( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

121: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:39:17.05 ID:P3TmrJ1n0
ステッキに取り付けられたマジックーカートリッジを換装しつつ、ヘリカルがぶっきらぼうに

*(‘‘)*「アイツ、調子悪そうでしたけど」

<ヽ`∀´>「というか、身体が馴染んでいない、という印象は受けたニダ。
      もしかしたらそれが関係しているかもしれんニダ」

*(‘‘)*「このまま楽に逃げられるなら幸運ですよ」

大きな穴が開いた壁――その向こう側にあるのは、外の景色だった。
先ほどの言葉通り、ヘリカルは空から強行的に侵入を果たしたようだ。

*(‘‘)*「さ、乗るといいです」

床と水平に浮かべられたステッキに腰掛け、後方部をたたきながら搭乗を促される。
素直に頷いたニダーは、ヘリカルの肩とステッキ後部を掴んで跨った。

*(‘‘)*「よっと――!」

床を蹴り、そのまま外へと飛び出す。
風に乗り、ニダーとヘリカルを乗せたステッキが空を飛んだ。

<ヽ`∀´>「……これが御伽話でいう魔法使いの気持ちニダか」

*(;‘‘)*「どこでそんなん知るんですか」

<ヽ`∀´>「いや、この世界の昔話はなかなか面白いニダよ。 今度教えて――」

眼下を見ていたニダーが顔を上げ、そして言葉が途切れた。
見上げた空が、あまりにも異常であったからだ。



123: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:41:00.38 ID:P3TmrJ1n0
<;ヽ`∀´>「なっ……これは!?」

空は、既に空の色をしていなかった。


快晴を示す青でもなく
雨天を示す灰でもなく
早暁を示す暁でもなく
月夜を示す藍でもなく


――それは、血のように赤い空だった。


赤く染められた頭上は、どの季節、どの時間帯にも当てはまらない色をしている。
太陽や雲、星や月さえも見えない不気味な光景であった。

*(‘‘)*「先ほどからこうなってるですよ」

<;ヽ`∀´>「やはり世界交差が……しかし、予想された現象とは違うような気がするニダ」

*(‘‘)*「ま、実行犯が実行犯だし」

<;ヽ`∀´>「ヘリカル、そういえば『準備が整った』と言っていたニカ?」

*(‘‘)*「言いましたですよ。 ほら、アレです」



124: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:43:09.62 ID:P3TmrJ1n0
直後、二人の傍を巨大な何かが掠めた。
それは地上から上空へと、一直線に飛翔する黒い塊だ。

いや、塊という表現には多少の語弊がある。

塊と思えた黒色には、鋼鉄の手足が付属していた。
背部にはスラスター補助の鉄片が四本、まるでブレードのように突き出されている。

正体は、人型の機械だった。

銀と黒の色を基調とした鋭角的なフォルム。
メインカメラとしての『眼』が、頭部で不気味に赤光を発している。
それはかつて、軍神をも襲ったことがある恐れを知らない無人戦闘用機兵――

<ヽ`∀´>「――まさか『鉄機人』ニカ?」

*(‘‘)*「都市ニューソクでの一件後、私は逃げ延びた連合軍兵を集めて移動したです。
     あのいけ好かないアイツのパートナーである、あの機体を正常に起動させるために。
     ロマネスクや秩序守護者が入り乱れていた状況は、異獣にとって付け入る隙になりましたから」

<ヽ`∀´>「それは渡辺の……?」

*(‘‘)*「頼まれてはいましたが……今回は私の独断ですよ。 ま、正しかったみたいですけどね」

話している間にも、鉄の巨人は空を舞う。
世界政府本部の周囲を、まるで誰かを探すかのように。

*(‘‘)*「後は間に合うか否か、です。
     流石にそこまでは責任持てませんですがね」



127: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:44:45.94 ID:P3TmrJ1n0
崩落からどれほど経ったか。

白かった通路は赤と橙色に染められ、熱と衝撃によって形を失っていく。
周囲を包む煙と炎が、じわじわと逃げ場を奪っていこうとしていた。

そんな地獄の中、二人の人間が倒れている。

从 -∀从「――ぅ」

一人はハインリッヒ。

从;゚∀从「ッ……」

もう一人は渡辺だ。

从;゚∀从「だ、大丈夫ですか……?」

先に身体を上げたのはハインリッヒの方だった。
伊達に戦闘用として作られてはいないのか、頭を軽く振ることで思考をクリアにする。
そうして周囲を見渡し、現状を素早く理解した。

从;゚∀从「う、うわわ……こりゃあまずいですよ」

周りにあるのは瓦礫の山と壁、そして徐々に迫り来る炎だ。

階段まで少しというところで崩落に巻き込まれてしまったらしい。
未だ天井は軋みを挙げ、もはや一刻の猶予も無いことを示していた。



129: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:46:39.98 ID:P3TmrJ1n0
从;゚∀从「渡辺さん! 大丈夫ですか!?」

うつ伏せで倒れている渡辺を発見し、すぐさま駆け寄る。

从メ'ー'从「……ハイン、ちゃん?」

痛々しい様相だった。
額と頬には血が流れ、整っていた顔も擦り傷だらけになってしまっている。
口から多少の吐血が見られる辺り、どうやら身体の内部にもダメージを受けていることが解った。

从メ'ー'从「だい、じょうぶ?」

从;゚∀从「僕は平気です! すぐにここから逃げ――ッ!?」

言い掛けたハインリッヒは、彼女を取り巻く状況に目を見開く。
原因は彼女の下半身にあり、大きな瓦礫が押し潰さんと圧し掛かっているのだ。

从;゚∀从「す、すぐに除けますね!」

从メ'ー'从「……ううん、無駄だからいい」

从;゚∀从「無駄って、そんな……」

从メ'ー'从「自分の、身体だから解る……けほっ、もう私の足は、無いみたい……だよ」

从;゚∀从「え――」



134: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:48:26.23 ID:P3TmrJ1n0
重く圧し掛かっている瓦礫の隙間から、おびただしい量の血が流れていた。
よくよく見てみれば、元は彼女の足を構成していたであろう肉片や何かが、周囲の壁や瓦礫に付着している。
まるで内部から破裂したかのような光景に、ハインは嘔吐を抑えながら絶句した。

从;゚∀从「そ、そんな……!?」

从メ'ー'从「私はいいから、ハインちゃんは逃げて」

从;゚∀从「貴女を置いて逃げるなんて出来ませんよ……!
      出来るわけがないじゃないですか!」

それは声というよりも叫びだった。
涙を堪え、脆弱ながらも必死に現状に抗う者の悲痛な叫び。

そんなハインリッヒに、渡辺は心底不思議そうに首をかしげた。

从メ'ー'从「何で……? 私は、貴女を利用しようと――」

从;゚∀从「そんなこと関係ありません!」

だって、と言い

从;゚∀从「貴女は僕を作ってくれた一人……僕の親なんでしょう!?」



140: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:50:06.86 ID:P3TmrJ1n0
从メ'ー'从「……え? 今、何て――」

从;゚∀从「渡辺さんも僕の親だと……そう言いました!」

从メ'ー'从「ちょっと、待ってよ……私は、卑怯なんだよ……?
      何も事情を知らない人々に、異獣との戦いを強制しようとしたんだよ……?
      戦わなければ生き残れない状況に、しようとしたのは私なんだよ……?」

それに

从メ'ー'从「私は貴女を利用しようとしてた……異獣に対する切り札として、そう見ていた……!」

从;゚∀从「でも、そうだとしても僕は貴女を恨んでなんかいない……!
      確かに勝手に作られて、勝手に利用されるのは嫌だと思います!
      だけど僕が僕としてここにいられるのは、貴女が――いや、貴女達が僕を作ってくれたからだ!」



ハインリッヒは、今の今まで我慢をしていた。
いや、恐れていた、と言った方が正しいか。

言いたいことがあった。
伝えたいことがあった。
言葉にしたいことがあった。

己を作ってくれた人に、自分が今どう思っているかを。



145: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:52:00.64 ID:P3TmrJ1n0
一人目は、自分が覚醒する前に死んでしまった。
二人目は、自分が覚醒すると同時に死んでしまった。

そして三人の内の最後の一人である渡辺。
彼女に、どうしても自分の思いをぶつけたかった。


――自分は憎んでなんかいない。
   だから、これからもきっと大丈夫だ、と。


本当ならば、渡辺が味方になった時、すぐにでも己の胸の内を伝えたかった。

しかし、僅かな疑心と恐怖がハインリッヒを締め付ける。
今となってもその理由は解らない。

もはや残っていないはずの記憶が、渡辺に対して警告を発したのか。
それとも、まだどこかで無意識に憎んでいる自分がいたのか。

ともかく、ハインリッヒは我慢をした。
伝えたいが伝えることが怖い、という葛藤を胸に秘めていた。
おそらく、ブーンやクーさえも気付いていない軋みなのだろう。

それが今、ダムの決壊のように崩壊し、涙と共に溢れ出す。



150: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:54:18.81 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「クルト博士は僕に命をくれた! クーさんや内藤さんに会えるキッカケを作ってくれた!
      リトガーさんは僕を利用しようとしたけど、それも大切な世界を護るためだった!
      貴女は僕の力で異獣を倒そうとしている! そしてそれを成し得る力を知っている!
      そのどれもが僕だけの役割だった! 形はどうあれ、僕は『最強』になるべくしてなった!」

从メ'ー'从「それは――」

从 ;∀从「こじ付けです! 偽善です! 無理矢理で支離滅裂で自分勝手な解釈です!
      でも、だとしても、確実にこれだけは言える!
      貴女達がいたから僕はここにいるんですよ……!?」

溢れる涙を拭い、渡辺の腕を掴んで、瓦礫から救い出そうと引っ張る。
しかしまだ挟まっている部分があるのか、全力を以ってしても救い出せない。

从 ;∀从「まだ言いたいことがあるんだ! 言い足りるわけがない!
      僕が今、どれだけ幸せなのかを伝えなきゃならない!
      クルト博士にもリトガーさんにも報告出来なかったことを、せめて貴女には伝えるんです!」

从メ'ー'从「だ、めだよ……ここにいちゃ、貴女まで――」

从#;∀从「こんな瓦礫、僕が全部壊してやる!
      僕は貴女達の願いを背負った『最強』だ! 異獣を倒す前に死んでたまるか!」

その拳で、渡辺に圧し掛かっている瓦礫を殴る。

よほど力が込められていたのか、ただの一撃でハインリッヒの拳が砕けた。



154: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:56:14.12 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「――つッ! でも、まだ!!」

从メ'ー'从「やめ、て……逃げて……」

从 ;∀从「安心してください! すぐに助けますからね!」

殴る。
殴る。
殴る。

血染めの拳が瓦礫に赤色を刻んでいく。
しかし、砕けない。

从 ;∀从「何で……! この程度、僕の力なら!」

从メ'ー'从「違う、の……今の貴女は、魔力を全て奪われている……。
      同化している15th−Wは力を使えない……今の貴女は、普通の女の子と変わらないんだよ……」

从#;∀从「――だから、だから何だ!!」

拳が駄目なら脚がある。
フォームもタイミングもデタラメのまま、ハインリッヒは怒りに任せて足を出す。
しかし硬い音だけが響くのみで、彼女の蹴りは瓦礫を砕けない。

从 ;∀从「何で……何でなんですか!
      最強の僕が、何でこんなモノさえも壊せない……!?」

くそ、と悪態を吐きながら喘息する。
心のタガが外れたのか、涙が溢れて止まらなかった。



159: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:57:36.82 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「やっと、やっと言えたのに……もっと話したいのに!!」

从メ'ー'从「ハイン、ちゃん……もう解ったから、もう、いいから……」

从 ;∀从「良いわけがない!
      それに僕は、僕の本当の力ってヤツを知らないんだ!
      貴女に教えてもらう必要が――!?」

撃音が響いた。
外から、無理矢理に壁を破壊する音。
それが徐々に大きくなるということは、段々とこちらに近付いているということだ。

そして音が最高潮へと達した時。

从;゚∀从「――うわぁッ!?」

すぐ傍にあった瓦礫の山が、何か大きな力で殴り飛ばされる。
大小様々な破片が大きな音を立てて暴れ回った。

从;゚∀从「な、何が……」

渡辺を庇うようにして伏せたハインリッヒは、正体不明の力に戦慄する。
何か良くないモノが迫っていると、そう直感した。
しかし

从メ'ー'从「……間に合って、くれたんだね」

从 ゚∀从「え……」



164: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:58:45.65 ID:P3TmrJ1n0
破壊された壁。
向こう側には外の景色が見える。
そしてそこにいたのは

从;゚∀从「きょ、巨人!?」

黒鉄の巨大機械兵。
真紅に光る目をこちらに向けている。

从メ'ー'从「あれ、が……あれこそが、貴女の力……」

从;゚∀从「ど、どういうことですか!?」

答えが来る前に鉄機人が動いた。
右腕を突き出して、ハインリッヒを包み込むように捕まえたのだ。

从;゚∀从「う、うわぁ!? 何するんですか!?」

鉄機人は黙ってハインリッヒを確保する
ジタバタともがく彼女を無視し、その目を渡辺へと向ける。

从メ'ー'从「……ハインちゃんを、御願いね」

『――――』

重い駆動音と赤い光が返答として送られ、機体が動いた。
決別するかのように背を向け、そのスラスターに光を灯す。



167: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:00:13.49 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「待って! 待ってください!
      いやだ!! 渡辺さんを助けなきゃならないんですよ!!」

从メ'ー'从「ハインちゃん……後は任せたよ」

从 ;∀从「いやだぁぁぁぁぁ――!!!」

声が遠ざかる。

鉄機人の使命はハインリッヒの力となること。
その持ち得る機能を全て使って、力の主を全力で護るだろう。

もう、安心だ。

後は彼女が覚悟を決め、戦いに臨んでくれることを祈るのみだろう。

从メ'ー'从「――……」

崩壊の音が周囲を包む。
あと数分も待たずに、この建物は完全に崩れ落ちるはずだ。
周囲を炎に包まれ、足を砕かれ、意識が朦朧としている自分に助かる理屈はない。


しかし渡辺は最後に一つ、あることを為そうとする。



173: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:01:24.19 ID:P3TmrJ1n0
从メ'ー'从「……貞子、いる?」

沈黙。
もう一度呼ぼうとした時、

「――ここに」

炎と崩壊の音に紛れ、微かに聞こえる貞子の声。
渡辺は安堵の息を吐く。

从メ'ー'从「私の事はもういいから……最後の命令、聞いてくれるかな?」

「はい」

姿は見えない。
瓦礫の向こうにいるのだろう。
いつものように、主の命令を待っているのだろう。

从メ'ー'从「――ッヒを――って――」

しかし声は声として出ない。

代わりとして吐き出されたのは、黒色に近い血の塊だった。

熱で喉を焼かれ、徐々に身体が機能を失っていく状況で
今の今まで声を出せたこと自体が奇跡に等しかったと言える。



181: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:03:41.04 ID:P3TmrJ1n0
从メー 从(本当、最後の最後まで駄目だなぁ、私――)

身体中の熱が冷めていく感覚の中、渡辺は呆然と思う。
思えば自分がやれたことなど、とても小さいことだった、と。

誇れることでもなかった。

自分を偽り、他人を偽り、仲間をも偽り続けた人生だった。

それでも、それでもやれることをやった、無理を通した生き様だった。

彼女の死を知った者は、『中途半端だ』と罵倒するかもしれない。
しかし、彼女はしっかりと役目を果たしたのだ。

从メー从(頑張ってね、ハインちゃん――)

地響きが更に大きくなり、崩壊が始まる限界点まで達した。
その中で、渡辺はひたすらに祈り続ける。


結局それは、最後の最後まで誰の心にも響くことはなかった。



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