( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

260: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:39:20.80 ID:wcoHHkfi0
爪゚ -゚)「…………」

( ・∀・)「行きたまえ」

爪゚ -゚)「は? あ、あの?」

( ・∀・)「隠すことはない。 同じ機械人形として貞子君に対抗したいのだろう?
     製造期間から考えれば、貞子君は君の妹のような存在だ。
     姉が、庇うべき対象である妹に任せっきりなのは、本能レベルで気に食わないのだろう」

軽く目を見開いたジェイルに、モララーは口端を愉快そうに吊り上げた。
右手にあるロステックを肩に担ぎながら

( ・∀・)「君の満足は私の満足。 君の誇りは私の誇り。
     何も問題はないので、満足のいくまで存分に戦いたまえよ」

爪゚ -゚)「ですが……」

( ・∀・)「私の心配は無用。 ポリフェノール君、いるかね?」

|;;;|:: (へ) ,(へ)|シ「はい、ここに」

いつの間にか背後にいたポリフェノールがモララーの腕を掴む。
肩へと回し、彼の身を支えるようにして立った。



266: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:40:31.71 ID:wcoHHkfi0
( ・∀・)「これで君はフリーだ。
     まぁ、男に支えられる趣味はないのだが……君のために我慢しよう。
     ただし必ず私の下へ帰ってきてくれ」

爪゚ -゚)「モララー様……」

( ・∀・)「おや、呼び方が違うね?」

言われ、ジェイルは頷き、

爪゚ -゚)「お気遣いありがとうございます御主人様。
     貴方の秘書であることの誇りを賭け、あの機械人形に勝利して見せましょう」

両手を前に組んだ淑やかな一礼。
金の髪がさらりと落ち、光を反射して輝く。
プログラムされた完璧な動作だが、今のモララーにとっては見惚れるほどの美しさだった。

それがたとえ竜騎士のような装甲に纏われたものだとしても、だ。

爪゚ -゚)「では――」

( ・∀・)「――あぁ、好きに暴れておいで」

左手に巨大なランスを携え、ジェイルは本陣の最先端へと走った。



273: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:41:24.34 ID:wcoHHkfi0
ハインリッヒが準備を進める『龍砲』が向く先に激戦の場がある。

異獣が大挙として押し寄せてくる光景の前に、黒色の人影が一つ立ち塞がっていた。

ハルバードに似た巨斧とハンドガンを持った姿は番人のようだ。
ここから先へは行かせない、と身体で示す姿はどこまでも威風堂々である。

爪゚ -゚)「…………」

だが、それを見たジェイルは視線を鋭くした。

躊躇なく戦場へ飛び込む。
貞子の横に踵を落とし、そして膝を折りながら着地。
反動を内部機構により処理しながら、何も問題がないことを確認しつつ

爪゚ -゚)「――貞子、そこをどきなさい邪魔です」

川 -川「無視します」

予想範囲内の返答だ。
だからジェイルは、特に感情を動かすことなく立ち上がる。
すぐさま敵の数を視認し始めた彼女に、今度は横の貞子が疑問を投げた。

川 -川「「ところで……良いのですか? 大切な主を傍で護っていなくとも」」



285: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:43:51.00 ID:wcoHHkfi0
いきなりの言葉にジェイルは目を伏せ、

爪゚ -゚)「大切な主だからこそ……良いところを見せたいと思うのです。
     見事成し遂げ、褒めて頂きたい、とも」

自信を持って言える言葉だった。
モララーのことを大切に思っているからこそ、大切に思われたいと思う。

機械人形としては褒められたものではないだろう。
最悪、自意識と擬似意識による意見の衝突により自己崩壊すら起こしかねない。
しかしジェイルは確信していた。


……今の私は、擬似思考に刻まれた命令ではなく、己の胸の内から湧く欲求に従っている。


今までの彼女では考えられない思考ルーチン。
いや、最初からプログラムすらされていない感情が、彼女を支配していた。

爪゚ -゚)「そして、そう思える私は幸いなのでしょう。
     この世界で最も幸福な機械人形だと自負致しております」

川 -川「…………」

貞子は何も言わない。
感想も、皮肉も、何もかも。
まるで聞こえていなかったかのように、だ。



292: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:45:18.04 ID:wcoHHkfi0
意味をおぼろげながら察したジェイルは、貞子を見やり、

爪゚ -゚)「しかし貴女こそ、ハインリッヒを傍で護らなくても良いのでしょうか?」

川 -川「ここで全ての敵を倒し尽くせば、後方の憂いなど持つ必要もありません」

即答だ。
そしてストイックな答えである。
かなり無茶な考え方だが、貞子の性能であれば決して不可能ではないだろう。

爪゚ -゚)「では――」

互いの意志を確認し合った結果、二人は同じ結論に達した。
つまりどちらもここを退くつもりない、と。

ならば、やることは決まっている。

川 -川「――えぇ、護りましょう。 互いの大切なモノを」



303: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:47:39.72 ID:wcoHHkfi0
ジェイルは左手のランスを、貞子は右手のハルバードを傾ける。
二つの武具は二人の間で金属音を立ててクロス。

それは不可侵の門を示し、


川 -川「今よりここは裁断の地」

爪゚ -゚)「そしてここより奥は生を望む人々の聖地」

川 -川「故に穢れた獣が入ることなど許されません」

爪゚ -゚)「獣よ」

川 -川「薄汚い獣よ」

爪゚ -゚)「それでも血を求めるのであれば、私共が御相手致しましょう」



307: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:48:57.79 ID:wcoHHkfi0
鉄のように冷たい言葉は途切れず続く。


爪゚ -゚)「我らは門番」

川 -川「役目は守護」

爪゚ -゚)「守るために剣を持ち」

川 -川「護るために敵を討つ」

爪゚ -゚)「守護のために血を求める矛盾的定義は、しかし機械人形だからこそ為せる所業」

川 -川「罰は既に受けております。 心無き機械として生まれたことで」

爪゚ -゚)「我ら無血の機械人形」

川 -川「足りぬ血は、御身を裂くことで得られるでしょう」

爪゚ -゚)「喜び、そして祈りなさい」

川 -川「せめて、満足の末に死ねることを――!」


直後、本陣で最も激しい戦闘が開始された。



314: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:50:29.64 ID:wcoHHkfi0
本陣までの距離、約五〇〇メートルを切ろうかという地点。

足下で暴れる人間達や、シャキン達の攻撃を受け、ジョルジュの鎖を引き摺りながらも歩くのは巨大な獣だ。
最初に比べて少し歩調が鈍くなっているようにも思える敵を、空中で待ち構える影があった。

(*゚ー゚)「ギコ君」

(,,゚Д゚)「……来たか」

ギコとしぃだ。
黒紫色に染まった翼と剣が一体となってケーニッヒ・フェンリルを見据える。
ここから先へはタダでは通さない、と二人の気迫が物語っていた。

(,,゚Д゚)「思っていたより少し遅い、か。
    先に仕掛けた連中が良い仕事をしたようだ」

(*゚ー゚)「うん。 だってジョルジュ君達は強いもん」

(,,゚Д゚)「勢い余って死んでいないと良いが。 奴ら、血気だけは盛んだからな」

(*゚ー゚)「それは今からの私達にも言えるけど……大丈夫、私がさせないわ」

(,,゚Д゚)「あぁ、頼む」

剣を振る。
濃密な魔力が粉となり、軌跡を残して散った。



324: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:52:28.68 ID:wcoHHkfi0
(,,゚Д゚)「しぃ、この一撃に全てを注ぐぞ。
    こうなった以上、のんきに追いながら攻撃など意味がないだろうからな。
    効果の少ない継続的な足止めより、大きな一発を与えて行動を短時間でも封じる方が効果的だろう」

同じ考えを持った者がいたのだろう。
ギコ達よりも前に足止めを開始したレモナ達の姿は、ここからでは見えない。
おそらく今からのギコのように、全身全霊の一撃を与えてリタイアしたのだ。


――後に控える仲間を信じ、任せるために。


(,,゚Д゚)「そして俺達も後ろを信じて役目を果たす、か」

(*゚ー゚)「後ろの人達に任せるのは心配かしら?」

(,,-Д゚)「……いや、そんなことはない。
    奴らは確かに頼りないところもあるが……信頼に値する仲間だ」

真剣な言葉に、しぃが嬉しそうな声を漏らした。



332: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:54:39.48 ID:wcoHHkfi0
(*゚ー゚)「変わったね、ギコ君は。
     強くなったし格好良くなったけど、それよりも優しくなった気がする」

(,,゚Д゚)「ただの『牙』だった俺の身を研磨してくれたのは、お前だ。
     お前がいたから、俺は変われた」

(*゚ー゚)「私もだよ。 ギコ君がいなかったら、きっと今も護られてばかりの女だった」

(,,゚Д゚)「そちらの方が可愛げがある気もするがな」

(*゚ー゚)「じゃあ……今の私は嫌?」

(,,゚Д゚)「まさか。 俺にとって最高の女だ、お前は」

(*゚ー゚)「……ありがとう」

言葉を交わす度に二人は実感する。
自分は、相手がいるからこその自分なのだ、と。
今も繋がっているウェポンを通し、二人は更に意思を通わせていく。

敵は近い。
だが、さほど問題ではない。

気力は充実しており、二人はいつでもケーニッヒ・フェンリルを迎え撃つことが出来るのだ。


……そう、思っていた。



346: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:56:39.11 ID:wcoHHkfi0


「――がっ」


突然のそれはギコの声で。

響きと同時、身体が無意識に震えた。

寒気とも、悪寒とも異なる黒い感覚。
今まで一度も感じたことのない不快感の出所は、自分の胸の中だった。

(;,,゚Д゚)「なっ……?」

(;*゚ー゚)「え……ギ、ギコ君!? それ!?」

どうした、と問いかける前に理解する。

自分の口から真っ赤な血が溢れ出ているのを。
着ている服の胸元を染める鮮やかな色を、ギコは呆然と見下ろした。

(;,,゚Д゚)「こ、れは――」



356: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:57:49.45 ID:wcoHHkfi0
無論、ギコは攻撃など受けていない。

背を護るしぃの回避運動は的確で、必要あらばグラニードを盾代わりとする構えは鉄壁だ。
そこにレードラークの羽ばたきによる速度があれば、キリバ戦で見せた通り二人は強力な武器と化す。

だが、先に根を上げたのはギコの身体だった。

無理をし過ぎたのだろう。
東軍のリーダーを務めながら最前線に立ち、キリバとは最も多く切り結んだ。
途中で両足を砕かれ、その上で限界突破を行ない、リベリオンを用いて敵を撃破している。
そして更に、今も限界突破を使い続けているのだ。

これでは、身体が異常を訴えない方がおかしい。

本来なら両足を砕かれた時点で戦闘行為は不可能だったはず。
激痛によって身体が発熱し、指一本すら動かせない状態になっているのが普通なのだ。

彼を動かしたのは誇りと愛情。
驚異的な原動力だが、それでも現実を覆すことは出来なかった。

騙し騙し使っていた身体が、ここに来て限界を迎えようとしているのだろう。



371: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:00:33.56 ID:wcoHHkfi0
(;,,゚Д゚)「くっ……こんな時に……」

自分の血液だと認識した途端、震えがギコを襲った。

(;*゚ー゚)「ギコ君!? 大丈夫!?」

(;,,-Д゚)「ま、ゴホッ、まずいかも、しれんな……随分とタイミングが、悪い」

身体が熱を持ち、しかし冷えていく。
痙攣とはまた少し違う震動が続き、右手に持つグラニードの剣先が震えた。

気分が悪い。
そして、その気分すら希薄に感じる。

これ以上の戦闘行為は明らかに己の命を削ることを、ギコはおぼろげながら理解した。

(,,゚Д゚)「だが……」

真っ先に否定の意志が浮かぶ。
この場からの撤退を許さないのは、彼の傷だらけなプライドだった。

(,,゚Д゚)「……俺は、しぃも含めて皆を信じている。
    同様に皆も俺を信じているだろう。 気恥ずかしいことだがな」

(;*゚ー゚)「…………」

(,,゚Д゚)「だから退くわけにはいかん。
    それがたとえ自分の命を削ることであっても……俺は逃げたくない」



385: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:04:40.83 ID:wcoHHkfi0
それはギコの偽りのない本心だ。
一番理解出来るしぃの表情が、迷いという表情を浮かべる。

実を言えば、結論は疾うに出ていた。
こうなった以上、ギコはテコでも動かないことを知っているからだ。
彼自身が心変わりしない限り、放たれた言葉は全て実行される。

しぃが出来るのは、そんな無茶をするギコを支えることだけだった。
しかし、こればかりは彼女の支えではどうにもならない。

だから、迷うのだ。

その時、ケーニッヒ・フェンリルが動きを止める。
自ら、というより周囲からの妨害によって、だ。
言うまでもなくチャンスである。

《――ゥゥウウウウウ》

足を折り、腹が地面に触れるギリギリまで身体を落とし、しかし倒れない。

巨獣の足下で暴れる軍勢が。
空を舞う二機の戦闘機が。
巨獣の右後足に絡みついた多数の鎖が。

それら全てが全力で動いて、ケーニッヒ・フェンリルを抑え込もうとしている。



389: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:06:09.62 ID:wcoHHkfi0
(,,゚Д゚)「しかしそれでも……っ、あの馬鹿デカい獣は歩みを止めようとはしない。
    そんな光景を見て退くほど、俺は物分かりの良い人間じゃないんだ」

(*゚ー゚)「……知ってるよ。 
    いつだって本気で、誰よりも真っ直ぐで……それが私の好きなギコ君だもん」

(,,-Д-)「……すまんな」

明確な言葉を交わさずとも解る。
彼女は、仕方ないなぁ、と困った笑みを浮かべて頷いた。

(*゚ー゚)「いいよ、ギコ君は何も心配しなくて。
    貴方は私が護る……って、あの時に言ったよね?」

(,,゚Д゚)「あぁ……頼む。 この不甲斐無い『牙』を護ってくれ」

一息。
口元に付着した血を拭いとり、
変調を訴える息を吐き、新たな空気を吸い、

(,,゚Д゚)「その代わり、敵の全てを俺が叩き斬ってみせる。
     お前が俺を護る必要もなくなるようにな」

(*゚ー゚)「――うん」



398: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:08:54.40 ID:wcoHHkfi0
しゃん、という鈴を束ねたような音が高らかに響く。
ブラックパープルに染まった両翼を勢いよく広げた音だ。
しぃの意志の強さを示すように、機械で構成された骨格が最大の広がりを見せる。

支えられるギコが剣を構えた。
ブラックパープルに染まるグラニードを胸の前に、切っ先を天へ向けて。
纏う魔力は力強く、ギコの意志をそのまま表現しているようだ。

二人が同時に動いた。
赤髪の異獣との戦いで見せた、己を剣とするための動作だ。

グラニードの切っ先が、ゆっくりとケーニッヒ・フェンリルを向く。

二人で一つの大剣と化した黒紫の刃は、巨獣を討つために更に光を生んだ。
鼓動するように、しかし確実に光を重ねていく。

(,,゚Д゚)「……雑魚には構うな。 奴だけを断つ」

頷きを背に感じた。
既にウェポンの操作の集中に入っているのだろう。

ギコも同じように目を瞑り、彼女と、己の武器達との繋がりを確定していく。



412: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:13:01.14 ID:wcoHHkfi0
ややあって訪れた暖かい感触に、ギコの口端が微かに吊り上がった。

(,,-Д-)(最高の気分だ。
     今なら何でも出来る気がする)

強がりでも何でもない。
ギコは本気でそう思っていた。

それほど、愛する人と精神レベルで共鳴は筆舌に尽くしがたい快感なのだ。

地響きが近くなる。
敵意も向けられている。

しかし、それでもギコとしぃは動じない。

目を瞑って見定めるはケーニッヒ・フェンリルただ一体のみ。
周囲を取り巻く翼持つ獣など、今の二人にとっては障害にすらならない。

羽ばたきのテンポが遅くなっていく。
一度、二度、と身を浮かせる動きが最小限のものへ移行。
それは二身で一つの剣と化した自分達を飛ばすための『溜め』で、

(*゚ー゚)「行くよ、ギコ君……!!」

(#,,゚Д゚)「――あぁ!!」

瞬間、最大まで広げられた翼が空を叩き、押し出されるように二人が飛翔を開始した。
戦場全てに轟くような大斬撃が炸裂したのは、その数秒後であった。



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