( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

  
44 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:39:24.16 ID:5yr5SZ550
  
さて、とモララーは話を切り替える。
片手を軽く上げ、その指を二本立てた。

( ・∀・)「第一の情報は結論が出た……続いて二つ目の情報の検証といこうか」

(´<_` )「二つ目は検証の必要はない。
      彼女の名前なのだから」

( ・∀・)「興味深い。 聞かせてもらおうか」

( ´_ゝ`)「彼女の名は『渡辺』。
      手に入れた資料に記されていたのだが、本当かどうかは解らない」

( ・∀・)「まぁ、無いよりもマシだよ。
      名があるだけで存在感に差が出るからね……では、第三の情報は?」

弟者が最後の指を折る。
そして告げられた言葉は、モララーの好奇心を動かすに充分な威力を持ち合わせていた。

(´<_` )「その渡辺がな……最近、都市ニューソクに姿を現してるんだ」

( ・∀・)「――ほぅ?」

( ´_ゝ`)「情報は曖昧なものばかりだが、どれも目撃場所が都市ニューソクだ。
       偶然にしては出来過ぎで、作為にしては稚拙過ぎる」

( ・∀・)「裏を返せば真実となる、か……」

ふむ、と顎に手をやる。
そのまま数秒間、思考した。



  
46 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:41:02.79 ID:5yr5SZ550
  
( ・∀・)「この周辺は私の庭のようなものだ……無論、隣の都市ニューソクもね。
      どれ、渡辺の行方は私の方で調べようか」

(´<_` )「アンタならそう言ってくれるだろうと思っていたよ」

弟者はバッグから一つのディスクを取り出した。
それをモララーに差し出しながら

(´<_` )「俺の調べたデータが全てこれに入っている。
      組織力という点ではアンタの方が圧倒的だ……是非とも役立ててくれ」

( ´_ゝ`)「だから俺は? 俺は何もしてないの?」

( ・∀・)「ありがたく受け取っておこう」

ディスクを受け取る。
それを懐に収めながら

( ・∀・)「さて……君達の報告は終わったわけだが、次は私の考えを少し聞いてくれるかな?」

(´<_` )「ん? 構わないが」



  
47 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:42:31.30 ID:5yr5SZ550
  
( ・∀・)「私は、前回の戦いで一つの違和感を持っていた」

( ´_ゝ`)「違和感?」

( ・∀・)「クー君は失敗作――失礼、失敗策だったね。
      ジョルジュ君は優秀作。
      そして、ハインリッヒ君は完成品と呼ばれていた」

(´<_` )「間違いないな」

( ・∀・)「私はその三つの名称を聞いたときに、おかしいと思ったのだよ。
      失敗『サク』、優秀『サク』、完成『ヒン』。
      おかしいと思わないかね?
      何故にハインリッヒ君だけが『品』なのか、と。
      統一された並びでいくならば、完成作で良いはずだ」

作ったモノに『作』を付けるのなら頷ける話だ。
『策』に関しては、クルト博士の考えた当て字なので問題は無い。

(´<_` )「だが……品、とは?」

( ・∀・)「何かに使用する形のあるもの、そして商品。
      品には様々な意味と用途が存在するが、実質はこれだろう」

( ´_ゝ`)「商品? 売るつもりだったのか?」

( ・∀・)「解らない。
      だが確実に言えるのは、クルト博士はハインリッヒを何かに使おうとしていた。
      それも己の元から手放す形で、ね」



  
50 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:44:50.21 ID:5yr5SZ550
  
(´<_` )「彼はルイルを『向こう側』から仕入れた、と言っていた。
      ということは、やはり『向こう側』へ……?」

( ・∀・)「そうだとしても、納得出来ない部分が多い。
      まず、何故わざわざ『品』を付けて区別したのか」

人差し指を立てた。

( ・∀・)「解っている通り、クー君の失敗策という名称は
     『作』と『策』の読みが同じことによるカモフラージュだった。
      つまり彼は、事実を隠すことを必要とする判断力と知力を持っているわけだ。
      しかし何故か完成品に関しては、堂々と包み隠さずに名称として残している」

続いて中指を立てた。

( ・∀・)「そして、あれだけ『最強生物』に拘っていた彼が、そう簡単に完成したモノを手放すのか。
      資料を見るに、彼の研究に対する情熱と執着は常人のそれを超えている。
      何せ『人』を作ったのだからね、彼という『人』が」



  
52 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:46:19.18 ID:5yr5SZ550
  
( ´_ゝ`)「むぅ……」

(´<_` )「成程な……まだ彼には謎が多い。
      それも資料では知り得ない内情部分、か」

( ・∀・)「まぁ、これは調べる内に解っていくことを祈るしかないね。
      それよりも警戒すべきは渡辺の方だが……。
      これは私に任せて、君達は形無きモノの追求を頼むよ」

(´<_` )「あぁ、解った。
      すまないな、アンタももう歳だろうに……確か三十だったか?
      とてもそうは見えないが」

それを聞いたモララーは、自虐的に笑う。

( ・∀・)「私に歳など関係ないよ……事実、私は自分の歳を覚えない」

( ´_ゝ`)「どゆこと?」

( ・∀・)「私の両親は、いわゆるスパルタというやつでね。
      それは物心が芽生える以前に始められた」

(´<_` )「…………」

( ・∀・)「誕生日など祝ってもらった記憶は無いし
      そもそも誕生日に祝う習慣があるのを知ったのは、つい最近だ。
      故に私は歳など興味が無いのだよ……負け犬の遠吠えかもしれないがね」



  
53 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:48:04.87 ID:5yr5SZ550
  
(´<_` )「その両親は……」

( ・∀・)「さぁ? 今何処で何をしているのやら。
      高校卒業後に逃げる形で独立して、この会社を作ったからね」

( ´_ゝ`)「ふーん、アンタにも色々あるんだなぁ」

( ・∀・)「孤児院にいた君もなかなかだと思うが、どうかね?」

(;´_ゝ`)「な、何故にそれを」

( ・∀・)「いや、軽くクルト博士の経歴を調べただけだよ。
      君が博士に執着する理由が解らなかったが、やっと理解出来た。
      君は確かに博士に感謝しなければなるまいよ」

足を組み直す。

( ・∀・)「さて、世間話はここまでにして……早速行動に移ろう」

モララーは懐から、弟者にもらったディスクを取り出す。
その輝きを見つめながら

( ・∀・)「……未だ終わっていないかもしれないのだね、私達の戦いは」

(´<_` )「渡辺本人の話を聞かない限りは解らんがな。
      だが下手したら、これからが本当の――なのかもしれん」

( ´_ゝ`)「俺達の戦いはこれからだ!」

直後、社長室から打撃音が響いた。



  
55 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:49:28.09 ID:5yr5SZ550
  
流石兄弟が帰ってから丁度三十秒後。
社長室の扉が静かに開いた。

爪゚ -゚)「御主人様」

( ・∀・)「ジェイル君かね。 悪いがコーヒーはもう要らないよ」

爪゚ -゚)「えぇ、解ってましたから最初から淹れておりません」

( ・∀・)「はは、私は有能な部下を持って幸せだ」

深く社長用の椅子に腰掛けた彼は、笑みを以って笑い声を発した。
その様子を見て、ジェイルは微かに首を傾げる。

爪゚ -゚)「御主人様? 何かあったのですか?」

( ・∀・)「この一年と半年近く……随分と退屈だったよ」



  
57 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:50:35.71 ID:5yr5SZ550
  
立ち上がる。
彼は笑みを顔に残したまま、両腕を軽く広げた。

( ・∀・)「だがやっと、私はこの退屈という束縛から逃れることが出来そうだ。
     これは君にとっても喜ばしいことだと……そう、判断したまえ」

爪゚ -゚)「……解りました」

( ・∀・)「さて、早速動こうかね。
     ジェイル君は今から言うモノを揃えてほしい。
     私は下に降りて、君には劣るが充分に有能な部下達と話をしてくるよ」

爪゚ -゚)「了解です」

ジェイルの即答を耳に入れた彼は、更に笑みを深くする。
そして誰にも聞こえぬ声で呟いた。

( ・∀・)「さぁ――久しぶりの大仕事だ」



  
58 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:51:38.16 ID:5yr5SZ550
  
狭く、暗い部屋がある。
しかし完全な闇ではない。
小さな明かりが室内を照らし、しかし暗いという印象を持たせる。

大小様々なディスプレイ。

部屋内に設置された数々のそれが光を発していた。
そして光に照らされる人影が一つ。

女性。

白衣を着た彼女は、椅子に座ってディスプレイを睨んでいた。

「…………」

無言。
彼女の姿が見えなければ、おそらくは無人の部屋だと判断されるだろう。
それほど彼女の気配は透明に近かった。

扉が開く。

突如として光を入れられた部屋。
まるで驚いたかのように、全てのディスプレイから明かりが消えた。



  
60 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:52:54.83 ID:5yr5SZ550
  
川 -川「マスター」

長身の女性だ。
漆黒の黒髪を前まで垂らし、その表情は伺うことが出来ない。
まるで人形のような挙動で彼女は声を発した。

从'ー'从「何?」

川 -川「御食事の時間です」

从'ー'从「あぁ、もうそんな時間なの……解ったよ」

か細い音を立て、椅子から立ち上がる。
揺れる白衣とセミロングの茶髪が美しい、マスターと呼ばれた女性は
そのまま黒髪の女性と共に部屋を出た。

廊下は暗い。
木造の床に、割れた窓。
そこは廃屋敷ともいえる建物だ。

ここは元々、森の中にあってか誰にも使われていない場所であった。
少なくとも放棄されて数十年は経っているらしいが、詳細は不明。
この女性二人は、少し前からここを勝手に使用していた。



  
62 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:53:48.71 ID:5yr5SZ550
  
从'ー'从「今日の御飯は何かな?」

川 -川「オムレツです」

从'ー'从「うんうん、私の好物が解ってるなー」

辿り着いた先にあるのは、両開きの扉だ。
開くと共に年季を感じさせる音が響く。

内部はそこそこに広い空間だ。
ただし光源は少ない。
計六本立っている蝋燭のみが、室内を照らしていた。

カチャカチャ、とナイフとフォークを動かす音が響き始める。
その中で

从'ー'从「あ、そういえば……圧縮率の方はどうなってるの、貞子?」

貞子と呼ばれた黒髪の女性は

川 -川「一ヶ月ほど前から99.9%から動いておりません」

从'ー'从「うんうん、順調だね」

川 -川「この調子でいけば、おそらくは数日中に100%へ達するかと」

从'ー'从「OK、計画はもうすぐ実行に移せるね」



  
65 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:54:48.66 ID:5yr5SZ550
  
川 -川「……よろしいのですか。
     私は所詮人形なので多くは語れませんが、マスターである貴女が――」

从'ー'从「いいのいいの。 これは私が決めたことだから」

川 -川「解りました……貴女が決めたことならば、私は従います。
     しかし突然に計画を実行すれば、彼らは驚くでしょうね」

从'ー'从「うん、楽しみだなぁ……十年振りかぁ」

食事が終わる。
食器を下げる前に、貞子が懐から何かを取り出した。

川 -川「食後の薬です」

从'ー'从「うぇ……毎度のことだけど、コレ苦いから飲みたくないなぁ」

川 -川「全てが終わるまで、でしょう?」

从'ー'从「はいはい、解ってるよ……」



  
67 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:55:48.30 ID:5yr5SZ550
  
――二日後。

雨。
小さな水の粒が、地表にあるモノ全てを穿たんという勢いで落ちる。
しかしそれは目的地に辿り着いた途端、砕け消える。

そんな小さな粒に打たれながら歩く影があった。

从'ー'从「雨々降れ降れ〜♪」

川 -川「…………」

のん気に歌を発する渡辺と長身黒髪の女性。
都市ニューソクの郊外を、傘を差しつつひたすらに歩き続ける。

川 -川「マスター」

从'ー'从「解ってる」

二人は解っていた。
背後から何者かが自分達を追跡しているということが。
昨夜頃からだろうか。
気配の消し方はなかなかに上手いが、雨ということで多少の油断をしているようだ。

しかし気付いたことを悟らせてはいけない。
二人は何事も無い素振りで歩き続ける。



  
69 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:57:03.80 ID:5yr5SZ550
  
ふと、黒髪の女が渡辺にしか聞こえない声で呟いた。

川 -川「マスター、何者かは解りませんが随分と警戒されているようです。
     しばらくの間、潜行するか……場所を変えた方がよろしいのでは?」

从'ー'从「解ってないなぁ、貞子は。
      都市ニューソクじゃないと駄目な理由、忘れた?」

川 -川「つまり何か考えがあるのですね?」

从'ー'从「んー、あると言えばあるけど、無いと言えば無いかな」

のん気な返答。
しかし貞子と呼ばれた長身の女性にとっては慣れっこだ。
そして更には理解をしていた。

彼女の本性はこんなものではない、と。



  
70 : ◆BYUt189CYA :2007/02/28(水) 20:58:08.64 ID:5yr5SZ550
  
从'ー'从「尾行は確かに不愉快だけど、皆が知るには良い宣伝になるよ。
      始末するのはその後でも良いし、別にこのまま生かしても問題ない。
      私達の計画はそんな些細な事で揺るがない……OK?」

川 -川「――イェス、マスター」

从'ー'从「とりあえず、現状維持のまま計画を推し進めよう。
      世界が引っくり返れば、もうこっちのものだからね」

歩き続ける。
傘が雨粒を弾き、靴が地に溜まった水を粉砕する。
単調な繰り返し。

ただただ、二人は歩き続けた。



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