( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

41: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:37:19.06 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「……自動攻撃に自動防御か」

血唾を吐き、呟く。

厄介な代物だが、所詮はそれだけだ。
対応の仕方と優先順位を間違えなければ、問題など無くなる。

( ФωФ)(まずは慣らす必要があるな……!)

目を僅かに細め、その焦点をブーンではなくクレティウスに合わせる。
自在に飛ぶグローブの動きに、目と感覚を慣らすためだ。

結果、攻撃と攻撃との合間が開く。

それを好機と見たブーンが、一気に間合いを詰め始めた。



42: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:38:48.83 ID:7i2QT9Uk0
都市内に駆ける音が響く。
その数は二つ。
ハ、と短い息を断続的に吐きつつ、二つの人影は建物の狭間を走っていた。

(;´・ω・`)「くっ……」

(;'A`)「ショボン!」

青い顔をしたショボンが膝をつく。
先行していたドクオは、慌てて彼の下へと駆け寄った。

(;'A`)「くそっ、血がまた……」

ショボンは負傷していた。
右肩が抉られるように欠け、そこから多量の血が流れ出ている。
ドクオが着ていた服を破って包帯代わりにしたものの、やはりこのような処置では追いつかないらしい。

(;´・ω・`)「ごめんね、ドクオ」

(;'A`)「ちくしょう……!」

布が足りない。
ドクオは着ていたボロボロの服を脱ぎ、ショボンの服をも破って肩に押し当てた。
止血をしているはずなのだが、血は一向に止まる気配を見せない。



44: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:41:12.73 ID:7i2QT9Uk0
(;'A`)「何なんだよ、アイツは……あの力は!」

(;´・ω・`)「あれが魔力の力なんだね……目の当たりにすると迫力の違いがよく解る」

先ほどまで二人は隠れていた。
突如として襲ってきた何者かから、ビルの建物の壁を盾にして。

しかし敵の撃った弾丸はそんな壁を容易に貫いた。
結果、向こう側にいたショボンの肩も同時に穿たれることとなったのだ。
そして逃げ始め、今に至る。

魔力の効果にも驚愕したが、二人が一番驚いたのは敵の狙撃の正確さだった。

物陰に隠れた自分達を狙えるほどの技量を持っているのだ。
素人に近い二人が太刀打ち出来るわけもない。

遠距離攻撃が可能なウェポンを所持してはいるが、現状では意味を持たぬモノだった。



47: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:42:21.84 ID:7i2QT9Uk0
再度、逃げ始めた二人を見つめる目があった。
それはあるビルの屋上に存在している。

<ヽ`∀´>「…………」

ニダーだ。
白色の巨銃を構え、そのスコープを覗く目は鋭い。

見下すかのように、逃げるドクオとショボンを見つめていた。
背後のエリアで鳴り響く銃声や悲鳴など、まるで聞こえていないかのように動きを見せない。

殺すことは簡単だった。
いつものように、狙いを定めてトリガーを引けば良い。

ただ、ニダーはすぐにそれをしなかった。
一度だけ撃ち、その後はただ逃げ惑う二人を見つめるのみ。
それは品定めでもしているかのような雰囲気だった。

幸薄そうな少年が、人の良さそうな少年の腕を肩に乗せて走る。
時々足を止めて不安そうに周囲を見渡し、そしてまた走る。

そんな様子を延々と見つめ続ける。
それが趣味なのか戦術なのか解らないが、彼は真剣にその様子を観察し続けた。



48: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:43:31.37 ID:7i2QT9Uk0
<ヽ`∀´>「…………」

しばらくした後、ようやくニダーは銃器を本格的に構える。
どうやら二人が狙い易い場所まで出てきてくれたらしい。

元から細い双眸を更に細め、引き金に指を引っ掛け――

その時だ。

突如、何かに気付いたかのようにニダーが顔を上げる。
忙しなく周囲に視線を巡らせ

<ヽ`∀´>「これは……」

そして異変を悟った。
しかし気付くのが遅かった。
ニダーは諦めたかのように肩を落とす。

『本当の敵』が現われたのは、直後だった。



51: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:45:02.06 ID:7i2QT9Uk0
地下施設の中枢。
そこにあるのは、白と黒の世界。

白が舞い、黒が跳ね、白が弾け、黒が砕き、白が飛び、黒が這い――

それだけだ。
他の色など要らない。
灰色を示す壁や天井は、白と黒の光が織り成す光影によって染められる。

そこは、ただ白と黒がぶつかり、己の意思を貫くために吠える空間だ。

( ФωФ)「超えられると思えるのか、この俺を!」

(#^ω^)「超えられないと思うのかお、お前は!」

もう何度目だろうか。
数え切れぬほどの回数と速度でぶつかり合う。

力は拮抗していた。
技術と経験で戦うロマネスクに対し、ブーンは意地と勢いで戦う。
そこにクレティウスのカバーが入れば、二人は互角の域で激突することになる。

均衡している。
が、しかし危うい状態だ。
どちらかが身体精神問わずに崩れてしまえば、おそらく雪崩のように勝負が決まるだろう。

それが両者共に解っている。

本気で――意識的な前傾姿勢でぶつかれば、しかし崩れ果てるリスクがあるということを。



53: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:46:22.40 ID:7i2QT9Uk0
本気とはそういうものだ。
自分の全てを前面に出すということは、もはや後が無いことに繋がる。

だからこそ――

勝ちたいと思える。


(#^ω^)(いや)


勝とうと思う。


(#^ω^)(違うお)


勝つと、己に誓える。


技術は必要だろう。
経験も必要だろう。
しかし、それ以上に本気の勝負で必須なのは

(#^ω^)(――『倒れない』という堅牢な意思!)



56: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:47:49.98 ID:7i2QT9Uk0
言うなれば『気合』。
しかし、精神的な不確定要素だ。

確かに心だけでは勝てないだろう。
ただ、心が無ければ勝つことなど出来ない。
心という芯があるからこそ、最後まで立っていられるのだ。

本気の勝負では、それが大きいか小さいかが勝敗を決める。

たったそれだけの話。

それだけで、それだからこそ――

(#^ω^)「ッ!!」

黒の拳が額を掠る。
痛みと同時、切られた皮膚を補完するかのように血液があふれ出てきた。

まずい、と思うが間に合わない。
視界が赤に染まる。
血が目の中に入ったのだ。

(;^ω^)「くぅ……!」

拭う。
が、それは隙となる。



61: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:49:36.14 ID:7i2QT9Uk0
空いた右脇に、すかさずロマネスクの膝蹴りが潜り込んできた。

( ФωФ)「おらよ!」

(; ゚ω゚)「げぁ!?」

臓物が悲鳴を上げる。
内部のものを吐き出そうと脈動し、しかしブーンは根性で耐える。
そして今の被弾の理由を思考した。

(;^ω^)(慣れてきてるんだお……)

クレティウスが反対側に浮遊しているのを見ていたのだろう。
いくら彼が自動防御をこなすといえど、その位置へ瞬間移動しているわけではない。
ロマネスクは、それを幾度と重なった攻防で知ったのだ。

おそらく、その慣れを支えているのは経験。

経験とは過去の積み重ねを意味する。

が、それだけではない。
緊急時に対する『慣れ』の早さも、経験が深く関係してくる。

痛みを知らねば、痛みに対することが出来ないのと同じだ。



62: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:51:29.96 ID:7i2QT9Uk0
一連の流れを見てブーンは思う。

本気だ、と。
目の前で吠えるロマネスクは本気で戦っているのだ、と。
本気で自分を倒すために、その持ち得る技術を総動員しているのだ、と。

ならば、

(#^ω^)(僕は――)

本気、

(;^ω^)(なのかお……?)

未だ視界には薄い赤が掛かっている。
そして右目も、完全に赤色に染まりつつあった。

言わずとも不利な状況だ。

動揺は自然と動作に出る。
そこを、ロマネスクは逃さない。

少しずつ漏れ出る甘い蜜を掠め取られているかのような感覚が、ブーンの背筋を妖しく撫でる。



66: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:52:50.51 ID:7i2QT9Uk0
痛みが来る。
痺れも来る。
吐気も来る。

しかし、それでもブーンは倒れなかった。
いや、倒れるとさえ思わなかった。

それは――

( ^ω^)(本気、だから?)

果たして、自分は本気なのだろうか?

クーのように何事に対しても真っ直ぐ見つめているのか?
ギコのように愛する人を護れているのか?
しぃのように愛する人に応えられているのか?
ドクオのように人に対して『好き』だと言えているのか?
モララーのように人を動かし、状況さえも動かそうとしているのか?
ミルナのように人を護りたいと本心で願えているのか?
渡辺のように世界を渡り、世界のために戦おうとしているのか?

他様々な顔が浮かび、彼らの本気を一つ一つ確かめていく。
それらを踏まえ、心の浮かんだ一つの結論。


――僕は、本気を出しては、いなかったのだろう。



70: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:54:10.29 ID:7i2QT9Uk0
特に今起こっている戦いにおいて、と考えると頷けた。

一年半前には小さくとも、確かにあったはずの意思。
それがいつの間にか、何処かへ消えてしまっていた。

それでもここまで来れたのは、力があったからだ。
力が無ければ死んでいたか、或いは戦線離脱していたのだろうと思う。
そこで、ある言葉が胸に浮かんだ。

――心無き力は暴力、力無き心は無力。

ブーンが嗜んでいる少林寺拳法の心得の一つ。
心と力のどちらが欠けてもいけない、という教えだ。

久しく離れてたような懐かしさを覚え、ブーンは心の中で笑みを放つ。
そして思う。

自分はどれなのだろう、と。

しかし考えるまでもなく『暴力』だった。

力があるにも関わらず、それを適当に放っている自分がいる。
大義も正義も無く、決して自分の意思で動かしているとは言い難い。



72: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:55:46.91 ID:7i2QT9Uk0
( ^ω^)「でも――」

今は違う。
今だけは違う。
自分の意思で拳を放っている。
ロマネスクを倒す、という目的の下で。

それは、誰が何と言おうとも

(#^ω^)「僕の本気なんだお……!」

言葉を吐いた瞬間、ブーンの中で何かが音を立てて繋がった。


意思が身体を巡り、骨と骨が合致し、筋肉が一つの生き物となる。

血が沸騰するような熱さを発し、神経が鋭敏化し、心臓が勢い良く跳ねる。

それらがクレティウスに伝わり、彼が小さな笑みを見せたのを感じた。



75: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:57:29.37 ID:7i2QT9Uk0
動く。
いつも以上に、身体が動く。

( ^ω^)(いや、これは――)

懐かしい感覚だ。
これは『いつも以上』なんかではなく

( ^ω^)(かつて感じていた『いつもの』感覚……!)

『これならイケるぞ、内藤ホライゾン!』

( ФωФ)「それだけで俺に勝てると――」

『勝つさ……私と内藤ホライゾンの「二人」ならば、絶対に為してみせる……!』

それが例え

(#^ω^)「今だけ……いや、一瞬だけでもいい……!!」

願う意思は一つ。
そして、それは『二人』の総意。
ブーンとクレティウスは、その願望を叫びとして発した。

「『超えろ……! 奴の強さを――!!』」



78: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:59:00.92 ID:7i2QT9Uk0
言葉に反応するようにブーンが身を回す。

放たれたのは高速の裏拳。
クレティウスの件もあってか、ロマネスクは警戒してバックステップでの回避に移った。

(#^ω^)「ここで!」

ターゲットを打ち抜くことなく空振りした拳を放り、ブーンはもう片方の腕を突き出す。
足腰の入った直線弾だ。

しかし届く様子はない。
連撃を警戒し、彼我距離を多めにとっておいたのだ。

ロマネスクは既にバックステップを完了させ、届かぬ拳を見送り、その後にカウンターを――

( ФωФ)「――!?」

視界が激震した。
続いて右肩に衝撃が生み出され、遅れて激痛が走る。
その痛みの中心にクレティウスが突き刺さっているのが見えた。

( ФωФ)「まさ、か……!」

右拳を思い切り振り抜いたブーンを見る。
初めから『そのつもり』だったのだと思わせる格好だった。



82: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:00:42.08 ID:7i2QT9Uk0
拳の上にクレティウスを重ね、そのまま『打撃』のフリをして大振りする。
相手は警戒して距離をとるだろう。
そこから、重ねておいたクレティウスごと振り抜いて『発射』するのだ。

簡単に言えば砲丸投げの要領である。

( ФωФ)(このガキが――!!)

痛みの中でブーンの本当の狙いを理解し、ロマネスクは歯噛みした。

確かにロマネスクの戦闘経験はブーンよりも圧倒的に上だろう。
ただしそれは『対人間』による経験である。

肩の上に首と頭があり、手足は合計四本で、大地に根付いて動くのが人間だ。

しかし今のブーンは手が三つある特殊な人間だと言える。
つまりロマネスクの経験上、このような敵を相手にするのは初めてなのだ。

格闘戦において勝敗を決める要素は、『速度』『体格』『経験』。

『速度』は、ロマネスクが僅かに速い程度。
『体格』は、同じ人間なのでほとんど差異はない。
となれば、ロマネスクを優位にしていたのは『経験』であった。

そこでブーンは人間としての戦闘スタイルを変更する。
結果的にロマネスクは、『対人間』という経験を半分以上も削り取られてしまったのだ。



84: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:02:20.19 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「だが……だが、その程度で!」

うろたえるな、と心に怒鳴り込む。

相手は人間だ。
たとえ拳が三つあろうとも、ベースとして人間の範疇を超えられはしない。

動揺するな、と再び心の中で言った。
幾多の戦場で積み重ねてきた、

( ФωФ)「俺には経験がある……!」

(#^ω^)「その経験があるからこそ!」

叩き上げるかのような右蹴り上げ。
それを防御すると同時、左右の拳が二連続で打ち下ろされた。

( ФωФ)「っ!」

ロマネスクの経験が対抗する。
ほとんど無意識に身体が動き、ブーンの両拳を両腕で受け止めた。

(#^ω^)「チェックメイト、だお!」

目の前で叫ばれ、そしてようやく気付く。

必ず大地に根を張らなければならない片足を除き、攻防に使えるのは両手と片足の三種。
しかし、今のブーンには『+α』が存在している。

防御に三種を使い終わったロマネスクに対し、ブーンは最後の一撃を放つことが――



88: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:04:08.22 ID:7i2QT9Uk0
(;ФωФ)「がっ?!」

肋骨の砕ける音が、腹の中に響いた。

突如として走った鈍痛に、脳が悲鳴を挙げる。

(;ФωФ)「あ、ぁぁ……!」

見なくても理解出来た。
クレティウスの拳が、隙だらけだった脇腹に突撃をかましてきたのだ、と。

(#^ω^)「お――!」

頭では、その『+α』の存在が解っていた。
しかし『対人間』として慣れきっていた身体が解っていなかった。



93: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:05:23.87 ID:7i2QT9Uk0
(#^ω^)「おぉっ!!」

見開いた視界の先で、ブーンが更に構えるのを見る。

(;ФωФ)「く、そっ……」

動かない。

身体も、意思も、何もかもが。

動かない。

もはや駄目だと、無駄だと。

動かない。

これほどまでに、動くことを望んでいるのに――!

(#^ω^)「あああぁぁぁぁ!!」

来る。

動ける者が、動く拳で、動き始めた意思を乗せて。

初撃を頬に穿たれた瞬間、ロマネスクの意識は闇へと落ちることとなった。



97: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:06:51.25 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「……ッ」

どれほどの時間が経ったか。
五感を感じるよりも早く、まず痛みが襲い掛かってきた。

頭が割れるほどに痛い。
腹が裂けるほどに痛い。
胸が砕けるほどに痛い。

そしてようやく、自分が床に仰向けとなっていることに気付いた。

( ФωФ)「お、れは……」

負けたのか。
そして敗因を思い出し

(;ФωФ)「ば、かな……」

重ねてきた経験が仇となる。
そんな信じられない現象を信じ切れず、ロマネスクは悪態を吐く。

(;ФωФ)「こんなガキに……俺、が……」



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