( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

170: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 20:53:12.86 ID:S6V5Fdvb0
  
第五話 『世界の分岐点』

闇がある。
光はほとんど無い。
天には月があるはずなのだが、それも暗雲に邪魔をされていた。

微かな光が照らすのは、戦の傷跡が残る滑走路のような広域の土地だ。
黒いゲートをくぐり、そこから一キロメートルほどそれが広がる。

( ・∀・)「まだまだ寒い……もう春だというのに」

今は三月の中旬。
春の到来を確実に感じるが、まだ冬の肌寒さが残っている。
周囲の闇・少音が、更に感じる寒さを増幅させた。



175: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 20:55:15.03 ID:S6V5Fdvb0
  
隣でコートを揺らしているのはギコだ。

( ,,゚Д゚)「本当に、ここに真実とやらが在るのだろうな?」

(*゚ー゚)「まぁ、駄目元みたいな感じよね……」

川 ゚ -゚)「私にはそう思えないが。
     確かに奴は怪しかったが、嘘を教えるメリットなど無いように思える。
     それに行動せずに過ごすよりも、よほど良い」

そんな彼女の手は、しっかりとブーンの腕に絡んでいた。

( ^ω^)(……動きにくいお)

从 ゚∀从「でも、破壊されてるんですよね?
      研究所っていうのを、一度見たかったんですけど……」

ハインリッヒが興味深げに周囲を見渡す。
それを、少しだけ暗い顔で見つめるクー。

半年前に行われたFCの調査に、ハインリッヒは参加しなかった。
当時、まだ車椅子を必要としていたというのもあるが
精神的に未熟であった彼女を、この場に連れて来るのには抵抗があったのだ。

特にクーの反発が激しかったのを、ブーンは記憶している。

やはり我が子のように思っているのだろうか。
彼女のハインリッヒに対する愛情は、時に異常を感じさせる。



178: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 20:56:30.46 ID:S6V5Fdvb0
  
( ・∀・)「ジェイル君、どうかな? 何か変わったモノはあるかね?」

爪゚ -゚)「今のところは特に……ですが、逆にこの静寂さが不自然だと推測します」

事実だった。
周囲は、ザワザワと風に揺れる木々の音のみ。
それ以外はギコの小言がたまに聞こえる程度と、地面を叩く靴の音。

本来、あるべき動物の気配さえしないのだ。

( ・∀・)「……梟の鳴き声も聞こえず、虫の響きも無い。
     ははは、これは幽霊が出るフラグかもしれないね」

从 ゚∀从「幽霊ですか!? うわぁ、僕見たことないんですよ!」

( ,,゚Д゚)「……何の遠足だ、これは」

(*゚ー゚)「まぁまぁ」



179: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 20:58:17.78 ID:S6V5Fdvb0
  
戦場であった滑走路を歩く。
そのまま真っ直ぐ行くと、崩壊した建物が姿を見せ始めた。

クルト博士の研究所。
いや、元・研究所と言った方が正しいのだろう。

そこはただの廃墟だった。
全ての建物が、まるで上から押し潰されたかのように砕けている。
破片の直撃を免れた柱や壁が、辛うじて形を残している程度。

そう、あの渡辺によって壊滅した場所だ。

(*゚ー゚)「でも、本当に幽霊が出そうな雰囲気ではあるわね……」

从 ゚∀从「あ、もし見えたら是非とも教えて下さいね!」

( ・∀・)「この場合、馬鹿と呼ぶべきか『ほぅら、ホラーだよ』と言うべきか……。
     うぅむ、悩むところだね?」

( ,,゚Д゚)「間違いなく馬鹿は貴様だな」

( ・∀・)「元祖バカップルには言われたくない」

二人が火花を散らしながら睨み合う。
その横で、ジェイルが無表情に周囲を見渡していた。



181: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:00:30.02 ID:S6V5Fdvb0
  
( ^ω^)「でも、何も無いお」

(*゚ー゚)「……やっぱり騙されたのかしら?」

川 ゚ -゚)「仮に騙されたとしても何になる?
     我々という戦力がいなくなったバーボンハウスを襲撃か?」

( ・∀・)「それはメリットが無いよ。
     街中で暴れれば、流石に足が付きやすいしね……やるとしても時期的に不自然だ」

(;^ω^)「お? じゃあ、どういう――」

そこまで発した時だ。
突如、周囲から光と風が巻き起こる。

光源はブーン達の周囲、つまり崩壊した研究所の端から円状に八つ。
風が竜巻のように渦巻き始めた。

从;゚∀从「うわぁぁ! 何ですかー!?」

( ・∀・)「ジェイル君、原因を報告したまえ」

爪゚ -゚)「不明です……が、一つだけ言えるのは
    これが自然によって発生したものではない、ということです」



184: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:02:07.12 ID:S6V5Fdvb0
  
( ,,゚Д゚)「……あれは」

ギコの視線の先。
瓦礫と化した研究所の敷地、その一番奥に二つの人影。

从'ー'从「いらっしゃーい」

渡辺と貞子だ。
以前と変わらずの白衣を着て、瓦礫の山に立っている。

从;゚∀从「だ、誰ですか……もしかして幽霊さんですかー……?」

从'ー'从「ん〜、その認識は実に美味しいなぁ。
      確かに私は亡霊と呼ばれても仕方ないような?」

(;^ω^)「マジかお!」

( ・∀・)「少し黙れ、馬鹿二人」

モララーが言葉で制す。
少し上の位置にいる彼女を見上げるような視線で

( ・∀・)「こんばんは、渡辺女史……良い夜だね」

从'ー'从「うん、そうだね。 計画発動には良い空気だと思うよ」



186: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:03:35.88 ID:S6V5Fdvb0
  
( ,,゚Д゚)「計画……貴様の言葉、一つ一つが意味不明だな」

从'ー'从「それは貴方達が無知だから」

川 ゚ -゚)「だが、貴様は全てを知っている。
     その計画も、知っているからこそ企てたものだと?」

从'ー'从「そう……私が正しいのだと証明出来ると同時に、世界を救うことが可能な計画。
      私はクルトともリトガーとも違う。
      私は彼らみたいに甘くはなく、臆病でもない」

川 ゚ -゚)「救うとは何だ? 物理的な救いか?」

从'ー'从「んぅー……」

渡辺の動きが止まる。
唇に人差し指を当て、何か思考しているような表情。
そしてこう言った。

从'ー'从「飽きた」

(;^ω^)「え?」

从'ー'从「質問ばかりで面白くないよ。
      もっとこう、思いをぶつけ合うような……そう、激しいバトルをしたいなぁ」



187: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:05:03.53 ID:S6V5Fdvb0
  
何を言っているのだろうか。

周囲では轟音を奏でながら風が渦巻き、点在するのは紫色の八つの光。
その中にいながらも、彼女の言葉を聞いた者達は沈黙で答える。

( ・∀・)「バトる意味が解らない。
     例えば、その計画とやらが私達にとって障害となるのならば
     それは止めねば、ということになるが……」

从'ー'从「自分に関係ないことは、どうでも良いの?」

川 ゚ -゚)「何だと?」

从'ー'从「そのままの意味だよ。
      貴方達は、自分に関係ないことなんてどうでも良いの?」

諭すような口調。



189: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:06:33.13 ID:S6V5Fdvb0
  
( ・∀・)「その計画が、私達以外の者に関係すると言うのかね?」

从'ー'从「……もういいや」

諦めた様子で、肩を落とした。
その表情には明らかに落胆の色が張り付いている。

从'ー'从「何て言うか……ドライだよねぇ」

(;^ω^)「ワケが解らないんだお。
      僕達は何も知らないんだから仕方ないお」

从'ー'从「無知だからって許されるなんてことは……無い場合もあるよね、社長さん?」

( ・∀・)「否定は出来ない」

川 ゚ -゚)「つまり、貴様は何がしたいのだ?」

クーが苛立ちを隠さずに問いかける。
先ほどからの飄々とした態度が癇に障ったらしい。

从'ー'从「あはは、ごめんごめん。
      ちょっと色々と試させてもらっただけなんだけど――」



191: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:08:11.00 ID:S6V5Fdvb0
  
渡辺の笑みが、消えた。

从' - '从「駄目だよ、貴方達は」

その言葉。
その空気。
その表情。

全てが一瞬で裏返り、ブーン達に敵意を剥いた。

从;゚∀从「ひっ……」

まるで実体化しているかと錯覚を受けるほどの殺気。
戦闘慣れしていないハインリッヒが直撃を受け、その場に尻を着く。

(;,,゚Д゚)「それが貴様の本性か……」

頬に一筋の冷や汗を流しながら、ギコが口を開いた。

周囲には風と光が荒れ狂っているはずなのだが、痛いほどの静寂が発生している。
その中で硬い唾を飲み込む音。
しぃが、やはり粘つく汗を流しながら渡辺を見上げていた。

( ・∀・)「…………」

モララーも同じく。
汗こそ掻いていないものの、しかし同じく声も発することは無い。



194: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:10:41.89 ID:S6V5Fdvb0
  
ブーンは視線だけで周囲を確認。
やはり風が竜巻のように身を躍らせているが、音を音として認識出来ない。
渡辺が何かしているのか、もしくは彼女の殺気が感覚を麻痺させているのか。

初めて感じる圧倒的な悪気。
あのクックルやツー、敵だった時のジェイルやハインリッヒを超える何かを感じる。

从' - '从「…………」

(;^ω^)(……怖いお)

真っ先に浮かんだ素直な感情。
それは恐怖。
まるで逆らうことが世界最大の罪だと思える。
おそらく、この場にいる全員が同じような感覚を身に受けているはずだ。

一人の例外を除いて。

「――つまり貴女は我々を見限った、と……そう判断して宜しいのでしょうか」

この状況下にありながら、凛とした声が響いた。



196: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:12:28.49 ID:S6V5Fdvb0
  
从' - '从「……そうだね」

爪゚ -゚)「理由を伺っても宜しいでしょうか」

ジェイル。
感情無き人形故に、渡辺から発せられる気を無視出来るのだろうか。
それとも感じてさえいないのだろうか。

どちらにせよ、彼女は確実に渡辺と対等の心境位置に存在していた。
その口から発せられるのは

爪゚ -゚)「確かに我々側に、人格が良い人物が揃っているとは言えません。
    むしろ言ってはならないと思っております。
    しかしだからといって一方的に見限られても、それはそれで不満が出るでしょう」

両手を軽く広げ

爪゚ -゚)「我ら無知なる者。
    教えを乞わねば知ることさえ出来ぬ愚者なれば
    しかし真実を自ら得ようとする心意気もある無力な存在。
    探究心と呼ばれるそれは、人間という生物に与えられた特権――」

無表情のまま目を伏せ

爪゚ -゚)「だからこそ僕たる人形の私が代弁し、代聴しましょう。
    ただただ主人のために、ただただ真実を手に入れるために」



197: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:14:13.48 ID:S6V5Fdvb0
  
風の音が聞こえる。
周囲の轟風だ。
つまり聴力が回復した、もしくは渡辺の策が解かれたことになる。
彼女を見れば、その表情に笑みが浮かんでいた。

从'ー'从「いいね……その謳い文句」

懐から白い銃を取り出す。
それを軽く掲げ、銃身で肩を叩きながら

从'ー'从「なら、こうしようかな。
      計画発動前に私を止めることが出来れば、真実を教えてあげる。
      その上で仲間になるかならないかの選択権も上げちゃう」

しかし

从'ー'从「もし私を止めることが出来なかったら、今度こそ本当に見限るよ。
      これ以降、私達の視界に入るのなら『敵』と認識して容赦無く攻撃させてもらう」

川 ゚ -゚)「それは……」

( ・∀・)「随分と御高い位置から見下ろされたものだね」

从'ー'从「当然。 私は正しいのだから。
      正しい私が、間違いかも解らぬ貴方達を導こうってのは道理に適ってるでしょ?」

( ,,゚Д゚)「よく解らんが……随分と馬鹿にされたものだ」



198: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:16:08.96 ID:S6V5Fdvb0
  
从'ー'从「あはは〜」

クスクスと笑いながら銃を構え

从'ー'从「今から約十分。
      もう戻れないまでに計画が進行するまで、ね。
      目安として……周囲の光が大きくなったらアウトかな」

( ・∀・)「我々を相手に十分……無謀だね?」

ロステックを解放。
黄色の鉄槌を右手に下げ、モララーが笑う。

それに倣うように、他の者達も指輪を解放した。

( ,,゚Д゚)「何も解らず、何も知らず、何を信じるべきかも――」

川 ゚ -゚)「だが、とりあえず今やるべきことは解った」

( ^ω^)「行くお!」



202: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:22:14.56 ID:S6V5Fdvb0
  
全員が飛び掛かるための姿勢を作った瞬間。

激音。

皆が驚きの表情を浮かべた視線の先。
渡辺の背後から、幾つもの鉄骨が浮遊を始めた。

砕けているものもあれば、折れ曲がっているものもある。
が、それらはまるで意志を持っているかのように渡辺の周囲に浮かび

从'ー'从「んじゃ、開始!」

声と共に、鉄の群が襲い掛かってきた。
一直線にブーン達の位置まで飛来。

( ,,゚Д゚)「ッ!」

ギコが、皆の盾になるように向かってくる鉄骨を弾き飛ばす。
サポートとして、しぃが羽片をばら撒き始めた。

慌てて退避するのはハインリッヒ。
能力など関係無しに力のみで押してくる鉄骨に対し、彼女は無力に等しい。
それを追うように、護衛役としてブーンが走った。



208 名前: ◆BYUt189CYA [スマソ、さるったった] 投稿日: 2007/03/06(火) 21:31:28.93 ID:S6V5Fdvb0
  
川 ゚ -゚)「ハイン! 内藤の側を離れるなよ!」

从'ー'从「あはは、『最強』の名が聞いて呆れるね」

川 ゚ -゚)「その名で呼ぶな! ハインはもう『最強』なんかじゃない!」

从'ー'从「何言ってるの?
      ハインリッヒは今も尚『最強』だよ」

川 ゚ -゚)「違う……!」

从'ー'从「現実を、過去を見てみなよ……逃げはダメダメ」

大袈裟に肩を竦めながら

从'ー'从「彼女は『最強』。
     人々の盾となり剣となり弾となるために生まれてきた、人造史上の『最強』だよ」

言葉を耳に入れたクーが歯を噛む。
そしてハインリッヒも、少し青ざめた表情を見せた。

从'ー'从「何なら見せてみる?
      今、包帯で隠されている彼女の右腕と両足を――」

川#゚ -゚)「――貴様ァァ!!」

クーが吠え、地を蹴る。
向かい来る鉄骨を蹴り飛ばし、突っ立っている渡辺へと迫った。



212: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:34:23.98 ID:S6V5Fdvb0
  
直後、クーの身体が真横へと弾け飛ぶ。

(;^ω^)「クー!?」

川;゚ -゚)「ぐっ……!」

川 -川「マスターに近付けさせはしません」

貞子。
気配も無く現れた彼女が、素手でクーを殴り飛ばしたのだ。
そのままの姿勢で腰から二本のナイフを取り出し、駆ける。

迎撃はグラニードだ。
引力を司る巨剣が、ただの鋼鉄で構成されたナイフと対峙。

( ,,゚Д゚)「死ぬぞ」

川 -川「死にません」

激突。
十メートルの距離を一瞬で無にし、互いの得物をぶつける。
力任せの一撃だ。
当然、質量が大きい方が勝る。

( ,,゚Д゚)「――ッ!」

回転を交えた連撃。
縦に横にと青い刃が走る。
が、貞子は全てを両手に持ったナイフで捌いていた。
浅く黒髪が切り裂かれながらも、身に一つも傷が入らない。



216: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:36:52.09 ID:S6V5Fdvb0
  
川 -川「!」

何かに気付き、バックステップ。
その空いた空間を羽片の群が突き抜けていく。

しぃの不意打ちだ。

羽を広げて構える彼女を視線に入れる。
身を背後へ飛ばしている最中にも関わらず、貞子は右手のナイフを手放した。

足が地に着く。
慣性をそのまま放置し、右手をしぃに向かって振るった。
廃材を蹴飛ばしながらも投擲されたのは一枚の紙。

(;^ω^)「あれは――!?」

似ている。
彼の限界突破である『強化符』と、それは酷似していた。
ということはタダの紙であるわけがない。

予想は当たる。

風に乗るように身を躍らせていた紙は、地面に着いた途端に光を発した。
そのまま地を滑るように広がる光が

(;,,゚Д゚)「うぉ!?」

ギコ達の足に絡みついた。
完全に固定された足場は、上に立つ者を不動とする。



221: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:39:34.46 ID:S6V5Fdvb0
  
川 -川「では」

(;,,゚Д゚)「ぐぁ!?」

何故か光の干渉を受けない貞子が、ギコに接近して一撃。
足を動かせないギコはサンドバッグと化す。

(;^ω^)「やばいお!」

慌てふためくブーン達。
その隣に位置する戦場では、光が飛び交っていた。

川 ゚ -゚)「ッ!」

クリアカラーの7th−W『ガロン』を脇に挟み、右方向へと身を飛ばす。
直後、音速で光弾が掠めていった。

前転。
土埃を身に纏わせながら、跳ね上がるように身を起こしながらトリガーを引く。

空気の抜けるような音と衝撃。

三連射の光弾が向かうが、渡辺は軽いステップで回避する。
その身のこなしは良いとは言えない。
それでも一度も当たらぬところを見るに、どうやら弾道を見極めているらしかった。



222: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:42:23.58 ID:S6V5Fdvb0
  
思考の時間すら与えられない。

体勢を戻した彼女が握っている白い銃の口が発光。
音速超過の弾が連続で飛来。

川;゚ -゚)「――くっ」

膝を酷使し過ぎて抵抗を感じる。
それを無理矢理に動かして地を蹴った。

大腿部に違和感。

足の使い過ぎによる危険シグナルだ。
疲労が溜まり、痛みとダルさが広がっていく。

が、止まることは許されなかった。

隙を見せれば次々に飛来する光の弾。
周囲は瓦礫が山を築いているが身体を隠すには脆く小さい。
たまに崩れ掛けた壁があるが、薄過ぎて盾になるかも怪しい。

実質、ただの足場が悪い戦場でしかなかった。
今まで回避し続けられたのが奇跡だと思えるほど。



226: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:44:24.76 ID:S6V5Fdvb0
  
川;゚ -゚)(やはり接近戦に持ち込むしかないか……!?)

噴き出る汗も拭わずに思考。
銃しか持たぬ敵に格闘戦を仕掛けるのは有効な手段だ。

しかし、それくらい彼女も解っているのではないだろうか。
だとすれば、対抗手段を用意していてもおかしくはない。

――いや、確実に罠がある。

从'ー'从「逃げててばかりじゃ面白くないよー?」

川;゚ -゚)(どうする……?)

判断は一瞬。
これ以上、避け続けるのにも限界がある。
ならばギルミルキルの高速移動を用いて接近し、一撃離脱を仕掛けた方が――



227: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:46:13.29 ID:S6V5Fdvb0
  
しかし、やはりそこで思い留まる。

川;゚ -゚)(誘いの可能性も考えられる、か……)

彼女はウェポンを理解している。
無論、クーがその戦法を使用出来ることも。

甘い誘惑だ。

こうすれば勝てるかもしれない、という希望をチラつかせた罠。
可能性は高いが――

从'ー'从「それそれー!」

飛来音さえ聞こえぬ速度で光弾が来る。
厄介なことに対策が無く、もはや攻撃の気配のみで予測しているという状況だ。

川;゚ -゚)「!?」

震動と激音が同時に響く。
クーが盾代わりにしていた薄いコンクリートが、容易く破砕された。



229: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:48:02.12 ID:S6V5Fdvb0
  
( ・∀・)「ふむ……」

二ヶ所の戦いから少し離れた位置。
モララーとジェイルは、戦闘そっちのけで歩き回っていた。

今、目の前に風の壁がある。
脱出しようにも、触れれば身体がバラバラになるほどの強さ。

触れぬよう壁を伝って歩いていくと

爪゚ -゚)「発見しました」

ジェイルの報告の声。
視線の先に、紫色の光を発する石が一つ置かれていた。

爪゚ -゚)「精査終了……これを含めて周囲に八つ展開されております」

( ・∀・)「どうやらこの石が、超常現象を巻き起こしているみたいだね」



231: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:49:47.70 ID:S6V5Fdvb0
  
とりあえず触れようとする。
その手を、ジェイルが掴んで止めた。

爪゚ -゚)「私に御任せを」

反対側の手を伸ばし、石へと近づけた直後。

耳障りな音が響く。

見れば、ジェイルの右肘から先が捻じ曲がっていた。
もはや原型を留めない腕を見つめ

( ・∀・)「……ふむ」

爪゚ -゚)「強制的な力を感じました。
    取得データは記録しておきますが、データベース上にこのような事象は登録されておりません」

( ・∀・)「まぁ、超常現象を引き起こすくらいだからね。
     ということは、この石には手出し出来ぬというわけか」

視線を逸らし、背後を見る。
その先には戦場があった。

光が飛び交い、金属音が響き、誰かの悲鳴も聞こえる。

爪゚ -゚)「現状から判断するに、やはりあの女性を屈服させるしかないようです」

( ・∀・)「まったく面倒なことだよ戦いなど……やれやれだね」

ジェイルは腰から刀剣、モララーはロステックを肩に担いながら戦場へと歩き出した。



233: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:52:05.71 ID:S6V5Fdvb0
  
突如として発生した竜巻と光。
少し離れた樹木の天辺。
そこに、その異常を外側から見つめる影が二つあった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「なぁ、どっちが勝つと思うよ、姉貴?」

先日、渡辺の下に現れた赤髪の男と

ル(i|゚ ー゚ノリ「何を言っている、兄上。
      渡辺側が勝たねば意味がないだろう? そのために私達は動いていたはずだ」

似たような雰囲気を持つ青髪の女だ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「でもよぉ、向こう側に情報を提供した奴って――」

ル(i|゚ ー゚ノリ「あぁ、十中八九『秩序守護者』だ。
      どうしても自分達のルールが大切らしい」

メ(リ゚ ー゚ノリ「それ言ったら、俺達も似たようなもんじゃないか」

ル(i|゚ ー゚ノリ「ふっ……まぁな」

二人で笑みを浮かべる。
その表情はまったくの同一だった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「さて、これが終わったら忙しくなるぜ。
      まず『王』に報告するだろ。
      んで、喰う……あれ? 何だ、意外とやること少ねぇや」



235: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:54:24.20 ID:S6V5Fdvb0
  
ル(i|゚ ー゚ノリ「ただ喰うのも面白くないな。
      滅多にないこの機会……少し趣向を凝らして楽しんでも良いかもしれない」

メ(リ゚ ー゚ノリ「どうすんだ?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「そうだな、真面目に戦争でもするか?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「戦争ぉ? うっわ、つまんねぇ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「確かに普通に攻め込めば、この世界など三日三晩で終わるだろう。
      だから、私は少し時間を与えたいと思っているのだ」

少しだけ目を輝かせながら言う。

ル(i|゚ ー゚ノリ「今まではすぐに喰い始めていたが……今回は奴らが熟すまで待ってみよう、とな。
      現にあの世界では、我々の油断で時間を与えてしまったばかりに
      まだ抵抗する人間がいるだろう? 少数だがな」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉ、成程成程。 歯応えが出るかもしれねぇってこったな?
      もしかしたら、あの『軍神』みてぇな奴が現われるかもしれねぇな。
      そうなったら言うこと無しだ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「まぁ、まだ先の話か……今は結果を待とう」

青髪の女が懐中時計を取り出す。

ル(i|゚ ー゚ノリ「残り五分、か。
      面白いものだ……あと三百秒で世界の行く末が決まるというのだから」



237: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:57:02.86 ID:S6V5Fdvb0
  
(;,,゚Д゚)「くそッ……!」

襲い来る打撃。
それが、光の床によって足の動かぬギコに迫った。

骨が軋む音と衝撃が脳を揺さぶる。
口の端から血を流しながら耐えるが、苛立ちは積もるばかりだ。
それはすなわち焦りを生み出し、防御の穴が増えることを意味する。

そこを狙い済ましたように、貞子の拳が唸る。

(;,,゚Д゚)「つぁッ!」

打撃に耐え、右手に持ったグラニードを横殴りに叩き込んだ。
しかし、足が動かせないために思った力が出ない。
軽くあしらわれた後に、強烈なカウンターがギコの腹部に直撃する。

(;*゚ー゚)「ギコ君……!」

その様子を見ているのは空中に浮かぶしぃ。
羽片を放てば傍らにいるギコにまで当たる可能性があるために、なかなか攻撃出来ずにいた。

从;゚∀从「うわぁ動けませんー!!」

光る地面の上で、尻餅をつきつつM字開脚をしているのはハインリッヒ。
隣では、やはり足を動かせないブーンが棒立ちしている。

貞子の発した符の効果は、ゆっくりとだが広がるばかり。
このままでは殴られ放題だ。



239: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 21:58:51.27 ID:S6V5Fdvb0
  
と、そこで疾駆の音が聞こえる。

( ^ω^)「あ、あれは……」

爪゚ -゚)「目標確認」

ジェイルが轟音と共に高速で走ってくるのが見えた。
光る地面をものともせず、一直線に貞子目掛けて突進。

川 -川「!!」

爪゚ -゚)「覚悟」

激音。
ジェイルの刀剣が、防御した貞子の掌を貫く。

力任せに引き抜きながら回転。
そのままの勢いで殴りつけるように刃を――

川 -川「ッ!」

しかしそれは阻止される。
一瞬で腰から引き抜いた金属製トンファーが、刀剣の刃を粉々に砕いたのだ。



243: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:00:38.19 ID:S6V5Fdvb0
  
爪゚ -゚)「この光を発する地面……どうやら束縛対象は『生物』のようですね」

折れ砕けた刀剣を投げ捨て、今度はハンドガンを取り出す。
そのまま構えながら

爪゚ -゚)「つまり貴女も、私と同じ機械人形だと判断します」

川 -川「訂正を求めます」

トンファーを振り回しながら

川 -川「『同じ』ではありません。
     私の方が圧倒的に上だと、そう判断してもらいたいものです」

二人は合図も無しに同時に激突。
ジェイルのハンドガンが至近距離で火を噴き、しかし目標を穿たない。
むしろそれを囮として蹴りを走らせる。

対する貞子の反撃は鋭いものだった。
両腕を背後へ引き抜き、その反動を利用しての回転攻撃。
軽いステップを踏みながら、打ち抜くようにジェイルの破壊を求める。



245: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:02:39.65 ID:S6V5Fdvb0
  
金属がぶつかり、銃声が響き、踏み込みの動作が踊る。
まるで予め決められていた演武を見ているかのような光景。

目の前を銃弾が掠めていくというのに、貞子にはまったく動揺が見られない。
どちらかといえば押されているジェイルも、同じく焦った様子は感じられない。
しかし、それだけに一瞬の隙が多大な効果を生み出す。

リロードだ。

ハンドガンの弾には当然だが限りがある。
全ての銃弾を撃ち尽くせば、新たなマガジンを叩き込まねばならない。
そこを貞子は狙った。

最後の弾が撃たれたのを確認した彼女は、相手がリロードの動作に入る直前に『溜め』を作る。
つまり動作に入ったと同時に全力の攻撃を仕掛けるつもりだ。

(;^ω^)「!!」

ブーンは感じ取る。
攻撃の直前に出来る独特な『沈黙』を。

如何なる攻撃であろうと、力を溜める時間は絶対に必要だ。
求める力が強ければ強いほど、その沈黙ははっきりと浮かび上がる。

距離が離れている彼にも感じ取れるほどの違和感は、それだけで圧倒的な危険を臭わせた。

それを一番近い距離で感じ取っているはずのジェイル。
しかし、まるでそれに気付いていないかのようにリロードの動作に入った。



246: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:04:58.00 ID:S6V5Fdvb0
  
ジェイルの指がリリースボタンを押すと同時に、貞子の両腕が高速で動き出す。

マガジンが落下すると同時に、貞子が右足を踏み出す。

右手が無いため、腰に接続したマガジンへ銃を向かわせるが
その間に貞子は目の前まで接近していた。

絶対に間に合わない。
ブーンが思わず目を逸らしかけた瞬間。

川 -川「!?」

直撃すると思われていたトンファーが止められた。
しかも両方だ。

何事かと目を丸くする視線の先。
貞子の両腕は、ジェイルの両腕によって掴まれ阻まれていた。

川 -川「隠し腕――!」

爪゚ -゚)「最近では年末の宴会にてジャグリング披露の際に使用しました」



253: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:07:21.50 ID:S6V5Fdvb0
  
ジェイルの両肩から生えた隠し腕が、貞子の手首をホールドしている。
驚く暇さえ与えずに動作。

その掴んだ手首をそのままに、ジェイルの身体が横にロール。
まるで回転人形のように貞子の周囲を半周し

川 -川「ッ!?」

遠心力を利用した裏拳を放つ。
衝撃波さえ見えそうな威力のそれは、確実に彼女の後頭部を打ち抜いた。
一瞬遅れて硬質な音が響き渡る。

膝を軽く折りながら姿勢を崩す貞子。
直後、呼応するように地面の光が消えた。

( ,,゚Д゚)「これは――……」

( ^ω^)「おっ! チャンスだお!

ギコがその場に膝をつく。
どうやら貞子からのダメージが予想以上に積もっていたらしい。
すぐにしぃが介抱に向かった。



256: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:08:55.62 ID:S6V5Fdvb0
  
足が自由になったブーンは、ジェイルの援護に走る。
しかしそれよりも早く彼女の顎が、突如として真下から穿たれた。

前屈みになった貞子。
その右足の踵が、まるでその傾いた身体と対称となるように叩き上げられたのだ。

爪゚ -゚)「――ッ」

突然の衝撃に思わずよろめくジェイル。
その華奢な首に、貞子の腕が伸びた。

川 -川「甘いと言わざるを得ません。
     私があの程度の衝撃で、機能不全を起こすと思いましたか?」

爪゚ -゚)「そう思わせる動作性能でしたが」

川 -川「認識・判断能力の不備でしょう。
     修理及びバージョンアップをオススメします」

ですが、と付け加え

川 -川「もはや無駄でしょうが」

貞子の指が擬似皮膚を突き破り、内部のケーブル類を掴んだ。
そのまま無理矢理に引き千切る。
ジェイルの顔が異常な角度に曲がり、その白い首からオイルや部品を撒き散らした。



258: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:11:32.20 ID:S6V5Fdvb0
  
爪 - )「ガッ――」

从;゚∀从「ジェイルさん!?」

彼女のものとは思えぬ異声。
細かく首を震わせながら全身の力を失う。
ダラリとぶら下がった腕が、それを証明していた。

(;^ω^)「今度は僕が相手d――」

駆けつけたブーンが攻撃を仕掛けようとした時。

貞子とブーン達の間に、何かが流星のように勢い良く落下。
そのまま地を滑り、痛みに呻き声を上げるのは

川;゚ -゚)「ぐぅ……!」

(;^ω^)「クー!?」

从'ー'从「ふふ、思ったよりも弱くて残念無念〜」

川;゚ -゚)「くそっ!」

擦り傷だらけの身体で起き上がろうとする。
それを慌ててブーンが押さえ込んだ。



260: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:13:40.50 ID:S6V5Fdvb0
  
余裕を見せながら、こちらに向かって歩いてくるのは渡辺。
パートナーである貞子も、ジェイルの身体を投げ飛ばしながら視線を向けてくる。

(;,,゚Д゚)「ちっ……」

(;^ω^)「や、やばいお……」

敵の力を目の当たりにしたせいか、こちらの戦意はかなり削られていた。
このまま立ち向かったとしても、全滅は目に見えている。

「おや、これは面白い光景だ」

声がする方を向けば、モララーがのんびりと歩いてくるのが見えた。

(;,,゚Д゚)「……何をしていた?」

( ・∀・)「簡単な調査をね……ま、目論見は見事に外れたわけだが」

从'ー'从「そうこうしている内に、皆やられちゃったのでした」

( ・∀・)「やれやれ、私達がいなくともそれなりにやると思っていたのだがね」

2nd−W『ロステック』を手に持ち、渡辺の方へと足を向ける。
すぐさま貞子が割り込もうとするが

从'ー'从「ううん、今回は私が相手するよ。
      最近ちょっと身体がなまり気味だしね」

と、渡辺が手で軽く制す。
命令を受けた彼女は、すぐに足を止めて退いた。



263: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:15:22.46 ID:S6V5Fdvb0
  
腕を上げ、白い銃をモララーへと向ける。

从'ー'从「さぁ、貴方はこの銃にどう対するのかな?
      クーちゃんみたいにギルミルキルで回避も出来ず、それほど運動神経が良いわけでもない。
      身を護るモノの無く、ただあるのは破壊の鉄槌のみ」

言う通りだった。
モララーの運動性は、実はあまり高くない。
それでも若い連中と同等なのは彼の行動に無駄が無いからだ。

全ての攻撃は急所を的確に狙い、その軌道は最短。
最低限動作での戦闘挙動が、運動性が高いように見せているだけなのである。

その全ては彼の頭脳に集約される。
どの箇所を、どの角度、どのタイミングで当てれば最も効果的なのか。
どのように動けば、体力を消耗せずに済むのか。

それがモララーの頭の中で組み立てられている。
無論、それを再現する肉体は持ち合わせているが、それだけではギコ達と対等には戦えない。

足りない部分を、頭脳で補完するのがモララーの戦い方であった。

それを渡辺は見抜く。
いや、前々から知っていたのかもしれない。

どちらにせよ、モララーが不利なのは明白だった



266: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:17:23.45 ID:S6V5Fdvb0
  
从'ー'从「でも、だからと言って私は油断も慢心もしない。
      何故ならその頭脳こそが厄介だからね」

( ・∀・)「ベラベラと喋るのは慢心の表れではないのかね?」

从'ー'从「むしろ余裕?」

( ・∀・)「それは私の専売特許だよ」

二人は同時に右足を踏み出した、
攻撃の合図は、渡辺の持つ銃から発せられる。

しかし目標には当たらない。
予知していたかのように、モララーが身を動かしたのだ。

( ・∀・)「銃口とトリガーを引くタイミングさえ見えていれば、理論上での回避は可能だよ」

从'ー'从「ふぇ〜、理論を現実にするのは凄いことだね」

でも、と付け加え

从'ー'从「私はそれすら超えるけど」

走り出す。
銃を持ちながら、しかし撃たずに接近。



267: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:19:14.14 ID:S6V5Fdvb0
  
一見、暴挙に見える行動だが

川;゚ -゚)「気をつけろ! 奴の銃は普通の武器じゃない!」

クーが叫ぶ。
どうやら身体の傷は、それによってやられたものらしい。

( ^ω^)「な、何が普通じゃないんだお?」

川;゚ -゚)「解らないんだ……!」

(;^ω^)「え?」

川;゚ -゚)「解らなくなるんだよ!」

直後、渡辺に更なる動きが。
接近の動作を収めず、しかし銃を持つ腕を軽く掲げ

从'ー'从「モード『ゲシュタルト』、オープンウェイブ」

ギン、という重い音が銃身から響く。
不可視の波動が展開され、モララーに襲い掛かった。
腕で目を庇った彼は

( ・∀・)「ふむ……?」

と、己の体を見る。
どうやら外傷はないようだが――



270: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:21:14.99 ID:S6V5Fdvb0
  
川;゚ -゚)「駄目だ、考えるな!」

从'ー'从「んじゃあ、行くよー」

走り出す。
白い銃のストック部分を持ち、ナイフのようにして近接戦を仕掛けてきた。
対するモララーも、ロステックを構えて迎撃する。

金属音。

全身の体重を掛けながらぶつかる二人。
目を睨みながら

( ・∀・)「わざわざ近接を仕掛けるとは、愚かだね」

从'ー'从「それはどうでしょーか?」

弾けるように、互いがバックステップで距離をとる。
しかし止まらずに激突を望んだ。

川;゚ -゚)「まずい……!」

クーが焦りの声を発する。
彼女の懸念が現実となったのは、その直後だった。

( ・∀・)「……?」

ふと、モララーに変化が起きる。
目の前に渡辺がいるというのに、それが何なのか解っていないかのような表情。



274: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:24:04.88 ID:S6V5Fdvb0
  
( ・∀・)「これ、は……?」

信じられないという表情。
次の瞬間、モララーの肩に渡辺の一撃が入る。
血を撒き散らし、痛みに顔をしかめながらも彼は後退しなかった。

(;^ω^)「どうなってるんだお!?」

川;゚ -゚)「白い銃の能力だ……私にもよく解らないのだが、見るもの全てにゲシュタルト崩壊を起こさせるシステムらしい」

人間の眼というのは、動いている物を認識するのに長けている。
逆に、静止している物を認識するのは苦手だ。

ある文字を見続けていると、認識力が薄れてきて、
だんだんその文字が、何という文字なのか解らなくなってしまうことがある。
この認識力の低下を『ゲシュタルト崩壊』という。

クーが言うには、あの銃から発せられる波動が
『ゲシュタルト崩壊』――つまり認識力の低下を促がすモノらしい。

つまり、あの波動を浴びれば
動体であろうが静体であろうが、見続けることによって認識力が低下してしまい
それをそれだと認識出来なくなってしまうというわけだ。



276: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:26:22.46 ID:S6V5Fdvb0
  
(;^ω^)「んな卑怯な!」

個人戦を主とするブーンは、この怖さが嫌というほど解った。
相手が複数ならば認識力低下も起こり難いのだが、個人戦は一対一だ。
つまり見るモノが一つなため、確実に掛かってしまう。

今、モララーはそのような状態に陥っていた。

从'ー'从「ほらほら、私はここだよ」

右腕を鋭く振る。
見えているのに解らないモララーは、その攻撃を回避することが出来ない。
相手の攻撃という動作の意味が解らないからだ。

気配も感じる。
風も感じる。
声も聞こえる。

が、相手が解らない。
見えているのに、まるで背景の一部のような印象を受けてしまう。

( ・∀・)「だが――!」

踏み出し、ロステックを振るった。

从'ー'从「はずれー」

しかし当たらない。
明確な意思を感じられない攻撃は、どうしてもその動作に遅延が出る。
今のモララーは、目隠しをされて戦っているようなモノだった。



279: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:27:48.38 ID:S6V5Fdvb0
  
( ^ω^)「こりゃやばいお! 僕も加勢するお!」

川 ゚ -゚)「私も行く」

(;^ω^)「で、でも……」

川#゚ -゚)「時間が無いんだ! 怪我など恐れている場合ではないだろう!?」

(;^ω^)「わ、解ったお」

クーの足がクリアカラーのブーツに包まれる。
一瞬で彼女の身体が消え去った。

慌ててそれを追い始めるブーン。
身体強化されて足が早くなっているも、流石にギルミルキルには追いつけない。

戦場に到着していた頃には、既にクーは戦い始めていた。



281: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:29:41.70 ID:S6V5Fdvb0
  
从'ー'从「また来たの? それでまた同じ負け方をするの?」

川 ゚ -゚)「理屈は解っている……対処法は幾らでも考え付くぞ!」

相手が解らなくなるとはいえ、結局失われるのは視覚のみだ。

気配も感じる。
風も感じる。
声も聞こえる。

ならば、戦えぬ道理など無い。
ギルミルキルの高速移動を利用して、渡辺の背後をとる。
すぐさまハンレに戻し、叩き付けるように唐竹割りを繰り出すが

当たらない。

まるで刀が渡辺を避けているような光景。
真下に振り降ろすつもりが、どうしても斜めになってしまう。

( ・∀・)「彼女の周囲には『歪曲空間』が張られている」

モララーが声を発した。
しかしその目はクーを見ていない。
クーに対する認識力を低下させないようにしているらしい。

( ・∀・)「それを何とかしなければ、彼女に攻撃を当てることが出来ない。
     私のロステックならば破壊も可能だが……今は、ちょっと当てることが難しいね」



284: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:31:33.34 ID:S6V5Fdvb0
  
川 ゚ -゚)「歪曲空間……」

つまり彼女の周囲は正常ではないということだ。
どのような軌道をも歪める空間は、どのような攻撃をも通さない。
先ほどの銃撃戦において、渡辺が簡単に回避していたのも

川 ゚ -゚)「その空間のせいなのか……!」

あの回避動作は、おそらくカモフラージュだったのだろう。
とことんこちらを嘗めている。

从'ー'从「さて、あと一分を切ったわけだけど――」

( ^ω^)「おっ!!」

轟風一陣。
突如、風を切り裂きながらブーンが迫った。
その腕には巨大な白手甲。

( ^ω^)「強化符『腕部』展開!!」

ガシュ、と音を立てながら手甲の各部が展開。
その隙間から強化符が撒き散らされ、ブーンの拳に集う。

从'ー'从「それが君の限界突破ね」

( ^ω^)「ワイキョクだか何だか知らないけど、効果が出る前に撃ち抜けば良いお!!」

単純な考え。
それを実現するために、ブーンは全力で右拳を突き出した。



287: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:33:16.40 ID:S6V5Fdvb0
  
しかし。

从'ー'从「はずれー」

(;^ω^)「お……!?」

撃ち出した拳は渡辺を穿たなかった。
右方向に逸れてしまい

从'ー'从「身体、開いちゃったね」

言葉通り、ブーンの姿勢は隙だらけになってしまう。
慌てて後退しようとした時。

(;^ω^)「あ、あれ?」

渡辺がいない。
一体、何処へ消えたのか。
キョロキョロを周囲を見渡し始めたブーンに

川;゚ -゚)「何をしている! 前だ!!」

(;^ω^)「え? だ、だっていないお?」

そこでようやく気付く。
己の認識力が低下していることに。
嫌な予感が頭を過ぎるが、それを確証とする一撃が来た。



290: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:34:46.78 ID:S6V5Fdvb0
  
(;^ω^)「ぼべふぉ!?」

腹部に激痛。
震える視界を下げれば、銃身の先端が鳩尾にめり込んでいる。

从'ー'从「一回やってみたかったんだー、零距離射撃っての」

容赦なくトリガーを引く。
直後、発光。
同時にブーンの身体が吹き飛んだ。

川;゚ -゚)「内藤!?」

煙の尾を引きながら宙を飛び、背中から落下。
そのまま後転した後に止まる。

从'ー'从「おぉ、よく飛ぶ飛ぶー」



292: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:36:24.86 ID:S6V5Fdvb0
  
( ・∀・)「そこか!」

零距離射撃の轟音を耳に入れ、位置を判断したモララーが迫る。
ロステックを横薙ぎ気味に叩き込んだ。

しかし、空を切るのみに終わる。
ワンステップで回避した渡辺は、そのままの姿勢でモララーの頭に狙いをつける。

射撃。

攻撃の気配を敏感に感じ取った彼は、何処から来るか解らぬ攻撃に対して

从'ー'从「伏せた……?」

こうすれば、とりあえず初撃は凌げる。
攻撃が頭上を通り過ぎたのを肌で確認したモララーは、すぐさま立ち上がり

( ・∀・)「クー君、頼む」

川 ゚ -゚)「任せろ!」

声と共に、渡辺は右足に違和感を憶える。
それが巻きついた鎖だと気付くのに一瞬の時間を要した。

从'ー'从「うわっとっと」

( ・∀・)「そこか――!」

声と鎖の音で、大体の場所を割り出す。
そこ目掛けてロステックを振りかぶり――



295: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:38:13.10 ID:S6V5Fdvb0
  
轟音。

共に発生した地の激震に、モララーとクーが足を止める。

川;゚ -゚)「こ、これは!?」

从'ー'从「あらら、惜しかったねー」

腕時計を見ながら

从'ー'从「残念無念、時間がきちゃったみたいだよ」

周囲。
紫色光が、見るだけで痛みを感じるほどに強くなる。
竜巻の勢いが更に濃くなり、天高くまで上昇。

それを満足そうに見届けた渡辺は、軽いステップで瓦礫の山へ登った。

从'ー'从「さて、約束通り……これ以降の関与は許されないよ。
      それでも良いなら、死ぬ覚悟で私達を追うことね」

川;゚ -゚)「追う、だと?
     どういうことだ……!?」

轟音がクーの声をも掻き乱す。



297: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:39:48.15 ID:S6V5Fdvb0
  
从'ー'从「言葉通り」

両手を軽く広げ

从'ー'从「今、封印された世界は解放の儀式を受け、崩壊した封印壁は『世界交差』を呼び起こします。
      本日をもちまして、私は『天敵』との戦いに備えていくことになりました」

川;゚ -゚)「世界交差、だと……!?」

クルト博士の日記にあった謎の単語。
それを渡辺が発したことにより、クーは目を見開く。

( ・∀・)「封印された世界? 世界交差? 天敵?
     世迷言もいい加減にしたまえよ」

从'ー'从「無知の後継者が何を言っても無駄無駄。
      真実が知りたければ、それなりの努力と犠牲を払ってもらいたいな。
      まぁ、見限った私には関係のない話――」

続く言葉は激音によって消える。
震動が大きくなり、地割れがクー達の足場を崩していく。



298: ◆BYUt189CYA :2007/03/06(火) 22:41:09.25 ID:S6V5Fdvb0
  
从'ー'从「もうこれ以後は会うこともない……と言いたいところだけど
      貴方達には、ちょっとした預け物があるからね。
      いつかまた会いましょうー」

川;゚ -゚)(預け物? 一体、何を――)

地が砕ける。
足元を見れば、地面の亀裂の間から闇が顔を覗かせているのが見えた。
引きずり込まれるように、クー達の身体が沈み始める。

从'ー'从「じゃ、さようならー」

渡辺がのん気に手を振った。
その姿を睨み、腕を伸ばすが届かない。

川;゚ -゚)「くっ……ッ!」

視界が闇に染まる直前。
こちらに顔を向けていた渡辺が、一瞬だけ眉尻を下げるのが見えた。
それは『哀れみ』とも『寂しい』とも『悲しい』ともとれる表情。

川;゚ -゚)(え……?)

それが、彼女の見た最後の光景だった。



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