(・∀ ・)たった一つのようです

21: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:04:05.07 ID:7qxc1sZX0

3:野【ノ】


そこは一面の野原だった。
雄大な大地が、草原が、今目の前に広がっていて、僕はその中心に立っている。
そこに街はない。
人もいない
当然ながら声なんてもの、聞こえるはずはないのに、どうしてか人の声だけは聞こえてくるんだよなあ。

「おおい、おおい」

(・∀ ・)「?」

僕は辺りを見回したが、当然ながら誰の姿も見えない。

「おおい、おおい」

(・∀ ・)「?」

しかしそれでもやはり声は聞こえてくるのだ。
駆け抜ける野原に響く清涼な声はとても気持ちいいものだけれど、出所がわからないとちょっと不気味に思えてしまう。

どこから聞こえてくるのか探した結果、それは僕の足元から聞こえてくることに気が付いた。
足元に視線を移すと、そこには美しい女性の顔があり、僕は驚き思わず尻餅をついた。



22: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:06:21.46 ID:7qxc1sZX0

川 ゚ -゚)「おおい、やっと気づいたか」

(・∀ ・;)「ぎゃぁああああ!」

川 ゚ -゚)「何を驚く、こんな美しい私を前にして」

(・∀ ・;)「お、驚きますよ……そりゃあ……」

川 ゚ -゚)「不思議な男だ」


その女性はクーという名前だった。
もっとも、その名前は生前のものだったので、今の名前は決まっていないらしいけれど。

青い草原に浮かぶ綺麗な女性の顔というのは、ちょっとしたホラーなハズなのに
不思議と彼女の顔を見ているとそんな気分は薄れて行った。
僕がこんにちは、と頭を下げると、クーさんは嬉しそうに微笑んだ。

川 ゚ -゚)「まぁなんにしても久しぶりの客人だ、ゆっくりしていくといい」

(・∀ ・)「………どこで?」

川 ゚ -゚)「そこらへんの草むらがオススメだ」

そこらへんの、といわれてもよくわからないので、僕は近くの草むらにごろりと寝転ぶ。
柔らかい土と、青臭い草に包まれて上を見上げる。ああ、空が高い。
一面の青空を見て、僕はほんのちょっとだけ、ウサギと呼ばれた少年のことを思い出した。



24: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:08:40.75 ID:7qxc1sZX0

そよそよと泳ぐ風が髪をなびかせ、心地よさが胸に響く。

(・∀ ・)「いーい気持ちですねー」

川 ゚ -゚))「うむ、そうだろう、そうだろう」

クーさんが嬉しそうに頷く(?)と地面が揺れ動いた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

(・∀ ・;)「うわっ、わ!」

川 ゚ -゚)「スマン、つい」

彼女は謝ったが、どうやらちょっとクーさんが動くとそれだけでこの世界は揺れてしまうらしい。
これからは動かさないようにしようと僕は肝に銘じる。
このままじゃ話題もないので、僕は気になったことを彼女へ問いかける。

(・∀ ・)「クーさんは、どうして大地になっているんですか?」

川 ゚ -゚)「ああ、良く聞いてくれた」

そういって、ちょっとだけ嬉しそうに顔を綻ばせた。
もしかしたら僕は彼女にとって本当に久しぶりのお客さんなのかもしれない。
考えてみれば、大地が話しかけてくるなんて普通ではちょっと考えられないことだ。



25: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:09:47.88 ID:7qxc1sZX0

川 ゚ -゚)「昔はここも一つの国でな、いろいろな人たちがいて、皆で一緒に暮らしていたのだが……」

(・∀ ・)「はぁ」

川 ゚ -゚)「いつも争いが絶えなかったんだ。来る日も来る日も人が死んだ」

(・∀ ・)「戦争ってやつですか」

川 ゚ -゚)「違うな」

また地面が揺れ動く、僕は少し慣れたのでさっきよりは慌てなかった。

川 ゚ -゚)「戦うのがこの国の人間の習性だったんだ。しかし私は悲しくてな」

(・∀ ・)「戦うのをやめればよかったのに」

川 ゚ -゚)「話はそんな簡単ではない。目の前で突然手を鳴らされると目を瞑ってしまうだろう?
     そんな反射と同じくらい当たり前に、私達は戦ってしまう人間だったのだ。ある種の種族ともいえる」

(・∀ ・)「悲しいですね」

川 ゚ -゚)「ああ、悲しい、とても悲しい」



26: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:11:23.88 ID:7qxc1sZX0

クーさんは心底悲しそうに、目を瞑った。
僕はなんとなく目の前で手を叩いてみたくなったけど、流石にそれは自重しておく。
目の前に映るのは一面の空だけなのに、聞こえてくるのは凛とした女性の声だなんて、ああ、ロマンチック。

川 ゚ -゚)「聞いているか?」

(・∀ ・)「聞いていますよ?」

川 ゚ -゚)「そうか、それでな、私は考えたんだ」

(・∀ ・)「何をですか?」

川 ゚ -゚)「戦わずにすむ方法を」

(・∀ ・)「あったんですねぇ」

川 ゚ -゚)「あったんだ、当時はそう思ったんだけどな。
     皆一つになれば、争いなんてなくなるって」

クーさんが憂いを含んだ目で、僕と同じように空を見つめた。
その目は少しだけ悲しそうだった。

(・∀ ・)「なくならなかったんですか?」

川 ゚ -゚)「なくならない、争いというのは絶えることがないのだよ」

そう言ってため息を吐く。
その風は竜巻となって僕の体を空へ空へと舞い上がらせた。



28: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:13:30.44 ID:7qxc1sZX0

(・∀ ・;)「ぎゃぁああああああああああああ!死ぬぅううううう!!」

川 ゚ -゚)「いや、すまん」



(・∀ ・)「加減してくださいよ本当……」

地面に降りた僕は、もう寝転ぼうとはしなかった。危険だからね。
その場にしゃがんで、クーさんの顔を見ながら、話を続けることにした。

あ、良く見ると睫の色とかは人間だったときの名残なのか、グリーンではなく深いブルーだ。
へぇ、人間だったって言うのは本当なのか。

川 ゚ -゚)「一つになっても争いは耐えない」

(・∀ ・)「へぇ?」

川 ゚ -゚)「例えば今君が佇んでいるその地面では、かつての私の幼馴染達が
     私の婿の座を争って殺し合いをしている」

(・∀ ・)「そんなばかな…」

その言葉に、僕はポカンと口を開けた。
もう皆一つになっているのに、殺し合い?どうすればそんなことが出来るのさ?

川 ゚ -゚)「出来るんだな、これが。ちょっと大地に耳を当ててみろ」



29: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:15:17.68 ID:7qxc1sZX0

僕は言われたとおり、地面に耳を押し当てた。
すると、しんとした大地の奥から、ボソボソと、小さな声が聞こえてくる…………
その声は男のように思えたが、もしかしたら女なのかもしれない。

「クーは誰にも渡さねぇ!死ね!」

「いいや、俺の女だ!死ね!!」

(・∀ ・)「……………」

その言葉を聞いて、僕はぽつりと呟いた。

(・∀ ・)「なくなりませんねぇ」

川 ゚ -゚)「ああ、まったく嘆かわしい」

(・∀ ・)「でも、少なくとも前みたいに死ぬことはなくなったんじゃないですか?」

川 ゚ -゚)「いいや」

(・∀ ・)「え?」

川 ゚ -゚)「殺しあうと、その場の草が枯れてしまう」



30: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:16:53.30 ID:7qxc1sZX0

言われて気づいた。
広い大地の中で、ぽつぽつと茶色く枯れている草があるということに。
一面の緑には似つかわしくない茶が、アンバランスさをかもし出している。

(・∀ ・)

(・∀ ・)「あーーー……」

川 ゚ -゚)「悲しいことだ。このままでは、最後に残るのは荒れ果てた大地だけになってしまう」

(・∀ ・)「そうですねぇ……」

川 ゚ -゚)「なあ、君よ」

(・∀ ・)「なんですか?」

川 ゚ -゚)「どうすれば、争いはなくなると思う?」

(・∀ ・)


 ( ´ー`)

(・∀ ・)「しらねーよ」

僕は曖昧に微笑んで、前に聞いたことのある言葉を口にした。
それは彼女に対しての皮肉のつもりだった。



32: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:18:27.80 ID:7qxc1sZX0

クーさんは何も言わない。
ただ、ちょっとだけ悲しそうに。
ちょっとだけ嬉しそうに、「そうか」とだけ言って、そのまま目を閉じた。

もしかしたら、誰にもわからないということが、嬉しかったのかもしれないし
鬱陶しい奴がいなくなったのが嬉しかったのかもしれない。

僕もそれ以上は何も言わず、その土地を後にした。





それから、喋る大地があったという話を、聞いたことはない。



33: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:22:19.58 ID:7qxc1sZX0

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リンゴンリンゴンと鐘が鳴る。
カランカランと鐘が鳴る。
重く軽く、涼やかな鐘の音は僕の心を深く揺さぶり、深の芯まで暖めてくれる。
その輝きは光に溢れ、僕は薄いヴェールの向こう側へ導かれるように吸い込まれた。



( ・∀・)「おかえりー」

(・∀ ・)「はい、ただいま戻りました」

( ・∀・)「で、今回はどうだった?」

(・∀ ・)「ご存知でしょう」

( ・∀・)「お前さ、俺に楽しさを伝えるんじゃなかったの?」

その言葉に、僕はハッとして頭を下げた
僕は神様になんて暴言を吐いてしまったんだ。
後悔に頭を抱えそのままそこへ蹲る。



34: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:23:30.03 ID:7qxc1sZX0

(・∀ ・)「申し訳ございません……」

( ・∀・)「いいけどね、別に」

(・∀ ・)「……一つ、お聞きしたいことがあるんですけど、いいでしょうか」

( ・∀・)「いいよ、別に」

(・∀ ・)「あの大地はどうして彼女だったのでしょう?」

( ・∀・)「ていうと?」

(・∀ ・)「なぜ、彼女が選ばれのかな、と。他に、争いを嘆く者はいなかったのかな、と」

その言葉に、神様はニヤリと笑うと僕の頭をぐいぐい撫でた。
細くしなやかな指が僕の髪のなかへと埋まっていく。

( ・∀・)「さぁ、どうだろうね。でも、彼女の願いが一番強かったんだろうよ」

( ・∀・)「なんせ、万物の母は皆女性なんだ」

(・∀ ・)「はぁ?」

( ・∀・)「なぜ男と、女という種族があると思う? こんなにも色んな生物が溢れているのに
     与えられる性はその二つだけだ」



35: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:24:56.91 ID:7qxc1sZX0

(・∀ ・)「……それは、必要がなかったからでは?」

( ・∀・)「なぜ?もしかしたらもっと色々な性があったかもしれないのに?」

(・∀ ・)「……私にはわかりかねます」

僕の言葉に神様は微笑み、頭の上から手をどけると、近くにあったリモコンを操作した。
すると僕の後ろに大きな映像が映る。
その映像は、様々な惑星が広がる、宇宙空間。
僕は天体になったような心地でその映像を見つめている。まるで僕がその一部にでもなったように。

(・∀ ・)「これは?」

( ・∀・)「宇宙だ」

(・∀ ・)「はい」

( ・∀・)「宇宙とはなんだと思う?」

(・∀ ・)「………?」

( ・∀・)「女の、腹の中だよ」

そこで宇宙の映像はどんどん遠ざかり、最後に映るのは――――――

(・∀ ・)「あ、あぁあ………」



36: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:26:17.46 ID:7qxc1sZX0

目を見張るほどに美しい○○○ー……
僕はこの美しさを表現する言葉を、残念ながら持ち合わせていない。
今まで見たどんなものよりも美しい、いや、美しいと呼ぶことすら罪になってしまいそうだ。
それほどまでに、…………

( ・∀・)「全てはここから生まれるのさ。だから生物は二つの性しか与えられない
     万物の母、『女』と、それに種を植える『男』
     その二つが揃えば、世界は作れるからね」
        

僕はその光景と、神様のお声を聞きながら、ぼんやりとした夢心地に入り込む。

( ・∀・)「俺からも一つ聞いていいかな」

(・∀ ・)「はい………」

( ・∀・)「最後のあの大地の質問、君は皮肉ったけれど、本当はなんて答えるつもりだったの?」

(・∀ ・)「わかりません……」

( ・∀・)「わからない?」

(・∀ ・)「争うという気持ちが、僕にはわかりません」



37: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/01(木) 12:27:42.57 ID:7qxc1sZX0

貴方という、絶対的な存在がいれば、それに従うので争うことはなくなります。
だから、僕にはクーさんの気持ちは絶対にわからないのです。
彼女の悩む理由がわからないのです。

神様はそれに苦笑しながら、再び僕の頭を撫でてきた。
僕はそのまま目を瞑る。




彼女は、あれから悩み続けたのだろうか。
争いを失くす術というのを。

見つかることを信じて

3:悩【の】

           了



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