( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:28:26.23 ID:XEQSdgst0
―3―

( ^ω^)「はっはっは! ああ突き放していても、本当は兄思いなのだお。
       そうだろう? 僕に似て美犬のクドリャフカよ!」

(U^ω^) ・・・・・・。

一つの場に留まっていられないブーンは、美犬(仮)を連れて石畳の小道を歩く。
色とりどりの花々は綺麗なのだが、生憎の曇天模様が景色をマイナスにしている。
あれからもしつこくツンを連れようとしたのだが、結局は一人で散歩することになった。
きっと、彼女は四六時中家に居るので、最近の街の様子が気になるのだろう。
ツンが男と二人きりになるのは些か不安だが、まあ、ショボンなら大丈夫だ。

( ^ω^)「天気が悪いが、僕の腕ならば立派な写真が撮れるお。
      そうだ。出来上がったものを写真コンクールにでも送ってやろう」

意気揚々なブーンはそう言って、ピントなどを気にせずシャッターを切りまくる。
数枚撮影していると、ファインダーの中に人影を見つけた。二人の少女だ。
少女達は道の先から、ブーンが立っているところへゆっくりと歩いてくる。

( ^ω^)「よし。彼女達を撮ってやろう。きっと良い絵になるお」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:29:38.82 ID:XEQSdgst0
思い立ったが吉日。ブーンは彼女達の側まで歩み寄り、軽快な声をかけた。

( ^ω^)「へろう! 君達、ちょっと被写体になってくれないかお」

从;'−'从「!?」

リl|゚ -゚ノlリ「・・・・・・」

中学生くらいの身長の少女二人は、それぞれの反応を示した。
肩の辺りまで髪がある、大人しそうな少女は飛び退くほど驚いたのに対し、
ショートカットの無表情な少女は、ただ黙ってブーンを見上げただけだった。
どちらも、陳腐な洋服を着ている。自己主張のあるアクセサリもしていない。
だが、短髪の少女は紫色の布に巻かれた、何か長細いものを持っている。

( ^ω^)「僕は内藤ホライゾン。これから写真界で名を轟かせる者だお」

二人の心境など知ろうとしないブーンは、気さくに自分の名前を告げた。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:30:29.86 ID:XEQSdgst0
リl|゚ -゚ノlリ「内藤、ホライゾン」

機械のような印象を受ける少女が声を漏らした。老人のように嗄れた声だった。

( ^ω^)「お? 何か?」

リl|゚ -゚ノlリ「・・・・・・いや。私は佐藤。こっちは渡辺」

佐藤と名乗った少女は、横を向いた。彼女の後ろに隠れている渡辺が顔を出す。
怯えている様子だ。突然声をかけられたからだろう。異常なくらい肩を震わせている。

( ^ω^)「その娘は大丈夫なのかお? 顔が真っ青じゃないかお」

リl|゚ -゚ノlリ「渡辺は人見知りが激しい。・・・それより、何の用?」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:31:28.30 ID:XEQSdgst0
ブーンは訊ねられて、はっとした。そして、写真を撮らせてくれと頼んだ。

リl|゚ -゚ノlリ「構わない。・・・・・・渡辺も、それで良い?」

从;'−'从「・・・・・・」

渡辺は警戒を解かなかったが、こくりと弱々しく頷いた。
ブーンはよしよしと嫣然として、山がある方へと立つように二人に言った。

( ^ω^)「いいね! 僕はどんな色の花々よりも山が好きだお。
       色彩心理学で言うとね、緑は命の源の色なのだお。素晴らしい!」

从;'−'从「あ、あのっ」

( ^ω^)「はい?」



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:32:32.87 ID:XEQSdgst0
从'ー'从「私も、緑が好き、です。瞼をぎゅっと閉じると、緑色が見えます」

上擦った声で、どもりながら渡辺が言った。目を閉じると緑が見える。
そうして見える色は黒か灰色ではなかろうか。・・・人によっては緑かもしれない。
ブーンは不思議な気持ちで首を捻ったが、とりあえず写真を撮ることにした。

( ^ω^)「何にしろ、好きなものが一緒なのは良いことだお。
       ささ、リラックスして。そうそう。じゃあ、撮るお」

そうして、ブーンはシャッターを切った。カメラが一瞬を捉えたのだ。
ブーンが軽くお辞儀をすると、少女二人は小さく頭を下げてから去った。
前途洋々の若き写真家は、カメラを曇天に翳して一人悦に入る。

リl|゚ -゚ノlリ「内藤さん」

( ^ω^)「お? あれ、まだ居たのかお。どうしたのだお」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:33:06.30 ID:XEQSdgst0
声のした方へと振り向くと、先程の少女達の片割れが傍らに立っていた。
居るのは佐藤だけで、もう一人の渡辺という少女の姿はない。
何か用事でもあるのか。ブーンが疑問に思っていると、佐藤は言った。

リl|゚ -゚ノlリ「私達は、須名邸に行った帰り。あの山を少し登った所にある」

(;^ω^)「!?」

ブーンは声を上げそうになるくらい驚いた。須名という姓に覚えがあるからだ。
大きく目を見開き、両腕を伸ばし、彼は小刻みに震える手で佐藤の肩を掴む。

(;^ω^)「君は一体」

リl|゚ -゚ノlリ「街で噂になってるの。内藤さんは知らない?」

体格があまりに違う男性に揺さぶられても、佐藤は顔色一つ変えない。

(;^ω^)「・・・噂? 僕は知らないお。どんな話なのか、教えたまえお」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:33:57.54 ID:XEQSdgst0
リl|゚ -゚ノlリ「黒い翼を持った少女が、その屋敷には出るそう」

一刹那置いて、さらさらと、風が吹き、花々をざわつかせる。
やがて、花びらが宙へと舞い上げられ、空の遥か高みへと消えて行った。

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・」

リl|゚ -゚ノlリ「なにそれこわい、ってそこへ見に行ったのだけど、誰も居なかった。
       内藤さんも行くのかな、と声をかけた。・・・・・・それだけ」

佐藤は言い終えると、後ろを向いた。それに伴い、肩から腕が離れる。
腕をだらりと下ろして、ブーンは神妙な顔つきで彼女の背中を見守る。

リl|゚ -゚ノlリ「内藤さん。きっと、その話は出鱈目だったんだ。
       黒い翼を持つ人間だなんて、子供の空想みたいなんだもの」

抑揚のない声。佐藤は少しだけ振り返る。黒い瞳が空の灰色を映す。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:35:11.99 ID:XEQSdgst0
( ^ω^)「いや、君達は探し方が甘かったのだお。
      僕はそういった胡散臭い話が好物でね。行ってみるとするお」

リl|゚ -゚ノlリ「・・・・・・そう。本当にいるのかな。もし、居たら何者なの。
      私は考える。それは、人間の闇のようなものじゃないかって」

( ^ω^)「闇?」

リl|゚ -゚ノlリ「人間は誰しも闇を持っている。闇を持っていなければ人間ではない。
      死の時に、二十一グラムが零れ落ちたんだ。レゾンデートルを伴いながら」

( ^ω^)「君も僕の友人みたいな話し方をするね。いやに意味不明だお。
       僕はそういう話を聞く度にいつも思うお。ネット上でやれ、と。
       日本に巨大掲示板がある。そこの主にニュースを扱う場所でやれお。
       そこでなら、論理戦争がいくらでもやりたい放題らしいお。
       ――で、二十一グラムって、一体どういう意味なのだお」

リl|゚ -゚ノlリ「魂の重量のこと。人の魂は二十一グラム。みんなに均等」



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:35:55.75 ID:XEQSdgst0
ブーンは顎に手を置いた。佐藤が何を言っているのか、さっぱり不明だ。
もしかしてキケンな人? とりあえず、分かる範囲のことを口にした。

( ^ω^)「つまるところ、君はオカルト支持者なんだお。
       幽霊のことを言ってるのだお。在世中の恨みが具現化すると」

リl|゚ -゚ノlリ「・・・・・・今はそれで良い。そろそろ私は行かなくてはならない」

佐藤は顔を前に戻して、歩き始めた。そこでブーンは既視感を覚えた。
この少女に以前会ったような気がしたのだ。いつだったかは分からない。
彼が思い出そうとしていると、佐藤が不意に、ぴたりと足を止めた。

リl|゚ -゚ノlリ「――君は、君の、君らしい、君を知る、心の旅を」

( ^ω^)「・・・・・・?」

最後に、謎めいた言葉を呟いて、佐藤は風景の向こうへと消えて行った。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:36:50.75 ID:XEQSdgst0

その頃、ツンとショボンは、場所は変わらずにベンチで談話していた。
内容は現在の街の状況から、ショボンの打ち明け話へと変遷していた。

(´・ω・`)「それでね。僕は、ブーンから君の特異な体質について相談されたんだ」

ξ;゚听)ξ「まあ! 兄が!? そんなお恥ずかしい話。申し訳ありません・・・」

(´・ω・`)「おっと。ブーンを責めちゃいけない。君を想ってのことだから。
      責められるべきは僕の方さ。内緒にしておくよう、言われてたのに」

ξ゚听)ξ「いえ、全ては私の、このおかしな体質がいけないのですわ。
      兄もショボンさんも悪くありません。むしろ、感謝しています」

(´・ω・`)「僕はツンちゃんの言うことを信じてるよ。協力したい。
      君は僕の妹に似ていてね。特に気丈なところが生き写しだ」

勿論、悪い意味でじゃないよ。そう付け加えて、ショボンは煙草をくわえた。
「あ」と、か細い声を出してツンを見る。ツンは微笑み顔で可愛らしく頷いた。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:41:49.44 ID:XEQSdgst0
(´・ω・)y-~~「ごめんね。定期的に吸っていないと駄目になってしまう。
        これだから、ブーンに不健康だと言われてしまうんだろうな」

ξ゚ー゚)ξ「いいえ、構いませんわ。あの人の言うことなんて無視して下さい。
       毎日、家でゴロゴロしていて、ずっと不健康なんですから」

(´・ω・)y-~~「彼はジョルジュみたいに結婚すれば良いのに。きっと落ち着く。
        まあ、僕もあまり人のこと言えないけどね・・・」

自虐的な笑みをこぼして、ショボンは煙草をくゆらせ、大きく煙を吐き出す。
自由とやすらぎの香り。そんなキャッチコピーを持つパーラメントの白い煙が、
微風にさらわれて、匂いだけを残して空気中へと掻き消えていく。

ξ゚听)ξ「でも、無理ですわ。結婚の話を持ちかけますと兄は言いますの」

(´・ω・)y-~~「へえ。なんて? 大体は想像がついてしまうのが怖い」



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:42:29.36 ID:XEQSdgst0
ξ;--)ξ「『僕に釣り合う女が、この世に居るわけがない』ですって」

(´・ω・)y-~~「おお。僕の予想が当たってしまった。なにこれこわい」

ξ゚听)ξ「それを言ったときの、兄の面持ちの恐ろしさといったら。
      笑いますのよ。けれど、目はまったく笑っておりません」

(´・ω・)y-~~「それはそれは。僕なら裸足で逃げ出してしまいそうだな」

ξ゚ー゚)ξ「またまた、ショボンさんは高等な兄の操縦術を知ってるじゃないですか」

(´・ω・)y-~~「・・・・・・いや、僕は恐れを知らないだけなんだ。
        だから何でも言える。どんな罵詈雑言でも言ってしまえるんだ」

ξ゚听)ξ「・・・・・・? ショボンさん?」

ショボンは笑っているような、或いは悲しんでいるかのような表情をした。
どういう経験をすれば、このような複雑な顔が出来るのだろう。
ツンは心配げな眼差しで、やや上を向いている彼の横顔を見つめる。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:43:33.02 ID:XEQSdgst0
(´・ω・)y-~~「お、噂をすれば帰ってきたよ。内藤家の問題児が」

ξ゚听)ξ「え」

ショボンが見た方向へ視線を遣ると、元気に走っているブーンの姿があった。
二十七歳の全力疾走だ。あんな恥ずかしい兄は居ない、とツンはあさってを見る。
息を切らしてやって来たブーンに、ショボンが労いの言葉を投げかける。

(´・ω・)y-~~「やあ。全力少年。ネズミのジェリーでも見つけたのかい?」

(;^ω^)「うるさい! 僕の居ぬ間に内緒話をバラした腹黒が!」

(´・ω・)y-~~「えっ」

この青年は盗聴器でも仕掛けていたのか。ショボンは服を確かめる。
入念に調べるがしかし、そのような物体は発見出来なかったのだった。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:44:14.24 ID:XEQSdgst0
( ^ω^)「ショボンはその場凌ぎの嘘は吐くが、それを吐き通せない性格だお。
      恐らく気持ち悪いのだろうね。だから君達を二人にさせたのだお。
      君が打ち明ければ、きっと丸く収めてくれると踏んだんだお」

煙草の先の灰がぽろりと地面に落ちた。ブーンは割と鋭いようだ。

( ^ω^)「僕も嘘は嫌いだお。ツンに悪い気がするからね」

(´・ω・)y-~~「なんという洞察力。探偵事務所でも設立してみてはどうだい」

( ^ω^)「ふむふむ。写真だけじゃなく、それも考えとかなくちゃいけないね。
      僕は聡いからお――――って、それどころじゃないお!
      とても凄いことを教えて貰ったんだおーーーーーーーーー!!!」

鼓膜が破れそうな声量で、ブーンは叫んだ。木霊が返ってくる。
ツンとショボンは咄嗟に耳を塞いでいたので、どうにかやり過ごせた。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:44:57.66 ID:XEQSdgst0
(´・ω・)y-~~「オーケーオーケー。君が興奮していることは、ひしひしと伝わった。
        まずは息を吸って。そして吐いて。ほうら、落ち着いただろう?」

ξ#゚听)ξ「お兄様! 場所と年齢を考えてください。そんな子供みたいに」

( ^ω^)「子供! そう、僕は少女達から凄い情報を得たんだお!」

ブーンはショボンとツンの真ん中へ、強引に割り入って座った。
それから、今しがた佐藤という少女から聞いた話を、二人にしてみせたのだった。

(´・ω・`)「ほほう。そんな噂話があったとはね。全然知らなかったな」

ξ゚听)ξ(・・・・・・)

煙草を吸い終えたショボンはしきりに頷いた。興味があるようだ。
ツンは聞いている間も、その後も、ずっと俯いて黙り込んだままである。

( ^ω^)「噂があるということは、特別な体質はツンだけじゃなかったんだお」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:45:27.81 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「確かに、黒い翼を持つ者って、ツンちゃんが視えるのと一緒だしね」

( ^ω^)「僕は須名家の家に行こうと思う。そして、一喝してやるんだお。
       僕の妹を怖がらせるんじゃない! 痴れ者が! ってね」

(´・ω・`)「僕もついて行くよ。興味があるし、君一人だと何かしでかしかけない」

( ^ω^)「ツンはここで待っていると良いお。吉報を持って帰ってくるお」

妹思いなブーンが自信満々の笑みで言うと、ツンはゆっくりと顔を上げた。
そして、彼女が言った言葉は、ブーンを怒らせるものであった。

ξ゚听)ξ「いいえ。私も行きます。きっと何か、役に立てると思います」

(#^ω^)「駄目だお! もし、ツンに災いがあれば大変なことだお!」



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:46:26.46 ID:XEQSdgst0
珍しくツンが叱られる。だが、彼女は自分の意思を曲げなかった。
静かにベンチから腰を上げて、特有の強気な目でブーンを見下ろす。

ξ゚听)ξ「お兄様がなんと仰っても、私は頑として譲りません。
       彼らは術を使うのです。森羅万象の法則にはない妖しい術を」

(´・ω・`)「それはまた。一体どんな術だと言うんだい?」

ξ゚听)ξ「世間一般的に、呪いと呼ばれている類のものです。
       私はこの体質になってから、幾度とそれらを経験して参りました。
       ですから、打ち破り方も知っています。お兄様、良いでしょう?」

勝気な雰囲気から一転して、今度は上半身を屈めて愛くるしく振る舞う。
ブーンは妹のこういった仕草に弱かった。腕を組んでそっぽを向く。

( ^ω^)「・・・・・・危なくなったら一番に逃げるんだお。分かったね」

(´・ω・`)(本当に妹には弱いな)



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