( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

118: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:10:42.93 ID:xg28za3k0


Case7: 主たる者として


一人、談話室のソファに寝転がっている人影があった。

( ^ω^)「んあー……」

右手には指輪状態の8th−W『クレティウス』が握られ
傍にあるテーブルの上の菓子を取りつつ、ブーンは間抜けな声を挙げる。

( ^ω^)「クレティウスー、君の好きな食べ物は何だお?」

『悪いが、そういう概念はないな』

( ^ω^)「好きなタイプは?」

『残念ながら答えは同じだ。
 私には君達人間の、そういう部分を理解することは出来ない』

( ^ω^)「んじゃあ、君の正体は何なんだお?」

『…………』

(;^ω^)「むぅ、しっかり沈黙するあたり肝が据わってるというか……」



121: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:13:13.99 ID:xg28za3k0
『正直――』

( ^ω^)「お?」

『正直に言えば迷っている。
 話すのは簡単だが、話さなくても済む話だからな』

( ^ω^)「……それはどういうことだお?」

『簡単だ。
 勝てば君達は私の正体を知らずに済むし、負ければ死んでしまって終焉。
 どちらにしろ、無理に知る必要はない』

しかしブーンは訝しげな表情を作った。
菓子を片手に、納得いかないような視線を指輪に送ってくる。

『気持は解るが心配はしなくていい……私の目的もまた、異獣を倒すことだ』

( ^ω^)「……そういうわけじゃないお」

『では、どういうことだ?』

( ^ω^)「僕は、君を信頼出来ないのが怖いお。
      今までは何も知らなかったからこそ信じられたけど――」

『…………』

( ^ω^)「君には僕の知らない何かがある、と知ってしまったお。
      僕と君が遠慮なく全力を出すためにも、出来れば教えてほしいお」



123: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:15:12.69 ID:xg28za3k0
沈黙。

答えを出す気はないのか、やはり迷っているのか。
そんな様子を見せるクレティウスに、ブーンも沈黙を以って返答を待つ。

――何か重大な事実を隠しているように思えてならないのだ。

もしかしたら本当にクレティウスの言う通り、知らなくても良い事実なのかもしれない。

しかし一度知ってしまえば最後まで知りたくなるのも道理。
何より、秘密を抱えた相棒を心の底から信頼出来るのか、ブーンは自信が持てなかった。

どちらも折れぬ睨み合いは一分ほど続く。
その沈黙を破ったのは、第三者の存在であった。

川 ゚ -゚)「……内藤、ここにいたか」

( ^ω^)「お? クーかお?」

川 ゚ -゚)「隣、いいか?」

頷いたのを確認し、クーはブーンの左位置に腰を下ろした。



127: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:16:53.04 ID:xg28za3k0
( ^ω^)「…………」

川 ゚ -゚)「…………」

クーは菓子を手に取ろうとし、しかし引っ込めた。
続いて挙動不審な動きで自分の髪をイジり、ちらちらとブーンへ視線を送っている。
気配を敏感に感じ取ったブーンは、彼女の行動にいちいち冷や汗を流していた。

(;^ω^)(な、何だお? この雰囲気……何か狙われてるのかお……?)

川 ゚ -゚)「……その、なんだ、あれだ」

( ^ω^)「?」

川 ゚ -゚)「久しぶり、だな。
     こうやって君とゆっくり話すのも随分と久々な気がするよ」

( ^ω^)「えっと、うん。 色々あったから仕方ないお」

川 ゚ -゚)「……それもあるが、私は君と話すのを少し躊躇していたかもしれない」

( ^ω^)「躊躇?」

川 ゚ -゚)「いや、君が憶えていないのならいい。
     思えば随分と前の話だし、今更持ち込むつもりはないよ」

( ^ω^)「あ」

言い難そうなクーの言葉に、以前起きた過去を思い出す。



129: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:18:53.68 ID:xg28za3k0
――ロマネスクが初めてブーン達の前に姿を見せた時のことだ。

あの日を境に、ブーンとクーの間に僅かな亀裂が走ったような気がしていた。
そしてそのまま様々なことに巻き込まれ、いつの間にか忘却の彼方に押しやっていたわけだが
ブーンの方はすっかり忘れていたにも関わらず、クーがしっかり憶えていたことに僅かな申し訳なさを覚える。

(;^ω^)「あ、あの時は、ちょっと煮詰まってたお。 僕が悪かったお」

川 ゚ -゚)「……うん、憶えていたんだね。 嬉しいよ」

( ^ω^)(わだかまりの種を憶えていたら喜んだ、のかお……?
     女の人はよく解らんお……)

ともあれ、時間が解決してくれたらしい。
今や二人の間に亀裂などなく、代わりとして別の何かが存在しているようにも思える。
それはいわゆる『気恥ずかしさ』、『初々しさ』といったモノであるような、そんな感じだ。

川 ゚ -゚)「ふぅ」

しかし、それも束の間。
今度は小さな溜息を吐いたクー。
そのまま身を椅子の背に預け、少し寂しげな目が天井へと向く。

( ^ω^)「クー?」

川 ゚ -゚)「いや、すまない。 別に君といるのが退屈なわけじゃないんだ。
     やはり気を抜くと色々なことを考えてしまうのでな」

それっきり口を閉ざしてしまう。



132: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:20:24.79 ID:xg28za3k0
( ^ω^)「…………」

思い当たる節はある。
しかも複数で、きっと自分と同じ類の考えも浮いているはずだ。
そしてその中で最も彼女が気にしているだろう、と思えるものといえば

( ^ω^)「ハインリッヒのことかお?」

川 ゚ -゚)「……ん」

短い返答は正解を意味している。

クーにとってハインリッヒの存在は非常に大きい。
妹のようであり、娘のようであり、同一な存在のようである。
『失敗策』の件から勘案しても、責任などといった感情があったのだろう。

人間ではないクーは、こう見えても一般常識が欠けている部分がある。
思ったことを素直に口にするのもそうだし、嘘や冗談といったものが言えないのも該当するだろう。

だがハインリッヒという存在を通じて、様々な人間的感情を芽生えさせている節も多々見受けられていた。

あの戦いから一年以上経ち、随分と人間らしくなったと、
クーとずっと一緒に過ごしてきたブーンは思っている。



134: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:22:53.30 ID:xg28za3k0
ただ、懸念があった。

確かに彼女は人間に近付いていると言えるだろう。
しかしそれは、『ハインリッヒ』という存在がクーの支柱にあるからだ。
だからもし、そんなクーが彼女を突然に失ってしまえば――

浮かんできた答えを、ブーンは軽く頭を振って払う。
それは無い、と、ありえない、と。

( ^ω^)「ヘリカルが言ってたお。 ハインリッヒは無事だろうって」

川 ゚ -゚)「……そうだな」

( ^ω^)「それでも、やっぱり寂しいかお」

川 ゚ -゚)「私がいつも見てやっていたから。 護ってきたから。
     それが突然いなくなられると、私としてもどうしたらいいのか解らなくなってしまう。
     特に今、時間が余ったりすれば様々な事を考える暇が出来てしまうしな」

( ^ω^)「むー」

心配そうにしているクーに対し、ブーンは割と楽観的な視点を持っていたりする。
その理由として最も大きいのがヘリカルの説明だ。

――ハインリッヒを救助した後、何処かへ飛び去った謎の黒い人型兵器。

ヘリカルとニダーの説明によれば、漆黒の機体は機械世界で作られた機動兵器だと言う。
クルト博士とも関係が深いらしく、その主な機能とは

川 ゚ -゚)「……ハインリッヒの剣となり盾となる、か」



136: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:24:49.56 ID:xg28za3k0
詳しいことはヘリカル達にも知らされていないらしい。

解っているのは自律稼働型で、ハインリッヒのために動く忠実な機械であること。
その存在は、アギルト連合軍の護国院で秘密裏に計画されたプランの産物であること。
軍の中でかなり高い位に就いていたはずの軍神でさえも、簡単な概要しか知らないほどの秘匿レベルだ。

ただ、レインが、その正体を多少解っている素振りを見せている。
しかし推測の域を出ないことと、今解っても対応のし様がない、という理由で口を開こうとはしなかった。

ともあれ、その機体に護られたからにはハインリッヒの無事は確実らしい。
こちらから捜索せずとも、時が来れば向こうからやってくる、と意味深なことも言っていたが
今のブーン達にそれを疑う材料も無く、ただ信じるのみであった。

しかし逆を言えば、それを信じる材料も無いに等しい。
クーが心配するのも無理はなかった。

( ^ω^)「……きっと大丈夫だお。
     この戦いが終われば、また前みたいに過ごせるお」

川 ゚ -゚)「私はそれを願うのが怖い」

( ^ω^)「え?」

川 ゚ -゚)「今まであまり考えてこなかったが……人は、簡単に死んでしまうんだ。
     私はこの前の戦いで身近にいた人間が死んだのを知り、理解した」



138: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:26:44.36 ID:xg28za3k0
おそらく渡辺のことを言っているのだろう。
あれだけ暗躍し、世界交差に、異獣殲滅に貢献した人物が、しかしあっさりと死亡したのだ。
他にもEMAの搭乗者が二人、そして秩序守護者や英雄神も死亡している。

そういう観点、そして前回の戦いから見れば、ブーン達は異常なほどの生存率を誇っていた。
その最大の理由は『秩序の恩威』なのだ、とワカッテマスが言っていたのをブーンは思い出す。
あんな無茶な戦いを生き残ることが出来たのは、秩序のおかげだったのだ、と。
しかし

川 ゚ -゚)「もう世界は交わってしまっている。
     秩序は全て砕け散り、私達の行く末はまったく制限を受けなくなった。
     これからは何が起きてもおかしくはない……誰が死んでも、どんな死に方をしてもおかしくなんかないんだ」

( ^ω^)「……クー」

川 ゚ -゚)「私は嫌だ。 誰かが死ぬなんて嫌だ。 考えられない。
     君が、しぃが、フサギコが、ショボンが……他の皆が死ぬなんて考えたくもない。
     あの二機のEMAがやられたように、呆気なく、助けも間に合わないで――」

背もたれから身を剥がし、俯く。

川 ゚ -゚)「正直言って、私は次の戦いに恐怖を感じている。
     私の知らぬところで人が死に、それがまったくおかしくないという戦場だ。
     それこそ地獄に等しい」

組まれた両手が震えている。
彼女はハインリッヒを通じて成長したが故に、今度は失うことを恐れているのだ。

満たされていると自覚しているため、失うのが何よりも怖いのだろう。



140: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:29:13.51 ID:xg28za3k0
川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「……――」

そんな弱々しいクーの姿を見たブーンは、しかし心の中で納得していた。

( ^ω^)「……それが普通だと思うお」

それこそが、人間らしいのだ、と。

( ^ω^)「僕だって失うのは怖いし……当然、自分が死ぬのだって怖いお。
      きっとギコさんやモララーさんも同じことを思ってるだろうし
      ミルナさんや軍神さんだって、少なからず怖いと思ってるはずだお」

クーがこちらへ顔を向ける。

川 ゚ -゚)「だったら、何故――」

( ^ω^)「理由はクーも解ってるはずだお?
      戦わなくちゃ生き残れない。 戦って勝たない限りは死ぬだけなんだお。
      だからみんな怖くても戦おうとするし、恐怖を必死に抑え込んでるんだお」

皆が同じ思いを抱えているからこそ、弱音は吐けない。
全てが終わるまで、鉄の心で戦い抜く覚悟を決めている。



146: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:31:33.73 ID:xg28za3k0
川 ゚ -゚)「そうか……皆も怖いのだな。
     考えてみれば当然か……はは、私が弱かっただけの話か」

( ^ω^)「うーん、それはどうかお?」

川 ゚ -゚)「え……?」

( ^ω^)「だって今も言った通り、皆も怖いと思ってるはずだお。
      それを口にするかしないかの差だけで、強い弱いが決まるとは思えないお。
      クーがそれを言葉にして覚悟が決まるなら、むしろプラスだと思うお」

川;゚ -゚)「そ、そういうものなのか?」

( ^ω^)「それに――」

笑みを浮かべ

( ^ω^)「クーが僕に弱音を吐いてくれた。
      この事実は非常に嬉しいものだと、僕は思ってるお」

言葉に、クーの表情が固まった。
しかしそれも一瞬のことで、

川;゚ -゚)「え? あ、いや、す、すまないっ。 気を遣わせてしまった」

(;^ω^)「お?」



148: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:33:28.93 ID:xg28za3k0
川;゚ -゚)「そ、その……実を言えば、君といると心が緩んでしまうというか、油断してしまうというか……。
     つい言わなくても良いことを言ってしまうというか、話を聞いてほしくなるというか……。
     これでは、なんだか君を利用しているようで悪いと思ったんだが――」

( ^ω^)「滅相も無いお。 そんなこと全然感じないお」

川 ゚ -゚)「……迷惑じゃなかったか? 嫌いにならなかったのか?」

( ^ω^)「むしろどんどん来るお」

大袈裟に胸を叩き、頼れる男をアピール。
するとその姿を見たクーの目が、みるみる内に輝いていった。

川 ゚ -゚)「君は凄い奴だな……何と器が広い……」

( ^ω^)「お? そこまで言われるとくすぐったいお」

川 ゚ -゚)「いや、少なくとも私は敬服したぞ内藤。
     君だって色々悩んでるだろうに、更に人の弱音を背負えてしまえるなんて……」

( ^ω^)「クーも大人になれば解るお」

川;゚ -゚)「なっ……し、失礼な! 君より私の方が年上なんだぞ!」

( ^ω^)「身体は大人! 頭脳は子供!」



151: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:35:27.46 ID:xg28za3k0
川 ゚ -゚)「むむ、君は私を怒らせたいようだな……覚悟しろ!」

(;^ω^)「うわー、やられ――って、いたたたたたたたた!!? ギブギブギブギブ!!!」

川 ゚ -゚)「これでもかっ、これでもかっ!」

(; ゚ω゚)「折れる折れる折れる!! 何か今ポキッって言ったお!! おうふっ!」

アッー!という断末魔を残して、ブーンは力無くソファに倒れ込む。
それを降参と見たクーは満足気な笑みを浮かべ、その身体を解放した。

(; ´ω`)「……クーは怒らせると怖いお」

川 ゚ -゚)「安易に怒らせる君が悪いと知れ。 あと、年上は敬うように」

(;^ω^)「うぅ……上下関係に厳しい運動部の先輩みたいだお。
     で、でも、『嬉し恥ずかしドキドキ密着トレーニング』なんかしてくれるんだったら何も問題ないお……!
     むしろオールオッケーの勢いですお、クー先輩……!!」

勢いに乗るブーンを完全無視したクーは、テーブルの菓子を手に取った。
一つブーンに手渡し、自分の分の包み紙を解きつつ

川 ゚ -゚)「そういえば内藤、君はこんな所で何をしていたんだ?
     しかも一人で」

(;^ω^)「え? あぁ……ちょっとクレティウスと話してたんだお。
     気になることがあって、それを知ろうと思って」



158: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:37:13.01 ID:xg28za3k0
ふむ、と返事をしたクーは、チョコレートを口に入れた。
咀嚼し、しっかりと飲み込んでから言葉を放つ。

川 ゚ -゚)「……それはもしかして、『クレティウスがウェポンらしくない』ということと関係あるのか?」

(;^ω^)「!? な、何でそれを……?」

川 ゚ -゚)「世界政府での戦闘時、ヒートと戦った時に少しな。
     彼女も交えて話をした方が良いかもしれんので、今から呼んでみよう」

懐から小型の通信機を取り出すクー。
ブーンは一瞬、それを止めようとして、しかしすぐに動きを止めた。
少し赤くなっていた顔に手を当て、軽く首を振る。

(;^ω^)(せっかく二人きりになれたけど……いやいや、今はクレティウスの方が大事だお)



呼び出しに応じたヒートは、ミルナを連れてすぐに現れた。
訓練の最中だったのか、二人とも火照った顔で汗を拭きながらの登場である。

ノハ#゚  ゚)「貴女が私を呼んだということは――」

川 ゚ -゚)「……あぁ、話を彼に聞かせてやりたい」



160: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:38:42.39 ID:xg28za3k0
仮面に覆われた彼女の顔が、ブーンを見る。
唯一見える両目は暗く鋭い。
何か薄ら寒いモノを背筋に感じたブーンは、ぎこちない笑みを返した。

ノハ#゚  ゚)「ミルナはどうする? 少し時間が掛かりそうだけど」

( ゚д゚ )「いくらでも待つさ。
     それに俺にも何か解るかもしれない」

と、二人はブーン達と対するように、対岸のソファに腰掛ける。
テーブルを挟んで座る四名は、異なる世界に所属しながらも鏡合わせのような構図となった。

ノハ#゚  ゚)「まずは何から?」

川 ゚ -゚)「ふむ……やはり、ヒートが違和感を持ったところから始めてほしい。
     いきなり結論を出すにしても、土台が無ければ説得力は出まい」

いいな、と許可を促すクーの視線に、ブーンは神妙な顔つきで頷いた。

( ^ω^)「ヒートさん、御願いしますお」

ノハ#゚  ゚)「解った」



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