( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

39: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 21:51:31.59 ID:jpces/WK0
頷いたワカッテマスに、ミリアは口だけの笑みを返す。

ル(i|゚ ー゚ノリ「これは、我らの身体が人間のモノであることの起因なわけだが、
      私達はいわば『突然変異』なのだよ」

( <●><●>)「突然、変異……」

ル(i|゚ ー゚ノリ「知っての通り、異獣とは白狼の形をとっている。
      これは今までの経験から『最も戦いに向いている』という理由でな。
      世界を渡り歩くにつれ、その世界を学習し、形を段々と変えていったのだ」

( <●><●>)「成程、経験進化ですね。
         しかし何故、それならば機能的に優勢な人間の形をとらなかったのです?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「確かに人間の身体は優れている――が、それは技術的、生活的な面での話さ。
       戦闘的な面で見れば、これほど脆弱な存在もあるまい」

手や足などの機能を見れば理解出来るが、これ以上の利便性はなかなか類を見ない。
これが人間の長所の一つである。

しかし同時に、致命的な短所を孕んでいた。



41: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 21:54:13.37 ID:jpces/WK0
元から戦闘力の低い構造をしていた人間は、知能と機能的な身体を用いて生き残っていく。

知能から技術を生み、身体を用いて武器や機械を生み出していったのだ。
それらを用いれば当然、獲物を狩るのに身体を張る必要が無くなる。

結果、人間の身体は機能を重視し、皮膚は柔らかく、節々は細長く、身体の構造は脆く進化していった。
当初はあったはずの様々な筋肉は、楽に獲物を手に入れる度に退化する。

戦わなければ生き残れない肉食獣などに比べて、全体的に肉抜きをしたようなものであると言えよう。

ル(i|゚ ー゚ノリ「我々から見れば、人間など脆弱退化の窮みなのさ。
      もちろん、対するように秀でていた知能は学習させてもらったがね」

( <●><●>)「……その人間という遺伝子記録の残滓から、貴女達が生まれた、と?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「あぁ、そういうことらしい。
      本来は白狼に生まれるべきはずなのだが、我ら――いや、私と兄上だけが人間の形を持って生まれた。
      それが何時のことなのかなど、流石に憶えていないがな」

( <●><●>)「しかし、異獣にとってみれば貴女達は異形かつ欠陥品でしょう。
        それが何故、ここにいるのです? 生きていられたのです?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「簡単な話、突然変異は身体構造上だけに留まっていなかったのだ。
       何と変異は、あるルールさえも書き換えてしまったのだよ」

( <●><●>)「……ルールとは、まさか」



44: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 21:56:36.91 ID:jpces/WK0
ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、少し話は変わる。
      数ある秩序によっては、異獣が侵入することが出来ない場合があるのは御存知だろう?
      まぁ当然だな。 我々は病原菌のようなモノなのだから。
      そういうわけでかつての我々は、侵入不可の世界に巡り合った時は諦めていたのだよ」

当たり前の話だ。
入れない扉を無理矢理こじ開けるより、開いている扉を開く方が早い。
拒絶されているのであれば、諦める他はないだろう。

ル(i|゚ ー゚ノリ「しかし、その問題は私達の誕生によって解消された」

言葉が意味する事実は一つ。

ル(i|゚ ー゚ノリ「私達姉兄は秩序のルールを受け付けない――つまり抗体を持った突然変異だったのだ」

( <●><●>)「なっ――」

ル(i|゚ ー゚ノリ「頷けない話ではあるまい?
      生物は敵性に対して抗体を生み出す能力を備えている。
      それは生物の範疇ギリギリにいる異獣とて、例外ではないのだよ」

( <●><●>)「……つまり、貴女達は単体が異獣ではなく」

ル(i|゚ ー゚ノリ「そう、我々全体が異獣そのものと言えようか。
       そして私達は、異獣の細胞の一種であり秩序抗体なのさ」



46: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 21:59:29.43 ID:jpces/WK0
秩序の効果を受けないということは、異獣の入り込めない世界が無くなることを意味する。

ル(i|゚ ー゚ノリ「まぁ、面倒なのは変わりないのだがな。
      何せ内側から秩序を破壊するため、私と兄上のみで世界内を暗躍しなければならなかった。
      無論、今回のケースも例外なく、だ」

( <●><●>)「だから我々の前に姿を現して牽制をしたり、裏から渡辺の手助けなどをしていたのですね」

ル(i|゚ ー゚ノリ「渡辺の存在は、我々にとってかなりの助けになったよ。
      世界交差という秩序を破壊する行為を自ら行ってくれるのでな。
      で、直接手を下すまでもなく自壊するのを知った私達は、その時を待つことにした」

しかし、と言い

ル(i|゚ ー゚ノリ「皮肉なことに、逆にすることが無くなり暇を持て余してしまってね。
      自壊するまでの間、少々、人間を使って実験開発などを行ってみたのだよ」

( <●><●>)「実験開発……?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「いつまでも秩序抗体を持つ個体数が限られている状況は困る。
      かと言って突然変異体が生まれてくるのを期待するには、不確定要素が絡み過ぎる。
      というわけで、秩序抗体を持つ個体を我々の手で作り上げようと思った次第でな」

開発を行うには、まずベースとなる対象の全てを知る必要がある。

皮膚を剥ぎ、内臓を観察し、骨格の作りを知り、神経の道を理解し、脳のシステムを解析する必要が。
更に言えば感情や本能、そこから生まれる性格や思考などの人間的根本部分まで。



51: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:02:19.49 ID:jpces/WK0
ル(i|゚ ー゚ノリ「元々、秩序抗体を持つ個体実験構想は以前から成されていた。
      此度の暇を好機と見て、本格的な個体開発へと移ったわけだが
      それ以前に人間構造のデータを取得するため、当時攻め込んでいた機械世界の人間を捕らえたことがある」

( <●><●>)「……それが、後の軍神というわけですか」

ル(i|゚ ー゚ノリ「今ではそう呼ばれているらしいな。
      まさか私達も、全身の皮膚を剥離されて尚、生き残るとは思わなかったが。
      あぁそうえいば、軍神だけでは解らぬ部分もあったので、別世界からもサンプルを得たことがあったよ」

別世界とは英雄世界のことであろう。
そこで、行方不明となった英雄がいた。
『蜘蛛姫』の異名を持つ、四種の武具を扱う、可憐苛烈な英雄が。

ル(i|゚ ー゚ノリ「そうしてデータを得た我々は、遂に秩序抗体を持つ個体を作るまでに至った。
      ただ、我々とて全知全能の神ではない。
      当然の話ではあるが、0から1を作り出すことは不可能だった」

無いものから有るものは作ることが出来ない。
ならば、有るものを有るものへと作り変えるしかない。

( <●><●>)「貴女達が都市ニューソクでの戦いで『あの二人』を回収したのは、そういう理由があったのですね?
        そして、その結果が――」

ワカッテマスの視線が、背後の銀髪の女へと向けられた。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

見られるのが怖いのか恥ずかしいのか、身体を震わせた女は鎌を抱き締めて俯く。



57: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:04:17.94 ID:jpces/WK0
ル(i|゚ ー゚ノリ「まぁ、これが現在に至るまでの事の顛末だよ。
      私達は新たな秩序抗体を作るために、今まで潜伏していた、とね。
      納得頂けたかな、秩序守護者殿?」

( <●><●>)「……えぇ、解らなかったことがようやく解りました」

メ(リ゚ ー゚ノリ「うーっし! なら、さっさと続きやろうぜ!」

( <●><●>)「続き? まだ私と戦うというのですか?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「あ?」

( <●><●>)「先ほど証明されたはずですが。
        いくら貴方達が無限に近い有限の魔力を持っていたとしても、
        正真正銘の無限を司る私には敵いませんよ」

先の攻防を見ても明らかだ。
二十余りの刀を、ワカッテマスは全て捌き切った。

更にはミリアの最大出力をも防ぎ、尚も余剰出力を残せる力を持っている。



61: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:05:36.60 ID:jpces/WK0
扱える力が無限であれば、扱える数もまた無限。
有限が無限を超えることが出来ないのは道理。

道理なのだが、しかし――

ル(i|゚ ー゚ノリ「ふっ……ならば一つ問おうか」

それがどうした、とばかりに笑みを浮かべる彼女に嫌な予感がしないわけがなく

ル(i|゚ ー゚ノリ「何故、それほどの力を持っている貴様が表舞台に出てこなかった?」

( <●><●>)「――!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「答えはこうだ」

右手が走る。
それが合図だったのか、左右に控えていた二人の異獣が地を蹴った。
見届けたミリアも直進を開始する。

( <●><●>)「無駄なことだと、何故解らないのですか」

両腕をクロスさせ、己の周囲にいくつもの穴を作り出す。
左右からくるキリバと銀髪の女、そして正面のミリアに対する牽制だ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「へっ、流石! だがよぉ!」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

ル(i|゚ ー゚ノリ「もう通用しないということが、何故解らないのか――!」



63: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:07:10.23 ID:jpces/WK0
三種三様の武具が襲いかかる。

右方からは赤髪の男の機械大腕が。
左方からは銀髪の女の黒い大鎌が。
正面からは青髪の女の白い刀群が。

同時というタイミングで、それぞれの方角から敵意が牙を剥く。

( <●><●>)「!!」

硝子が割れるような音が、ワカッテマスの周囲で連鎖した。
三方から来る攻撃を全て穴で防いだのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉっ、すっげー」

ル(i|゚ ー゚ノリ「だが貴様は一つ大切なことを見落としている。
      いや、上手く隠している、が正しいかな?」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

攻撃は止まなかった。
止まらないということは、繋がるということであり。
繋ぎ合わせれば連撃と、更に隙間を埋めれば乱撃となる。

( <●><●>)「これは……!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様が我々と同じく積極的に動かなかった理由。
      それは貴様がある重大な弱点、いや、無限ではない部分を抱えているからに他ならない」



65: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:08:58.23 ID:jpces/WK0
三種の音が合致する。

ル(i|゚ ー゚ノリ「いくら無限の力があろうとも、いくら無限の数を扱えようとも――」



――――貴様は一人であろう?



( <●><●>)「っ……!?」

押される。
無限を扱えるはずの男が、有限である三人に押され始めていた。
三方からの乱撃を防ぐために穴の展開を速めるが、それでもワカッテマスは徐々に後退していく。

解ってしまった。
このままでは確実に押し負ける、と。

ル(i|゚ ー゚ノリ「目は一対で、耳も一対。 脳は一つで、身体も一つ。 腕は二本で、足も二本。
      血潮が一人分なれば、神経も一人分に違わず。 更に言えば骨肉も言わずもがな。
      故に受け取れる感覚は有限であり、無限を扱うには貴様ではちと足りん」

つまり、ワカッテマスの処理が追いつかないのだ。
異獣の中でも別格に位置する存在が三人、三方向から神速の連撃を放ってくる。

常識的に考えて、それをたった一人で捌けるわけがないのだ。



69: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:11:04.09 ID:jpces/WK0
( <●><●>)「ですがその程度、百も承知なのですよ……!」

しかし、可能とするからこその秩序守護者。
この程度に押し負けるなど、司る無限の名が泣く。

メ(リ゚ ー゚ノリ「はン! だからこそテメェは表立って行動しなかったんだろ!?
      もうネタが上がってんだぜ!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「無限の力とはいえ扱う身体はただの一つ。 これが答えというやつさ」

速度が更に上がる。
左右の直接攻撃系を弾き、前方から飛翔する刀は全て穴の中へと吸収。

威力が高いことを示す火花が散り、衝撃波が周囲の塵を吹き飛ばす。

(; ̄ー ̄)「……大丈夫なんでしょうね?」

( <●><●>)「少し離れて頂けると嬉しいです」

言葉に頷いたイクヨリが、そそくさと場を離れる。
異獣が一瞥さえせずに攻撃を繰り返すことから、どうやら現在の目的はワカッテマスの無力化らしい。
確かに、戦力と言える彼を封じさえすれば邪魔者はいなくなるだろう。

( <●><●>)「望むところですがね……!」

それが、負け惜しみで出た言葉とは知らずに。



72: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:12:46.60 ID:jpces/WK0
メ(リ゚ ー゚ノリ「いいねいいねぇ!
      やっぱり力と力のぶつかり合いこそが男の戦いってもんよ!
      だよな、姉貴!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「まぁ、我々に男も女もないようなものなわけだが。
      あと五月蝿いから黙っておいてくれ、兄上」

メ(リ;- _-ノリ「……姉貴には夢がねぇ、いやマジで」

異彩を放つのは、このやり取りの中でも攻防が続いているという一点からだ。
響く衝撃音、煌めく光影を除外すれば、それはただの会話となる。

故に異常。
これが異獣との戦いなのだと、逆に納得させられる光景。

そしてこの光景こそが、異獣を相手にするということだった。

ル(i|゚ ー゚ノリ「成程、確かにそれだけの数を扱えれば、それこそ『一騎当千』と言えようか」

しかし、と言い

ル(i|゚ ー゚ノリ「千で勝てぬのならば万をぶつければ良い。
       万で勝てぬのならば億をぶつければ良い。
       億で勝てぬのならば――あとは解るな、秩序守護者?」



76: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:14:40.42 ID:jpces/WK0


左方からは力が来る。
殴りつけるような機械腕に、蹴り飛ばすような機械脚。
それらがテンポよく繰り出されることにより、打撃連音というBGMを奏で続ける。


右方からは黒が来る。
薙ぐ形の軌道で迫る大鎌は、一撃一撃がまさに必殺。
能力としてか、柄を伸ばしての攻撃は、ワカッテマスの距離感をジワジワと抉る。


正面からは刀が来る。
女の指示通りに殺到する刀は、既に数百を超えていた。
しかし尚も生み出され、片っ端から撃たれるそれはガトリングガンを彷彿させる。



それを捌く。
次々に展開する穴で封じ、己の身の安全を確立していく。

だが、

( <●><●>)「――ッ――つっ――」



79: ◆BYUt189CYA :2007/10/12(金) 22:16:54.28 ID:jpces/WK0
フル回転する脳。
生まれる幻想熱が神経を焼いていく感覚。
血液の循環速度に耐え切れない血管が次々と破られる。

脳裏にギチギチと、壊れた細胞や神経が跳ね回るのを自覚した。

限界など、疾うに超えている。
個人が処理し切れる情報量を超え、しかし尚も理性を保てるのは秩序守護者故か。

だが、足りない。

目で見て、耳で聞き、肌で感じ取った情報を脳へと転送。
対処法を経験と統計から編み出し、今度は身体へと指令を送る。
そうして腕や足が動き、無限から引き出した魔力を存分に行使する。

なんと愚鈍なことか。

いちいち受けた感覚を脳へと送る時間が勿体無い。
そこからまた身体へと指令を送る時間が勿体無い。


速度が、足りない。



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