(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:20:03.33 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「楽しかったか?」


从・∀・ノ!リ人「楽しかったのじゃー!」


(´<_` )「そりゃよかった」


∬´_ゝ`)「それじゃ、そろそろ帰りましょうか」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:22:00.66 ID:YkVRIXhy0



壊れたい\



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:26:44.35 ID:YkVRIXhy0

家族の声が響く。
温かい声が。



从・∀・ノ!リ人「…」



从・∀・ノ!リ人「(これで明日からまた頑張れるのじゃ)」


从・∀・ノ!リ人「(きっと…)」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:30:29.52 ID:YkVRIXhy0


流石妹者は、学校に着くと内履きを鞄の中から取り出す。
何故そうするのかと言うと、学校に置けば隠されたり捨てられたりするからだ。

从・∀・ノ!リ人「…」

教室の前まで行き、扉に手を掛けたまま暫く逡巡する。
やがて恐怖に震えるその体に鞭打って、扉を開ける。
まず真っ先に降り注いだのは、押し殺したような笑いだった。

気付かないフリをして、聞こえないフリをして椅子を引く。
黒板に書かれてる文字も見えないフリをして、席に着く。
心臓が痛い。心が痛い。

ああ、何も変わらない。
久しぶりにみんなに会えて、大丈夫になったと思ったのに。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:33:45.25 ID:YkVRIXhy0

1時間目は数学。怖い先生でよかった。
この先生の時は、みんな怖がって、私に嫌がらせして来ない。

从・∀・ノ!リ人「……」

2時間目はどうしよう。国語。
教育実習生はいじめっ子達になめられきっている。
どうせ、また消しゴムのカスとか飛んで来るんだろうな。
気付かないうちに綿ゴミを肩の上に置かれてたりするんだろうな。

3時間目もどうしよう。理科だ。
今日は理科実験室で、植物を顕微鏡で観察するやつだったはず。
楽しかったんだけどなぁ。もう楽しめないなぁ。
向かいの席に、なんであいつがいるんだろう。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:37:51.12 ID:YkVRIXhy0

休み時間は、机にうつ伏せになって寝たフリ。
腋の下に隙間があかないように、筆箱を置いて、頭を寄せる。
前、隙間をあけていたら、そこからボンドを撒き散らされた。
臭かった。服や髪について大変だった。
あいつらは笑っていた。

从 ∀ ノ!リ人「…」

今もまた、何か話して、笑っている。
きっと私の事をバカにしているんだろう。
今度は何をされるんだろう。しねばいいのに。

教室に、誰も悪さがしないように、監視カメラがあればいいのに。
姉者の通ってた中学校は荒れて、学級崩壊寸前だと言う。
それを防ぐ為に、教室の後ろに保護者が一人見張りとして付く事になったらしい。

いいなぁ、羨ましいなぁ。母者に来て欲しいなぁ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:43:10.85 ID:YkVRIXhy0

人に迷惑かけて、人に迷惑に思われて、どうして私は生きているんだろう。

一時期、中高生の自殺がマスメディアで大きく取り上げられた際に、
『みんなが死ぬのなら自分も』と感化されたのが妹者であった。

遺書にいじめっ子達の名前を書いて、何をされたのかも綿密に書いて。
そして最後に、家族への謝罪を書こうとした所で手が止まった。

自分が死んだら、きっとこの家族は世間の波によって取り上げられる。
そしてあることないこと言われ、蔑みの目で見られるだろう。
それは駄目だ、それだけは駄目だ。
妹者は書きかけの遺書をぐしゃぐしゃにし、丸めてゴミ箱に捨てた。

そして自殺の方法について考える。
誰にも迷惑をかけずに死ぬ方法。自殺だと気付かれない死に方。
首吊り。飛び降り。樹海。服毒。窒息。練炭。睡眠薬。拳銃自殺。
焼死。餓死。溺死。轢死。凍死。感電死。出来れば安楽死。

最後に思い付いたものに、くすりと笑う。
誰か苦痛を感じない方法で、一瞬で、恐怖を感じる事もなく、殺してくれないだろうか。
消してくれないだろうか。記憶も全部。生まれた事も。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:47:44.36 ID:YkVRIXhy0

肩を叩かれて、現実に戻って来た。

国語。消しゴムのカスをぶつけられた。
そのまま、消しゴムのカスのぶつけ合いになった。
私は参加していない。周りが勝手にそうしている。
教育実習生の声が、涙ぐんでいる。

理科。斜め後ろからひそひそ話。
チラ見だとかなんだとか言っている。ふざけるな。
誰がお前なんか見るもんか。お前なんか視界に入れたくもない。
わざわざこっちの動向を観察して、そっちがガン見してるんじゃないか。

体育。何もされない。
ああ、今日は男女合同じゃなくてよかった。
でも体を動かすのは苦手だなぁ。
一応、バレーボールのサーブが相手コートに届くから、
他の子みたいに、ヒートから睨まれなくていいけど。

早く、早く1日が終わりますように。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:52:44.07 ID:YkVRIXhy0



きーんこーんかーんこーん


放課後。
夕暮れ。
境界線。

从・∀・ノ!リ人「ふぅ…」

やっと家に帰れる。溜息を吐く。
急いで自転車置き場に向かう。
よかった、何もされてない。
前にシュールの機嫌を損ねてしまった時、ハンドルの持ち手を米塗れにされたのだ。
サドルを盗られた時よりも、ちょっとクるものがあった。

胸の内ポケットから、自転車の鍵を取り出す。
自転車置き場の屋根を支える棒と繋いでおいたワイヤー錠を外す。
自転車の前輪を止めておいたU字錠を外す。
自転車に元からついてる、後輪を止める鍵を外す。

これでよし。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:56:12.10 ID:YkVRIXhy0

自転車を押して校門から出ようとしたら、あいつらがそこでサッカーをやっているのが見えた。
なんでこんな場所で。誰も注意しないのか。普通に迷惑だ。何を考えているんだ。

从 ∀ ;ノ!リ人「どうしよう…」

回り道。裏門は?
駄目だ。今は水道工事で通れない。
田んぼも、今は水が入ってるから無理。

どうしよう。

あいつらがいなくなるまで待つ?
無理だ。そもそも自転車を持ってずっとここにいると、他の人に怪しまれる。

じゃあ、あそこを通る?
無理、怖い。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 11:59:27.09 ID:YkVRIXhy0

日が暮れる。暗くなる。
暗くなる前に、どうにかして帰らないと。

この自転車は、ライトを壊されたままなのだ。

从・∀・;ノ!リ人「……」

暗くなったら帰れない。
それに、大人に見つかったらきっと怒られる。
きっと保護者にも連絡がいってしまう。
ライトが壊れている事だってバレるかもしれない。
そうしたらきっと怒られる。
無駄に金を出させる事になってしまう。
今の家族に、迷惑はかけたくない。

妹者は校門を通る事を決意したが、腰は引けていた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:03:52.74 ID:YkVRIXhy0

俯いて、前を見ないように、視線を落として、下を見ながら。
何かが何かを言ってるけど気にしない。気にしちゃいけない。

早く行こう。

  _
( ゚∀゚) プッ
               クスクス (・∀ ・)


从 ∀ ;ノ!リ人「……」

早く行こう。

妹者の歩きは自然と早くなる。
校門の柱が見えたところで、自転車に何かがぶつかった。
自転車を転ばさないよう、慌ててバランスを取る。
  _
( ゚∀゚)「二度と来んなw」

(・∀ ・)「バーカ バーカ」

ああもう顔をあげなくてもわかる。
どうせ、サッカーボールをこっちに向かって蹴ったんだ。

顔とかに当たってたら、あいつらどうする気d



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:08:18.52 ID:YkVRIXhy0

ばしんと、ドッジボールを当てられた時と同じ音がした。

从;∀(#;ノ!リ人「う…」

ほっぺが痛い。衝撃で頭がぐらぐらする。
思わず自転車のハンドルから手を話してしまった。

がしゃんと音を立てて、自転車が倒れる。
ああ、籠が歪んでしまった。
  _
( ゚∀゚)「二度と来んな! 死ね!」

(・∀ ・)「バーカ! バーカ!」


うるさい、お前らが死ねばいいんだ。
ひどいひどいひどい、私は何もしてないのに。
どうして私がこんな目に、どうして。
頭の中がこんがらがって、思考さえも空回る。







27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:11:24.44 ID:YkVRIXhy0







気がつけば、自転車も鞄も何もかも放り出して、叫びながら農道を全速力で走っていた。
日は既に落ちて、辺りは暗い。喉が痛い。
点滅する街路灯が、先の道にぽつりぽつりと宙に浮かんでいる。

そう言えば、学校のHRで不審者出没注意とか言われたっけ。
でも、駅の近くに出たって言ってたなぁ。こんな場所にいる訳ないか。

周りを見渡して、溜息を吐く。
一面の田んぼ。遠くの左に町の灯り。遠くの右に森。
後ろは真っ直ぐ行くと学校で、前に真っ直ぐ行けば墓場。

いつもは暗くなる前に墓場を通り過ぎていたけど、こうなると怖い。
最初は家に帰る近道として、最近はいじめっ子の目を避ける為にこの農道を通っていたけど、
なんでこんな遅い時間に、ここを通る事を選んでしまったんだろう。

冷たい風が通り抜けて、妹者は自分を抱きしめた。
向こうにある木製の電信柱が、ぎいぎいと揺れる。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:13:28.73 ID:YkVRIXhy0

足元が暗い。砂利道なのは感触でわかるけど、怖い。
田んぼの水が星の光を反射して、不気味さを惹き立てる。
風で水が揺らめいて、光も一緒に揺らぐ。

足元が全く見えない暗闇の中を、歩いた事はあるだろうか。
恐怖漫画を見た後なんかでは、暗闇から足を掴む白い手などを想像してしまう。
そして、そこにあるのはわかっているのに、踏むべき地面が見えない恐怖。
無知への恐怖。知らない恐怖。得体の知れない恐怖。

地面に足を付けているのはわかっているのに、奇妙な浮遊感が妹者を襲う。
膝が自然と震えて来る。尿意を覚えてしまった。もうどうしよう。
目尻に溜まった涙が、遂に頬を流れ落ちるといった所で、後ろから声を掛けられた。

『妹者じゃないか、こんな所でどうしたんだ?』

暖かい声だった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:14:54.59 ID:YkVRIXhy0

从;∀;ノ!リ人「あ、あ、…」

妹者は、涙も拭かずに振り返った。
そうだ、そう言えば、彼もここを近道として使っていたんだった。

家を出る時にセットした髪もぼさぼさにして、鼻水を垂らして、顔も歪めて。
形振り構わず、声を掛けてくれた人物に駆け寄った。

从;Д;ノ!リ人「ゔわああああああん! わあああああああ!」

( ´_ゝ`)「よしよし」

流石兄者は、走り寄って来た妹者を屈んで受け止めた。
妹者は涙が止まらない。大丈夫、泣き止む必要もない。
服の裾を握り締めて、暖かい胸に顔を埋めて大声で泣いた。

その間、兄者は服に涙や鼻水や涎がつくのも構わず、ただ黙って妹者の頭を撫でていた。
風は稲を、ざわざわと不気味に揺らす。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:15:55.79 ID:YkVRIXhy0

ハンカチで涙を拭いて、ティッシュで鼻をかむ。
使ったティッシュをどうしようか迷っていたら、目の前に手を差し出された。
意図が判らなくて顔を上げると、視線が渡せと言っていた。
少し迷って、手の上に置く。
兄者はそれを自分のポケットに押し込めた。

从;∀;ノ!リ人「服がしわしわになっちゃったのじゃ」

涙と鼻水のついた手で服を握ったものだから、兄者の服の裾は酷い事になっている。

( ´_ゝ`)「いいさ、これくらい」

兄者から鞄を手渡された。途中で投げ捨てた鞄は、兄者が拾ってくれたらしい。
お財布は、最初にお金を取られた時から持って行ってない。
携帯は最初から持ってないので、貴重品と言うものは入っていない。
それでも、教科書がなければ明日から困ってしまう。
妹者は兄者に感謝した。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:17:29.40 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「ところで自転車はどうした?」

从・∀・;ノ!リ人「あ、じ、自転車は、」


どうしよう。言うべきか、言わざるべきか。
おろおろしていると、兄者は事も無げに言った。

( ´_ゝ`)「まあ、言いたくないならそれでいいさ」

妹者は、そう言われて初めて気付いた。
家族の誰かに、いじめの真実を知ってほしいと思っている自分に気付いた。
この胸のどろどろと黒く濁ったものを、受け止めてほしいと感じている自分に気付いた。

( ´_ゝ`)「取りあえず、コンビニ言ってトイレ貸してもらおうか」

けど、それはもう出来ない。
あそこですぐに話せばよかったのに、自分がその道を塞いだ。
そんな妹者の心を見透かしたかのように、兄者はタイミングよく呟く。

( ´_ゝ`)「…言いたくなったら、いつでも聞くよ」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:19:22.83 ID:YkVRIXhy0

帰り道を逸れて、家の少し遠くにあるコンビニへ向かう。
遠くと言っても徒歩10分くらいだ。近い。

妹者は自動ドアをくぐると、真っ直ぐトイレに向かった。
まず最初に用をたす。それから手洗いへ。
顔にこびり付いてかぴかぴになった鼻水や涎を落とし、鏡で目が赤くなってないか確認する。
効くかどうかわからないけど、充血を収める為に、水で顔を洗う。
なんとなく、目が赤いのが治るような気がしたからだ。
兄者なら充血の治し方も知っているのかな、と考える。

トイレから出たら、兄者が扉のすぐ近くで待っていた。
驚かせる気はなかったのだろうが、それでもびっくりしてしまう。

( ´_ゝ`)「何か欲しいものあるか? 買うよ」

从・∀・ノ!リ人「え、えーと、それじゃ」

言葉に甘える事にした。
昼間、ちょっと目を離した隙に弁当に虫を入れられて、おかずしか食べてないのだ。

お腹が膨れるものはないかと菓子棚を探す。
しかし、菓子棚にそういったものはない。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:21:08.69 ID:YkVRIXhy0

弁当コーナーから持って来ようかと考えるが、家に帰って少しすれば夕飯だ。
ご飯はやめたほうがいい。つまみは…高い。
少し悩んで、素直に菓子にしようと諦める。
目を泳がせて、一番安くて量が多そうなものにする。

从・∀・ノ!リ人「これがいいのじゃ!」

妹者はコンソメ味のポテトチップスを兄者に渡す。78円。

( ´_ゝ`)「1個だけ?」

その言葉に更に甘えて、妹者は隣にあったポッキーに手を伸ばした。
2個は選ばない。1個だけ。

会計の時に、兄者が横にある肉まんを2つずつ頼んだ。


('(゚∀゚∩「計382円になるよ!」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:23:41.36 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「ほら」

从・∀・ノ!リ人「ありがとうなのじゃ」

まだ熱い肉まんを素直に受け取る。
2つ買った時から予想はしていたが、嬉しいものだ。
逆に、予想が外れていたら落胆していたかもしれない。

食べ歩きしていいものかと悩み、横の兄者を見上げる。
右手にコンビニ袋、もう片方に自分の鞄を持っているので食える状況じゃない。
肩からは兄者自身の鞄が下げられている。

妹者は『自分の鞄くらいは自分で持つ』のもっと優しい言い方を考えた。
なんと話し掛けようか迷い、思い浮かばず、結局やめた。

自分に嫌気が差す。
無知さに。鈍感さに。狡猾さに。無力さに。甘えに。

妹者は、家の屋根と、そこの門に入って行く車を見たところで、
自転車がない言い訳を全く考えていなかった事にはたと気付いた。

思わず歩みが遅くなる。
自分の歩みに合わせてくれていた兄者が、ほんの少し前に出る。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:25:11.18 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「どうした?」

責めてはいないんだろうけど。その言葉が責められているようで辛かった。
どうしようを頭の中で連呼させているうちに、また涙が湧いてくる。
さっきあれだけ泣いたばかりなのに。

なんとなく察してくれたのだろう彼は、妹者の手を掴んで、道から外れた。
通行人から見えない位置に、近くの住宅の2階の窓から見られない位置に移動する。
流石にここでは大声を出せないので、声を殺して泣く。

从;д;ノ!リ人「じっ自転車、ヒッグ自転車がっヒッ」

泣いてしゃっくりが出て、うまく話せない。
それでも言いたい事は伝わったようで、兄者はまた頭を撫でてくれた。

( ´_ゝ`)「その件については、俺が上手く言っておいてあげるから」

だから、今は家に帰ろうと優しく言って、妹者の手を引っ張った。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 12:27:18.86 ID:YkVRIXhy0



           ∩∩
          | | | |
         (゚ω゚ ) <そして いえに つきました
         。ノДヽ。
            bb



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:13:35.61 ID:YkVRIXhy0

手洗いうがいをする。ご飯を食べる。お風呂に入る。
買ってもらったお菓子を持って、一度自分の部屋へ。
ベッドにある枕を持って、兄者の部屋の前に行く。

从・∀・ノ!リ人「…」

扉を叩こうとあげた手をおろす。
先に中を覗いて、兄者が何をしているか、様子を確認しよう。
勉強でも、読書でも、パソコンでも、一段落したのを見計らってノックしよう。

そして覗く為の隙間を探す。
このドアに、鍵穴はついてないから無理だ。
そもそも、昨日洒落怖で鍵穴の向こうが赤い都市伝説を見てしまった後だから少し怖い。
下の隙間から見れないかと頭を床に擦り付けていたら、ドアのラッチがぐらぐらと揺れて落ちた。


がしゃんっ



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:16:54.51 ID:YkVRIXhy0

从・∀・;ノ!リ人「わひょう!?」

眼前目測mm単位に落ちてきた金属に、思わず変な声をあげて飛び退る。
危ない。普通に危なかった。
もし当たっていたら…いや、刺さっていたらと思うとぞっとする。

(´<_`; )「なんだ? どうしたんだ?」

音を聞きつけて、兄者の向かいの部屋から弟者が出て来る。

从・∀・;ノ!リ人「ちっちゃい兄者…」

(´<_` )「ん? なんだこれ」


その後、なんとかもう一度取り付けれないかと二人でがちゃがちゃといじくる。
その騒音を聞きつけた兄者が、廊下に出ようとして開けたドアに弟者が強打された。
鼻っ面を思い切り打たれた弟者は、正直かなり痛そうだ。

(´<_`# )「何すんだ! 折角直そうとしてやってんのに、謝れ!」

( ´_ゝ`)「すまん」

結局、ドアのラッチは兄者自身が直した。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:20:42.87 ID:YkVRIXhy0
−弟者−


あまりにも強く打たれて、鼻血がぼたぼたと垂れて来た。
どんだけ力込めてドア開けてんだよ。
向こう側に人がいるの判ってんだから、もう少し加減しろと言わざるを得ない。
推理物で開かないドアを体当たりで破るシーンじゃあるめぇし。

从・∀・;ノ!リ人「た、大変なのじゃ!」

妹者が慌てて自分の部屋に戻り、箱ティッシュを持って来てくれた。
うーんよく出来た子だよ。流石だよな妹者。
鼻血を流させた当の本人と言えば、

( ´_ゝ`)「…」

部屋と廊下の境目で、相変わらずの無表情でこっちを見降ろしている。
妹者からティッシュを受け取った時に屈んだままなので、こっちが見上げる形になる。
もしかしたら見下しているのかもしれない。知ったこっちゃないが。

本当、癇に障る奴だ。
子宮の中で細胞分裂して、別たれたクローンがこれだとか、未だに信じられない。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:26:30.85 ID:YkVRIXhy0

兄者がドアの留め金を直してる最中、俺の部屋に妹者が遊びに来た。

(´<_` )「そう言えば妹者、枕とポテチなんか持ってどうしたんだ?」

夜中に菓子なんざ食べると、太るぞと付け加える。

从・∀・;ノ!リ人「が、学校の図書室で友達に薦められて。怖い本を読んだのじゃ
           ちょっと今日は一人で寝るのが怖かったのじゃ、ごめんなのじゃ」

あー、それで兄者の部屋の前であんな事してたと。
つーか俺じゃなく兄者なのね。なんか傷つくぜ。

(´<_` )「はあ…」

留め金の修理の完了は、それから直ぐだった。
名前を呼ばれた妹者が、嬉しそうに出て行く。
ドアを閉める前に、壁の影からちょっとだけ顔を出しておやすみと言った。

くうう妹者可愛いなぁもう! ちゅっちゅしたいよう! ……ふぅ。
妹者可愛いよ妹者! …ふぅ。義理妹いいよ義理妹!
うーん、人の欲望って際限がないな。

そんな事を心の中で思いながら、一人部屋で悶えていると兄者が入って来た。
慌てて冷静さを装う。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:32:09.86 ID:YkVRIXhy0

(´<_` )「何の用だ?」

兄者は無言で工具箱を渡す。

(´<_` )「…何これ?」

意図がわからん。

( ´_ゝ`)「先程確認したが、ここの扉の留め金も緩んでいた」

(´<_` )「直せと?」

無言で頷く。

(´<_` )「いや無理、さっきのやつ直せなかっただろ」

( ´_ゝ`)「道具があっても無理か?」

(´<_` )「めんどい」

( ´_ゝ`)「そうか」

渡された工具箱を、兄者に返す。
そのまま兄者はおやすみもなく部屋を出て行った。

暫くして、かたかたとドアに何かが当たる音がする。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:36:10.46 ID:YkVRIXhy0

(´<_` )「…」

別に頼んでもいないのになーと思いつつ、意識をドアの向こう側に向ける。
がちゃがちゃと工具箱を漁る音がして、きしりきしりと螺子を巻く音。
その音が、何故かあるものを連想させる。

(´<_` )「なあ、兄者」

『なんだ』

木の板1枚を隔てて、声が届く。

(´<_` )「さっき部屋から出て来た時、電気つけてなかったよな」

『寝てたんだ』

その返答に、妙な既視感が脳天を貫く。

(´<_` )「よく暗い中で転ばずに、真っ直ぐドアに行けたな」

『自分の部屋だ。扉の位置くらい、暗くても判る』

更に言葉は続く。

『お前の場合、部屋が散らかっているから転ぶんだ。掃除をしろ』



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:42:56.83 ID:YkVRIXhy0

会話はそれで終わった。
工具箱の閉じる音がして、廊下を隔てた向こうのドアの開閉音が響いて終了。
変な細工をされてないか、何度かドアを開け閉めする。
閉じ込められたら、たまったモンじゃない。
あいつがそんな七面倒臭い事をする筈がないのは知ってるが。一応。

(´<_` )「ふう」

部屋の電気を消し、溜息を吐いてベッドに身を投げる。
だけど、さっきのデジャヴの所為で、眠気が来ない。
何か胸に蟠るものがある。よくわからない焦燥感もある。
例えるなら、宿題をやらずに夏休み最終日を迎えたような焦りと恐怖。

我ながら、その例えを一笑する。
この不快感を抱えたままでは、良い眠りは訪れない。
せめて、その湯気のような正体を見極めようと、記憶を表層に浮かせてみようと試みる。

しかし、それは朝の目覚めと共に忘れてしまったような夢で、何も浮かんで来ない。

確か、怖いものだった気がする。
気がするだけ。
夢の泡沫。
思い出すにも値しない事。
そう、取るに足らない事だ。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:47:56.13 ID:YkVRIXhy0

最後に浮かんだ考えに、自分で突っ込んだ。
これだけ気になって、眠気すら吹っ飛んでるんだ。
そんな訳がないだろう、と。

畜生、何かが突っ掛かる。
思い出せない事に苛立つ。
もうすぐそこまで来ているような気がするのに。

(´<_`# )「…」

どれもこれもあの糞兄者の所為だ、と全てを押し付けて布団を被った。
きっと、俺はこれを思い出した時に、胸のつっかえが取れたと安堵する事はないだろう。
何故あそこで思い出さなかった、と後悔と憤怒に駆られる筈だ。

喉の奥がむかつくような感触を覚えながら、その日は眠りに落ちた。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 13:51:04.52 ID:YkVRIXhy0

             \ │ /
              / ̄\  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
            ─( ゚ ∀ ゚ )< だれがどうみてもあさだよ >
              \_/  \__________/
             / │ \



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:00:53.02 ID:YkVRIXhy0

翌日は土曜日。天気は快晴。心は雨。
兄者と二人、弟者の車を借りて外に出る。
家族には出掛けと言って、学校に置きっ放しにしている自転車を取りに来たのだ、が。

从・∀・ノ!リ人「ないのじゃ」

流石に、昨日と同じように校門の前に堂々と横倒しにしておいたままではなかった。
見回りの先生辺りが自転車置き場に移動させたのだろうと思い、探すが、ない。

鍵を外したままだったから、誰かが駅で乗り捨てたのかもしれない。
そう思って、駅横の自転車置き場も探してみたが、成果は上がらず。

どうしようか、警察署に行こうか。
しかしそうなると、保護者である母者を連れて来なくてはならなくなる。
そうしたら、自転車を無くしたのもバレてしまう。

あの自転車には住所を書いたシールと、学校指定のシールが貼られていた。
親切な人の目に留まり、届けてくれる事を願う。
後数日待って、それからまた探してみようと言う事になる。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:04:38.45 ID:YkVRIXhy0

そうして、コンビニで昼食を買おうと寄り道した際に、偶然ドブで見つけてしまった。
ぼろぼろになった自転車。

从・∀・ノ!リ人「あ…」

全部の鍵穴にガムや小石が詰め込まれ、もう二度と使えない。
ワイヤー錠に限っては、ペンチか何かで思い切り切断されていた。

从;∀・ノ!リ人「う、…あ……」

塗装は剥がれ、籠は原形を留めていない。
前輪後輪のタイヤは言わずもがな、どちらもパンクしていた。

从;∀;ノ!リ人「あああ、う、うぁ」

ライトは砕かれていて、これでは壊れていない事を誤魔化す事も出来ない。
シールは無理矢理剥がそうとした後がある。
結局ライターか何かで焼いたんだろうか、その部分だけ異様に焦げていた。


( ´_ゝ`)「妹者、妹者」

从;∀;ノ!リ人「うー、ううう」

( ´_ゝ`)「人目につくから、ちょっと車の中に戻ろうか」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:08:07.80 ID:YkVRIXhy0

また兄者の腕の中で世話になって、一通り落ち着いてからまた外に出た。
ぼろぼろにされた自転車を見ても、もう悲しくなんかない。
寧ろ、怒りしか沸いてこない。

从・∀・ノ!リ人「…あいつらも、同じ目にあっちゃえばいいのじゃ」

( ´_ゝ`)「自転車が?」

从・∀・ノ!リ人「…妹者と同じ目に合えばいいのじゃ」

そしたらきっと、いじめてなんか来なくなる筈。
でもそうしたら、今度から別の奴からいじめられるんだろうか。
あのグループとか。シュールとか。
ああ、嫌だなぁ。



いっそ、跡形もなく消えたらなぁ。自分が。
自分の存在自体が壊れて砕けて散ってしまえばいいのに。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:11:31.79 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「同じ目、ね」

从・∀・;ノ!リ人「!?」

兄者が呟いた一言に、びくっとなる。
その声が、唸るように響くように謳うように聞こえたからだ。

( ´_ゝ`)「消えたいとか言ったら、母者が悲しむよ?」

从・∀・;ノ!リ人「あ」

さっき思った事、喋ってたのか。
自分の愚かさが苦しかった。

返答に迷ったが、兄者になら言ってもいい気がした。
なんとなく、受け止めてくれるような気がしたから。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:16:21.68 ID:YkVRIXhy0

从・∀・ノ!リ人「妹者、大きくなったら生命保険にたくさん入って、死のうと思ってたのじゃ」

( ´_ゝ`)「何故?」

从・∀・ノ!リ人「妹者は手がかかるのじゃ。育ててくれたお礼なのじゃ、お金たくさんなのじゃ
           母者はきっと年を取っても大丈夫なのじゃ。万が一でも、兄者達がいるのじゃ」

( ´_ゝ`)「母者はきっと悲しむよ?」

从・∀・ノ!リ人「母者は強い人なのじゃ」

( ´_ゝ`)「みんな悲しむよ?」

その『みんな』の中に彼が入っていないような気がして、
『おっきい兄者も悲しんでくれるのじゃ?』とは、口が裂けても言えなかった。


从・∀・ノ!リ人「だから、いっそ」

从・∀・ノ!リ人「みんなの記憶も、消えたらいいのじゃ」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:20:47.64 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「…」

从・∀・ノ!リ人「もし悲しんでくれるなら、妹者みんなに出会わないほうがよかったのじゃ」

だって優し過ぎるから。
あなたたちは残酷な程に優しいから。

きっと有り得ない事なのだろうけれど、いつか裏切られるかと思うと怖い。
怖くて夜も眠れない。
柔らかい座布団に座って、みんなでテーブルを囲んで、暖かい食事を食べて、
和やかに談笑しながらご飯を食べれるなんて。

まだ夢なんじゃないかと思う。
あの自分がこんな、幸せな家族の間に入れるなんて。
夢だとしたら、覚めてほしくない。壊れてほしくない。
幸せ夢のまま、夢を見させたまま消えてしまいたい。

从・∀・ノ!リ人「だから、だから」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:27:47.52 ID:YkVRIXhy0

( ´_ゝ`)「うん、そうか。よし」

また泣きそうになる妹者の顔を見て、兄者はそう言った。
そのまま妹者の小さな手を連れて、車に乗り込む。

妹者はさっきの兄者の『よし』は何なのか、全くわからない。

いじめっ子達になんらかの報復を与えるつもりなのだろうか?

いや、兄者はいじめっ子達が誰なのか知らない。

ならば、殺してくれる?

いいや、それはない。


前科だとか、優しさだとか、そんなものの前に、兄者は    ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;
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77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:31:33.42 ID:YkVRIXhy0
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79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:37:24.44 ID:YkVRIXhy0

  _
( ;゚∀゚)「ど、何処だよここ…」

ジョルジュ長岡は見知らぬ闇の中にいた。
四方八方暗黙夢中。

今は夜?
いいや、俺はまたんきと一緒にゲーセンにいた。
まだ昼飯すら食べてない。これから食べる予定だったのに。
何故。何時の間に。どうして。

訳のわからぬ恐怖を抱くと、次第に闇が晴れて、一面田んぼの田舎に出た。
  _
( ゚∀゚)「なんだこれ?」

それを見て、ジョルジュはなんだ夢かと安堵する。
急な場面の転換は夢の中だからと結論付ける。

砂利を踏む足裏の感触や、吹き抜ける風の感触がやたらリアルだ。
これが明晰夢と言うものなのだろう。
しかし、自分はいつ眠ってしまったのだろうか。
  _
( ;゚∀゚)「う、えぇえ!?」

早く覚めないかと頬を抓ると、凄まじい速さで時間が流れていった。
照り付ける日差しが痛かったのが、肌を刺す寒さに変わる。
まるでビデオのハイスピード再生のようだ。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:44:19.93 ID:YkVRIXhy0

点滅する街路灯が、先の道にぽつりぽつりと宙に浮かんでいる。

一面の田んぼ。遠くの左に町の灯り。遠くの右に森。
後ろに、ぼんやりと学校が見える。
前方には、墓場らしきもの。その向こうに、かなり遠いが民家の灯り。

冷たい風が通り抜けて、ジョルジュは思わず身構えた。
向こうにある木製の電信柱が、ぎいぎいと揺れる。
  _
( ;゚∀゚)「なん…だよ……コレ」

足元が暗い。砂利道なのは感触でわかるが、怖い。
田んぼの水が星の光を反射して、不気味さを惹き立てる。
風で水が揺らめいて、光も一緒に揺らぐ。

足元が全く見えない暗闇の中を、歩いた事はあるだろうか。
恐怖漫画を見た後なんかでは、暗闇から足を掴む白い手などを想像してしまう。
そして、そこにあるのはわかっているのに、踏むべき地面が見えない恐怖。
無知への恐怖。知らない恐怖。得体の知れない恐怖。

地面に足を付けているのはわかっているのに、奇妙な浮遊感がジョルジュを襲う。
膝が自然と震えて来る。尿意を覚えてしまった。漏らしそうだ。
恐怖に滲んだ汗が、遂に頬をつたい落ちるといった所で、背後に気配を感じた。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 14:52:30.46 ID:YkVRIXhy0

ほぼ反射的に振り向く。
『それ』の全貌を見る事なく、大きな音が聞こえた。

それが自分の叫びだと理解するのに何秒、何分、何時間、何年要したろう。
眼前まで迫る円錐のような形をした闇に、鼻筋を撫でられてようやく動く事が出来た。

  _
( ; ∀ )「はっ、はっ、はっ」

なんで夢の中なのに息切れがするんだ。
ああクソ、足が上手く動かない。
下半身だけが、水の中に囚われているようだ。
意思と反して、スローモーションのような走りになる。
すぐそこにあれがあいつが在る居るのに。

なんだあれはなんだあれはなんだあれは。
さっきふりむいたときはいなかったのに。
あれはだれ? あれはなに? あれはいきもの?

これは夢なのに。夢如きに。夢だからこその恐怖がある。
貼り付くように、粘るように、這い寄るように、その黒い塊は前進する。

砂利で躓き、体勢が崩れた時に横に見たその物体は、
上部から歪な4本の触手を伸ばしていた。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 15:01:50.19 ID:YkVRIXhy0

半世紀ぐらい逃げ続けただろうか。
類を見ない長時間耐久マラソンだ。間違いなくギネスに載る。
そしてジョルジュ長岡と言う名は、人類が滅びるか、改訂で記録が削除されるか、ギネスが無くなるか、
他に記録を更新する者が出るまで、その名を歴史に刻む事になるのだ。

最も、今の彼に、そんな事を考える余裕などない。

  _
( ;∀;)「はぁっ、はあっ、ひいっ!」


かたん、ぺたん、そんな擬音に似た音がする。
粘着質な平面上の物体が、同じ平面の硬質なものから剥がれるような音。
もう自分が走っているのか歩いているのかすらわからない。

あの怪物との距離は一定を保ち続けていたが、ここ十数年で縮まってきている。
すぐそこに、すぐ後ろに、すぐ隣に、たまに追い越されながら、あの怪物はいる。

いい加減痺れを切らしたのか、飽きたのか、それとも人には理解できない思考からか。
『それ』は蠢く闇を纏わりつかせながら触手を伸ばし、ジョルジュ長岡を捕えた。



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:03:49.60 ID:YkVRIXhy0

ジョルジュを捕えたその触手は、先端に鉤爪のようなものがあった。
その鉤爪でジョルジュの腹を切り、刺し、裂き、貫き、抉り、掻き回した。

ジョルジュ 長岡は死なない。

血の塊をごぽごぽと吐き出しながら、額には脂汗を浮かせている。
表情は恐怖、苦痛、憐憫、動揺、後悔。全てが入り混じり調和されていた。

次に『それ』は、小枝を折るようにジョルジュの四肢の骨を折る。
まずは右腕上腕骨から。橈骨、尺骨。左腕も同じく。
そして足、勿論右から。大腿骨、腓骨、脛骨、膝蓋骨も例外なく。
ばきり、ぼきりと音がする。しかし肉に包まれているからか、その音は鈍い。

手の骨も、1本1本、丁寧に折ってゆく。
まずは小指末節骨から中節骨、基節骨。次の薬指も、最後の親指も同じように。
そして第1から5の中手骨。往復するように、今度は親指から。
人が見れば複雑な手根骨も、1つ1つ丁寧に。
ここの場合は、折ると言うより砕くと言ったほうが正しいだろう。

有頭骨、小菱形骨、有鈎骨、大菱形骨、豆状骨、三角骨、舟状骨、月状骨。
隣合い、軟骨で繋がる骨を巻き込んでしまわないように、1つ1つ。
1つを砕かれ、折られる毎に、ジョルジュの口腔から声にならない悲鳴があがる。
ぱきり、と音を立てて骨が砕ける。
ただ、砕けた後のかけらは2つだ。砕けるとはやはり違う。折る?
いいや、折るとは、棒状の物体を差す。ではこれは?
手根骨の多くは棒状ではなく、歪んだ球状のものが多い。

割る、だ。              ぱきん



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:12:00.20 ID:YkVRIXhy0

足の骨もすべからく。
右。指と同じく小指末節骨から。そして第1から5の中足骨。
足根骨も丁寧に。踵骨、距骨、距骨滑車、舟状骨、立方骨、楔状骨。

肋骨は折った後、1本1本肺に突き刺す。
左の骨は、左肺へ。右の骨は、右肺へ。
胸骨体の先にある剣状突起を引っ張ると、折れた肋骨の残骸ごとずるりと引き抜けた。
溢れ出す血の量に反比例して、ジョルジュの吐き出す血の量は減る。
まぁ、こうなったら、吐き出す為の筋肉の収縮もないだろう。

ジョルジュ 長岡はまだ死なない。

激痛の中でのたうち回る術すら失った長岡は、表情を引き攣らせたまま血を流す。
糸の切れた操り人形のように、でれんと力なく垂れた四肢を興味深そうに見る。
四肢と手足の骨を折られ、腹の中を掻き回されれば、当然とも言えよう。

ごぽがぱと血を吐き出す度に、凹凸する喉に鉤爪が向かう。
手足の時のような、懇切丁寧な作業とはうってかわり、それは一瞬の事だった。
  _
(  ∀ )「…――…―………」

声帯を失った彼は、最早悲鳴をあげる事すら許されない。
ぞぶりと肉を貫き掘る音、続いて筋繊維と血管が引き千切られるぶちぶちと言う音。
ばきばきばきと、頸椎が砕かれる。
微塵の優しさも見当たらない。
最初から、優しさなどなかったのだが。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:20:24.95 ID:YkVRIXhy0

そうして長岡は、文字通り『首の皮一枚』と言う状況になった。
かぶりを振って恐怖を払う事も出来ず、激痛から逃れる事も出来ず。
血球を取り戻し、血の色そのままになった涙を流す。

ジョルジュ 長岡は生きている。

傍目から見れば、B級ホラー映画で背景小道具として映される死体そのもの。
唯一の違いと言えば、その道具とは違い意思を持ち、思考し、生きている事。
自分から動く事がない、見た目と言う点では間違えようもなく一致している。

黒々とした不定形の物質が、理性を貪る音を聞く。
筋肉が弛緩した事で、脱糞、失禁共にしており、周囲には悪臭が漂う。
しかし、ジョルジュがその臭いを嗅ぐ事はないだろう。
何故なら、彼の鼻は凝固した血液により、最早血の匂いしか嗅ぎ取れないのだから。

ジョルジュ 長岡はまだ生きている。

『それ』は終に、その頭部へと触手を伸ばした。
先程の触手よりも幾分か細い触手が、眼孔からその中へ侵入する。
角膜を破り、虹彩と水晶体を貫き、毛様体を押し広げ、硝子体を通過する。
そのショックからか、ジョルジュの体がびくんと大きく痙攣した。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:29:29.40 ID:YkVRIXhy0

更にその奥の奥へ。中心へ。
ジョルジュと言う人格を形成し、長岡を作る元へ。
ずぶりずぶりと進む度、彼の体はそれに連動して痙攣する。
まるで一定の間を置いて、電流を流される実験動物のようだ。

  _
(  ∀ ) (やめろ、やめてくれ、そこにはおれが、おれのちゅうしんが)


そんなジョルジュの声にならぬ懇願も空しく、触手は大脳に到達する。
頭の中を掘られる。ぐちゃぐちゃに掻き回し、ぐすぐすに腐らせられる。

ジョルジュは訳もわからぬ憤怒を覚えた。
ジョルジュは訳もわからぬ安心を覚えた。
ジョルジュは訳もわからぬ哀愁を感じた。
ジョルジュは訳もわからぬ安堵を感じた。
ジョルジュは訳もわからず笑いたくなった。

彼は吐き気を催したが、そもそも吐瀉物の通過する器官がない。
吐き出す為の器官がない。吐瀉物を収める胃もない。
頭の中をこねくり回されているからだろうか。
ジョルジュは、一刻も早く、何もかもを終わらせてほしかった。

そのうち下半身に違和感を覚え、その違和感の正体が夜毎にしている行為だとわかった。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:35:17.76 ID:YkVRIXhy0

  _
(  ∀ ) (あ、あああ)

陰茎が勃起しているのだ。
恐らく、頭の中で何かしらの信号が送られ、そうなってしまったのだろう。
  _
(  ∀ ) (あああ、あ…ああああああああ)

普段ならば羞恥、興奮、快感を促す行為の手前である筈のもの。
しかし、この異様な状況で、彼は自分自身が信じられなくなった。
  _
(  ∀ ) (あああああああああああああああああああああああああああああ)

たかが勃起と笑い飛ばす事は出来ない。
外的要因を齎されずにそうなってしまった事が、ジョルジュ長岡の崩壊だった。
  _
(  ∀ )(あああああああああああああああああああああああああああああああ
     あああああああああああああああああああああああああああああああ)

彼はわかっていなかった。判らなかった。理解していなかった。
脳を蹂躙される過程で生じた結果だと分からなかった。
いや、この状況では、例え誰かが耳元で優しく教え諭してくれたとしても、耳を傾けれない。
自分の体が信じられず、自分の心が信じられず、何もかも信じられず。

ただ体を襲う激痛と、
脳をこねられる恐怖と、
吐き気と正気と理性がまとめて、
飛び散らんばかりの状況が相俟って、



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:38:29.92 ID:YkVRIXhy0


ジョルジュ 長岡は発狂した。

















                                        それは、幸せな事である。

               この惨状から、ようやく逃げ切れたのだから。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/14(日) 17:41:39.68 ID:YkVRIXhy0


ぜろぶんのいち
『1』について

胡蝶の夢/1/
どんまい/2/
お部屋 /3/
消える/4/
家族 /5/
君を/6/
狂 ./7/
歪/8/
Y/9/
I/1/0

ぜろぶんのいち
『0』について

昔\
過去\
紛い物\

壊れたい\            END.



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