( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

226: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:13:51.40 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ(でもやっぱ思い切り絶望させてぇよなぁ)

ただ殺すだけなら簡単だが、これは復讐である。

既に、このギコが何番目なのかなど憶えていない。
半ば自己強迫に近い理由で、キリバはギコを殺し続けていた。

今回も例外に漏れず殺すつもりなのだが、
このギコは今までのギコよりも数段強く、そしてキリバを苛立たせている。
普通の方法では満足出来ないのは明白だった。

故にしぃを殺す。
しかも思いつく限り、惨たらしいやり方で。

それを見せつけられるギコを想像し、キリバは危うく――

メ(リ゚ ー゚ノリ「んあ?」

自身の太腿に違和を感じたのは直後。
見れば鎖が巻きついており、それを確認した瞬間、

メ(リ゚ ー゚ノリ「お、おぉ?」

何か強力な力により、後方へと引っ張り飛ばされた。



231: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:15:16.47 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉ〜――っと? 何だぁ?」

メチャクチャな姿勢で落とされたが、何とか着地する。
見れば、ギコとは数十メートルほど離されてしまったようだ。
それと時を同じくして、しぃがギコの下へと辿り着いてしまう。

( ゚∀゚)「悪ィな。 今度は俺を相手してくンねーか」

代わりとして近くにいるのはジョルジュ。
キリバを引っ張りこんだ鎖の末端を握り、挑戦的な表情で鋭い視線を向けてくる。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおいおーい、勘弁してくれよ。
      これからメインディッシュだってのにさー」

心底残念そうに言うキリバ。
まるでジョルジュなど眼中にないかのように、ギコの方を向いたままだった。

(#゚∀゚)「そうやって余裕ぶってられンのも今の内だぞ!」

雑な扱いに苛立ったのか、吼える。
それでも見向きさえしないキリバに、ユストーンを振り回し

(#゚∀゚)「一気に片を付けさせてもらうぜ!
     OVER ZENITH!!」

駆け引きも何もない。
愚直なまでに最初から全力だった。



239: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:16:48.22 ID:8H9+v4j70
(#゚∀゚)「チェーンドラゴンッ! ギガモード!!」

灰色の発光が大気を照らすと同時、握っていたユストーンが光粒となって消える。
ジョルジュの周囲に巨大な質量が出現したのは次の瞬間だ。
金属を擦り合せる重厚な音。
それは無機物ながらに、生物の息吹を感じさせる。

『――――』

正体は、やはり鎖だった。
だが、そのサイズは通常のものよりも遥かに長く、重く、大きい。
存在するだけで大地を削る重厚さは、見る者を圧倒させる。

彼の限界突破は、二年前に見せた結果よりも確実に力強くなっていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「へぇ?」

いきなり最大の力を見せつけられ、ようやくキリバの気がジョルジュへと向く。

メ(リ゚ ー゚ノリ「俺相手にやろうってのか? 身の程知らず?」

(#゚∀゚)「言ってろよ……これからテメェは死ぬぜ!」

質量だけで言うならば圧倒的な差だ。
押し潰すだけでも、何らかのダメージは与えられるはず。

(#゚∀゚)「行け、ユストーン!!」

主の鋭い声と共に、鎖の龍と化したユストーンが身をうねらせる。
そして超重量を誇る身体を押し出すように『発進』した。



242: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:18:28.92 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「――でっけぇなおい!」

轟、と風を切り、大地を割りながら突っ込んでくる様は脅威の一言だろう。
だがキリバはむしろ大きな笑みを浮かべ、それを迎撃する。

力の差は歴然だ。
いくらキリバが強かろうと、この質量差を覆すことは出来ないはず。

溜めを生むために縮めていた身を一気に伸ばし、

『――――!!』

行く。

それは、高速で走る砂上列車のような光景だ。
灰色の鎖を連結させた一列縦隊。
槍にも似た一撃が、キリバに襲いかかる。

メ(リ゚ ー゚ノリ「っは!! 頭悪ィ奴の考えそうなこった!!
      だが――」

構え、機械の四肢を鳴らす。
溜め込まれた魔力が展開し、ユストーンの壁となった。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「そういう力押しってのは嫌いじゃねぇ!!」

大跳躍と言えるほどの直上ジャンプ。
その真下を当然のように、巨大化したユストーンが通過する。



249: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:20:36.90 ID:8H9+v4j70
浮遊する時間は短い。
何故ならば、

メ(リ゚ ー゚ノリ「お――?」

背後へ突っ込んだはずの鎖龍が、その頭部とも言える先端を持ち上げたのだ。
跳ねるように身を仰け反らせたユストーンの狙う先。
つまり中空に浮かぶキリバ目掛けて、再度の突撃を敢行した。

激突する。

( ゚∀゚)「っしゃぁぁ!!」

高速で走る巨大質量に文字通り撥ねられたキリバは、
身をメチャクチャにきりもみさせながら吹き飛んだ。

しかし、全てがこちらの思い通りにいくならば、それこそ最初の攻防で勝負は決まっていたのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「……成程なぁ、意外と痛ってぇ〜の。 油断した」

(;゚∀゚)「って、うぉぉ!? 何でだ!?」

何という不幸か、その墜落地点はジョルジュの眼前。
いや、これは不幸などではなく――

メ(リ゚ ー゚ノリ「見栄は張るもんじゃねぇな、うん。
       だが、これでチェックメイトってやつだ」



255: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:21:44.19 ID:8H9+v4j70
キリバは、最初からこのつもりだった。
わざとユストーンを真上に回避し、次の攻撃を敢えて受ける。
そうすることにより、ユストーンよりも早くジョルジュの下へと向かったのだ。

己の実力に絶対の自信を持っているが故に出来た、悪魔のような策。

(;゚∀゚)「がぁっ!?」

反応する間もなく、ジョルジュの首が機械腕によって握り込まれる。
発想が悪魔ならば行動も悪魔そのものか。
言葉さえも残さぬと、キリバは容赦なく首の骨を折りに掛かった。

(; ∀ )「――ッッ!!」

掛かったはずなのだが、

メ(リ゚ ー゚ノリ「――ん?」

(;゚∀゚)「へ、へへ……やるなら、さっさと……げほっ、やれっつーの」

笑み。

殺される間際として、明らかに不似合いな表情を浮かべるジョルジュ。

決して珍しいわけではないが、こういう場合、
何か手を隠していることがほとんどだとキリバは知っていた。



259: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:22:57.22 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「……テメェ何を企んでやがる?」

(;゚∀゚)「それ、教えたら……意味ねーっつの……ばーかっ」

ジョルジュは知っている。
ここから少し離れた場所にショボンが身を隠しているのを。
少し盛り上がった地面の陰、ミストランを構えてキリバの頭を狙っているのだ。

だが、そのまま撃っても当たりはしないだろう。

だからジョルジュが自ら囮となった。
己が殺される瞬間こそ、キリバにとって最大の隙となる。

そこをショボンが穿つのだ。

攻撃と命中を逆転させる槍ならば、最速の一撃を見舞うことが出来るだろう。

(;゚∀゚)(頼むぜ、ショボン……!!)

これは賭けである。
ジョルジュを殺すために気を背けるキリバと、ショボンが行なう攻撃。

速かった方が勝ち、遅かった方が沈む。

そして、それが東軍の勝敗に繋がっていた。
もはや相対出来る戦力がない故に
ここで倒さねば、周囲で事を見守る一般兵の虐殺が始まるからだ。



265: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:25:18.31 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁ、雑魚なお前らが何をしようとも関係ねぇ。 だったらすぐに殺してやるよ」

(; ∀ )「ぐっあっ、ああぁっ……」

急激に圧迫される首。
血管が次々と閉じられていき、支柱である骨と筋が悲鳴を挙げる。

おそらく自分は数秒後に死ぬ。
死ぬ時こそ、キリバはこちらに集中する。
だからショボンが攻撃することが出来る。

何ら問題ない。

どうせ自分は戦闘用に作られた身だ。
戦闘に特化しているが故に、日常生活を為すための能力が大幅に削られている。
どうせ、この戦いが終われば御役目御免の運命が待っているだろう。

だったら、ここで勝利の礎になるのが一番幸いだ。

(; ∀ )「ぁ――っ、――……ッ」

限界だ。折れる。もう駄目だ。
さようなら世界。こんにちは地獄。

そう脳裏に浮かべ、最期に強かな笑みを見せてやろうと視線を上げた時。

メ(リ;゚ ー゚ノリ「――ッ!?」

ジョルジュの首を掴んでいる、キリバの右腕が弾けた。



269: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:26:56.15 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「……ッ、がはっ!? げほっ、げほっ!!」

衝撃によって地面に落とされる。
何がどうなっているのかを理解する直前、制御出来ない強い咳がジョルジュの喉を襲った。
突如として入ってきた酸素が肺にショックを与えてしまったのだろう。

つまり、自分は生きているわけで。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何の――」

(;゚∀゚)「――何のつもりだショボン!?」

キリバよりも強い問いが、味方であるはずのショボンへ投げかけられた。

(;´・ω・`)「…………」

隠していた身を露わにしたショボンの表情は青ざめている。
自分でも何をやったのかが解っていないかのような。

ミストランを手に提げ、微かに震える口を開いた。

(;´・ω・`)「で、出来、出来るわけないじゃないか……っ。
      見殺しにするなんて……!」

(;゚∀゚)「ッ!? 馬鹿! 俺のことなんか――」



276: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:28:05.08 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「もしもーし」

怒りに任せて吼えかけたジョルジュを、キリバが止めた。
彼は半目で肩をすくめ、

メ(リ゚ ー゚ノリ「このまま時間を浪費して良いのかねぇ?
      見たところ、あの槍は特別な制約があるっぽいけどさ」

(;゚∀゚)「!!」

そうだ、ミストランにはルールが存在したのだ。
命中を先行させる代償として、後で必ず同じ箇所を攻撃をしないといけない、というルールだ。
しかも時間制限があるタイプだとショボンが言っていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「普通に考えて『命中を攻撃で埋め合わせなきゃならない』って感じだろうな。
      ほら、だったら来いよ。 俺はここだぜ?」

挑発するように手首を振る。
ショボンが放つ渾身の一撃ですら一歩も動かなかったキリバが、だ。

そんな敵に向かっていける者など、果たしているのだろうか。



285: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:29:23.78 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「くそっ!!」

思わず走るジョルジュ。
自分に何か出来るとは思えないが、それでも駆けた。

(;゚∀゚)「ショボン! 俺がサポートするから、早く回収を――!!」

(;´・ω・`)「……ッ」

(;゚∀゚)「ショボン!!」

(;´・ω・`)「あんな化物に近付くなんて、無理に決まってるじゃないか――!」

超綿密な魔法で編まれたが故に『ペナルティ』すら抱えるウェポン。
その内容をジョルジュは次の瞬間、目に焼き付けることとなった。

(´;ω;`)「――っあ!!」

ばん、というくぐもった破裂音。

それと同時、ショボンの右鎖骨に位置する皮膚と肉が弾けとんだ。



289: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:30:45.76 ID:8H9+v4j70
東の戦場を、遥か上空から見つめる視線があった。

赤い空に相反する青色。
人よりも大きな、しかし人の形をした機械。

青いEMA『リベリオン』だ。

補給完了した機体を、ホバー状態にしたスラスターで浮かせている。
右手には、延長バレルを装着させたEMA用のライフル型EWが握られ、
その先端を東の大地へと向けていた。

コクピット内は薄暗い光に照らされている。

|゚ノ ∀ )「…………」

レモナが、シートに身を預けて正面ウインドウを睨んでいた。
足のペダルで機体の動きを微調整し、右のレバーを通じて砲身をターゲットへ。

機体は既に狙撃モードへ移行している。

白や赤の線が縦横無尽に走り回って狙撃のための補助線と化し、
一際大きなサークルの中央にターゲットが表示されていた。

見える景色、遠く下方の地面の上には小さな赤が一つ。



294: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:31:49.52 ID:8H9+v4j70
|゚ノ#^∀^)(アイツが、アイツがあの二人を殺した……!)

未だ憶えている。
二機のEMAを相手に器用にもパイロットだけを殺した張本人。

今見える揺れる赤髪が、あの時、空で笑っていた男のものとまったく同じだ。

何故、EMAを破壊しなかったのか。
何故、あのタイミングで現れたのか。

そういった疑問は、既に考え尽され頭の隅に追いやられていた。
答えなど出ない問答に意味はなく、故にこの身は復讐鬼と成り下がっている。
故に問い掛けなど、キリバを殺せるか否かだけで充分だった。

レバーを握る手に力を入れる。

魔力を満タンまで充填したマジックカートリッジ。
それを装填しているEWで穿てば、多少なりともダメージは与えられるはず。

この戦いに臨んだ誰もが思う希望を無意識に抱え、レモナはトリガーを引き絞った。



300: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:33:42.02 ID:8H9+v4j70
ジョルジュは思わず、敵に背を向けてまで走っていた。

(;゚∀゚)「何やってんだよこの馬鹿が!?」

叫ぶような声に、周りで見ていた一般兵が慌てて医療器具を用意し始める。
それを横目に見つつ、仰向けで倒れたショボンの下に駆け込んだ。

(;´・ω・`)「痛っ……ごめんね、ジョル――」

げ、と血の塊を吐く。
言うまでもなく、右鎖骨周辺に刻まれた傷が原因だ。
手の平ほどの大きさの傷からは、新鮮な血液がこれでもかと溢れ出ていた。

(;゚∀゚)「何で、何で俺なんかを助けたんだよ!?
     あそこで一撃見舞ってりゃ勝てたかもしれないのに!」

(;´・ω・`)「……うん、確かに、僕もそう思った。
      でも、……っ、友達だろう……?」

(;゚∀゚)「と、とも……? な、何考えて……お前は、俺のこと嫌いって……」

喋るだけで激痛が走るのだろう。
額に多量の汗を浮かべたショボンは、耐えるように歯を噛み

(;´・ω・`)「君が死ぬのを考えたら……っいつの間にか、助けてたよ。
       だったら、僕は君を友達だと……げほっ、思ってるんだ……きっと」



308: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:35:15.14 ID:8H9+v4j70
力無い笑みは、すぐさま苦痛に歪んでしまった。

(;゚∀゚)「止めろ、もう喋るんじゃねぇ……!
     お前は生きてバーボンハウスに帰えらなきゃならねぇンだ!
     俺なんかに構っちゃいけねぇだろうよ――!!」

(;´・ω・`)「……あぁ、っそうだね……僕は帰らなくちゃ」

己に言い聞かせるように頷いたショボンは、しかし予想外の言葉を吐く。

(;´・ω・`)「君と一緒に……ッ、僕らのバーボンハウスへ――」

(;゚∀゚)「なっ――」

「見た目以上に傷が深い! おい、装甲車まで運ぶぞ!!」

(;´・ω・`)「っジョルジュ……」

抱え上げられたショボンは、痛むことが解っていながら強く手を振った。
先から放られた紫色の光がジョルジュの手に落ちる。

(;´・ω・`)「……無責任だけど、あとは頼んだ。
      アイツを倒して、さ……帰ろうよ、一緒に――っ」



314: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:36:57.50 ID:8H9+v4j70
(  ∀ )「…………」

少しだけショボンを追い掛けた足を、踏みつけるようにして留まらせた。
代わりの動作として視線を落とし、握られた手を軽く開く。

紫色の指輪が、淡い光を発していた。


(  ∀ )「……なんで」


再度、握り込む。


(  ∀ )「なんでだよ……」


更に、更に、強く。


(  ∀ )「何でこんなに嬉しいんだ……?」


眉尻を下げ、小さな涙を零し、しかし不思議なことに笑みが浮かんだ。
指の間から漏れる紫光を胸に寄せ


( ;∀;)「俺なんかが、何処かに居ていいのか……?
      俺なんかが、誰かと一緒にいてもいいのか……!?」



322: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:38:21.46 ID:8H9+v4j70
汚らしい自分が存在しても良い場所。
受け入れてくれる空間を、かつてジョルジュは強く望んでいた。

バーボンハウス。

彼にとって、今までの人生の中でも特別な場所。
アルバイトという辛うじて認めてもらえるような存在だが、それでも充分に満足だった。
たとえ店主に嫌われていようとも、置いておく仕方ない理由があろうとも
『ジョルジュはここに居て良い』のならば構わなかった。

だが、ショボンは言ってくれたのだ。
友達だから、と――『居ても良い』ではなく『居て欲しい』と。

もし、それが叶うのならば

( う∀;)「だったら俺は……俺は……ッ」

涙と鼻水を拭い、顔を上げる。
もはやその目は『友達』を見ていない。

生きて帰るため。
彼と一緒に帰るため。
自分の居場所に帰るために、最大級の殺意を敵へ送る。

(#゚∀゚)「行くぜ、ショボン――絶対に帰るんだ……!!」

その時。

ジョルジュの中で錆び朽ち果てていたはずのスイッチが、音を立てて稼働した。



372: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:57:27.74 ID:8H9+v4j70
声が聞こえる。

小さく、それでいて惹かれるような声だ。

震えていた。

何か怖いことでもあるのだろう。
その正体は解らないが、きっと彼女は悲しんでいる。

「――ん……――」

聞いたことのある声。

それはかつて、一人ぼっちだった頃に聞いた。
一人ぼっちであった最後の時間に聞いたものだ。

懐かしい、と思う。

あの時、あの雨の日を境に、彼と彼女は一人ぼっちでなくなった。


彼は自棄を捨てた。
彼女は涙を捨てた。


いや、待て。
だったらおかしいのではないか。

――何故、彼女は捨てたはずの涙を流している?



375: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:58:43.27 ID:8H9+v4j70
「――く――! ――ん!」


顔に小さく冷たい感触が落ちる。
それは重力に引かれ、そのまま頬を伝って流れていった。


やはり、彼女――しぃが泣いている。

だから、彼――ギコは伝えようした。


大丈夫。
俺はここにいる。

泣くことなんてない。

お前は俺がいつだって護るんだから。
怖いものがあったら切り伏せるし、恐ろしいものがあれば叩き切ってやる。
もう一人にはさせないし、一人にはならないんだ。

だから、だから――



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