( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 680: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:32:25.65 ID:NP7tvWF90
- (#^ω^)「もっと接近するんだお!!」
川#゚ -゚)「ならば敵は――」
二人で同時に頷き、
川#゚ -゚)「「――彼らを信じて任せる!!」」(^ω^#)
返答のように射線が増えた。
ガトリングの勢いで来る光の弾は、ブーン達を捉えようとする獣の身体を乱打する。
周囲はまた別の意味で地獄だ。
獣が吠え、光が貫き、血が溢れ、連射音が謳う。
未だにブーンとクーが無事でいられるのが、奇跡だと思ってしまうほどだ。
(#^ω^)(怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない!!!)
心に強く念じたブーンは、右手を強く握る。
すると、クーも同じように左手を握り締めてきた。
『内藤ホライゾン! 近いぞ!』
クレティウスの声に前を見る。
あまりに巨大な獣の眼が、こちらを睨んでいた。
- 692: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:34:51.00 ID:NP7tvWF90
- ぞく、と悪寒が全身を貫いたが、
(#^ω^)「怖くないって……言ってんだおおおおおおおおッ!!」
余った左手で額を殴り、震えかけた身体を強制的に初期化した。
川#゚ -゚)「行くぞ、内藤! タイミングを合わせろ!」
(#^ω^)「合点承知!!」
二人が同時に動いた。
握手するように組まれた手を一旦解き、再び繋ぐ。
手の平同士を合わせ、その五指を絡ませるように、互いの手を包み込むように。
その組んだ手を上げる。
拳が見る先には、巨大すぎるケーニッヒ・フェンリルの顔があった。
穿つべき敵を確認し、やはり同時というタイミングで腕を引く。
打突の構えだ。
しかも両手を絡ませ、組んだまま。
- 709: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:38:37.39 ID:NP7tvWF90
- (#^ω^)「クレティウス!!」
『座標固定……「Octet +」を確定する。
あとは打ち出すだけだ』
八つの拳が、二人で作った一つの拳の周囲に集った。
リボルヴの軌道を描きながら回転を開始し、やがては高速の域に達する。
金属同士を強く擦るような、ぎ、という音が連続で、火花を散らしながら響き始めた。
川#゚ -゚)「この一撃に思いを全て……!」
(#^ω^)「籠めて穿つっ!!」
既に身体の引きは限界。
軋みを挙げる筋を更に引き締め、歯を食いしばった。
頬が振れそうなほど顔を近づけた二人は、余った方の手を前方へ突き出し、
川#゚ -゚)「「――『Fist Octet ++』!!」」(^ω^#)
- 725: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:41:54.70 ID:NP7tvWF90
――フィスト オクテット ダブルプラス。
合計十もの拳が、爆発的な力を速度に乗せて打ち出された。
《ッッッ!!!?》
肉を穿つ感触。
骨を砕く音。
獣の悲鳴。
三連もの感触を得ながら、二人は更に拳を押し進めた。
川#゚ -゚)「「うぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!!」」(^ω^#)
思いの力が、更に力を呼ぶ。
ケーニッヒ・フェンリルの上半身が見事に浮いたのは、直後だった。
- 735: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:43:28.71 ID:NP7tvWF90
- その時、全ての要素が繋がった。
機械世界の、
英雄世界の、
魔法世界の、
不滅世界の、
戦いに参加する人々の『生きる』という意志が、音立てて連結する。
総力戦に始まり、
四方戦に繋がり、
結界を破壊し、
追い詰め、
仲間を信じ、
そして、今も少女のために時間を稼いでいる。
過去から、
現在を、
未来のために、
ここに至るまでに得て、失ったモノを否定させないために。
- 743: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:44:35.88 ID:NP7tvWF90
- 思いが、遺志が、時間が、力が、その全てを一本の線へと化す。
その先にいるのは
从 -∀从「――――」
『最強』たるハインリッヒ。
彼女をサポートする15th-W『アゲンストガード』。
そして、各世界の技術を集結して作り上げた切り札『龍砲』。
異獣という敵対存在を倒すためだけに生まれた『希望』の具現である。
三要素は既に一つの兵器と化していた。
アゲンストガードを纏い、一回り大きくなった『龍砲』が唸りを上げる。
普通ならば自壊するほどに異常な量の魔力は、しかしアゲンストガードによって保たれていた。
しかし動力部は更に不安定な状態だ。
何せ、四世界それぞれに在る純正ルイル核を積んでいるのだから。
しかもそれを強制的に活性化させているとなれば、この危うさは説明せずとも理解出来ることだろう。
- 754: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:46:02.62 ID:NP7tvWF90
- 从 ゚∀从「――……」
前方から聞こえる戦いの音は、既に止みかけようとしていた。
ハインの準備が完了し、充分な時間稼ぎが出来ている以上、これより先の妨害に意味は薄い。
ほぼ全ての妨害を失ったケーニッヒ・フェンリルが、足を引き摺りながらもこちらを目指して歩いている。
取り巻きである小さな異獣の数は随分と減っていた。
あれは、限界を超えてまで戦った者達の確かな成果だろう。
そんな光景を見ていると、彼らの声が聞こえてきそうだった。
あとは任せた、と。
从 ゚∀从「……任せてください。
皆さんが繋いできた全てを、僕が責任を持って紡いでみせます」
視線を落とす。
アゲンストガードが形作った小さなウインドウが視界に入った。
画面には大きく数字が表示されており、『97%』と記されている。
- 773: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:47:37.81 ID:NP7tvWF90
- 確認したハインは再び前を見た。
ケーニッヒ・フェンリルの進行速度と距離を吟味し、
从 ゚∀从(余裕で間に合いますね……皆さんが頑張ってくれたおかげです)
あとはパーセンテージが百を超えた時、手元にある引き金を引くだけだ。
『龍砲』は莫大な魔力を編み上げた砲撃を放ち、ケーニッヒ・フェンリルを穿つだろう。
それで倒せるかは解らないが、かなりの痛手を与えることは確かだ。
封入されていながらも感じる圧倒的な密度の魔力。
こんなものに耐えられる存在など、ハインにはまったく想像することが出来なかった。
从 ゚∀从「……!」
数字が一つ追加され、『98%』の表示に切り替わった。
刻一刻と近付く決着の時を予感し、ハインが思わず身震いをした時。
( ・∀・)「む」
と、モララーが小さく呟いた。
疑問というよりも警戒の色が濃い。
周囲、未だ残存する異獣を倒す戦いが続いているため、その声が聞こえたのはハインと一部の人間だけだ。
从 ゚∀从「!」
数拍遅れて気付く。
ケーニッヒ・フェンリルに微かな異変があるのを。
- 782: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:48:42.60 ID:NP7tvWF90
- それは震えだ。
足を止め、毛を逆立てて震えている。
威嚇するような動きは、先ほどのように身から獣を生む動作に似ていた。
しかし距離から考えれば意味は薄い。
獣を生み出したとしてもこれだけ離れていれば、襲われる前に砲撃準備を終えることが出来る。
むしろ足を止めたのは間違いだろう。
从;゚∀从(ですが……)
果たして本当に問題ないのだろうか。
仮にも最強生物を名乗れる異獣の王が、誰にでも無駄だと解る行動を選ぶだろうか。
ハインの懸念は他の者達も同様らしく、
( ・∀・)「……手が空いている者はハイン君を護るような配置に。
それと、誰かジェイル君を呼び戻してくれ」
爪゚ -゚)「既に戻っていますが」
( ・∀・)「おや、流石だね。
貞子君との決着はついたかな?」
爪゚ -゚)「いえ……悔しいですが彼女は強いです。 私と同じくらいに。
異獣討伐数もさほど変わりなく、また再戦の機会を設けて頂ければ嬉しく思います」
( ・∀・)「考えておこうか」
- 788: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:50:08.55 ID:NP7tvWF90
- 最前線に出向いたジェイルの無事に、ハインは安堵の吐息。
そこでパーセンテージが『99%』を刻む。
濃い決着の予感が、ハインの身体を緊張させていった。
正面、未だケーニッヒ・フェンリルは足を止めている。
遠吠えに似た格好を維持したまま、首から上を天へ向けた形だ。
胸部や腹部はこちらに晒された状態で、
だが、ハインは見る。
上を向いたケーニッヒ・フェンリルの口から、陽炎のように揺れる光が漏れているのを。
从;゚∀从「あれは……」
どくん、と心臓が蠢いた。
無理に押し出された血流が四肢に流れ、微かな息苦しさをハインへ与える。
距離的にも、時間的にも何も問題などないはずなのに、その光景を見た瞬間から焦りが止まらなかった。
……まさか。
あの距離からの攻撃手段があるのか。
ただ噛みついたり、他の異獣を生み出す以外の力を持っていたのか。
- 794: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:51:17.61 ID:NP7tvWF90
- ウインドウの表示は未だ『99%』。
これが百に到達するには、残り三十秒ほど掛かると予測される。
三十秒。
今のハインにとって、これ以上長く感じる時間はないだろう。
背を伝う冷たい汗を感じつつ、不気味に動きを止めたケーニッヒ・フェンリルを注意深く睨む。
そして
从;゚∀从(……来る!?)
ぞくり、と悪寒が全身を貫いた時。
《――――ギュアァァァァァァァアアアアアアア!!》
身の毛も弥立つ咆哮と共に、ケーニッヒ・フェンリルが首を逸らし、そして前へ振った。
すると口内にあった光の塊が、首を振る勢いによって前へと投げ出される。
塊は、青白い吐瀉物のような半固体の形を持っていた。
放物線を描いて飛ぶ光。
正体を、ハインは敏感に感じ取った。
从;゚∀从「あれは魔力……!? いえ、魔力そのものですか!?」
- 805: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:52:31.79 ID:NP7tvWF90
- 何故、という疑問が最初に出た。
何故今になって、あんな原始的な方法を選んだのか、と。
時間的余裕がないことを察したのだろうか。
まともな遠距離攻撃の手段を持たないケーニッヒ・フェンリルにとって、おそらく咄嗟に出た攻撃に違いない。
しかし、ただの魔力なら恐れることはない。
特に強い魔力耐性を持つハインリッヒなら、あの程度の量の魔力を頭から被っても被害は少ないだろう。
从;゚∀从(あれ? でも、これってもしかして……!?)
ハインは気付く。
今自分がいる場所についてだ。
その事実を確認したハインは、異獣の企みに戦慄した。
狙いがハインということは、彼女が乗る『龍砲』もその範囲内だ。
高密度の魔力が循環している『龍砲』に、あんな魔力の塊が降り注いだらどうなるか。
从;゚∀从「……!!?」
燃え盛る炎に油をぶっかけるようなものだ。
エネルギーが暴走し、周囲一帯は粉微塵に消えてなくなるだろう。
いや、原子の一つすら残さぬ無の空間が出来上がるに違いない。
- 816: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:53:49.76 ID:NP7tvWF90
- ( ・∀・)「ジェイル君!」
爪゚ -゚)「了解です」
最初に反応出来たのはモララーだ。
ハインと同じ考えに至ったのかは解らないが、危険と判断したのだろう。
そして、その声よりも先に行動を開始していたジェイルが、ランスを持って前へと出る。
構え、突き出した。
槍の先端が展開し、一つの砲口を作り出す。
ランスに内蔵された魔力が暗い穴の中に集い、そして力を描いた。
一瞬の空白の後、砲からレーザーに似た光の帯が噴出する。
しかし、
爪゚ -゚)「!?」
( ・∀・)「効いていない……いや、吸収されたのか!?」
放物線の頂点に差しかかった魔力塊は、ジェイルの砲撃を受けてほんの少し巨大化していた。
从;・∀・ノ!リ「アレは魔粒子の塊ぞ!
生半可な魔力攻撃では意味がない!」
- 829: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:55:10.82 ID:NP7tvWF90
- lw´‐ _‐ノv「いけない……こっちに来る」
頂点を超えた魔力塊が斜め下に下る軌道で、ハインの方へ向かってきていた。
このままでは『龍砲』が破壊されるどころか、本陣自体が消えてしまう。
アゲンストガードを人型に戻して対処することも考えたが、
『龍砲』を包み込む形に変形しているため、元に戻るには若干の時間が必要だった。
从;゚∀从「くっ……イチかバチか……!」
立ち上がり、右の袖を捲った。
包帯に包まれた右腕には、未だ15th-W『ラークレイング』の細胞が少し残っている。
これを稼働させて、何とかあの塊を退けるしかない。
しかし、その直前に跳躍する影があった。
川 -川「――ハインリッヒ、貴女は『龍砲』の発射を」
从;゚∀从「!?」
貞子だ。
武器も何も持たずに、落ちてくる塊とハインの間に割り込む。
四肢を広げ、まるでハインを守る壁になるように構え、
川 -川「護ります……!」
両手から発生した力場で塊を抑えた時。
――無情にも、アゲンストガードが示すウインドウに『100%』の表示が刻まれた。
- 842: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:56:19.47 ID:NP7tvWF90
- 貞子の行なった行為は簡単なものだ。
両手に仕込んだ魔法機構を用いて特殊な重力力場を生成。
その力場で魔力塊を包み込んだのだ。
川 -川(しかし……)
魔力塊は半固形。
その形は、外部からの力によって複雑に歪む。
単純な座標指定ではなく、力場生成タイプのため、
……長くは保たない。
やがては力場に限界が生じ、消滅する。
動きを止められていた塊は、先ほどの続きを再生することで『龍砲』へ落ちるだろう。
その前に何とかしなければならない。
- 854: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:57:08.57 ID:NP7tvWF90
- だから、貞子は後ろを見て、
川 -川「ハインリッヒ! 撃ちなさい!!」
从;゚∀从「……!」
貞子らしからぬ鋭い声に、ハインはコンソールを素早く叩いた。
そして表示されたウインドウを見ながら引き金に手を伸ばし、しかしその腕が止まる。
从;゚∀从「だ、駄目です……撃てません!」
何故なら、
从;゚∀从「効果範囲内に貞子さんが……!!」
爪゚ -゚)「!」
(;><)「そ、そんな!」
射線上ギリギリに貞子が入ってしまっていた。
このまま発射してしまえば、超高密度の魔力が貞子の身を食い殺してしまう。
如何に貞子という機械人形が強力であろうとも、ケーニッヒ・フェンリルすら倒しかねない『龍砲』の一撃に適うわけがない。
- 867: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:58:41.65 ID:NP7tvWF90
- 从;゚∀从「貞子さん! そこから退いて下さい!!」
しかし貞子は首を振る。
力場の維持に全機能を集中させているのだ。
ここから動こうとすれば、即ち魔力塊のホールドを解除することになる。
だから、動くわけにはいかない。
川 -川「構いません。
私もろとも、異獣を撃ちなさい」
从;゚∀从「で、出来るわけないじゃないですか!
僕は異獣を倒すために……決して貴女を殺すためにここまで来たわけじゃ――」
川 -川「――聞き分けなさい!!」
从;゚∀从「!!?」
- 895: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:02:18.34 ID:NP7tvWF90
- 川 -川「貴女は『最強』なのです!
そう作られた存在! ならば己が使命を果たしなさい!!」
从;゚∀从「い、嫌です!
僕は貞子さんを殺すためにここまで来たわけじゃありません!
僕の力は――」
視界が滲む。
息を、ひ、と音立てて吸い、
从 ;∀从「僕の力は、人の敵を倒すためなんですよぉ……?」
川 -川「…………」
システムエラー。
限界を超えた衝撃が、貞子の身体を蝕んでいく。
オーバーヒートして熱を持った機構が、他の部品まで溶かし始めた。
……時間が、ない。
- 938: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:07:57.17 ID:NP7tvWF90
- 从 ;∀从「ここまで来て仲間を殺すなんて……っ、僕には出来ません……!」
川 -川「ならば、ならばそれで全世界の人が死んでも良いのですか!?
私という命すら持たぬ機械人形のために、人が死んでも良いのですか!?」
从 ;∀从「うぅ……うぅぅぅぅ……!」
ハインの心で葛藤が暴れ回っていた。
理屈では解る。
貞子一人よりも、全世界の方が重いに決まっている。
いくら綺麗事を言っても、こればかりは事実だ。
でも、
从 ;∀从「なんで……何故、今なんですかぁぁぁ!!」
川 -川「早く……撃って……!」
駄目だ。
限界が目前だと解る。
既に四肢の感覚はなく、全身のフレームが歪み始めていた。
死を目前にして、貞子に一つの感情が浮かぶ。
溶けかかった思考能力と最後の力を振り絞り、貞子は心に得た言葉を紡いだ。
川 -川「ハイン、リッヒ…・・貴女は……私の、希望でも、あるのです」
从 ;∀从「!?」
- 971: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:10:51.91 ID:NP7tvWF90
- 川 -川「我がマスター、の、手によって生まれ……」
軋む。
川 -川「我がマス、ターの希望を、受け継ぎ……」
軋んでいく。
川 -川「我が、マスターの、子供とも言える、貴女は――」
一息。
しようと思ったが、既に疑似呼吸器管は死んでいた。
だから、貞子は深く頷き、
川 -川「同じ、生まれで、あり、ながら……破壊、しか呼べぬ、私の――」
――希望でもあるのです。
最後の言葉は声にならない。
しかし、確実に伝わったはずだ。
ハインの目に、僅かな光が灯っていたから。
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