(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:19:17.57 ID:kHQskUZ/0


   に関わった者の末路。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:22:36.99 ID:kHQskUZ/0



ぜろぶんのいち
『1』について



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:26:04.25 ID:kHQskUZ/0

弟の思考回路をなぞれば答えが見えるだろうかと目を閉じようとし、鳴り響いたチャイムがそれを止めた。
閉じかけた瞳をまた開き、酷く緩慢な動作で  は椅子から腰を上げた。

既に日は真上に昇り、人がエネルギーを摂取する時間帯であるが、  の周りに飲食物の類はなく、
ただ埃の積もった本と本棚と、黴の生えた木製の机と、その上に一つスタンドライトが置かれている。
部屋の中は真黒の漆喰に更に影を塗りたくったかのような暗闇で、その部屋に居る者全ての気分を
暗欝にさせてしまうようなまでの不安と陰鬱さを放っていた。


チャイムの音が再度響く。その音は消音壁に吸い取られ直ぐに消える。
まるで硬質の硝子細工が人の形を模ったような生気を感じさせない頭部が、少しだけ傾いた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:29:12.03 ID:kHQskUZ/0
/ ,' 3 「…お時間はよろしいでしょうか」

ぎぃと絞殺される猿のような断末魔をあげて扉が開く。

暗黒の部屋に入って来た者の名は荒巻スカルチノフ、若くして大富豪となり、
今はその身で世間を踊らせる時の人である。
が、若いと言う割にはその顔には小皺が見え、頬は僅かにこけている。中年くらいの風貌だ。
しかしその背はぴんと張り、体格も良く、目は知性と欲望に爛々と輝いている。
二言三言交わせば、その身に潜んでいる力強さが窺えるだろう。

申し訳程度の灯りがスタンドライトに灯された。

(    )「資料を」

抑揚のない声が響く。途端に荒巻の存在が委縮されるような感覚に陥る。
それだけの、得体の知れない何かを、その音は秘めていた。

荒巻は小脇に抱えた紙束をいそいそと、その身に似合わぬ小動物のような仕草で彼に差し出した。
彼は機械的な動作でそれを掴むと、少しも中に目を通さぬまま机の引き出しに閉まった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:32:20.67 ID:kHQskUZ/0

荒巻は彼の一挙一動を無駄のない、完璧なものだと感じた。
同志の一人が、彼の事を機械的だとか東方の人形繰りのようだと話していたが、荒巻はそうは思わない。
機械的だと思うのは、それは繰り返される同じ動作―ようは無駄のない―をそう感じての事だろうし、
東方の人形繰りなど論外だ。彼を人の操るからくりと同列にするとは、彼に対する侮辱に極まる。

彼は人の真似事をしているに過ぎない。だからこそ、彼は完璧なのだろう。
人がする、ちょっとした仕草や無駄な動作、それがない。
例えば、歩くにしてもその目標の直線上の最短距離から外れる事なく、必要なだけの歩幅と歩数で其処へ行く。
今の物を受け取る動作にしても、上腕二頭筋と橈側手根屈筋を最低限必要なだけを収縮させていた。
顔の筋肉など動かすだけ無駄な事だ。
人ではない事を晒してもよい今、彼の表情筋はまるで蝋で固めたかのように動かない。

一切の無駄を省いた完全。
しかし、人の生活に溶け込むには不完全でなければいけない。
だから彼は、敢えてその不完全さを追求する。


(    )「志望者の数は?」

声が荒巻を倒錯的な現実へと引き戻す。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:35:42.68 ID:kHQskUZ/0
荒巻は打ちつける思考の波を、軽くかぶりを振って追いやった。
これくらいの挙動で、彼の機嫌を損ねる事はない。
何故なら荒巻スカルチノフも観察対象の一人であるからだ。

/ ,' 3 「不作法申し訳ございません。志望者は男女共に57人です
     多くの者が名乗りを挙げてくれました。無論、私もです」

(    )「そうか」

もう用はないと言わんばかりに、頼りない灯火が消える。
荒巻は一礼すると、入ってきた時と同じように猿を締め殺そうとして、
視界の隅に入ったものにその動きを止めた。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:42:34.03 ID:kHQskUZ/0

/ ,' 3 「…?」

この部屋には不釣り合いなものが、部屋の隅に書物を避けられて置かれている。
どのくらい止まっていたか判らないが、彼の興味を引くには十分な時間だったようだ。

(    )「その植物がどうかしたのか?」

振り返らずに応える。

/ ,' 3 「いえ…この部屋に花があるとは、珍しく思いまして」

後ろからそうなのか、と聞こえた。感情は読めない。
ぎしりと、床か…椅子が軋む音が聞こえる。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:45:38.80 ID:kHQskUZ/0
荒巻が振り返ると、彼は一体何処から取り出したのか、水差しを手に持っている。

(    )「観察対象から受け取ったものだ、名前はゼラニウム、ペラルゴニウム
      学名Pelargonium graveolems、Pelargonium capitatum、Pelargonium radense
      どれが本当の名なのか判断し難い為、彼女が使った呼称を使っている」

/ ,' 3 「彼女ですか」

彼に花を贈るなどと言う行為をする女性の観察対象は、荒巻が知る限り一人しかいない。
ふと机に目をやると、乱雑に散らばった紙類には、これまた規則性もなく単語が羅列されている。


慰め。真の友情。愛情。決意。君ありて幸福。偶然の出会い。快心。堅実。決心。
安楽。追憶。育ちのよさ。尊敬。信頼。真実の愛情。篤い信仰。婚礼の贈り物。

(    )「花の贈り物には何かしらの意図があると聞いてな
      ゼラニウムの花言葉とやらを調べてみたんだ」

彼が"人"に近くなる。
彼を取り巻く空気が僅かに柔らかさを帯びる。

(    )「意味が被っていたり全く違っていたり、彼女の意図がどれなのか汲み取れない
      色によって花言葉も違うらしい。荒巻はどれを指しているか判るか?」

そうして応えを促すように、水差しを持っていないほうの手のひらを上に向ける。
それだけの動作で、荒巻は何故か張り詰めていた心が少しだけ溶かされる音を聞いた。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:50:05.01 ID:kHQskUZ/0
荒巻は、彼が人の振りをしていない時に、ある種の恐怖を味わっている事にたった今気付いた。


/ ,' 3 「私は花に疎くて…今度専門の者を探してみます」

しかしそれは畏怖、畏敬に近しいものだと解釈し、自身を落ち着かせた。
今は彼との会話が何よりもの優先事項だ。例え愛息子が事故死したと電報が入っても。

(    )「そうしてくれ」


彼は無感情にそう言うと、荒巻の脇を通り過ぎ、花の場所まで足元の本を踏まぬよう歩いて行く。
水差しを直角三角形定規の一番小さい角度くらいに倒して、鉢に水を注ぐ。

この部屋の暗さでは、土が乾燥しているのかしていないのか区別がつかない。


/ ,' 3 「……」

この暗さでは、花弁の色もわからない。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:52:20.07 ID:kHQskUZ/0
荒巻は、彼が人の振りをしていない時に、ある種の恐怖を味わっている事にたった今気付いた。


/ ,' 3 「私は花に疎くて…今度専門の者を探してみます」

しかしそれは畏怖、畏敬に近しいものだと解釈し、自身を落ち着かせた。
今は彼との会話が何よりもの優先事項だ。例え愛息子が事故死したと電報が入っても。

(    )「そうしてくれ」


彼は無感情にそう言うと、荒巻の脇を通り過ぎ、花の場所まで足元の本を踏まぬよう歩いて行く。
水差しを直角三角形定規の一番小さい角度くらいに倒して、鉢に水を注ぐ。

この部屋の暗さでは、土が乾燥しているのかしていないのか区別がつかない。


/ ,' 3 「……」

この暗さでは、花弁の色もわからない。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:55:33.29 ID:kHQskUZ/0

/ ,' 3 「(光が欲しいな…)」

荒巻は部屋の暗雲と同化して流れる水を黙って見つめ、机の上に視線を戻した。
紙には花言葉の他に4月24日、7月27日、6月28日、4月3日と何かの日付も見える。
その横には何かの数式。数秘術を学んでいない荒巻には解らない。


4+2+4=10 7+2+7=16 6+2+8=16 4+3=7

一番上の数列に、丸がされている。


(    )「それはゼラニウムの誕生花とやらだ、横の数列にあまり意味はない
      これも花言葉と同じでいくつもあって、どれが本当か判断がつかん」

振り向かぬままに彼は言う。水差しはまだ空にならない。
荒巻は、改めて彼には敵わないと悟った。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 19:58:34.26 ID:kHQskUZ/0
/ ,' 3 「(光が欲しいな…)」

荒巻は部屋の暗雲と同化して流れる水を黙って見つめ、机の上に視線を戻した。
紙には花言葉の他に4月24日、7月27日、6月28日、4月3日と何かの日付も見える。
その横には何かの数式。数秘術を学んでいない荒巻には解らない。


4+2+4=10 7+2+7=16 6+2+8=16 4+3=7

一番上の数列に、丸がされている。


(    )「それはゼラニウムの誕生花とやらだ、横の数列にあまり意味はない
      これも花言葉と同じでいくつもあって、どれが本当か判断がつかん」

振り向かぬままに彼は言う。水差しはまだ空にならない。
荒巻は、改めて彼には敵わないと悟った。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/30(土) 20:01:38.76 ID:kHQskUZ/0



恋われたいようです ./1/
足して十になる物理/2/
夢の泡沫に添えて./3/
一定の連続存在 /4/
覚えておいて花 /5/
パン屋の邂逅 ./6/
謎の意味合い/7/
ある音楽家と/8/
魔法使いに./9/
しぃ家の怪/1/0

ぜろぶんのいち
『1』について       END.



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