( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

406: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:52:54.96 ID:TNojT3sl0
不滅世界やその他の世界に行く前、
ダディは偵察に出向くワカッテマスやダイオードに、必ず一つの注文をした。

――この世界の詳しい歴史を教えてほしい、と。

書物でも何でもよく、とにかく出来るだけ詳しい情報が欲しかった。
理由は言うまでもない。
まだ見ぬ空間の操作を確実にこなすためだ。


世界とは『要素』で構成されていることを御存知だろうか。


大まかに言ってしまえば『土地』『動物』『文明』。
この三つの歴史さえ理解してしまえば、その世界で語れぬことなど無くなってしまう。

土地ならば地形や気候、その関係性。
動物ならば種族や分布、それぞれの特性。
文明ならば歴史や政治経済、宗教や技術進化。

ダディはそれら(本来はもっと細かく分類されるのだが)の情報を欲した。
手に入れた後はしばらくカフェに引きこもり
情報を元にして、その世界を自分の中に推測しながら作り上げていく。

そうして出来上がった『世界観』を、ダディは自在に操ることが可能となったのだ。
彼がカフェという大きな店舗を出し入れすることが出来るのは、このためである。



416: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:54:37.96 ID:TNojT3sl0
|(●),  、(●)、|「空間操作とは、いわば空間の『質』を変更することの出来る術」

先ほどから異獣が、ある一定の範囲から近付いてこない理由。
それが『ただ店舗を出し入れする』という現象からきているわけがなく。

|(●),  、(●)、|「――本来の力を御見せしましょう」

《ッ!!?》

言った途端、属する空間が激変した。
敵が近付けない空間範囲を少し広げ、それに巻き込まれた異獣の身体が破裂したのだ。

|(●),  、(●)、|「もうこの戦場の『空間』は私の意のままです。
         世界交差による地形変動の解析に少し時間が掛かった上、多用は出来ませんが。
         所詮、非戦闘用の技術というわけですね」

( <●><●>)「しかし、それでも今となっては有用です」

黒衣の中から武装と取り出す。
やはり黒に染まった形状は槍だ。
男の身長からしてみれば丁度良いが、それは一般的に短槍と呼ばれる部類の武器である。



428: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:56:30.70 ID:TNojT3sl0
|(●),  、(●)、|「さて――」

解っている。
たとえダディの空間操作が強力で、
ワカッテマスの戦闘技術が高くても、


……私達は、この戦いで、きっと果てる。


予知に近い予感。
秩序を読み取り、未来すら言い当ててきた彼の最後の予言がそれだった。

( <●><●>)「――さぁ、世界を救いましょうか」

ダディが魔力を編み上げ、ワカッテマスが槍を軽く振り回す。
直後、痺れを切らした異獣の波が彼らに殺到した。



438: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:57:45.34 ID:TNojT3sl0
本陣の一角に、そのテントはあった。

周囲には、使用度の低い物資が放置されている。
数人の見張りがいる以外は誰もいない。

( ・∀・)「…………」

陣地の中で外側に近い方角に位置するそこに、モララーの足が向いていた。

「あ」

銃を片手に提げた兵が接近に気付く。
緊張した面持ちは、本陣に迫っている異獣を知っているからだろう。
敵よりも早く、そしていきなり現れたモララーに慌てて背筋を伸ばした。

( ・∀・)「彼女はここにいるね?」

「は、はい」

( ・∀・)「ありがとう」

不思議そうに首を傾げる兵を背中に、
モララーはしっかりとした足取りでテントへと向かう。



445: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 21:59:30.32 ID:TNojT3sl0
( ・∀・)「…………」

閉じていた入口を開いた先にある内部は、暗く静かだった。
簡素で小さなベッドが中央に一つあり、
その周囲には同じような機械が配置されて、それぞれが駆動していた。

ベッドの上には人が横になっている。

テントに入り込んだモララーは、中央上にある小さな電灯を操作した。
薄い光の中、照らされたのは――

爪 - )「――――」

全機能を凍結しているジェイルだった。
腕を胸の上で組んで死んだように眠る姿は
周囲を囲う無機質な機械を除けば、御伽噺に出てくるような光景である。
それほど、テントの中の空気と時間が凍りついていた。

死んだように、とは言ったが、厳密に言えば彼女は死んでいる。

機能を停止している時点で機械は動かない。
スリープモードなら文字通り眠っていると言えるかもしれないが
外部からの干渉がなければ動くことが出来ない状態ならば、それは死と同じだ。

機械に対する人間の行為を、たまに『神の真似事』だと言う人がいる。
つまりマシン=人間、機能を停止させること=死、そして修復して再起動させること=再生である。
ただ決定的に異なるのは、神は人を二度と生き返すことをしない、ということであった。

そういう意味で言えば
モララーがジェイルに施している処置は、神への冒涜である。



452: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:00:53.94 ID:TNojT3sl0
( ・∀・)「…………」

爪 - )「――――」

一方が動くことなく、一方が黙っていれば無音となる。
そのままモララーは音もなく歩き、ジェイルの傍に寄った。

( ・∀・)「…………」

無言で見下ろす姿は今にも消えてしまいそうで、
眠る彼女に、最後の言葉を残しに来た幽霊のようにも見えてしまう。
布の擦れる音が響き、モララーの手がジェイルの頬を撫でた。

( ・∀・)「私の選択が誤っていたことを、今更ながら謝罪したい」

もう随分と昔に思える。
英雄三兄弟や秩序守護者がFCへの襲撃を行なった、あの時。
都市ニューソクへ転移させられてしまったブーン達を護れ、とジェイルにそう命じた。

今思えば、彼女は微かに躊躇していたような気がする。

主人である彼の言うことだけを忠実に聞く彼女が、
その命令だけ、聞き受けることを躊躇ったのだ。

予感があったのかもしれない。
あるいは、彼女の中での自分の大きさを計り違えていたのかもしれない。

どちらにせよ、それを見極めることが出来なかった自分が情けなく思えた。



461: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:02:52.64 ID:TNojT3sl0
( ・∀・)「行ってくるよ。
     君の淹れたコーヒーを飲めずに臨むのは残念だが、帰ってきた時には是非。
     それと……また、私の呼び方を教える日を楽しみにしている」

絹のような滑らかさを持つ人工髪を撫で、モララーは小さく呟く。

言うべきことは言った。
謝罪も、そして再会の後の約束もした。


――もう、ここにいることに意味はない。


言葉ではなく行動で示すように、そして逡巡する様子すら見せずに背を向ける。

ポケットの中にある指輪の感触を確かめながら
モララーは一度も振り向くことなくテントから出ていった。



474: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:04:24.62 ID:TNojT3sl0
川 -川「――良いのですか?」

外へ出てから、人の気配が無いことに気付いたモララーが苦笑した時。
いつからいたのか、背後から貞子が声をかけてきた。

( ・∀・)「……君は私のストーカーかね」

川 -川「いえ、違います」

( ・∀・)「マジ返しとはやるな……ううむ」

なにやら考え込み始めたモララーを無視し

川 -川「何か伝言があるのならば、記憶しておきますが」

( ・∀・)「……どういう意味かね?」

川 -川「遺書と言えば早いでしょうか。
     貴方は、今から臨もうとしている何かで命を落とすかもしれません。
     だとすれば後に残された者のために言葉を置いておくべきかと」



482: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:05:29.03 ID:TNojT3sl0
あまりに真っ直ぐな言葉に、モララーは苦笑の色を濃くする。
大袈裟に肩をすくめて

( ・∀・)「残念ながら君の言うことがよく解らないな。
     置いていく言葉など、強いて言えば『行ってくる』だけで充分だと思うが?」

川 -川「本当にそう思っているのですか?
     死ぬかもしれない、もう会えないかもしれないというのに」

( ・∀・)「『死ぬかもしれない』などと思いながら戦いに赴く奴は、大馬鹿野郎だと思うがね。
     生を100%本気で望めないのなら、それこそ死にに行くような――」

川 -川「――残された人の気持ちを考えたことがありますか?」

静かな声が、モララーの声を遮った。
声の大きさで塗り潰したのではない。

川 -川「貴方は自分がいなくなった世界が、どれほど悲しいのか理解していないのですか?」

( ・∀・)(そうか……彼女は――)

川 -川「消える、と言ってから消えるのならまだ良いでしょう。
     ですが知らない内に死なれた気持ちを、考えてみては如何でしょうか」

でしょうか、という言葉の柔らかさの割に
彼女から発せられる気配は冷たく鋭い。

( ・∀・)(これは下手な答え方をすると殺されかねないね)



487: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:06:49.74 ID:TNojT3sl0
現場を見たわけではないが、貞子は渡辺を不本意に失っている。
人間ならばともかく機械人形である貞子にとって、主という存在がどれほど大きいものであるか、
そしてそれを考えた場合、今彼女がこうやって破綻せずに行動出来ている奇跡の価値とは――

――成程。

自我のようなモノを得ているのは既に解っている。
でなければ寄る辺である渡辺を失った時点で、致命的な不調が起きていなければおかしい。

ということは、おそらく渡辺の『代わり』を手に入れているのだ。

精神的な言葉や在り方なのか、物品なのかは解らないが
今の貞子はそれを一番大切に考えているはず。
つまりモララーに突っかかってきた理由とは、

( ・∀・)(……許せないのか、私を)

誰にも言葉を残さずに行こうとすることが、貞子にとっては許し難い行為なのだろう。

その悲しみを知っているからこそ嫌悪するのだ。
モララーに向けられる冷たい気配から、同じ気持ちを味わう人を出したくない、などという聖人的な理由ではなく
それは違うから止めろ、といった酷く乱暴な理由だと推測出来た。



493: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:08:09.50 ID:TNojT3sl0
川 -川「貴方が死のうが生きようが構いません。 知りません。
     ですが自分を大切に思う人に対して、勝手に違う場所へ行くのは間違いです」

( ・∀・)「間違い、か」

川 -川「はい」

( ・∀・)「間違いとは何なのだね?」

川 -川「私は人間ではないので正誤を断ずることなど出来ません。
     ただ学習しただけです。 理由など無い。
     それが『間違っている』としか解りません」

やはり、と思う。
理屈ではない。
この人形には、『それ』しか無いのだ。

だから、必要以上に大切にする。
蔑ろにする者を許せない。

( ・∀・)(純粋、としか言い様がないか。
     失っているからこそ不変となった感情だけを認めている。
     だがそれでは、まるで――)


――ただの機械ではないか。



501: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:09:43.85 ID:TNojT3sl0
川 -川「…………」

自我を得ているかもしれない、という話はデフラグから聞いている。

だが、そう見えた理由を考えてしまえば、これほど皮肉なこともない。
幸いだったのは、貞子本人がそれを理解出来る『人間』ではなかった、というところか。

( ・∀・)「君は……どこまでいっても機械なのか。
     感情を手に入れても、人間にはならないのだね」

川 -川「肯定です」

( ・∀・)「何も変わらず、何も受け入れず、『そのまま』を良しとする……まさに不変の機械、か」

否定することは出来なかった。
機械が機械だと主張しているのだ。

それ自体が役割としている相手を、否定など出来るわけがない。



509: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:10:36.59 ID:TNojT3sl0
( ・∀・)「しかし……悪いが、やはり私からは何も言うことなどない」

川 -川「何故ですか?」

( ・∀・)「生きに行くのに、死んだ後の言葉を残す必要があるかね?」

川 -川「馬鹿ですか貴方は」

( ・∀・)「ストレートに言われると流石に傷つくね……」

言いながら、はははと軽快に笑う彼は、一体どこに傷を負ったのだろう。
本気でそう考えかける貞子だったが、この男に真面目に取り合うと馬鹿を見ることを思い出したので
とりあえず無視して様子を見ることにした。

( ・∀・)「ジェイル君だって遠回しに『病院へ行ったら如何でしょうか』とか
     『馬鹿が治る薬が三十万で売っていますが買っておきましょうか』とか
     そういう戯れレベルだったというのに……っ」

川 -川(……彼女も機械人形ですから、おそらく本気だったのでは)

( ・∀・)(……最近の機械人形には空気を読む機能がついているのか)

難敵だな、と互いに認識し合ったところで、二人は改めて視線を交わす。

どちらも言っていることに本気であることに疑いはないが、
さりとて、このまま膠着状態が続くのは非常に好くない。



520: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:12:24.90 ID:TNojT3sl0
事態は刻一刻と変わっている。
モララーからすれば、さっさと決着をつけて本陣に帰りたいところなのだが。
と、強情である機械を相手にどう説き伏せようかと思考し始めた途端、貞子は言った。

川 -川「……では、誓って下さい。 必ず生きて帰ってくる、と」

( ・∀・)「最初からそう言っているではないかね」

川 -川「あの因果を逆転する槍が手元にあれば、
     機械世界の技術で手を加え、結果を先に見ることも出来たのかも知れませんが……。
     まぁ、無いモノをねだっても仕方ない話でしょう」

( ・∀・)「勝手に人の私物を改造してはいけないよ?」

川 -川「? あぁ、まだいたのですか?」

( ・∀・)「……えー」

もはや興味を無くしたのか、貞子はそっぽ向いて思考を開始してしまう。
つまりそういうことかと判断したモララーは、改めて苦笑し

( ・∀・)「じゃあ、行ってくるよ」

と、散歩にでも出かけてくるような軽さで決着の場へと歩いていく。
対し、貞子は

川 -川「……いってらっしゃいませ」

それが義務だというように、深く頭を下げて見送った。



526: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:13:49.53 ID:TNojT3sl0
気配は粘つくような湿り気に満ちていた。
モララーだけに向けられた、濃密で纏わりつく視線に等しい。

( ・∀・)「…………」

それを辿っていくと、ある場所に辿り着くこととなる。

本陣から少し離れた戦場の一角だ。
だが、どのような計算をしても意味を持たない場所でもある。
そこは、戦術的に考えても価値がない『戦場の死角』と言われる位置だった。

男がいる。

こちらに背を向け、両刃の剣を腰に下げて何をするでもなく立っている。
野戦服に似た服を着ているが、その肩部などには装甲板が取り付けられており
ぱっと見、軽装なサイボーグにも見受けられた。

( ・∀・)「やぁ、待たせたね」

( ^Д^)「ふン……今まで随分と待ってきたんだ。
     『来る』と解っていた以上、この程度は待った内に入らん」

変わらない笑みを浮かべた顔が、こちらへ振り向いた。



537: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:15:19.16 ID:TNojT3sl0
モララーの命を狙う、危険な男。
元々は世界政府お抱えの特殊部隊『ラウンジ』の一員で
それなりの地位にいたらしい。

( ・∀・)「君は確か部隊を指揮する立場の人間だったね。
     部下はどうした?」

( ^Д^)「案ずるな。 お前の軍を援護するよう言ってある。
     お前の味方をするつもりはないが、俺は人間側なんでな」

( ・∀・)「……そうか。 ありがとう」

( ^Д^)「気持ち悪いから止めろ。 ついでに死ね」

( ・∀・)(改めて見ると何も変わっていないな、この男は)

高校時代の『あの事件』以降、モララーとしては出来るだけ避けたい人物であったが
世界交差を企んでいた渡辺と関わってから、それを警戒し始めた世界政府に
そして引いてはこの男に睨まれた、というわけである。

( ・∀・)(まぁ、決着がつくのなら望むところだが)



540 名前: ◆t60sM62oeM 投稿日: 2008/02/20(水) 22:15:51.65 ID:zT8/Avr3O
気配は粘つくような湿り気に満ちていた。
モララーだけに向けられた、濃密で纏わりつく視線に等しい。

( ・∀・)「…………」

それを辿っていくと、ある場所に辿り着くこととなる。

本陣から少し離れた戦場の一角だ。
だが、どのような計算をしても意味を持たない場所でもある。
そこは、戦術的に考えても価値がない『戦場の死角』と言われる位置だった。

男がいる。

こちらに背を向け、両刃の剣を腰に下げて何をするでもなく立っている。
野戦服に似た服を着ているが、その肩部などには装甲板が取り付けられており ない場所でもある。
そこは、戦術的に考えても価値がない『戦場の死角』と言われる位置だった。

男がいる。

こちらに背を向け、両刃の剣を腰に下げて何をするでもなく立っている。
野戦服に似た服を着ているが、その肩部などには装甲板が取り付けられており
ぱっと見、軽装なサイボーグにも見受けられた。

( ・∀・)「やぁ、待たせたね」

( ^Д^)「ふン……今まで随分と待ってきたんだ。
     『来る』と解っていた以上、この程度は待った内に入らん」

変わらない笑みを浮かべた顔が、こちらへ振り向いた。



544: ◆BYUt189CYA :2008/02/20(水) 22:16:46.88 ID:TNojT3sl0
そろそろ頃合いだとは思っていた。
もう十年も前のことを、いつまでも引き摺りたくなかった。
下準備として、そして後のことを考え、実の父を殺してまで怨念の連鎖を断ち切ろうとした。

――たった一人の女が死んだだけで、それ以上の悲しみを生み出してたまるものか。

死は一人一回である。
だからこそ尊ぶべきなのだ。
人は死を通じて命の大切さを学ぶのが通例であり、
死は時に、生きて何かを残すことよりも大事な出来事となり得る。

モララーは、『彼女』の死を通じて学習した。
自分の矮小な考え方に恥を覚えた。
親に依存して生きることが、心の底から嫌になった。

だが、それが解らない大馬鹿者が目の前にいる。

( ^Д^)「…………」

――プギャーは、あの後も悲しみを忘れなかった。

それはいい。
死は記憶すべきだ。
人の心から残滓すら消えた時、その人は本当の意味で死ぬ。
つまりプギャーの行為はむしろ褒められるべきだ。



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