(・∀ ・)たった一つのようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:32:10.50 ID:exc/kZR30

ここは一体どこの国?
どこの国かって?
それは今まで巡ったどこでもないさ。

じゃあここは一体何処なの?

ここは小さな島国だ。
小さな島国の、小さな都市の、小さな学校。

それが僕の世界。
そうでしょう?



君と僕の、世界。




9:打【ダ】



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:33:01.04 ID:exc/kZR30

カッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチ
カッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチ


カッチコッチカッチコッチカッチコッチ……………


まどろみの中、耳に響くのは時を刻む秒針の音
鼻腔をくすぐるのは布団に染み込んだ太陽の匂い
今、僕はゆるやかなぬくもりの中に包まれている
そのなめらかな肌触りに全てを預けながら、己の幸せをかみ締めている。

「うう、ん〜……ふふ」

カッチコッチカッチコッチカッチコッチ………

一定の間隔で聞こえる秒針音は、僕にとっては子守唄
ああ、このまま永遠にこうしていたい……。

静寂が破られたのは、その時だ。


「おい………」

「んー………」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:34:05.72 ID:exc/kZR30

なんだよ、ウルサイなあ……。
僕は今すごくいい気分なんだ、邪魔しないでくれるかな

「おいって」

「あと5分……」

すごく気持ちいいんだ
まるで夢の中にいるみたいにさ、ふふふ

「……………」

ブチンッ

あれ?今何か聞こえた?
不穏な空気に恐る恐る目を開けてみると




(#,,゚Д゚)「起きやがれゴルァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

(・∀ ・;)「うひぃぁあああああああああ!!!」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:34:58.14 ID:exc/kZR30

それは怒号、というべきか。
ともかく、凄まじい大声が僕の耳を貫いた。
その勢いでベッドから転げ落ちる僕に、男は首根っこを捕まえて睨みつけてくる。

(#,,゚Д゚)「俺を散々待たせた挙句、未だに寝てるとはいい度胸だなゴルァ」

(・∀ ・;)「あれ?え、えっとここはどこ……」

( ,,^Д^)∩「よーしよし、まだ寝ぼけているのか、俺が目を覚ましてやろう!」

ぐっと彼が拳を握ったところで、僕は叫ぶ。

(・∀ ・;)「そんなわけないじゃん! おっはーギコ!!」

( ,,゚Д゚)つ「おせえよボケ!」

(・∀ ・;)「あてーっ」

しかし時すでに遅く、持ち上げられたもう片方の手に僕はぴしゃりとはたかれた。


( ,,゚Д゚)「親友の顔を一瞬でも忘れた罰だゴルァ」

(・∀ ・)「ごめんてば」

そうだ、こいつは

僕の目の前で呆れた顔をして立ってるこの男は、僕の親友、ギコだ。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:35:49.89 ID:exc/kZR30

一瞬どうして忘れていたのかがわからなくなる。
わからないといえば、ここが僕の部屋だったという事実にも一瞬戸惑った。

なぜそんなことを思ってしまったのかもわからないけれど、とにかく、その場からむくりと起き上がった。
これ以上待たせるとまた彼の鉄拳が飛んできかねない。僕の親友は気が短いのだ。

( ,,゚Д゚)「ホレ、早く準備しろよ。遅れるだろ」

(・∀ ・)「え? 遅れる?」

( ,,゚Д゚)「……あぁん?」

(・∀ ・)

( ,,゚Д゚)「君の頭は何処までおかしくなっちまったんですかぁ? オイ
     とっとと制服着て用意しねーと、学校遅刻するだろうが!!」

("∀ " )「いたたたたたたたたた」

頭を両の手で挟まれ、拳でぐりぐりされてしまい、僕の目の前では星が飛んだ。

が、学校?

ああ、そうか僕は高校生だもんな、学校にいかなくちゃいけないですよねー。
そのことすらも違和感を感じ、僕はふらつく頭を抱えながら、手をあげた。

∩(・∀ ・;)「す、すみませんでした……」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:36:43.67 ID:exc/kZR30

( ,,゚Д゚)「わかったらさっさとしろゴルァ、俺の皆勤賞なくなるだろうが」

(・∀ ・)「ギコって変なところ真面目だよねぇ…」

見た目は不良なのに、妙に礼儀正しいギコを見ながら、制服に袖を通して言う。
こんなヤンキー面でも、微妙に優等生な変な奴なのだ。






学校に着くと、そこには見慣れた光景が広がっていた。
いつもの教室、いつもの机、いつものざわめき、いつもの風景。
なのにどうしてだろう?

見慣れた光景のはずなのに、違和感を感じてしまう。

教室の扉を開けると、そこでタイミングよくクラスメイトであるクーさんが、僕と鉢合わせした。
相変わらず美しい緑の黒髪を躍らせて、僕に手を上げて挨拶する。

川 ゚ -゚)ノ「……やぁ、おはよう」

(・∀ ・)「あ、お、お早う…」

その姿は美しい。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:37:28.02 ID:exc/kZR30

しかし僕が挨拶をすると、彼女の後ろから物凄い殺気を感じた。
目線を彼女から外すと、彼女の後ろでは相変わらず取り巻き達が凄い視線で僕を睨んでいるのが見えた。
いや、取り巻きというよりは彼氏候補、かな?

ミ,,゚Д゚彡「オイコラ、クーに話しかけてるんじゃねえよ」
  _
( ゚∀゚)「クーは俺らのもんなんだぜ?」

(・∀ ・)「いや、僕は……」

僕から話し掛けたわけでもないのに、どうしてこんなことを言われなくちゃいけないんだ。
心の中で彼らに悪態をついていると、クーさんが割って入る様に声をあげた。
その容姿によく似合う、凛とした美しい声だ。

川 ゚ -゚)「こら、やめろお前ら」

ミ,,゚Д゚彡「なんで止めるんだよ!?」
  _
( ゚∀゚)「俺はクーが好きなだけなんだぜ!?」

ミ,,゚Д゚彡「お前より俺のが好きだね!」
  _
( ゚∀゚)「あぁ!?ぶっ殺すぞコラ!」

(・∀ ・)「……………」

僕はしばらくその様子を見ていたのだけれど、クーさんが疲れたように歩き出すと
彼らもまた後を追うように歩き出した。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:38:13.02 ID:exc/kZR30

去り際に、クーさんは悲しそうな顔で「すまんな」と一言だけ言う。
その姿が不謹慎にも美しくドキドキしてしまって、これなら彼らが彼女を巡って争うのもわかる、とか思ってしまった。
僕も彼女に謝らなければいけないかなあ。

( ,,゚Д゚)「相変わらずモテる女だなゴルァ」

(・∀ ・)「ギコ、どこにいたの?」

( ,,゚Д゚)「日直だから、ビコーズ先生から日誌貰いに」

(・∀ ・)「ああ」

片手で黒い日誌を掲げたギコに、僕は納得し頷いた。
そういえば、日直なんてものもあったっけ。

( ,,゚Д゚)「ま、日誌なんて誰も読んじゃないだろうけどな」

ぱらり、と黒い表紙に2−Aと書かれたそれを開くと、その中はほとんどが落書きだらけだった。
誰も真面目に書く気は無いのだろう。
担任のコメント、という欄も空白が続いている。

(・∀ ・)「悲しいねぇ」

( ,,゚Д゚)「別に?」

僕がそういうと、ギコはなんとでもない、という風に言った。
僕にはそれが何よりも悲しいことだっていうのに。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:39:10.84 ID:exc/kZR30

その時、再び教室の扉が開いた。
入り口前にたむろっていた僕らはすぐにそこを避けたが、入ってきた奴を見て、別の奴がまた入り口前に立つ。
嫌な空気だ。

( ^ω^)「おっ……お早うお……」

(・∀ ・)「内藤君……おは(ry」

( ,,゚Д゚)「行くぞ」

(・∀ ・)「あ………」

僕が挨拶をする前に、ギコは僕の手を引っ張って引きずって行ってしまった。
目線を送っても、ギコは面倒くさそうな顔で返してくるだけだ。

( ,,゚Д゚)「あんま関わるなよ……巻き込まれるだろ」

(・∀ ・)「…………」

ギコの言葉に、再び教室の扉へ視線を向けると、そこにはさっき僕たちを押しのけて出てきた奴らが立っている。

<ヽ`∀´>「おい内藤! 昨日言ってた金、ちゃんと持ってきたニダか!」

(;^ω^)「おっ……ご、ごめんお…用意できてないお……」

( ^Д^)「ああ? 昨日あれほどもってこいって言っただろぉ!?」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:40:05.90 ID:exc/kZR30

ガンッと鈍い音と一緒に、内藤君はゴミ箱の方へ倒れた。
顔に口が開いたままのジュースがかかり、一瞬甘い匂いとすえた匂いが漂ったが
それに気にすることなく彼は謝っていた。

(;^ω^)「ご、ごめんお、ごめんお」

(’e’)「うわぁ〜謝ればいいとか思ってんの?」

( `ハ´)「最低アルね、死ねよ」

(・∀ ・)「……………」

見ていられなくて、僕は目線を逸らした。
そのことに僕は絶望する。

彼がいじめられているという事実は、クラス全員が知っている。
知っているが、誰も助けようとしない。
その事実が、僕はとても心苦しいけど

見て無ぬフリをしている僕もまた同罪なんだ。

( ,,゚Д゚)「あーあ……バカだなぁ、内藤も」

(・∀ ・)「…………」

隣で、ギコが呆れたように言う。

( ,,゚Д゚)「常識ハズレなこといったり、ニダー達に逆らったりするから、ああいう目に合うんだよ」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:41:00.90 ID:exc/kZR30

(・∀ ・)「うん………」

( ,,゚Д゚)「お前も、あんま関わんないほーがいいぞ、巻き込まれるからな」

ニダー達は、この学校でも有名ないじめっ子だ。
内藤君はたまたま奴らの目についただけ。

体育の時間、腕を広げて走っていたら、彼らにぶつかっただけ。
それだけの理由で、いじめられている。
最低だ。
奴らも。
このクラスも。

他でもないこの僕も。

<ヽ`∀´>「明日はちゃんともってこいニダよ!」

(;メω;)「わ、わかったお! ごめんなさいお!」

ゴミ箱に顔を突っ込まれて足蹴にされている内藤君を見て、僕は酷く胸が痛かった。
しかしギコは特に何も感じないようで、前の席の双子と話をしている。
このクラスではそれが普通のことなんだ。

ギコは頭もいいし、運動神経も抜群で、格好いい、リーダー的なカリスマを持っている。
だから彼が頑張れば、いじめなんてなくなりそうな気もするのに、それをしないのは、やはり興味がないからなんだろう



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:41:40.30 ID:exc/kZR30

( ,,゚Д゚)「おい弟者ー、お前昨日Mステ見た?」

( ´_ゝ`)「ギコよぅ、なんで俺には聞かないの?」

(´<_` )「そういうキャラではないからだろう。 見た見た」

( ,,゚Д゚)「マジかよ、やっぱりアレいいよなー」

(´<_` )「ああ、テルマンの新曲は俺も好きだ」

( ´_ゝ`)「え? ヤリマン?」

前の席に座っている流石兄弟も、相変わらず見て見ぬフリ。
よくわからないコントを繰り広げながら、まるで視界になんて入って無いかのように振舞う。

……でもまぁこの兄弟は最初からずっと見て見ぬフリ、いわば傍観者を気取っているから
これからも関わることはないだろう。

(´<_` )「ヤリマンは兄者には永遠に関係ないものだろう」

( ´_ゝ`)「ど、どーいう意味なのそれ……弟がわけわかんないんだけど……」

(´<_` )「兄者は生身の女性と関わることは無いだろう」

(;´_ゝ`)「ふ、不吉なこといわないでくれよ……!」

(・∀ ・)「…………」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:42:22.97 ID:exc/kZR30

僕は鞄の中から教科書を取り出すと、机の上に筆箱と一緒に並べた。
右隣の席では、携帯を弄っている女の子と
左隣の席では、本を読んでいる男の子。
どちらも見て見ぬフリだ。

(・∀ ・)「……ねぇ」

僕は男の子の方に話しかけた。

( ´・ω)「ん?何?」

(・∀ ・)「いや、なんで皆誰も何も言わないのかなって……」

(´・ω・`)「………何のこと?」

男の子、ショボンくんは僕に、彼に背を向け、何も知らない風に振舞う。
彼もまた傍観者だ。

(・∀ ・)「あの…ほら……内と」

( ´・ω)「今読書中だから、つまらない用事なら話しかけないでくれる?」

(・∀ ・)「………」

僕はごめん、と首を振ると、今度は女の子の方に話しかけた。

(・∀ ・)「ねぇ」

ノパ听)「何だー?」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:43:05.64 ID:exc/kZR30

(・∀ ・)「あ、いや……君が何も言わないって珍しいと思って」

彼女、ヒートちゃんは僕らのクラスでも唯一熱血タイプの女の子だ。
イジメだとか、卑怯なことは見逃しそうにないのに。

そういうと彼女は面倒くさそうに、携帯を回しながら答えた。

ノパ听)「ああ、あれか」

(・∀ ・)「うん、まぁ……」

ノパ听)「お兄ちゃんがほっとけって言うから」

(・∀ ・)「お兄ちゃん?」

ノパ听)「そうだぞー、わかったら、もう話しかけないで」

そういって彼女は再び携帯に没頭し始める。
もしかしたら一学年上の兄にメールでもしているのかもしれない。

彼女がブラコンだということはこの学校でも有名な話だから
しかし彼女の大好きな兄には恋人がいるというのも有名な話。
そしてその彼女はヒートちゃんの隣の席だっていうんだから、皮肉だ。

ξ゚听)ξ「ほら、デレ。あんたまたお弁当忘れたでしょ」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ〜、ごめんねお姉ちゃん!」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:46:03.47 ID:exc/kZR30

1クラスに双子が二組もいるなんて珍しいのかもしれない。
彼女達はにこにこ笑いながら、まるでそこだけが普通の空間のように振舞っている。
後ろでは内藤君が掃除用具で打たれているというのに。

从 ゚∀从「おーい、愛しのツン! 遊びにきたぜー!」

ξ///)ξ「ちょっ、バカ! 大声で変なこと言わないでよ!」

すると教室が開いて、赤毛の男が入ってきた。ヒートちゃんと良く似た赤い髪は
まるで炎のようにゆらゆらと揺れている。

ζ(゚−゚*ζ

ノパ−゚)

僕の隣の席にいる女の子たちは、どちらも静かになったけど、教室の中で
内藤くんがいじめられる音と、彼女達がいちゃつく音だけが響いている。

まったく


(・∀ ・)


このクラスは異常だ。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:47:09.39 ID:exc/kZR30

( ,,゚Д゚)「ふぁ〜あ、眠い……おう、授業中は寝るしかねぇな」

(・∀ ・)「皆勤賞は狙ってるのに授業はねるんだね」

( ,,゚Д゚)「?当たり前だろ」

(・∀ ・)「えぇ〜…」


やがて、担任が入ってきた。
いつものように、やる気のない開始の合図。
始めの頃はやる気に満ち溢れていたのに、最近ではそれは感じなくなった。
おざなりに、号令をかけていく。

( ∵)「はいじゃー、教科書開いてー」

先生がやってくると流石にニダーたちも机に座るが、内藤君がいじめられていたことなんて一目瞭然だ。
だって彼の周りには掃除用具箱の中身、ゴミ箱の中身が散乱していて、当の内藤君は頭を抑えた様子で蹲っている。

それなのに、ビコーズ先生は何も言う気配が無い。
いや、違う、誰も授業を聞いていないからか教卓で、下を向きながらブツブツ何か呟いている。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:49:11.70 ID:exc/kZR30

( ∵)「はぁ〜〜……どうしてこんなことになっちゃったんだろうな……昔はもっと…………
    畜生………どうしてこんな…昔みたいになれば………」

その声は、姿も声も小さい先生の声は、生徒達に届くことはなかった。
僕は異常なクラスの中で、ただ一人、教科書を開いているだけた。

(・∀ ・)「…………」

もう嫌だ、こんなクラス






僕が内藤君とまともに話すようになったのは、それから1週間くらい後のことになる。

放課後、ギコの部活が終わるのを待っていると、そこに内藤君は現れた。
相変わらず痛々しく腫れた頬をさすりながら。

( ^ω^)「お……」

(・∀ ・)「あ………」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:50:22.25 ID:exc/kZR30

お互い気まずい時間が流れたけれど、やがて内藤君が逃げるように走り出した。
自分と話すとどういうことになるか、知っていたからかもしれない。

しかし、焦りすぎたのか近くにあった段差にけつまづいて、そのまま大きな音をたて倒れた。
それと同時に階段から落ちていった。

(;^ω^)「ぉおぉぉおおおおおーーー!!?」

(・∀ ・;)「ちょっ、えぇええーー!?? だ、大丈夫!?」

思わず近付いて体をさすると、彼はフラフラとしながら立ち上がった。

(;^ω^)「だ、大丈夫だお、ありがとうお……」

しかしその姿はどうみても大丈夫じゃない。
僕は彼に保健室へいくことを提案した。

( ^ω^)「ほ、保健室はだめだお!」

(・∀ ・)「どうして?」

(;^ω^)「ニ、ニダーくんたちがいるから……」

(・∀ ・)「あ……」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:51:26.17 ID:exc/kZR30

しまった、失言だ。
ニダー達が授業をさぼるために、保健室を利用していることなんてだれでも知っているのに。
皆知っているからこそ、使わないのに。

(・∀ ・)「ご、ごめんね……」

( ^ω^)「気にして無いお」

内藤君はにこりと笑って首を振ったので、じゃあ、とばかりに僕は鞄から絆創膏を取り出した。
彼の顔はいつも生傷が目立つ、これを貼ったからといってどうなるわけでもないけど
どうしようもなくて、僕はそれを差し出した。

もしかしたら逃げてる自分への口実だったのかもしれない。
内藤君は素直にそれを受け取ってくれた。

(・∀ ・)「これ……」

( ^ω^)「おっ…、こんなのいつも持ってるのかお?」

(・∀ ・)「ああ、うん…ギコが、部活で怪我とかよくするから」

( ^ω^)「空手部だったおね、強くて羨ましいお」

(・∀ ・)「僕も、ギコは僕の憧れなんだ……」

強くて、頭も良くて、何でもできるギコ。
もし僕がギコだったのなら、君を救ってあげることもできたのかもしれないのに。
いや、こんなのただの言い訳か。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:52:16.89 ID:exc/kZR30

( ^ω^)「そうかお……ブーンも、ギコくんにはちょっと憧れるお」

(・∀ ・)「あ、やっぱり?」

( ^ω^)「おー、スーパーマンみたいになんでも出来るから、羨ましいお」

(・∀ ・)「だよねぇ、チートキャラだよね」

( ^ω^)「おっおっww 確かに、VIPゲーでいうところのハニャーンだお」

そこで、内藤くんが、格ゲーのキャラを例えに出してきた。
そのゲームは僕も好きだから知っているゲームだ。
格闘ゲームだというのに、全ての能力がほぼ最高値に値するチートキャラ、ハニャーン

(・∀ ・)「あー、だよね。ハニャーンは全体的に酷いよ」

( ^ω^)「勝てるわけねーって話だおwww」

(・∀ ・)「僕何回やっても勝てないんだよねー」

( ^ω^)「ブーンは何回か勝ったことあるお!」

(・∀ ・)「マジで!? すげー!」

( ^ω^)「それほどでも……あるおw」

(・∀ ・)「wwwwww」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:54:50.53 ID:exc/kZR30

楽しい
そんなことを思ってしまうのは、酷い話かもしれないけど、内藤君と話していると僕は
とても楽しかった。
時間がたつのも忘れていて、気が付けばいつの間にか日は暮れ赤い夕日が僕らの顔を照らしていた。
そろそろギコの部活も終わる時間だ。
僕は鞄を持ち直すと、内藤くんに別れを告げる。

(・∀ ・)「そろそろ行くね、内藤君」

( ^ω^)「お! ブーンでいいお」

(・∀ ・)「ブーン?」

⊂( ^ω^)⊃「ブーン! 空も飛べるはず!」

(・∀ ・)「………あはっ、うん、じゃあ、ね。ブーンくん」

彼は自分のことを良くブーンと呼ぶ。
それはいつも腕を広げてブーンと言っていたからだ。
空を飛ぶのが夢だ、という話を聞いたこともある。

僕は手を振って、ちょっとだけ気持ちを晴れやかにして分かれると、ギコの方へと向かった。
彼のいる体育館は、ここを出てすぐだ。しかし

( ,,゚Д゚)「……よう」

(・∀ ・)「あ………」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:56:03.17 ID:exc/kZR30

曲がり角を曲がったところで、すぐギコと鉢合わせた。
彼はなんだか不機嫌そうに眉間に皺を寄せていて、一見して、僕とブーンの会話を聞いていたんだとわかった。

(・∀ ・)「い、いつから……?」

( ,,゚Д゚)「15分くらい前かな」

(・∀ ・)「…………話しかけてくれればよかったのに」

( ,,゚Д゚)「楽しそうだったからな」

苦々しげに言う口調は冷ややかで、やっぱり気に食わないんだろうと思った。
彼と関わったら、僕もいじめに巻き込まれることは目に見えている。
僕はギコの袖をくいとひっぱり、言った。

(・∀ ・)「ブーン、いいやつだよ」

( ,,゚Д゚)「……そうかもな、でもニダー達に目をつけられてる」

(・∀ ・)「ニダー達は単なる気まぐれなんだよ、なぁギコ、ブーンを」

( ,,゚Д゚)「お前」

(・∀ ・)「え?」

( ,,゚Д゚)「あんまり内藤と仲良くしてたら、お前まで目つけられんぞ」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:57:40.99 ID:exc/kZR30

その言葉は、とても切実で、射抜くようなギコの目が僕を捕らえてくる。
だけど、僕はその目に答えられ無い。
もしかしたら、もうとうに限界なのかもしれない。

(・∀ ・)「うん……そうなんだけど………とても苦しいんだ」

( ,,゚Д゚)「ああ?」

(・∀ ・)「自分が無力すぎて、……眩暈がする」

頭が暗闇に沈んでいきそうなんだ。僕はどうしてこうなんだろうって

( ,,゚Д゚)「……………」

(・∀ ・)「ギコ、僕はね、とても……」

言いづらそうにまごついていると、ギコは僕から視線を外し、そのまま歩き出した。

(・∀ ・)「あっ……」

僕はその後ろを無言で追いかけていく形になる。
お互いに、交わす言葉は無かった。

ギコが言いたいことはわかる。
僕とギコは友達だから、ギコは僕がいじめられるのは嫌なんだろう。
でもギコとブーンくんは友達でもなんでもないから、関わりたくない。
面倒だから。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 22:58:30.37 ID:exc/kZR30

でも、僕は…………




(・∀ ・)「ギコ?」

(  ,,゚)「……………」

(・∀ ・)「ギコってば」

( ,,゚Д)「………お前が」

(・∀ ・)「うん」

( ,,゚Д゚)「お前が、いじめられたら俺は助けてやるけど、ブーンは知らないぞ」

(・∀ ・)「……………」

それっきり、僕達は言葉は交わさなかった。

僕はずるい。

卑怯な奴だ。
そんなの、最初からわかっているさ。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:00:42.62 ID:exc/kZR30



それから、合い間を見つけては、よくブーンくんと喋るようになった。

(・∀ ・)「今度あれの2が発売されるらしいよ」

( ^ω^)「マジかお、楽しみすぎるお!」

それは主にゲームのことだったり、たわいも無い世間話だったけど
ニダー達がそれを見逃すわけもなかった。

そんなこと、最初からわかっていたのにね。


<ヽ`∀´>「おい、お前最近内藤と仲いいニダ?」

(・∀ ・)「え………」

(;^ω^)「お……」

教室の真ん中で、突然ニダーが僕とブーン君を見てそういった。
教室中が波打つように静かになり、痛いほどの沈黙が僕を襲う。
だけど、誰も話しかけようとはしてこない。

( ^Д^)「仲いいんならさ、お前も俺らの下僕だよなwww」

(・∀ ・;)「そ、そんな……」

(’e’)「うわぁ〜〜、いい訳とかキモいんだけど」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:02:19.43 ID:exc/kZR30
ニダー達の取り巻きに囲まれ、僕は喉がカラカラと干からびていくのを感じた。
頭がぐらぐらして、喉には何かが詰まったかのように何を喋ればいのかわからない。
貧血を起こしそうな感覚に似ている。

ブーン君はいつもこんな気持ちを味わっていたのか?

心臓がドクドクと大きな音を立てている。

( `ハ´)「黙っていないでなんとか言えアル!」

(・∀ ・)「ひっ……!」

突然、シナーの手が僕の右頬に伸びてきて、硬く握られた拳が、僕の頬を強く打った

(;^ω^)「!」

<ヽ`∀´>「そうニダ! 大体お前、内藤なんかと仲良くしてんじゃねーニダ!」

( ∀  )「うぁっ!」

再び打たれた。
それに続くかのように、次々と拳が僕を襲う。

打って
打って
打って
打って



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:03:25.93 ID:exc/kZR30

(#)∀ ・)「いっ………」

誰も間に入ろうとはしない。
口の端から血が零れて、鉄の味が広がった。
ブーン君はおろおろしながらその場に立っていたが、怒号とも呼べる彼の声で、

一瞬にして教室の空気は変わる。


( ,,゚Д゚)「……やめろゴルァ!」


<ヽ`∀´>「!」

( `ハ´)「!」

( ^Д^)「!」

(’e’)「うわぁ」


ギコは僕を立たせると、ニダー達に詰め寄った。

<ヽ`∀´>「じゃ、邪魔すんなニダ!」

( ,,゚Д゚)「別に邪魔する気はねーさ、内藤いじめんなら好きにしろよ、俺には関係ねーし」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:04:25.71 ID:exc/kZR30

( ^Д^)「そいつは内藤と仲いいから、いじめてんだよ! バーカwww」

( ,,゚Д゚)「あぁ?」

(;^Д^)「な、なんだよ……」

( ,,゚Д゚)「こいつと内藤は別に友達じゃねーよ」

(・∀ ・)「え………」

( ,,゚Д゚)「そうだろ?」

ギコが、頷けという瞳で僕を見てきた。
僕は唇が、さっきより乾いてくのを感じる。
冷たい、なんだか寒気がする。喉が渇いて、うまく言葉が出てこない。

視界の端にはブーンくんがいる。
きっと今彼を友達といえば、彼は救われるのかもしれない。
でも、それはギコを裏切ることになってしまう。
どうすればいい。僕は

<ヽ`∀´>「そうニダ? お前、内藤と友達じゃないニダ?」

(・∀ ・;)「あ……あの……」

( ^Д^)「さっさと言えよ!」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:05:27.82 ID:exc/kZR30

プギャーが拳を握り、僕は思わず目を瞑った。
怖い。
どうしようもなく、怖いんだ。

でも

( ,,゚Д゚)「おい、早く答えろ。お前は、内藤と友達なんかじゃ、ねーだろ?」

ギコが焦ったように聞いてきた。

( ^ω^)


その言葉に

(・∀ ・)「…う…………うん」

僕はかすかに頷いてしまった。
目から涙が零れ落ちる。
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
僕はどこまでもずるくて卑怯で弱くて、自分が助かることしか考えていない愚か者です。
さいていな にんげんです



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:06:53.59 ID:exc/kZR30

<ヽ`∀´>「ホルホルホルwwwwやっぱりそうニダか!」

( ^Д^)「まぁ、クズ内藤に友達なんかいるわきゃねーけどなwwwwプギャーwww」

( `ハ´)「じゃあ、やっぱストレス解消は内藤に限るアル」

(’e’)「うわぁ〜〜〜一人で友達とか思ってたかもしれない内藤、かわいそ〜〜」

げらげらとした笑い声が耳に響いた。

( ^ω^)「……………」

ブーンくんは、何も言わない。
僕の方を見ようともしなかった。
ギコが僕を立ち上がらせて、教室の外に連れ出そうとするけど、僕はそこから目を離せそうにもない。

ブーンくんが、笑う。
その笑顔は、今まで見たことも無いような悲しい笑顔だった。

( ^ω^)「そんなこと」

<ヽ`∀´>「?」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:07:25.20 ID:exc/kZR30


( ^ω^)「そんなこと、最初からわかってたことだお」



ブーーーーーーーーーーーン………

両腕を広げ、いつものように走りながら
大きな声でそう言って



ブーン君は教室の窓から飛び降りた。


( ∀  )「………………!!!」




「うぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:08:58.05 ID:exc/kZR30




それから………
それから、どうなったんだっけ?
よく思い出せないんだ。
大きな騒ぎになった気もするし、そうじゃなかった気もする。
あれから僕は何があったかよく覚えていないんだ。

ただ、今部屋にはギコがいて、僕のことを心配そうに見ている。

僕は、何も言わなかった。
僕が殺した。
僕がブーン君を殺した。

友達を裏切って。

殺したんだ、僕が人殺し
僕が

うつろな目を向けると、ギコが泣きそうな顔で僕を見ている。


( ,,゚Д゚)「よう、今日も学校さぼっちまったよ」

僕は何も答えない。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:10:11.81 ID:exc/kZR30

( ,,゚Д゚)「なぁ、……たまにはなんか喋ってくれよ、知らなかったんだよ」

僕は何も答えない。

( ,,゚Д゚)「お前が、そんなに追い詰められてたとか、知らなかったんだ。
     だってお前の……一番の親友は俺だと思ってたから」

僕は何も答えない。

( ,,゚Д゚)「……なんとか、言ってくれよ」

僕は何も答えない。

窓際においてあるテーブルに顔を向けると、はたはたと揺れるカーテンの近くにある鏡に
ひどくやつれた僕の顔が映った。ひどいな、まるで死人みたいだ。


( ,,゚Д゚)「なぁ、俺が悪かったよ? ゴメン、な。謝るから、頼むから………
     いい加減、戻ってきてくれよ」







( ,,゚Д゚)「モララー」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/24(土) 23:11:49.18 ID:exc/kZR30

ギコの涙が、雫のように、僕の顔に流れ落ちた。

( ,,;Д;)「くそっ……くそっ………」

鏡に映った僕の顔からも、一滴の涙が落ちている。
でもそれは僕の涙じゃない。


( ;∀・)


これは、神様の涙だ。


9:雫【ダ】


        了



戻る次のページ