( <●><●>)樹にかけるはさくらの想いのようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:48:52.23 ID:f5HkohWr0
数年ぶりに見た故郷の町は、どこも変わっていないようで、どこも変わってしまったように見えた。
(゚、゚トソン 「こげん朝はようどこ行くとね?」
( <●><●>) 「久しぶりに帰って来たので、散歩がてら回ってみるだけですよ」
早いとは言うものの、もう既に10時は回っている。
普段のサラリーマン生活からすればとんでもなく遅い時間だ。
実の母親に他人行儀な言葉で返すのは、特に理由があってのことではない。
そういう話し方に慣れ、そういう暮らしに慣れた結果と、生来の性格から来る物なだけだ。
多少は残ってたはずの訛りも、自分の口からはいつの間にか消えてしまっていた。
(゚、゚トソン 「お昼はどがんするね?」
( <●><●>) 「適当に食べますからいいですよ。夜はちゃんと帰ってきますから」
挨拶もそこそこ、右手を軽く上げ、ひらひらと振って生家を後にする。
重ねて言うが、家族仲が悪いわけではない。
大学時代は年に数日、働き始めてからは皆無だった久々の帰省。
物理的な距離と多忙、それに性格的なものがブレンドされ、故郷への足を遠ざけさせていた。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:49:57.56 ID:f5HkohWr0
そんな自分が今回帰省した理由は、仕事に一段落がついた時にそう近くもない親類の葬儀がある事を耳にした事と、
単なる気まぐれだ。
センチメンタルに引き摺られたわけでも無く、ほんの思い付き、“そうだ、京都へ行こう”と同じ程度のレベルだ。
しかし、そんな理由で帰省する本人の軽さとは裏腹に、生家の面々の歓待ぶりは度を越していた。
( <●><●>) 「この2日で明らかに体重が増えましたね」
見覚えのある様で、どこか違和感のある細い路地に歩を進めるも、普段より身体が重く感じる。
流石にそこまで影響を受けるほどは太ってはいないと思うので、恐らくは気疲れが主な原因なのだろう。
久しぶりに顔を見せた人付き合いの悪い次男坊に、飲めや食えやに加え、根掘り葉掘りの事情徴収。
親戚一同からは、一様に大きくなったと目を細められ、しかし相変わらずだと苦笑され、そして前述の工程の繰り返し。
対人スキルはそこそこあるものの、あまり不特定多数と会話するのが好みでない自分が、これで気疲れを感じないわけも無く。
そこにあるのが善意と物珍しさだとわかってはいるものの、やはり苦手な物は苦手なのだから仕方がない事であろう。
そこまで考えて、朝から外出した理由の半分は独りになりたかったからなのだという事に思い当たった。
残りの半分は、変わらない物への郷愁と、変わってしまった物への興味からだ。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:52:17.07 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「……とは言う物の、行きたいと思う場所も特にありませんね」
この町が自分の領域だった時代を思い返してみる。
高校まではこの町で過ごし、見慣れた景色、歩き慣れた道はあれど、ほとんど自宅と学校の往復だった覚えしかない。
大した娯楽施設のない町だったとは言え、どうにも狭すぎる行動範囲だったと思う。
やはり性格的なものが主な要因で、1人でいる方が好きだった事がそういう過去を作ったのだろう。
( <●><●>) 「それにしても……」
路地を抜けると、似たような家屋が並ぶ広い通りに出た。
陽の光を反射させる程度には白さを保った壁が、この辺り一体の経た年月を伝える。
( <●><●>) 「……ここはどこでしょうね?」
全く見覚えのない通り。
全く見覚えのない家屋。
生家からそう離れてはいない場所だから、この場所自体には見覚えはあるはずだが……
( <●><●>) 「こうも様変わりしていると、何が何やらさっぱりですね」
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:54:45.96 ID:f5HkohWr0
今回、こちらに帰ってくるまでは、離れていた年月はさほどの物ではないと認識していたが、どうやらそれは謝りだったようだ。
考えてみると、久々に会った両親はそれなりに年老いた顔になっており、親戚もまた、皆一様に変わっていた。
ただ、皆が纏う雰囲気は昔のままだったから、相変わらずだと笑っていられた。
( <●><●>) 「……」
私は、口の端だけを歪め、笑ってみた。
見た目は変わらないが、これまでの認識の中での笑みとは、異なる類の物だ。
笑うに至った動機は、真逆の物だから。
( <●><●>) 「笑顔がぎこちない……昔、よく言われてましたね」
昔の私を知る人が抱く私へのイメージは、多分無表情な奴、といった所だろう。
喜怒哀楽を表に出さず、常に淡々とした態度だったと我が事ながら自覚している。
もっとも、今の私を知る人が抱くイメージも、きっと同じ物だろう。
久しぶりに会っても相変わらずと言われるくらいなのだから。
きっと自分は変わっていない。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:57:14.93 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「変わっていない」
思いと同時に流れた言葉を背に、適当に当たりをつけて歩き出す。
目的が定まっていないのに当たりも何も無いが、取り敢えず歩きながら考える事に決めた。
せめてもう少し、見覚えのある場所にでも出れば何か思いつくかも知れない。
葉の落ちた街路樹を見上げ、当ても無く歩く。
街路樹に落葉樹は掃除が大変そうだとどうでもいい感想を持ち、樹の幹を撫でてみた。
街路樹としても、この樹自体にも見覚えが無い。
しばらく歩き、また適当に路地に入る。
そこで初めて、人影と遭遇したが、やはり見覚えは無い。
昔は近所の人間の顔ぐらいは何となく覚えていた気もするが、それも今は昔の事だ。
数人の女性が何やら話し込んでいる。
いわゆる、井戸端会議であろうと推測される。
耳に届く言葉からは、あまり方言は聞き取れない。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 21:59:41.13 ID:f5HkohWr0
先日までの親類の話や、目の当たりにしている事柄から予測はしていた事だが、この辺りはいわゆるベッドタウン化したらしい。
ベッドタウンと呼べるほど発展した都市が周りにあるわけでもないが、それに加えて今まで各地に点在していた世帯が、
利便性の高い町の中心に集まってきたとの事だ。
( <●><●>) 「……」
すれ違いざまに軽く会釈をし、視線を合わせることなく通り過ぎる。
一期一会。
次に顔をあわせても、恐らく今日の事は覚えていない。
私は歩き続け、取り留めの無い考えを続ける。
見覚えの無い景色と見覚えのある景色が次々と入れ替わり、過去と未来の間を思考がバウンドする。
郷愁に浸るには弱く、また、変化に驚くにも弱い、何とも中途半端な維持と変化だ。
時間にして1時間ほど歩いた私は、目に付いた公園に足を踏み入れ、空いたベンチに腰を下ろす。
汗ばむほどではない春の陽気の中を、少し冷たい風が通り抜ける。
( <●><●>) 「……ふぅ」
ため息が1つ、自然にこぼれ出た。
然したる目的も無く、これと言って期待もしてなかった歩みの結果に、何故ため息が出るのか疑問ではあったが、
恐らく肉体疲労の結果なのであろうと納得した。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:02:01.81 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「帰りますか……」
しばし目を閉じ、ベンチに背を預けて休息を取った結果、漏れ出た言葉はその一言だった。
当てを探しに当ても無く歩いた行動は、何も実を結ばなかったようだ。
どちらかと言えば合理的な思考は、早々とこの歩みを無駄と決めつけ、私の身体に帰還を促す。
渋々いった感じで、ゆっくりと身体は命令をを聞き入れ、徐に立ち上がった。
( <●><●>) 「ん?」
季節は春、天気は晴れ、今日は休日。
公園に人が集まるには、十分すぎるほどの要件を満たしている。
特に、淡紅色に染まる木々が多数見られるこの時期は。
( <●><●>) 「花見ですか……」
喧騒はずっと聞こえていたはずだが、それを意図してなのか全く知覚していなかったようだ。
公園のそこかしこで、人々がたむろしている。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:04:50.77 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「桜……」
ゆっくりと周りを見渡すも、このベンチの周りには桜の樹は存在しない。
それがベンチに誰もいなかった理由なのだろう。
( <●><●>) 「桜」
再び、しかし、今度ははっきりと同じ言葉を口にする。
その言葉に呼び起こされるかのように、頭の中に思い浮かんだあの場所。
どうやら当てが見付かったようだ。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:07:36.28 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「ふぅ……」
獣道かと思える山中の小道を登る。
通い慣れていたわけではないが、少なくとも、今日歩いた道の中では比較的見覚えのある道だ。
ただ、記憶の中のそれよりは、多少荒れた印象を受け、人の往来が稀である事を感じさせた。
元々、ここを通るのは限られた人間だったであろうが、この季節は酔狂な人間が幾人ばかりかは訪れていたはずだ。
坂を登り切り、少し開けた場所に辿り着く。
途中と同様、やはり荒れた印象を受ける。
幸か不幸か、今日は誰もここには来ていないらしい。
( <●><●>) 「変わったようで変わらない……ですかね」
開けた場所のさらに奥、山の縁の方へ向かう。
切り立った崖に、その樹は昔と変わらず立っていた。
・・・・
・・・
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:10:53.90 ID:f5HkohWr0
「歩く桜って知ってる?」
「いえ、知りませんね」
「俺も聞いた事ねーな」
「そういう噂があるんだよ。ほら、あの、町の南の側の山の……なんて名前だっけ?」
「椿山ですか?」
「そうそう、その山」
「それでさ、ちょっと行ってみない? 今なら桜も見頃だし」
「ああ、俺は別にいい──」
「私は結構」
「えー!?」
「コイツは……ホント付き合い悪いよな……。今の流れで普通、断るか?」
「普通などと言う言葉は、口にする人によってその基準は変化する物ですよ」
「また屁理屈だ……」
「正当な論理だと思いますが」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:13:06.98 ID:f5HkohWr0
- ・・・・
・・・
( <●><●>) 「結局、あの後強引に引っ張ってこられたのですけどね……」
その樹を目の当たりにした瞬間、懐かしい映像が一瞬にして蘇り、頭の中で再生された。
仏頂面の友人と、どこか緊張感の欠落したぼんやり顔の友人。
その昔、恐らく友人と呼んで差し支えの無い、数少ない存在であった2人。
今でも、友人と呼べるかはわからない。
少なくとも、自分からは連絡を取っていないし、向こうも1人はマメなタイプではない。
もう1人は……
私は目を閉じ、再び記憶を探る作業に戻ろうとしたが、何か違和感を覚え、すぐさま目を開いた。
( <●><●>) 「桜が、全く咲いてませんね……」
今年の桜の開花宣言は既に出され、先程の公園の桜のように、どこの桜も満開の花を咲かせていた。
しかし、目前に佇む桜の樹には、蕾はあれど一輪も花が咲いていない。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:16:25.48 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「この程度の高さで、開花時期に差が出るとは思えませんが……」
私は再び目を閉じ、理由について考えてみた。
場所が場所だけに、樹自体が弱ってるのかもしれないのかと思いましたが、大量の蕾は枝に付いている。
単に開花が遅いだけなのかと納得するには、これだけ膨らんだ蕾が付いていて一輪も咲いていない状況は不自然過ぎる。
あれこれ考えてみるも、これといって明確な答えは思い当たらない。
特に樹木に付いて詳しいというわけでもないのですから、当たり前と言えば当たり前の話なのだろうが。
私はこれ以上考えても答えは出ないと判断し、目を開け、まっすぐに桜の樹を見据え──
( ><) 「こんにちは、桜の精なんです」
( <●><●>) 「……」
( ><) 「……あれ? 僕が見えてませんか? こんにち──」
( <●><●>) スパァーンッ!
⊂彡Σ#)><) ゲブァッ!?
目を開けた私の前に、宙に浮く小柄な人型があった。
・・・・
・・・
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:17:26.10 ID:f5HkohWr0
(#)><) 「痛いんです! 何で殴られたのかわかんないんです!」
( <●><●>) 「煩いですね。時には、殴った手のほうが痛い事もあるんですよ?」
(#)><) 「いきなり殴っといて!?」
幻覚かと思われたそれは、僅かばかり残る左手の痺れが、そうではないことを示す。
驚いて思わず振り払おうとした手が当たったという事にして、私はその人型に色々と尋ねる事にした。
( <●><●>) 「それで、あなたは何なのですか?」
( ><) 「さっきも言ったんです。聞いてなかったんですか? 桜の精なんです」
.( <●><●>) 「それは聞きましたが、その桜の精というのが世間一般的には通じない物だとわかりませんか?」
つ< >< >⊂ ギュゥ〜
(;><) 「痛いんです! 止めるんです!」
そのまま捻り上げながら事情を聞くと、どうやらこの人型は、この桜の樹の精ということらしい。
要するに、不思議な妖精らしい物のようだが……
( <●><●>) 「目の当たりにしている以上、信じるしかないですね」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:20:27.32 ID:f5HkohWr0
( ><) 「ビロードなんです。よろしくなんです」
( <●><●>) 「ワカッテマスです。……で、何の御用ですか?」
(;><) 「もう少し驚いたりしないんですか?」
桜の精、ビロードはそう言いますが、少なくとも、自分が正常だという自覚はあるから、
実際に見えてしまっている今の状態を受け入れるしかない。
私は、重ねて桜の精であるビロードが、何故私の前に現れたのかを問いただします。
( ><) 「わかんないんです」
( <●><●>) スパァーンッ!
⊂彡Σ#)><) オウフ!
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:22:26.17 ID:f5HkohWr0
(#)><) 「なんなんですか!?」
( <●><●>) 「わざわざあなたの様な不思議生物が出てきたのですから、理由ぐらいあるでしょう」
一向に進まない話に業を煮やした私は、桜の樹に歩み寄った。
樹肌にそっと右手を当ててみるも、これといって普通の桜との差異は見受けられない。
( <●><●>) 「何故この桜は咲いてないのですか?」
( ><) 「わか──」
( <●><●>) ピクッ
(;><) 「──らない事もないんです」
私は、ビロードが話し出すのを伺いながら桜の根元に座り、背を樹に預けた。
すぐそばは切り立った崖なので、かなり危険な位置ではありますが、昔からよくこうやっていた覚えがある。
・・・・
・・・
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:24:52.45 ID:f5HkohWr0
「歩かねーな」
「歩くわけないでしょう」
「歩かないのかなー?」
「しかし……随分と危険な位置に立ってますね」
「落ちそうだねー」
「……昔はもっと手前にあった気がするな」
「以前に来たことがあったのですか?」
「歩いてるじゃん!」
「そう言われれば移動してるのかもな」
「移植……なわけはないですね」
「ちょ、危ないよ?」
「なるほど、見事に崖っぷちですね」
「お前、よくそんなとこから覗けるな……」
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:27:17.10 ID:f5HkohWr0
- ・・・・
・・・
( <●><●>) 「後日調べた所、歩く桜の意味はすんなりとわかりましたが……」
簡単に言えば地滑り。
要するにこの場所はかなり危険な状態にあったわけですが、ギリギリの所で崩れ落ちずに止まったようだった。
( <●><●>) 「あなたの様な存在がいるという事は、この樹も何かしら意思を持っているのですか?」
私は、先ほどの問いの答えを聞く前に、別の質問をビロードにぶつけてみた。
目の前の少々間の抜けた顔を見る限りでは、質問は段階を踏んだ方が良さそうだと判断した結果でもある。
( ><) 「はいなんです! ぽっぽちゃんはちゃんとここにいるんです!」
( <●><●>) 「ぽっぽちゃん? それがその桜の名前なのですか?」
( ><) 「みたいなんです。自己申告なんです」
ビロードの説明によると、とある人間がそんな風に呼んでいたのを、気に入って自ら名乗っているらしいとの事だ。
( <●><●>) 「……」
( ><) 「どうしたんですか?」
・・・・
・・・
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:30:29.31 ID:f5HkohWr0
「やっぱり歩くんだよ」
「歩いたかどうかはともかく、移動はしているようですね」
「意外とすんなりと認めるのな?」
「自分で見たものを信じないわけにもいかないでしょう」
「へへーん。私の言った通りだったでしょ?」
「この桜、何か特別な種類でしょうかね?」
「さあ? 見た所、普通の桜だよな」
「スルー!?」
「ソメイヨシノですね」
「そんな味気ない名前は却下だよ、歩く桜なんだから」
「歩いたかどうかはわからんけどな」
「そうだね、この子は……、うん、歩桜!」
「ぽ……ざくら?」
「センスねえな……」
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:32:49.60 ID:f5HkohWr0
- ・・・・
・・・
( <●><●>) 「何でもありませんよ」
(;><) 「何でもなくはないんです! 何ですか、今の不自然な間は──」
( <●><●>) スパァーンッ!
⊂彡Σ#)><) ギャァァァ!
( <●><●>) 「何でもありませんよ」
(#)><) 「うう……はいなんです」
私は、そのぽっぽちゃんとやらに直接話が出来ないかビロードに聞いてみる事にした。
しかしながら、返事はノーで、話が出来ないからこそ、ビロードのような仲介人がいるとの事だった。
( <●><●>) 「その仲介人がグズだから直接交渉したかったんですけどね」
(;><) 「さっきからヒドいんです。初めて会ったのにこの扱いはなんなんですか?」
絶対、友達いないんですとぼやくビロードを黙殺し、現状を考え直してみる。
もっとも効果的な手段が取れそうもないので、仕方なく段階を踏む手順に戻ることにした。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:35:05.59 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「その、ぽっぽちゃんがこの場に立っているのは本人の意思なのですか?」
そこまで言って、少々馬鹿らしい質問になっている事に気付き、言葉を補足する。
この場に立っているのは、誰かが植えた、または種のような物がこの場で根付いたからなのでしょうが、私が聞きたいのは
そんな事ではなく、あえて崖っぷちに立っている理由だ。
( ><) 「はいなんです。ぽっぽちゃんががんばったんです」
( <●><●>) 「やはりそうですか……」
先程の歩く桜の話、地滑りの話にはもう少し続きがある。
その当時調べた所に寄ると、歩く桜は段々と崖側へ滑って行った後、ギリギリの所で止まった様だった。
当然、不思議な事として、色々と調査はされたようでしたが、その結果、さらに不思議な事が判明した。
( <●><●>) 「ぽっぽちゃんが崖崩れを防いだのですね」
私の断定的な問いにビロードは力強く頷きました。
桜が移動した崖は、1個の巨大な岩の上に土砂が堆積した状態になっていました。
その岩が滑り落ちようとした結果、一緒に桜も滑って行ったのですが、その間に桜の根が岩を取り囲むように伸び、
崖が崩れ、岩が落下するのを防いでいるという事がわかったようでした。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:37:33.29 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「植物とは、逞しいものですね……」
私は、桜の樹肌をゆっくりと撫で、樹上を見上げました。
わずかに吹いた風が枝を揺らします。
( ><) 「……」
ふと気付くと、ビロードが無言でこちらをじっと見詰めていた。
私は、ビロードに向き直り、また段階を踏むことにする。
( <●><●>) 「で、質問を戻しますが、ぽっぽちゃんが咲いていない理由を、あなたはどうお考えなのですか?」
( ><) 「それは……」
ビロードは言い淀み、宙に浮いたままくるくると回りだした。
人型の物体が宙に浮いている時点で、かなりシュールな光景だ。
( ><) 「きっと、ぽっぽちゃんは寂しいんです」
( <●><●>) 「寂しい?」
回るビロードをはたいて回転数を上げてみようかと思っていると、意外に早く答えが返って来た。
私は、その言葉の意味を反芻し、また、樹上を見上げた。
花のない桜は、確かに寂しいと思う。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:41:10.15 ID:f5HkohWr0
崩れ落ちはしなかったものの、依然としてこの崖が危険な状態であった事に代わりはない。
当時、町としても対策を取らざるを得ない状況であった事は確かだ。
何せ、この山の麓には民家がいくつも立っていたから。
落下防止の作で囲む、岩を撤去するなど、案はいくつか出されたようだったが、結局それが実行される事はなかった。
( <●><●>) 「……人が来なくて寂しいのですね」
呟く様に言葉を発し、桜の方へ向き直る。
崖に1本だけ立ったその樹は、記憶の中のそれと何ら変わる所はない様で、どこか変わってしまった様でもあった。
( ><) 「はいなんです。ずっと誰も、お花見に来ないんです」
( <●><●>) 「……花が咲いてなければ、尚の事誰も来ないでしょうに」
人が来なくなった理由は、恐らく人がいなくなったから。
町が、変わってしまったから。
この辺りの世帯は皆、町の中央の方へ引っ越してしまった。
( <●><●>) 「それでですか……」
何の事はない、答えは朝からずっと辿って来た道にあったのだ。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:43:21.78 ID:f5HkohWr0
( ><) 「どうすればいいのかわかんないんです……」
ビロードが弱々しく宣言する。
これが何のために出て来たのだか、こっちがわかんないんですと思う。
( <●><●>) 「役に立ちませんね……」
悪態を吐きながらも、私は、その手段を考えていた。
再び桜を咲かせる手段。
桜が、寂しくなくなる方法を。
( <●><●>) 「……」
何一つ、思い浮かばず、ただただ時間だけが緩やかな風と共に流れて逝く。
理詰めで追いかけてみても、前提が自分には手に負えないほどの不思議な出来事だ。
──答えは意外と単純なんだよ。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:45:26.41 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「……」
心の奥で、懐かしい声が響いた。
単純で、何も考えてないかの様な明るい声。
思考の奥、心の底、ほんのわずかに引っかかっていた記憶。
半ば諦めかけていた私は、呆れた様に笑い、大人しくその声に従うことにした。
( <●><●>) ニコリ
(;><) 「笑ってねぇぇぇぇ!」
( <●><●>) 「花見をしましょう」
(;><) 「花見ですか? でも、お花は咲いてないんです」
( <●><●>) 「コロンブスの卵ですよ。ここで騒げば、寂しく無くなるんじゃないですか?」
そうしたら桜も咲き、ちゃんとした花見になると、私はビロードに言う。
これと言って根拠もないが、他に良い手も思い浮かばないし、意外に説得力を感じなくもない話だとも思う。
( ><) 「なるほどなんです。それなら──」
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:48:10.61 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「どうしました?」
一旦は明るくなった顔を再び曇らせ、言葉を切るビロード。
私は訝しみ、言葉の続きを促した。
(;><) 「この2人で騒ぐんですか……?」
2人だと自分はともかく、私が問題だとビロードは主張します。
なるほど、確かにそうですが、それはそれで対応は考えてあります。
( <●><●>) 「友達を呼びますよ」
(;><) 「友達いたんですか!?」
( <●><●>) ドスパァーンッ!
⊂彡Σ#)<) グァァァ!
( <●><●>) 「失礼な。私にも友達の2人ぐらいはいますよ」
(#)><) 「うう……正当な疑問だと思うんです」
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:50:38.61 ID:f5HkohWr0
何やら呻くビロードを尻目に、携帯を取り出し、久しくかける事のなかった番号を呼び出す。
よく考えれば、街中で迷っていた時に、携帯の地図機能を使えば良かったのだと今更気付いたが、今となっては詮無い事だ。
( <●><●>)】ピッ
「はい、鬱田酒店……」
( <●><●>) 「その覇気の微塵も見当たらない声はドクオですね、こんにちは」
「……その声、悪ま──いや、ワカッテマスか!?」
(;><) 「何か友達との電話から悪魔とか聞こえたのは気のせいですか?」
( <●><●>) 「そうですが、細かい話は後程。取り敢えず今すぐ花見の道具を、主に食料と飲料ですね、用意して歩桜まで来てください」
「は? 突然何言っちゃってんの? 今までこっちが連絡しても全然返事寄越さなかったくせに──」
( <●><●>) 「いいから今すぐ来て下さい。どうせ暇でしょう、ニートは?」
「ニ、ニートちゃうわ!」
( <●><●>) 「たまに家業を手伝ってるだけなのはわかってます」
「……あれからそれなりに時間は経ってんだぜ? 俺が就職してても──」
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:52:03.45 ID:f5HkohWr0
( <●><●>) 「それはないですね」
「即答かよ」
( <●><●>) 「あなたが就職していたら、携帯電話ぐらい持つでしょう。その番号を私に伝えて来なかったということは──」
「あーはいはい、わかったわかった。……相変わらずお前は何でもわかってんだな」
( <●><●>) 「わかったのならすぐ買い物をして来て下さい」
「……クックック、ニート舐めんな。俺に買い物するだけの金があると思うのか?」
( <●><●>) 「あなたこそ、社会人を舐めないで頂きたい。お金は私が払いますよ。一時立て替えて置いてください」
「そりゃまた……太っ腹だな」
( <●><●>) 「相応には稼いでおりますので」
「左様で……。んじゃ、まあ、適当にがっぽり買って来るかね、フヒヒ」
( <●><●>) 「一応断っておくと、予算オーバーした部分は自腹ですからね?」
「……んだよ、ケチくせーな。わーったよ、んで、予算は──」
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 22:55:12.56 ID:f5HkohWr0
( <●><●>)
つ】ピッ
(;><) 「何でそこで切っちゃうんです!?」
( <●><●>) 「伝えるべきことは伝えましたから、後はお任せします」
お金は私が出すのですから、多少自腹の恐怖に怯えてもらってもバチは当たらないでしょう。
私がそう言うと、何故かビロードは複雑な表情を浮かべましたが、それ以上は何も反論をしてきませんでした。
まあ、賢明な判断ですね。
( <●><●>) 「では、彼が来るまで大人しく待っていますかね」
( ><) 「あれ、1人だけしか呼ばないんですか?」
私は、不思議そうな顔をしたビロードの質問を聞き流し、桜の樹に背を預けたまま目を閉じた。
− 前編 了 −
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