( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

6: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:20:11.31 ID:nxWBhSLN0
  
第二十一話 『戦う者、護る者』

白い空間。
冷えた空気が充満する中、二人の人影が対峙している。
両者の間には十メートルほどの距離。

沈黙が流れるが、しかし口を割ったのは男の方だった。

( ^ω^)「クー……」

川 ゚ -゚)「…………」

無言の返答。
とりあえず会話は拒否されているわけではないらしいので、ブーンは言葉を紡ぐ。

( ^ω^)「君は、何故……ここに残ったんだお?」

当初から思っていた事を問いかける。
しかし彼女は

川 ゚ -゚)「君は、何故……ここへ来たんだ?」

と、問い返す。

( ^ω^)「僕は、君と会いに来たんだお」

川 ゚ -゚)「何故?」



9: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:22:26.13 ID:nxWBhSLN0
  
(;^ω^)「何故って……」

川 ゚ -゚)「そこまで、私に固執する理由がないように思えるが」

何だ?

今、目の前にいる彼女が冷たく見える。
むしろ敵意を感じるほどだ。

しかしブーンはそれに怯むことなく、自分の心の内を真摯に語る。

( ^ω^)「僕は……僕は君を連れて帰りたいんだお。
       一緒に楽しくやっていきたいんだお」

川 ゚ -゚)「私がそれを望んでいないのに、か?」

やはりだ。
確実に彼女は自分に向けて敵意を放っている。

何故?



14: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:25:31.33 ID:nxWBhSLN0
  
疑問を問おうとした瞬間。

川 ゚ -゚)「君は……いや、君達は私以外の目的があるのだろう?」

( ^ω^)「『完成品』の破壊……」

川 ゚ -゚)「やはり、そうか」

彼女は自然な動きで右腕を動かす。
その先には刀の柄。

(;^ω^)「ク、クー? 一体どうしたんだお?
      何か様子が――」

川 ゚ -゚)「悪いが――」

彼女は突き放つように宣言した。

川 ゚ -゚)「君は『敵』だ」

(;^ω^)「……!?」

突如、クーの身体から殺気が溢れ出るのを感じる。
今までのクーからは感じたこともない強烈な殺気。



17: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:29:14.09 ID:nxWBhSLN0
  
(;^ω^)「な、何だお!? どういうことだお!?」

川 ゚ -゚)「――さよならだ」

途端、地を蹴る。
フワリとした、あまりにも自然な跳躍にブーンは一瞬の隙を許してしまった。
何より信じられなかった。
彼女が自分に刃を向けるなんて――

(;^ω^)「ッ!」

右肩に一閃。
少量の血が流れ出るが、しかし戦闘挙動に問題は無い。
背後に跳んだクーを振り向きながら目で追う。

川 ゚ -゚)「……これで、解ったか?」

血が付着した刃を振りながら、淡々と喋る彼女。
もはやその目はブーンを見ていない。
いや、ブーンという存在を認識していないかのような――

(;^ω^)「ど、どういうことだお!? 何で君が僕を――」

川 ゚ -゚)「解らないのか」

(;^ω^)「当たり前だお!」

川 ゚ -゚)「ならば、その身体に解らせてやろう」



18: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:32:02.83 ID:nxWBhSLN0
  
来る。
しかし、どうすれば。

まさか戦えというのか。
あの彼女と?
馬鹿な。
自分の目的は何だ? 彼女を連れ戻すことだろう?
なのに戦うなんて――

(;^ω^)「くっ!」

横薙ぎに迫る刃を何とか回避。
彼女はどう見ても本気だ。

やるしか――ないのか?

川 ゚ -゚)「ッ!」

刃が今度は左下方から迫る。
駄目だ、回避出来ない。

(;^ω^)「――クレティウス!!」

瞬間、発光とグローブが現われる。

刃が振り上げられるのと、両手で防御するのは同時だ。
手のひらに刃が触れるのを感じるが、しかし痛みは無い。



21: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:34:44.28 ID:nxWBhSLN0
  
そのまま後退。
彼女と一旦距離をとる。

(;^ω^)「き、君は――」

川 ゚ -゚)「まだ言うか……」

(;^ω^)「あ、当たり前だお! いきなり刀向ける方がどうかしてるお!」

川 ゚ -゚)「君は『完成品』を壊す。 私は壊してほしくない。
     たったそれだけの関係だろう?」

(;^ω^)「そんな……!?」

川 ゚ -゚)「故に私と君は敵同士だ」

(;^ω^)「む、無茶苦茶だお!」

川 ゚ -゚)「どちらが、だ……さっさと指輪を渡せばそれで済んだはずだろう。
     挙句の果てに攻め込むような真似をして……」

刀を構えながら、クーは続ける。

川 ゚ -゚)「『敵』は排除する」



23: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:36:55.58 ID:nxWBhSLN0
  
途端、クーが走りこんできた。
敢えて反撃は選択せず、防御に徹するという判断をとる。

(;^ω^)「くっ!」

鋭い銀閃、刺突が繰り出されるが、それを何とか往なしつつ防御していく。

川 ゚ -゚)「私はな――」

剣撃は止むことなく、しかし声は連なって――

川 ゚ -゚)「私は、思い出したんだ」

(;^ω^)「何をだお!?」

川 ゚ -゚)「失敗作と言われる前の自分を――」

声と共に発せられた刺突がブーンの脇腹を掠った

(;^ω^)「うあっ!」

焼け付くような痛みが広がるが、しかしよろけている場合ではない。
尚も繰り出される斬撃。
戸惑いながらも、ブーンはそれをかわしていく。



24: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:39:51.46 ID:nxWBhSLN0
  
距離をとり、懐から日記帳を取り出す。

(;^ω^)「クー! 君はこれを読むべきなんだお!」

川 ゚ -゚)「……何だ、それは」

( ^ω^)「クルト博士が書いた日記だお! これに彼の真意が記されてるんだお!
      そして君の――」

川 ゚ -゚)「……くだらない」

(;^ω^)「え?」

川 ゚ -゚)「そんなもので私の思い出を汚すつもりか」

(;^ω^)「ちょ、そんなつもりじゃ――」

声が終わる前に、彼女が刀を構えたまま駆け出す。



27: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:42:01.16 ID:nxWBhSLN0
  
川 ゚ -゚)「君は――」

鋭い斬撃。

川 ゚ -゚)「私の――」

空気を穿つような刺突。

川 ゚ -゚)「この右手に残る暖かみを否定すると言うのか!?」

(;^ω^)「!?」

川 ゚ -゚)「そんな資格が君にあるとでも言うのか!」

(;^ω^)「うぐっ――!」

強烈な一撃。
両腕で刃を防御しつつ、やはり距離をとるブーン。
未だ彼の心に戦いの火は灯ってはいない。

(;^ω^)「ど、どうして思い出に拘るんだお!?
      この日記にだってクルト博士の――」

川 ゚ -゚)「黙れッ! 私はこの思い出だけで充分だ!」

何だ?
何が彼女をあれ程までに依存させる?
思い出と日記に何か違いでもあるというのか?



28: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:44:58.31 ID:nxWBhSLN0
  
そしてあの彼女の言葉。
見たことが無い彼女の感情。
己の感情を全て剥き出しにしたような、獣のような――

(;^ω^)「…………」

いくら考えても解らない。
しかし、きっとこの日記を見せれば――

( ^ω^)「やるっきゃ……ないお」

決意。
とりあえず彼女を黙らせるのが先決らしい。
殺したり怪我をさせる必要は無い。
ただ戦闘意識を剥奪出来れば、それで良いはずだ。

覚悟を決め、構える。
こう言っては難だがクーの戦闘能力は高くない。
クレティウスの身体強化があれば、限界突破を使わずとも抑えることが可能なはずだ。

( ^ω^)(とりあえず、武器を失くせば――)

川 ゚ -゚)「ッ!」

銀閃が襲い掛かる。



30: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:47:49.99 ID:nxWBhSLN0
  
( ^ω^)「はっ!!」

気合の声と共に繰り出されるは、身体強化を受けた右拳だ。
それが向かってくる刃に――

甲高い金属音。

(;^ω^)「くっ……」

砕けない。
その銀の光を放つ刀はウェポンの攻撃を受けて尚、そこに形を保ち続けていた。

川 ゚ -゚)「忘れたか、内藤」

刀をぶつけた姿勢のまま、クーが口を開く。

川 ゚ -゚)「ジョルジュのユストーン、ギコのグラニード――それらを防いだのはこの刀だ」

(;^ω^)「やっぱり――」

川 ゚ -゚)「対ウェポン用の処理が施されているんだよ……それも作られた当初から」

(;^ω^)「……!」

日記にあった通りだ。
アレはクルト博士の捻じ曲がった愛情が作り出した産物。
彼はウェポン開発時から、既に対ウェポン用処理技術も同時に作っていたのだ。
その試作型――特に力の強いタイプが、あの刀を守護しているはず。



31: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:51:40.89 ID:nxWBhSLN0
  
それを砕くには――

( ^ω^)「こうだお!!」

突き出していた右腕を引き、その反動で左腕を叩き込む。
当たれば、逆の動作だ。
その動作の連鎖を『連撃』という。

右、左、右、左、右、左――

刀に、高速でぶつけていく。
それによって起こる事象は『衝撃の積み重ね』だ。
抵抗力を衝撃力で打ち消し、更に衝撃力を重ねる。
いくら抵抗力が幾重にも重なっていようとも、それに対応する数の衝撃力をぶつければ――

( ^ω^)「砕くことが出来るんだお!!」

最後の一撃を叩き込んだ。

川 ゚ -゚)「!」

文字通り、破砕。
銀色の破片を撒き散らしながら、刀はその形を失った。
余った衝撃を腕に受けながらクーは数歩退く。



34: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:54:06.11 ID:nxWBhSLN0
  
川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「話を聞いてほしいお」

川 ゚ -゚)「君は――」

( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「愚かだ」

瞬間。
クーの姿が掻き消えた。

(;^ω^)「えぁ――!?」

声を発したと同時。
背中からの強烈な一撃がブーンを襲った。

(;^ω^)「ッ!?」

軽く吹き飛びながらも振り返る。
自分が元いた位置の背後部分に、拳を突き出したクーが居た。
その両拳には――

(;^ω^)「グローブ……!」

いや、ただのグローブではない。
クリアカラーの、透明色のグローブだ。



36: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 20:57:58.94 ID:nxWBhSLN0
  
白い床に着地し、しかし流せない慣性に身を任せながら後転する。
立ち上がりつつ彼女を見据えながら

(;^ω^)「まさかそれが――!」

川 ゚ -゚)「そう……これこそ14th−W『ハンレ』。
     どうやらその日記とやらには、何処に隠されていたか記されていないようだな」

最後のウェポンである14th−W。
日記によれば、クー専用に作られた強力なウェポンのはずだ。

川 ゚ -゚)「次だ」

言葉と同時に変化。
両拳に装着されていたグローブが消え、次の瞬間には――

(;^ω^)「グラニード……!」

クリアカラーの巨剣。
それがクーの右腕に握られている。
そう、14th−Wの能力とは――

川 ゚ -゚)「全てのウェポン能力を保有した万能型ウェポン。
     それが14th−W『ハンレ』だ。
     限界突破が無い代わりに、他の十三のウェポン能力が使用出来る」



40: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:00:06.49 ID:nxWBhSLN0
  
(;^ω^)「反則……と言いたいけど、それは絶対に言えないんだお」

川 ゚ -゚)「何故だ?」

( ^ω^)「この日記を読めば解るお」

川 ゚ -゚)「まだ私を惑わそうとするわけか……」

(;^ω^)「違うお!」

川 ゚ -゚)「戯言はもういい」

巨剣を地につけたまま、彼女は言葉を紡ぎ始める。

川 ゚ -゚)「もはや私達の間に言葉は要らないようだな。
     だから……最後に宣言しておくよ」

彼女は、言った。

川 ゚ -゚)「私は、この思い出を絶対に『護る』と……!」

対し

( ^ω^)「なら、僕も君に宣言するお」

彼も、言った。

( ^ω^)「僕は、真実に抗うために『戦う』と……!」



47: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:02:09.16 ID:nxWBhSLN0
  
両者、構える。
もはや二人の間に遠慮は無くなる。
いつか紡いだ絆は消え去り、ただあるのは闘争心。
互いの、互いが選んだモノを、互いから抗うために。

理由は言わない。
言っても言わなくても結果は変わらないのだから。

疾駆。
クーが巨剣を構えたまま、こちらに走ってくる。

( ^ω^)「十三の能力を持ったウェポン――」

確かにそれは反則といえる能力だろう。
しかし彼は抵抗の意思を収めようとはしない。
何故なら――

( ^ω^)「僕はほとんどの能力をこの目で見て、聞いてきたんだお!」

1st−W『グラニード』の能力は『刀身に対する引力操作』。
一撃の重さを数倍にまで膨らませることも
逆に、刀身を軽くさせて移動や防御速度を上げるという使い方も可能だ。

攻撃にも防御にも使える、まさに1stの名に相応しい性能を誇るウェポン。

しかし欠点もある
攻撃時と防御時の能力がはっきりとしているという点だ。

※以前ギコが『制限や弱点を排除したのがウェポン』と言っていたが
  それは彼なりの判断であり、これもブーンなりの判断である。



50: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:04:33.93 ID:nxWBhSLN0
  
攻撃接触時に軽くするわけがないし、移動・防御時に重くするわけがない。

今、彼女はそのグラニードを振りかぶって攻撃を仕掛けている。
つまり攻撃を受け止めれば、数倍に跳ね上がった一撃によって確実に潰されるのだ。

よって選択すべき行動は自ずと弾き出される。

( ^ω^)(回避!)

向かってくる攻撃軌道上から身を避けるように、身体の重心をズラす。
自分の身体が元あった空間を巨剣が切り裂いていった。
次の瞬間に変化が来る。
一瞬の光の後に来るのは――

( ^ω^)「3rd−W『ウィレフェル』かお!」

クリアカラーの大鎌。
能力は、開戦当初に見た『柄の伸縮自在』だったはず。
遠距離にも対応可能……という能力に見えがちだが、実はもう一つの可能性を持っている。
柄を伸ばした状態での遠心力を利用した一撃だ。
刃も強力だが横に薙いだ場合、腕と刃を繋ぐ柄も攻撃の一部に入る。

つまり全距離同時対応な武器。
その欠点は――

( ^ω^)(柄を伸ばしたら接近、伸ばさなかったら退けばいんだお!)

今、自分のいる場所は、彼女に対して近過ぎず遠過ぎずの場所。
その場で動かず、回避姿勢をとりながら大鎌を見つめる。
タイミングは攻撃する瞬間だ。



54: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:06:49.92 ID:nxWBhSLN0
  
彼女が大鎌を振りかぶった。
柄を伸ばした攻撃――

川 ゚ -゚)「ッ!」

フェイント。
攻撃すると見せかけて接近を開始される。

(;^ω^)「けど――!」

回避姿勢はとってある。

大鎌は通常、薙いで攻撃するものではない。
刃を敵の背後まで持っていき、そのまま首や胴体を狙って引くのが本来の使い方である。
ならば背後を取らせなければ良い。

判断するや否や、バックステップで跳躍。

川 ゚ -゚)「甘いな」

呟きと同時。
振りかぶった大鎌の柄が一瞬で数メートル伸びる。
そのまま、バットを振るような姿勢で――

(;^ω^)「やばっ!? マトリーックス!!」

着地した時に発生する後ろへ流れる慣性エネルギーをそのまま放棄。
身を限界まで背後に逸らす。
背中から倒れこむように身を投げ出した。
次の瞬間、目の前を刃が上から下へ鋭く通過していく。



58: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:09:35.39 ID:nxWBhSLN0
  
(;^ω^)「何とか避けられた――いてッ」

後頭部を地面に打ちつける。
立ち上がろうとした瞬間。

(;^ω^)「うわっ!?」

左足に締め付けるような感覚が襲い掛かる。
慌てて視線を向ける。
クリアカラーの鎖だ。

川 ゚ -゚)「9th−W『ユストーン』」

(;^ω^)「ッ!!」

足元から一気に引っ張られる。
身体が地から浮き――

(;^ω^)「うわぁぁぁぁ!?」

モーニングスターの如く振り回され、そのまま壁に叩き込まれた。
白い壁はブーンの身体を衝撃と共に受け止め、しかし砕けない。
バウンドするように今度は地面に叩きつけられる。

そこへ飛んできたのは光弾だ。
幾つもの光の弾が倒れこんだブーンの位置へ飛び掛っていく。

連続した光爆。
そして弾ける砂塵。



62: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:11:59.35 ID:nxWBhSLN0
  
川 ゚ -゚)「この程度か」

クリアカラーの巨大な銃器を構えたまま、クーは静かに呟く。
だが、油断は出来ない。
未だ砂煙が濛濛と視界の中に、次々と光弾を連射していく。

連続した爆発音。
そして更に増え続ける爆煙。
その中から、突如として人影が飛び出してくる。

(#^ω^)「くぅぅぅ!!」

自身へ飛来する光弾を両拳で叩き落しながら、クーの元へ走りこむが――

川 ゚ -゚)「やはり油断ならないな……」

ウェポンを変更する。
発光の次に現われたのは、クリアカラーのロングブーツだ。

(;^ω^)「ギルミルk――」

言葉が終わらない内に高速接近。
真横に姿を現したクーの視線の先には、未だに彼女の姿を捉えていないブーンの横顔。
その隙だらけの顔面に、一瞬で変更したクリアカラーのグローブを装着した拳を叩き込み――

(;^ω^)「ぐっ……!」

身体強化された身体と、身体強化された拳がぶつかり合う。
結果はプラスマイナスゼロだ。



64: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:14:53.78 ID:nxWBhSLN0
  
衝撃に耐えるブーンを見ながら

川 ゚ -゚)「前々から思ってはいたが、随分と諦めが悪い」

(;^ω^)「根性がある、とか言ってほしいもんだお……!」

吹き飛びそうになる身体を、踏み込むことで留まらせる。
その反動を利用して目の前にいる彼女の腹部目掛け、右拳を突き出した。

川 ゚ -゚)「ッ……!」

それは捌かれる。
しかし格闘戦に持ち込めばブーンの方が有利だ。
捌かれるのは予想済みだと言わんばかりに、更なる攻撃を繰り出す。

( ^ω^)「ふっ!!」

回し蹴りが彼女の脇腹を捉えた。
衝撃に揺れる彼女の身体に更なる連撃を浴びせる。
しかし偽クレティウスを装備している相手も身体強化されている故に、ダメージはあまり無さそうだ。
心の中で舌打ちをしつつ、背後へ退く彼女を追うように走り出す。

川 ゚ -゚)「追撃だと思ったよ!」

突如、目の前に透明色が広がり――巨大な盾だと判断した時には遅かった。

(;^ω^)「わっ!?」

強力な斥力によって身体が背後へと弾き飛ばされる。
空中で姿勢を正そうにも、斥力が一方向に向けられているのでそうもいかない。



69: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:17:20.86 ID:nxWBhSLN0
  
そこへ接近するはギルミルキルの能力を得たクーだ。
ブーンの真上に姿を現した彼女は、すぐさま能力変更する。
その手に握られるはクリアカラーの鉄槌。

(;^ω^)(まずいお!)

ブーンは2nd−W『ロステック』の能力の正体を知らない。
しかし近接用の武器は、総じて触れることが危険だというのは理解している。

(;^ω^)(くっ――!!)

ジゴミルが無いので、斥力は既に効果を失っている。
しかし未だ身は宙だ。
防御しか選択肢が残されていない。

川 ゚ -゚)「はっ!」

鉄槌が振り下ろされた。
対しブーンは両拳をクロスさせ、身体へのダメージを薄めようとする。

瞬間、衝撃。

(;^ω^)「ぐぅぅぅぅ!!」

ロステックを受け止めた拳に、異常な振動と痺れが襲い掛かった。
そのまま地面に叩きつけられる。



71: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:20:18.83 ID:nxWBhSLN0
  
(;^ω^)「な、何だったんだお、今n――」

ジンジンと痛む拳を見て、言葉が途中で止まってしまう。

(;^ω^)「そんな……!?」

グローブがボロボロに裂かれていた。
それを見届けた途端、身体から微かに力が抜けるような感覚を憶える。

川 ゚ -゚)「どうやら粉砕力が耐久度を超えたらしいな。
     もはやクレティウスは本来の力を出せなくなった」

今度は右手にクリアカラーの巨大トマホークが握られる。

川 ゚ -゚)「これで終わりだな」

振りかぶり、鋭く投擲。
それは回転しながら、未だ呆然としているブーン目掛けて飛んでいく。

(;^ω^)「!?」

気付くが、もう目の前だ。
慌てて身体を投げ出そうとするも、その身体を重く感じてしまう。

(;^ω^)(これがクレティウスを使用した後の副作用……!)

水泳後に身体を重く感じてしまう原理と似たようなものだ。
足腰、そして肩や首が特に重く感じる。
しかし
避けねば――



73: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:22:47.62 ID:nxWBhSLN0
  
身を投げた直後。
ラクハーツが背後の壁に激突した。
そこから引き出される事象は一つ。

(;^ω^)「ぐあぁぁぁ!?」

爆発。
背中からモロに爆風を浴びたブーンは顔面から地に叩きつけられ、更に身を転がせていく。
そのまま数回転し、ようやく動きが止まった頃には意識というモノが奪われかけていた。

頭は朦朧とし、体の節々が強制的な駆動に悲鳴を上げ、呼吸も上手く出来ない。

(;´ω`)「ゲホッ、ゲホッ……」

クレティウスの効果が薄くなった途端にこのザマだ。
依存はただの停滞だと誰かが言っていたが、まさに自分のことだと思う。

しかし、諦めない。
しかし、抗いをやめない。
しかし、己は戦いを放棄しない。

(;^ω^)「ぬぐっ……!」

両腕に力を入れ、立ち上がる。
視界が少し霞んで見えるが、すぐに慣れるだろうと判断。

自分はまだ戦える。

まだ両腕があり、両足があり、頭だって意識だってある。
諦めの要素は一つたりとも見当たらない。



76: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:25:54.87 ID:nxWBhSLN0
  
勝たねばならないのだ。
勝たねば彼女はこちらを見てはくれないのだ。

目的が目の前にある。
そんな状態で倒れてなんていられない。

そのために自分はここへ来たのだから。

クレティウスの力が半分近くにまで落ちても、残りは自分の力で何とかしてみせる。

川 ゚ -゚)「まだ来るか」

(;^ω^)「当たり前だお……僕は抗いのための『戦い』を選んだのだから!」

川 ゚ -゚)「私は『護る』よ……君がどんなに抗っても、な」

クーが腕を振った。
その腕の先に、クリアカラーの刀が握られている。

川 ゚ -゚)「これが14th−W『ハンレ』の基本形態だ。
     特に能力は無い」



79: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:28:27.88 ID:nxWBhSLN0
  
両者、格好は違うがそれぞれ構える。

川 ゚ -゚)「能力ばかりに頼るわけにもいくまい……。
     それに反則的な能力だったから、負けて当たり前などと言われたくないしな」

( ^ω^)「もはや特殊な能力など要らない――」

川 ゚ -゚)「己の力のみで勝負だ――!」

疾駆は同時。
二匹の獣は雄叫びを上げながら互いの敵に向かって走る。

片方は刀。
片方は拳。

二人の戦いは、遂に最終局面を迎えようとしていた。



84: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:31:09.33 ID:nxWBhSLN0
  
(;゚∀゚)「ヒャハハハハハハ……ハハハハ……ハァ、ハァ……」

(´・ω・`)「どうしたのさ、気でも狂ったのかい?」

(;゚∀゚)「いや、このクソみてぇに長ぇ階段がムカつくから、とりあえず笑ってみた」

(´・ω・`)「僕には君のような馬鹿のすることが理解出来ないよ……」

ジェイルとの戦いを終えた彼らは、ブーンの後を追うために塔内に入っていた。
隠し通路が開いているのを見て、この先に彼がいるのを確信する。
今はぞろぞろと螺旋階段を上っている状態だ。

( ´_ゝ`)「…………」

(´<_` )「どうした、兄者。 さっきから黙ってるなんてらしくないぞ」

( ´_ゝ`)「いや……気にしないでくれ」

(´<_` )「?」

( ´_ゝ`)(キーとなる日記が無くなっていた……。
      まさかとは思うが、内藤よ……アレに何か書いてあったのか?
      そうなるとリトガーが放置していた意味が解らないが……何か考えがあったのか?)

そして

( ´_ゝ`)(内藤よ……お前はクーの真実を知ってしまったのか……?)

疑問はこの先にあるはずだ。
今は階段を上ることしか出来ないのが歯痒い。



88: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:33:50.32 ID:nxWBhSLN0
  
( ・∀・)「ふぅ……やれやれ、傷に響くねこれは」

(*゚ー゚)「大丈夫ですか?」

( ・∀・)「君の応急手当のお陰で出血は無いようだ。 しかし如何せん傷が痛むのは否めないね」

( ,,゚Д゚)「そのくらい我慢しろ」

( ・∀・)「ははは、私は生憎ドSなのでね。
     はっ、もしかしたら逆に潜在的Mなのかも……いやいや、しかしだね……」

(;'A`)(思いっきりぶっちゃけちゃったよ、この人……)

モララーの発言に対し、各人は思い思いに無視。
その最後尾には壁に手をつきながら階段を必死に上るフサギコ。

('A`)「大丈夫ッスか? 何なら肩を貸し――」

ミ,,"Д゚彡「……いえ、大丈夫です。 仲間である貴方達の手を煩わせるわけにはいきません」

そう言う彼の姿は痛々しい。
それを見たドクオは、黙ってフサギコの腕を掴んで肩に乗せた。
頭に『?』を乗せたフサギコに向かって

('A`)「俺は皆と違って援護役ッスから。
   走り回ったり飛んだり跳ねたりしないんで、体力少なくても戦えるッス。
   それに、遠慮無く頼るってのも仲間らしくて良いと思うッスよ」

ミ,,"Д゚彡「は、はぁ……ありがとうございます」



92: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:36:11.67 ID:nxWBhSLN0
  
そんなこんなで黙々と階段を上る。
未だ出口らしきモノは見えてこないが――

( ゚∀゚)「なぁ、上るにつれて何か聞こえてこねぇか?」

(*゚ー゚)「……そういえば、確かに」

地響きのような、しかし違うような音だ。
地獄の底から響いてきそうな重々しい音が微かに聞こえる。
足を止めていれば解るレベルだが、振動も同時に響いている。

(´<_` )「これは……」

( ・∀・)「何かが起きていることは確実だね……早く上ってしまおう。
     そして問いださねばね……。
     クルト博士はともかく、リトガーが何に『完成品』を利用しようとしているのかを」

前進あるのみ。
それが彼らに出来る唯一のことだった。



94: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:38:27.28 ID:nxWBhSLN0
  
白い空間。
そこでは二つの人影が交差し、激突し、弾き飛ばされていた。

( ゚ω゚)「おぉぉぉぉぉ!!」

川 ゚ -゚)「はぁぁぁぁぁ!!」

声と同時にぶつかるのは金属の音。

刀と拳。

それらが互いを破壊せんという勢いでぶつかり合う。
ぶつかった瞬間に衝撃波が吹き荒び、白い空間を揺らす。

川 ゚ -゚)「君に――!!」

上方からの斬撃。

川 ゚ -゚)「君に解るというのか!
     記憶の中で生きていた人が、思い出せば居なかったという悲しさが!!」

それを往なすのは拳。

( ゚ω゚)「解るわけないお!!
     ただ自分の殻に閉じ篭もって出した結論なんて、解ってたまるかお!!」

高速で交差する武器。
互いの頭部を、胸部を、腹部を、腕部を、脚部を狙った攻撃が交差する。



98: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:41:24.97 ID:nxWBhSLN0
  
  往なし
                        防御し
         弾き
             ぶつかり
                            回避し
     外し
                     交差し
          歪曲する。

力を半分失ったクレティウスと、能力が無いハンレが高速の攻防を繰り返す。

( ゚ω゚)「君はぁぁぁぁ!!」

防御に使われた刀を叩き折るかのような一撃。

( ゚ω゚)「君はッ! 『失敗作』なんかじゃないんだおっ!!」

響く振動を無視し、反撃に移る刀。

川 ゚ -゚)「ならば――ならば何だと言うのだ!?」

強力無比な一撃を逸らす。

( ゚ω゚)「君は『シッパイサク』なんだお!!」

川 ゚ -゚)「聞いた私が馬鹿だったよッ!!」

鼓膜を劈く甲高い金属音。
アッパー気味の拳と、全てを両断する勢いの刀がぶつかり合う。



101: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:43:34.25 ID:nxWBhSLN0
  
波動が白い空気を震わせる中で――

川 ゚ -゚)「のうのうと普通の暮らしをしてきた君にッ!
     私の何が理解出来るというのだ!」

( ゚ω゚)「理解なんて出来るかお! 理解なんてしてたまるかお!」

銀閃と白打が激突する。

( ゚ω゚)「君一人が勝手に出した、そんなネガティヴな結論なんて知るかぁぁぁ!!」

刀を右腕で押さえ、左拳がクーの顔面目掛けて放たれる。

川;゚ -゚)「うぁ!?」

左頬を捉えた。
刹那の沈黙後、弾け飛ぶようにクーの身体が吹き飛ぶ。
しかしバク転をするような姿勢で着地。
血の混ざった唾を吐き捨て、彼女はこちらに疾走を再開する。

川 ゚ -゚)「『かつて』を見ぬ君に――何が理解出来るというのだ!!」

対し、ブーンも吠える。

( ゚ω゚)「『これから』を諦めた君に――何が得られるってんだお!!」

人影が再び激突する。
空気が震え、地の塵が飛び、壁が振動する。



104: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:45:55.12 ID:nxWBhSLN0
  
反動の衝撃に、互いの脳と身体が悲鳴を上げる。

( ゚ω゚)「くぅぅぅぅぅ!」

川 ゚ -゚)「うぁぁぁぁ!!」

立ち直りが早かったのはクー。
一旦刀を鞘に納め、抜刀術の構えをとりながら走りこんでくる。

最速の斬撃がブーンに迫った。

ようやく足を踏み留めた彼の視界には、既に攻撃姿勢に入った彼女の姿。

川 ゚ -゚)「ふっ!!」

漏れ出た気迫の声と共に、透明色の刀が鞘から抜かれる。
その後は一瞬だ。
もはや残像さえ見せぬ速度で、裂帛の気合と共に放たれた斬撃がブーンを襲った。

手応え――有り。

次の瞬間には、身を折りながら吹き飛ぶブーンの姿。
しかし見る。
斬撃が当てられた部分に、両拳が重なっているのを。

防御された。
まだ彼に意識がある。

思うと同時、自然と吹き飛んだブーンの元へと走りこむ。



108: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:48:01.33 ID:nxWBhSLN0
  
川 ゚ -゚)(このまま追撃し、連撃を叩き込んでやる……!)

視線の先。
ブーンは吹き飛ばされながらも、目を開いていた。
その先には壁。

激突するかと思われた矢先――

( ゚ω゚)「ッ!!」

直撃する直前に姿勢転換。
足を壁に向けた。
顔はクーの方向を、そして視線もクーを射抜くように向けられている。

川;゚ -゚)「しまっ――」

気付き、ブレーキをかけようとするが遅い。
撃音と共にブーンが壁を蹴り飛ばし、こちらへ向かって飛んでくる。

( ゚ω゚)「うぉぉぉぉ!!」

一瞬の接近。
右手、左手をガシリと掴まれ、そして両足も彼の足によって封じられる。
それでも勢いは止まらず、ブーンとクーは組み合ったまま地を滑った。



109: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:51:03.25 ID:nxWBhSLN0
  
( ゚ω゚)「おっ!」

声と共にクーの頭蓋骨に衝撃が走り、視界が暗転する。
ブーンの思い切り勢いをつけた頭突きが直撃したのだ。
そのまま後頭部も地面に打ち付ける。

意識が彼方へ飛びそうな感覚。
しかし彼女はギリギリのところで意識の淵に手を引っ掛けた。

次に目を開いた時。
ブーンが己の腹部に両足を乗せていることに気付く。

瞬間、衝撃。
内臓を圧迫される感覚と共に衝撃が全身を走る。

川;゚ -゚)「ぐぅッ!!」

両足でのスタンプ。
地面に強かに打ち付け、しかし終わりを告げない衝撃は彼女の背中部分で爆発した。
ガクン、と腹が持ち上がる。
背骨や肋骨がギリギリと痛むが、その衝撃を利用してクーはすぐさま姿勢を戻す。
だが、立ち上がろうとしようにも膝に力が入らない。

川;゚ -゚)「ハァ……ッ……ハァ……」

座り込んだまま、息が詰まりながらも肺に酸素を供給する。
対するブーンも少し離れた場所で同じ行為をしていた。

(;゚ω゚)「フゥ……フゥ……!」



114: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:53:23.08 ID:nxWBhSLN0
  
視線を絡ませ、睨み合う。

川;゚ -゚)「私は……私は『護る』んだ……! 護らねばならないんだ!」

(;゚ω゚)「僕だって『戦う』んだお……真実を知ったからには、もはや退けないんだお!」

川;゚ -゚)「真実など――私には要らない……。
     もう、要らないんだよ……この心に浮かぶ思い出だけで充分なんだ」

(;゚ω゚)「君は……」

川;゚ -゚)「私を愛してくれたクルト博士――いや、父さんの最後の作品を
     失くしてたまるものか……!!」

( ゚ω゚)「何でだお……何でそこまで思い出しておきながら君は真実を知らないんだお?」

疑問。
まさか、クルト博士は――

( ゚ω゚)(彼女に真実を知らせていなかった……?)

日記にはその点に関しての詳細は記載されていない。
いや、それらしき文はあったような気がする。

――偽りの精神を持って接する

( ゚ω゚)(まさか、本当にただ感情を与えるためだけに……?
     彼女の役目は彼女自身に知らされていなかった……?)



118: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:55:30.98 ID:nxWBhSLN0
  
ならば、彼女が異常にクルト博士に執着するのも納得出来る。
しかしそれは偽りの愛情故に生まれた、更なる偽りの愛情だ。
そんな偽りの愛情に囚われたからこそ、彼女は『完成品』を護ろうとしているのだ。

( ゚ω゚)(そんな――)

何故、クルト博士はあんな大事なことをクーに教えておかなかったのだろうか。
そこまで思い、そして日記にあった一文を思い出す。

――幸せに

( ゚ω゚)(博士、貴方は――)

様々な憶測が頭に駆け巡るが、答えはきっと彼しか知らないのだろう。
だから彼は、それに関して考えるのをやめた。

そして改めて覚悟を決める。
あの日記の最後の部分。
そこに記された彼の最後の望みを果たすために――

( ゚ω゚)「クー……君はやっぱりこの日記を見るべきだお」

川 ゚ -゚)「まだそんなくだらないことを――」

駄目だ。
彼女は己の妄信にとり憑かれ、もはや耳を貸すことをしない。
やはり物理的に黙らせるしかないようだ。



121: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 21:57:47.82 ID:nxWBhSLN0
  
( ゚ω゚)「クルト博士、見てるお。
     僕が責任を持って、必ず彼女の道を正すんだお……!」

息が整ったところで戦闘が再開される。

川 ゚ -゚)「!」 「!」(゚ω゚ )

もはや二人の手の内は、ほとんどお互いとも理解している。
斬撃の軌道、拳打のパターン、回避運動のタイミング、防御・回避の選択確率。

理解しているからこそ――

川;゚ -゚)「ぐぁぁ!」

(;゚ω゚)「うぐぁ!」

戦いは、先ほどとは逆の意味で互角となった。
もはや回避や防御は通用しない。
多重の攻撃が入り、しかし退かない二人は戦いをやめない。

歯を食いしばり、己の身に降る痛みを無視し、ただただ相手が倒れるまで攻撃を続ける。

( ゚ω゚)「倒れてたまるかお……倒れてたまるかってんだおぉぉぉぉ!!」

川;゚ -゚)「がはっ!?」

彼女の意識が揺れた瞬間、その隙間を縫うような一撃が鳩尾に直撃した。
思わず膝を折りかけるクー。



127: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:00:01.01 ID:nxWBhSLN0
  
しかし、安心したのが間違いだった。
そのまま膝を伸ばし、彼女はブーンの顎に頭突きを繰り出したのだ。

(;゚ω゚)「あぐっ!?」

視界が上下左右、滅茶苦茶に揺れる。
一瞬頭に血が大量に上る錯覚を受けたが、すぐに立ち直ろうと――

重い一撃が胸部を捉えた。

肺に溜まった酸素が一気に漏れ出る。
苦しみの中、下ろした視界に入ったのは刀の柄だった。
刺すのではなく、柄尻を胸部――肋骨の隙間に入れ込むような状態。

(;゚ω゚)「げはっ、げふっ……っぉえ」

肺に空気が入らない。
身体が硬直して動かない。
意識が吹き飛びそうな感覚。

やばい。

視界の中で見る。
クーが立ち上がり、刀を正面に構えたのを。



131: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:02:23.97 ID:nxWBhSLN0
  
(;゚ω゚)「おっ……おっ……!」

やっている事は解る。
やろうとしている事も解る。
それによって自分がどうなるのかも解る。

だが、身体が動かない。
肺が思うとおりに膨らんでくれない。
酸素という行動に必要なエネルギーを空にしてしまった故の結果だ。

クーの顔色が明らかに悪いが、行動に支障はないらしい。
現にゆっくりとだが刀の位置が上昇していく。

あれが自分の脳天へ直撃した瞬間が『死』だ。
このままではやられて――

いや、駄目だ。
やられては駄目だ。

自分の人生が終わるだけじゃない。
彼女の人生も、ある意味終わってしまう。
彼女の道を変えられるのは、今この瞬間のみだ。
やられるわけには――いかない。

( ゚ω゚)(クレティウス……!!)

川 ゚ -゚)「――終わりだ!!」

願いと言葉は同時。
銀光がブーンの脳天目掛けて振り下ろされ――



136: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:04:52.15 ID:nxWBhSLN0
  
(;゚∀゚)「階段UZEEEEEEEEEEEE!!」

(´・ω・`)「とか言ってる間に到着しちゃったけどね」

( ゚∀゚)「おっ、マジじゃねぇか! 危うく階段恐怖症になるトコだったぜ!」

(´・ω・`)「勝手になればいいのに」

( ,,゚Д゚)「お喋りはそこまでだ……行くぞ」

( ´_ゝ`)「扉の先には『白い通路』があって、その奥の部屋に『完成品』があるはずだ」

(´<_`;)「あ、兄者がマジモードになっている……!」

( ´_ゝ`)(流石になるわなぁ……もうここに来るの三度目だし)

( ゚∀゚)「んじゃ、開けるぜー」

開いた瞬間、薄暗い階段に白い光が漏れる。

( ・∀・)「うぉ、まぶしっ!」


(;'A`)「!?」

( ・∀・)「ははは、一度言ってみたかっただけだよ」

いつものように、全員が無視。
シクシクと泣き真似をするモララーを放っておき、それぞれが扉をくぐっていく。



139: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:07:13.58 ID:nxWBhSLN0
  
その先に見た光景は――

(;*゚ー゚)「!?」

(;´・ω・`)「あれは――!!」

その先の光景に、ほぼ全員が絶句した。

川;゚ -゚)「……!」

クリアカラーの刀を振り下ろしているクーと

( ゚ω゚)「…………」

それを片腕で握るように制しているブーン。
その左腕は強固な手甲によって護られているようにも見える。

川;゚ -゚)「そ、れは――」

( ゚ω゚)「力が二分の一の右拳と二分の一の左拳……。
     その二つを一つにして片腕だけ限界突破させてもらったお」

川;゚ -゚)「何だと……!?」



143: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:09:25.14 ID:nxWBhSLN0
  
( ゚ω゚)「これで、とりあえずの戦いは終わりだお。
     ――『強化符・腕部』展開」

声と共に、左腕から符が舞う。
それは空いている右腕に纏うように展開され――

川;゚ -゚)「!」

危険を感じたクーが咄嗟に退こうとする。
が、刀を押さえられているので簡単にはいかない。

武器を手放すか、否か。

この一瞬の迷いが、クーの運命を変えた。

( ゚ω゚)「ッ!!」

轟、という音が唸った直後、右拳がクーの腹部を捉える。
瞬間。
弾けるに彼女の身体が吹き飛んだ。
そのまま滑空し、壁に激突。

川;゚ -゚)「ぐっ……ぁ……」

衝撃と共に肺から空気が抜け、そのまま力無くズルズルと床に尻をつく。
ドサリ、と音を立て――そのまま気を失った。



146: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:12:12.44 ID:nxWBhSLN0
  
それを見届けたギコ達が、慌ててブーンの元へ走ってくる。

(;^ω^)「おっおっ、皆も来たかお」

(;'A`)「おいおい、クーさん死んでるんじゃねぇか?」

(;^ω^)「多分、大丈夫だお……一応それなりの手加減はし――」

言葉が終わらない内にフラリ、とよろめく身体。
それを受け止めたのはギコだ。

( ,,゚Д゚)「……お前にしては頑張ったな」

(;^ω^)「は、はは……ちょっとツラかったけど、何とかなったお」

( ・∀・)「見ていて手に汗握る攻撃だったよ、うむ」

(;^ω^)「ど、どうもです……お……」

疲労か安堵か、そのまま気を失ってしまうブーン。

( ,,゚Д゚)「だが、根性はまだまだ……だな」

( ・∀・)「愛する人と戦うというのは、思いの外ツラいものだよ。
     君だってしぃ君と戦うのは嫌だろう?」

(;,,゚Д゚)「ちっ、的確な例えを持ってきやがって……」

( ・∀・)「ほら、そんなことどうでもいいから、彼を彼女の傍らまで運んであげよう」



154: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:13:51.30 ID:nxWBhSLN0
  
モララーがブーンを持ち上げ、崩れるように倒れた彼女の側まで運んでいく。
眠ったように目を瞑っている彼女の隣に、ブーンの背を壁に預けるようにして座らせた。

( ・∀・)「ふふふ……ほら、お互いが寄り添うように眠ってるよ?
     これはもうイタズラしたくなっちゃうファンタジーだねこれは!!」

(;,,゚Д゚)「お前、酔っ払ってないよな?」

( ´_ゝ`)「さて、と」

先ほどから背後で黙っていた兄者がブーンの元へ歩いていく。
ゴソゴソとブーンの懐を探ったと思えば、そこから赤いハードカバーの書物を取り出す。

(´<_` )「兄者、それは?」

( ´_ゝ`)「クルト博士の日記帳だ。
      クーさんには悪いが、先に読ませてもらう」

ペラペラとページをめくっていく兄者の手が、ある一部分に差し掛かった時に止まった。

( ´_ゝ`)「…………」

しばらくの沈黙が流れる。



158: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:16:25.20 ID:nxWBhSLN0
  
(´・ω・`)「何が書いてあるのかな?」

( ´_ゝ`)「……いや、大したことは書いてない。
      さっさとリトガーの元へ行こう」

本を閉じ、それをブーンとクーの間に置く。
皆がいつもと違う雰囲気の兄者を不思議そうに見る中、彼は興味無さげに歩き始めた。

( ´_ゝ`)「あの扉の奥が『完成品』の保管されている場所だ」

( ・∀・)「……OK、では行こうか。
     内藤君とクー君は後できっと追いつくはずだ。
     それに我々が、彼らが目覚める前に『完成品』破壊という事態も有り得るしね」

ぞろぞろと『白い通路』から出るために扉の方へ向かっていく。
その中で、兄者は一人思った。

( ´_ゝ`)(リトガー……アンタ、まさかとは思うが……)

ある予感が頭を過ぎる。
日記を読んだことにより、失われていた記憶が徐々に蘇っていった結果だ。

灰色の記憶。
未だ『少年』というカテゴリーに入る歳だった頃。
自分は確かにこの研究所に居た。

おぼろげな記憶がはっきりとしていく。

そこにはクルト博士がいて、リトガー助手がいて、そして彼女もいた。



163: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:18:57.46 ID:nxWBhSLN0
  
( ´_ゝ`)(クルト博士、か……)

幼い自分は彼によく迷惑をかけていた。
しかし彼のお陰で今の自分がいて、PCなどの技術や知識も手にしている。

幼かった己を思い出し、つい笑みがこぼれた。

(´<_` )「兄者……どうした?」

( ´_ゝ`)「いいや、何でもないさ」

(´<_` )「そうか? さっきからおかしいぞ?」

( ´_ゝ`)「ははは、俺は常におかしいさ」

(´<_`;)「?」

( ´_ゝ`)(弟者と会えたのも、貴方のおかげだよ……クルト博士)

密かに、届くか解らぬ礼を送る兄者。
一時だけ『元の自分』に戻った彼は、しかし道化へと戻っていく。

真実をこの目で見届けるために。



168: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:20:48.51 ID:nxWBhSLN0
  
( ,,゚Д゚)「……で、完成品はどこだ?」

『白い通路』から扉をくぐった先。
そこは黒の空間だった。

何も無い、虚無の空間ともいえる広大な部屋。

( ・∀・)「ふむ……」

ふと、見上げる。
天井は無かった。
いや、あるのだが――

(*゚ー゚)「……遠いね」

言葉通り。
天井は遥か上に存在した。
見えるか見えないかというギリギリの距離だ。

( ´_ゝ`)「うーむ」

周りを見渡す。
その壁や床の構造から、兄者は一つの結論を出した。

( ´_ゝ`)「巨大床式エレベーターか、これは」

(´<_` )「そのようだな。 ほら、そこのレバーを動かせば上へと行けそうだぞ」



172: ◆BYUt189CYA :2006/11/29(水) 22:22:37.69 ID:nxWBhSLN0
  
ミ,,"Д゚彡「上、ということは――」

(´・ω・`)「屋上かもしれないね。
      この時期は冷えるからあまり行きたくないんだけど」

( ・∀・)「ははは、風邪をひく前に終わらせれば問題ないよ」

言葉と同時にモララーがレバーを動かす。
途端、電気が流れるような音と共にガコン、という重々しい音が響いた。

('A`)「おっ?」

軟質な機械音を奏でながら、巨大な床が上を目指して動き出す。

( ,,゚Д゚)「この上に、おそらくは在るのだろうな」

( ・∀・)「確実に在るだろうね……『矛盾』が」

( ,,゚Д゚)「――行くぞ」

声と共にエレベーターは上を目指す。
先にあるのは――全ての決着がつく場だ。



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