( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

226: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:24:41.60 ID:TNojT3sl0
『……へへ、こりゃあようやく運が巡ってきたんじゃねぇか?』

(`・ω・´)「かもしれんな」

多くの言葉は要らなかった。
味方してくれるのならば応じるだけである。

『我々はそちらから見ての右翼側を叩きます!
 三方向から押さえましょう!』

攻め寄ってきていた異獣群の動きに変化が生じる。
東側から参戦してきた世界政府軍が、矢のような勢いを以って切り込んだのだ。

『私達は臆病だった――!』

彼らの悲痛な声が響く。

『脅威に抗うことをせず、ただ蓋をして解決したように思い込もうとしていた――!』

後悔を元にした懺悔の声だ。

『しかし私達はすべきことを見出した! ようやく見出すことが出来た!
 人類の敵は倒す! たったこれだけのことに気付くのにどれだけ掛かったか!』



235: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:26:02.16 ID:TNojT3sl0
それは、援軍としてやってきた彼ら全員の意思を代弁した言葉でもあり

『しかし、この一戦だけは譲れない! 譲ってたまるものか!
 我ら世界を運営する統治者の軍勢! だが、その誇りさえ無くした無様な残党!
 もはや捨てるプライドは一つたりともありはしない!
 だから、だからこそ――』

確固たる決意の宣言でもあった。

『真に抗いし者達に遅れをとれど、我らの意地だけは見せつけろ!!
 総員突撃せよ……!!』

もはや一つの個となった兵達が疾駆する。
鉛弾が装填された銃器を、鉄鋼で作り上げた武器を握り締めて。
後には戦車や装甲車が続き、鉄の砲弾を叩き込む。

異獣に対して、通常兵器や武器は通用し難い。
体毛が魔力に覆われており、それが高い防御力を生み出しているのだ。
これは異獣との戦闘において定説となった理論である。

故に四世界混合軍は、魔力を主とした武器兵器を用意して戦いに臨んだ。

それに比べ、明らかに戦力として低水準である彼らで
本陣を目指す異獣の流れを止めることなど出来るわけがなかった。
なかったのだが、しかし――

《――ッ!!?》

予想だにしない一撃で吹き飛ぶ獣に、驚愕の思考が生まれる。
ただの物質による攻撃で、ここまでの威力が出せるものか、と。



248: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:27:26.71 ID:TNojT3sl0
「侮ったな獣!!」

白色の装甲服に身を包んだ兵達が笑みを浮かべる。

「一時期は秩序守護者とも手を組んだ我々に、よもや魔力知識が無いとでも思ったか……!
 人間の知的好奇心を嘗めるなよ!」

装備を見れば、確かに魔力の反応が見え隠れしている。
四世界混合軍が使用しているレベルに比べれば見劣りするが、
彼らは確かに魔力で武装していた。

決して無力ではない。

それはつまり、この戦いにおいて彼らの力も助けとなることに通じる。

「忘れてもらっては困るが、この世界の元々の守護者は我々だ!
 いつの間にかこのようなことになってしまったが――それでも責務は果たす!」

行け、という前進の意思が、彼らの気迫を励起する。
生まれた力は本来以上のポテンシャルを引き出し、更に身体を前進させた。
結束は更に引き締まり、その堅牢さを以って獣を砕き始める。

(`・ω・´)「しかしどういうことだ。 彼らはどうやって今日の戦いを知った?
      どうしてこのタイミングで来ることが出来たのだ?」

この戦いは四世界混合軍の独断である。
勝手に戦うと決め、勝手に世界の命運を背負って臨んだ戦いだ。

だというのに、どうして世界政府残党が援軍として駆けつけることが出来たのか。



257: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:28:44.40 ID:TNojT3sl0
『――簡単です』

答えは、戦いの音に紛れて返ってきた。

『貴方達に導き手がいたように、我々にも道を示してくれる人がいたのですよ』

(`・ω・´)「道を……?」

『今、新たな異獣が三方向から迫ってきていることは御存知ですね?
 ですが安心して下さい。 私達の仲間が止めるために向かっていますから』

『……お前ら、まだ他にいるのかよ?』

『言ったはずです。 我々にも道を示してくれた人がいる、と。
 もしかしたら貴方達も知っているのではないでしょうか?
 英雄の神の加護を受けた兄弟と、守護者を名乗っていた彼らのことを』

言葉に、思わずシャキンとエクストは機体風防越しに顔を見合わせた。

『おいシャキン、こりゃあもしかして――』

シャキンは逸る気持ちを抑えつつ、あぁ、と答え

(`・ω・´)「『運が巡ってきた』程度の話ではなくなってきたかもしれん……!」



267: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:30:31.83 ID:TNojT3sl0
異獣が守っている中枢部を中心として、その更に南部。
細かく言えば南東・南西方角からもまた、新たな異獣の群れが向かってきていた。
獣達は他方角を担当していた同種の思念を聞きながら走っている。

――北は止められた、と。

聞けば新たな抵抗者が現れたらしい。
力としては微々たるものだが、それによって勢い付いた人間に苦戦しているようだ。

《――――》

そのことによる動揺はない。
北が阻止されたとしても、まだ南東と南西がある。
そのどちらかが、危ういバランスを保っている現況に介入すれば、確実に人間側の崩壊が始まることだろう。

これはもはや駆け引きでも何でもない。
次々に攻撃を仕掛けていき、耐えられなくなった人間側がいつ諦めるか、という単純なゲームなのだ。

しかし、それも終わりの兆しを見せ始めている。

確かに北側は新たな人間の援軍によって防がれたかもしれないが
残る南東と南西側は無傷で目前まで迫っている。

中枢を攻めている人間は何かを企んでいるらしい、という情報もあるが
ここで南、そして更に東西に集っている人間を喰らえば問題あるまい。



276: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:31:39.98 ID:TNojT3sl0
更に速度を上げる。

獲物は目前だ。
新鮮な血肉の匂いが鼻を程よく刺激する。
自然と垂れた涎を無視し、見え始めた人の群れ目掛けて――

《――ッ!?》

次の瞬間、奇異な光景が展開された。
先頭を走っていた何匹かの獣が、頭から爆ぜたのだ。

敵襲。

全ての異獣が殺気を得て足を止める。
そして首から上を無くした同胞を見て、理解した。


――剣と、槍と、光の矢。


どこからか放たれた三種の武具が
今も新鮮な血を噴き出す死体の傍、その地面に突き刺さっている。



286: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:33:06.49 ID:TNojT3sl0
「「「――残念ですが、貴方達はここまでです」」」

続いて声が来た。
一人ではなく複数が重なった声だ。
そして、異獣達が向かおうとしてた進路上に三つの人影が降りた。


┗(^o^ )┓「かつて英雄神様に誓った忠誠」

\(^o^)/「そして授かった願い」

|  ^o^ |「果たすべきは、今」


小中大の三段背丈が並び立つ。
剣、槍、弓を手にした男三人は、『クン三兄弟』と呼ばれている英雄であった。

かつて青髪の異獣――ミリアに敗北し、英雄神に生かされた恥を背に
落としてしまった誇りを拾い、そして誓った約束を果たすため、英雄は英雄足らんと戦場に参じる。

多量の異獣を前にしながら、その姿はどこまでも泰然自若だった。



298: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:34:48.99 ID:TNojT3sl0
┗(^o^ )┓「――さて」


周囲は既に白一色で、剥かれた牙が兄弟を狙い澄ませている。

圧倒的物量差だ。
だが、この兄弟において物量という概念はさほど問題ではない。


\(^o^)/「始めましょうか」


強いか否か。

それだけだ。
強さの前に数など意味が無いも同然。
そして全て斬り払えるのは当然で、当然だからこそ無価値である。


|  ^o^ |「意味のある戦いを」




――そう、ずっと思っていた。



311: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:35:57.57 ID:TNojT3sl0
生まれ持った天性の資質故に、常勝無敗を誇っていた三兄弟。
武を極め、知を学び、洗練された連携を更に昇華していくため、連日訓練に明け暮れた。
しかし『強くなる』という純欲は満たされることを知らず、果ては無尽に戦闘を求め続ける。

東に武神がいると聞けば決闘に赴き、
西に神具があると聞けばどんな難所でも踏破し、
北に魔人が出ると聞けば退治という題目で戦いに行き
南に試練があると聞けば認められるまで何度も挑んでいった。

その間も武の錬成は怠らず、数々の技術や理論を新たに完成させ
時には技を競うため、兄弟同士で本気の殺し合いさえ行なった。


――いつからだろうか。


どのような仕事も危機も鍛え上げた体と技で切り抜けていく過程で
いつしか兄弟の中では一つの価値観が育まれていく。


――『勝利』という結果が当たり前になってしまったのは、いつからだろうか。


勝ちは当然だった。
成功も当然だった。

その喜びが薄くなっていくことに、残念ながら兄弟は気付くことが出来なかった。



320: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:37:34.32 ID:TNojT3sl0
あまりに貪欲な強さに対する欲が、
兄弟から『敗北』や『失敗』という要素を取り払ってしまったのである。
一見して不要に見えて、実は大切であったファクターを失ってしまったのだ。

結果、誇りは際限なく肥大化し、余計な贅肉を付着させていく。

もう自分達に出来ぬことはない。
あるとすれば、最大の恩師である英雄神に打ち勝つことくらいだろう。
つまり自分達よりも尊い存在は、彼のみとなる。

もはや末期ともなれば、神の言い渡す任務しか受けなくなってしまっていた。
自分達よりも劣る存在など兄弟にとっては無価値も同然だったのだから。
あのミルナやヒートでさえ、彼らの中でどれほどの価値があったか。

それを言葉にするならば、やはり『慢心』だったのだろう。
欲を、時を、生を全て高みを目指すことに注いだ彼らは
だからこそ、その過程において様々なモノを削ぎ落としてしまっていた。


――落としていく代わりに、余計なモノが誇りを覆う。


次第に醜く変貌していくプライドは、
もはや変更の効かない穢れ同然として形成されていった。
歪んでしまったそれに矛盾が生まれなかったのは、もはや奇跡とさえ言える。
いや、在ったのかもしれないが、それを認めなかっただけかもしれない。

ともあれ、その誇りは数ヶ月前に砕かれてしまうこととなる。



327: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:39:20.28 ID:TNojT3sl0
異獣を名乗る青髪の女。
人知を超えた技を扱う、世界の天敵。

修正出来ないほど圧倒的な自信を持っていた兄弟は
しかし呆気なく、抗いようのない暴力によって屈してしまう。

言い訳をするとすれば、その女の能力が半ば反則的だったことが挙げられるか。

あれはもはや人の扱う技ではない。
人以上の存在――例えば、神が使う力だ。
いくら強くても、人間である三兄弟が敵う道理はなかった。

だが、それはある意味で僥倖だったのかもしれない。

プライドを砕いたのは敵であるにせよ、
彼らは久方振りに『悔しさ』という感情を噛み締めることが出来たのだから。
天狗となっていた鼻を圧し折られ、自分がどれほど小さいかを知らされたのだから。

身体を破壊され、太った誇りを否定された経験は
三兄弟の中で眠っていた何かを再燃させることとなる。

しかし残念ながら、身体を破壊された時点で全てが無価値となってしまった。
せっかく歪みに気付いたというのに、このまま立ち上がれなければ意味が無い。

血と共に抜けていく魂が憶えたのは、ただただ無念であり
死んでも死に切れない後悔と生への切望が、兄弟を覆い尽くしていった。



348: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:42:36.95 ID:TNojT3sl0
それを救ってくれたのは、誰でもない英雄神であった。

無価値となった彼らの人生に
英雄神は己の命を引き換えとして価値を与えたのだ。
同時に、彼は最期の願いを三兄弟に託して消えることとなる。

その願いは、未だ彼らの心の中で生きている。
失ってしまったはずの『誇り』へ形を変えながらも。

┗(^o^ )┓「……理由も価値もない戦いは空虚。
       意味があってからこその、本当の戦い」

\(^o^)/「英雄神様は仰った。
      自分の代わりに異獣を倒せ、と」

|  ^o^ |「それが私達の理由――意味ある戦いなのだと、英雄神様は教えて下さった」

四世界混合軍を助けるのではない。
世界を異獣の脅威から守り通すのでもない。

ただ、願った人がいたのだ。

他でもない自分達に、願いを叶えてくれ、と言ったのだ。



352: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:43:44.95 ID:TNojT3sl0
┗(^o^ )┓「さぁ、戦いましょう」

\(^o^)/「生まれて初めての『戦い』を意味あらんがために」

|  ^o^ |「ただ愉悦のためではなく、そう――」



「「「勝ち負けなどではない、本当の価値を定めに――!!」」」



直後、三種の武具を構えた三種の『英雄』が、
視界を埋め尽くす白色の中に飛び込んでいった。



358: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:45:00.52 ID:TNojT3sl0
南西から集いつつあった異獣の群れも、
北や南東と同じように敵対存在と戦おうとしていた。
そう、ここにもまた、異獣に抗おうとしている者が出現したのだ。

( <●><●>)「――これが最後の介入です」

黒衣に身を包んだ小柄な男。
爛々と覗く両目を獣群に向け、そう呟いた。

|(●),  、(●)、|「どこまでもお供しますよ」

隣には、その和やかな雰囲気に不釣合いな大柄な男が立っている。
そして彼らの背後には、『Daddy Cafe』という看板を掲げている小さな店舗があった。

たったそれだけである。

数からして大したことのないはずなのだが、
周囲を囲う異獣は、ある一定の範囲から踏み込むことをしなかった。

まるで、二人の男の周囲に結界が張られているような光景である。



365: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:46:38.06 ID:TNojT3sl0
( <●><●>)「……貴方は来るべきではなかった」

|(●),  、(●)、|「何を仰いますか。 私達は三人で秩序守護者なのですよ?」

だが、そこに立っているのは二人である。
かつては三人だったが、それも途中で欠けてしまった。

――異獣と戦い、果てた女騎士が。

|(●),  、(●)、|「一蓮托生。 何をするにも、そして死ぬ時も同じです。
         時間は違えど理由が同じならば、きっと私達は同じなのですよ」

( <●><●>)「下らない感情論ですね」

|(●),  、(●)、|「ですが、貴方はここにいる」

( <●><●>)「秩序守護者としての責務を果たすためです。
         ここで異獣を逃がせば、きっともう誰にも止めることが出来なくなる」

僅かに俯き

( <●><●>)「古い過去から放たれた大呪が、目前まで迫ってしまっているのです。
         あの忌まわしき事件『アスキーアーツ』を起点とした、あの――」

しかし彼はそこで口を噤んでしまう。

今、何を言おうとも何も変わらない。
あの狂った人間が生んだ呪いが、ここで消えてくれるわけでもない。
そう思い直したからだ。



375: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:48:19.14 ID:TNojT3sl0
( <●><●>)「……好機なのですよ。
        異獣がここまで隙を見せるのは初めてですし
        何より、重要なファクターが不自然なほどに揃っている」

四世界分の戦力と結束。
異獣に有効な魔力を主とした数々の武器。
完全に対異獣を想定した決戦兵器。
そして

( <●><●>)「果たして一体何の因果か、クレティウスまでもがいる。
        伊達に最後まで生き残った種ではないということでしょうか。
        彼もまた我々と同じく、幾多の時代と世界を渡り歩き、異獣を追い求めた流浪者です」

|(●),  、(●)、|「とは言いつつ、明確な協力はしないのですね?」

( <●><●>)「私達がやったことをお忘れですか。
        今更、手を貸すと言っても信用されないでしょう」

全ては秩序を守るためだった。
大きくなり過ぎた異獣を倒すのではなく、事前に被害を防ごうとした。
渡辺達の方法ではなく、むしろあのリトガーと同じタイプのやり方だったのが大きな差異だが。

それを理解してもらう必要はなかった。
人と人以外が解り合うなど、どの時代、そしてどの物語でもありえない。

過程はどうあれ、とにかく守れればよかった。

その点だけで言えば、ある意味で彼は秩序守護者として完全と言えたかもしれない。
人知れず世界を救うという存在は勇者や英雄ではなく、ただの無であることを体現しているのだから。



382: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:49:44.03 ID:TNojT3sl0
( <●><●>)「だからこのように……まぁ、言い方を悪くするならばコソコソと手伝うようなことをしているのです」

|(●),  、(●)、|「しかし卑下することはありません。
         貴方も世界を救う礎の立派な一欠片ですよ」

( <●><●>)「……そうなれるのならば、どれほど喜ばしいことか」

布越しに腕を見る。
かつてはあったはずの膨大な力が、ほとんど失われていた。

( <●><●>)「この戦いに介入することを伝えたら、彼に言われました。
        『死人に貸す力はない』、と」

|(●),  、(●)、|「妥当な判断ですねぇ」

( <●><●>)「おかげで自身の力のみで戦わなくてはならない。
         つくづく思いますよ。 自分の力を持っておけばよかったと」

羽織ったフードの下部に見える口が、小さく吊り上がる。
それは『苦笑』という表情に似ていた。

( <●><●>)「己の知と力のみで空間操作術式――『概念』を操る術を編み出した貴方のように、ね」

同じように、ダディも眉をハの字に歪める。

|(●),  、(●)、|「昔の話ですよ。 私が『大魔術師』などと呼ばれていたのは。
         今はただのカフェの店長です」



395: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:51:26.79 ID:TNojT3sl0
かつて、この世界とはほとんど関連のない世界があった。
今も現存しているのかもしれないが、離れたダディにとってはどうでもいいことである。

ただ、そこで彼は一つの術を究めたことがあった。

元々から『空間』という曖昧な概念を捉えるのが上手かった。
その才能は幼少時代に役立つことこそまったくなかったが
成熟し、ある程度社会に馴染んできた頃には自他共に『異変』として認識され始める。

とにかく、尋常ではなかった。

実際に見ていないのに、ただその地図や情報を見聞きしただけで
その景色を写実的な絵画として描けるのはダディだけだろう。

元より自然科学や地理、地学などに精通していた、という理由もあるが
それよりも何よりも、ダディは抜群の『空想力』『認識力』『推測力』、それを『保持』する能力に長けていたのである。

つまり彼――ダディを語るにおいて大切なのは、空間操作という能力だけではない。

彼は事前に情報さえ手に入れてしまえば、
『見たこともない場所』の空間さえも操ることが出来る、という事実こそ
彼を表わすという点で避けては通れぬ特異点なのだ。



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