( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

60: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:44:19.13 ID:8X8P7LJL0
眼下は緑で、眼上は突き抜けるような空色。
大気が高速で流れ、それは風となっている。

自然の美しさを描いた透明の幕。

そんな中で、赤と青の色が激突していた。

「――!!」

が、という音に、ひゅ、という音が続いて一つの音色となる。
空を高速で走る機械特有の音だ。

青白い光を散らしながら飛翔するのは、二機のEMA。
魔法機動兵器の名を冠する、魔法世界の技術の粋を集めた人型兵器。

青色を発する騎士を思わせる機体を『リベリオン』、
赤色を発する武者を思わせる機体を『ウルグルフ』といった。

背部に備えられたスラスターが、普通ならば自重で沈むはずの機体を無理矢理に押す。

青い方には薙刀のような槍、赤い方には二本の剣が握られていた。
それらを自在に操る姿は、まるで中の人でも入っているような光景に等しい。

動きが機械とは思えぬほどスムーズさで、だからこその戦いが繰り広げられている。



64: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:46:52.85 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ「くっ……!」

コックピット内は熱気に満ちている。
一瞬の気落ちが生死を左右する現状、瞬きの時間さえも惜しい。

『少し会わない間に、腕が落ちたか?』

メインウインドウの中で、二本の刀剣を振り回す赤いEMA。
あれだけ距離が離れていながらも、ミカヅキの声はすぐ傍から聞こえた。

ハ(リメ -゚ノリ「君が強くなっただけじゃないかな?」

『は、確かにそうだろうよ。
 貴様を殺すために――!!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「ッ!」

ぶつかってきた刀剣を、ランスの柄で受け止めると同時、身体全体に衝撃が走った。
腰と胸に装着されたベルトが皮膚を締め付ける。

魔力の火花が大量に散り、メインカメラの隅を焦がした。
続いて、ギシ、とフレームが軋む不気味な音。

『強くなろうとしたさ!
 この胸の内に渦巻く黒い何かを払拭するため、私は何でもやった!』

ハ(リメ -゚ノリ「……!」

『故に私が勝てないわけがないだろう――!!』



66: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:49:01.93 ID:8X8P7LJL0
完全な力押しだ。
軋みの音が更に大きくなり、段々と後下方へと押されているのが解る。

ミツキは耐えるように歯を噛み、そして苦笑した。

ハ(リ;メ -゚ノリ(僕は何をやってるんだろうな……)

焦燥感がある。
望んでいるはずなのに、否定したい自分がいる。

死ぬために戦場へと出たというのに。
目の前の男に殺されるため、今一度EMAに乗ったというのに。

どうして

ハ(リ;メ -゚ノリ「どうして、生きたいんだよ……!!」

反射的に左手が動いた。
コンソールを叩き、ブーストの出力を変更。
まるで本能に従うかのようにペダルを一気に踏み込んだ。

『――!?』

高出力に設定された魔力が光を噴く。
各部からバーニア光が生まれ、機体のバランスを力任せに整えていった。

そのまま、押す。

ハ(リ#メ -゚ノリ「くぅぅぅあぁぁ!!」



70: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:51:23.95 ID:8X8P7LJL0
無理な動作をしたためか、機体の関節が悲鳴を挙げ始めた。
しかし尚もペダルを踏み続ける。

培ってきた勘が、先の不安よりも今の危機からの離脱を優先したのだ。

ハ(リメ -゚ノリ(よし、これで体勢を崩して――!)

『――忘れたか』

ハ(リ;メ -゚ノリ「!?」

『我がEMAは、瞬発力を増幅するためのカスタムを為されている、と』

ハ(リ;メ -゚ノリ「しまっ――」

思い出した時には既に遅かった。
目の前にある赤いEMAの瞳が、獲物を見定めたかのように真っ赤に光る。
ミツキの背筋を圧倒的な悪寒が這った。

『接……!』

見切る暇は無い。
機体を動かす暇も無い。

それまでとは比べ物にならない速度で両腕が稼動。

クロスされた二対の剣が、ミツキのEMAに襲い掛かった。



73: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:54:15.75 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ「ぐっ……あ……!!?」

脳まで揺さぶられる激しい衝撃。
同時、ダメージを知らせるアラートが連続で響いたのを聞く。
早々に損傷チェックに入らねば、と思うが、予期していなかった震動が脳の動きを阻害した。

霞む視界の中、どうにかコンソールへと手を伸ばす。
サブウインドウに表示された機体コンディションをチェックし

ハ(リ;メ -゚ノリ「くそ……っ!」

『無様だな、ミツキ』

左腕が根元から切り落とされていた。
武器は右腕に握っていたため、まだ戦えるがバランスが非常に悪くなる。

ハ(リ;メ -゚ノリ(たった一太刀でここまでとは――!!)

しかし最悪なのは、残る一太刀が切り込まれた場所だった。

損傷部は胴体。
人間で言う、右脇腹が逆袈裟気味に裂かれている。
裂傷はかなり深く、こちらの反応が僅かでも遅れていればコックピットまで達していたのかもしれない程の一撃だった。

致命傷は避けている。
ただ、生き永らえた命も徐々に削られ始めたのをミツキは知った。

動力部と、主な接続線にも刃が達していたのだ。
今はまだフルパワーで動けるだろう。
しかし、あと数分も経てば挙動が鈍くなるのは目に見えていた。



77: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:56:16.44 ID:8X8P7LJL0
『失念していたのは情けない話だが、その反応は見事としか言いようがない』

ハ(リ;メ -゚ノリ「……君に褒められるなんてね。 嬉しいよ」

『ふン。 次は無いと思え』

再度、構えをとる赤いEMA。

ハ(リ;メ -゚ノリ(どうする……)

冷や汗か脂汗か、頬を流れる感覚にミツキは焦った。

数秒後に生きている自分が見えない。
ある程度は見えていた未来が、まったく闇に閉ざされてしまっている。

異常な緊張感。
そして包み込むような殺気。
もはや逃げられないのは解っている。

ハ(リ;メ -゚ノリ(どうする……!)


そこまで思い、ミツキはふと我に返った。

何をしているのだろう、と。
この結果は己が望んでいたはずではないか、と。



81: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:58:38.24 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ(そうだ。 僕はアイツに殺されるために――)

これでいい。
あとはミカヅキが、ありったけの恨みを以って切り刻んでくれればいい。
それで全ての怨恨は終わりを告げ、ミカヅキとレモナは未来に生きることが出来る。

確かにレモナは真実を知ってしまった。
しかし彼女はきっとそれを信じて無いだろう、とミツキは思っていた。
仇を討つべき相手から、『本当は違う』などと聞かされて信じる馬鹿はいないだろう。

そして、それでいい。
時に真実こそが要らないモノとなりえるのだから。

全て問題ない。

そう、これでいいはずなんだ。

『終わりだ――!!』

赤色が迫るのを、ミツキは自失しながら呆然と見ていた。
あれと自分の距離がゼロとなった時、死ぬ。

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

せめて痛み無く逝きたい。
そう願い、目を瞑る。


――思っていた衝撃は、いつまで経っても来ることはなかった。



84: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:00:23.99 ID:8X8P7LJL0
時は数分前に遡る。

まだ、赤と青が高速で激突していた頃。

二機のEMAが戦うのを、モナーは地上から見上げていた。
隣には、既に目を覚ましているレモナがいる。

(;´∀`)「ミツキさん……!」

二人はあの後、世界政府本部からの離脱を成功させていたのだ。
本陣に控えているフサギコへの連絡も済ませ、今は迎えを待っている状況である。

|゚ノ;^∀^)「何で……何でよ」

(;´∀`)「レモナ?」

|゚ノ;^∀^)「何であの二人が戦わなくちゃならないのよ!」

(;´∀`)「…………」

|゚ノ;^∀^)「御父様を殺したのはダイオードって奴でしょう!?
      ミツキが殺される理由なんてなくなったのに!」

その声を届かせたいが、手段がない。
通信しようにも手持ちの機器ではどうしようもなく、空へ行こうにも手段がない。
本来ならばシャキンの出番であるはずなのだが、彼は撃墜されて救助を受けている最中らしい。

レモナの悲痛な叫びは、彼らに届くことはない。



88: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:02:03.85 ID:8X8P7LJL0
|゚ノ;^∀^)「謝らなくちゃいけないのに! ミツキに謝らなくちゃ……!」

(;´∀`)「お、落ち着くモナ!」

|゚ノ#^∀^)「落ち着けるわけないじゃない!」

(#)∀`)「もげっふぁ!?」

|゚ノ;^∀^)「ああもう! どうしたらいいの!?」

(#)∀`)「何か君には殴られてばかりのような……って、モナ!?」

吹っ飛び、仰向けに寝転がっていたモナーが驚愕の声を発する。
言葉に見上げれば、赤色のEMAが青色のEMAの左腕を切り飛ばした瞬間だった。

|゚ノ;^∀^)「あ……あぁ……!」

仰け反った青いEMAは、そのまま高度を少し下げる。
その間にも左腕は落下を続け、森の中へと落ちていった。



91: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:03:40.01 ID:8X8P7LJL0
見るからに劣勢だ。
薙刀のような武器はまだ右腕に握られているものの、腕がないだけでバランスは致命的に悪くなる。
更に胴体部から火花を散らしているところを見るに、かなりのダメージを受けているようだ。

赤いEMAが距離をとり、再度構える。

ミツキの腕と意識の有無次第だが、おそらく次の攻防で勝負が決するだろう。

|゚ノ;^∀^)「何とかしなきゃ、何とか……!」

しかし、手段がない。
ここから叫ぶか見上げることしか出来ないのだ。

現実とは非情なもので、こんな時に限って救世主は現れない。

|゚ノ;^∀^)「御願い……ミツキを――!!」

願ったその時、赤いEMAが動いた。
二本の白刃を煌めかせ、背部からブースター光を散らして突撃する。
対し、青いEMAは右腕で武器を構えるので精一杯だった。

当然のように激突。

一際大きな光と音が響き――

|゚ノ;^∀^)「……え?」

(;´∀`)「なっ……」

その光景に、レモナとモナーは文字通り目を見開いた。



93: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:05:29.49 ID:8X8P7LJL0
『なっ――』

衝撃も何もないことを不思議に思い、薄く目を開けた時。
ミカヅキの震えた声が聞こえたのは直後だった。

ハ(リ;メ -゚ノリ「何が、起きた……?」

生きている。
腕も足も身体もある。
感覚も心臓の鼓動もある。

そこまで確認し、ようやくメインウインドウへと目を向けた。

ハ(リ;メ -゚ノリ「ッ!?」

映る光景にミツキは絶句する。

構えられた槍の柄の上に、黒布を羽織った男が立っているのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おーっ、意外と痛ってぇー……」

それだけではない。
EMAに比べると人形のように小さい人間は、その腕で――

『何なのだ、貴様は!?』

赤いEMAの刀剣を受け止めていた。
人の身の数倍の長さを誇り、人の身の数十倍の質量を持つ剣を受け止めているのだ。



95: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:07:18.81 ID:8X8P7LJL0
ならば、今のミカヅキの言葉も頷けるだろう。

問いは、何者か、ではない。
何なのか、である。

もはや人ではないことは明白。
いくら魔力を使ったとしても、あの突撃と斬撃は防げはしないはずなのだ。
刀剣にもまた、多量の魔力が塗りこまれているのだから。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何なのか、ねぇ。
      そりゃあちょっとひでぇんじゃね?」

『…………』

ハ(リメ -゚ノリ「…………」

二人は警戒の沈黙で答える。

メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁいいや、それよりも割り込んだ非礼を詫びようかね。
      正直すまんかった」

『貴様は何なのかと聞いている』

ミカヅキが怒気を含めた声を発した。
生真面目な彼は、そのふざけた調子が気に入らないらしい。
赤髪の男は、『怖い怖い』と肩をすくめ

メ(リ゚ ー゚ノリ「種別的に言えば異獣? って感じ?」

ハ(リ;メ -゚ノリ「!?」



98: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:08:48.21 ID:8X8P7LJL0
場に更なる緊張が走った。
赤いEMAが距離をとり、刀剣を構える。

『ミツキ、勝負は後だ。 本命がきたぞ……!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「あぁ」

EMAは人を殺すための兵器ではない。
人を殺す程度ならば、ここまで技術をつぎ込む必要はないのだ。
一の力で人を殺せるならば、EMAの力は十や二十を軽く超えている。

では何故、そのような兵器が作られたのか。

メ(リ゚ ー゚ノリ「しっかし面白いもんだねぇ。
      それが噂の、『俺達』を殺すためのエマって兵器かよ」

持ち得る技術を総動員してまで、絶対に倒さねばならない存在がいるからだ。

存在の名を『異獣』という。

既存生物の性能とは大幅に『異』なり、しかしその形状は『獣』であることから名付けられた通称。

正体は不明。
規模も不明。
目的は世界の核である『純正ルイル』の捕食と言われているが、あくまで推測なため不明だ。

しかし、これだけは確定してる。

ハ(リ;メ -゚ノリ(彼……いや、奴らは――)



100: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:10:34.28 ID:8X8P7LJL0







               第三十七話 『世界の天敵』





103: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:12:03.24 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「さぁて」

未だ薙刀のような武器の柄に乗りつつ、赤髪の男は手に腰を当てる。

そこにあるのは完全な余裕だ。
この状況下において、ありえない雰囲気である。

だからこそ、その違和にミツキは嫌な汗を止められない。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何で俺がアンタらの戦いに水を差したか、なんてのはどうでもいいんだわ。 説明も面倒だし。
      そんな俺からの注文はたった一つでね」

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

メ(リ゚ ー゚ノリ「この戦いを、今すぐ止めてくれねぇか?」

放たれた言葉は、こちらが考えていたこととは全く異なる種類の内容だった。
一瞬、その場にいる全員の動きが止まる。

『……何だと?』

メ(リ゚ ー゚ノリ「だから、お前らがやってる戦いを止めてくれって」

ハ(リ;メ -゚ノリ「それは何故だい?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「簡単さ。 俺達にとって都合が悪いからなんだぜ?」



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