( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 144: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:13:56.03 ID:wOI31fop0
- 「――動いた」
「ようやくかよ」
「正しくは、あと半日ほど掛かるがな」
「まぁいいや。 逃げずに向かってくるならいくらでも待ってやらぁ――って、姉貴、どした?」
「いや……少し引っかかる点があるのだが、些細なことなので問題ない」
「まぁ、難しいこと考えるのは姉貴に任せるわ。 んで、俺は戦いたい奴と戦う。 そんだけ」
「何だ兄上? 知り合いでもいるのか?」
「いーや。 俺はアイツを知らねぇし、アイツも俺を知らねぇよ」
「……あぁ、そういう意味か」
「アイツは俺の両足を持っていきやがった。 そのせいで俺は死ぬことになった。
だからアイツは俺の獲物。 オーケー?」
「相変わらず無理矢理な考え方だ」
「こっちの気が晴れりゃいいんだよ。 特に、今回は面白そうだし」
「……その点には同意する。 此度の戦いは胸が踊るようだ。
今までにないケース故、もしかすれば我らの喉笛まで肉薄するやもしれんぞ」
「はン、姉貴も冗談が上手くなったねぇ……いくら四世界と言っても、それは万が一にもねぇさ。
もちろん、そうなってくれるとこっちとしても張り合いがあるんだがなぁ」
- 151: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:17:29.39 ID:wOI31fop0
- 四世界がアジトを出発し、それから半日の時間が経つ。
夜――いや、明け方の気配が、この地を赤に染めていた。
既に世界に昼や夜の概念は無くなっている。
常に空は赤く燃え、照らされた臓物のような雲が不気味に浮かんでいるのだ。
しかし太陽と月は存在した。
そういう意味での、明け方だ。
現在時刻は、日本で言う午前五時過ぎ。
日の出まで残すところ一時間弱。
地面の上を叩く音が複数あった。
群れに等しい音の軍は、更に金属の音を混ぜつつ忙しなく動き回る。
戦うための準備をしていることを示し、今も尚、着々と土台は完成していく状況だ。
そんな群れの中の一角。
重そうな荷物を肩に抱えた一人の兵が、荒れ地に腰を落とす。
- 156: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:18:43.10 ID:wOI31fop0
- 「ふぃー、これここで良かったよな?」
「すぐに取り出せるように鍵は開けとけ。
それが終わったあっちを手伝ってやってくれないか」
「あいあいさ。 ところで――」
腰を上げた兵は周囲を見渡す。
「ここが本当に世界政府本部のあった場所なんて、信じられねぇよな」
一面の荒れ地。
空に浮かんだ微かに見える星々、少し表情を曇らせた月が見る大地はそれだ。
かつては森があり、山岳があり、そして気高き支配者が君臨していた荘厳な建物があった場所は
赤茶色の平坦な地面へと姿を変えてしまっている。
「……あと一時間くらいだな」
「朝日を拝むと同時に世界を賭けた戦いを始める、か。
社長もなかなか乙なことしてくれる」
「あれ? アンタFCの人だったのか?」
普段なら各世界特有の衣服を着ていたため、すぐに誰がどの所属か解ったはずだ。
しかし今は皆、同じような装甲服に身を纏わせている。
顔見知り同士でない限りは、所属の判別が難しい状況にあった。
- 160: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:20:16.88 ID:wOI31fop0
- 「しかし、雰囲気で解ると思ったのだが。
異世界から来たアンタらの感覚と、俺達の感覚は少しズレがあるらしいし」
「……少しって言うのか、アレ」
「まぁ気にするな」
与えられた仕事を終えたのか、一服しようと煙草を取り出すFC兵。
それをぼんやりと見つつ、もう一人の兵は
「――なぁ」
「ん?」
「本当に解らなかったんだぜ、アンタがFC所属って」
「……喜ぶべきか? 『わぁいマトモな人間になれたぞー』って」
「いや、そういう意味じゃなくて」
苦笑し
「解んなかったってことは、慣れたってことだ。
もしくはもう皆、同じになっちまったのかもな」
- 162: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:21:42.50 ID:wOI31fop0
- 「同じに?」
「FC病とか言われてたろ。 多分、皆それに掛かっちまったんじゃねぇかなぁ、とか思えるんだわ」
「何その全滅フラグ。 冗談にしちゃ笑えんぞ」
「いいや、なかなかこれも面白いと思うぜ。
こんなデケェ戦いに挑むってのに、まったく身体が震えもしねぇんだよ。
むしろwktkしちまってる始末だ」
「……まぁ、まともじゃないようだが」
「アドレナリン絶賛どばどば中ですよ、ってな」
改めて周囲を見渡す。
先程より微かに明るくなったようにも見える風景の中、作業音の中に談笑の声があるのを見つけた。
「――――」
異世界の人間同士が、笑みを浮かべ、肩を組み合い、同じ景色を、同じ敵を見て、同じ方向を見定めている。
『これからも共に歩まん』と、約束し合っているような不思議な光景だった。
「……この戦いがもし俺達の勝利に終わるとなれば、それはそれで楽しくなりそうだ」
「未来はもう誰にも解らねぇんだぜ。
だったら速い者勝ちさ」
- 164: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:23:00.36 ID:wOI31fop0
- 「その先に未来が無くとも、か? 秩序が消えるとはそういうことだと聞いたが」
「先に着いた奴が、未来を創る権利を持つってことだろ」
「茨の道だな」
「けど、悪くはねぇ。 俺達が歴史の先駆者になれるんだからよ」
今度は二人して笑う。
たった数分の休憩を終え、また作業に入ろうかと腰を叩いた時。
出来あがりつつある本陣の方角から、装甲服を着た女性が声を掛けてくる。
「あら、休憩終わり? だったらこっち手伝ってくれない?」
- 169: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:24:21.59 ID:wOI31fop0
- 「おーよ」
首を鳴らして肩を振り回しつつ男が答え、その背後にいたFC兵が煙草を踏み潰す。
歩き出そうとした時、ふと彼は口を開いていた。
「なぁ、ところでアンタとそこのアンタもなんだけど――どこの世界の所属?」
「俺は英雄世界だ。 ちなみに業名は【拳王】ってんだぜ」
「私は魔法世界だけど」
「……ふぅん」
「何だよ?」
「いや、大したことじゃない」
小さな笑みを浮かべ
「――俺も、アンタらがどこの所属か解らなかっただけさ」
- 172: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:26:19.84 ID:wOI31fop0
- 川 ゚ -゚)「流石に緊張するな」
ブーンの隣。
地面の感触を確かめるように踏みにじりながら、クーがふと呟いた。
周囲は浅い赤闇に包まれている。
しかし作業を行なうための人工光が、スポットライトのように点々と照らされていた。
既に戦闘準備を終えた二人は、本陣の最先端にて朝日が昇るのを待っている。
( ^ω^)「お?」
川 ゚ -゚)「あんなに敵がいる。 こんなに味方がいる。
そしてこの戦いで世界の命運が決定するんだ。
戦えることをとても光栄に思う反面、やはり少し怖いよ」
その目は遠くを見ている。
地平線を覆うような白色を。
この世界を食わんとする獣の群れを。
これからあの大群と戦うのだから、怖くないわけがない。
川 ゚ -゚)「君は大丈夫か?」
( ^ω^)「……確かに怖いけど、震えはないお。
こういう空気を感じるのは二度目だから」
川 ゚ -゚)「二度目?」
( ^ω^)「一年半前のリトガーに挑んだ時も、こうして皆で並んで呼吸を整えたお。
もちろん数なんか、今とは比べものにならないほど少なかったけど」
- 175: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:27:41.12 ID:wOI31fop0
- 川 ゚ -゚)「……成程。 私の知らない君というわけだね」
(;^ω^)「そ、そんな目で見ないでぇ!」
川;゚ -゚)「別に怒ったりするつもりはない。 あれは私の責任だと理解している。
ただ、少し勿体なかったな、と思っただけだ」
(;^ω^)(『勿体ない』で済むようなこっちゃなかった気もするけど……)
どう言葉を返すべきかと考えた時、後方の本陣から声が飛んでくる。
『そこのバカップル。
和気藹々とするのは構わないが、主戦力だということを忘れないでくれたまえよ。
いや、私としてはイチャイチャしながら道を開くという奇行を一度は見てみたいものだが……どうだね?』
(;^ω^)「ぶはっ!」
周囲から笑いが起きる。
一気に注目を浴びたことにより、頬を赤くして慌てるブーン。
中には怨念じみた冷たい視線も混じっているが、彼は敢えて無視を決め込んだ。
しかし無視することが出来ない女性が一人。
本人であるクーは周囲を見渡し
川 ゚ -゚)「好きな人と親しくして何がおかしい?」
(;^ω^)(言い返しおったー!?)
- 180: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:28:56.73 ID:wOI31fop0
- 『ふむ、真理だね……ついでに聞くがイチャイチャコースは期待して良いかな?』
川 ゚ -゚)「言うまでもなく実行してやろう」
(;^ω^)(ぼ、僕の意見は!?)
『――おい、内藤! 聞いてっか!?
テメェ俺らが緊張して待ってんのにそのgdgd具合は何だよ!? 力抜けちまうぜ!』
通信機から飛んでくる声はエクストのものだ。
戦闘前で高揚しているのか、興奮した様子でがなり立てる。
対して聞こえてきたのは、なだめるような静かな声で
『エクスト、女がいないからと僻むな』
『異物交配のテメェに言われt――』
ざ、というノイズを残して切れる通信。
同時に後方から、機銃が火を噴く音が響いた。
何やら爆発音まで聞こえてくるが、果たして大丈夫だろうか。
『……相変わらず騒がしいな。 最後までこれか』
東軍を率いるギコの声。
おそらく傍には、しぃ、ショボン、ジョルジュが控えていることだろう。
- 183: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:30:24.56 ID:wOI31fop0
- 川 ゚ -゚)「もはやいつものことだと諦めてもらうしかないな。
ところで、そちらはどうだ?」
『問題ない。 士気も高まっている。 こちらが何をするでも無しにな。
まぁ、俺はモララー達のように鼓舞だとかいう器用な真似は出来んから、正直助かるわけだが』
川 ゚ -゚)「ギコなら、いるだけで励みになるということだろう」
『それは褒め言葉として受け取っても良いのか?』
川 ゚ -゚)「無論。 私は世辞など言わん」
( ^ω^)「ギコさんギコさん、ショボン達も大丈夫ですかお?」
『あぁ、だいぶリラックスしているようだ。
特にジョルジュはアレでも戦闘に長けているしな。 奴らの御守は任せておけ。
そちらも抜かるなよ』
( ^ω^)「解りましたお」
川 ゚ -゚)「東は心配なさそうだな。
逆に西が少し心配だが――」
『こちらも問題ないですよ』
通信機から聞こえる声は、西の軍を率いるフサギコのものだ。
前線にはペニサス、そしてドクオ、兄者、弟者という後方支援系の能力の持ち主が揃っている。
東に比べ、どちらかと言えば力よりも頭で戦うような布陣だ。
- 188: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:31:50.88 ID:wOI31fop0
- 『こちらは後方支援が充実していますし、ペニサスさんもいてくれてます。
何かあっても、兄者さんがきっと良いアイデアを出してくれると私は思っていますし』
( ^ω^)「フサギコさん……ドクオのことを御願いしますお。
本当ならコンビネーションの相手である僕が、一緒にいなきゃならないんですけど――」
『解っています。 私に任せて。
貴方は貴方の戦いを心置きなく行なって下さい。
では、御武運を――』
川 ゚ -゚)「ふむ……流石は執事と言ったところか。
状況把握力は群を抜いているようだ」
( ^ω^)「安心して任せられるお」
加えてレモナやシューが乗るEMAが遊撃に動き
そして空からは、シャキンとエクストのサポートが受けられる手筈になっている。
川 ゚ -゚)「後は南の準備が終わるのを待つだけか……」
軍神、ミルナ、ヒートの三名が中心戦力の南軍。
もっとも激戦を強いられると予想されている部隊には、それに見合う戦力が組み込まれていた。
- 193: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:34:15.27 ID:wOI31fop0
- 英雄を中心とし、機械世界のベテラン兵達を優先的に組み込んでいる。
そこに軍神とミルナ、ヒートが揃えば――
『――こちら軍神。 南軍も準備完了しましたよ、と。
これで社長さんの命令さえあれば、すぐにでも出られるわ』
『解った。 そちらは主に軍神君に任せることになるが、良いかね?』
『とりあえず弱音吐いた奴を片っ端から蹴飛ばせばええんやろ?』
『……まぁ、君の好きなやり方で良いと思うよ』
『りょーかい』
(;^ω^)(あっちの隊に組み込まれなくて良かったお……)
川 ゚ -゚)「これで全ての準備が整ったようだな」
背後――本陣を見守るように見ていたクーは、その身を反転させる。
- 200: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:35:45.62 ID:wOI31fop0
- 見据えるように向けた視線の先。
地平の線を覆うようにして存在する白の色。
これから生存を賭けて戦う相手を見やり、深い溜息を吐いた。
川 ゚ -゚)「……これで終わるのだな。
私達か、それとも向こうかのどちらかが」
( ^ω^)「終わるお。 きっと僕らが勝ち残って」
川 ゚ -゚)「長かったな」
( ^ω^)「約二年かお……」
川 ゚ -゚)「私と君が出会ってから、それだけの時間が経った。
でも、それ以前に何百年もの戦いの歴史があった」
( ^ω^)「それだけじゃないお。
異獣が滅ぼしてきた世界の年月を合わせれば、気が遠くなるほどの時間が掛かってるはずだお」
川 ゚ -゚)「……それを私達が止めようとしているのだな」
『――贅沢な話ではないかね?』
と、そこでモララーの声が割り込んでくる。
ふと気付いて周囲を見れば、本陣から音という音が完全に消え去っていた。
- 205: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:37:01.49 ID:wOI31fop0
- か細い風の音の中、モララーの声が響く。
『たった二年ほどの流れが、無限と言える時をせき止めてしまう。
あり得ぬであろう。 難しいことであろう』
川 ゚ -゚)「…………」
『だが、それを為さずして我らに生きる道は無い』
( ^ω^)「…………」
『――ならば為そう。 それだけだ』
考えてみれば当然の帰結である。
勝たなければ死ぬのであれば、勝つしかあるまい。
これから挑むのは、ただ、それだけのためであった。
『そろそろ陽が射す。 開戦の合図は……クー君、君に任せるよ』
川;゚ -゚)「え?」
- 213: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:38:50.24 ID:wOI31fop0
- 『この戦いの火蓋を切るのは私の役目ではない。
本来ならばハインリッヒ君が妥当なのだろうが、今彼女はいない。
ならば君が相応しいということだ。 皆もそれを望んでいる』
再度、え、と漏らしつつクーは背後を見る。
「「「……――」」」
全員の視線が、彼女に集っていた。
剣や槍を肩に担いだ男が、銃撃・砲撃装備を脇に抱えた女が、装甲車の運転席にいる男が、その上で狙撃銃を構える女が。
補給装備を担いだ男が、救急装備を背負った女が、本陣で情報を統括するオペレーター達が、同じく本陣で『龍砲』の発射用意を行なう技術者達が。
指輪を武器に戦う者達が、英雄と呼ばれる者達が、赤と青の巨人に乗る女二人が、遺志を継いだ戦闘機を駆る男らが。
( ^ω^)「…………」
そして、隣にいるパートナーが。
川 ゚ -゚)「――――」
その光景を見て、クーはようやく悟る。
――これが、今まで自分達の為して得た一つの結果なのだ、と。
- 221: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:40:32.29 ID:wOI31fop0
- 川 ゚ -゚)「……総員」
呟かれた言葉は、しかし一旦赤い空に消え
川#゚ -゚)「総員!! 武器を構えろ!!」
直後、全員が武器の音色を奏でた。
重なり大きな音となったそれは、地平線に居座る異獣達の耳へと鋭く届く。
浅い待機の眠りから覚め、徐々に動き始める獣を見据え
川#゚ -゚)「行くぞ……! これが最後の戦いだ!!」
「「応ッ!」」
川#゚ -゚)「全力だ! 全てを出し切り相手に思い知らせろ!
私達を嘗めている奴らに、その生意気な顔に刃を突きつけてやれ!!」
構えられた右腕は地平を差し、戦女神の役を得たクーは高らかに宣言した。
- 225: ◆BYUt189CYA :2007/11/13(火) 22:41:41.19 ID:wOI31fop0
第四十五話 『勝って生を打ち立てろ』
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