( ^ω^)ブーンが魔女を狩るようです

339: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:01:16.09 ID:YVvretVV0
  
第七話『無沙汰』


魔女同士の戦いは決して強い方が勝つとは限らない……その言葉が意味するところは一体何か。
ショボンとプギャーは戦いを再開した。

( ^Д^)「死ね!」

(´・ω・`)「勘弁願いたいね」

二人の声はもうあってないようなもの、それよりも速く、二人の攻撃しあう音しかこの場には響かない。
空気の振動はドクオやジョルジュにまで響いてくる、比喩でなく地面が振動している。

一瞬、目で捕らえることの出来ない一瞬に何かが起きている事は分かる。
ただ何が起きているかは分からず、気付くとプギャーという魔女が攻撃され、はるか遠くへ飛ばされていた。

圧倒的な甲乙、幾度とプギャーが攻撃でふっ飛ばされているにも拘らず、ショボンの方は一度として相手から引けを取っていない。
歴然たる実力の差がそこにはあった。

( ゚∀゚)「ショボンの方がどう見ても有利だ……そう思っているだろ?」

('A`)「まぁ……」

( ゚∀゚)「ついでだし、魔女について少し話しようか」

戦いを見ながらジョルジュはゆっくりと語りだした。



344: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:03:03.94 ID:YVvretVV0
  
強い方が勝つとか限らない、つまりショボンが勝つとは限らないという事なのに……割に随分と落ち着いた様子だ。
自身でそうとは限らないと言ったわけだが、その上でショボンをかなり信用しているようだ。

( ゚∀゚)「まず魔女という者について話しようか?」

戦いは一層激しさを増す。
とても肉体同士がぶつかり合っている音とは思えない、鈍さの中に甲高さを含んだ不思議な音が響き渡った。

( ゚∀゚)「魔女っていうのはな、万能じゃないんだ」

('A`)「どういう点でですか?」

( ゚∀゚)「例えば30kgのおもりがあるとしよう。
   魔女はこれを50kgにする事は出来るが、10kgにする事は出来ないんだ」

('A`)「つまり大きくする事しか出来ないわけですね」

( ゚∀゚)「そういう事、さらに言うと誰かが30kgのおもりを50kgにしたら、他の魔女はそのおもりを同様にその重さ以下には出来ない……。
   こと戦いにおいてもまったく同じだ、つまり魔女同士の戦いっていうのは規模を大きくしあう事しか出来ないんだ。
   それが恐ろしい所であって、同時にオレらでは手出しすらできない大きな要因だ」

('A`)「なるほど、戦う上で相手を上回り続けることでしか有利に立てないんですね」

( ゚∀゚)「そうだ」

目の前ではより一層響き渡る音が大きく、多くなっていた。



346: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:05:05.42 ID:YVvretVV0
  
魔女の攻防は速過ぎて、傍から見ていても何をやっているのかが理解できない、そう思っているとまたプギャーがふっ飛ばされた。
拳を構えたショボンが堂々とそこには立っている。

プギャーはまだまだと立ち上がるも、足は覚束ない。
ジワジワと、そして確実にダメージを受けていた。
そんな圧倒的不利にも拘わらず、まったく引かない。

(メ^Д^)『闘志の増強』

そして今一度ショボンに向かって駆けた。



( ゚∀゚)「そして魔女の特性として、無いものを増やす事は出来ないんだ」

('A`)「それは何となく分かります」

( ゚∀゚)「ああ、一応説明すると衝撃ない所に衝撃を作る事は出来ないし、物体のない所に質量を作り出すことも出来ない。
   さらに魔女は感情を操ることもできる、ここが大事だ」

('A`)「感情を操る……?」

( ゚∀゚)「そう、つまりは自分の闘志を高めたり、相手の絶望を高めたりも出来るわけだ。
   その上で、相手に無い感情を高めることもできない」

('A`)「あー、なるほど」



347: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:07:19.08 ID:YVvretVV0
  
( ゚∀゚)「同時に対立する性質の『負』を高める事は出来ない」

ここで説明するジョルジュの声が少し小さくなる。

('A`)「マイナスですか?」

( ゚∀゚)「そうだ、重力を正と捉えた場合、浮力は負だ、つまり浮力を高める事は出来ない。
   ただ例えば希望と絶望は対極にいるが真逆のものでない、正と負のものではなく……双方を高める事ができる」

ドクオは眉を顰めた。

('A`)「……理解は出来ますが、それは個人の考えによるのでは?
   浮力が正なら重力は負ですよね?」

( ゚∀゚)「そういう事だ、あー例えが悪かったなこれは。
   その個人がどう考えるか、そしてその相対する方の力を強める事は出来ないんだよ。
   軽いものを重くすることは出来ない」

('A`)「1kgのビー玉は重く出来ても、1kgのテレビは重く出来ないってことですか?」

( ゚∀゚)「物分りが良いね、もっとも重さの場合は重力そのものの力を上げるという逃げ道があるがね」

参ったもんだとジョルジュは肩をすくめて見せた。
つまり魔女は、どのようにして自分たちの弱点を補強するのかが大事という事なのだろう。

もっとも、ドクオは説明された事でなおのこと小難しそうな顔をしたが。



348: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:09:11.90 ID:YVvretVV0
  
('A`)「全然理解できないですが、これ以上聞くのは野暮みたいですね」

( ゚∀゚)「よく分かってるな、戦っていけばそのうち分かってくるさ、線の引けない区分がな」

('A`)「……それで、それが強い者が勝つと限らない事と何の関係が?」

( ゚∀゚)「ま、見てろって」

見てろだなんてどういうつもりか。
見ていればその内分かるというのか。

そもそも、見ていて分かった時、それはショボンが負けた時だろう。
ショボンが負けなければ証明も出来ないが……ショボンが負けてしまっては元も子もない。
一体どういうつもりか。

ジョルジュはドクオに対し、得意げに笑って見せるばかりだった。



351: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:11:03.36 ID:YVvretVV0
  


ショボンに向かってプギャーの拳が突き出される。
避けながらショボンは反撃を仕掛ける。

全体的な手数はプギャーが勝っていた、もっともショボンはそれを避けながら的確に攻撃を繰り出していたが。

(´・ω・`)(どう出るか……)

再びショボンに向かって回し蹴りがとんできた。
わざとそれを防御して受ける。

(メ^Д^)『衝撃の増強』

(´・ω・`)『衝撃の増強』

そして二人によって増強された衝撃は一気に肥大した。
火花が起こったのではないかというくらい、接触点が爆発したかのような衝撃が返ってきた。

(メ;^Д^)「くぉっ!!」

(´・ω・`)「つっ……思ったよりもきついね……」

自分だけしか衝撃を増強していないと思ったプギャーは、予想だにしない強大な反発力に体勢を崩す。
ショボンは自分で(相手の強化に加え、更に)倍加したので体勢を崩す事はなかったが、執拗に強くなった衝撃に顔を顰める。



352: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:13:01.64 ID:YVvretVV0
  
(メ;^Д^)『バランス力の増強』

相手は思わず転びそうになるところを何とか耐える。
しかしそれで出来た隙をショボンだって逃すわけが無い。

(´・ω・`)「肉を切らせて骨を絶つってヤツだよ」

敢えて自分に向かってきた衝撃を増強するなどとは考えないだろう、ショボンはその隙を突いた。

隙だらけのプギャーの胴に、ショボンの重い一撃が下った。
互いに堅さの増強もしたが、いかんせんショボンの方が魔女としても長けている。
何かを吐き出さんが勢いで大きく口を開き、そのまま一気に近くの塀へふっ飛んだ。

いや、その塀をさらに突き抜けて住宅へと突っ込む。

それでもまだ音は止まなかった、もしかするとさらに奥まで突き抜けたのかもしれない。
そこまで確認はできなかったが、今まで以上に痛烈な一撃が相手に入ったことだけは分かった。

(;゚∀゚)「……あれ? もしかして決まっちゃったりするかな?」

強い方が勝つとは限らない、それを証明しようとしていたジョルジュは意外な展開に素っ頓狂な声を上げた。
これで決まったなら、純粋に強い方が見事な勝利を決めただけだ。



354: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:14:18.55 ID:YVvretVV0
  
(メメ#^Д^)「安心しろよ……まだ、決まっちゃいねぇからよ……」

瓦礫をどけながら、土埃の舞う中プギャーが姿を表す。
その体は随分と無理をしているのが見て取れた。

それでも……恐ろしいまでの闘争心だ。

(´・ω・`)(さてと……そろそろ相手も疲れてきているし決めようかな)

ショボンは改めて腕を回すと大きく息を吐いた。
相変わらず独特の覇気の無い眼つきだが、同時にそれが恐ろしさを増してもいた。

(´・ω・`)「いいかな、決めようと思うんだが……」

(メメ#^Д^)「随分余裕綽々だな」

(´・ω・`)「いいや、余裕なんて無いよ」

そう言いながら明らかに余裕を見せているようにしか見えないショボン。
プギャーは唇を噛みながらも、それがチャンスだと分かっていた。



355: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:15:54.73 ID:YVvretVV0
  
(メメ#^Д^)「それじゃあ……いくぞ?」

(´・ω・`)「どこからでもどうぞ」

(メメ#^Д^)「言われなくとも!」

再びショボンの前に瞬間的に移動した。

(メメ^Д^)『バランスの増強、摩擦の増強、筋力の増強』

そして目の前でピタッとブレーキ、二人はまた目前に対立した。

(メメ^Д^)(オマエのその油断が命取りになるぜ?)
   『油断の増強』



その直後、ショボンの構えた手が少し下がった。
それを見逃さない、相手は油断しきっている。
ここで渾身の一撃を決めれば……相手は沈む。



(メメ^Д^)『衝撃の増強』

(´・ω・`)「!!



359: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:17:42.45 ID:YVvretVV0
  
油断とは全てにおいてまったくの無防備となる。
反射神経や判断力など諸々の思考が普段どおり働かなくなり、咄嗟の出来事にも満足に対応できなくなる。

魔女同士の戦い、そこでもっとも物を言うのはこの油断なのだ。
相手の方が強かろうが関係ない、油断したところを突けば相当な実力差があろうと二度と立ち上がることは出来ないだろう。

そして油断とは弱者は抱かない、常に自分の優勢を確信したほうの人間のみが抱く感情だからこそ、魔女の戦いは強き者が勝つとは限らないのだ。


プギャーは油断させたショボンの前で、衝撃を増強して跳ねると、相手を飛び越えて後ろをとった。
ショボンは油断したところを突かれたのだ、反応は出来ても思考がついていっていない。


戸惑っている。

それが手に取るように分かった。
自分の勝ちだ。


プギャーは拳を大きく振った。


(メメ^Д^)『衝撃の増強、硬化の増強』



360: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:19:35.57 ID:YVvretVV0
  
プギャーの振りぬいた腕は……何を捕らえる事もなかった。
ただ空を切った。

(メメ;^Д^)(な……なにぃぃ!?)

その直後の腹部への鈍痛。
骨が何本と折れる音がした。


死んだ。


そう思うほど痛烈な一撃が背に与えられ、のけぞった状態で彼は地面に沈んだ。
すでに闘志の消え去った霞んだ目で、ショボンを見上げた。


(メメ;^Д^)「お……おま……ッ!」


言葉が思うように出ない、体中の器官がどうにかしてしまっている。
呼吸音がおかしい、間違いなく……この後自分は死ぬ。



367: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:25:20.71 ID:YVvretVV0
  
(´・ω・`)「残念だったね、魔女同士の戦いでは油断したほうが負けだよね」

(メメ;^Д^)「しか……、オマエは油断……増強できた……ッ!!」

(´・ω・`)「そうだよね、油断なんてしないでおこうと思っても少なからず無意識にしちゃうものだよね。
   でもね、僕の若干の油断を君が増強したものよりも、
   『僕の油断を増強して勝ったと思った君の油断』を僕が増強した方が大きかった、そういう事だよ」

自分の油断をダシに、相手の油断を誘って自分の物以上にした、話にしてみれば単純なものだった。
単純だが……相当の自信が無くてはそんなこと出来ないだろう。
その朗らかな表情に対し、確固たる精神の強さ。

ショボンはプギャーの頭に拳を突き立てた。

(´・ω・`)「ちなみに僕はまだ君に勝ったなんて思っていない、そして君に同情もしない。
   それらの感情を強めようとするだけ無駄だ、本当に強い魔女は心も強いものだよ」

次第にショボンの拳が抑える力が強くなっていく。
ミシミシとプギャーの骨格が悲鳴を上げている。

(メメ;^Д^)「負けは……負け、だ……。オレら……は、……海沿いのぉ……VIP倉庫……にいる……」

息切れ切れに相手はこう言った。



370: ◆7at37OTfY6 :2006/11/17(金) 22:27:33.92 ID:YVvretVV0
  
(´・ω・`)「潔い事だね、それで……言いたいことはそれだけかい?」

('A`)「ああ、ショボンさんちょっと待ってくれ」

ここでドクオが声を出した。

('A`)「そいつに伝え忘れたことがあったんでな」

(メメ;^Д^)「……!」

ドクオはゆっくりと相手に近付いてしゃがみこんで……言った。

('A`)「さっきのCD-Rのつよきすだがな、オススメは乙女先輩だってさ」

(メメ^Д^)「……」

それまで悲観に満ちていた相手の顔が、少し笑った気がした。

(メメ^Д^)「どこまでもなめたヤロウだ……なごみが、一番オススメに……決まってるだろ?」

('A`)「ああ、そう伝えておいてやるよ。じゃあな」

(メメ^Д^)「ちゃんと、伝えとけよ……じゃあな」

そしてショボンの腕がプギャーの頭蓋を完全にひしゃいだ。
プギャーとの戦いは、ようやく結末を迎えた。



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