从'ー'从は死神のようです

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 21:57:45.24 ID:BYEg9OpBO



八話「箱入り娘に幸あれ」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 21:59:32.99 ID:BYEg9OpBO
日差しも穏やかな昼下がり。
住宅街の片隅に、真新しい公園があった。

安全性もばっちりの遊具も充実し、中央にち象をかたどったびっこに一番人気の滑り台、公園の奥には東屋も設置されている近隣憩いの場所だ。

( ^ω^)「よし、ギコ軍曹!ここはこのブーン総司令官としぃ中尉に任せて水を汲んでくるお!」

(, ゚Д゚)「らじゃ!」

象さん滑り台の真下に設けられた砂場からその声は響いてきた。

顔と服を砂まみれにした三歳児程のちびっこが一人、勇ましく敬礼一つ残して、プラスチックの小さなバケツを持って走り去っていく。

その後ろ姿を笑顔で見ながら、

( ^ω^)「しぃ中尉!弾切れだお!すぐさま物資補給を頼むお!」

(*'ー')「まかせて、おにぃ……じゃなくて、りょーかい、そーしれーかん!」

命令を受けたのはお下げが可愛らしい、同じく三歳児程度の女の子。
すぐさまシャベルを駆使して必死に砂をかき集め始める姿は、微笑ましいものがある。

うむ、と満足げに見やったそーしれーかんとやらは、再び、水面に浮上してきた瞬間、という微妙な構図の潜水艦の建造に取り掛かった。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:01:45.88 ID:BYEg9OpBO
学生服のズボンに腕をまくったワイシャツ姿で幼児と砂遊びに取り組む姿は、一生懸命で清々しい。

近くのベンチにかけられた制服のブレザーを見れば、どこぞの高校の生徒であることは一目瞭然だったが、時刻的にボイコット真っ只中といったところだろう。

( ^ω^)「くぅ、ここの輪郭が上手く表現できんお!
水、水はまだかお!?早くしないと味方に犠牲が出るお!」

戦場はにわかに緊張感を漂い始めているようだった。
そこへ、短い足を交互に急がせて、ようやく先程のちびっこが帰還した。

(, ゚Д゚)「そーしれーかん!あっちに変なのある!」

戻ってきて早々、男の子は東屋の方向を指差して情報を提供した。

( ^ω^)「マジかお!もしかしたら敵の強襲部隊かもしれんお。
よし、見に行くお!」

らじゃ、と舌足らずな声で二人は同意し、三人は東屋への接近を試みた。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:03:44.61 ID:BYEg9OpBO
砂のテーブルと木の椅子が設けられた小さな建物は、しっかり屋根も備わっていて、急な雨も凌げる休憩スペースとして用いられる場所だった。

その東屋の下、どう好意的に見てもあまり近寄りたくないものが置いてあるのを見つけてしまう。

恐らくは冷蔵庫を入れていただろう段ボールが縦に置かれ、その前面には「拾ってください」の文字が汚い手書きで躍っている。

上部から黒の髪を束ねたポニーテールの少女の首が、まるで段ボールから生えているようかのように出ていた。

比喩でも何でもない箱入り娘。

ぽかぽかとした陽気に当てられ、そんな状況であるというのに、少女は口を半開きにして器用にも立ったまま寝入っていた。

ちなみに、ギコ軍曹としぃ中尉はそんな死神がもちろん見えるはずもなく、段ボールしか見えていない。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:05:10.23 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「渡辺さん、ちゃんと公園デビュー出来てるお」

それを目にしたそーしれーかんはぽつりと呟き、続いて何か思い付いた様子で言葉を繋いだ。

( ^ω^)「よし、こうしてはいられないお!何かお祝いをしてやるお。
しぃ中尉、ペンか何かをママから借りてきてくれお!」

(*'ー')「ペン?うん、ママにきーてくる!」

少女はそう言って公園の入り口で談笑している母親の元へ走っていった。

トテトテと危うい足取りで走る少女は、井戸端会議に勤しむ母親と一言二言会話を交わしてすぐに戻ってきた。

(*'ー')「どうじょ!」
( ^ω^)「うむ、ご苦労だお!ご褒美にこれあげるお!」

黒のマジックペンを受けとるかわりに、箱入り娘のポニーテールを勝手に解いて髪留めのゴムを少女に渡す。

わーい、と喜ぶ少女を尻目に、きゅぽんっと小気味良い音を立ててそーしれーかんの少年はマジックペンの蓋を取った。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:06:51.90 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「やっぱり冴えないオーラを消し去るべきだお。
死神らしく恐怖を煽れるようなメイクを心掛け、なおかつ戦場に咲く一輪の花のような可愛らしさを添えて、」

きゅきゅっとペンを走らせ、悪戯書きを少女に施した。

( ^ω^)「仕上げは……これでいいお!」

可愛らしい少女の顔が見る影もないほどの仕上がりに、少年はご満悦だった。

( ^ω^)「題して、君に幸あれ!だお。マジオーラ感じる」

顔中に落書きされようと、箱入り娘は一向に起きる気配がなかった。

( ^ω^)「寝てるんじゃ面白くないから、このまま放置プレイでいいお。
さぁ、潜水艦造りの作業に戻るお、二人とも!」

てんとう虫を観察していた二人はブーンの言葉に反応し、びしっと敬礼を決めて見せた。
二人を連れ、そーしれーかんは戦場へと引き返す。

すやすやと寝入る少女は、いつまでもいつまでも夢の世界を満喫していた。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:08:36.45 ID:BYEg9OpBO
津田麗子は肩を怒らせて足早のペースで帰宅の途に着いていた。

ξ#゚听)ξ「ブーンのやつ!サボるなっていつも言ってるのに、いい度胸してるじゃない!」

肩に届くか届かないかくらいの金髪に、スレンダーな体型と女性にしては高い身長がモデルを思わせる。

しかし、せっかくの綺麗な顔立ちを、今は険しく歪めているせいで近寄りがたい雰囲気を出していた。

ぶつぶつと文句を口にしながら、「津田」の名が刻まれた表札の一軒家を通り過ぎる。

十メートルばかり通り過ぎてからぴたりと止まり、くるりと反転、来た道を引き返しシンメトリー構造の綺麗な外装の玄関へ鍵を挿した。

ξ////)ξ「通り過ぎたのも、絶対ブーンのせい!」

その頬は、心なしか恥ずかしげに赤く染まっていた。

力任せに扉を開け放ち、脱いだ靴を揃えもしないで自室に入る。

( ^ω^)「あ、おかえりだお」

ξ゚听)ξ「ただいま!」

投げ捨てるように鞄を下ろし、すぐさま出ていこうとする。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:09:56.79 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「どっか行くのかお?」

ξ#゚听)ξ「ブーンに文句言ってくる!」

( ^ω^)「おっおっ、行ってらっしゃいお」

バタン、とドアを閉めて階段を降りたところで、ツンはようやくおかしなことに気付いた。

今、誰と、会話、していた?

降りたばかりの階段を駆け上がり、乱暴にドアを開けた。

ξ#゚听)ξ「何でブーンが私の部屋にいるのよ!」

( ^ω^)「あ、おかえりだお。ブーン君には会えたかお?」

そこには、ベッドの上で寝転んで本を読んでいるブーンその人の姿があった。

ξ;;;゚听)ξ「アンタだ、ブーンは!……てか、ちょ、その本!!!!!!!!1!」

( ^ω^)「あ、これかお?ベッドの下に隠してあったお。
ツンってば、こういう趣味もあったのかお」

そう言ってブーンは朗読し始める。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:11:39.47 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「明人は憂いを帯びた目で見てくる弘樹をたまらず抱きしめた。

『狂おしいこの感情を、お前にぶっかけたい!』」

ξ;;;゚听)ξ「ば、ばか!読むな!」

( ^ω^)「乱暴な手つきで学生服を脱がしていく明人。

『男なのにこんな綺麗な肌をしてるなんて、ずるすぎだろ?』」

ξ////)ξ「やめなさい!!!!!!!」

顔を真っ赤に染めて、ツンはブーンに飛び掛かる。

( ^ω^)「ツンは大胆だお。明人君のように、少しくらい乱暴でいいから早くブーンの服を脱がせてくれお!」

ξ;゚听)ξ「誰が脱がすもんですか!」

( ^ω^)「むぅ、十八禁の展開を希望するお!」

頬を膨らませるブーンを無視し、奪取したBL小説を後ろ手に隠してツンはベッドから立ち上がる。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:14:19.67 ID:BYEg9OpBO
ξ#゚听)ξ「もー、乙女の部屋で何してるのよ!そもそも、どっから入ってきた!」

( ^ω^)「あ、窓開いてたお。そして、乙女のたしなみを垣間見てたお、てへっ」

見れば、窓はしっかり開け放たれていた。

ξ#゚听)ξ「いい加減、窓から窓を飛んでくるの止めなさいっていつも言ってるでしょ!
落ちたら怪我じゃ済まないんだから!」

窓の外は、一メートルもない距離に隣の家の窓に面していた。
そこがブーンの部屋でもある。

( ^ω^)「いやほら、彼女の趣味嗜好を把握するのも彼氏の仕事だお。
あ、何ならブーンの趣味嗜好を表すものを持ってくるかお?」

ξ゚听)ξ「結構!どうせ下らないえっちな本に決まってるんだから!」

( ^ω^)「ほぉ、男同士の絡み合いは下らないえっちな本に当てはまらないのかお?」

ξ゚ー゚)ξ「……絞殺溺死飛び降り、選びなさい」

( ^ω^)「ツン、いつになくSっ気全開だお。あの日かお?」

ξ゚ー゚)ξ「あの日じゃないけど、血が見たい気分」

ブーンを射抜かんばかりの目付きは本気そのもの。
さすがのブーンもご機嫌を伺わないわけにもいかなかった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:16:32.30 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「まぁまぁ、そんな怒るなお。明日こっそりベッドの下にプレゼント用意しとくお。
どんなんがいいお?先輩もの?後輩もの?それとも先生とかのほうがいいかお?」

そうでもなかった。
むしろ神経を逆撫でしている。
プルプルと怒りに身を震わせるツンが怒りを爆発しそうなその時、来訪を告げる間延びした音が鳴り響いた。

( ^ω^)「お客様だお?」

ξ゚ー゚)ξ「もちろん、無視。今はブーンにお灸をすえなきゃ」

これ幸いと客の出迎えを勧めるが、そう上手くはいかなかった。
ちっ、と舌打つブーンだが、状況はブーンに味方しているようで、執拗に、それこそしつこく来訪者は鈴を連打し始めた。

ξ#゚听)ξ「あーもう!うるさい!ちょっと行ってくるから、逃げずにそこで待ってなさい!」

( ^ω^)「おっおっ、車に気をつけるおー」

馬鹿は無視して、BL小説を投げ捨ててからツンは玄関に向かった。
両親共に働きに出ていて、自宅警備を任せられる身としては面倒くさいとしか言いようがない。

階段を下りている最中にも連打は止まず、チャイムのボタンに何か相当の恨みでもあるんじゃないかと疑いたくもなるほどだ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:18:48.08 ID:BYEg9OpBO
ξ#゚听)ξ「うるさい!どこのどいつよ!」

客を出迎えるには乱暴な勢いで玄関の扉を押し、ゴン、と何かにぶつかる音にも気にせず開け放った。

从;'ー'从「やっと出てきたのはいいですけど、おでこぶつけて痛いです!」

そこには、奇妙奇天烈な格好というか、もう全体的に突っ込みどころ満載な少女が立っていた。

手には物騒極まりない大鎌を構え、白を基調てしたフリフリのメイド服に身を包んだ中学生くらいの女の子だ。

それだけならまだマシなのだが、顔中に黒ペンで落書きされていて、本来の顔立ちが全くと言っていいほど分からなくなっている。

口元には薔薇をくわえ、顎に線を付け足されて二重顎に仕立てられ、パッチリお目目と極太眉毛、極めつけに額に刻まれた『拾ってください』の文字。

どこの捨て犬だと聞いてみたくなる仕様だった。

ξ゚听)ξ「死神なら間に合ってます」

とりあえず、ツンはなかったことにして、扉を閉める。

そして、堪えていた笑いをしずめるために必死に深呼吸を繰り返した。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:20:36.30 ID:BYEg9OpBO
从;'ー'从「ちょっと、ツンさん!?綾子です!綾子ですってば!!」

扉一枚向こうで、少女は必死に自己主張してきた。

从;'ー'从「ドア開けてくださーい!
……あ、チャイム鳴らなくなっちゃいました」

鳴らし続けていた呼び鈴が、連打に耐えかねてその短き生涯を閉じた。

笑っている状況じゃなくなったことを悟り、ツンは慌てて扉を開けた。

これ以上壊されたら親に言い訳が効かない。
お約束通りに、ゴン、と音を立てて来訪者を迎えた。

ξ゚听)ξ「あ、綾子ちゃんだったの。
ナチュラルメイクなのに別人みたいに可愛かったから知らない人かと思ったわ」

从*'ー'从「結構角は痛かったですけど、そんな本音を直球でぶつけられると嬉しいので許します」

冗談を本気で受け取られる反応が困ることをツンは初めて知った。初体験だ。

ξ゚听)ξ「はは、こやつめ。
とりあえず中入る?用があって来たんでしょ?」

从'ー'从「はい、さすがはツンさん、ブーンさんと違って優しくて頼りになります!」

ドジで間抜けで天然素材の死神少女を家に上げながら、綾子ちゃんだけにはあまり頼られたくないわね、と思うツンであった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:22:05.08 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)ノ「おいすー、渡辺さん。
まま、汚いとこだけどブーンがちゃんと掃除しといたから、ゆっくり休んでいくお」

当たり前のようにツンの自室で出迎えたブーンは、今度は手に『バストアップ百の方法』と書かれた書物を読みふけっていた。

ξ;゚听)ξ「また人が隠しているものを!どうやって見つけてくるのよ!」

( ^ω^)「本棚の後ろに隠してありましたお。
ツン、やっぱり揉むのが一番いいって医学的にも証明されてるお。
その手の研究の第一人者であるブーンでよければ、昼夜問わず寝ず寝させずに協力するお」

ξ;゚听)ξ「却下!あーもう、乙女の秘密がどんどん暴露されてく……」

普段は麗々しく冷静なツンだが、今は精神的に参って部屋の隅で体育座りでもしそうな様子だった。

从'ー'从「ブーンさん、お久しぶりです!私もバストアップしたいです!」

幼児体型を抜けきらない少女はここぞとばかりに主張し始めたが、絶対的に間違いなく揉まれるという行為の意味になど気付いてなく、もちろんブーンは勃起した。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:24:15.83 ID:BYEg9OpBO
(;^ω^)「……わ、わわ、渡辺さんは却下だお。
手応え皆無に近そうだから、握力の強化にも繋がらんお。
それに、さっき公園で会ったから久しぶりじゃないお」

必死に話を反らそうと、お断りの旨を伝えるブーンに、ツンは疑問を発した。

ξ゚听)ξ「……さっき会ったって、じゃあ、あの芸術はブーンの仕業?」

( ^ω^)「だお!強く優しく賢い子に育ってほしいという思いを形にしたお」

ξ゚听)ξ「ただでさえ痛い子なのに、さらに痛さが強化されただけだわ」

( ^ω^)「むぅ、仕方ないお。真の芸術とは理解されがたいものだお」

从'ー'从「何の話ですかー?」

いまだに顔の落書きに気付いていない天然素材は、小首を傾げながら問いかけた。

( ^ω^)「あれだお。ほら、公園デビューも飾って、段ボールハウス生活にも慣れた渡辺さんに、大人の風格と芸術的な……芸風?
みたいなのが備わったなって話だお」

ξ゚听)ξ「ブーン、それ絶対誤魔化しきれてないわ」

从*'ー'从「何かよく分かんないですけど、褒められてるのだけはよく分かります」

神経がアレな勘違い娘は正しく勘違いして照れた表情を見せる。

それと対照的にツンは、溜め息をつき疲れた表情を見せた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:26:09.67 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「それはそうと、渡辺さん。何か用があって来たのかお?
あ、さてはこの『バストアップ百の方法』を奪いに来たのかお!?
これはツンの聖典と書いてバイブルと読む大切な本なんだから、例え脅されたって死守するお!!!」

ξ;゚听)ξ「そこまで大事にしてないわよ!」

( ;ω;)「胸が小さいのをコンプレックスにしてるツンの、涙ぐましい努力の結晶を奪わないでくれお……」

さめざめと涙を流す演技に全力を傾けるブーン。

ξ;゚听)ξ「……もうどうとでも言いなさい」

はぁ、と溜め息を漏らすツンは投げやりに突っ込みを放棄した。

从*'ー'从「ツンさんと違って私はまだ成長期ですから、そんな本に頼る必要なしです!」

( ^ω^)「それは地雷だお」

ξ#゚ー゚)ξ「……この狂おしいまでの殺意はどこに向ければいいのかしら」

さらりと吐かれた毒は確実にツンを蝕んだ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:27:53.45 ID:BYEg9OpBO
从'ー'从「用というのは他でもない、私を助けて欲しいってことです!
私、命狙われちゃってます!」

ばーん、と効果音を自分で口ずさんで渡辺は演出した。

( ^ω^)「あー、そんなことかお。
てっきり、子供の無邪気な遊び心で段ボールハウスが破壊されかけてるかと思ったお」

从#'ー'从「そんなことって何ですか!?
確かに、木の枝とか刺されてたり、ゴミとか虫とか投げ入れられてますけど、それとはまた別の問題です!」

( ^ω^)「むぅ、ボケてもそれ以上の返しがくるお。恐るべし天然」

从;'ー'从「黒ひげ危機一髪だー、ってやられる身にもなってほしいです!」

( ^ω^)「むしろ、木の枝じゃ物足りないから死神の大鎌でサクッとやらせてみたいお。
今度それ貸してみるお。この本貸すから」

ξ゚听)ξ「一応、本の所有権を主張してもよろしいかしら?
涙ぐましい努力の結晶のなんとやらなんで」

怒っても無駄だと判断して、ツンは普段の冷静さを何とか取り戻したようだった。

こめかみに青筋が出てるのを見ると必死に耐えている、といった感じだが。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:30:37.40 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「ほら、渡辺さんのせいでツンが怒ってるお。
一緒に謝るから、ごめんなさいするお」

从;'ー'从「あ、ごめんなさい……私が間違ってました……」

素直でアレな少女は、何が悪いのかも分からずに、言われた通りに申し訳なさそうに謝った。

( ^ω^)「よし、いい子だお!後はブーンがツンのご機嫌を取っておくから、今日の所は帰るお」

从*'ー'从「私のためにありがとうございます!ブーンさん、いい人ですね!」

では、お願いします、と元気よくお辞儀して、渡辺はトコトコと部屋を出ていった。

ξ゚听)ξ「まんまと丸め込まれてるわね、あの子」

( ^ω^)「うむ、宗教勧誘とか結婚詐欺に必ず捕まるタイプだお」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:32:01.26 ID:BYEg9OpBO
ξ゚听)ξ「ブーンはもろちん……もういいや、騙す側よね?」

( ^ω^)「人聞きが悪いお。ブーンなら騙される振りして、根こそぎ奪うお」

ξ゚听)ξ「言われてみれば納得。さて、天然少女はいつ頃戻ってくるかしら」

( ^ω^)「意外と明日とかまで気付かなそうだお」

ξ゚听)ξ「ありえるから困るわ。まぁ、少しだけ待ってみましょ」

( ^ω^)「おっおっ、じゃあ待つ間暇だから、十八禁ごっこでもやるお!ブーンは明人君で」

ξ゚听)ξ「未来永劫、そんなのやらないわ」

ある意味、二人の世界に突入したようだった。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:36:33.68 ID:BYEg9OpBO
結局、渡辺が戻ってくるまでの所要時間は一時間と七分ぴったりだった。

从;'ー'从「何で私が謝らないといけないんです!?
そんな簡単に騙されませんよ!」

ハァハァと息を切らせて戻ってきた天然娘は、完全に騙されていたというのに開口一番にそう言った。

ξ////)ξ「あ、ブーン、そこ気持ち良い。もっと強く……」

( ^ω^)「ここかお!?もっと下かお!?
今こそペンタゴンも恐れ戦かせた全力を出してみせるお!」

ξ////)ξ「あぁー!痛い!痛い!でも気持ち良い!」

( ^ω^)「やめられない」

ξ////)ξ「とまらない」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「カルビーかっぱえびせん♪」


从'ー'从「……何やってるんですか?」

無視された渡辺は、楽しげに話す二人を半目で睨みつつ問いを発した。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:38:21.85 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「何ってツボ押してるんだお。
血流を良くすることがバストアップに通じるって、この本に書いてあるから試してるんだお」

そこには、ベッドにうつ伏せたツンの首筋を、本片手に揉んでいるブーンの姿があった。

ξ゚听)ξ「あ、綾子ちゃんお帰り。お土産ないの?」

首だけを振り向かせてツンが言うのだから、渡辺としては腹立たしいことこの上ない。

从#'ー'从「お帰りじゃないです!
助けを求めに来た相手を丸め込んでおいて、くつろいでるなんて不愉快はだはなしいです!←なぜか変換できない」

( ^ω^)「お怒りのところ申し訳ないけど、『甚だしい』が正解だお」

ブーンは丁寧に訂正を申し立てた。

从'ー'从「いいんです、はだはなしいの方が!
怒りが伝わる気がしますから!フィーリングを大事にするんです!」

ξ゚听)ξ「綾子ちゃんの場合、フィーリングばっかりじゃん」

ツンの指摘は正しかった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:40:14.50 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「気になったんだけど、何でここにブーンがいると分かったんだお?
それもフィーリングかお?」

いつもツンの部屋に居るわけじゃないのだから、的確にブーンの居場所を捉えて出向いてきた渡辺の探索能力に疑問が湧く。

迷子の申し子たる天然娘は、馬鹿だなぁブーンさんは、という顔をして答えた。

从'ー'从「死者の書にブーンさんの住所が載っていたのを忘れましたか?
私、偉いからちゃんと記憶してました!えっへん!」

薄い胸を張って、死神少女は己を誇った。

ξ゚听)ξ「……ここ私の家。ブーンの家は隣よ」

ツンに間違いを指摘されて、渡辺の笑顔がぴたりと止まる。

どうやら、完全にブーンの家だと思っていたようだった。

从;'ー'从「……も、もちろん知ってますよ、えぇ!
一流の死神ともなれば、ターゲットの行動予測が出来て当たり前ですからね!
ブーンさんがツンさんの部屋に居るのを私はフィーリングで感じ取っていました!」

ξ゚听)ξ「予測してるならフィーリングいらないじゃない」

そもそも、単に間違えて隣の家を訪ねたら偶然ブーンが居た、という状況であることは誰の目にも明らかだった。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:42:34.27 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「………」

ブーンは、ばっかじゃねーのこいつ、という目で渡辺を見た。

从;'ー'从「うぅ、こんなトラップに引っ掛かるとは、一生の不覚です……」

( ^ω^)「そのまま切腹とかしてくれると、面倒事に対処しなくて済むお」

武士の時代じゃないことを悔やんでから、ブーンは仕方なく話を進めた。

( ^ω^)「……段ボールハウスの縄張り争いの果て、だったかお?」

从'ー'从「違います!私を狙ってるのは天界からの刺客です!」

( ^ω^)「命を狙われるのは男の勲章みたいなものだから、素直に喜んどけお」

从'ー'从「私は女ですから、そんな勲章はブーンさんにあげます!」

( ^ω^)「いやいやいや、僕なんてそんなwwwwwwww
一人じゃ電車も乗れない男でサーセンwwwwwwwwww」

从'ー'从「私なんて、自転車は補助輪あっても乗れるか怪しいです!」

(#^ω^)「何を!ブーンなんてこの間、架空請求に引っ掛かって五万円払ったお!
返せお!!!!!!!!!」

从#'ー'从「私なんて私なんて、未だに九九が言えません!!!!」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:46:42.83 ID:BYEg9OpBO
ξ;゚听)ξ「何を競ってるんだ、何を」

プライドを削り合う、世にも不毛な争いはツンが突っ込まなければ果てしなく続きそうな雰囲気だった。

( ^ω^)「まぁ、そんなわけで、公園で一人暮らしも出来る立派な大人になったんだし、降りかかる火の粉は自分で払うんだお

ξ゚听)ξ「立派な大人は公園で暮らしたりしないけどね」

しっかりと突っ込むツン。

そうしている間にも、ブーンは逃げ出そうと動き出していた。

ξ#゚听)ξ「馬鹿ブーン、窓から出るなってさっき言ったばかりでしょ!」

( ^ω^)「心配いらないお、ハニー。
男は愛する女を残して死んだりしないものだお」

決め台詞とウインク一つ残し、窓枠に足をかけたブーンはジャンプ一つ、窓から窓へ飛び移った。

从*'ー'从「私も飛びます、とぅっ!」

真似をしたがる年頃の渡辺も、掛け声一つ、窓枠を蹴った。

ξ;゚听)ξ「こ、こら綾子ちゃん!!」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/19(木) 22:49:51.95 ID:BYEg9OpBO
( ^ω^)「だが断るお」

そう言ってブーンが、ぴしゃりと窓を閉めた。
空中を舞っていた渡辺は窓ガラスに激突して、そのまま地に向けて落下していく。

ξ;゚听)ξ「………ま、まぁ、死神だから、うん。大丈夫でしょ。
さて、夕食の材料でも買ってこよう」

今日のご飯は親子丼とスクランブルエッグと温泉卵にしよう。

ツンは見なかったことにして、夕食の献立を頭の中で構想し始めた。

――こうして、平和は取り戻されたのだった。

八話終わり



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