( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

5: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:02:55.38 ID:iFGjxXYh0
第五十三話 『ラストメンバー』

その瞬間、戦場から全ての音が消えた。
四方で響いていた、激闘と言える戦いの音が同時に止んだのだ。



東では、赤髪の異獣が身体を両断され

西では、銀髪の異獣が存在を消去され

何処かでは、男が恨みを晴らして死に

南では、青髪の異獣が矜持を粉砕され

北では、傀儡の異獣が呪縛から解放された。




「「――――」」



これは、その結果である。



6: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:04:39.68 ID:iFGjxXYh0
沈黙は数十秒も続く。

誰もが、己の成し遂げたことを実感するのに時間を必要としたのだ。
そして、かつてあったはずの絶望を払拭するように

「……やった、のか?」

と、小さな、そして強い笑みと一緒に誰がが言い

「あ、あぁ……」

「だよな? な? な!?」

「お、おお……確かに俺はこの目で見たぞ!」

「やったんだ! アイツらがやってくれたんだ!」

わ、と戦場に明るい色の声が湧いた。
四方に出現した別格級の敵を、全て倒してくれた者達がいるのだと理解したのだ



9: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:06:33.44 ID:iFGjxXYh0
「通信機能、回復しました!
 おそらくジャミングをかけていた異獣が倒されたのかと……!」

「よし、各隊との連絡だ! 現状を把握する!」

キビキビと命令を送り始めるのは東軍の小隊長だ。
右肩部から血を流しながらも、瞳に意志を込めて命令を出していく。

だが、それに割り込む声があった。

(,,-Д゚)「……待て。 それもいいが、優先すべきことがある」

「ギコさん……!?」

隊員が驚くのも無理はない。
しぃに支えられて立つギコは、両足が折れ砕けているのだ。
ただでさえ異獣を倒すのに無理をしており、本来なら絶対安静なはずなのだが。

ちなみにジョルジュとは応急処置を受けている頃だろう。
両手の全ての指を折っている彼は、それでもまだ戦うつもりらしい。

レモナはリベリオンの傍で、出来る限りの修理と整備を行なっているはずだ。
ショボンは戦いの途中から戦線離脱して衛生兵に任されているはずだが、どうなったのかは聞いていない。



13: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:08:05.11 ID:iFGjxXYh0
「怪我は大丈夫なのですか!?」

(;*゚ー゚)「え、えっと……」

(;,,-Д゚)「……大丈夫なわけがないだろう。 今すぐにでも倒れたいくらいだ。
      だが、やってもらわねばならんことがある」

何を、と隊員が言う前に、ギコは後方を見る。
そこには東軍が苦労して運んできたトレーラーがあり、

(,,-Д゚)「持ってきたミラーを展開しろ。 今すぐだ。
     おそらく本陣の方では準備が進められているか、既に完了している」

「な、何故そのようなことが……?」

問われたギコは、苦痛に耐えながら笑みを浮かべ

(,,-Д゚)「――非常に気に入らんが、アイツはそういう奴だからだ」

と、強く言った。



20: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:09:24.68 ID:iFGjxXYh0
闘志みなぎる東側に対し、西側は比較的暗いムードに包まれていた。

連続する戦いに疲労しているのもあるが、
それよりも何よりも、失ってはならない人を失ってしまった精神的ダメージが大きい。
特にこの世界の生まれで、意気消沈してしまっている者も多かった。

気持ちが解らないでもない他の世界の者達だったが、
同時に、今という状況で作業能率が下がるのはどうかという意見も少なからずあった。
だが、

('、`*川「ま、放っておきなさい」

というのが、全体指揮を執るペニサスの意見だった。

('、`*川「彼らの悲しみは彼らにしか理解出来ないもの。
     立ち直る人もいれば、難しい人もいる。 それは私達が導けるものじゃないわ」

「……そうですね。
 今の今まで生きていた人が突然消えるというのは、筆舌に尽くし難い衝撃がありますから」

('、`*川「んでも、復帰出来た人がいれば何も言わず手伝わせなさいな。
     彼らもきっと、それを望んでるわ」

「了解です」



24: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:11:00.55 ID:iFGjxXYh0
( ´_ゝ`)「……だが、もうドクオは動けんかもしれんな」

(´<_` )「俺達はこうして感情を押し殺すことも出来るが、アイツは……」

弟者が心配そうに見るのは一台の装甲車だ。
ツンとフサギコを巻き込んで砲撃してしまったドクオは、あの中で塞ぎ込んでしまっている。
面倒を見ている兵の報告では、もう何度も嘔吐しているらしい。

('、`*川「難しいところね。
     でも彼は生きている。 どうしようもなく」

( ´_ゝ`)「復帰することがある、と?」

('、`*川「この戦いでは無理かもしれない。
     でも、上手くいけば未来はまだまだ続くのよ?」

(´<_` )「……そうだな。 別に今すぐ復活しなきゃならんわけじゃない」

( ´_ゝ`)「そして、まだ戦える俺達がせめて道を作らにゃな。
     若いモンのためにも」

うんうん、と頷いたペニサスは、すぐ背後でフレームを持ち上げていくトレーラーを見る。

展開していく巨大ミラーは命懸けで運んできた機材だ。
戦場の中心であり、敵の中枢を守る結界を破壊するための切り札でもある。

('、`*川「さぁて……どうなるかしらね」



31: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:12:38.73 ID:iFGjxXYh0
( ゚д゚ )「やはり使えそうにないか」

「はい。 ミラーの大部分も割れてしまっています。
 せめて本体が無事なら人力で展開も可能だったんですが……」

南側の戦場では、破壊されたトレーラーの周囲に人が集っていた。
中心にいるのはミルナで、残骸を調べている隊員の言葉に耳を傾けている。
ミリアによって破壊されたトレーラーを何とか再利用出来ないかと相談してみたのだが
機材に詳しい一人の兵は、諦めたかのように首を振った。

「おいおい……じゃあ、ミラーだけでも修復出来ないか?」

「難しいですね。 角度がシビアですし、そもそも修理の時間もない」

「待て、俺達が鏡になるってのはどうだ?
 全員で肩車して鏡の破片持って『合体!ミラーウォール!』みたいな」

「えぇ、控え目に言わせてもらいますと死んでいいですよ?」

( ゚д゚ )「……ここまできて使えんとは悔しいが、諦めるしかないな」

南が駄目だとすると、他の地点が無事だとしても総数三枚。
確か戦う前、ミラーは最低でも三枚必要だと聞いていたのだが、他は無事なのだろうか。



38: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:15:06.65 ID:iFGjxXYh0
( ゚д゚ )「ともあれ、こうなったらやるべきことは一つ。
    結界が破壊されたと同時に突入するための準備を進めよう」

「「了解!」」

ノハ#゚  ゚)「――ミルナ」

( ゚д゚ )「ヒート……? もういいのか?」

ノハ#゚  ゚)「うん。 いつまでもこんな時に悲しんでいたら、きっと彼女に怒られてしまうから。
      弔いも泣くのも、全てが終わった後にするつもり」

( -д- )「……そうだな。 それがいい」

ミリアの一撃を喰らって気絶していたミルナとヒートは、目覚めた時の状況にひどく驚いた。
程なく離れた場所に半分ほど灰化したミリアと、それに跨る軍神の姿があり、
両者の腹部にはブロスティークが突き刺さっていたのだ。

慌てて駆け寄ったが、既に軍神の生命活動は終わりを告げた後だった。

その身体には無数の傷が刻まれており、どれほど激しい戦いだったのか想像すら難しかった。
一体何をどうやったらあんな決着のつき方になるのか解らず
全てを知っているであろうブロスティークも、もう言葉を発することはなかった。

彼女の遺体は今頃、衛生兵達の手によって丁重な扱いを受けているはずである。
それを見届けるべきかとも思ったがヒートの言う通り、今は前を見るべきだ、と思い直した。



46: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:18:17.98 ID:iFGjxXYh0
( ゚д゚ )「計画通りにいけばもうすぐ決戦だが……まだ戦えるか?」

隣に立つ彼女を見る。
槍と包丁刀を破壊された腰元は、少々心許ない。
しかし、ヒートは強く頷いてみせた。

ノハ#゚  ゚)「大丈夫。 武器が無いわけじゃないから」

その右手には――

( ゚д゚ )「――ブロスティーク、か」

ノハ#゚  ゚)「もう何の能力も持っていないただの大剣だけどね。
      でもまだ残留魔力を纏ってるみたいだし、使えるよ」

( ゚д゚ )「お前は強いな」

ノハ#゚  ゚)「冗談。 これでもさっき泣いてきたんだから」

( ゚д゚ )「だから強いんだ。 泣いたが、もうここに立っている。
     何があっても前に進もうとする意志があるんだ。
     俺は、そんなお前が大好きでな」

素気なく言われた言葉に、ヒートは軽く肩をすくめ

ノハ#゚  ゚)「知ってるよ。 昔からね」



52: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:20:30.55 ID:iFGjxXYh0
ロマネスクを撃破した北の戦場では、既にミラーの展開が終わりつつあった。

「全工程の九十%を完了!
 あと三分もあれば全ての準備が整います!」

<ヽ`∀´>「別格の異獣が倒れたとはいえ、油断せずに作業を続行するニダ」

現在のところ北軍の指揮はニダーが執っていた。
ヘリカルはカートリッジの補給と、ついでに哨戒へ出たらしい。
そして皆が駆け足で作業を続ける中、一つの簡易医療テントの中では、

( ´ω`)「あうあう……」

と、ブーンが両方の鼻にティッシュを詰め込んで寝転がっていた。
すぐ傍にはクーが座っており、医療器具の入った箱を漁っている。

川 ゚ -゚)「鼻血だけでなく発熱、そして身体の各末端部に内出血……無理のし過ぎだな」

( ´ω`)「申し訳ないお……」

川 ゚ -゚)「短時間に限界突破を四回も使い、その内二回は連続使用。
     下手をすれば数時間どころか数日も動けなくなったかもしれんのだぞ」

( ´ω`)「…………」

川 ゚ -゚)「……だが気持ちは解らんでもない。
     そして、その程度で済んで良かった」



56: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:22:22.17 ID:iFGjxXYh0
ブーンを診た衛生兵とクレティウスによれば発熱は一時的なものらしい。
身体に大きな負荷が掛かったためだが、それが一瞬一瞬だったのが幸いしたのだ。
もし長い時間使うような限界突破だったら、もうこの戦いに復帰することは出来なかったかもしれない。

安堵と、心配させてしまった罪悪感を内包した溜息を吐いていると
箱から何かを取り出したクーが、ブーンの首筋に手を当てた。

川 ゚ -゚)「確か鼻血を止めるには釘をこう、首の、この角度を狙って……いいか?」

( ´ω`)「どの角度からでもよくないお……殺す気かお?」

川 ゚ -゚)「ふむ、意識は正常を保っているようだな。 よしよし」

一体どういう確認の仕方だ、と思うが
くらくらする頭と意識がなかなか言葉を発すること許してくれない。

と、その時、甲高い電子音がクーの懐から鳴った。

川 ゚ -゚)「む」

( ´ω`)「それは……?」

川 ゚ -゚)「集合コールだ。 どうやらミラーの展開が終わったらしい」

モララーの性格を少なからず知っているクーは
回復した通信に乗ってくる本陣からのメッセージを受け取るよりも早く、ミラー展開を北軍に命じていた。
そんな中でクーがブーンの看病をする暇があったのは、既に周囲の異獣の掃討が終わっていたからだった。

しかし、これよりは最大限の警戒をしなければならない。
結界を消滅させるためのミラーが破壊されてしまえば、こちらに勝機は無くなる。



58: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:24:14.00 ID:iFGjxXYh0
川 ゚ -゚)「少し安静にしていれば直に良くなるらしい。
     そうしたら、すぐに手伝いに来てくれ」

( ´ω`)「あいおー」

テントから出るクーの、その後ろ髪を引かれる様がよく解ったブーンは
大切に思われているという事実を噛み締めるように額に手を当てた。
そこで待ちかねていたように、新たな声が掛かる。

『――君は幸せ者だな、内藤ホライゾン』

( ´ω`)「おっおっ……ありがたいことだお」

『彼女の気持ちを受け止めるつもりがあるのなら、全力で護ることだ』

( ^ω^)「……クレティウス?」

これは珍しい。
戦闘時以外はほとんど口出ししない彼が、人間関係に意見するとは。
だからブーンは滅多にないチャンスを活かすため、思ったことを口にする。

( ^ω^)「もしかして君も、大切な人がいたのかお?」

問い掛けにクレティウスは沈黙を返した。
ただしそれは拒絶ではなく、躊躇の沈黙だ。
しばらくして、彼(?)は独り言でも呟くように言う。

『……いたとも。 そして、いるとも』



62: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:25:39.24 ID:iFGjxXYh0
( ^ω^)「? どういうことだお?」

『一人は、もうどの世界にもいない。
 もう一人は、どこか遠い世界で今でも待っているかもしれない。
 約束をしてしまったからな』

(;^ω^)「……君は、やっぱり」

『あぁ、元は君達と同じ人間だった』

静かに放たれた言葉は、しかしブーンが密かに予想していたものだった。
機械とは思えない感情を持ち、そして異獣を追う執念は、どこからどう見ても人間のものだったからだ。
今まで教えてくれることのなかった情報に高揚するのを自覚しつつ、ブーンは更に質問を続ける。

( ^ω^)「じゃあ、君が異獣を求めてここへ来たのは――」

『生前……と言えるものか解らないが、やり残したことがあった。
 だから世界を越え、渡り、ここまで来た。
 そして君達の助力のお陰で、もう目的は目の前だ。 礼を言う』

( ^ω^)「そうだったのかお……」



70: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:28:37.84 ID:iFGjxXYh0
何か込み入った過去がありそうだった。
しかし今それを聞く時間、そして資格も自分には無いだろう、と感じたブーンは、

( ^ω^)「それじゃあ、頑張らないと」

『?』

( ^ω^)「待っている人がいるんだお? 約束してるんだお?
      だったら、異獣をぶっ飛ばして会いに行かなきゃダメだお」

クレティウスはすぐに返事を返さなかった。
少しの沈黙。
独特の空気に、ブーンはクレティウスの状態を理解した。


……これはきっと、『きょとん』としているのだろう。


本当に珍しいことがあるものだ、とニヤけ顔になるのを我慢しつつ返答を待っていると
やがてクレティウスは、今までにない柔らかな声で言った。

『――あぁ、そうだな。 そうだと良いな』



74: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:30:24.70 ID:iFGjxXYh0
クーがテントから出ると、既に周囲は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

設置展開したミラーを守るため、全員が緊張した面持ちで持ち場につこうとしている。
その中を掻き分けるように移動したクーは、トレーラーの傍に立っているニダーへ近寄った。

川 ゚ -゚)「状況は?」

<ヽ`∀´>「現在、ミラーは合計三つ展開しているニダ。
      南は戦闘中に破壊されてしまったらしいニダ」

川 ゚ -゚)「そうか……」

聞けば、南は他三方を凌駕する激戦だったという。
何名かの死人や怪我人は出たものの、全滅を免れただけでも幸いなことだろう。

*(‘‘)*「ってことで、あと三枚で何とかしないといけないんですが……。
    あの変な博士は大丈夫って言ってましたよね?」

川 ゚ -゚)「アサヒのことか。
     彼は確かに変人の気があるような気もするが、嘘は言わんはずだ」

<ヽ`∀´>「何にせよ、もう後は結果を見守るしかないニダ」

そろそろ本陣から『神の裁き』が送られてくるだろう。
仰々しい名前だが、単なる特殊電磁反射率を応用した局地爆撃のことである。
この世界の純正ルイルを用いて強化したそれは、戦場の中枢を囲うバリアを取り除くための策であった。



80: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:32:44.07 ID:iFGjxXYh0
*(‘‘)*「……ところで、これが失敗したらどうなるんですか?」

川 ゚ -゚)「別の方法であの結界を破る方法を見つけなければならん。
     もっとも、それが出来るのならばこんな回りくどい方法をとるわけもないが」

つまりほとんど最終手段に近い。
これで駄目なら、最悪の場合は撤退すらしなければならないだろう。

いや、撤退を選んでも逃げ切れるかどうか。
それに世界中に散っている異獣が活動を開始してしまえば、もう手を打つことは出来ない。
この世界は、おそらく未曽有の混乱の中で滅びていくのだろう。

川 ゚ -゚)「だからこそ、この作戦を失敗に終わらせるわけにはいかない」

<ヽ`∀´>「解っているニダ。
      皆も、そのために全力を尽くしているニダ」

川 ゚ -゚)「……そうだな。 ここまで来て激励も確認もないか。
     ただ自分達の力を信じて突き進むのみだ」

*(‘‘)*「もちっと堅実な方向でいきたかったんですがねぇ……」

川 ゚ -゚)「それは贅沢というものだな、ヘリカル」



84: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:35:21.76 ID:iFGjxXYh0
その時だ。

川 ゚ -゚)「……ッ!」

「「!!」」

クーの言葉に被さるように一際大きな音が聞こえてくる。
方角からして北軍の背後、それは本陣の方からだ。

川 ゚ -゚)「来たか……!」

クーが言い、その場にいた全員の表情が緊張と興奮で強張った。
同時に、少し遠くで争いの音が大きくなる。
おそらく異獣がクー達の狙いに気付き、妨害するために勢いを増したのだろう。

それを打ち消すように、ニダーが右手を大きく振って大きな声で吼えた。

<#ヽ`∀´>「本命が来たニダ! 
       総員、死ぬ気で現状を維持するニダ!!」

「「合点承知ッ!!」」

川#゚ -゚)「決してミラーに敵を近付かせるな! 結界さえ破壊すればこちらのものだぞ!」

クーの言葉と同時。
彼女達の頭上を、大きな物体が中枢へ向けて飛翔した。



90: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:36:36.94 ID:iFGjxXYh0
結界の上方に、『神の裁き』と呼ばれる物体があった。

直上を位置取ったそれは、灰色の巨大な鉄球に似た球だ。
かつてハインリッヒ戦で見せた紫色の電流を纏っている。

しかし、周りを固めていたはずの六枚の鏡はない。
何故ならその役割を担うミラーは四軍が運び終わっているからだ。
故に展開する手間を省いた『神の裁き』は、既に臨界点へ達している。

生まれていく莫大なエネルギーは周囲の空間を震わせ、捻じ曲げていく。
それは紫電として表現され、時間経過でより多く、濃く色を重ねていった。


そして、限界を超える。


「「!!」」


閃光。
続いて、爆発。


「総員、対閃光衝撃防御――!!」

雷鳴を更にランクアップさせたような轟音が、天に鳴り響いた。
追うように衝撃波が撒き散らされ、地上にいる者達へ降り注いでいく。



95: ◆BYUt189CYA :2008/04/30(水) 21:38:25.32 ID:iFGjxXYh0
状況は第二段階へ。

突風と轟音に顔をしかめ、地面に這いつくばっていた一人の兵士は見る。
『神の裁き』から発生している大量の紫電が、三方向へ放射されるのを。

「――!」

三つに分かたれた電流は、北、東、西の巨大ミラーに吸い込まれるように走った。

直撃する。
更なる轟音と衝撃。
勢いにミラーが軽く撓み、支えるトレーラーが一瞬だけ傾く。

だが、それだけで終わらない現象が一つ。

紫電だ。
強烈な光を発する電流は、ミラーにぶつかっても消えることはない。
むしろ一層の力強さを増した光は、激突の勢いを吸収するかのように一旦潰れる。


そして、反射した。


が、という音と、き、という音が重なった硬質な大音。
示すような大きな光の奔流が、今度は鏡面から放たれた。

幾筋かの軌道を描く光は別のミラー、そして天空に浮かぶ球体へ目掛けて迸る。



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