の友人の顔を見回して、ゆっくり、口を開く。
 ある日突然人外達が居なくなった事、妙に寂しい事。
 思っていた事すべてをゆっくり吐き出せば、みんなは少し困った顔をした。


( ・∀・)「そっか……でぃちゃんから連絡来ないと思ったら、居なくなってたんだ」

( ΦωΦ)「……うむ」

('A`)「でもよ、一言も無しに居なくなるなんて、その……何か、ひどい気がするな」

( ^ω^)「まあ待ておドクオ、何か理由があったのかも知れないお」

('A`)「うん……俺も、んなの信じたくないし、そんな奴等じゃないと思うし」



73: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:45:06.24 ID:c7AJKw4QO

( ΦωΦ)「……モララー、」

( ・∀・)「僕は平気、でぃちゃんは帰ってくるよ」

( ^ω^)「愛かお?」

( ・∀・)「うん」

(#゚A゚)

(・∀・;)「怖いから」

( ^ω^)「とにかく、僕もみんな帰ってくると信じるお! みんなはそんな礼儀知らずな奴じゃないお!」

('A`)「ま、何か理由があるんだろうな、寂しかったら遊びに行くぞ? ん?」

( ・∀・)「なんなら泊まりに行くのもアリだよね、お泊まり会」

( ^ω^)「おっ、みんなでモンハンとお菓子持って杉浦んちに突撃かお?」

('A`)「良いなそれ、あったかい飯食いてぇし」

( ・∀・)「ね、杉浦、今度みんなで遊ぼうか?」

( ΦωΦ)「う、うむ、いつでも来い」



74: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:47:09.38 ID:c7AJKw4QO

 ああ、こいつら良い奴等だなあ。

 本当に友人に恵まれた。
 そう思うと、目頭がじわりと熱くなった。

 我輩をおいてけぼりにして、どこで寝るだの何をするだのと楽しそうに相談し合う友人達。
 胸の辺りでもわもわしていた寂しさが、ずいぶんスッキリするのを感じた。

 持つべきものは親友達。
 本当に、感謝してもしきれない思いで一杯である。


 その日を境にみんなはちょくちょく我輩の家に来ては、遊んだり駄弁ったりして、飯を食って帰って行くようになった。
 残念な事にみんなの予定があわず、お泊まり会とやらは出来ていないが。
 それでも、我輩の寂しさやらはずいぶん軽減された。


 その分、みんなが帰った後の孤独が、強くなるのだが。



77: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:49:05.91 ID:c7AJKw4QO


 柔らかい布で出来たぬいぐるみ、厚紙に布をはって作った棺桶を一緒にして、リビングのソファに。
 出来上がったオサムの人形を見て、眉尻が下がるのが分かった。

 我輩の手元には、完成間近のでぃのぬいぐるみ。
 白いワンピースをその肩に縫い付けて、糸を結び、切る。

 二つ目の、20cmほどのぬいぐるみが出来上がり、そっとソファに置いた。
 ソファに二つ並ぶ人形にため息をついて、三つ目の人形に取りかかった。


 友人達が居る時は感じない寂しさが、みんなが帰る時、一気に押し寄せる。
 その寂しさをまぎらわす為に布を切っては縫い合わせ、綿を詰めて、また縫う。

 その作業は没頭出来、楽しくはあるのだが
 その反面、ひどく、虚しい。

 人外達が居なくなって一週間は経つだろうか。
 少しずつ一人に慣れては来たが、やはり寂しいものは寂しい。

 型紙に合わせて布を切っていた手を止め、裁縫道具を仕舞う。
 それらを持って立ち上がると、我輩は自室へと戻っていった。


 リビングは流石に、一人では広すぎる。



78: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:51:15.29 ID:c7AJKw4QO

─ (*‘ω‘*) ─


(*‘ω‘*)「……」

( ΦωΦ)「む、ねーちゃんおはようである」

(*‘ω‘*)「おーおはよっぽ弟、今日も元気に学校行きやがれっぽ」

( ΦωΦ)「うむ、ねーちゃんもお仕事頑張れである」

(*‘ω‘*)「おうよ」

( ΦωΦ)「じゃ、行ってきまーす」

(*‘ω‘*)「いてらー」


 日直らしい弟は、いつもより早く家を出た。
 スーツに着替えた私は化粧と身支度を済ませ、自分で淹れた茶を飲みながらソファに腰かける。

 私の隣には三つの人形が並んでいて、それらは我が家に居た吸血鬼、ゾンビ、狼男の姿をしている。

 人形を作る弟の背中はひどく寂しそうで、見ているのが、苦しかった。



80: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:53:09.99 ID:c7AJKw4QO

 茶を飲み終えた私は立ち上がり、湯飲みを置くと鞄を掴んで玄関に向かった。
 玄関に置いてあった薄茶のコートとマフラーを身に付けると、黒い飾り気のないハイヒールに足を突っ込む。
 ドアを開けて外に出て、ドアに鍵を掛けて歩き出した。

 今日は上司について契約先の遊園地やらに行く日。
 この胸にわだかまる変な気持ちを表に出さないように、仕事をしなければ。


 頭のはしっこに引っ掛かり続ける人外達の顔と、弟の背中。

 人外達への心配なんかももちろんあるのだが、それよりも
 それよりも、弟の寂しそうな顔、背中。

 それらを思い出せば、心配よりも憤りが勝ろうとする。
 弟に心配かけさせて、寂しがらせて、音沙汰もなくて。

 ああ、私はなんてブラコンなんだろう。
 結婚できない訳だ。



82: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:55:14.79 ID:c7AJKw4QO

  _
( ゚∀゚)「はい、それじゃあお願いします」

(,,゚Д゚)「こちらこそ、よろしくお願いします」


  _
( ゚∀゚)「いやー契約もうまく行ってるし、万々歳だねぽっぽ君」

(*‘ω‘*)「そうっぽね」
  _
( ゚∀゚)「そういやねぽっぽ君、ここのお化け屋敷は最近評判良いらしいよ」

(*‘ω‘*)「へー」
  _
( ゚∀゚)「糸も無しに物が飛ぶやら動くやら、いやあ一回行ってみたいね」

(*‘ω‘*)「……」
  _
( ゚∀゚)「良かったらぽっぽ君、今度二人で入ってみない? いや別に驚いたぽっぽ君が抱きついてきて腕におっぱい当たったら良いなあなんて思ってる訳じゃなくて」

(*‘ω‘*)「昼直帰するっぽ、あとよろしく」
  _
( ゚∀゚)「やっぱね、歳くってもこう言うときめくイベント的な物はこう、下半身に……あれ、ぽっぽ君? ぽっぽくーん? 消えた……!?」



85: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:57:15.54 ID:c7AJKw4QO

 糸も無しに物が飛ぶやら動くやら。

 それを聞いた時、脳裏に浮かんだのはオレンジ色の奴の姿。
 物を浮かせて動かす事が出来る様になった、エクスト。

 そんな事は無いだろうと思いながらも、私の足はお化け屋敷へと動いていた。
 案内板で場所を確認しながら駆け足で向かえば、遊園地の片隅に見つけたお化け屋敷。

 おどろおどろしい外観のそこを見て、私は口の中に溜まった、固い唾液を飲み込んだ。
 心臓がどくどく喧しく鳴るのに僅かに苛立ち、胸を押さえてお化け屋敷の裏に回った。

 居るわけがない。
 けれど、もし居たら。

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた裏口のドアをそっと開け、身を滑り込ませる。
 薄暗くはあるが、恐らく店内よりは明るいスタッフルーム。
 従業員達の会話がこそりと耳に舞い込むと、その中に、聞き覚えのある声を見つけた。



86: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 19:59:13.71 ID:c7AJKw4QO

(,,゚Д゚)「お前が来てからお化け屋敷も繁盛して、ありがたいぜ」

<_プー゚)フ「俺、役に立ってるのか?」

(,,゚Д゚)「おう、役に立ちまくりじゃねぇか」

<_プー゚)フ「じゃあ給料いっぱいくれ!」

(,,゚Д゚)「社長に言っといてやるよ」

<_プー゚)フ「よっしゃー!」


 見つけてしまった、オレンジ色のおばけ。

 従業員と楽しげに話すその姿に奥歯を噛み締め、拳を握る。
 エクストと話していた従業員が奥に姿を消した時、ちらり、とこちらを見るおばけ。

 目が合った。



91: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 20:01:36.29 ID:c7AJKw4QO

 私と目が合ったおばけは目を真ん丸にして、慌てて奥へと逃げようとする。

 一歩踏み出した私は、怒りに任せて、


(#*‘ω‘*)「逃げるなドマンジュウがぁあっ!!」

<_フ;゚д゚)フ「ひっ!!」


 目一杯に怒鳴った私に驚き、おばけはびくんと跳ねて動きを止めた。
 そしてゆっくりこちらを向いたおばけは、ばつの悪そうな顔をして私を見る。
 うろうろと視線をあちらこちらに動かして、おばけは居心地悪そうに向かい合った。


(#*‘ω‘*)「聞かせてもらうっぽ、いきなり我が家から消えた理由」

<_プ−゚)フ「……」

(#*‘ω‘*)「……うちが嫌ならさっさと言えっぽ! 一言あれば引き留めずに送り出したっぽ!! 何も言わずに消えるのは最低だっぽバカ野郎ッ!!」

<_フ;゚−゚)フ「ち、違う! 嫌なんじゃない!」

(#*‘ω‘*)「じゃあ何だっぽ! ある日突然全員消えて! 書き置きすらなくて! ロマネスクがどんな思いだったか、お前らに分かるのかっぽ!!」

<_フ;゚−゚)フ「あ……」



93: ◆tYDPzDQgtA :2008/12/14(日) 20:03:27.89 ID:c7AJKw4QO

(#*‘ω‘*)「話があるならちゃんと聞くっぽ、その代わりなドマンジュウ、もしロマネスクに何も言わないなら、このまま消えるのなら、私はお前もあいつらも、絶対に許さないっぽ」

<_フ;゚−゚)フ「消えない! 俺もみんなも消えない! ただ金稼いでるだけなんだ!」

(#*‘ω‘*)「金……?」


 泣きそうな顔で弁解するおばけの口からこぼれた、金と言う言葉。
 それは何だか、おばけとは不似合いな現実味のある言葉で。

 私は、背中が少し冷たくなるのが分かった。
 まさか、と、そうとは思いたくはない理由を考えて。


<_フ;゚−゚)フ「そ、その、俺らいっぱい飯食うから……」

(*‘ω‘*)「……まさかお前、私が通帳と家計簿見てたの」

<_フ;゚−゚)フ「……見てたし、聞いてた」

(*‘ω‘*)「…………ああ、もう……」



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