从'ー'从は死神のようです

24: 十話「第一ラウンド」 :2009/02/28(土) 21:05:00.47 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「よし、と。こんだけあれば、三日は過ごせるわね」

買ってきた食品を手際よく冷蔵庫に詰め込み、ツンは一人呟きを漏らした。

ビニール袋を几帳面に畳み、冷蔵庫の側面に設置してある牛乳パックを利用して作った袋入れにぶち込んでから、階段を上がって自室に向かった。

ξ゚听)ξ「あ、納豆買ってくるの忘れた。……また明日買い物に行かなきゃ」

軽やかだった足取りが途端に重くなった。

溜め息など吐きながら、自室に入って暗がりの中を手探りで電気をつける。

そうして、ちょっとだけオシャレをした外出着を着替えようとした時、ベッドで寝転んでいたブーンの視線とツンの死線が絡み合った。

ξ゚ー゚)ξ「あら、ブーン。そんなところで何をしているの?」

上着から片腕を抜いた、まさしく着替え始めの体勢でツンは冷静に聞いた。

( ^ω^)「お邪魔してるお。あ、ブーンはお気になさらず、先に着替えを済ませるといいお」

ξ゚ー゚)ξ「ブーンが出ていったらそうするんだけど」

( ^ω^)「お客を追い出してまで着替えるなんて失礼な態度だお」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:08:28.08 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「招き入れた覚えはない!てか、窓の鍵閉めたのに、どうやって入ったわけ?」

( ^ω^)「ふっ、愛があればこの世に不可能なことなんて」

気取るブーンを無視し、改めて上着の裾に片腕を通したツンは窓際に向かい、何か仕掛けられていないか調べ始めた。

注意深く舐めるように窓全体を見ていくと、その視線がフック式の鍵辺りにピタリと止まる。

そこには、ストロー程度の大きさの穴が開けられていて、その穴を通せば、ブーンの部屋からでもどうにか鍵を開けられるのではないか、と予測できた。

ピロリーン♪

ξ゚听)ξ「ここまでやられると、呆れを通り越して感心するわね」

( ^ω^)「ブーンの愛の形、気に入ってもらえたようでよかったお。
で、携帯のカメラで穴の写真を撮ってどうするんだお?」

ξ゚听)ξ「証拠証拠。もしブーンと別れることがあったら、数々の犯罪的な出来事の証拠を裁判所に提出して、精神的に被害を被ったとして慰謝料を請求するのよ」

(;^ω^)「……その対処、冷静な上に大人過ぎて怖いお」

さすがのブーンもツンの対処に恐れおののいた。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:11:37.57 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「それで、何か用事があって来たの?」

( ^ω^)「着替えを覗くついでに、渡辺さん関係の事で進展があったことを報告しに来たお」

ξ゚听)ξ「ブーンが出ていったら着替えるから、ついでの話を聞かせなさいよ」

( ^ω^)「それだとついでがメインで、メインがついでで、覗きがついでで、ブーンがツンで、ツンがブーンで二つは合体融合体???????」

ξ゚听)ξ「それでいいから。私もついでに言うと、覗きのためにカメラとか仕掛けたら本気で訴えるからね」

(;^ω^)「ははは、馬鹿だなぁ。ブブブンブーンがそんなことするはじゅないお!」

すでに盗聴器を仕掛けているブーンは全力で否定した。

( ^ω^)「あ、着替えを覗くためじゃなければ――」

ξ゚听)ξ「いいわけないでしょ。慰謝料上乗せが怖ければ、カメラは仕掛けないことね」

仕方なしと言った様子で、ブーンは「おっ……」と返事した。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:14:51.41 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「んで、綾子ちゃんがどうしたのよ?」

( ^ω^)「教えてくださいご主人様って言ったら教えるお」

ξ゚听)ξ「教えてくださいご囚人様」

( ^ω^)「囚人だったら「ご」と様はいらないお。犯罪者扱いは別れてからにしてくれお」

ξ゚听)ξ「ごめんごめん。ほんのすこーしだけ気が早かったわね」

(;^ω^)「冗談だお……別れるなんて言うなお……」

情けなくもブーンは嘆願した。

ξ゚听)ξ「はいはい、分かったから話続けて。
親が帰ってくる前にご飯作っちゃわないといけないんだから。
どうせ、ブーンも食べていくんでしょ」

( ^ω^)「うむ、ではさっそく」

こほん、と咳払いしてから、ブーンはさっきの出来事は話し始めた。

( ^ω^)「そう、あれは夕暮れ間近の出来事でした。
おじいさんは山本さんにしばかれに、おばあさんは川本さんにしばかれに行きました」

ξ゚听)ξ「老人虐待も何のその、ドMな老人夫婦ね」

( ^ω^)「薄暗くて見分けが付かず、「誰そ彼(たそかれ)?」と問いかける頃合いを指す黄昏の時刻、
人に紛れて妖怪魔神も現れるとされるその時間帯に、おじいさんは怪しい人影を見つけました」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:16:20.29 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「そんなウンチクいらないから」

( ^ω^)「ダンボールハウスに住んでいたのは、少年の探し人であり、少年の探し人でもあり、生き別れた幼馴染みでもありました」

ξ゚听)ξ「大事なのね、わかります」

( ^ω^)「そうした経緯もあり、すっかり存在を忘れられた少年は、
邪魔者であるおじいさんを始末してから少女を連れ戻すことにしたのです。めでたしめでたし」

話の終わりとしては全くハッピーエンドではなかったが、ブーンはそう締めくくった。

全てを聞き終えたツンは、ふむ、と頷いて理解の色を見せる。

ξ゚听)ξ「また命を狙われる羽目になったわけね」

( ^ω^)「現実はかくも厳しくも僕を攻め立てるのです」

ξ゚听)ξ「んで、一つ気になったんだけど、綾子ちゃんに握られた弱みって何?」

(;^ω^)「よ、弱みかお?実は、その……パソコンいじる時にダブルクリックが出来ないことなんだお」

ξ゚听)ξ「はい、ダウト。そんなのが弱みになるわけないじゃない」

( ^ω^)「じゃあ、刑法二百三十条の名誉毀損項目を暗唱出来ることだお」

ξ゚听)ξ「ただの自慢じゃない。何でそんなの覚えているかが不思議だわ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:19:11.89 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「そりゃあれだお、住居不法侵入やらプライバシーの侵害関連の犯罪行為がどういう刑罰をもたらされるのかが気になって、調べた時に覚えたんだお」

ξ゚听)ξ「あー、具体的に言うと慰謝料の部分ね」

例の「別れた時」の損害を、ブーンはこっそり気にしていたようだった。

こうしている今も、静かに作動し続ける盗聴器がその値を吊り上げているのだから、自業自得でしかないのだが。

ξ゚听)ξ「弱みを答える気がないってことは、私に対しての隠し事かしら?」

( ^ω^)「むむ!さすがはツン!何を隠しても見つかっちゃうから、プライバシーも何もないお!」

ξ゚听)ξ「……人の秘蔵書を読み漁るあんたがそれを言うとはね」

( ^ω^)「ふっ、隠されているものを暴きたくなるのが人間の心理だお。隠すほうが悪い」

ξ゚听)ξ「どうせ堂々と本棚に置いといても、興味津々で見るくせに」

( ^ω^)「人が興味をそそる本を持っているのが悪いんだお」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:20:58.17 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「……とにかく、話す気ないならその内勝手に暴くから今の話はなし。
それより、大事なことは今後のことだわ。ブーンはどうするの?」

( ^ω^)「おっおっ、迷うとこだけど、肉じゃがが食べたいお!!」

ξ#゚听)ξ「誰が夕食の献立をどうするかなんて聞いたのよ!!」

もはや、会話の内容はぐちゃぐちゃだった。

ツンは今日何度目かも分からない大きな溜め息を吐いた。


(;^ω^)「えっと、その、いつまでも大人になれない子供でごめんお。
よかったら、今後の話でも進めちゃったりしないかお?」

あはは、と乾いた笑いを溢しながらブーンは言う。

別れを恐れ、慰謝料を恐れ、自ら歩み寄ることを覚えたようだ。

ξ゚听)ξ「よろしい。お姉さんも冗談は嫌いじゃないけど、度が過ぎると嫌いになるってことを覚えていてね」

( ^ω^)「その言葉、えk――、じゃなくて、胸に刻んで清けて揉み込んでから冷凍保存しておくお!」

ξ゚ー゚)ξ「そそ、すぐ食べられるようにね。素直だから、献立も肉じゃがにしてあげるわ」

どうやら、二人の仲は元通りになったようだ。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:22:24.00 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「んーむ、マジでどうするかお。
ブーンが会った少年の死神が渡辺さんの幼馴染みらしく、あの天然娘の死神の仕事を支えてたくらい優秀な死神みたいなんだお」

ξ゚听)ξ「綾子ちゃんの時のようにはいかない……
そうね、ラスボスってとこかしら」

( ^ω^)「だお。何せ、見るからに冷静沈着で「僕仕事出来ます」みたいなオーラ漂わせてたお。
手強いこと間違いなし、まぁ、ラスボスと言われると違う気もするけど」

ξ゚听)ξ「厄介な幼馴染みを持ってるわね、綾子ちゃん。
……あ、私もか」

厄介は厄介でも、渡辺の幼馴染みは敵として厄介、ツンの幼馴染みは味方として厄介という意味合いだった。

( ^ω^)「考えたんだけど、今度ばかりは自力でどうにかなるとは思えんお。
やるなら正攻法じゃなくて、搦め手で行くしかないお。
そう、それは正に昨今の小説に求められている頭脳戦を繰り広げてみせるお!」

普段は馬鹿な発言が目立つブーンだが、頭の回転は早い。

たまにしか真面目にならないのが玉に瑕だが。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:25:34.03 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「何かいい方法でもあるの?」

( ^ω^)「あるにはあるお。
どうやら、渡辺さんのことが好きみたいなんだお、その幼馴染みは。
それを逆手に取れば、上手くいけると思うお」

ξ゚听)ξ「ブーンのことだから、綾子ちゃんを人質に取るんでしょ?」

( ^ω^)「おぉ、さすがはツン!ブーンのことよく分かってるお」

ξ゚听)ξ「なっがい付き合いだからね。ブーンだけだと心配だから、私も協力してあげるわ」

( ^ω^)「是非お願いするお。ふっ、見てろお、死神め!けちょんけちょんにしてやるお!」

ξ゚听)ξ「今の時代に、けちょんけちょんって使う人間がいるとはね」

意気揚々と息巻くが、言葉選びはやたら古めかしかった。

ξ゚听)ξ「さて、私はご飯作ってくるから、細かい作戦でも立てといてね」

そう言い置いて、ツンはブーンを残してキッチンへと向かったのだった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:28:37.25 ID:2fSffE6VO
食卓に並べられた料理の数々は、それはもう豪勢の一言に尽きた。

カジキのソテーにブリの照り焼き。
ハチミツ入りの酢豚にオムレツ。
カボチャのグラタンにミネストローネ風スープ。
豆腐のごまドレッシングサラダに米、デザートとして、手作りティラミスまで用意されているというのだから驚きだ。

( ^ω^)「ツン、肉じゃがはどうしたお!誘拐事件でも起きたのかお!」

期待していた肉じゃがが存在していないことに、ブーンは激しくクレームをつけた。

ξ#゚听)ξ「うるさい食え」

いつも以上に厳しいツンは、明らかに怒っていた。

(;^ω^)「おっ?怒ってるのかお?肉じゃがに拘っていたブーンが悪かったお、ごめんお」

ξ#゚听)ξ「肉じゃがは関係、なし。
怒ってるのは、料理を作り終わった頃に、外でご飯食べて帰るって連絡を寄越した馬鹿親に対してよ」

確かに、手の込んだ料理の品々は二人で食べるには多すぎた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:30:46.42 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「相変わらず仲のいい夫婦だお。見てて羨ましくなるお」

ξ゚听)ξ「娘放置プレイでイタリアンレストランだって。
二十年近くも新婚気分でデート三昧の親なんて呆れてモノも言えないわよ」

( ^ω^)「おかげでツンの料理もプロ並みの腕になったんだし、悪いことばっかじゃないお。
ツンを嫁にもらう身としては、ありがたくも感じるお」

ξ゚ー゚)ξ「ブーンと結婚するなんてまだ決めてないけど?
それとも、結婚してほしいの?」

にやにやと意地悪い問いかけをするツンだが、如何せん、相手が悪かった。

( ^ω^)「おっおっ、結婚してくれお!
借金も限度を決めて借りるし、将来のことを考えて年金も納めないし、娘が生まれても嫁にやらんお!」

ξ;゚听)ξ「……それがプロポーズだとしたら、確実に断るわよ?」

ロマンチックとは程遠い、あまりにも自分本位なプロポーズにツンは、一行目だけだったらねー、と意地悪く呟くのだった。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:33:35.45 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「残してもいいから、全部食べてね」

( ^ω^)「うむ、心して食べるお。毒は入ってるかお?」

ξ゚听)ξ「ブリの腹部分を少し……」

( ^ω^)「ちゃんと保険金かけないと駄目だお」

ξ゚听)ξ「ブーンは毒程度で死ぬとは思えないけど」

( ^ω^)「ふっ、愛に生きるブーンを殺すなら、やはり愛しかないお」

ξ゚听)ξ「うるさい黙れいいから早く食え」

( ^ω^)「おっおっwww君の瞳にダンバインwwww」

ξ;゚听)ξ「……昔のロボットアニメが私の瞳に映ってるて?どんな乙女よ」

麦茶の入ったコップを掲げて言うブーンに、ツンは呆れ顔で答えた。

( ^ω^)「じゃあ、君の瞳にボーイズラブ!」

ξ゚ー゚)ξ「今この瞳に宿っているのは殺意なんだけど見える?」

( ^ω^)「見たくないけど見ちゃったお。それと、箸を逆手に持つのはやめてくれお」

ξ゚听)ξ「箸の用途を間違えさせないように、次からは気をつけたほうがいいわよ」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:36:02.91 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「BLは禁句指定するお!さて、冷めないうちに食べるお!」

ようやく無駄話を終えて、二人は食べ始めた。

( ^ω^)「気のせいかお?美味しいんだけど、このブリ肉じゃがの味がするお」

ξ*゚ー゚)ξ「お望み通り、肉じゃがの味付けにしてあげたのよ。斬新でしょ?」

ブーン程ではないにしても、茶目っ気があるツンは悪戯が成功した子供のように無邪気に笑った。

( ^ω^)「斬新と言うか大胆な発想だけど味はいけるお。
でも、まさか他の料理も肉じゃが風味かお?」

ξ*゚ー゚)ξ「ブーンだけが食べるならそうしたけど、私も食べるんだからそれはないわよ。食べ飽きちゃうもの」

( ^ω^)「ツンにご飯作ってもらうときは、絶対にブーン一人で食べるのはやめようと心の中で誓ったブーンでした」

ξ*゚ー゚)ξ「ふふふ」

( ^ω^)「どうでもいいけど米かってえwwwwwwwwwwwwww」

ξ*゚ー゚)ξ「研いでないもの」

( ^ω^)「ツンにご飯ないわけがやっと分かりましたwwwwwwwwwwwwww」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:38:51.07 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「ところで、綾子ちゃん人質作戦のほうは決まったわけ?」

( ^ω^)「それなんだけど、あっちの立場になって考えると、
今夜辺り先に向こうから仕掛けてきそうな気がするお」

珍しく真面目な表情をしてブーンが言う。

ξ゚听)ξ「寝込みを襲ってくるってこと?」

( ^ω^)「うむ。優秀な死神なら、行動は極めて効率的で無駄が一切ないはずだお。
寝てる時を狙うのが一番リスクも少なく、かつ効率的だお」

ξ゚听)ξ「確かに。だとしたら、何か手を打っておいたほうがいいんじゃない?
綾子ちゃんを人質に取って攻める前に、こっちがやられたらどうしようもないものね」

( ゚ω゚)「理解が早くて助かるお!ってことで、それに対する策も練ってあるんだけど、
それにはどうしてもツンの手を借りなきゃならんのだお!!!!!!!!!!!!」

ξ゚听)ξ「痛っ、そこまで声を張り上げなくても聞こえるわよ。それと、ご飯粒を口から飛ばすな」

顔中に、固い米粒をくらいながらツンは、冷静に訴えた。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:41:18.51 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「なんで興奮してるのよ」

( ^ω^)「おっおっおっwwwwwww
つまりだね、ブーンの部屋で寝てたら寝首を掻かれるわけよwwwwwww
それは困るから、今日の所はツンの部屋に泊めてもらおうと考えてるわけwwwwwwwキャー」

ξ゚听)ξ「米粒飛ばすな。あと誰が泊めてあげるって言った?」

(;^ω^)「え?だ、だって自分の部屋で寝てたら殺されるかもしれないんだお!
それが分かってて、ツンは泊めてくれないのかお!」

ξ゚听)ξ「うん、だって泊めたら私がブーンに襲われるもの」

(;^ω^)「冷たいお!彼氏なんだから、襲ってもいいじゃないかお!
むしろ、襲われない=魅力ゼロの方程式が数学的にも成り立ってるわけで――」

ξ゚听)ξ「自分の価値は自分で決めます」

( ^ω^)「おっ……」ξ゚ー゚)ξ「綾子ちゃんみたいに公園で一夜明かせば?
それが嫌なら私が襲うわよ?主に先の尖った形状のもので」

( ´ω`)「確実に襲うの意味が違うお……」

日本語の難しさを改めて知ったブーンだった。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:44:14.65 ID:2fSffE6VO
ξ゚听)ξ「どうしても泊めてください、って言うなら考えがなくもないわ」

( ^ω^)「どうしても泊めてください!
三泊四日の昼間はデート、夜は添い寝の好条件希望!」

ξ゚听)ξ「やめようかな」

( ^ω^)「どうしても泊めてください!
一泊四日の昼間は奴隷、夜はしもべの犬に成り下がるお!」

ξ゚听)ξ「それならよしとするわ。布団用意してあげるから、床に敷きなさい。
手首と足首、しっかり縛らせてもらうけど、寝づらくても我慢しなさい」

( ^ω^)「さすがツン、でも、憧れたり痺れたりしないお」

ξ゚听)ξ「馬鹿言ってないでさっさと食べなさい」

( ^ω^)「おっおっwww把握www」

ξ゚听)ξ「 米 粒 飛 ば す な 」

騒がしい食事風景はまだまだ続きそうだった。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:47:51.89 ID:2fSffE6VO
家々の灯が落とされる真夜中、群雲が月に覆い被さり、世界は手の先も見えない暗闇に包まれた。

そんな中、とある家のとある一室に、足音を殺して蠢くしょぼくれ眉毛一つ。

刺客や暗殺者といった類であるにも関わらず素顔を晒しているのは、死神の能力故か、それとも自己の力に絶対の自信を持っている為か。

迷いなく、躊躇いなく、進む先は部屋の隅に陣取ったシングルベッド。

人型に膨らむ布団を前に、蠢く影はその手携えたモノを振り上げた。

武器の名は、鎌。

死神の象徴たるそれを振り上げた姿は、まだ少年と言えど立派な死神の姿に見える。

(   )「覚悟……!」

影は思う。

刺客は声をあげるべきではない。
寡黙であるべきだ、と。

目標を前にして声を出すなど、三流のやることだ。

しかし、そう思いながら実行しなかったのは、対象への油断が大きい。

自分はエリートなのだ。
今までに両の指では到底数えきれない程の人間を殺めてきた。

その作業とも言える行為を今夜も繰り返すだけ。
そこに、感情はない。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:50:33.12 ID:2fSffE6VO
対象はただの小煩い学生。
一瞬で終わらせる。

その慢心が少年の目を曇らせていた。

(   )「――っ!」

鎌を振り下ろす。

布団を突き抜け、ベッドの上板を貫き、スプリングを断ち切っておきながら、その軌道の中に人型の膨らみを捕らえることはなかった。

図ったかのように寝返りを打った眠り人は、そんな状況とは露知らず、すーすー、と寝息を立てて夢の世界を堪能しているのだから大物の気配すら感じさせる。

舌打ち一つ、気を取り直し暗殺を試みようと再び鎌を振り上げながら思う。

何故、鎌なのだろう、と。

お世辞にも暗殺に向いているとは思えない。

命を刈り取るだけなら人間界のものや、鎌以外の何かを使えばいい。
しかし、死神は命を天界へと送る義務がある。

そこまではいい。
やはり、武器に疑問が残った。

鎌、とは屋内の場合、降り下ろす、という選択肢しか残っていない。

振り回せば何かに引っ掛かるし、姿が見えない人間などはまだいいが、姿が見える――例えば今回の対象――などは、鎌では不自由極まりない。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:53:15.09 ID:2fSffE6VO
頭の回転が早い少年は応用が効く。
その場その場で判断出来ると言うことだ。

しかし、この武器は応用が効かない。

少年は鎌というモノを好きにはなれなかった。

鎌が好きではない理由に、もう一つ、精神的なものが起因しているが、少年はこれに気付いていない。

思考の海に流されて数十秒、己の獲物を振り上げたままの姿勢の少年に、窓から射し込んできた淡い月明かりがかかる。

幻想的なそれは、部屋全体を明るく照らし暗闇を打ち払った。

布団から覗かせる可愛らしい少女の寝顔にも銀光がかかり、少女は眩しげに顔をしかめたが、すぐにまた半笑いの表情で安らかに寝入った。

その顔を見た暗殺者は、驚愕を通り越して仰天し、深夜だというのに叫び声をあげた。

(;´・ω・`)「あ、綾子ちゃん!?何で綾子ちゃんがここで寝てるの!?」

そこはブーンの部屋だった。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:56:51.65 ID:2fSffE6VO
(;´・ω・`)「起きろ、綾子ちゃん!ブーンさんはどこに!?」

少年――ショボンは、仕事道具たる死神の大鎌を投げ捨て、渡辺を揺り動かした。

それでも起きる気配はない。

ショボンは渡辺の布団を剥ぎ取り、寝心地のいい環境を破壊してさらに大きく揺さぶった。

昼間の妄想が込み上げてくるが、無視する。

从#つ―'从「……久しぶりのお布団とベッドなのに、何で起こされなきゃいけないんですか……」

ピンクの水玉模様の乙女チックなパジャマ姿の渡辺は、不愉快を隠そうともせずに目を覚ました。

从#'―'从「余罪ですか?」

(´・ω・`)「夜這いだろ、言いたい言葉は。いきなり罪を被せないでくれ」

渡辺の天然ボケのおかげで、ショボンは冷静になれた。

从#'―'从「そうとも言います。
ショボちゃん、私を夜這いしに来たんですね」

(´・ω・`)「そうとしか言わないから。
ブーンさんじゃあるまいし、僕が夜這いなんてするわけがないだろう」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 21:58:36.32 ID:2fSffE6VO
从#'―'从「なら、ショボちゃんは何でここにいるんですか」

(´・ω・`)「綾子ちゃんこそ、何でブーンさんの部屋で寝てるんだ?」

危うく渡辺を殺してしまうところだったという事実は、伏せておくことにしたようだ。

从#'―'从「私は、ブーンさんに寝床変わってくれって言われたからここで寝てるんです。
なんでも、ダンボールが恋しい年頃になって膝が痛むからって言ってましたけど、
本当はきっと私の身を案じてくれたんです。
ブーンさん、意外といいとこあります。ショボちゃんと違って」

もちろん、ブーンは渡辺の寝床になどいない。

これがブーンの作戦の一部、アホを騙して安全を確保し、あわよくば渡辺を始末してもらおうという、血も涙もない作戦なのだが、完全に騙され、運よく生き残った渡辺は、今やショボンに敵意すら向けている。

ブーンの作戦は出来すぎていると言っても過言ではないほど成功していた。

第一ラウンドは、襲われるのを予期し、早々に手を打ったブーンの圧勝と言える。

そのブーンは今頃、ツンの部屋で縛られているだろう。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:02:57.69 ID:2fSffE6VO
(#´・ω・`)「あの人は何てことを考えるんだ……!」

単純な作戦だったが効果的だった。

まんまと策にはまり、その上渡辺を殺してしまうという取り返しのつかない愚を犯すところだったショボンは、ブーンに対する怒りを静かに燃え上がらせる。

渡辺の最後の言葉もショボンの激昂の理由に当てはまっていた。

从#'―'从「それで、夜這いじゃないなら、ショボちゃんは何しに来たんですか」

怒るショボンに、痛恨の一撃。

だが渡辺も眠りを妨げされていたことで怒っていた。

(;´・ω・`)「あー、うん……それは」

渡辺の怒りのこもった問いかけにショボンは心底困った様子を見せた。

結果的に渡辺を殺してしまいそうになったのだから、ブーンの寝込みを襲いに来た、などとは口が裂けても言えないし、仮に口が裂けて言ったとしても八つ裂き間違いなしだ。

困った挙げ句、

(;´・ω・`)「夜這いしに来ました……」

从#'―'从「やっぱりですか!!
いつも大人っぽい態度してるのに、ショボちゃんも『けだもの』だったんですね。
見損ないました。通報されたくなければ、とっとと出ていってください!!」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:05:54.40 ID:2fSffE6VO
(´;ω;`)「うぅ、ごめんよ」

謝ることしか出来ず、普段の凛とした姿が見る影もない死神の少年は、惨めにも逃げるように部屋を去っていくしかなかった。

それでも、部屋の隅に投げ捨てた大鎌をしっかり回収するのは、やはりプロしか言いようがない。

好き嫌いで選べるものではないし、これがなければ何も出来ないので当然と言えば当然なのだが。

(´;ω;`)「……ブーンさん、この借りは絶対に返させてもらいます!」

ブーンへの復讐心を強くたぎらせるショボン。

彼に空の女神が微笑む日は来るのだろうか。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:08:53.26 ID:2fSffE6VO
一方、津出家。

ブーンの家の左隣になる邸宅の一室に、ベッド上で穏やかな寝息を漏らすツンと、床に敷かれた布団一式に埋もれる形で何やらもがいているブーンの姿があった。

(;^ω^)「くぅ!どこで習ったのか知らないけど、この縛り方軍隊式かお……!まぁ、それさえ分かればやりようはあるけど」

小声で呟くブーンは、真っ暗闇の中、後ろ手に縛られた手足の拘束を解こうと必死だった。

今にして思えば、渡辺を素手で何十分も拘束し続けていたのはツンだったのだ。

その技術が、味方であるはずのブーンに襲いかかっている。

強固な結び目はもがけばもがくほど解きにくくなる曲者で、自力でどうにか出来るようなものではない。

しかし、

( ^ω^)「力のモーメントを利用した縛り方だからこそ、ベクトルを逆に利用して解くことも可能なんだお。
――こんな風に!」

拘束していた荷造り用の紐がはらりと解け、ブーンは自由を取り戻した。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:10:59.77 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「さて、手加減無しに縛ってくれたお礼をするおフヒ」

手首を擦りながら不気味な笑い声を響かせるブーンは、寝入るツンのベッドへと足を向ける。

片膝を乗せると、二人分の体重を受けたベッドが軽く悲鳴をあげた。

ブーンは布団の上から覆い被さるように四つん這いになり、行儀正しく仰向けに眠るツンの顔を覗き込む。

綺麗に整えられた柳眉。
すぅっと通った鼻筋。
慎ましやかな唇。

芸術品の趣すら感じられる綺麗な顔立ちを煙草一本分もない距離で見入るブーンの表情はどこか優しげだった。

( ^ω^)「綺麗な顔してるお。では、いただきます」

ブーンの寄せた唇が眠り姫のそれに重なる寸前――ツンの目が勢いよく開かれた。

ξ゚ー゚)ξ「綺麗、って言ってくれてありがとう。
でも、キスしてもいいなんて許可は出してないわ」

にっこりと微笑んでから言うツンだったが、その目は笑っていない。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:12:14.83 ID:2fSffE6VO
( ^ω^)「おっおっ、おはようだお、ツン!
全くもって隙がないから、男としてやりづらくてしょうがないお」

ξ゚听)ξ「全くもって油断ならないんだから、女として警戒を緩められないわ」

( ^ω^)「まぁ、身持ちの固いそんなツンも悪くないお!いつか奪ってやるお、その唇!」

ξ゚听)ξ「雰囲気作りに精を出したほうが早いだろうけど、ブーンには似合わないわね。
そんなブーンも嫌いじゃないし、いつでも隙を狙うといいわ」

恋人同士と言うよりは、いい意味で変人同士と言ったほうがいいかもしれない。

しかし、そこらのカップルより絆の深さが伺えるようでもあった。

これも幼馴染みの成せる技なのかもしれない。

ξ*゚ー゚)ξ「今日のところは一緒に寝てあげるから、ほら、早く腕枕しなさいよ」

( ^ω^)「おっおっ、仰せのままに」

そうして、二人は温もりを分け合うように寄り添って眠るのだった。

十話終わり



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