( ´_ゝ`)ロミオと川 ゚ -゚)ジュリエットのようです

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:30:41.81 ID:55kKqYLn0
3.

そのまま彼女の隣で一晩眠った。

起きるともう昼近かった。
俺は彼女をそのままにして着替え身支度を整えた。

次に戻ってくる時には彼女の死体は警察に発見されて運び出されているかもしれない。
だからこれが今生の別れだ。



( ´_ゝ`)『……お休み。ジュリエット』



出掛けに最後の眠りの挨拶をして唇にキスする。
濃い血の臭いが腐臭に変わるのにはまだ余裕があるようで臭いはさほど気にならない。

彼女の身体の隅々の感触も臭いもまだ覚えている。

今目の前にいる彼女からはそれらはもう失われていて二度と戻らない。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:32:55.08 ID:55kKqYLn0
モララーとやらの居場所はすぐに割れた。

簡単な話だ。

そこらをのさばっているチンピラを物陰に引きずり込み尋ねる。
シラを切られたら舌なり指なりを切り落として、それを次の奴に見せる。

この自由の国でもベトナムのやり方は一部は効果があるようだ。
三人ほど繰り返したところで家の住所を聞き出せた。

居場所を知っていたチンピラは、親切にもモララーの人となりも教えてくれた。
根っからのサディスト、ネクロフィリア。

組織に逆らうホームレスや娼婦を殺すのはもっぱら彼の独擅場で、見せしめのためと称して
二目と見られないような殺し方を研究、実践するのが趣味だそうだ。

それを俺に話したチンピラは、今ごろゴミ処理場の焼却炉で身軽になっている筈だった。
運が良ければお仲間と再会してダイエット自慢もできるだろう。



( ´_ゝ`)『……』



俺はモララーの家から一本離れた通りの物陰で待っている。
十二時を回る頃になると悪趣味な塗装のビュイックがその駐車場の植え込みに走り込んだ。

そこから聞いた通りの体格の男が下りるのを見届けて物陰から出る。
両手をポケットに突っ込んだまま歩き出した。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:34:41.39 ID:55kKqYLn0



( ・∀・)『〜〜〜♪』



程ほどに体格のいい男だ。

モララーは調子はずれの口笛を吹きながら玄関のドアを開け、中に消えた。





俺の弟は、もう二度と口笛を吹くことができない。

最後まで本名を聞くことの無かったあの娼婦も、二度と口笛を吹くことができない。





モララーは一人で暮らしている。家族はいない。

インターフォンを押す。

深夜の住宅街の通りに、じじじじ、と呼び出し音が鳴る。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:37:17.26 ID:55kKqYLn0
たっぷり一分ほど経ってから、不機嫌そのものの声が中から応える。



     『こんな時間になんだ? お前はアホか? キチガイか?』



( ´_ゝ`)『悪いな。アンタの噂を聞いて駆けつけたんだ。
      ラウンジから来た男を捜してるんだろう? アンタのパートナーの敵討ちに協力したいんだ』



また数十秒の間。



     『今何時だと思ってやがる。明日にしろ、キチガイ野郎』



( ´_ゝ`)『明日の朝には発たなきゃいけない。話をできるのは今日しかないんだ。
      フォックスの所に直接行ってもいいんだが……お互い、彼の手は患わせたくないだろう?』



待つ。じきに、こつ、こつ、と、ドアの内側で靴音が聞こえる。

それを聞いて懐のナイフを握り締める。
全身の力を抜きいつでも動けるように軽く膝を曲げ、姿勢を作る。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:40:03.99 ID:55kKqYLn0
ドアが開く。



( ・∀・)『……』



先ほどの男が、その隙間から用心深く顔を出す。



( ´_ゝ`)『夜分に済まないな。アンタが探してるのは――』



開かれたドアを、内から外に向かって勢いよく引く。びんっ、と音がしてドア7チェーンが切れる。
ナイフを抜きながら身体をドアの隙間にねじ込む。男の驚愕した表情が目の前に広がっていく。



( ´_ゝ`)『――俺だよな』



( ・∀・)『あ、えっ?』



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:42:07.33 ID:55kKqYLn0
惚けたような顔のモララー。
その無防備なパープルのワイシャツの腹、向かって左側面に逆手でナイフを突き立てる。
研がれた刃は何の抵抗もなく生地を切り裂き薄い腹の皮を貫通して柄までめりこむ。

そのまま刃に角度を付けながら横一直線に撫でるように引く。
間髪入れず、男が斬られた腹をかばうよりも早く中に向かって突き飛ばした。



(; ・∀・)『あ、ぐっ!?』



男は暗い廊下に尻餅を付く。

抑えるシャツの腹は一気に血を吸って黒く濡れる。大きく切り開かれた腹からは内臓が
はみ出して内側からシャツの生地を押し上げ急に肥満になったように見えた。



(; ・∀・)『あ、あれ? いてっ、痛え……痛えなおい、なんだよこれどうなってんだよっ、
      お前なんなんだよ!』



少しぐらい腹を割かれただけで大げさに痛がる奴だ。

本当に重傷を負うというのがどういう事か理解していないバカを見ると腹が立つ。
ベトナムで死んでいった奴らがどんな死に様を晒していたかこいつは知りもしないだろう。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:43:57.54 ID:55kKqYLn0
( ´_ゝ`)『この前、傷痕だらけの娼婦をバラしたのはお前だな』



(; ・∀・)『クソ、いてえなお前、こんなことしてどうなるか分かってんのかよ畜生!』



質問に答えず喚きながらよろけ壁に手を突いて立ち上がる。
腹から血を零しながらよろよろと歩き、廊下を折れたキッチンにモララーは逃げる。

悠然と歩いてそれを追う。

キッチンに辿り着いたところで男は力尽きキッチンシンクと食器棚を背負ってへたり込む。
俺はその前に立ってジャケットの袖で刃を拭い質問を繰り返す。



( ´_ゝ`)『答えろ。娼婦をバラしたのはお前だな』



(; ・∀・)『あ、ああ、そうだよ、だから何だってんだよ!
      それよりお前……お前が、ラウンジで……』



俺がしたことなどどうでもいい。喚き続ける男を無視して食器棚の引き出しを開く。
金属製のスプーンと二本のナイフを取り出して男の前に屈む。
ナイフを見た男は喚くのをやめ両手で腹を庇って荒い息をつきながら俯いた。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:45:44.69 ID:55kKqYLn0
( ´_ゝ`)『彼女の両目をえぐったのも、お前か?
      歯を一本残らず引き抜いたのも? 他のお医者さんごっこもお前が?』



青ざめ始めた顔で男は黙っていたが、やがて肩を震わせながら頷いた。

出会い頭に斬りつけられてはらわたが体外にはみ出ている。そのショックが何より
大きいのだろう、既に強い反抗の意志はなかった。

致命傷にならない腹への一撃は的の大きさだけが理由ではない。そのための先制攻撃だ。



( ´_ゝ`)『そうか』



尖ったキッチンナイフの鈍い刃を左鎖骨の隙間から力任せに下に突き込む。
男が悲鳴を上げる。

激しく痙攣する身体を押さえつけて同様に右肩にも同様に突き立てる。

両肩から垂直にナイフの取っ手を生やして男は泡を吹きながら絶叫した。
絶叫しながら小便だけではなく大便も失禁する。

板張りの床に濁った黄褐色の液体が広がっていく。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:48:26.43 ID:55kKqYLn0
( ;∀;)『あああ、があああああああっ、痛い、痛い痛い痛いやめて、許してくれえっ、
      な、何でもする……何でもするから、お願いだ、やめて……!』



お笑いだ。
他人を玩具のようにバラすくせに、自分がバラされる覚悟はないのか。

こんな器の小さい奴に殺された女が哀れでならない。



( ´_ゝ`)『何でも、するのか?』



( ;∀;)『あ、あああ、ああ、する、するよ。金でも、女でもヤクでも、何でもくれてやる。
      ボスに掛け合って、お前を幹部にしてやってもいい。ほ、本当だ! 誓う!
      チャイナタウンの事業を潰したのも、水に流してやるからっ――』



( ´_ゝ`)『分かった。じゃあ、返してくれ』



男はバカ丸出しの顔で涙と鼻水を垂らしながら俺を見る。
両腕はもう使い物にならず肩からも腹からも血が流れ続けている。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:50:22.00 ID:55kKqYLn0
( ;∀;)『え……?』



( ´_ゝ`)『あの女を返せ。今すぐ。生き返らせてくれ。
      目玉も歯も髪の毛も、全身の傷跡も元に戻して、今すぐ返せ』



男が目を見開く。
俺の言葉の意味を瞬き十回分ほどの時間も掛けてゆっくり反芻し、そして首を振る。



( ;∀;)『そ、そんなこと、できるわけないだろうがっ、おま、お前っ、アホか?』



( ´_ゝ`)『そうか。奇遇だな。
      俺もそんなこと、できる訳無いと思ってた』



男の頭を掴みこちらを向かせ、後ろのキッチンシンクに押しつけて頭を固定した。



( ;∀;)『な、何を……』



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:52:41.71 ID:55kKqYLn0
男は叫ぶが腕は使い物にならない。
その涙が一杯に溜まった左目の上目蓋にスプーンの先端を差し込んだ。



( ;∀ )『あ、ぎいっ!』



ちゅぷ、と音を立ててスプーンの先端は男の眼窩を押し開き目尻を少し裂く。
少し力を入れると丸く膨らんだ銀色の先端は完全に男の目に潜り込んだ。



( ;∀ )『あああああああ、がぐあああああああああ!』



取っ手を起こす。先端を支点にスプーンの柄をぐるりぐるりと回す。
途中でぷつりと感触がして男の目玉が不自然に回転しまた血液が溢れた。

手を引く。

粘液と血液に覆われた視神経をぶら下げて男の眼球が床にぼとりと落ちた。
傷ついた眼球は破れて端から精液のような青白い硝子体が床に流れ出している。

萎れた黒目と筋繊維が頼りない照明の下でつやつやと光っている。

男は残った片目でそれを見る。見てまた絶叫する。
俺は暫く悲鳴を聞いてから残った右目にも同じようにスプーンを差し込む。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:54:46.65 ID:55kKqYLn0
( ;∀ )『やめ、やめろおっ――やめて、やめてやめてやめてくれ、頼むよおっ!』



( ´_ゝ`)『アホはお前だ。言っただろ。止めて欲しければ女を生き返らせろ』



回して視神経と眼球を支える筋肉を切断する。

視界が完全に閉ざされる間際、男はもう一度絶叫し両腕を上げようとした。
だがナイフが刺さったままの両腕ではそれは不可能で、逆に動かした拍子に腋下の
大血管を傷付けたらしく夥しい出血が始まった。

構わずにスプーンをアイスクリームを掬うように捻りながら引き出す。

濡れたスプーンの先端には灰色がかった神経束の繋がるピンポン球大の眼球が低い室温の
下で湯気を立てている。その側面にはサーモンピンクの細い筋肉が申し訳程度にこびりついている。

そして数十秒ほどで床に転がる眼球は二つに増えた。



(  ∀ )『ああああー、ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』



足をばたつかせて叫ぶ。
男にはもう何も見えていない。その前髪を掴んで持ち上げ、耳元に口を寄せる。



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:57:22.80 ID:55kKqYLn0
( ´_ゝ`)『口を開けろ』



(  ∀ )『あああ゛あ゛あ゛、あああ……何でだよ、なんで……何でこんな事……。
     何も見えねえ、どうなってるんだよ、畜生っ……ああ……!』



絶叫するのをやめて盲目になった男は啜り泣き始める。
腕をぶらぶらと振りうなだれてぼそぼそと呟いている。



( ´_ゝ`)『口を、開けろ』



(  ∀ )『何でだよ……何で……何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだよお……。
     傷物の野良犬の淫売だぞ? 便器じゃねえか……!
     便器のひとつやふたつ壊したぐらいで、なんでここまで……』



女は、確かに醜かった。全身傷だらけでおまけにヤク中だ。
それは確かだ。

だがあの女はもういない。
州じゅうの公衆便所に便器は無数にあるが俺にはあの女は一人しかいない。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/24(木) 23:59:36.55 ID:55kKqYLn0
( ´_ゝ`)『口を開けろ、と言ってる。
      ……便器、か。そうだな。確かに便器のひとつやふたつ壊しても誰も怒らない。
      だけどな。それは、お前も同じだろう?』



男の口をこじ開け、キッチンシンクの角を噛ませる。
そうしておいて、片足を振り上げた。



( ´_ゝ`)『その便器にたかっておこぼれに預かるハエを一匹潰しても、誰も怒らない。
      むしろ感謝する。だろう?』



(  ∀ )『が……』



男の後頭部、顎の後ろ側を前に押し込むように蹴った。

べぎん、と音がした。

堅いシンクの縁を噛んでいた男の歯は折れ飛びシンクと床のあちこちに散らばる。
折れた歯が舌を傷付け男はまるで吐血するように血を吐きながら汚物と血溜まりの床を力なくのたうち回った。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:01:23.85 ID:NudvxiCg0
(  ∀ )『ふはひ、がっっ!』



まだ何本かの歯が残っているのに気付き男の襟首を引きずってシンクの前に戻す。
後頭部の髪を掴んで持ち上げ、歯が散らばるシンクの角にきっちり三回叩き付けた。

もう一度見る。血液が噴き出す口内にもう歯は残っていない。何本かが頬の皮膚を突き破り
妙な場所から先端を覗かせているが、いちいち抜いてやる気にもならないのでそのままにする。

手を離すと男は先ほどまでの騒ぎようが嘘のように黙って痙攣している。
肩と腹と口内からの出血が危険な量に近づいてきているようだ。

出血量だけ見ると既に限界かも知れない。
興奮が収まったせいで低体温症を引き起こしかけているのだと推測する。


( ´_ゝ`)『おい。聞こえるか?』



(  ∀ )『…………は、ひ』



ごぼりと口から血液と泡を吐く。
頷いているのか深呼吸しているのかよく分からないが、どうでもいい。

完璧に、とは行かないが気が晴れた。もう十分だろう。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:03:41.16 ID:55kKqYLn0
( ´_ゝ`)『この辺で勘弁しておいてやる。
      これに懲りたら二度と、娼婦を便器と呼ぶな。遊び半分に人間を殺すな。
      約束できるか? できるなら頷け。病院に連れて行ってやる』



(  ∀ )『…………』



モララーは目玉のあった場所から赤黒い液体をしたたらせながら頷く。下を向いた拍子に眼窩の奥に
溜まっていた血の塊がプディングのように押し出されてぬるり、と床に落ちる。



( ´_ゝ`)『よし。いい返事だ』



ほぼ完全に脱力した男の脇に腕を差し込み、引き上げる。
ズボンの尻と太腿から血液と汚物と唾液が混ざった液体がびしゃびしゃと落ちる。

自分よりやや高いその身長を苦労して後ろから支え、キッチンシンクに向かって立たせる。



( ´_ゝ`)『なあ、モララー。教えてくれ。ここから一番近い病院はどこだ?』



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:06:15.04 ID:NudvxiCg0
男は力なく首を振りふがふがと息の抜けた声を発する。

別に聞き取れなくても構わない。
俺は頷き力が抜けた男の後頭部を支える。



( ´_ゝ`)『……まあ、どこでもいいか。面倒臭い』



俺のその言葉に男ははっとしたように首をねじって潰れた目で俺の方を見ようとする。

両目と鼻と口、赤黒い五つの空洞が俺を見る。

だがもう抵抗する力は残っていない。
その余裕も与えない。
四肢を拘束された女は、抵抗する余裕など微塵も与えられなかった。

俺は男の後頭部を掴んだ手に全体重を掛け全力でシンクの角に前頭部を打ち付ける。
重い金属音が響き同時に掴んだ掌にぐじゃり、と感触が伝わる。

男の前頭部はぱっくりと割れてシンクの角に半ばまで食い込んだ。

衝撃で崩れた脳漿が弾け飛んでシンクとその周囲に飛び散る。青白い灰褐色の脳漿と
血液が混じり合い化学物質で着色したムースのようになってそこかしこにこびりつく。

耳からも脳漿を垂れ流した男は確認するまでもなく絶命していた。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:08:27.32 ID:55kKqYLn0
頭を持ち上げて見てみると額が綺麗に凹んでシンクの形が残っている。

角に当たった部分は裂けそこからケチャップの容器を車で轢き潰したアスファルトのように脳漿が
弾け飛んだ痕が放射状に残っている。

その伸びた皮膚をよく見てみるとシンクにあったメーカーの刻印が左右対称に、浮き彫りの
ように移っていて思わず笑ってしまった。



( ´_ゝ`)『喜べよ、クライストチャーチ病院で決まりだ。
      ベッドは無限に空きがあるし、入院費も当然無料。
      それにもう、二度と死ぬ心配は要らないぜ』



俺の言葉を聞いていたわけでもないだろうが、その背中が大きく一度震えた。
全身も何度かひくひくと痙攣しているが、それも間もなく止まるだろう。



( ´_ゝ`)『お休み、モララー。クソッタレの神のご加護を』



ビーズの簾を押し退けて玄関ホールに戻る。
血まみれのジャケットを脱ぎ捨て、コート掛けで埃を被っているコートを拝借して外に出た。



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:11:00.63 ID:NudvxiCg0
外気は冷たい。

仇を取ったという実感はなかった。
もとより殺人に満足感を得られるとは思っていない。

俺は戦争帰りのキチガイだ。

人を殺すのはコークの栓を開けるのよりもずっと楽だと知っている。
王冠を素手で開けるのには技術がいるが人間を殺すのには力だけあればいい。





だがそこにはそれ以上に、思っていた以上に何もなかった。

弟を失ったときよりも空しかった。
ハマーで裁判所の玄関に突っ込んだときよりも空しかった。





( ´_ゝ`)『帰ろう』



コートの襟を立ててそう呟いてみる。
だが帰る、という単語の目的語になる場所に心当たりなどない。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:16:21.56 ID:NudvxiCg0
その後数日は宿も取らず一カ所に留まらずに裏路地を歩き寝泊まりして過ごした。

新聞を何度か買って読んだがモララーの死は特にニュースにもなっていないようだった。






どこに行く当てもなく俺はまた娼婦と過ごしたアパートメントに戻ってきていた。

彼女の部屋は、「立ち入り禁止」の印字がされたバリケードテープで緩く封印されている。

構わずにそれを破り捨てると俺はドアを開いた。






137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:18:39.39 ID:NudvxiCg0





川 ゚ -゚) 『君か……全く、今度はまたずいぶんと長く空けていたな。
      浮気でもしていたか? だとしたら、お仕置きが必要だな』





懐かしい声が俺を出迎えてくれた。

いつの間にか、朝だった。
俺は裸でベッドの中にいた。

女が俺の両肩に腕を絡めていてシーツの隙間からは女の甘い体臭と体液の臭い、それに
自分の精液の臭いが微かに嗅ぎ取れた。



( ´_ゝ`)『……なあ』



川 ゚ -゚) 『何だ? また……したいのか? 私は別に構わないが』



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:20:42.11 ID:NudvxiCg0
気怠い昼下がりの甘く重い空気の余韻。
俺達二人は仲良く並んでシーツから首だけを出している。



( ´_ゝ`)『違う。お前は死んだはずだ。何でここにいる』



女はきょとんとした顔で俺を見る。
それから派手に吹き出して両腕に力を込めた。



川 ゚ ー゚) 『……はははっ。確かに死んだよ。三回ぐらい、かな?』



違う。

そうじゃない。

そう言おうとしたがそれはなんだかどうでも良いことのような気がしてくる。
何となく口に出すのが憚られ、否定の言葉の代わりに腹をさすりぼやくことにした。



( ´_ゝ`)『……ハラが減った』



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:22:50.90 ID:NudvxiCg0
川 ゚ -゚) 『そうか。しかし私は文無しだぞ。君はどうだ?』



( ´_ゝ`)『奇遇だな。俺もだ』



女は身体を起こし伸びをする。長髪が背中に流れ日差しに裸体が晒される。
身体ひとつで生きてきた女の傷だらけの身体。今はそれを素直に美しいと思う。



川 ゚ -゚) 『ああ、リブロースステーキが食べたいな。もちろんレアでな。
     プレートからはみ出そうなぐらい大きい奴だ。熱いポテトサラダと野菜のソテーを
     添えて、ガーリックバターを乗せて……ああ、想像するだけで腹が鳴りそうだ』



( ´_ゝ`)『奇遇だな。俺も同じモノが食べたいと思ってた』



川 ゚ -゚) 『だが君も文無しなんだろう?』



( ´_ゝ`)『まあな』



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:25:17.92 ID:NudvxiCg0
奇妙なしこりのような感覚は未だに残り続けている。

そう。
俺は最後まで嘘を吐き続けた。

彼女がモララーに殺された原因を作ったのは俺なのに最後まで彼女を欺こうと下らない偽名を
名乗り、その嘘すら吐き通せずその上それを謝る機会すらも与えられなかった。

そう思った途端、ベッドの中で急に寂しく、申し訳なく感じる。



( ´_ゝ`)『なあ。その……なんだ、ジュ、ジュリエット』



川 ゚ -゚) 『なんだ? 色男のロミオ』



( ´_ゝ`)『馬鹿野郎。
      ……俺、本当に、これで良かったのかな? 俺、お前に謝りたいことばっかりだよ』



話しながら俺はどこかがおかしいことに気付き始めている。

俺がロミオと名乗り女がジュリエットと名乗ったのは女が死ぬ寸前だ。
それなら目の前に裸でいるこの女は何者だ。



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:27:13.85 ID:NudvxiCg0
川 ゚ -゚) 『どうしたんだ、急に。セックスと飯の話の次は懺悔の時間か?』



( ´_ゝ`)『だって、俺、お前に本当の名前も言えなかったし、聞けなかった。
      それに、お前……俺のせいで、ひどい目に遭わせちまった』



なんだ、そんなことか。

そう言って、女は笑う。

聖母のように眩しい笑顔。
あの最期に見せてくれたのと同じ笑顔。



川 ゚ ー゚) 『そんなこと、気にするな。私は、これぽっちも気にしていないよ。
      だって、君と最後に一緒に過ごせたんだ。それに……』



ベッドの俺に向かって、傷だらけの身体を見せる。



川 ゚ ー゚) 『私だって、こんなにひどい身体をしている訳を話していないだろう?
      聞かれても名乗らなかったのは私もだ。嘘はお互い様。君のせいじゃない』



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:29:07.47 ID:NudvxiCg0
違う。
桁が違うじゃないか。



( ´_ゝ`)『だって、お前……』




( ´_ゝ`)「だって、お前……」

俺は声に出す。
ベッドの中の俺と口を合わせて、同じ言葉を喋る。



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