( ・∀・)観察者のようですζ(゚ー゚*ζ
- 16: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:19:47.88 ID:QKSHiEFPP
- その日は、とても蒸し暑い日だった。
人々は避暑地の別荘へと移住し、暑さをしのごうとする。
たった今車から降りてきた若者たちも、その類のような雰囲気を醸し出していた。
( ^ω^) 「いやー、ここも久しぶりだお」
川 ゚ -゚) 「やはりここは都心と違って、涼しいな」
(´・ω・`) 「ほら、早くおいでよ」
ξ゚听)ξ 「……うん」
しかし、彼らの前に聳え立つ、恐らく誰かの別荘であろう建物は、異様な雰囲気に包まれていた。
蔦は絡み放題となっていて、窓は埃で白く曇っている。長年、使われていない屋敷のようだ。
崖の上に立っている姿は荘厳だが、とてもバカンスを楽しみにきた若者が利用するような建物には見えなかった。
- 17: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:22:37.46 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「ここも随分寂びれたお……」
少々丸顔の内藤ホライゾンが、屋敷の外壁を撫でながら言う。
彼は仲間内ではブーンと呼ばれることがほとんどで、それが本名であるかのようになっている。
川 ゚ -゚) 「ここ数年、人の出入りもなければ、自然とそうなるだろうな」
艶やかな長い黒髪を風に靡かせたクーが、論理に従った返事をする。
(´・ω・`) 「……自然と、かぁ。それにしては、緩やか過ぎる気がしないわけでもないよね」
眉尻の下がった、地味な風貌をしたショボンが言う。
彼は少々弱気なところがあるが、頭はよく切れると仲間内で認識されていた。
ξ゚听)ξ 「ねぇ、本当に入るの?」
色の抜けた栗色の髪を丁寧に巻いているツンが、語調に若干の怯えを含みながら言う。
彼ら四人は同じ大学のサークル仲間であった。
- 18: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:24:30.53 ID:QKSHiEFPP
- 屋敷に入ることに、ツンが若干の抵抗を示しているのには、理由があった。
それは、今回彼らが夏休みを利用してわざわざこのような寂れた屋敷を訪れた目的と関わってくる。
彼らは以前、ここを利用していた経緯がある。
それというのも、この屋敷は実家が金持ちであるショボンの所有物であり、
大学の夏休みが訪れるたびに、ショボンが一番仲の良い彼らをここへ誘っていたからだ。
( ^ω^) 「まさか、今年もここへ来ることになるとは思ってもみなかったお」
川 ゚ -゚) 「……私もだ」
しかし、その恒例行事は大学三回生の夏まで続き、そこで終わった。
理由は至って簡単である。
大学三回生の夏、この屋敷で仲間の内の一人が死んだのだ。
当時、彼らのグループは六人で構成されていた。
今いる四人に加え、ドクオという青年と、しぃという女性がいた。
- 20: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:27:35.92 ID:QKSHiEFPP
- 死んだのは、ドクオのほうだった。
ドクオは屋敷の二階から飛び降り、崖の下の荒波に飲まれ死んだ。
残りの五人は、友人を失ったというショックから立ち直れないまま、警察から厳しい事情聴取を受けた。
結局、自殺と断定されたのだが。
ξ゚听)ξ 「あんな悲しいことがあったのに、普通は来ようと思わないわ」
( ^ω^) 「ドクオは自殺するようなやつでは無かったお。今でも、そう思うお」
川 ゚ -゚) 「……そうだな。しかしあの出来事以来、私たちの関係はギクシャクしたままだ」
(´・ω・`) 「それはきっと、誰もが思っただろうからね。……誰かが、ドクオを殺したんじゃないかって」
そしてショボンは小さな声でつけくわえる。
「僕は今でもそう思っているよ」、と。
- 21: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:30:02.19 ID:QKSHiEFPP
- 四人の間には、不穏な空気が流れていた。
それは恐らく、ショボン以外にも同じ考えをもっている人間がいるからだろう。
( ^ω^) 「ドクオはみんなから好かれていたお。だから、僕らの内の誰かが殺すなんてありえないお」
ドクオは普段から本ばかり読んでいて、あまり明るい性格ではなかった。
しかし、誰に対しても優しく接し、相談事などもすすんで受け入れる。
我が強い面々の中で、ドクオのような性格の人間が好まれるのは自然なことである。
川 ゚ -゚) 「しかし、やはり自殺も納得いかない。彼は常々、小説家になりたいと夢を語っていたからな」
(´・ω・`) 「ああ、彼女ともうまくいっていたのに……」
そこでショボンが「しまった」というような表情をして、言葉を切った。
ショボンが言おうとしていたことは、今彼らの間ではタブーであった。
ドクオの彼女、しぃの話は。
- 22: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:32:37.38 ID:QKSHiEFPP
- しぃは、あまり気丈な女性では無い。
体の面というよりは、心の面で度々不安定になることが多かった。
そんな彼女がドクオが死んだ直後、大量の睡眠薬を飲んだ。
命に別状は無かったものの、精神的に問題があるとして彼女は入院した。
彼らの内、そんなしぃをケアできるものはいない。
だからこそ、しぃの話題が出ると空気が重くなる。
川 ゚ -゚) 「それら全てを含め、今回の旅で整理するんじゃなかったのか?」
沈黙を破ったのは、クーだった。
( ^ω^) 「……そうだお」
ブーンもそれに相槌を打つ。
そう、クーの言った通り、今回の旅の目的は、今までの出来事に対する気持ちの整理をすることであった。
- 23: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:34:22.92 ID:QKSHiEFPP
- それは、言うならば「御払い」のような儀式的なものだろうか。
ドクオの死、しぃの病気。
それらを経て、なにも解決しないまま一年を過ごしてしまった彼らなりのけじめ。
せめて、大学を卒業してバラバラになる前に。
(´・ω・`) 「そろそろ、入らないかい?」
ショボンが少し眉を吊り上げる。彼なりの決心の表れなのだろう。
ξ゚听)ξ 「……そうね」
ツンがそれに続くと、後の二人も黙ってうなずいた。
そして彼らは、屋敷の中へと足を踏み入れていった。
- 24: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:36:39.39 ID:QKSHiEFPP
- 屋敷の中は、真っ暗だった。
今日の空は雲に覆われているということもあるのだろうが、それにしても暗い。
入るとまず、赤絨毯の敷かれた長い廊下を進んでいく。
廊下には一定間隔で火の灯っていない燭台が設置されていて、その周囲には蜘蛛の巣が張り巡らされ、それとなしに陰気な印象を受ける。
(´・ω・`) 「思ったより暗いね。良かった、懐中電灯を持ってきておいて」
そう言うと、ショボンは腰のポーチから大きな懐中電灯を取り出した。
試しにそれを付けてみるが、視界はだいぶ良くなっている。
川 ゚ -゚) 「少々、不気味だな」
ξ゚听)ξ 「怖い……」
懐中電灯を持ったショボンを先頭に、クー、ツン、ブーンと一直線に並んで歩く。
彼らは充分この屋敷の構造を理解しているのだが、あまりの不気味さに単独行動しようとするものはいないようだった。
- 25: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:38:46.84 ID:QKSHiEFPP
- やがて大広間に出ると、まるで彼らを待っていたかのように、縦に長い木製テーブルと、それを囲むように設置された六つの椅子があった。
以前から設置されていたものとはいえ、不気味であることには違いない。
クーが自然と椅子に腰をおろす。後の三人もそれに従う。
テーブルの中央にはやはり燭台があり、ショボンがポケットから取り出したライターでそれに明かりを灯した。
(´・ω・`) 「雰囲気作りだよ、雰囲気作り。ふふ」
(;^ω^) 「なんでちょっと楽しんでるんだお……」
ξ゚听)ξ 「……悪趣味」
川 ゚ -゚) 「いや、ドクオがここにいたらきっと同じことをしていだろう」
ξ゚听)ξ 「ちょっと、クー」
- 26: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:41:32.42 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「いつも言ってたね。物書きになるには、不謹慎なユーモアが大切だって」
( ^ω^) 「実際、ドクオが書いた小説はなかなか面白かったお」
ξ゚听)ξ 「……もう」
川 ゚ -゚) 「私も一度読んだが、夢中になった覚えがある」
それからは、ドクオとの思い出話に花が咲いた。
いつも本ばかり読んでいたドクオ、そんな彼の書く小説の出来に驚かされたこと。
実際は悪戯心を持ち合わせていて、よくこの屋敷で彼による悪戯がなされていたこと。
話はしばらく続いた。
- 27: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:43:44.48 ID:QKSHiEFPP
- 川 ゚ -゚) 「確かに彼は、いつも笑顔で私たちの会話を聞いていたな」
(´・ω・`) 「ああ、例えどんなに意味のない内容でも、決して水を差すような発言はしなかった」
ξ゚听)ξ 「……ねぇ」
( ^ω^) 「そういった面からみると、ドクオが一番頭が良かったのかもしれないお!」
川 ゚ -゚) 「待て、それはおかしい。事実、彼は試験の順位に関しては常に下から数えたほうが早かった」
(´・ω・`) 「馬鹿、試験だけが全てじゃないんだよ。いわゆる、IQってやつさ」
ξ;゚听)ξ 「ねぇってば!」
ツンの悲鳴のような声に、彼らの視線はツンへと集まった。
青ざめた表情の彼女は、二階へと続く階段を指差している。
- 28: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:46:29.47 ID:QKSHiEFPP
- ξ;゚听)ξ 「あの階段の上にあるの……なに?」
三人は階段へと視線を移す。
なるほど、確かに階段の一段目になにか白い物体が、うっすらとだが確認できる。
(´・ω・`) 「……なんだろう、あれ」
川 ゚ -゚) 「ここからじゃよくわからないが、板かなんかじゃないか?」
( ^ω^) 「ツンもびびりだおw ちょっと僕が見てくるお」
ツンの怯えを和らげるためか、ブーンがおどけた調子で階段へと向かった。
段々その物体をはっきりと捉えるにつれ、ブーンはそれをなにであるか認識する。
それは――白いカバーで覆われた、薄い本だった。
- 30: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:49:16.57 ID:QKSHiEFPP
- ブーンはそれを手にとると、また再びみんなの下へ戻り、着席する。
そしてその本を机の上に置くと、みんなにもはっきりと見えるように燭台のもとへとずらした。
(´・ω・`) 「なんだ、ただの本じゃないか。それにしても、十ページくらいしかないんじゃないか?」
川 ゚ -゚) 「こっちの面にはなにも書かれてないな。裏には……」
クーが本を手に取り、裏返す。
そして次の瞬間――
ξ;゚听)ξ 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ツンが大きな悲鳴をあげた。
- 32: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:52:15.58 ID:QKSHiEFPP
- そこに書かれていたのは、至って普通のことだった。
本のタイトル、作者名、完成日。一般書籍としてみれば、なんら問題もないだろう。
しかし、彼らの間には、確実に嫌な空気が流れていた。
『 観 察 者 (上) 』
というタイトルの下に、小さく『DOKUO』と筆記体で記載されている。
そして完成日は――二〇〇五年八月九日となっている。
(;^ω^) 「これって……」
川 ゚ -゚) 「ああ、ドクオが死んだ日付だな。上ということは、中巻・下巻、もしくは下巻のみあるのだろうか」
ξ;凵G)ξ 「うっ……うっ……」
(;´・ω・`) 「……」
- 33: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:54:41.84 ID:QKSHiEFPP
- 沈黙が流れる。
クーはジッと本を見つめ、ツンは嗚咽を漏らし、ショボンは腕を組んで目を閉じている。
ブーンはというと、そんな三人の様子をキョロキョロと覗っていた。
この空気を打開したのは、クーであった。
川 ゚ -゚) 「それにしても、『観察者』とはどういう意味だろうか」
クーの言葉に、反応したのはショボンだった。
(´・ω・`) 「特に意味のある言葉には思えないんだけど、なんか不気味だね」
また沈黙が流れる。
そして再び静寂を破ったのは、クーだった。
川 ゚ -゚) 「さて、読んでみようか」
- 35: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/12/29(月) 21:58:14.06 ID:QKSHiEFPP
- ξ;凵G)ξ 「えっ! ちょ、ちょっとクー!?」
本当なら読みたくない。
死んだ人が、その死んだ日に完成させた本なんて余りに不気味すぎる。
だが人間というのは不思議なもので、ついつい背徳的な行動をしたみたくなるものだ。
( ^ω^) 「僕は是非読んでみたいお」
ξ;凵G)ξ 「ブーンまで……」
川 ゚ -゚) 「ふむ、確かにこれは雰囲気作りには申し分ないかもしれない。
死んだ人間が命日に書き終えた本が、まるで私たちに読んでもらいたいがために、
暗闇の奥から、書き手の無念を携えて……」
ξ;凵G)ξ 「ちょっと! 不謹慎よ!!」
(;´・ω・`) 「クー、余りに悪ふざけがすぎるよ。ツン、落ち着いて。ね?」
- 38: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:04:13.64 ID:QKSHiEFPP
- 本日何度目かの沈黙も、仕方が無いことだった。
空気は悪化し、お互い目もそむけているような状況だ。
( ^ω^) 「……」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ξ゚听)ξ 「……」
だが、確実に彼らの興味はその本にある。
そしてとうとう――その表紙を捲ってしまったのだ。
そこの一ページ目には、こう書いてあった。
- 40: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:06:57.00 ID:QKSHiEFPP
- 『 木製の扉が、軋み音を立てながら開いた。
やってきたのは四人の男女で、彼らはかつてここでバカンスを楽しんでいた連中だ。
四人は想定外の暗闇に一旦戸惑いながらも、準備の良い男が懐中電灯を取り出す。
懐中電灯を持った気弱そうな男、二人の女、そして小太りの男、というように彼らは長い廊下を歩いていった。
そして彼らが大広間に出ると、そこには木製の長テーブルと六つの椅子があるのだ。』
- 41: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:09:31.91 ID:QKSHiEFPP
- 一ページ目は、それだけであった。
片開きのため、彼らはここで一旦文字を取り込むことをやめる。
(;^ω^) 「これって……」
(;´・ω・`) 「……」
ξ;゚听)ξ 「……」
ブーンの額から汗が落ちる。
そんな様子を見越してか、クーが彼を諌めた。
川;゚ -゚) 「ブーン。何事も熟慮が大切だ。必要以上に、怯えさせることはない」
川;゚ -゚) 「とりあえず、続きを読んでみようじゃないか」
クーが気丈な態度で、本の頁を捲る。
しかし、その手も僅かながら震えていた。
次の頁は、見開きとなっていた。
しかし右側は空白で、左側にしか文が書いていなかった。
- 42: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:13:59.27 ID:QKSHiEFPP
- 『 真っ先に席に着いたのは、黒髪の真っすぐな女だった。
そしてそれにつられるように、後の三人も席に着く。
テーブルの上に置かれた燭台に、先ほどの準備の良い男が、やはり気を利かせてライターで火を灯した。
若干余裕が出てきたのだろうか。男が冗談を言うと、周囲から咎められた。
それからしばらくは、思い出を語り合っているようだった。
そうとう盛り上がっているようで、なかなか終わる気配を見せない。
すると、その流れを裂くように、巻き毛の女がみんなの注意を階段に引き付ける。』
- 45: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:17:14.61 ID:QKSHiEFPP
- そこでまた、文は一旦区切れた。
さきほどより、更に空気が重くなる。
(;^ω^) 「これ、ドクオの筆跡だお」
川;゚ -゚) 「ああ、間違いないな」
みんな、この本のタイトルがなにを意味するのか、完全に気づき始めていた。
だが、誰もそれを口に出す事はしなかった。
ツンは今にも泣き出しそうな表情をしており、ショボンの眉尻は更に下がっている。
それでも、彼らはまた頁を捲るしかなかった。
そしてそこには、両開きに跨いで一行の文が書いてあった。
- 49: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:20:38.06 ID:QKSHiEFPP
- 『
彼 ら は 一 冊 の 本 を 見 つ け た
』
- 53: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:23:31.25 ID:QKSHiEFPP
- ξ;凵G)ξ 「いやあああ!!」
(;^ω^) 「……」
(;´・ω・`) 「……これは」
川;゚ -゚) 「はは、なんとも悪趣味な本だな」
泣き叫ぶもの。黙るもの。
動揺を殺そうとするもの。冗談で誤魔化そうとするもの。
反応は、様々だった。
- 55: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:25:36.09 ID:QKSHiEFPP
- ξ;凵G)ξ 「なんなのこれ!? さっきから全部、私たちのことじゃない!!」
ツンが泣き叫びながら、席を立つ。
(;´・ω・`) 「ツン、落ち着くんだ」
ショボンが彼女を落ち着かせようとするが、ツンはそれをふりほどく。
ξ;凵G)ξ 「こんなところになんかいられないわ!」
(;^ω^) 「ツン!!」
ツンが玄関のほうへと駆け出す。
三人は、暗闇に消えていく彼女を見送ることしかできなかった。
- 60: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:29:54.65 ID:QKSHiEFPP
- 川 ゚ -゚) 「……さて、どうしようか」
(´・ω・`) 「もしその本が本物ならば、僕らの今後の動きが書いてあるんじゃないかな」
(;^ω^) 「そうだとして……ショボンは、それに従うつもりなのかお?」
流れる静寂。
ブーンの発言は軽視できないものであり、それでいて避けたいものであった。
仕方なく、三人は続きを読んだ。
そこには、ブーンが本をとってくること、本の表紙を見てツンが取り乱すこと、
四人で本を読み出すこと、戸惑いながらも頁を捲り続けること、そしてツンがいなくなってしまうこと。
――そして残った三人で本を読み進めること。
全て、彼らの行動した通りに記載されていた。
- 62: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:32:03.23 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「……さて、どうしようか」
三人は、だいぶ落ち着きを取り戻していた。
もちろん、それでも普段の平生に比べたら違和感があるが。
川 ゚ -゚) 「とりあえず、読んでみるべきだと思う」
( ^ω^) 「……本気で言っているのかお?」
川 ゚ -゚) 「私はこの本が、私たちに何を伝えたいのかが知りたい」
クーの意志のこもった言葉の後に、「だから、読み続けるべきだと思う」と小さくつけくわえた。
(´・ω・`) 「ツンのことも心配だけど、僕もクーと同じ気持ちだ」
(;^ω^) 「……二対一になったら、仕方がないお」
多数決が決まったところで、三人は再び頭を寄せる。
そして新たな頁を捲った。
- 66: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:34:19.03 ID:QKSHiEFPP
- 『 やがて三人は立ち上がる。
弱気そうな男が懐中電灯を持って先頭に立ち、黒髪の女がそれに続き、小太りの男が本を持って後ろにつく。
そして三人は、二階へと続く階段を上がった。
階段を上ると道は右手と左手にわかれるが、確認の末、右手へ進み始める。
角を曲がると、そこから四つの客室があるのだが、彼らは手前から一つ目の客室へと入った。
そして部屋の中をしばらく探索したのち、三人はあるものを見つける。』
- 68: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:37:25.43 ID:QKSHiEFPP
- そこで、本は終わっていた。
「この本もういらないんじゃないのかお」とブーンが愚痴りながらも、しっかりとそれを抱え込む。
川 ゚ -゚) 「……では、行こうか」
クーの合図を皮切りに、各々が自分の位置につく。
ショボンが懐中電灯を持って先頭に立ち、クーがそれに続き、ブーンが本を持ち最後尾へとつく。
そしてそのまま、二階へと続く階段を上がっていった。
( ^ω^) 「なんか滑稽だお……」
(´・ω・`) 「そう言わずに……。さて、登りきったわけだが……」
ショボンが右側を照らし、それから左側を照らす。
どちらも廊下の角が見えただけで、なんら変わりはない。
川 ゚ -゚) 「さて、私の記憶に間違いが無ければ……左へ進むと、物置小屋とバスルーム」
(´・ω・`) 「右側へ進むと、僕たちが寝泊りしていた客室だね」
( ^ω^) 「えーと僕らは右へ……」
ブーンが本を覗き、そこで動きを止める。
- 70: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:40:06.04 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「どうしたんだい?」
(;^ω^) 「いや、ちょっと 『確認の末、右手へ進み始める。』ってところを見て……」
川 ゚ -゚) 「意識していたわけではないのに、私たちがその本の通り確認をしてしまったと?」
(;^ω^) 「いやいや、僕が細かい部分を読み飛ばして、右へ進むってことだけを考えてたから……。
ちょっとドキッとしただけだお。几帳面な二人だから、そこらへんもちゃんと意識してたんだお?」
(;´・ω・`) 「いや、僕もちょっと読み落ちて……いや、なんでもない」
川 ゚ -゚) 「……二人とも、せこい演技はやめてくれ」
そこで会話は止まり、彼らは再び歩き始めた。
- 71: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:42:33.02 ID:QKSHiEFPP
- 角を曲がり、懐中電灯で照らしながら一番手前の客間を目指す。
それほどたいした距離もなく、三人はすぐに客間を見つけることができた。
(´・ω・`) 「ここで探索だっけ?」
( ^ω^) 「確かそうだお」
川 ゚ -゚) 「ということは、ここになにかあるんだな。本が終わったところを見ると、続きがあるのかもしれん」
(´・ω・`) 「よし、じゃあ入ろうか」
ショボンが懐中電灯の電源を切り、ドアノブに手をかける。
そして、それを回しゆっくりとドアを引いた。
- 72: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:44:38.23 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「誰かいませんかーっと」
ショボンが一瞬部屋を覗き、中の確認をする。
そして安全を確認すると、二人に合図した。
部屋の中は真っ暗だった。
基本的に家具しかないシンプルな部屋だが、目が慣れないと安心して歩けない。
( ^ω^) 「ショボン、早く懐中電灯つけるお」
(´・ω・`) 「いや、それより電気のスイッチがあるはず……あった」
ショボンがそう言った瞬間、部屋の電気がつく。
そしてそれと同時に、三人は本が示すと思われるものを見つけた。
- 76: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:46:45.67 ID:QKSHiEFPP
- (;^ω^) 「うわぁっ!?」
(;´・ω・`) 「ひ、ひぃっ!!」
川;゚ -゚) 「……悪戯にしては、度が過ぎるな」
三人が見つけたものは、一つの文章だった。
真っ白な壁の側面から角を挟み、また側面へ跨るようにして、書かれた文章。
そう、まるでその壁と書かれた文によって、本の中の一つの見開きのページになっているかのように。
赤く、乱れた字体で、たった一言。
俺 は 殺 さ れ た
- 78: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:50:35.56 ID:QKSHiEFPP
- (;´・ω・`) 「ははっ、ははは。ちょっと人為的すぎるな。誰のイタズラかな?」
(;^ω^) 「……」
川; ゚ -゚) 「……」
ショボンの乾いた笑いが、静かな部屋で浮いていた。
赤い文字は、まるで血であるかのように。
その血は、「俺」のものであるかのように。
川;゚ -゚) 「そう、俺――」
川;゚ -゚) 「ここで指してる、俺って……」
クーが言いかけた、そのときだった。
「キャーッ!!」
どこからか、ツンの叫び声がした。
- 81: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:52:15.25 ID:QKSHiEFPP
- (;^ω^) 「ツン!?」
ブーンが真っ先に部屋を飛び出す。
懐中電灯も持たずに、暗闇の中を駆け抜けていく。
(;^ω^) 「ツンどこだお!? 大丈夫かお!?」
ブーンが階段を下りて、さきほどの大広間へと出る。
両手を前へ伸ばし、暗闇の中を手探りで進む。
(;^ω^) 「ツ―― うわっ!?」
ブーンがなにかに躓き、転ぶ。
体勢を立て直しながら、ブーンは躓いた何かを手で確認した。
- 83: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:55:30.24 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「なんかすべすべで……ふわふわしてる細いものがあるお……まぶしっ!」
突然の眩しさに、ブーンが顔を腕で覆う。
少しの後、若干目が慣れてきたので、腕の間から周囲の様子を見た。
(´・ω・`) 「ブーン!! ツンはいたのかい?」
( ^ω^) 「なんだ……。ショボンかお」
ショボンが階段の上から、ブーンを懐中電灯で照らしている。
(;´・ω・`) 「それと、さっきの部屋で新たな本を――うわっ!!」
突如、ショボンが取り乱す。
ブーンはわけもわからず彼を見ていると、クーもやってきて同様の反応をした。
- 85: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:57:41.49 ID:QKSHiEFPP
- 二人の表情が凍っている。
ショボンが口をぱくぱくさせているのだが、ブーンの位置からじゃなにを言っているかわからなかった。
やがて、クーが大きく深呼吸をして言った。
川;゚ -゚) 「……ブーン。君の横に倒れている、それは……」
ブーンは、クーの指差した方向へと顔を向ける。
そこには今さっきブーンが躓いた「原因」があった。
クーが「それ」と形容した、「物体」が横たわっていた。
(;^ω^) 「う――」
ξ゚听)ξ
それはさっき逃げ出した、ツンだった。
それはさっきまで動作をしていた、ツンだった。
そしてもはや動くことのない――ツンという、ただの肉の塊りだった。
- 88: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 22:59:23.96 ID:QKSHiEFPP
- ( ;ω;) 「――おうえぇっ!!」
ブーンが嘔吐する。
ブーンの口から出た汚物が、ツンの顔を汚した。
吐いても吐いても止まらない。
(;´・ω・`) 「ブーン、だいじょう……う」
川;゚ -゚) 「これはひどい……」
現場は、ひどい臭いに包まれていた。
ブーンの吐瀉物のせいもあるだろうが、それ以上に――。
「死」の臭いが、充満していた。
- 90: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:01:20.35 ID:QKSHiEFPP
- 三人は、しばらく呆けていた。
ブーンの吐き気が止まり、ツンが死んだということを受け止めたとしても、なにかをしようとはしなかった。
言葉が発せられたのは、それから長い時間が経った後だった。
(´・ω・`) 「……俺は殺された、ってさ」
川 ゚ -゚) 「……なんだ」
(´・ω・`) 「やっぱり、ドクオのことなのかな」
( ;ω;) 「……」
川 ゚ -゚) 「……かもしれないな」
- 93: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:03:30.02 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「ってことはさ、ツンが死んだのは……」
川 ゚ -゚) 「……復讐や呪いとでも言いたいのか?」
クーの言葉に、ショボンが俯く。
そして拳を強く握ると、床を思い切り叩いた。
(´;ω;`) 「だっておかしいだろ!? この本だってそうだ!」
ショボンが新たに見つけた本を、思い切り床に叩きつける。
(´;ω;`) 「僕らは殺されるんだよ!! ドクオに殺されるんだ!!」
- 95: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:05:29.56 ID:QKSHiEFPP
- 川 ゚ -゚) 「落ち着け。ショボン」
泣き叫ぶショボンに対して、クーは冷静だ。
川 ゚ -゚) 「ドクオは死んでいるんだ。死んだ人間が生き返ることは、まずありえない」
そこでクーがツンの遺体を見る。
悲しげな目をして、溜め息をつくと言葉を続けた。
川 ゚ -゚) 「とすれば、こう考えるほうが自然じゃないか?」
川 ゚ -゚) 「ドクオの亡霊のふりをして、ツンを殺した人間がいる」
- 97: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:08:10.56 ID:QKSHiEFPP
- (´;ω;`) 「……」
ショボンの泣き声が、すすり泣きに変わった。
時々嗚咽を漏らすショボンの肩に手をおき、クーが優しく諭す。
川 ゚ -゚) 「だから、とりあえずここを出よう。そして、警察に相談するんだ」
川 ゚ -゚) 「な、そうしよ……」
( ^ω^) 「駄目だお」
川 ゚ -゚) 「……正気か?」
( ^ω^) 「そのツンを殺した人間が、この屋敷にまだいるんだお。今僕らがここを出たら、そいつは逃げちゃうお」
川;゚ -゚) 「……なっ!?」
(´・ω・`) 「……」
- 99: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:10:14.36 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「だから……」
ブーンが、床に叩きつけられた本を拾い上げる。
さきほど、ショボン達が新たに見つけてきたものだ。
( ^ω^) 「この本の続きを読むお」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ブーンが持つ本の表紙には、タイトルのみが書かれている。
『 観 察 者 (中) 』、と。
- 109: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:23:17.59 ID:QKSHiEFPP
- 長い沈黙が続いた。
クーはてこでも動かないぞ、という態度を示し、ショボンは指をいじりながらどっちつかずでいる。
やがて、ブーンが溜め息をついた。
( ^ω^) 「……なら、仕方ないお」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ブーンが手に持っていた本を床に置き、その場にあぐらをかく。
- 110: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:24:42.02 ID:QKSHiEFPP
- 川 ゚ -゚) 「やっと帰る気になったか?」
( ^ω^) 「……」
クーの問いかけには返事をせず、腕を組んで目を瞑った。
そしてやがて「よし」と呟くと、その両手を解き――本を開いた。
川;゚ -゚) 「おい!?」
(;´・ω・`) 「ブーン!?」
二人が慌てふためくが、ブーンは我関せずといった顔で、開かれた頁を睨み続けている。
そしてそれを両手で掴み、持ち上げると、
( ^ω^) 「――突如、女の悲鳴が聞こえた」
本の内容を、口に出して読み始めた。
- 112: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:26:19.12 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「小太りの男はいの一番に、悲鳴の元へと向かう」
川;゚ -゚) 「おい、ブーン。やめろ」
ゆっくりと、内容を確かめるように音読する。
( ^ω^) 「男はなにかに躓き、倒れてしまった。すると、二階から気弱そうな男がその姿を照らす」
(;´・ω・`) 「……」
ほんのわずかだが、口の動きが滑らかになる。
( ^ω^) 「黒髪の女が、小太りの男にそれを知らせようとする。鈍感な小太りの男は、ゆっくりとそれへ顔を向け、
それの存在に気づく。それの顔はひどく青ざめ、目は大きく見開かれ、かつてのような可憐さはもちあ
わせていない、巻き髪の女の死体だった。小太りの男は吐く。吐く。何度も吐く。そして突然の悲劇に
三人は呆然と――」
川;゚ -゚) 「ブーン、やめろと言っているだろ!!」
ブーンはなにかにとり憑かれたかのように、早口で読み続けた。
何度も何度も唾が飛ぶ。しかし、決して息継ぎすることなく、読み続けた。
- 113: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:28:17.27 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「……彼らはこれからどうするか揉め始める。だが、やがて小太りの男が本の続きを読むことを提案する」
( ^ω^) 「女は断固拒否するが、小太りの男は狂ったように本を声に出して読み始めた」
( ^ω^) 「……ここまでが、今の状況だお」
ブーンはそう言うと、今読み上げた頁をクーとショボンに開いて突きつけた。
確かにブーンが読んだところまでで、文は終わっている。
( ^ω^) 「……この続き、どうするお?」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
- 116: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:30:08.00 ID:QKSHiEFPP
- 川 ゚ -゚) 「ここまでしておいて、私たちに判断を問うのか?」
(´・ω・`) 「選択権なんて、あってないようなものじゃないか」
( ^ω^) 「……じゃあ、続きを読むお」
ブーンは本を床に置くと、三人で見れるように向きを変える。
ショボンとクーがブーンに体を寄せ、体勢が整った。
( ^ω^) 「……じゃあ開くお」
上巻に劣らない薄さの中巻は、あとほんの数頁で終わりそうだ。
ブーンは震える右手を左手で抑えながら、頁を捲った。
( ^ω^) 「……」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
- 118: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:32:11.63 ID:QKSHiEFPP
- 『 一人は、復讐だと言った。
一人は、人為的なものだと言った。
一人は、進まなければならないと言った。
二人は、最後の一人に従ったようだった。
今度は小太りの男が懐中電灯を持ち、先頭に立った。
そして再び二階へと上がると、三人はあの悲劇があった部屋へと入っていく。』
- 122: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:33:45.68 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「悲劇があった部屋って……」
川 ゚ -゚) 「ああ、ドクオが飛び降りた部屋だろうな」
クーとショボンが二階を見上げる。
その視線の先には、一番奥にある客間の扉を見つめた。
( ^ω^) 「二人とも、まだ右半分しか読んでないお」
川 ゚ -゚) 「あ、ああ」
(´・ω・`) 「あ、ごめん」
三人が読んだのは、見開きのページの右側だけだ。
ブーンに促されて、二人は左側を読み始める。
- 124: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:35:36.76 ID:QKSHiEFPP
- 『 その部屋に入ると、女は動けなくなる。
気弱な男は女を助けるために、暖炉で鍵を探す。
小太りの男は、ただそれを見ている。
やがて、男と女が死ぬ。』
- 125: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:36:55.21 ID:QKSHiEFPP
- ここで、本は終わりであった。
今までに比べると、随分と抽象的な文になっていた。
だが、今まで一番衝撃的でもあった。
そこで、ショボンが疑問を口にした。
(;´・ω・`) 「最後……どっちの男が死ぬか、明記されていないね」
(;^ω^) 「あ……本当だお」
そう、そこには「男」としか書いていない。
小太り、とも、気弱な、とも付け足されてはいない。
( ^ω^) 「ひどく、適当で抽象的だお」
川 ゚ -゚) 「どちらにせよ、私が死ぬ事は確定してるらしいな」
(;´・ω・`) 「……」
ハハ、とクーが乾いた笑い声をあげる。
- 127: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:38:25.89 ID:QKSHiEFPP
- 今までの事を思い返せば、この内容は現実となるだろう。
それはここにいる誰もがわかっていることだ。
( ^ω^) 「それでも、行くかお?」
ブーンの問いかけに、二人は閉口する。
すると、クーがポツリと呟いた。
川 ゚ -゚) 「……もし、これの通りに行動しなかったら、どうなるのだろう」
(´・ω・`) 「え?」
そう言うや否や、クーが急ぎ足で出口へ向かいだした。
ブーンとショボンは暗闇に消えていくクーを見ながら、一抹の不安を感じる。
( ^ω^) 「さっきのツンみたいに……ならないかお」
(;´・ω・`) 「はは、そしたら本に書いてあることと違っちゃうじゃないか」
- 130: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:41:23.20 ID:QKSHiEFPP
- 大した時間ではなかっただろう。
しかし、待つほうは長く感じるものだ。
川 ゚ -゚)ノ 「よ」
(;^ω^) 「……ふーっ」
(;´・ω・`) 「良かった」
だから、クーが戻ってきたとき、ブーンとショボンは大きく安堵の溜め息をついた。
では、何故戻ってきたのか?
川 ゚ -゚) 「玄関が開かなかった。恐らく、外になにか重いものでもあるのだろう」
(´・ω・`) 「……どういうことだ?」
川 ゚ -゚) 「つまり、やはり誰か人間が私たちを殺そうとしている、ということだな」
- 132: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:43:25.31 ID:QKSHiEFPP
- この調子ならば、とクーが続ける。
川 ゚ -゚) 「きっと、指定された場所以外行けなくなっているんじゃないか?」
( ^ω^) 「自然と本通りの行動をしてしまう、ってことかお?」
(´・ω・`) 「でも、それにしては今まで具体的な行動まで当たってたじゃないか」
川 ゚ -゚) 「ふむ、そうだな。でも……」
クーが頭をかき、俯く。
そして髪をかきあげるようにして、顔をあげた。
川 ゚ ー゚) 「私がこの屋敷から出て行こうとする、ってこの本には書いてなかったな」
――ドクオの呪いなんてあるわけないんだよ
クーがこの日、初めて笑顔を見せた。
その屈託のない笑顔は、不思議と安心感を与えるものだった。
- 135: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:45:15.95 ID:QKSHiEFPP
- ( ^ω^) 「じゃあ、行くかお」
ブーンが懐中電灯を持ち、立ち上がる。
とそこでブーンはニヤリと笑い、懐中電灯をショボンに託した。
( ^ω^) 「こんな本に従う必要ないお。クーが教えてくれたお」
ブーンがクーに向かって親指を立てる。
クーが一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに親指を立て返した。
川 ゚ ー゚) 「ふふ……」
(´・ω・`) 「あはは……」
( ^ω^) 「おっおっおww あの本に書いてある通りになんか、もうならないお」
そこで三人は、この日初めて腹を抱えて笑った。
それは安心感から来るものなのか。それとも、意地を張っているのか。
- 137: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:47:05.29 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「じゃあ、行こうか」
ショボンが先頭に立つ。クーがそれに続く。
しかし、ブーンは動こうとしなかった。
川 ゚ -゚) 「ブーン?」
( ^ω^) 「……ちょっとだけ、待ってほしいお」
いまどきの若者にしては珍しく、ブーンはポケットから自前のハンカチを取り出す。
そしてそれを、ツンの顔にゆっくりとかけた。
(´・ω・`) 「……」
川 ゚ -゚) 「……」
( ^ω^) 「汚してしまって、ごめんだお。すぐに戻ってきて、広い墓に入れてやるお」
三人は、ツンに向かって静かに黙祷をし、そして二階へと向かった。
- 138: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:48:40.92 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「……ここだね」
三人は、かつてドクオが飛び降りた部屋、つまり悲劇があった部屋の前にきていた。
外からの見た目は、他の部屋となんら変わりない。
ただ、中にはなにがあるかわからない。
そこは、果てしない闇だ。
(´・ω・`) 「さて……二人とも」
( ^ω^) 「なんだお?」
川 ゚ -゚) 「どうした、ショボン」
(´・ω・`) 「これは悪夢だ。早く終わらせなければならない。だから……」
――みんな、生きて帰ろう
( ^ω^) 「……約束するお」
川 ゚ -゚) 「ああ、約束だ。もちろん、ショボンもな」
(´・ω・`) 「……うん」
- 139: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/29(月) 23:50:24.83 ID:QKSHiEFPP
- (´・ω・`) 「じゃあ行くよ」
ショボンがドアノブをゆっくりと回し、ゆっくりと引く。
さきほどのように、先に一人で入ったりはしない。まずは、中を懐中電灯で照らす。
(´・ω・`) 「……特になにもないね」
川 ゚ -゚) 「そうか。じゃあ、入ってみるか」
三人は、とりあえず中へ入った。
だいぶ暗闇に目が慣れてきたせいか、若干だがなにがあるかは捉えられる。
機能付きデスク、ベッド、洋風の暖炉。
しばらく、三人は部屋を探索した。しかし、なにか起こる気配はない。
- 150: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:07:09.53 ID:RKEvetK6P
- (´・ω・`) 「……風?」
ふと、肌寒さを感じてショボンは周囲を見渡した。
ベランダへの窓が開いている。カーテンが揺れ、そこから風が入っていることが覗える。
川 ゚ -゚) 「寒いぞ。……誰だ、開けたのは」
( ^ω^) 「ごめんごめん、僕だお」
ベランダのほうからブーンの声がする。
カーテンが靡いて、クーとショボンからはブーンの姿を確認することができない。
( ^ω^) 「クー、こっちへ来てみるお。夜風が気持ちいいお」
川 ゚ -゚) 「おい、ブーン。今はそんなときじゃないぞ」
クーが仕方なしに、ベランダへと出向く。
ベランダにはそこに不似合いな、ロッキングチェアがあった。
そしてベランダの柵に肘を載せ、クーのことを見つめるブーンがいた。
- 154: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:10:31.58 ID:RKEvetK6P
- ( ^ω^) 「……ここから、ドクオは飛びおりたんだお」
川 ゚ -゚) 「……そうだな」
クーがブーンのほうへ、一歩足を踏み出そうとした。
すると、大きくギィと木の軋む音が聞こえたので、クーの体は反射で止まる。
川 ゚ -゚) 「このベランダは木製か。けっこう、古いみたいだな」
( ^ω^) 「そうなのかお。クーがデブなんじゃないかお?w」
川 ゚ -゚) 「ブーン。あとで打撲な」
(;^ω^) 「正直すまんかったw」
- 161: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:16:08.50 ID:RKEvetK6P
- ( ^ω^) 「死ぬ直前、ドクオはこの椅子に座って本を読んでいたらしいお」
川 ゚ -゚) 「いや、そんなはずはないぞ」
( ^ω^) 「そうだお。確かにこの椅子に座っていたんだお。ここに座って景色をみればわかるお」
川 ゚ -゚) 「君は変な奴だな、座ればわかるだと? 座って見る景色に、なにか意味があるのか?」
( ^ω^) 「僕のロマンチックなハートに火がつくおwww」
川 ゚ ー゚) 「……馬鹿ばかしい」
クーが、ロッキングチェアーに腰をかける。
ロッキングチェアーがゆらり、ゆらりと揺れる。
- 164: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:19:41.63 ID:RKEvetK6P
- 川 ゚ -゚) 「ブーン、一体どういう意味――」
ガチャン、ガチャン。二つの音がした。
川 ゚ -゚) 「――え?」
ガチャン、ガチャン。更に二つの音がした。
( ^ω^) 「――捕まえたお」
- 168: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:23:29.86 ID:RKEvetK6P
- クーの両手両足は、ロッキングチェアーと手錠で繋がれていた。
銀色に鈍く光を放つそれに、月が映りこんでいる。
川 ゚ -゚) 「……ブーン、これはなんの真似だ?」
( ^ω^) 「このベランダ、すごい古いんだお」
川 ゚ -゚) 「いや、だから――」
( ^ω^) 「だから、――ほらっ!!」
ブーンがドスン、とジャンプする。
すると、ベランダが大きく揺れた。
川;゚ -゚) 「な、なにをする!」
( ^ω^) 「大丈夫。こんなので壊れるわけないお」
ブーンが更にドスン、ドスン、とジャンプを繰り返す。
ベランダは更に大きく揺れた。
- 174: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:26:47.21 ID:RKEvetK6P
- 「何をするんだ!! やめろ!!」
クーの叫び声が、部屋にまで届いた。
それを聞いたショボンが、素早く反応する。
(;´・ω・`) 「クー!?」
ショボンは探索を中止し、慌ててベランダへと飛び出す。
するとまた、ベランダが大きく揺れた。
(;´・ω・`) 「うわっ!」
- 178: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:29:22.26 ID:RKEvetK6P
- 川;゚ -゚) 「馬鹿! ショボンこっちへ来るな!!」
( ^ω^) 「あーあ。デブのショボンがきたせいで、取り返しのつかないことになっちゃったお」
ブーンがチラリと、ベランダと部屋の接続部分を見やる。
木製の支柱がもう、折れかけていた。
( ^ω^) 「まあ、半年かけて腐らせたんだから、こんなもんかお」
ブーンが笑い声をあげる。
そして、軽いステップでベランダと部屋の境目に立つ。
そして、クーのロッキングチェアーに手をかけると――
思い切り揺らす。
- 182: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:32:15.43 ID:RKEvetK6P
- 川;゚ -゚) 「や、ややめろ!! 自分がなにしているかわかっているのか!?」
ロッキングチェアーに拘束されたクーの体が、椅子と一緒に前後に大きく揺れる。
そのたびに、ベランダ全体が悲鳴をあげる。
( ^ω^) 「うるせーお。黙ってろお」
ブーンは安全地帯から、更にロッキングチェアーを大きく揺らした。
(;´・ω・`) 「おい! ブーン! なんでこんなことするんだよ! クーを助けろよ!!」
( ^ω^) 「ショボン、落ち着けお。クーを助けたいなら、あの本に書いたあったことを思い出せお」
(;´・ω・`) 「なにを……。!!」
ショボンはなにかを思い出したように、部屋へと戻る。
そして部屋に備え付けられた、洋風暖炉へと頭を突っ込んだ。
- 184: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:35:06.46 ID:RKEvetK6P
- (´;ω;`) 「クソ! 鍵はどこだ!? 鍵、クーを助けるための鍵!!」
川 ;-;) 「ショボン! 早くしてくれ!! ベランダが落ちる!!」
煤だらけになりながら、必死に頭を突っ込むショボン。
ロッキングチェアーに揺られながら、崩れ行くベランダの上で助けを求めるクー。
( ^ω^) 「ショボーン。急いでくれおー。クーが落ちちゃうおー」
ブーンはそう言いながら、更にロッキングチェアーを加速させる。
何度も前後に。前後に何度も。
川 ;-;) 「うわぁあああああ! 頼む!ブーンやめてくれ!!」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
前後に前後に前後に前後に前後に前後に前後に前後に前後に前後に。
揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる。
揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる。
揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる。
- 190: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:39:00.27 ID:RKEvetK6P
- ( ^ω^) 「あはっ。あはははははは」
ブーンは激しくゆれるクーと、今にも崩れそうなベランダを見て、満足そうに笑った。
そしてくるりとターンすると、部屋の中へと戻った。
部屋では、まだショボンが暖炉に頭を突っ込んでいた。
(´;ω;`) 「鍵! 鍵が見つからない! 鍵はどこだ!?」
( ^ω^) 「……」
床に寝そべって暖炉に頭を突っ込む姿は、醜い。
ブーンはその姿を一瞥すると、ショボンの上に全体重をかけて乗った。
(´;ω;`) 「いだっ! なにするんだ!!」
( ^ω^) 「ベランダからの風が寒いから、暖炉に火でも焚くお」
- 194: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:42:23.28 ID:RKEvetK6P
- (´;ω;`) 「!!」
暖炉の中には、種火となるクズと、薪が常備してあった。
ブーンはショボンの尻ポケットからライターを取り出すと、種火に着火する。
すると、小さな炎が現れた。
(´;ω;`) 「やめろ!! やめてくれ!! 頼むからやめてくれ!!」
( ^ω^) 「黙ってろお。お前の頭がまる焦げになるまで、お前の上に乗っている身にもなれお」
(´;ω;`) 「なんでこんなことするんだよ! なんなんだよ!!」
( ^ω^) 「そんなの、自分が一番わかってるお?」
(´;ω;`) 「ちが、こんなはずじゃ、ちが……ち……」
気づけば、暖炉内で炎が燃え盛っていた。
ショボンはもはや言葉を発さなくなり、抵抗を見せる様子もない。
ブーンはそれを確認すると、再びベランダの様子を見に行った。
- 197: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:45:35.51 ID:RKEvetK6P
- ベランダはもう、傾きを見せ始めていた。
支柱部分の木材は、かろうじてその形を保っている。
川 ゚ -゚) 「ショボン……。早く、ショボン……」
( ^ω^) 「……」
クーの瞳はもう、乾いていた。
ショボンが死んだとも知らずに、助けを求め続けている。
川 ゚ -゚) 「鍵を……。早く……」
( ^ω^) 「お前らの思い通りになんか、させてたまるかお」
ブーンはもうほとんど揺れていないロッキングチェアーをゆっくり引く。
そして思い切り揺らすと――
川 ゚ -゚) 「――あ」
ベランダとその破片は、暗闇の底へ消え去っていった。
- 202: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:48:33.85 ID:RKEvetK6P
- ブーンはそれを見届けることなく、部屋へと戻る。
そしてベッドの上に腰掛けると、携帯電話を取り出した。
( ^ω^) 「――しぃ、終わったお。入ってくるといいお」
ブーンはそれから一言二言交わすと、携帯電話をベッドの上に放り投げた。
そして、そのまま上体を倒すと、両手で顔を覆い、大きな溜め息をついた。
( ^ω^) 「ドクオ、これで全部終わったお……」
そしてそのまま、ブーンは浅い眠りへと落ちていった。
- 204: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:51:17.99 ID:RKEvetK6P
- 部屋にノック音が響く。
最初は軽やかだが、徐々に激しくなっていく。
ブーンはその音で、目を覚ました。
( ^ω^) 「……お」
「早くあけてよ〜」
( ^ω^) 「……しぃかお」
ブーンはだるそうに起き上がると、部屋の扉をあけた。
そこにはゴスロリチックな服をきた、しぃと呼ばれる女性がいた。
(*゚ー゚) 「遅い!!」
( ^ω^) 「……疲れて寝てたんだお」
しぃはずかずかと部屋にあがりこむと、ベッドの上に腰掛けた。
そしてその横をぽんぽん、と叩く。
ブーンはそれを見て、しぃの隣に腰をおろした。
- 207: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:54:59.15 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「ブーン君、すごい演技うまかったよ〜。私、感動しちゃった」
( ^ω^) 「……見てたのかお」
(*゚ー゚) 「ううん、これ」
しぃがトランシーバーを取り出す。
恐らく、ブーンの体のどこかに送信機がついているのだろう。
(*゚ー゚) 「ショボン君達も、名演技だったけどね〜」
( ^ω^) 「……狂った女だお」
- 211: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:56:57.78 ID:RKEvetK6P
- ( ^ω^) 「しぃ、病気のほうは大丈夫なのかお?」
(*゚ー゚) 「一応薬はもらってるけどね〜、まあそれでもあいつらを殺せると思ったら、そんなの気にしないの」
(*゚ー゚) 「あいつら、許せないもんね! なんたって、ドクオ君を殺したんだから!!」
( ^ω^) 「そうだお、ドクオはあいつらに殺されたんだお」
( ^ω^) 「僕はそれを知っていながら、どうすることもできなかったお」
( ^ω^) 「だから今回は手を貸したんだお。次はないお」
(*゚ー゚) 「私だって頑張ったんだよ!! ツンちゃん殺したし、一応扉を外から車で封じておいたし。だからトランシーバーなんて使ったの!」
( ^ω^) 「まあ、でもしぃは今回ほぼ見てる側だったお。まさに、観察者だお」
男と女は、顔を見合わせる。
二人はそこで思わず笑ってしまうが、男の笑みにはどこか寂しさがあった。
- 214: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 00:59:59.44 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「けど、あの本の効果は大きかったね」
( ^ω^) 「だお……」
嬉々として話すしぃに対して、ブーンは気のない返事をする。
あの本とはもちろん「観察者」のことだ。
(*゚ー゚) 「ショボン君達に、この台本通りに動けば、ツンちゃんもブーン君も殺せるよって言ったら信じちゃったもんね!」
( ^ω^) 「そうだったんですかお。僕にも、ショボン達を殺すための台本をくれてどうもありがとうだお」
ブーンが吐き捨てるように言う。
(*゚ー゚) 「ショボン君達は、ブーン君を殺せると思って台本通りに動いていたのに、最後には逆に殺されちゃうんだもんねぇ!」
(*゚ー゚) 「ブーン君達にも台本があったなんて、ショボン君が知ったらびっくりするだろうね!」
(*゚ー゚) 「こっちは見てて楽しかったよ! だってブーン君もショボン君もクーちゃんもツンちゃんも、台本どおりの名演技をしてるんだもん!」
- 216: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:02:45.89 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「ツンちゃんには申し訳なかったなー。だって、ツンちゃんの台本には、ツンちゃんが死ぬこと書いてなかったんだもん」
(*゚ー゚) 「でもツンちゃんを殺したお陰で、ショボン君もクーちゃんも一気に私に対して信頼度を上げたみたいだしね!」
( ^ω^) 「なんであいつらもツンを殺したがってたんだお?」
(*゚ー゚) 「んー、なんかツンちゃんが自首しようって度々二人に言ってたみたい。それで邪魔になったんじゃない?」
しぃのほんのりと紅く染まっている頬が、更に紅潮してきていた。
とてつもなく興奮していて、喋らずにはいられなくなっているのだ。
(*゚ー゚) 「ああ、愉快! みんな私の台本通りに動くんだから!!」
( ^ω^) 「……」
ブーンはただそれを、冷たい目で見ていた。
- 219: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:04:58.31 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「……そうだ、もう一つ面白いこと教えてあげようか」
( ^ω^) 「……なんだお?」
しぃがゴソゴソとバッグを漁る。
中から出てきたのは、一冊の薄っぺらい本だった。
(*゚ー゚) 「じゃじゃ〜ん。実は、一応下巻まで用意しておいたんだ! 見る?」
( ^ω^) 「……見るお」
ブーンはそれをしぃから受け取り、表紙を捲った。
- 222: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:07:43.81 ID:RKEvetK6P
- 『 男は死んだ。女も死んだ。
残ったのは、男と女だけ。男と女だけ。
やがて、女は一人になった。
男を殺して、一人になった。 』
- 225: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:10:40.13 ID:RKEvetK6P
- ( ^ω^) 「これって――」
ブーンの言葉は、そこで途切れた。
彼の左胸とわき腹は、大きな包丁で深く抉られている。
彼はなにも言わず、なにも見なかった。
そして間もなく絶命した。
(*゚ー゚) 「ごめんね。私からしたら、彼らの犯行を知ってたのになにもしなかった君も、同罪なんだよね」
しぃはニコッと微笑んで、ブーンの死に顔を見取った。
この部屋には二つの死体があるというのに、しぃは決して笑みを絶やす事はない。
- 227: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:12:26.60 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「……」
しぃはうわごとのように、「ああ愉快愉快」と何度も繰り返していた。
彼女のポーチからのぞく錠剤には、決して手をつけることはない。
(*゚ー゚) 「うっ、寒っ!」
しぃが両手で体を抱きかかえる。
ベランダへの窓は依然として開いたままで、冷たい夜風が吹き込んできている。
(*゚ー゚) 「全くもー、ちゃんと閉めてよね……ん?」
そのとき、風に吹かれて薄っぺらい本の、薄っぺらい一頁が捲られた。
しぃは特に意識することなく、その頁を覗き込んだ。
- 228: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:15:08.87 ID:RKEvetK6P
- 『 そして、女も死んだ。
ベランダから落ちて、死んだ。
これで全員死んだのだ。
これでやっと、全員死んだのだ。
End 』
- 232: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:17:23.82 ID:RKEvetK6P
- (*゚ー゚) 「え、そんな――」
しぃの顔が青ざめて、体がふらふらとゆらめく。
その不安定な体は、徐々に後ずさりしていく。
確実に、風の吹き込むベランダへと向かって。
後ろには、深い深い闇がぽっかりと口を開けて待っている。
ずずっ、ずずっ。
彼女は恐怖に慄き、徐々に、徐々に、後ずさる。
(*゚ー゚) 「どうして、どうして私まで――」
青ざめた表情。
彼女はわけのわからない言葉を呟くと、飲み込まれるようにして闇の中へと消えていった。
やがて、屋敷からは物音が消えた。
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