( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 5: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 20:57:25.49 ID:Z2i46qCp0
- 第五十五話 『この囁くような反逆の詩を』
北の方角から南へ向け、光と威力の線が走った。
正体は、魔法世界の純正ルイルの力を全て注いで放つ大砲撃――『龍砲』だ。
それは物理法則に従い八方へ散り消えることはせず、編み上げられた一つの線として存在していた。
いや、線というよりも一つの巨大な柱と言った方が解り易いかもしれない。
横倒しとなった光の柱、つまり極太の魔粒子レーザーは大気を掻き分けながら走る。
開戦当初から定められていた地点へ向け、真っ直ぐ。
レーザーの目指す先には標的があった。
空間という壁を引き裂きながら、この世界へ入り込もうとしている『敵』だ。
その、出て来ようとしている頭部目掛け、まるで押し戻そうとするように――
――激突する。
- 11: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 20:59:18.75 ID:Z2i46qCp0
音が消え
光が破裂し
空間が軋み
大地が悲鳴を挙げ
赤い空が光色に染まる。
世界一つ分の魔力の直撃は、想像を絶する力を備えていた。
魔力抵抗を持たぬ物質の悉くを灰燼に帰し、抵抗あらば純粋な破壊力で粉砕する。
その殲滅効果に、耐えられる存在など在ってはならない。
これこそが四世界混合軍の切り札だった。
『龍砲』の一撃を以って、異獣が大事に守る謎の空間を消し飛ばす。
クー達の見立てでは、門の役目があると予測されているその地点を破壊すれば
最低でも門を、上手くいけば、その奥にいる『敵』を撃破出来ると踏んでいた。
そのために皆、汗や血を流し、時に命をも落としながら突き進んできたのだ。
- 14: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:01:25.51 ID:Z2i46qCp0
- 「いけ……!!」
誰かが言ったが、それは音として震えることはなかった。
『龍砲』の奏でる吼声が全ての音を叩き伏せているのだ。
加えてレーザーの強烈な光が、その場にいた全員の目を眩ませている。
(;`ω´)「く、ぅぅぅ――!」
川;う-゚)「ッ……!!」
解るのは、伏せ気味の身体に叩きつけられる強風と震動だけ。
更に強烈な光と音も来ているはずなのだが、あまりの大きさに感覚が麻痺してしまったのだろう。
目と耳の存在を知覚することの出来ない状態に、ブーンは一瞬だけ自分が死んだのではないかと錯覚してしまう。
――これは、先ほどの『神の裁き』とは比較にならないほどの大衝撃だ。
比較的後方にいた自分達ですらこの状況なのだから、
最前線にいた兵達はもっと酷い状態にあるかもしれない、と思い
しかし、これならば戦場の何処にいても変わらないのだろう、と同時に思う。
今出来ることは、ただひたすら耐えながら他の者達の無事を祈ることだけだった。
- 17: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:03:20.95 ID:Z2i46qCp0
- レーザーが徐々に細くなっていくのを、レイン達が本陣から見ていた。
彼女達がいるのは、大地に設置された『龍砲』から少し後方にある地点だ。
周囲、戦闘力を持たない整備兵達がまとまり、緊張した面持ちで光の放出が終わるのを見守っている。
ややあって轟音が収まり、光の線は細くなった後に千切れた。
砲撃の全てを見届けたデフラグは、遮光用ゴーグルを額に乗せて感想を放つ。
[;゚д゚]「……おーう、すげぇ迫力だったな。 久々に良い仕事したぜ」
从・∀・ノ!リ「…………」
「ま、間もなく砲撃が完了……!
終わり次第、放熱作業に入ります!」
片耳を押さえながら、顔をしかめた整備兵の一人が言う。
レインが、砲撃の先を見据えながら応えた。
从・∀・ノ!リ「……もう一ついいかの?」
「はい、何でしょうか?」
从・∀・ノ!リ「放熱作業が終了したら、すぐに各部カートリッジの交換に移る。
他の皆にもそう伝えておいてくれんかのぅ?」
- 22: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:06:44.59 ID:Z2i46qCp0
- 「!? し、しかし――」
命令を受けた兵がうろたえるのも無理はない。
レインはこう言っているのだ。
もう一度発射の準備をしろ、と。
[゚д゚]「おいおい、まさかもう一発必要なのか?」
从・∀・ノ!リ「必要とは限らぬ。 だが、誰も後悔はしたくなかろう?」
[゚д゚]「まぁ、そうかもしれんが……しかし、作業はどう急いでも十五分は掛かるぞ。
それに今の一撃で、純正ルイルの核以外の魔力のほとんどを使い切った。
もうあの大食いに詰め込むのは――」
从・∀・ノ!リ「本陣に、前線へ向かった者達が置いていった予備装備がある。
アレらに余っているカートリッジを回収すれば、もう一発くらいはお見舞い出来よう?」
[;゚д゚]「……確かに、純度は低くなるが出来ないこともねぇ、な。
この修羅場で何てこと提案すンだよ、お前さんは」
そう言うデフラグは、しかし満足気な笑みを浮かべていた。
背後、ポリフェノールが手を上げる。
|;;;|:: (へ) ,(へ)|シ「では私と、私の部下がその作業を請け負いましょう。
貴女の言う通り……誰もが後悔をしないために」
从・∀・ノ!リ「すまんが、頼む」
- 24: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:08:18.32 ID:Z2i46qCp0
- こういう時、すぐに名乗りをあげるポリフェノールの力は役に立つ。
部下を引き連れて去っていく彼の背中を見送っていると、
龍砲の再発射作業を進めていたチンとビロードが、ふと戦場へ視線を送るのが見えた。
レインも、釣られるように同じ方向へ目を向ける。
そこには現実ではあり得そうにない光景が広がっていた。
( ><)「煙と光が混ざって……」
まるで、巨大で奇怪な積乱雲だ。
しかしそれは風に吹かれて晴れていく。
結果という現実を、戦場にいる者達へ提示するために。
(*‘ω‘ *)「ぽぽ」
从・∀・ノ!リ「あぁ……これで終わるのが一番なのだが、な」
そう呟くレインの目に、喜びのような感情は一切映っていなかった。
- 27: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:09:29.34 ID:Z2i46qCp0
- 予感はあったのだ。
認めたくはないが、同時に疑念も。
これまで幾多の世界を食い荒らしてきた化物に対し、通用する攻撃など存在するのか、と。
保有する戦力と持ち得る力から判断するに、
確かに、ここまで戦えたの自分達は稀有な存在だったかもしれない。
今まで滅んだ世界は、自分達よりも技術が高いところもあっただろうが、その世界のみで対抗しただろうから。
対してこちらは四世界分の力と知識、意志が揃っている。
四倍まではいかないだろうが、それに相当する戦力であるはずだ。
ならばここまで肉迫することが出来たのは、ある意味で納得出来る。
だが、そこからだ。
肉迫するのと牙を立てるのでは大きな違いがある。
その大きな違いを超えられるか否かが、この戦いにおいて最も重要な要素だ。
そして、それを為すための手段が『龍砲』である。
龍の名を冠する切り札は、今しがた放たれたばかり。
この光が希望であることには違いない。
事実、予想を遥かに超えた規模の一撃は、こちら側に出てこようとしていた敵に直撃したのだ。
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:11:24.97 ID:Z2i46qCp0
- 予感はあったのだ。
もはや認めるしかないが、同時に疑念も。
しかし、自分達を信じる方を優先した。
ここまでやってきた自分達に間違いはない、と、自分が信じないわけにはいかない。
だからきっと、全てが上手くいく、と。
どこかの映画や物語のように。
心のどこかで、そう楽観していた部分があったのかもしれない。
それはきっと自分だけではなく、他の皆も同じ気持ちだったのだろう。
だからこそ――
(;^ω^)「!!」
(,,-Д゚)「ちっ……しぶとい奴だ」
煙と光の混ざった幕が晴れていくのに比例して、兵達の顔が青くなる結果となる。
(;゚д゚ )「馬鹿な……!!」
从;゚∀从「……!」
砲撃が生んだ灰色のカーテンから現れたのは、死骸ではなく。
――代わりとして現れたのは、どこまでも巨大な獣だった。
- 35: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:14:16.93 ID:Z2i46qCp0
- 《――――――…………》
その獣は、確固不動といわんばかりに大地へ四肢を刺し
血のように赤い目を、同じような色の空へ向けていた。
その大きさは、今まで見てきた敵の何よりも、そして戦場の中枢地のほとんどを占めるほど巨大。
爪だけで、既に大岩と見間違えるほどである。
体重を支える足は大樹、影を落とす身体は太陽を覆い隠す雲だ。
そして何より圧倒的なのは、その場に在るだけでプレッシャーを与えてくる強烈な存在感だった。
「あ、あれが獣を統率する長……」
「……仮に名をつけるとするならば『ケーニッヒ・フェンリル』といったところか」
「異獣の王、か……ところでどうして独逸語?」
「かっこいいからに決まってるだろう、常識的に考えて」
(;゚∀゚)「っておい、ちょっと待て……『龍砲』の一撃はどうなったんだよ?」
搾り出されるような言葉に、全員が改めて巨大な獣――ケーニッヒ・フェンリル――を見上げる。
「う、嘘だろ……」
そして、痛みに悶える動作も、死に絶えながら倒れる動作もない現実に背筋を震わせた。
「直撃だったはずだぞ! 効いてないというのか!?」
「不屈か! 不屈でも使ったんか!!」
- 39: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:16:27.87 ID:Z2i46qCp0
- ( ´_ゝ`)「いや、まったく効いてないわけじゃないようだが……これは……」
あまりに大きな敵を見上げながら兄者は確認する。
ケーニッヒ・フェンリルの背部の右方から、大量の煙が上がっているのを。
( ´_ゝ`)「角度がズレたか敵が身を捻ったのか解らんが、直撃ではなかったようだ」
(´<_`;)「兄者、それはつまり――」
( ´_ゝ`)「『龍砲』がしっかり当たっていれば倒せた可能性もある。
皆、あの大きさにビビることはないぞ! 攻撃が通用しないわけじゃない!!」
「「……!!」」
その声に応じる動きがあった。
一つは、味方軍勢が発する安堵の吐息。
一つは、それをバネとした闘争の構え。
そして最後の一つは、
《――――グゥゥゥゥゥゥウウ――ァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!》
衝撃が走った。
中枢部に鎮座するケーニッヒ・フェンリルが、身を仰け反らせて吼えたのだ。
- 45: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:18:35.81 ID:Z2i46qCp0
- 轟音。
続いて威力の波動が走った。
身から迸る魔力の圧が壁となり、周囲にブチまけられ、大地を削り、空気を砕き、
最も接近していた最前線の兵の一部が、まるで飛沫のように打ち上げられる。
(;^ω^)「なっ――!?」
高度にして十数メートルは舞い上がった人の群れが、真っ逆さまに落ちていく。
光景として最も似つかわしいのは降雨だ。
装甲服に纏う魔力があれば死ぬことはないだろうが、圧倒的な光景であることに疑いはない。
「ひ、人がゴミのようだ……」
「何、なんだ……何なんだよ、ありゃあ!!」
たった一撃。
しかも、攻撃とは言えないただの咆哮。
この光景が与える精神的ダメージは計り知れない。
事実、一連の流れを見ていた兵達の士気が下がっていくのが、手に取るように解った。
「勝てない……」
そう、誰かが言うのは当然で。
「俺達は、刃向かう相手を間違えたのか……!?」
- 50: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:20:46.14 ID:Z2i46qCp0
- そもそも、勝機などほとんどなかったのだ。
初めから勝敗が決まっているようなものだったのだ。
いくら小さな獣を散らしても、最終的にこの一体がいれば帳尻が合うシステムだとしたら――
「今まで俺達がやってきたこととは……」
ノハ#゚ ゚)「ふざけるな……!
咆哮一発で負けを認めてたまるか!
私は命果てると解っていても奴と戦うぞ! そのためにここまで来たはずだ!」
「だが、このまま戦ったとしても!」
(;゚∀゚)「あんな反則じみた奴を倒せンのかよ……!?」
動揺は更に広がり、変色して恐怖へと転じる。
誰もが『勝ってやる』という心意気を忘れかけてしまっていた。
これが敵の狙いだとすれば、効果は言うまでもなく抜群で――
川#゚ -゚)「――うろたえるなッ!!」
しかし一際凛とした声が、波状に広がりかけた恐怖をせき止める。
- 55: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:22:37.96 ID:Z2i46qCp0
- 川#゚ -゚)「怯むな! 脅えるな! 泣くな! 逸らすな! 諦めるな!!
何のためにここまで来たのか、各々思い出せ!!」
あ、という回帰の声。
それすら叩き伏せる勢いでクーは言う。
川#゚ -゚)「我ら生を望む抵抗の軍勢!
『生きる』という誓約の下に抗いの刃を重ねたはず!
ならば簡単に生を諦めるな!
最後の最後まで望み、願い、走った者こそ手に出来ると知れ……!!」
「しかし、あんな怪物相手にどうすれば――」
川#゚ -゚)「それが敵側の示した『絶望』という札ならば、こちらも対する札を切ればいい!
総員、こちらを見ろ!!」
言ったクーの背後、いきなり大きな人影が立ち上がる。
その正体はハインの持つ15th−W『アゲンストガード』だ。
ケーニッヒ・フェンリルの巨大さに比べれば矮小そのものだが、その力強いフォルムは簡単には折れそうにない。
黒い巨人の右肩に乗るハインが、クーの言葉を受け継いで言う。
从 ゚∀从「――その役目、僕が示します!!」
止める暇もない。
しなやかな動きで、15th−W『アゲンストガード』と共に大きく跳躍した。
- 64: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:24:43.15 ID:Z2i46qCp0
- 从 -∀从(ありがとうございます、クーさん……僕の役目を理解してくれて)
ケーニッヒ・フェンリルが『絶望』ならば、ハインリッヒは『希望』だ。
元よりそのために作られた身体。
ならば今という状況こそ、彼女の役目が果たされる時だ。
戦場のど真ん中にいるケーニッヒ・フェンリルの目が、近付いてくるハインを捉える。
その視線は鋭く、そしてあまりに深い。
しかし怖じることなく、ハインは力を提示した。
从#゚∀从「アゲンストガード! 主である僕が命ず!
『僕の身となれ』!!」
ハインが肩から跳躍し、同時に機械音が響いた。
結界を破壊した時のように、15th−W『アゲンストガード』が変形を開始する。
- 67: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:26:37.13 ID:Z2i46qCp0
- 四肢を広げた格好から、まず各部装甲の接続を解除。
一瞬だけ力が抜けたような動きとなるが、すぐに次の段階へ移行した。
フレームを露出させる。
それは火花と共に稼働し、四肢が伸びるような形へ変えた。
更に胸部と腹部の装甲や内部機構を縦に分割し、スライドさせて背部へと回す。
そうすることで、身体の中心部に人が入り込める空間を作ったのだ。
当然のように落ちてきたハインが滑り込み、その両手両足を所定の位置に差し込んで確定した。
続いてアゲンストガードの四肢に変化が生じる。
両脚部が、ブースターを形作りながら折り畳まれた。
右手部が、大きなブレードを作るように変形した。
左手部が、大きなシールドを作るように変形した。
完成した形を、ハインはこう呼称する。
从#゚∀从「15th−W『アゲンストガード』、アウトフレームモード……!!」
外骨格の意味を持つ形態だ。
一見して、ハインリッヒの四肢を機械化・巨大化させたようにも見える。
つまり彼女は、アゲンストガードという機甲を装着したのだ。
意思を流し込むことで、思う通りに手足を動かすことの出来る機械鎧を。
- 76: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:28:51.98 ID:Z2i46qCp0
- 从#゚∀从「行きます! 希望が希望であるために!!」
背中と両脚にあるブースターが光を噴く。
まさに『合体』といえるような変貌を遂げたハインが、力強く空を飛んだ。
《……――!!》
前方、ケーニッヒ・フェンリルも動きを開始する。
向けられる鋭い目は、それだけで大人の身長よりも大きい。
从#゚∀从「でも――!」
行く。
四肢に力を込め、怖じることなくその大きな視線を睨み返した。
大きいから何だ。
こっちには多くの仲間がいるんだ。
それに、彼らは恐怖程度の重圧には負けない。
从#゚∀从「それを僕が教えてあげるんだっ!!
ここは抗えることの出来る戦場なんだと……!」
左手を動かし、その延長上にある左腕部を稼働させる。
シールドの切っ先を獣の顔へ向けた格好だが、その真の狙いは別にあった。
砲撃。
切っ先の裏側に取り付けられた銃口――いや、砲口が光弾を打ち出したのだ。
彼女の左手にあるのはただのシールドではなく、盾と砲が一体となった複合ユニットである。
- 80: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:30:20.94 ID:Z2i46qCp0
- 《……!》
光弾はケーニッヒ・フェンリルの額に直撃し、煙に似た光の粒子を散らす。
普通の人間からすれば大きな砲撃だったが、あの獣からすれば豆鉄砲レベルの攻撃だ。
だがその結果を見たハインは、己の考えが正しいことを知った。
从 ゚∀从「やっぱり……!」
ダメージがある。
しかも目に見える形で。
あの煙は、体毛を構成する魔力がこちらの砲撃を相殺した結果だ。
从 ゚∀从(つまり攻撃が無効化されるわけじゃない!
単に防御の層が厚いだけで、あとは巨大なだけだ!)
思った次の瞬間、既に身体が動き始めていた。
重心を前へ倒しながらの突撃姿勢だ。
背部と脚部のブースターが光を噴き、ハインを一気に押し出した。
从#゚∀从「うあああああああっ!!」
直進。
目の前にいる獣の顔の横を通り過ぎ、背中を目指して高速飛翔する。
- 83: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:32:03.71 ID:Z2i46qCp0
- 从;゚∀从「!!」
辿り着いた先は、まるで白色の草が満ちる草原だった。
植物に見える白は獣の体毛で、その下には強靭な肉があるのだろう。
何もかもが拡大されるような光景に対し、ハインは一瞬だけ遠近感を失った。
从;゚∀从「……っと、いけない。 見とれてる場合じゃないや」
確認するように後ろを見ると、首を曲げたケーニッヒ・フェンリルの大きな目がこちらを見ていた。
視線は一つの意思を発している。
――無駄なことを、と。
从#゚∀从「そんなのやってみなくちゃ解らない……!
『出来なさそう』だからと言って簡単に諦めるのは、可能性すら0にしてしまう最悪のやり方なんだ!
何より、希望たる僕が希望を捨てるわけにはいかない!!」
右手を大きく振るった。
呼応するように、光の刃を生んだブレードが、ひ、という甲高い音を発する。
自分の手先にとてつもない力が生まれたことを自覚しながら、
从#-∀从「てぇぇぇぇぇ――」
その大きな切っ先を草原に突き立て
从#゚∀从「――りゃぁぁぁあああああっ!!!」
そのまま、ケーニッヒ・フェンリルの背中を切開するように疾走を始めた。
- 87: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:34:36.25 ID:Z2i46qCp0
- 魔力同士がぶつかり、弾け、鋭い光を生み、それが連鎖していく。
発生する震動は刃を伝ってハイン自身にも響き、脳や神経、骨が軋むのを感じる。
しかし微塵も速度を緩めることなく、ハインは下半身の方へと一気に移動した。
傷をつけることすら出来ないと思われていた巨大な獣。
その背中に、直線的な裂傷を刻んでいく。
从#゚∀从「あああああああっ!!」
渾身の力を込めて一気に切り裂いた。
何かがブツ切れる音と、魔力が弾けたことを示す光が散る。
大量の飛沫を受けながら、ハインは身を横に一回転させて空へ舞い戻った。
从#゚∀从「あとは……!!」
ブレードに注いでいた魔力を断ち、その全てを左手の砲へ集中させる。
从#゚∀从「これで……どうだぁぁ!!」
叫びと同時、限界まで溜めたエネルギーを解放。
流石に『龍砲』のような威力は出せないが、それでも充分な破壊力を持つレーザーが照射された。
白の熱線がケーニッヒ・フェンリルの脇腹に刺さり、小規模の爆発を引き起こす。
- 91: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:36:15.46 ID:Z2i46qCp0
- 川#゚ -゚)「――見ろ!!」
地上にいるクーが、装甲車の上で吠える。
指差す先には、ケーニッヒ・フェンリルへ攻撃を浴びせるハインの姿が遠くにあった。
クーは見せつけるように両手を仰ぎ、
川#゚ -゚)「敵は決して無敵でも最強でも不滅でもない!
攻撃すればダメージがある! 怯ませることも出来るんだ!」
だから、と言うように
川#゚ -゚)「倒すぞ! あの化け物を!!」
クーの強い声に、しかし反応は薄い。
彼女やハインを見る兵達の目にあるのは葛藤だった。
確かに『何とかしなければならない』と解っている反面、やはり恐怖も強かった。
誰もが戸惑いと苦悩の表情を浮かべ、己の武器やハインの活躍を見ている。
川;゚ -゚)(駄目、か……?)
やはり、一度折られた闘争心は二度と元に戻ることはないのか。
あの巨大な獣に立ち向かうまでの心意気は、もう無いとでも言うのだろうか。
そんな暗い感情が、クーの心の一部を射した。
- 95: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:37:40.12 ID:Z2i46qCp0
- クーの後方、空からは断続的に爆音や飛翔の音が響いてくる。
すぐさま駆けつけたい衝動に駆られるが、自分だけが行ってもさしたる意味はないのは理解していた。
出来るだけ戦力を率いて行かなければならない。
だから、クーは皆の気迫を励起させるために呼び掛けていたのだが、
(#゚∀゚)「ちッ、ここまで来てコレかよ」
( -д- )「……そう言うな。 誰もがお前のように勇猛ではない。
そして、それを『悪いこと』として文句を言うのは間違いだ」
しかし、戦う気満々なジョルジュが悪態を吐くのは仕方がなかった。
装甲車の横に立つミルナが腕を組んで俯いたまま動かず、ペニサスやヒートは背を向けていつでも走れるように準備している。
隣にいるブーンは、クーの手を握るだけで黙っていた。
更に言えば、何名かは既に見切りをつけてハインの援護へ向かっている。
そして、クー達にも動かなければいけない時間が迫っていた。
(;^ω^)「クー……そろそろ行かないと、全てが間に合わなくなるお」
川 ゚ -゚)「ここが限界、か……」
どうしても覇気が戻らない面々に、クーは遂に諦めの吐息。
戦いに赴けそうな者は四方戦の主要メンバーと、少数の血気盛んな兵だけだった。
- 99: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:39:56.76 ID:Z2i46qCp0
- 川 ゚ -゚)(……思えば、あの怪物に抗おうとしている私達の方が異常なのかもしれんな。
そして奴らがここまで来ることが出来たのも――)
恐怖とは一つの力である。
あのような軍勢が攻めてきたとなれば、中には諦めた世界もあるかもしれない。
もしくは、今の混合軍のように戦意を喪失する者がたくさん出たのかもしれない。
牙や爪だけでなく、その存在自体をも武器とする異獣は、確かに最強の名に相応しいと言えるだろう。
川 ゚ -゚)(だが、まだ全員が諦めたわけじゃない。
私が、ハインが、内藤が……これまで手を貸してくれた者達は、まだ戦える)
ならば行くしかあるまい。
ここで膝を折る者が出ても、それは認めるしかない現実なのだ。
あれほどの巨体を誇る敵に挑むなど、確かに気でも狂っていない限りは難しいかもしれない。
川 - -)(行こう。 私達だけで――)
そう、心に決めかけた時だった。
「――俺さ。 ハインリッヒを見たのが、今日が初めてなんだ」
- 103: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:42:09.75 ID:Z2i46qCp0
- 川;゚ -゚)「……え?」
声の主は、今しがたクーに背を向けられた兵達の中にいた。
額を血に染め、右肩を庇うような姿勢の若い男が、立ち上がって言ったのだ。
「俺ァ機械世界に所属する人間でな。
ハインリッヒのことを『最強を名乗れる程の兵器である』と、そう教わった。
無論、仲間内の噂程度の話だったし、あんまりあてにはしてなかったがな」
誰もが沈黙したまま聞く。
一部の兵は、彼の言葉に軽く頷きの動作を見せた。
「まぁ……そんなことを言いつつも、どんな秘密兵器かと思ったさ。
それが本当に俺達にとっての切り札となるんなら、どれだけゴツい兵器なんだろうな、って。
あの憎たらしい全ての獣を葬り去る超大型爆弾じゃねーか、とか、仲間同士で語り合ったことも少しはあった」
彼は、武器を持っていない方の手で頭を掻き
「恥ずかしい話、あてにしてなかった、とか言いつつ期待してたんだと思う。
そんなガキみてぇな夢物語を少し信じたくなるほど、戦況も切羽つまってたしな。
でもよ――」
その手を、更に人差し指を伸ばし、巨大な獣の方へ向けた。
ケーニッヒ・フェンリルの周囲では爆発や光の破裂が起き、戦闘が続いていることが解る。
彼はその様子を指差したまま、周囲へ問いかけるように
「――ありゃあ、何なんだ?」
- 105: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:43:46.57 ID:Z2i46qCp0
- 口に出して答えるまでもない。
単独でケーニッヒ・フェンリルに挑んでいるのは、15th−W『アゲンストガード』を従えるハインリッヒだ。
「あれが『最強』? あれが俺達の切り札?
悪いが、俺にはただの可憐な少女にしか見えねぇ。
その可憐な少女がデカい巨人と共に、もっと遥かにデケェ狼と戦ってるようにしか見えねぇんだよ。
こりゃあ誰の妄想だよ、ってツッコみたくなるくらいの光景だ」
川 ゚ -゚)「…………」
それは一体どういう意味の言葉なのか。
単なる疑問か、愚弄か、それとも別の何かか。
真意を測りかねるクーは、口を挟むことなく成り行きを見守った。
「その事を踏まえた上で更に問う」
腕を下ろした若い男が、今度は周囲を見渡した。
「――俺達は、何してんだ?」
「…………」
「……!」
いくつかの反応があった。
何かに気付いた顔や、更に俯いたり、苦い表情を浮かべる様子が見て取れる。
それら全てを見渡した一人の若者は、追い詰めるように
「あんな可愛くて、華奢で、すぐにでも折れちまいそうな少女を戦わせておいて
大の大人だと言える俺達は一歩引いた場所で怯えてる……それでいいのか?」
- 108: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:46:08.44 ID:Z2i46qCp0
- 「しかし――」
「しかし……何だ?」
「お前も見ただろう。 そして今も見ているはずだ。
あんな馬鹿みたいに巨大な敵を……。
ハインリッヒのように強力な武器も無しに、俺達に何が出来る?」
「強力な武器がないと抗えねぇのか?
何か正しい理屈がないと動けねぇのか?
そんなに貧弱でナヨナヨで雑魚思考だったのか、俺達は?」
違うだろ、と呟く。
そして、自分の持つ武器を掲げた。
「武器ならここにある。 『生きたい』という意思も胸にある。 そして動く身体もある。
つまり俺はあのデカい『絶望』に対し、少しばかり抗うことが出来る」
一歩踏み出した。
『絶望』に踏みつけられたかのように膝を着いている兵達の間を歩く。
その間にも言葉は続いて、
「何かの本で読んだのだが……『抗』という文字は、上からの重圧に対し、手をもって押し上げるイメージらしい。
例えばこんな俺でも1cmくらいは押し返せるとして、もしそうなら抗う価値はあると俺は思う。
だからさ――」
皆の視線が集まる中央へ到着した彼は、近くにいるクーを真っ直ぐ見つめ、
「俺も連れていってくれ。 あの少女を手助け出来る戦場へ」
- 113: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:47:53.95 ID:Z2i46qCp0
- 川 ゚ -゚)「……随分と遅い志願だな?」
「俺はアンタらと違ってちょっと臆病だから。
恐怖を払拭……いや、押さえ込むのに少し時間が掛かった。
だが、もう大丈夫だ」
川 ゚ -゚)「そうか。 ならば共に行こう。
率先して抗いの先端にいるハインの下へ」
「いいや、彼女は率先なんかしちゃいない。
ただ自分の役目を果たすため、一度たりとも止まらずに走り抜いているだけだ。
彼女が先に行っているのではなく……俺達が情けなく遅れているだけなんだ」
だから、と言い
「追いつこう、と。
怖くても、そう思えて……この気持ちは、決して偽物なんかじゃないんだよな」
苦笑交じりに放たれた言葉。
それに反応するような動きと声が立ち上がった。
初めは小波として。
しかし確実に、その波は誰かの心を揺らしていく。
生まれていく波紋は他者とぶつかり合い、次第に激浪の勢いとなって混合軍を埋め尽くした。
- 116: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:50:34.34 ID:Z2i46qCp0
- 川 ゚ -゚)「こ、れは……一体……」
ノハ#゚ ゚)「――これこそが人の持つ魂の真声」
川 ゚ -゚)「む?」
徐々に盛り上がりを見せる士気の中、ヒートが言う。
ノハ#゚ ゚)「圧され伏されて人は嘆く。
しかしどんなに重くとも、その胸の内にある声だけは、本人が望む限り潰れることなどあり得ない。
今、恐怖という蓋が『希望』によって排されたのなら……」
( ゚д゚ )「……それは、真の意味での意思となる、か」
*(‘‘)*「恐怖や絶望が心を覆うのであれば、それらを上回る希望や気概で払拭するだけのこと。
これが動物にはない、人間の意志というやつですね」
それはきっと自分にはない理屈なのだろう。
本当の人間だからこそ、恐怖を踏み台にして高みを望めるのかもしれない。
川 ゚ -゚)「……そうだな。 きっとそうだ」
( ^ω^)「行くお、クー! 全ての決着を望みに!」
川 ゚ -゚)「あぁ、行こう……もはや何も恐れることはないんだ……!!」
もはや、誰もが止まらない。
真の意味で戦いの意志を表した混合軍は、今度こそ生を求めて刃を掲げた。
- 119: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:52:10.51 ID:Z2i46qCp0
- ハインは風を切って飛んでいた。
アウトフレームモードのアゲンストガードに包まれたまま、高速で空を滑る。
从;゚∀从「くっ……ぬぬぬぬ……っ!!」
とてつもない重圧だ。
重力と遠心力、慣性等の物理法則が、これでもかと彼女の身を連打している。
歯を噛み締めて耐えればすぐさま別の圧が襲い掛かり――先ほどから、その繰り返しだった。
《ガァァァァァァアアアア――!!》
追うように吠声が来る。
周囲を飛びまわるハインを撃墜するため、その大口を開けて噛みつこうとしているのだ。
从;゚∀从「うわっ! っとぉ……おぉ!?」
ハインはそれを紙一重で回避しながら、隙を見て砲撃を叩き込む。
その一発一発はケーニッヒ・フェンリルの巨体から見れば小さなものだったが
当てる毎に防御力を削っているのだと考えれば、決して無駄な抵抗ではないはずだ。
从#゚∀从(僕が負けるわけにはいかないんだ――!!)
限度の見えない高速の攻防は、ここにきて更に激化した。
ハインが、15th−W『アゲンストガード』を使いこなし始めているのだ。
- 123: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:53:36.28 ID:Z2i46qCp0
- ハインは思う。
これこそ自分の望んだ力だ、と。
人型でありながら無形のウェポンは、一つの能力を有している、と知ったからだ。
――主であるハインリッヒの思う幻想を、全て現実のモノとする。
剣を望めば、剣を形作り
銃を望めば、銃を形作り
盾を望めば、盾を形作る。
破壊を望めば、破壊を生み
守護を望めば、守護を行い
生存を望めば、生存させる。
音速超過を望めば、為せる速度を与え
連射連撃を望めば、相応の力を構築し
絶対正義を望めば、真であろうが葬る。
制限などの心配は最初から無用だった。
元より、このウェポンが持つ魔力の量は桁外れだ。
そして出力の幅も高いレベルで確定されているため、ハインの思うがままに力を表現することが出来る。
だから、迷うことなく加速を入れる。
だから、躊躇うことなく砲撃出来る。
- 127: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:55:22.75 ID:Z2i46qCp0
- 全ては与えられた役目を果たすため。
単純でありながら鋼の硬度を持つ意志は、迷いを悉く遮断する。
更に言えば、自分の力を理解したハインリッヒに『加減』という言葉は存在しなかった。
从#゚∀从「兵装オープン! カウリング開放から、一気に火線を集中させます!!」
がこ、という硬い音が響く。
15th−W『アゲンストガード』の装甲各部が展開したのだ。
内部からは即興で形成した砲口が顔を出し、己の存在を確かめるように数度動き
そして合計三十ほどのそれは、ハインの意志に従ってケーニッヒ・フェンリルを見据えた。
从#゚∀从「いっけぇぇぇぇぇええええっ!!」
光の線が幾重にも奔った。
乱、という軌道のレーザー群は、加速の最先端を突き進む。
多重の破砕音。
ケーニッヒ・フェンリルに絡みつくような光の線が、着弾した途端に爆発を引き起こしたのだ。
そして、限度のない攻撃力が、遂に巨体を震わせることに成功する。
- 132: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 21:58:46.57 ID:Z2i46qCp0
- 从 ゚∀从「よし、この調子でもっと――」
《――ァァァ》
从;゚∀从「え?」
《――ア"ァァァァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!》
从;゚∀从「う、ぁ……っ!? しまった!?」
吼える声が前からぶつかってきた。
発せられた衝撃波と大気の圧が、回避運動をとっていたハインを横殴りに叩く。
そして気付けば大きな獣の目が苛立ちの色を見せ、こちらを睨んでいた。
ぞく、と悪寒が背を貫く。
睨まれてはならないものに睨まれたような、そんな危機感。
まだあまり戦い慣れていないハインにとって、その視線は殺人的だった。
動物は、その視線だけで己より弱い獣を散らすことが出来るが、それはまさにこの状況のことを言うのだろう。
四肢が強張る。
瞬きすら出来ない。
まさに一瞬で状況が入れ替わる。
从;゚∀从「ぁ、まず――」
身体が自由を得た時には遅かった。
次の瞬間、図体に似合わぬ速度で口を開いたケーニッヒ・フェンリルは、彼女を丸ごと噛み砕こうと――
- 135: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:00:05.79 ID:Z2i46qCp0
- 《ッ!!?》
しかし別の衝撃が来襲した。
ケーニッヒ・フェンリルから見て右方向から、突然の平手を喰らったような一撃だ。
何事かと顔で問うハインは、それを視界に捉え、驚きに目を見開く。
(,,゚Д゚)「まったく……敵の眼前でふらふらと飛ぶ馬鹿がいるか。
見ていられなくて、つい手を出してしまったぞ」
(*゚ー゚)「ハインちゃん、大丈夫?」
从;゚∀从「ギ、ギコさんとしぃさん!?」
獣の横っ面を張り飛ばしたのはギコだった。
背後には、羽交い絞めするように支えているしぃがいる。
二人は空を飛んでいた。
そして二人の武器――1st−W『グラニード』と10th−W『レードラーク』――は、まったく同じ色を発している。
ブラックパープルに近い色だ。
濃い彩りでありながら、しかし不思議と安心感を与えてくれるように感じられた。
- 138: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:01:43.32 ID:Z2i46qCp0
- (,,゚Д゚)「だが、それでも奴らにとっては希望となったらしいな。
後ろを見てみろ」
从 ゚∀从「……?」
背後、そして眼下。
装甲服を着た兵達が武器を掲げてこちらを見上げていた。
その立ち位置は、ケーニッヒ・フェンリルが出現した時と比べて前へと出ている。
从;゚∀从「あれは――」
(,,゚Д゚)「あぁ、お前の戦いに抗う心を取り戻したんだ」
彼らは前を見て、そして前へ進もうとしていた。
あまりに巨大過ぎる獣に抗うためだ。
中には、雄叫びを挙げながら疾駆を開始する者もいる。
(,,゚Д゚)「戦いの心得はまったく成っていないが、お前は奴らに『希望』を与えた。
俺なんぞには出来ない芸当だ。 誇って良いんじゃないか」
(*゚ー゚)「さぁ、行きましょうハインちゃん。
更に彼らの希望となるため、私達も一緒に戦うわ」
从*゚∀从「ギコさん、しぃさん……あ、ありがとうございます……!」
- 143: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:03:03.87 ID:Z2i46qCp0
- 二人の言葉に、ハインの心に明るい色の感情が溢れる。
自分の暴力的な力が役立ったのが、嬉しかった。
力を認めてくれる人達がいるのが、とても嬉しかった。
この意思疎通を以前からずっとやってきた彼らに、少なからず嫉妬するほどだった。
从 ゚∀从(でも――)
今回は、その中に自分もいる。
自ら望んで飛び込んだ領域は、まさに夢見た関係を体現する場所だったのだ。
これ以上の喜びが、果たして存在するのだろうか。
感激に頬を染めるハインの前、ギコとしぃが戦闘態勢を作り出す。
(,,゚Д゚)「間もなく全戦力がこの場に集うだろう。
そしてその時こそ……文字通り、最終決戦が開始されるはずだ」
从 ゚∀从「じゃあ、僕らは――」
(,,゚Д゚)「あぁ、奴らを待つ必要はない。
先に攻撃を開始し、少しでも敵戦力を削るのが俺達に課せられた役目だ。
転じて、空はお前を中心として俺達に任された……と、俺は判断している」
- 146: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:04:16.96 ID:Z2i46qCp0
- そう言い切ったギコは、鋭い視線をケーニッヒ・フェンリルへ向け、
(,,゚Д゚)「行くぞ、しぃ。 移動は全てお前に任せる」
(*゚ー゚)「うん、解った。 その代わり全て委ねるよ」
翼と剣が、青と橙の混じった色を迸らせた。
それが弾けたと思った瞬間だ。
二人で一つとなった大翼剣は、猛スピードで巨大な獣へと立ち向かっていく。
限界突破によってしか見ることの出来ない光景に、ハインは目を輝かせて吐息し――
(*´_ゝ`)「――ハインちゃん可愛いよハインちゃん」
从;゚∀从「う、うわぁ!?」
変質発言に慌てて振り向けば、そこには兄者がいた。
空を飛べるはずのない彼は、『だからこそ』と言うように桃色の巨大な竜の頭に乗っている。
从;゚∀从「な、ななななな!?」
( ´_ゝ`)「ふっ……ハインちゃんが驚くのも無理はないが、これ実は限界突破のおかg――」
从;゚∀从「桃色だぁー!! 奇抜だぁー!!」
(;´_ゝ`)「んがっ!? 率直過ぎないか!?」
- 150: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:05:55.66 ID:Z2i46qCp0
- (;,,-Д゚)「……遊んでいる暇があるのならば手を貸せ、そこの阿呆二人」
わざわざ戻ってきたギコの溜息に、ハインは気まずそうに俯いた。
今のは確かにふざけ過ぎだった。
こんな大事な時に、自分は何をやっているのだろうか。
ハインは素直に自分の非を認め、もっと真面目に戦わなければならない、と反省する。
从;゚∀从(でも……)
……兄者さんと一緒にされたのは辛いよなぁ。
素直に思い、しかしハインは慌てて心の中で首を振った。
いや、きっとこれも仲間というものなのだ。
良い部分だけでなく、嫌な部分も共有し合うのが仲間なのだ。
都合の良し悪しなんて気にしない、真の意味で『気兼ねのない関係』というか、その、えーっと、つまり――
何にせよ兄者だって怒られれば反省くらいはするだろう。
そう思っていると、隣を浮く兄者は腕を組み、
( ´_ゝ`)「――だが断る!!」
- 154: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:08:09.53 ID:Z2i46qCp0
- (,,゚Д゚)「……叩き斬っていいな?」
(;´_ゝ`)「ま、待て待て! 別にふざけているわけじゃない!」
せっかく組んだ腕を解きながら、
( ´_ゝ`)「気になることがあるんだ。 どうしてもな。
だから俺はここでお前らの活躍を見守りながら観察するのだ」
从;゚∀从「に、逃げじゃないですよね……?」
(;´_ゝ`)「純粋無垢なハインちゃんが疑う子になったぁ!!」
よよよ、と嘘泣きを始めた兄者に、ハインはどう反論すれば良いか解らず頭を抱えた。
そんな光景を横に、巨大な獣と睨み合うギコは舌打ちを一つ。
(;,,-Д゚)「空は俺達とハインリッヒだけで対抗か……。
地上は復活した奴らが攻めてくれるが、そうなると少々厳しいな」
獣の目はギコを視界に収めたまま動こうとしない。
攻撃するにせよ動きで惑わすにせよ、このまま下手に動くのは自殺行為だった。
軌道を読まれれば最後、一気に噛み砕かれて終わりだろう。
ハインを食い千切ろうとした時の速度を考えれば、まともに相手するのは馬鹿らし過ぎる。
そしてそもそも何故、獣がこの場から移動しないのかという疑問については
既にギコは答えを出し、深く考えることを放棄している。
勘が『ハインリッヒが狙い』だと囁いており、彼自身もそう思っているのだ。
- 158: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:09:40.24 ID:Z2i46qCp0
- ともかく動かないのならばやりようはある。
しかし、せめてあと一人分の戦力がないと厳しい。
ハイン辺りが囮となり、自分ともう一人が隙を突けば少しはまともに戦えるはずだ。
思った時、その直上を突風が走る。
『いざ往かん、我らの戦場へ!! ――ってかぁ?』
『ふざけるのか真面目にするのかどちらかにしろ』
黒色の戦闘機『キオル』と、灰色の戦闘機『ミョゾリアル』だ。
風を従えて飛ぶ二機はハイン達を飛び越え、そのまま急上昇する。
大気の筋を引きながら天へ昇る姿は、対を為す双竜のようだ。
从;゚∀从「速っ」
(,,゚Д゚)「機械世界が誇る音速の鉄鳥……間に合ったか」
『はっは! 俺は生まれてこの方、遅刻だけはしたことねぇーンでな!』
【――と、言っておりますが。
もしフェイクならばエクスト様に対する評価が……これ以上、落ちません】
『……残念ながら事実でな。 難儀なことだ』
『おい、テメェらどういう意味だコラ』
- 161: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:11:32.79 ID:Z2i46qCp0
- そのまま敵を無視してケンカしそうな勢いだったが、
流石に今の状況くらいは理解しているらしく、二機は一定の間隔を保って飛翔する。
こちらの攻撃に合わせて仕掛けてくれるつもりなのだろう。
過去ならいざ知らず、今の自分達には言葉を交わすまでもない意思疎通だった。
『――で、私は完全に無視かしら?』
从 ゚∀从「!!」
突如、問いかける声と動きがあった。
声はレモナのもので、動きは背後からだ。
風が大きく乱されたと思えば、赤い巨人がハイン達の前に姿を見せる。
从;゚∀从「……って、あれ?」
(,,゚Д゚)「レモナ、お前はそれに乗っているのか?」
『そういうこと。 本来の乗り手のシューが怪我してるからね』
从;゚∀从「で、でも、その足で大丈夫なんですか……?」
心配そうなハインの視線の先には、EMA-02『ウルグルフ』の損傷部があった。
北側の戦闘で攻撃――ブーンの限界突破――を受け、右脚足が大破しているのだ。
メインスラスターが背部にあるとはいえ、これではバランスが取れないだろう。
- 164: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:12:53.44 ID:Z2i46qCp0
- しかし、レモナの声にまったくの不安は見られない。
『私の腕を嘗めないでもらいたいわ。
特にギコとしぃ、貴方達なら解っているでしょう?
それに――』
言い、赤いEMAは右腕を大きく振るった。
『――今の私には、この「剣」がある『もぎゃああああああ!?』』
从;゚∀从「…………」
(,,-Д-)「…………」
力強いレモナの言葉の裏に、何か男の悲鳴のようなものが聞こえたが
ギコ達は関わりを持たぬために無視した。
腕の先には巨大な質量物質があった。
それは無骨な大岩の塊に見え、しかし色は突き抜けるような青を放っている。
剣と呼ぶにはあまりに大きく、らしくないが、ギコとしぃは先の戦いで正体を知っていた。
从 ゚∀从「それは……」
(,,゚Д゚)「青色のEMAが変形して作る、あの大剣か」
- 169: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:14:41.20 ID:Z2i46qCp0
- 『EMA-01「リベリオン」の第四兵装、というか特別形態ね。
あの戦いでは貴方に振るってもらったけれど、本来の用途はEMA用の大剣。
二機で一機となった私達に敵はいないわ』
続いて、さぁ、と自信に満ちながら
『あの馬鹿みたいにデカい獣を叩き切りましょう、私と同じ青剣の使い手さん』
(,,゚Д゚)「奇しくも同じ色と種類の武器を扱う、か。
いいだろう、ここでまた共に戦うのも何かの縁だ。 遅れるなよ」
从 ゚∀从「僕も一緒に戦います!」
(,,-Д゚)「もちろんだ。 これでも頼りにしているんでな」
もはや多くの言葉は要らない。
向こうが信じてくれるのならば、こちらも全力で信じるだけだ。
ハインの強い頷きに満足そうな笑みを浮かべた彼は、突撃姿勢を作り出し、
(#,,゚Д゚)「半端な結果は要らん。 全力で最良の結果を出す。
ここまで這い登ってきた俺達に、諦めや敗北を突きつけられるわけにはいかない。
そして、これはおそらく最後の戦闘だ。 出来るだけ派手にいくぞ……!」
从 ゚∀从「はい!!」
『おうっ!!』
直後。
絆という力で結ばれた三人と三機が、勢い良く散開した。
- 175: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:18:03.15 ID:Z2i46qCp0
- ハイン、ギコとしぃ、レモナ、シャキンとエクストが獣と戦闘を再開するのを、兄者は竜の頭上で見ていた。
目は先ほどまでのふざけた色を無くし、巨大な獣の一挙一動を逃がすことなく視界に収めている。
( ´_ゝ`)(おかしい点がある以上、その解明を急がねば。
もしかしたら俺達にとって大きな利点となるかもしれん)
疑問は主に三つ。
巨大な獣が、中枢部から出てきて一歩も動いていない点。
攻撃が噛み付きや咆哮等、あまりに原始的過ぎる点。
そして、異獣の親玉にしては――
( ´_ゝ`)(――どういうことだ?)
迫力なら確かにある。
大きく、血のように赤い目で睨まれれば竦み上がるのも解る。
空にいる自分ですらこれならば、地上の皆の恐怖は相当なものだろう。
だが、おかしい。
ハインやギコとしぃが戦っている。
シャキンやエクスト、レモナも手を貸している。
『蝶のように舞い蜂のように刺す』とは、あんな光景を言うのかもしれない。
だからこそ、違和感を覚える。
- 179: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:19:12.34 ID:Z2i46qCp0
- ( ´_ゝ`)(確かにギコさん達は強い。 一連の戦いで成長しただろうし、元々から経験があった。
しかし……それだけの要素、あれだけの人数で異獣の親玉に対抗出来ているのはどういうことだ?)
彼らがあっさり倒されるとは思っていないが、押し過ぎてはいないだろうか。
これならば、異獣と化したツンや、
彼女が生み出した3rd−W『ウィレフェル』の限界突破の方が、まだ手強い気がした。
あの巨大な獣は、ただ防御力が非常に高いだけだ。
更に噛み付き等の攻撃力は一撃必殺でも、全て回避されているのだから意味が無い。
最後の敵として見れば、さほど手強くないのだ。
( ´_ゝ`)(どうしても腑に落ちん……何だ? 何かを見落としているのか?
それは俺達にとって不利なものなのか? それとも逆に……)
最初に見た違和感も気になる。
空間を割って出現した獣、そして『龍砲』が発射された後の獣。
同じ存在でありながら、何か重要な部分が異なるように思えたのだ。
( ´_ゝ`)(微妙な予感がするな……ハインちゃん達には悪いが、俺は観察を続け――)
その時だ。
ギコ達の猛攻を受けていた獣が、一つの動作を行なう。
(;,,゚Д゚)「……ッ!? 咆哮か!?」
- 181: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:21:02.77 ID:Z2i46qCp0
- 空気を深く吸い込む動きは、後の破裂の大きさを示唆していた。
先ほどのような衝撃が発せられるとするならまずい。
今度こそ、兵達の闘争心を折られるかもしれないからだ。
(;,,゚Д゚)「ちィ……!」
止めなければ。
しかし、そう易々と止められるか。
現状、動きを中断させるほどの攻撃をぶつけるしか手段はないだろう。
そう考えたのはギコだけではないらしく、ハインも険しい表情で獣を見ていた。
从;゚∀从「でも、やるしかありまs――」
( ´_ゝ`)「待て、諸君! お前らは防御を優先しろ! 手は打ってある!!」
(;*゚ー゚)「え……」
『えぇー……』
『うわー、頼りねぇ……』
- 183: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:22:34.02 ID:Z2i46qCp0
- 兄者の鋭い声に、空を飛ぶ数名と数機が動きを止めた。
その間にも獣は空気を吸い終わり、今にも発せられようとしている。
今から行っても間に合わないと判断したギコは、グラニードを盾とするように構えながら
(;,,゚Д゚)「これで失敗でもしたら本当に叩き斬るぞ……!!」
( ´_ゝ`)「失敗……? 失敗と言ったか?」
咆哮が来る。
大地を抉る衝撃が、今にも生まれようとしている。
そんな光景を高い位置から見下しながら、兄者は笑みを浮かべた。
( ´_ゝ`)「言い返そう! この俺に失敗などあり得ない!
何故なら――」
高らかに上げた腕は、すぐさま地上を指差し、
(#´_ゝ`)「――流石な俺の成功は、流石な弟が叶えてくれるのだからな!!」
言った直後、戦場の空気が破裂する。
- 192: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:24:10.79 ID:Z2i46qCp0
- (´<_`;)「まったく、全面的に弟に頼り切る兄がどこにいるというのだ……」
兄者が示した直下。
大地に立つ弟者は、黄金の盾を構えていた。
視線の先には二つの白い大樹――獣の前足があり、見上げれば統括する巨大な身体がある。
軽い地震のような震動は、その足を通じて発せられていた。
敵が集まってきたところを咆哮で蹴散らすつもりらしい。
(´<_` )「兄者の言っていた通りだな。
だが、そんなことはさせない……そのために俺がここにいるのだから」
弟者は最前線に立っていた。
抗いの心を取り戻した兵達を背後に置き、彼一人が突出している。
まるで後ろの兵達を護ろうとしているかのようなポジションで、実際にそのつもりだった。
(´<_` )「託された役目をここに果たそう……!」
息を吸い、
(´<_`#)「――OVER ZENITH!!」
- 199: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:25:51.43 ID:Z2i46qCp0
- 反応するように、黄金の盾が光を発した。
今まで見せてきた中で最も強い輝きを見せた盾は、弟者の『護る』という意志を具現化する。
加えて兄者から託された使命感も重なり、一つの大きな力を示した。
(´<_`#)「12th−W『ジゴミル』! 奴に俺達の最大の護りを見せつけてやるぞ!!」
返答として、多量の鈴を鳴らすような音が響く。
それは弟者の周囲を起点に地面を伝って広がっていった。
正面、ケーニッヒ・フェンリルが吼える。
大気の爆発が生まれた。
獣の口から発せられた暴力的な振動は、球状の圧を見せながら迸っていく。
触れたモノ全てを弾き、砕く不可視の衝撃が、近付く存在全てを破壊しようと――
しかしその直前、別の大音が侵攻を遮った。
- 205: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:27:35.89 ID:Z2i46qCp0
- (´<_`#)「う――」
それは、地面から突如として出現した黄金の巨大壁で、
(´<_`#)「―お――」
ケーニッヒ・フェンリルの発した衝撃とぶつかり、
(´<_`#)「――ぉぉぉ――」
撓み、軋み、今にも壊れそうで、
(´<_`#)「――――ぉぉぉぉぉぉ――」
しかし、
(´<_`#)「―――――――――ぉぉぉああああああああああッ!!」
弟者の気迫が、ジゴミルと通して力となった次の瞬間、
《――――ッ!!?》
大きく弾け飛ぶこととなる。
- 209: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:28:37.90 ID:Z2i46qCp0
- 巨大な壁だ。
一年半前、対ハインリッヒ戦で見せた壁を遥かに凌ぐ大きさである。
ケーニッヒ・フェンリルを包囲するように出現したその黄金の壁が、咆哮の圧を一身に受け止めたのだ。
背後にいる味方軍勢を衝撃から護るために。
そして、最も信頼する兄の信頼に応えるために。
耐久の音が連鎖する。
更に根本部に亀裂が入り、ぎし、という軋みの悲鳴を挙げている。
しかしそれでも折れることなく、黄金壁は尚も衝撃を防ぎ続けた。
黄金の守護と、巨獣の咆哮がせめぎ合う。
行き場を失った衝撃が強風となって四方へ逃げ始め、
魔力が激しく作用した結果、火花に似た光の粒子が周囲に撒き散らされる。
更に轟音が重なり、さながら大型ハリケーンが目の前にいるような光景が展開していた。
- 219: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:30:21.62 ID:Z2i46qCp0
- 優勢なのは咆哮だった。
あんな巨体から放たれたモノを、人一人が何とか出来るわけがない。
事実、軋みの音は更に大きく、そして増えている。
(´<_`#)「あぁぁぁぁあああああ……!!」
気合の声虚しく、壁が、弟者が押されていく。
応じるように、限界を超えた防御性能が、更に限界を超えていく。
しかし、それを上回る破壊力が正面からぶつかっていた。
このままでは咆哮が終わる前に弟者の身が吹き飛んでしまう。
(´<_`#)「耐、えろ……ジゴミル……!」
強風と轟音の中、衝撃を一手に引き受ける弟者は歯を噛み
(´<_`#)「確かに、俺達の力は、あの馬鹿デカい獣には……及ばないだろう!
だが、だがしかし――!!」
今にも吹き飛びそうな身体を押さえつけ、
(´<_`#)「――俺達の『護りたい』という意思だけは、絶対に負けていないはずだぁぁぁあッ!!」
音と光が、一瞬で消滅した。
- 236: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:37:11.78 ID:Z2i46qCp0
- 全ての音と光が消えた後、耐久の限界を超えた黄金壁が崩れていく。
「なっ……」
「まさか、たった一人で本当に防ぐなんて……」
崩壊の音を前に、弟者に護られた面々が震えた息を吐いた。
多少のダメージがあるかと思っていたのだが、よもや全てを防ぎ切るとは、と。
(´<_`;)「ぐっ……!?」
そして舞い上がった砂煙の中、弟者は膝を折って地面に倒れ込む。
まるで身体中の全ての力が吸い取られたような感覚だ。
もう指一本動かせるほどの体力も残っていない。
(´<_`;)「……っ……何とか、なったか……」
荒い息を吐きながら、弟者は安堵した。
皆を護れた、という達成感もあったが、
それよりも何よりも、兄者の期待に応えられたのが嬉しかった。
傍らに落ちるは金の指輪。
弟者は、疲れ切った目でその輝きを見ながら、
(´<_` )「ありがとう、ジゴミル。 お前のおかげだ」
と、本心からの感謝の言葉を放った。
- 250: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:41:03.23 ID:Z2i46qCp0
- 少しの沈黙が訪れる。
《――――――》
己の攻撃を阻止された驚きからか、巨大な獣は倒れた弟者を見ている。
しかし。
「……? お、おい! ありゃ何だ……!?」
ケーニッヒ・フェンリルの身体に異変が起きたのを、誰かが発見した。
白色の毛がざわめいたと思えば、大きく膨らみ、波打ったのだ。
それらは骨と肉を擦るような音を出しつつ、ケーニッヒ・フェンリルから独立して蠢いている。
一つの肉片として浮き上がったそれは、重力に従って地面へと落下した。
不気味な光景の正体は、次の瞬間に判明する。
「!?」
地面に落ちた肉片の一部が、自律して動き始める。
もがき、苦しむようにのたうつのも束の間、四肢のようなモノを形成しながら立ち上がったのだ。
生物的変形とも言える変化を遂げた結果の姿とは、
川 ゚ -゚)「獣、か……!」
異獣だ。
生まれてきたのは、これまで何度もぶつかってきた、あの白い狼そのものだった。
- 256: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:43:27.45 ID:Z2i46qCp0
- 開戦当初から散々戦った相手が再度、混合軍の前に立ち塞がる。
それだけならまだしも面倒なことに、サイズが以前に比べて数倍に膨れ上がっていた。
(#゚∀゚)「まだ手が残ってンのかよ……うっぜぇな!」
「って、まずいぞ! 弟者さんが――!!」
呆気にとられかけた一人の兵が気付いた。
自分達を護るため、最前線に出ていた弟者が真っ先に狙われてしまうことに。
(´<_`;)「ハァ……はぁ……っ」
弟者は倒れたまま動くことなく、ただ喘いでいた。
限界突破の反動が、彼の身体を蝕んでいるのだ。
近付いてくる異獣から逃れる体力すら残っていないらしい。
そんな事情など知る由もない数体の大型獣は、動けない弟者の身体を引き裂こうと跳躍の姿勢を作り、
《!?》
しかし、眼前に降り立った一つの影に動きを止められた。
( ゚д゚ )「……ここから先へは一歩も通さない」
騎士王ミルナ。
堅牢を体現する一人の英雄が、立ちはだかる。
- 266: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:45:29.76 ID:Z2i46qCp0
- (´<_`;)「ミ、ミルナ……?」
( ゚д゚ )「弟者。 貴方の全身全霊を賭けた守護、見事だった」
いきなり現れた敵に、異獣は牙を剥いて襲い掛かった。
対するミルナは腰を深く落とし、拳を構えて
(#゚д゚ )「その誇るべき黄金の盾……ならば俺は、それを守る盾となろう!!」
殴打した。
飛び掛ってきた獣の顎を叩き上げ、その懐へ潜り込む。
そのまま身体をかち上げるように伸ばしながら、身を異獣の脇腹へぶつけた。
《――ギュォォ!?》
次の瞬間、ミルナの三倍はあろうかという巨体が吹き飛ぶ。
体内を循環するエネルギーを一点にまとめての攻撃――頸という技術だ。
( ゚д゚ )「だから安心してゆっくり休んでくれ。
もしかしたら次の咆哮が来るかもしれない、その時のために。
その間、皆を護る盾は俺が護り抜いてみせよう」
- 272: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:47:23.99 ID:Z2i46qCp0
- ミルナの強い視線の先、また新しい異獣が生まれようとしていた。
数は一つではなく、複数。
しかも、その全てが以前に比べて巨大化している。
まるで親を護ろうとするように、ケーニッヒ・フェンリルの子といえる存在が次々に誕生していた。
( ゚д゚ )「振り出しに戻っているような光景……。
だが別格の異獣や結界を破壊し、敵の親玉の目前まで迫っている分、有利なはず。
怯む理由はないな」
「……そういうことだ。
決して恐れることはない。 私達は、確かにここまで走ってきたのだから。
流してきた血や汗は紛れもなく本物だ」
弟者を護るために構えるミルナを、背後から追い越す影が複数あった。
- 275: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:49:08.56 ID:Z2i46qCp0
- ( ゚∀゚)「ようやくクソ憎たらしい獣を殴れるぜ。 ここからハイパーフルボッコタイムだな」
9th−W『ユストーン』と5th−W『ミストラン』を両手に持つジョルジュ。
('、`*川「んでも、その前にこの雑魚の群を何とかしないとねぇ」
リラックスしながらも、強い覇気を纏うペニサス。
ノハ#゚ ゚)「問題ない……全て蹴散らし切り刻むだけ。
ただ大きくなっただけで、私達を止めることなど出来はしない」
空っぽの黒い巨剣を肩に担ぐヒート。
<ヽ`∀´>「……遂に来たニダ、異獣」
大きなライフル状の魔法武器を抱えるニダー。
*(‘‘)*「この場に至るまでに死んでいった人達の意志も加えて、存分に殺し尽くしましょう。
せめて、そのくらいはしないと腹の虫が収まりませんです」
返り血を浴びたファンシーなステッキを振り回すヘリカル。
( ^ω^)「おっおっ、みんな揃ってると心強いお」
嬉しそうな笑みを浮かべ、準備運動するように肩を回すブーン。
川 ゚ -゚)「これだけのメンバーが集まっているのだ……負ける気がせんな」
そして14th−W『ハンレ』を手に、皆を統括するように真ん中に立つクー。
- 283: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:51:29.30 ID:Z2i46qCp0
- 横一列に並ぶ七人の後姿はどこまでも力強かった。
上からの重圧に対し、がむしゃらに抵抗出来る強さを持ち合わせているようだ。
そして更に、クー達を希望とする軍が追うように来る。
「流石ラスボス、でっけぇな……」
「だが、その取り巻きまでデカいのはやり過ぎだろ」
「ビビることはないぞ。
つまりは、ちょっと大きなライオンやトラが行く手を阻んでるってだけのことだ」
「アレを『ちょっと』って言い表せる隊長すげぇ……どう見ても象くらいありますよ」
「大きさなんてどうでもいいんだよ。
その分、こっちは数で囲んでボコボコにすりゃいい」
「……どっちが悪者か解らないわね」
「戦いは常に数、つまり物量で決まると言っても過言じゃない。
しかし奴らは数を捨てて質を選びやがった。 存分に後悔させてやろう」
もはやどの世界所属の人間か解らなくなった、人の群れだ。
誰もが強い表情を浮かべ、震えることなく武器を持っている。
- 295: ◆BYUt189CYA :2008/06/05(木) 22:56:18.13 ID:Z2i46qCp0
- 川 ゚ -゚)「遂にここまで来たぞ、皆」
そして、
川 ゚ -゚)「クルト博士、リトガー、渡辺、ロマネスク……。
その他、戦いの中に散っていった者達の意志は、全て心の中にある」
(#^ω^)「最後の戦いだお……!!」
『何も残すことなく、何も後悔することなく。
全ては遠き時の果てに……私はきっと、答えを見出す』
皆の士気は頂点まで達した。
あとは、目の前にいる獣の群、そしてケーニッヒ・フェンリルを打倒するだけだ。
川 ゚ -゚)「行くぞ――」
息を吸い、
川#゚ -゚)「総員、迷うことなく突撃しろ……!!」
声を皮切りとして、人と獣の最後の激戦が始まった。
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