( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 2: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 15:53:17.98 ID:WsiWt4vU0
ごめん思い切り酉間違えた
活動グループ別現状一覧
( ・∀・) (,,^Д^)
所属:不滅世界
位置:FC十四階・社長室
状況:過去の因縁
(#゚;;-゚) / ゚、。 /
所属:機械世界&秩序守護者
位置:FC三階
状況:戦闘中
┗(^o^ )┓ \(^o^)/
所属:英雄世界
位置:FC内部
状況:突破中
( ,,゚Д゚) ( ´_ゝ`) (ミ,,"Д゚彡 (*゚ー゚) (´<_` ))
所属:不滅世界
位置:FC四階
状況:防衛中
( ^ω^) 川 ゚ -゚) 从 ゚∀从 ('A`) (´・ω・`) 从'ー'从
所属:不滅世界
位置:不明
状況:不明
- 3: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 15:56:01.36 ID:WsiWt4vU0
第二十二話 『護られる兄、護れない猫』
FC四階。
ここは別棟への渡り廊下がある階だ。
別棟には、医療施設や倉庫などのサポート的な意味合いが強い施設が存在している。
しぃや弟者、フサギコも、別棟の病室で眠っているはずだ。
今は迅速な離脱命令が下っているため、いつも静かな別棟が騒がしくなっている。
その入り口に二人の男がいた。
( ´_ゝ`)「モララーさんも心配性だなぁ。
俺がいれば、ここの守りは完璧なのに」
( ,,゚Д゚)「むしろお前だからこそ、俺が呼ばれたような気が」
( ´_ゝ`)「待て待て、俺には心に決めた人がいるんだ……主に画面の中に」
( ,,゚Д゚)「……恨むぞ、モララー」
などと言い合いながら
未だ避難が終わっていない別棟にいる人達のために、入り口を守っている。
- 5: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 15:57:53.18 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「そういや、ギコさんが来る前にモララーさんから連絡があった」
( ,,゚Д゚)「何だ?」
( ´_ゝ`)「別棟の避難が終わったら、すぐに脱出するようにだと。
たとえ交戦中でも」
( ,,゚Д゚)「社員全員を逃がしているのも、そのためか……」
( ´_ゝ`)「何か絶対負けるんだって言ってた。
まぁ……解らんわけじゃないけど」
( ,,゚Д゚)「何か知っているのか?」
( ´_ゝ`)「武力に強い力って何だと思うよ?」
( ,,゚Д゚)「そりゃあ……」
少し考え
( ,,゚Д゚)「権力じゃないか?」
( ´_ゝ`)「そういうこと。
武力の塊であるFCが、権力の塊である世界政府には勝てない。
これは俺の推測なんだが……FCは何か理由を付けられて潰されるんじゃないか、と」
- 6: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 15:59:24.15 ID:WsiWt4vU0
( ,,゚Д゚)「……ふむ」
( ´_ゝ`)「つまり――」
ギコを見ていた瞳を動かす。
渡り廊下の先、つまり本棟の方へ首を動かした。
そこには二つの人影。
( ´_ゝ`)「ああやって武力で押さえ込むってのは、現状でナンセンスなはずなんだけどなぁ」
( ,,゚Д゚)「……英雄か」
ギコの青い指輪が光、その形を巨剣へと変貌させる。
┗(^o^ )┓「まだそちらの避難は終わってないようですね」
\(^o^)/「では、行きましょうか」
剣と槍を携えた男二人。
その身からは、得体の知れない雰囲気が溢れ出ていた。
問答無用のようで、完全に戦闘態勢に入っている。
- 8: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:01:19.79 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「さてさて……ギコさんや、どうしますかい?
避難が済めば退くことが出来るけど、相手の目的くらいは知っておきたいもんだ」
( ,,゚Д゚)「大体は見当がつくがな。
しかしまともに挑んでも勝ち目は薄いから性質が悪い」
あっさりと答え
( ,,゚Д゚)「この渡り廊下は直線で、割と距離がある。
お前の持つ銃器で牽制し続ければ、少しくらいの時間は稼げるだろう。
流石に銃弾の雨を掻い潜ることは出来まい」
防衛用の機材を盾に、兄者が黒塗りの銃器を構える。
( ´_ゝ`)「アーウィンは使えないけど戦う力はあるんだぜ?」
躊躇することなくトリガーを引いた。
銃口が火を噴き、鉛弾が連続で発射される。
それらが到達する前に、渡り廊下の入り口に立っていた二人が壁の陰に身を隠した。
( ,,゚Д゚)「弾薬は?」
( ´_ゝ`)「たっぷり」
兄者の足元には、ある程度の攻撃を凌ぐには充分な量の弾薬。
( ,,゚Д゚)「さて、どう出てくるか……」
グラニードを肩に担ぎ、ギコは静かに呟いた。
- 11: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:03:13.71 ID:WsiWt4vU0
┗(^o^ )┓「さて、どう出ましょうか」
壁を背にしてジュカイが言う。
咄嗟に物陰に隠れることとなったが、このままでは進軍のしようがない。
今、銃声は鳴りを潜めているが、顔を出せばまた嵐のように襲い来るだろう。
出来ることと言えば
\(^o^)/「一応、投擲は可能ですが」
槍を五本ほど背負ったオワタが提案する。
┗(^o^ )┓「ですが、それで仕留められるか……」
兄者一人ならばタイミング次第で可能だ。
しかし隣にギコがいる。
ブームの光矢を弾いていた実力があれば、投げ槍も防ぐことが出来るはずだ。
\(^o^)/「連射出来るほどの量もありませんからね」
┗(^o^ )┓「かと言って、突破を図るには距離がありすぎる」
こちらから向こうまでは約二十メートル。
天井も幅も、あまり広いとは言えない。
二人の速度で突っ込んだとしても、蜂の巣になることは明らかだった。
- 16: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:07:28.21 ID:WsiWt4vU0
ふむ、と二人で考え込む。
あまり時間はない。
このままモタモタしていては世界政府が動いてしまう。
そうなれば、早急にFCから離脱しなければならない。
┗(^o^ )┓「それまでに何としても指輪を手に入れなければ」
それが彼らの主な目的だった。
FCの主戦力を支えているのは軍神・GIF・指輪の三種。
その中で、簡単に無力化可能なのは指輪だ。
こちらが使えないにしても奪うだけで効果があり、内在魔力も得られる。
現在、最も奪取が容易とされるのはしぃと弟者。
つまり渡り廊下さえ突破出来れば、後はどうにでもなるのだ。
┗(^o^ )┓「あまり考えている暇はありませんね」
\(^o^)/「方法は無くはないですが、危険です」
┗(^o^ )┓「何を今更……危険の中にこそ生を見出す価値があるのです。
それに、ここで戦えずに退くのならば死んだ方がマシですよ。
私にとって、闘争こそが愉悦なのですから」
\(^o^)/「……解りました」
背から一本の槍を取り出す。
その穂先を、ジュカイの胸元へ向け
\(^o^)/「では、私が愉悦へ送り出してあげましょう……失敗すれば死にますが、その時は許してくださいね」
- 18: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:09:17.53 ID:WsiWt4vU0
( ,,゚Д゚)「来るぞ」
( ´_ゝ`)「任せとけぃ」
尋常ではない殺気が、渡り廊下の向こうから放たれてきた。
覚悟を決めたのか、それとも何か策があるのか。
( ,,゚Д゚)「やることは変わらん……お前が弾幕を張り、俺が抜けてきた攻撃を叩き落とす」
( ´_ゝ`)「単純な戦術こそ、使い方によっては効果高いよなぁ」
( ,,゚Д゚)「少人数戦の鉄則だ」
構える。
姿を見せた途端、蜂の巣。
万が一その弾幕を抜けたとしても、ギコの巨剣が突破を許さない。
如何に相手が英雄といえど、この狭い空間では鉄壁の作戦だ。
後は別棟の避難が終わるまで、こうして耐え続ければ良い。
そう思った矢先だった。
( ´_ゝ`)「……来た!」
廊下の先、右側の通路から影が飛び出す。
\(^o^)/「では」
オワタだ。
バットを構えるように長槍を両手で振り上げた格好で、左側の通路へと走る
- 20: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:11:15.65 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「加減は利かんぜにょ!」
フルオートの衝撃に舌を噛みつつ、兄者の銃器が弾を吐き出した。
対してオワタは一度も止まることなく、右から左へと突っ切る。
しかし、その様相が普通ではなかった。
(;,,゚Д゚)「なっ……」
振りかぶった槍の先。
そこに低身のジュカイがしがみついている。
気付いた時には、既に『発射』されようとしていた。
振られる。
神速の槍から、ジュカイの身体が射出された。
兄者の射線上から上手く回避している状態で、そして猛スピードで突っ込んでくる。
(;´_ゝ`)「あ、やべ、間に合わん」
そんな無責任発言を聞いたギコは、すぐさま迎撃に入る。
一直線に飛んで来るジュカイを野球ボールに見立て、その青い巨剣を振りかぶった。
( ,,゚Д゚)「悪いな、砕け散れ!」
刃ではなく、剣の腹をぶつけるような軌道で振った。
- 21: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:12:52.05 ID:WsiWt4vU0
しかし認識が甘かった。
英雄とは、そんな生半可な攻撃で防げる存在ではないのだ。
┗(^o^ )┓「――御覚悟を」
小さく呟き、右手に持った剣を構える。
激突。
鼓膜をつんざく金属音が響いた。
少し離れた兄者が顔をしかめていることから、その衝撃の強さが伺える。
その力をまともに受けたギコは
(;,,゚Д゚)「ぐっ……うぅ……!!」
┗(^o^ )┓「闘争こそ、愉悦」
押される。
こんな華奢な身体の何処からこんな力が出るのか。
全体重を掛けているギコの足が、一歩二歩と後退していく。
( ´_ゝ`)「やばくね?」
オワタに対して弾幕を張りつつ、のん気に兄者が言う。
反論したいのだが、ジュカイから放たれる強い力によって言葉を発する余裕など生まれてこない。
- 23: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:14:21.15 ID:WsiWt4vU0
そして遂に
(;,,゚Д゚)「ぐぁ!?」
踏ん張っていた足が地を離れる。
前方から来る勢いのままに、ギコの身体が後方へと吹き飛んだ。
背後にある自動ドアを突き破り、そのまま別棟の中へ。
(;´_ゝ`)「おいおい、大丈夫か……ド派手に飛んでいったが」
視線だけで見送る。
侵入されたのはマズいが、だからと言ってここから離れるわけにはいかない。
まだオワタという敵が残っている。
( ´_ゝ`)「しかしこれが作戦、か……?」
兄者はふと思う。
ジュカイという戦力を無理矢理に叩き込むだけで終わりなのか、と。
英雄……特にクン三兄弟は、聞いた話では闘争心が異常に強いらしい。
では残った一人が、あのまま大人しくしているだろうか。
- 26: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:15:47.52 ID:WsiWt4vU0
答えはすぐに出る。
音を証明として。
聞こえたのは、ヒュ、というか細い音。
それが示すものとして、もっとも妥当なのは――
(;´_ゝ`)「ぬぉぁ!?」
右肩を、槍が掠めていった。
慌てる兄者の視線の先、オワタが背中から槍を抜きつつ
\(^o^)/「大体、今ので感覚が掴めました。
次はその心臓を貫かせてもらいます」
( ´,_ゝ`)「HAHAHA、俺のハートは燃え尽きるほどクール!
それに心臓ってwwwwwwゲイ・ボルク乙wwwwwwwww」
ドヒュン、という音。
傍目から聞いてもヤバイ速度を誇っているであろう槍が、一直線に心臓を狙う。
攻撃の気配を敏感に察知した兄者は、すぐさま防衛用機材の陰に隠れた。
- 28: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:17:33.48 ID:WsiWt4vU0
耳障りな音が響く。
衝撃を感じ、ふと視線を右へ移すと
( ´_ゝ`)「…………」
オワタの放った槍が、頑丈な機材をぶち抜いているのが見えた。
あと少しでもズレていれば本当に心臓を穿たれていただろう。
非現実的な光景に、兄者は思わず尿を漏らしそうになったというか少し漏らした。
\(^o^)/「ふむ……もう少し左ですか」
やばい。
次は死ぬ。
直感的に感じ取った兄者は、すぐさま身を起こし
(;´_ゝ`)「ここで牽制しないと俺死ぬ!」
銃を構えてトリガーを引いた。
しかし思っていた反動が来ない。
どう見ても弾切れです、本当に
(;´_ゝ`)「ありがとうございましたァァァァァ!!」
リロードなどする暇はない。
三本目の槍が、兄者の心臓を食らうために飛翔してくるのだ。
- 29: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:19:22.80 ID:WsiWt4vU0
床を蹴り飛ばして身体を投げ出すように退避させる。
一瞬遅れて槍が通過し、背後のガラスを突き破った。
あのままボーっとしていたら、確実に胸に刺さっていた軌道である。
すぐさま立ち上がり、背後へダッシュ。
背後から尋常ではない悪寒を感じるが、無視して走った。
破壊された自動ドアを潜り抜け、オワタの攻撃射線上から退避するために足を動かす。
目の前にある突き当たりを左折すれば何とかなるはずだ。
如何に強力であろうとも、この分厚い壁を破壊することは出来まい。
( ´_ゝ`)「ふははは! 勝った!」
何が勝ったのかは不明だが、兄者は高々に宣言した。
無論、この時に生まれるのは油断だ。
左折しようとした時。
(;´_ゝ`)「へぁんっ!?」
慣性によって身体のバランスが崩れ、それを見計らったかのように足が床を滑る。
右足が上がり、左肩から落ちる。
当然、無防備な頭も床に激突。
ゴ、という痛々しい音が響いた。
- 31: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:21:09.88 ID:WsiWt4vU0
(:´_ゝ`)「……つぁ」
思わず苦痛の声が漏れた。
もう奇声なんて発している状況じゃない。
情けない。
自分はこうも弱かったか。
うん、弱かった。
何とか起き上がり、軽く頭を振る。
脳が心臓のように鼓動しているような錯覚。
本来なら、そんなことをしている場合ではなかった。
苦痛の声を漏らしている暇があるのなら。
起き上がる暇があるのなら。
頭を振る暇があるのなら。
全力でその場から退避しておくべきだったのだ。
無様でも、転がっても、足掻いてでも、壁の陰に逃げ込むべきだったのだ。
- 32: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:22:49.68 ID:WsiWt4vU0
気付いた時にはもう遅い。
( ´_ゝ`)「あ」
背後。
猛烈な殺気と共に来るのは槍。
頭を打った時に脳の回転数が上がったのか、その穂先の輝きまでも視認することが出来た。
そしてそのことから、妙に冷静な頭で結果を予測する。
( ´_ゝ`)「――死んだわ、これ」
まさに『どうにもならない』とはこの事だった。
死、及び激痛を覚悟した兄者の目は、思わず瞑られることとなった。
- 33: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:24:11.05 ID:WsiWt4vU0
FC別棟。
病室が並ぶ廊下。
ほとんどの避難は終わっているが、未だに人が残っている。
そんな中、金属音と火花を散らしながらぶつかる存在が二つあった。
( ,,゚Д゚)「チィ……!」
┗(^o^ )┓「ふッ……!」
猛烈な斬撃が襲い来る。
ギコは右手の巨剣を巧みに操り、その剣撃を捌いていた。
しかし技術の差は圧倒的だ。
身体こそ傷付いてはいないものの、剣撃を受ける度に一歩ずつ後退してしまっている。
- 35: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:26:01.08 ID:WsiWt4vU0
(;,,゚Д゚)(くそっ!)
左手を失ってから、右手だけで戦えるように訓練してきた。
独特な体捌きを覚え、遠心力を最大限に用いた剣の振り方もマスターした。
しぃへの負い目があったのだろうか。
彼女のせいで剣を持てなくなった、などと言いたくなかったのか。
解らないが、片腕を失っても、ギコ自身の闘争心は失われなかった。
あれから一年。
ブランクという言い訳が出来るほど戦闘という世界から離れていた。
もちろん『ブランクだから』という言い訳をするつもりはない。
しかし、秩序の加護を失ったという事実を抜きしても、彼自身の戦闘力は以前に比べて格段に落ちていた。
勘は失われてはいない。
ただ、何故か身体が上手くついてきてくれない。
しぃという幸福を手に入れた代償なのかもしれない、とギコ自身は思っている。
しかし今だけは負けることが許されない。
負ければ、彼女の身が危ないかもしれないのだから。
- 36: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:27:38.50 ID:WsiWt4vU0
( ,,゚Д゚)「っ!」
┗(^o^ )┓「甘い!」
無理矢理に身を回して叩きつける一撃。
その不意打ちといえる斬撃を、ジュカイは容易く防御した。
ジュカイの剣術は特殊である。
剣のサイズは普通だ。
グラニードと比べても、その長さは半分ほどしかない。
何か特殊な能力が付加されているわけでもなく、それは本当に普通の刀剣だった。
ただ、彼自身の背丈が一メートルに満たない。
これこそが最大の問題であった。
この低身から繰り出される体捌きが、見たことも無いほど独特なのだ。
手首や柄を軸とするのではなく、身体全体を軸とする動き。
腕の力で切りつけるのではない。
独楽のように回転しながら、身体全てを用いてぶつかってくるような斬撃なのだ。
当然、その勢いは自然と強くなる。
- 38: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:29:36.21 ID:WsiWt4vU0
前へ。
ただ前へ。
言葉にすれば単純なことだが、一対一の戦闘においての前進は意外と難しい。
相手は自分だけを見ている。
自分の挙動全てに気を配っている。
無闇に一歩踏み出して相手の間合いに入れば最後、渾身の一撃が待ち構えているだろう。
その精神的に難しい前進という問題を、ジュカイは身体ごとぶつかるようにして解消している。
要は反撃の隙を与えなければ良いのだ。
(;,,゚Д゚)(厄介な……!!)
今日何度目かの舌打ち。
人間、咄嗟に押されてしまえば、どうしても足を引いてしまう。
そうなれば意識は自然と受けに回ってしまう。
受けに回ってしまえば、相手の勢いが弱まるまで『攻め』に転ずることが難しくなる。
ギコは今、そういう悪循環に陥っていた。
- 39: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:31:26.01 ID:WsiWt4vU0
後退するのが危険だと頭では解っている。
今にも足を踏ん張らせ、その華奢な身体に一撃を入れようと思っている。
しかし攻撃の嵐が止まない。
ジュカイの剣撃は容赦を知らず、そのどれもが致命傷狙いだ。
しかも奇襲じみた反撃をも回避することから、ギコの動きに気を配っていることが解る。
肉を切らせて骨を断つといった反撃が出来ない。
実行することは可能だが、自分だけが斬られて終わりだろう。
┗(^o^ )┓「そろそろ、ですか」
ジュカイが呟いた。
その視線はギコを見ていない。
僅かに逸らされた目は、ギコの斜め後ろを見ている。
病室だ。
(;,,゚Д゚)「貴様は……!」
┗(^o^ )┓「えぇ、指輪を頂きに参っています」
やはり。
わざわざ別棟を狙うのだから、何か明確な目的があるとは踏んでいた。
ただ戦いたいだけならば一階に留まっていれば良いのだから。
- 41: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:32:48.54 ID:WsiWt4vU0
┗(^o^ )┓「指輪……使えないにしても、その内在魔力は相当なものなのですから」
(;,,゚Д゚)「何故、しぃや弟者のを狙う……!
今ここで俺を倒して奪っていけばいいだろう!」
┗(^o^ )┓「それでは駄目なのです」
解っていないな、と言うような表情で
┗(^o^ )┓「戦える相手から戦う力を奪ってしまったら、勿体無いでしょう?」
その『勿体無い』の意味が解るまで、それほどの時間は掛からなかった。
つまり、そういうこと。
彼らは根っからの戦闘狂なのだ。
彼らにとって目的とは手段でしかないのだ。
己らと戦える人間を残すため、戦えない人間から戦う力を奪うため。
そして今、目の前の男はしぃの指輪を狙っていると言う。
- 44: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:34:28.77 ID:WsiWt4vU0
(#,,゚Д゚)「させん……絶対にさせんぞ!」
┗(^o^ )┓「秩序を失った貴方に――」
ジュカイの身体が捻じれる。
その反動を用いた高速の一撃は、ギコの構える巨剣を容易く弾き飛ばした。
回転は止まらない。
剣はジュカイを軸として一回転し、ギコの右肩を薙ぐように走る。
(;,,゚Д゚)「がっ……!?」
防御が間に合わず、赤い液体が宙を舞った。
┗(^o^ )┓「護れるものなど、ありません」
ゴ、という重い音が頭に響く。
こめかみにジュカイの爪先が当たっていると気付いた時には、既に身体が浮いていた。
そのままの勢いで蹴り飛ばされる。
- 46: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:36:05.28 ID:WsiWt4vU0
長い廊下を転がり、
(;,,-Д゚)「くっ……」
痛みに顔をしかめる。
今のは下手に斬られるよりも強烈だった。
脳が思い切り揺さ振られ、衝撃を受けた首も痛んでいる。
立ち上がろうと身体に力を入れるも、自由に動いてはくれない。
そうしている間にもジュカイは、しぃが眠っているはずの病室へと歩いていた。
(;,,-Д゚)「や、やめ――」
あの男が指輪を奪うだけで終わらせるだろうか。
いや、そんなことよりも
――彼女に触れること自体が許せない。
(;,,゚Д゚)「しぃは護る……いつだって、俺が……!」
┗(^o^ )┓「だから護れませんよ、貴方には」
冷酷に言い放ち、ドアに手を掛ける。
躊躇なく開いた。
- 47: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:37:31.94 ID:WsiWt4vU0
┗(^o^ )┓「――え?」
見えたのは、病室を示す白ではなかった。
窓から見える夜を示す黒でもなかった。
橙色。
穏やかさを放つ一方で、しかし苛烈さをも表現する色。
表裏二つの意味を持つそれが、無防備なジュカイに襲い掛かった。
ギコは見る。
ジュカイの身体に、数百といえるほどの橙色がぶち当たっていくのを。
その衝撃は凄まじいらしく、英雄であるジュカイが廊下の壁まで吹き飛んでしまった。
- 49: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:39:54.92 ID:WsiWt4vU0
(;,,゚Д゚)「なっ……」
見覚えがある。
見覚えがありすぎて、逆に疑ってしまった。
彼女の仕業であるはずがない、と。
しかし、病室から出てきた人間はどう見ても――
(*゚ー゚)「…………」
しぃだった。
しかし
頭に巻いていた包帯が無い。
頬に張っていたガーゼが無い。
体が纏っていた患者服を着ていない。
いつも私服姿で、その背からは機械仕掛けの翼が生えていた。
そしていつもの笑顔で
(*゚ー゚)「もう大丈夫だよ、ギコ君」
と言ってくれた。
- 50: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:41:40.43 ID:WsiWt4vU0
( つ_ゝ`)「……?」
思っていた衝撃は来なかった。
想像以上の速度で貫かれてしまったのだろうか。
痛みを感じないのは、既に自身の身体が死んだからなのだろうか。
目を開く。
通路の先にいるはずのオワタが見えなかった。
その代わり、見覚えのある後姿が目に入る。
自分とほぼ同じ背丈を少しだけ丸め、両手に何かを構えていた。
(;´_ゝ`)「あ……」
目の前の男が振り向く。
まるで鏡を見ているかのような、自分そっくりな顔が見えた。
彼は、口元に笑みを浮かべ
(´<_` )「無事か、兄者」
- 53: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:43:24.43 ID:WsiWt4vU0
(;´_ゝ`)「お、お、お、お――」
(´<_` )「お?」
( ;_ゝ;)「おんびりばぼろぉぉぉぉぉん!!」
(´<_` )「日本語でおk」
冷静な突っ込み。
まさに本物。
偽者が出せる空気ではない。
少し引き気味の弟者の手を掴み、兄者は目幅涙を流しながら
( ;_ゝ;)「久しぶりだなぁ! 三ヶ月近くも何処行ってたんだよぉぉぉ!?」
(´<_`;)「落ち着け……リアル時間の話はタブーだ、兄者。
それにアンタ、頻繁に見舞い来てただろ」
( ´_ゝ`)「何故それを?」
(´<_` )「看護士さん達が噂してたぞ。
不審者が毎日のように俺の病室に来るって。
あ、ちなみに昨日してたサングラスはセンス悪いから変えた方がいい」
- 54: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:44:59.82 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「おー、サンキューな。
やっぱり、そういうのは弟者に選んでもらうのが良い」
うんうん、と納得しながら首を振る。
そして
( ´_ゝ`)「……ん? 何で昨日の俺を知ってるんだ?」
(´<_` )「すまん、実は三日前から目覚めてたんだよ。
見舞いの時はずっと寝たフリしてた。
アンタがいない時間は、しぃさんと一緒にリハビリやら何やらをこなしてたってわけだ」
( ´_ゝ`)「…………」
(´<_` )「敵を騙すには味方からって言うだろ?
特にギコさんとアンタは嘘吐くのが苦手だしな。
で、指輪の使い手が意識不明ってなれば、欲しがる奴が確実に油断してくれる、と」
(#´_ゝ`)「……お前……!」
怒りを露わにした兄者が、弟者の襟首を掴む。
(´<_` )「騙すようなことをして悪かったと思ってる。
でも言っておくけど、この策の発案者はモララーさんだからな」
(#´_ゝ`)「違ぇよ馬鹿タレ! 焼肉のタレ!」
- 57: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:46:51.35 ID:WsiWt4vU0
(#´_ゝ`)「しぃさんと一緒に、だぁ!?
お前アレか!? 手取り足取り腰取りってかぁ!?」
(´<_` )「これは予想外。
ってか、そんなことをしたらギコさんに十回くらい殺されるから」
(#´_ゝ`)「ちっ、感動の再開が台無しだぜ!」
(´<_` )「主にアンタのせいでな」
( ´_ゝ`)b「でも……また会えて良かったぜ」
(´<_` )「『ぜ』を二度連続で使うのは致命的にダサいよな。
まぁ、いつも通りの兄者で安心したぞ……なんか尿臭いけど」
( ´_ゝ`)「あー言えばAUー」
(´<_`;)「……何かテンションおかしくないか?」
- 59: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:48:09.79 ID:WsiWt4vU0
やれやれ、と肩を竦める弟者。
渡り廊下の先で律儀に待っているオワタへ視線を向け
(´<_` )「さぁて、何とかしますか」
( ´_ゝ`)「あ、そのことなんだが」
何、と弟者が首だけを振り向かせる。
兄者は少し言い淀んだ後、意を決したかのように口を開いた。
( ´_ゝ`)「……俺、もう魔法少女じゃないんだ」
(´<_` )「何と」
( ´_ゝ`)「4th−Wの魔力を全て使っちまってな。
まぁ……もうそういう歳でもないよなぁ、とか思ってたんだけどゴニョゴニョフヒヒ」
(´<_` )「で?」
(;´_ゝ`)「いや、でっていうwwwwwww」
- 61: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:50:22.16 ID:WsiWt4vU0
(´<_` )「確かに最近のアンタといえばそんな感じだったけど
今目の前にいる兄者が昔から知ってる兄者なら、そんなモンが無くても戦えるはずだ」
自信満々な笑みを乗せ、兄の弟は言い放った。
(´<_` )「俺は知ってるぞ、兄者の素の力を」
( ´_ゝ`)「…………」
(´<_` )「敵は英雄で、銃器を以ってしても太刀打ちが難しい相手。
対してこちらは黄金の盾と少しだけの装備、そして使い手は双子の兄弟。
何か燃えるだろ?」
( ´_ゝ`)「も、萌え、燃えるな」
(´<_` )「せっかくだから前半のノイズは無視する」
冷酷に言い放つ。
早速、戦闘モードに入った弟者は
(´<_` )「んじゃ、俺はアンタの指示に従うから……教えてくれよ、アイツを倒す方法を」
絶対の信頼が篭った声で言った。
- 63: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:52:22.68 ID:WsiWt4vU0
背を向ける。
弟者の役割は、敵の猛攻を最前線で防ぐための盾だ。
たった、それだけ。
それだけしかすることがない。
違う。
盾だからといって、攻めに転じることが出来ないわけではない。
その方法を兄者は知っている。
ただ、背中を守る存在を信頼していなければならない。
だから弟者は信頼している。
だからこそ兄者を信頼している。
それに応えるにはどうすれば良いか。
弱音を吐き続けるのか。
弟に戦いを任せるのか。
( ´_ゝ`)「……ふむ」
キィ、と耳鳴りのような音が頭に響いた。
それを合図とし、元々から細い目が更に鋭くなる。
- 65: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:53:42.29 ID:WsiWt4vU0
現状、装備、能力、空間、条件。
それらの要素を冷静に分析し、オワタを撃退するために有効な行動が逐一並べられる。
決して多くはなかった。
英雄という相手に対して、むしろこちらが取れる行動は極端に少ない。
前へ出れば突き刺され、後へ下がれば追撃が走る。
たとえ黄金の盾を持っていても、持ち手の技術の差が歴然なのだから。
( ´_ゝ`)(防御に使えないなら、攻撃か補助に回すしかないわけだが……)
そうなると身を守る存在が無くなる。
相手が英雄だからこそ、いざという時に身を守る手段が無ければならない。
確実に相手の攻撃を止める手段はないものか。
そこでふと、ある物が視線に入った。
( ´_ゝ`)「…………」
- 66: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:55:02.17 ID:WsiWt4vU0
信じられない光景だった。
目の前にある光景が信じられなかった。
(*゚ー゚)「ギコ君?」
(;,,゚Д゚)「……あ」
またも名前を呼ばれて、慌てるように反応する。
( ,,゚Д゚)「何で……」
(*゚ー゚)「ごめんね」
眉尻を下げた笑み。
そして言う。
(*゚ー゚)「ギコ君……ギコ君は、もう護らなくていいよ」
(;,,゚Д゚)「え?」
頭の中が揺さぶられた。
最も大事にしている彼女から、自分の行動を否定されたのだ。
- 67: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:56:38.11 ID:WsiWt4vU0
(;,,゚Д゚)「……俺が護らなくて、誰が護るんだ」
震えを押さえ、辛うじて言葉を吐く。
彼女の言葉はすぐに聞こえた。
(*゚ー゚)「私が護る」
それは決意の言葉か、それとも秘めていた言葉か。
シャン、という涼しい音が響く。
音源となった機械仕掛けの翼を広げ、橙色の羽片を舞い散らせた。
(*゚ー゚)「私が護るよ……自分も、ギコ君も。
それだけの力があるから」
それは神々しい光景だった。
美しい、と無意識に思ってしまうほど美しかった。
(*゚ー゚)「だからギコ君は、昔みたいに前だけを見ていて欲しい」
(;,,゚Д゚)「……!」
彼女の言葉が、ギコの張り詰めていた心を解していく。
そして今までの偽装していた感情を自覚した。
- 70: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:57:58.09 ID:WsiWt4vU0
あの日。
渡辺と戦った日を境に彼女は眠ってしまった。
頭を強く打ってしまったらしく、それからずっと目を覚ますことがなかった。
毎日のように見舞いに行った。
とにかく時間を作って、会いに行った。
別に、愛情やそういったモノが彼女の目を覚ます要因になるとは思わなかった。
むしろ否定派で、そんな奇跡が起きるのは漫画や小説の中だけだ。
秩序が壊れ掛けているのなら尚更だ。
今になって思う。
心の中にある感情を見て確信する。
自分は彼女が心配だったわけではない。
もちろんそれもあったのだが、大部分においては違う感情が支配していた。
彼女がいなければ駄目だったのだ。
自分にとって、彼女という存在が無ければ駄目だったのだ。
彼女がいるから自分も立てるわけで、だからこそ今まで戦ってこれた。
そういう、ことだった。
- 72: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 16:59:17.84 ID:WsiWt4vU0
( ,,゚Д゚)「……すまん」
無意識に謝っていた。
もちろん彼女は真の理由を知らないだろう。
だからなのか、しぃは笑みを浮かべたまま
(*゚ー゚)「大丈夫」
たったそれだけ。
たった一言と言える言葉だが、だからこそギコの心に染み込んだ。
┗(^o^ )┓「……まさか目覚めているとは」
付着した埃を払いつつ、オワタが起き上がる。
(*゚ー゚)「だからこういう結果になった。
油断大敵……英雄という強さに自惚れてる証拠だわ」
┗(^o^ )┓「言いますね」
- 75: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:00:37.46 ID:WsiWt4vU0
しかし、と言い
┗(^o^ )┓「だからと言って貴方達が勝てる道理はありませんよ。
たとえ束になって掛かって来ても、この一振りの剣があれば私は負けない」
剣の帝王。
業名として、その意を受けている彼のプライドは誇り高い。
それを支える実力もあるし、技術も気概もある。
己の全てを踏まえての発言だった。
剣帝の言葉を聞いたしぃは
(*゚ー゚)「私は勝たないよ」
┗(^o^ )┓「?」
(*゚ー゚)「勝つのは、ギコ君だから」
( ,,゚Д゚)「!」
言葉を聞いて理解する。
所詮、自分に護れるものなど無いのだ。
自分が護りたいと思っている人こそが、本当の護り手だったのだ。
- 76: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:02:06.00 ID:WsiWt4vU0
解っていたはず。
あの時。
片腕を失った日から、自分には護れる力が無くなったことに気付いていたはずだ。
腕が一つなのに、どうして二つのモノを持つことが出来ようか。
決まっていたのだ。
あの時から、護るという要素が自分には合わないのだと。
ならばすべきことは何だ。
護れないと嘆くことか。
護りたいと歯噛みすることか。
違う。
この身に出来ることは、昔からたった一つ。
( ,,゚Д゚)「――ッ!」
立ち上がる。
大腿部に違和感を感じ、連鎖するように足が震えるが構わない。
右手に握ったグラニードを支えに身を起こす。
- 77: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:03:27.65 ID:WsiWt4vU0
┗(^o^ )┓「まだやりますか?
貴方に護る力は無いのだというのに」
( ,,゚Д゚)「あぁ、そうさ……俺には護る力なんて無い」
いつだってそうだ。
護れたことなんて数えるほども無かった。
――元より己の身は『牙』。
モララーに拾われる以前から、自分の存在は鋭く研いだ牙だった。
敵対する存在の喉下を食い千切るだけ。
だからこそ、モララーも自社に引き入れようとした。
それが何だ今は。
大切なモノを手に入れたために、その牙を収めてしまった。
噛み付くことしか出来ないはずなのに。
( ,,゚Д゚)「……道理で、な」
一年半前の、モララーの言葉を思い出す。
――君としぃ君は……今でもあの時の関係のままかね?
あれは祝福や期待の意ではなかったのだ。
むしろ嫌味を籠めた皮肉。
牙しかないはずの、しかしその牙を隠してしまったギコを嘲笑う言葉だった。
- 80: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:05:02.61 ID:WsiWt4vU0
( ,,゚Д゚)「……英雄、聞け」
右足を出し、膝を折り、前屈姿勢で、巨剣を担ぎ、無いはずの左腕を前方へ突き出し
( ,,゚Д゚)「俺はもう何も護らない」
┗(^o^ )┓「……では?」
( ,,゚Д゚)「俺に護れる力なんて、元々から無かったんだ。
だから――」
それは再認識の言葉。
(#,,゚Д゚)「護りに入ってしまう前に、貴様の身を叩き切らせてもらう――!!」
宣言するように地を蹴る。
一直線に、迷わず。
┗(^o^ )┓「懲りないですね」
ジュカイは剣を構えて迎撃の姿勢をとった。
慌てる必要は無い。
初撃を往なし、カウンターを嫌というほど叩き込めば良いだけのこと。
- 82: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:06:22.46 ID:WsiWt4vU0
(#,,゚Д゚)「おおおぉぉぉぉっ!!」
叫声。
牙を剥き、その獣は右腕一本で帝王へ立ち向かった。
残距離三メートル。
今のギコにとって、その距離は充分に間合いの中。
振り上げた巨剣を叩き落とす。
高速かつ高圧の一撃が、ジュカイの脳天を狙い
┗(^o^ )┓「甘い!」
その熟された技術によって往なされる。
剣の腹を利用し、巨剣の軌道を僅かに逸らさせたのだ。
故にグラニードは目標を切断することなく、地面へと叩きつけられる。
後は回転を利用しての連撃を――
そこまで考えたジュカイは、一つの気配が未だ消えていないことに気付いた。
ギコの攻撃の気配が、まだ止んでいないのだ。
- 83: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:07:53.92 ID:WsiWt4vU0
床を叩き割るグラニード。
しかし止まらない。
そのまま引き摺られ、床の中で半円を描いた。
回転する刃は止まることを知らない。
ギコの背後に現われたグラニードは、そのまま円を描き、再度真上へと打ち上げられ
┗(^o^ )┓「なっ――」
(#,,゚Д゚)「砕け散れッ!!」
二度目の攻撃を行った。
先ほどよりも重い一撃が、咄嗟に構えられたジュカイの剣に叩きつけられる。
キシ、と剣が悲鳴を挙げ、その衝撃は骨の芯にまで伝わった。
┗(^o^ )┓「ま、さか……」
身を逸らし、青い巨剣の軌道を変える。
またも床を叩き割ったグラニードは、やはり動きを止めない。
そして同じように真上へと走り
┗(^o^ )┓「くぁ!」
同じ箇所へと打ち下ろされた。
身体全てを用いた回転運動で受け止めるも、衝撃を逃がすことは出来ない。
それは足にまで伝わり、ジュカイはその身を縫い付けられたかのように不動とされた。
- 85: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:09:19.07 ID:WsiWt4vU0
ジュカイの用いる回転は、例えるならば『竜巻』。
横に走る刃は近付くもの全てを切断する。
速く、鋭く、風のように。
横を主とするジュカイの回転に対して、ギコの回転は縦だ。
一年半前、クーと初めて戦った際に用いた技。
下へと振り抜いた巨剣を、更に回転させるように振るだけの遠心力を用いた連撃だ。
その縦回転する刃は、例えるならば『落雷』。
重力を味方につけた巨剣は
技術を味方とするジュカイに対して、圧倒的な純力で牙を剥いた。
白い廊下に、ガ、という轟音が連鎖する。
それは床を叩き砕く音だ。
ジュカイの持つ技術は、確かに大したものなのだろう。
それはギコも認めている。
しかし、いくら技術があろうとも落雷は防げない。
(#,,゚Д゚)「おぉぉぉ!!」
段々と防御の質が落ちている相手に対し、段々と威力を上げて叩きつける。
それは、相手が砕け散るまで終わることはないだろう。
無慈悲ともいえる連撃を振り続けるのみ。
- 88: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:10:54.40 ID:WsiWt4vU0
そして遂に防御が崩れる。
┗(^o^;)┓「しまっ――」
剣が叩き折られ、その衝撃がダイレクトに身体の中を貫いた。
一時的な麻痺状態に陥る。
それをみすみす逃すのは、少し前までの『護る』自分だ。
(#,,゚Д゚)「俺は……俺は、もう違う!!」
断ち切るように。
今までの腑抜けていた自分を切り離すように。
その証明としてか、グラニードはジュカイの身体を一気に切り裂いた。
- 91: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:12:07.99 ID:WsiWt4vU0
┗(^o^;)┓「が――あぁ……!?」
鮮血が噴き出る。
半身切断する狙いであったが、彼の技術が少しだけ上だったようだ。
右肩から胸までに掛けて真っ赤な太線を残したジュカイは、そのまま残る力で地を蹴って後退する。
(#,,゚Д゚)「チッ……!」
闘争本能を剥き出したまま、逃げるジュカイを視線だけで追う。
仕留めたと思っていた頭が、身体に追撃命令を出すのを遅らせていた。
攻撃だけでなく、逃げ足も速い。
彼は常に退路を意識して戦っていた。
油断はともかく、流石は英雄といったところか。
ジュカイを切り裂いたグラニードは、そのまま勢いを緩めつつ数回転した後
血を滴らせながら、ふわり、とギコの右肩に着地した。
- 92: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:13:35.50 ID:WsiWt4vU0
その姿は今までの彼のものではなかった。
何処か頼りなさげに立っていたものとは違い、威風堂々と通路の真ん中に陣取っている。
そのまま視線を背後へ。
(*゚ー゚)「ギコ君……」
援護しようとしていたのか、羽片の頭を翼から覗かせているしぃがいた。
その姿を見て思う。
もはや自分に彼女の支えは必要ない、と。
――彼女を護るために戦うのではなく、彼女を護る前に叩き切るのだから。
( ,,゚Д゚)「すまん……俺は長い間、随分と勘違いをしていたらしい」
(*゚ー゚)「ううん、それもまたギコ君だよ」
( ,,゚Д゚)「これからはお前が護ってくれ。
牙に護れるモノなど何もない……ただ、敵を噛み千切るしかないからな」
(*゚ー゚)「うん……護るよ、私が」
それが、『牙猫』と呼ばれた男が復活した瞬間だった。
- 98: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:15:46.58 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「うっしゃ、行くぜ」
(´<_` )「把握した」
表情そっくりに、二人の兄弟は同じタイミングで構えた。
兄は黒塗りの銃器を。
弟は黄金に光る盾を。
\(^o^)/(ここまで攻守の関係が解るのも珍しい)
銃は殺すための、盾は守るための武具だ。
その役割を逆にすることなど出来ないし、出来たとしても大した意味はない。
槍を一回転させた後、オワタは構えつつ兄者を睨んだ。
先に仕留めるべきは、攻撃を司る兄者だ。
\(^o^)/「行きますよ」
(´<_` )「いつでも」
( ´_ゝ`)「どこでも」
ふざけた応答を無視し、オワタは地を蹴り飛ばした。
- 100: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:17:18.77 ID:WsiWt4vU0
何の問題もない。
ただ反応する暇も無い攻撃で兄者を潰し、残る弟者を料理すれば良いだけ。
たったそれだけだ。
(´<_` )「やらせんさ!」
割り込むように弟者の身体が入る。
\(^o^)/「だが、無駄!」
身を思い切り仰け反らせる。
その動きを反動として、弟者のジゴミル目掛けて穂先をぶち込んだ。
(´<_`;)「ぬぉ!?」
斥力を最大に展開しても、その攻撃を完全に防ぐことは出来なかった。
全てを穿つ勢いの槍の穂先は、一瞬ではあるがジゴミルの表面に触れることを成功させる。
踏ん張っていた弟者の身体が背後へと押され
それを見た兄者が慌てて背中へ手を添えた。
(;´_ゝ`)「何と」
想像以上だ。
速く、そして高威力の恐るべき一撃。
- 101: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:18:45.78 ID:WsiWt4vU0
しかし、それだけだ。
範囲が狭いだけでなく、その動きも非常に見切りやすい。
ただし、当たれば一撃必殺……非常に解りやすい戦闘スタイルだ。
( ´_ゝ`)「もしかして博打好きだったり?
だったら、ジョルジュやエクスト辺りと気が合いそうかもな!」
何とか無力化した弟者が姿勢を落とした。
銃器を構え、出来上がった空間目掛けて射撃する。
\(^o^)/「ッ!」
既に予測済みだったのか、オワタは一ステップで退避。
兄者達の位置を軸として円を描くように移動。
定石通りの動きと言えよう。
近接攻撃の手段がない相手に対しては、あのようにして自分の間合いで戦うのが一番だ。
というか、こちらの攻撃手段が限られている時点で
既に勝負は決まっているようなものなのだが。
( ´_ゝ`)(だが、その未来を塗り替えることは出来る)
勝負は決まっているとはいえ、所詮は空想上の未来。
言い方はおかしいが、現実の未来はまだ訪れていない。
だから諦めなどない。
- 102: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:20:18.63 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)(要は攻撃を当てることが出来ればいい。
いくら英雄だからといっても、その身体が鉄に覆われてるわけじゃないしな)
ただ、無闇に撃っても当たりはしない。
特殊な訓練を積んでいるのか、元々から持っているのか知らないが
彼らの動体視力と反応速度は常人を超えている。
逆を言えば、ただそれだけなのだ。
英雄の強みは、その卓越した技術と身体能力。
別に攻撃を無効化されるわけでなく、体力が無尽蔵というわけでもない。
人間には人間なりの弱点が存在する。
それは例えば
強烈な光であったり、大きな音であったり、色々とあるだろう。
その中でも最も効果が高いと言われるのは、『精神的な刺激』だ。
右手を懐へ。
( ´_ゝ`)「人間、『そういうモノ』だとして認識していると
それを見ても、それとしか映らないという妙な癖を持つ。
先入観、とでも言うのかな」
- 104: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:22:29.50 ID:WsiWt4vU0
\(^o^)/「何を言っているのか知りませんが――」
( ´_ゝ`)「例えば、こう」
ひょい、と軽い動作で腕を振った。
その手から放たれた黒い小さな物体は、硬質な音を立てて床を転がる。
\(;^o^)/「なっ――」
オワタの足元に落ちたのは、手榴弾と呼ばれる兵器だった。
実際には見たことがなかったが、それがどういうモノなのかは知識として知っている。
\(;^o^)/「何を馬鹿な!」
この距離で爆発すれば、オワタはもちろん二人にまで被害が及ぶ可能性が高い。
それを知ってか知らずか
( ´_ゝ`)「バイバイ」
言葉と共に姿勢を低くする。
それを護るかのようにジゴミルを構えた弟者が盾となる。
そこに目掛けて蹴り飛ばそうとも思ったが、確か相手の盾は斥力を操るはずだ。
操作次第ではこちらの下へ戻ってくるだろう。
- 106: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:23:43.46 ID:WsiWt4vU0
迷い無く後退した。
全力で床を蹴り飛ばし、射程距離である十五メートルから出来るだけ離れようとする。
自然とその身は壁へ接着した。
それを見た兄者は口元を歪め
( ´,_ゝ`)「乙wwwwwwww」
と、憎たらしい声で言う。
疑問に思うが同時、その身に強烈な圧力が降りかかった。
\(;^o^)/「うっ!?」
( ´_ゝ`)「やーっと壁の前に立ってくれたな。
その状態だとまともに動けんだろ?」
兄者が立ち上がる。
その横で、弟者がジゴミルをこちらに向けていた。
そこから発せられる斥力が、オワタの身を釘付けにしているのだ。
- 108: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:25:10.50 ID:WsiWt4vU0
( ´_ゝ`)「『爆発するモノ』だと思っているから、爆発しないモノでもそう思ってしまう」
拾い上げた手榴弾のピンは抜けていなかった。
( ´_ゝ`)「跳ね方や反響音をちゃんと見て聞いてりゃ、判断出来たはずなのにな。
まぁ、アンタの世界に無いだろうから詳しくはなかった、ってのもあるが」
知識としては知っていた。
しかし、それが逆に仇となった。
手榴弾は爆発物だと刷り込まれていたのが敗因である。
\(;^o^)/「っ……やられました。
それにしても、よくその咄嗟の策に弟の方がついてこれましたね」
(´<_` )「理由は簡単」
笑みを浮かべ
d(´<_` )「だって俺ら双子だし」
( ´_ゝ`)b「流石だよな、俺ら」
\(;^o^)/「……何と」
- 112: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:26:49.26 ID:WsiWt4vU0
常人には理解出来ないだろう。
しかし三兄弟の一人であるオワタには解る話だ。
理屈ではない。
ただ漠然と、兄はそうするのだろう、と頭に浮かぶのだ。
それに順じて動けばいい。
感覚というよりも本能に近いのかもしれない。
( ´_ゝ`)「んじゃ、トドメということで」
銃器の先をオワタへ向ける。
いくら英雄とはいえ、この距離で銃弾を受ければ絶命するだろう。
生かしておけば絶対に敵となるのなら、ここで殺しておくのが一番良い。
( ´_ゝ`)「嗚呼、何て冷酷な俺」
(´<_`;)「いいから撃て」
( ´_ゝ`)「あい」
その時だ。
ズン、という重い音が響く。
まるで音が形を持ったかのように蠢き、建物全体を激震させた。
- 113: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:28:09.26 ID:WsiWt4vU0
(´<_`;)「おわっ!?」
(;´_ゝ`)「ぬぉっ!」
何の心構えもしていなかった二人は、その場に尻餅をついてしまった。
支えるために腕を背後へ。
当然、オワタに向けていたジゴミルが離れてしまう。
(´<_`;)「しまっ――」
言葉を発する間に、オワタは一瞬で離脱してしまう。
指輪の回収が困難だと悟ったのか、それとも時間が来てしまったのか。
無防備な兄弟に攻撃を加えることなく、オワタは姿を消してしまった。
( ´_ゝ`)「これなんて御約束? まだ秩序が働いてんのか?」
(´<_` )「兄者、面目ない」
( ´_ゝ`)「いいや、実を言うと殺しなんてしたくなかったし結果オーライオーライ」
- 114: ◆BYUt189CYA :2007/05/23(水) 17:29:40.89 ID:WsiWt4vU0
それに、と言い
( ´_ゝ`)「これで一つ解った。
英雄ってのは、ちゃんと作戦立てて準備しておけば
決して恐れる相手じゃないってな」
快活に笑う兄者。
ポジティブというか、何とかいうか。
(´<_` )「……うーん、それはいいんだが」
弟者は腕を組んで、少し考える素振りを見せる。
しかし頭を振り
(´<_` )「まぁいいや。
とりあえず久しぶりだな、兄者」
( ´_ゝ`)「うむ、三ヶ月振りだな」
(´<_`;)「だからリアル時間はやめとけって、色々と」
しかし再会の時を楽しんでいる暇は無い。
妙に苦しげな息を吐くモララーから連絡が来たのは、その直後だった。
戻る/第二十三話