( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

4: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:21:28.98 ID:lScc+WPZ0
  

「あー楽しかったお」
「だな。たまにはこう、はしゃぎてぇよな」
「なんだ、ドクオ君。はしゃぎたかったのかい? それならいつでも言ってくれて構わないのに」
「違ぇよ……フヒッ!?」

ショボの左手にはしっかりとドクオの尻が掴まれていた。
尻のへこみ具合から、相当な力で押し込んでいるであろうことがよく分かる。
急いでドクオはその場から逃げ出し、ショボもふらふらとどこかに行ってしまった。
向かう先には自動販売機がある。ジュースでも買いに行くのだろう。

「……あと一つ、着いて来てほしいところがあるんだお」
「ん? どこだよ」
「いいから、いいから。黙って着いて来てほしいお」
「しゃーねーな……。ショボー、今日は解散ー! おーしーまーいー!」
「ちょっ……何を勝手に……」

遠くのショボに聞こえるよう、ドクオは間延びした言い方でそれを伝えた。
自動販売機の吐き口から飲料水を取り出しながらショボはそれに了解し、
軽く手を振りその場から立ち去った。



5: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:24:27.60 ID:lScc+WPZ0
  

「何をやってるんだお、ドクオ……」

ドクオには聞こえない程度に呟き、しかし吐き捨てるように内藤は言った。
下唇を噛み、内藤の顔には嫌悪と焦りで埋め尽くされていた。唇からは真っ赤な血液が垂れ始めていた。

「……ん、それでなんだって? わざわざ小声で言うくらいなんだから他には聞かれたくないんだろ?」

自惚れてやがる。内藤は口に出しそうになるのを堪え、拳を握りしめるほかなかった。
ドクオの存在は内藤にとって必要だったのだが、その仲の良さが仇となり、大分、計算が狂ってしまった。
全て、内藤がこれから彼らにするであろうことを考えれば逆恨みでしかなかったが、そう言っていられるほど余裕もなかった。

依然として表情の変わらない内藤を不審に思ってか、ドクオが顔を覗きこむようにして内藤を呼びかけた。
それに気付き、内藤も急いで思考に待ったを掛けた。

「とりあえず、来てくれお……」
「……おう」

内藤も何も考えずに歩いているわけではなく、場所を選び、しかし目的の場所などはなかった。
歩くにつれ、少しずつ人気が少なくなっていくことに、ドクオは気付いていなかった。



7: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:27:15.49 ID:lScc+WPZ0
  

「話があるんだお」

やっぱりな、と言わんばかりの表情が余計に内藤の反感を買っていることに彼は気付かない。
内藤が歩き、それにドクオが黙って着いて行く。
歩く速度は一向に緩まない。歩きながら話すのだろうと思い、ドクオは内藤に言葉を促した。

「おう、何だよ。さっさと言えって」

内藤は返事をせずに、黙々と歩き続ける。
違和感。何か、言いようのない違和感を感じていたのだ。それが何か分かるまで、安易に行動を起こせなかった。

例えばその時、内藤がその違和感に気付いていれば。
彼らの友情は絶えることなく、内藤は貞操を守れ、これまでの生活が保障されていた筈だ。
しかし内藤はその違和感への追求を止め、事を急いでしまった。

「ドクオ。頼みがあるお」

長かった静寂は破れ、その場の時が止まったかと思わせるほど二人の動きはピタリと止まった。

「おう」

ドクオはいつもと変わらない、間の抜けた返事を返した。

「クーを殺したヤツを探して出してほしいんだお」



8: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:30:13.00 ID:lScc+WPZ0
  

「ん、いいぞ。任せとけ」

内藤の要求に快く了承するドクオ。互いの瞳は真っ赤に染まり、依然として輝きを失うことはない。
ドクオはフラリと方向転換し、何処かへと去ってしまった。そして内藤は微笑む。
全ては問題なく終わる。筈だった。

「どういうことだい? 今のは何?」

突然、内藤へ問いかけの言葉が送られる。
ここには自分と先ほどまでいたドクオしかいないと思っていた内藤は勢いよく振り向く。

「誰だおッ!!」

振り向くと、内藤の後方にショボが立っていた。

「僕だ、ショボンだよ」

ショボンはゆっくりと話しかける。しかし内藤に警戒し、彼に近づこうとはしなかった。
内藤も同じく、ショボに近づこうとはしない。
数メートルの距離を維持したまま、ショボは再び口を開いた。

「もう乗り越えたと思っていたんだけどね。君はまだ彼女に縋りつくつもりなのかい?」
「…………」



10: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:33:27.19 ID:lScc+WPZ0
  

「あと、さっきも言ったけど。今のは何? ドクオがあんなに素直に言うことを聞くかな。
 それに、彼女絡みのことなら余計にだ。いつものドクオなら断った筈だよ」

無駄に勘の鋭いヤツだ、と内藤は思った。
先ほど感じた違和感は、ショボのものだったのだろう。

「言えないのか? 言えないようなことなのか?」
「……ショボ」
「何?」
「ショボ、忘れろ。今見たことを全て忘れるんだお」

睨みつけるように、内藤はショボの瞳を見つめた。
内藤の瞳が紅に染まり、視線を交わす。その瞳を見ていたショボの瞳もまた、輝き染まった。

「……分かった」

途端にショボンの意識が薄れ、体制を崩し倒れそうになる。
それを内藤が支え、ゆっくりとその場に座らせた。

「……ショボの思慮深さを忘れてたお。厄介だお」



11: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:36:22.45 ID:lScc+WPZ0
  

内藤はそそくさと立ち去り、その場を後にした。
意識を失った直後、ショボは自らの意志で立ちあがり目を醒ましたが意識はあまり確かではないように見えた。
しかし彼ならば大丈夫だろうと内藤はショボを置き去りにした。

何故ショボは自分についてきたのか。内藤は疑問に思ったが、今は置いておくことにした。

「記憶を弄ると意識が定まらなくなるのかお。また一つこの能力について分かったお。
 ……その点で言えば、ショボには感謝しないといけないお」

この能力について、内藤が把握している部分は限りなく少ない。
能力を発動している最中、相手と視線を交わすことでどんな命令にでも従わせることが出来る。
今朝に会った不良まがいの連中に眼鏡を掛けたものがいたため、直接でなくとも可能である。
また、能力には継続力があり、自分の発言で命令を取り消すことも出来る。
そして今日分かったこと。記憶の消去も可能であるということだ。

それだけしか分からない能力を使い続けるのも危険だと感じたが、
何より、あの女にもう一度会いたいと内藤は願った。

――ツンデレ。
内藤には彼女に聞かなくてはならないことがたくさんある。



14: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:39:18.13 ID:lScc+WPZ0
  

少しずつ、見覚えのある道へ向かっている。
家路に着きながら、内藤は今日一日のことを思い返していた。

気付けば既に家には到着していた。

「……楽しかったお」

家のドアを開け、部屋に入り靴を脱ぐ。居間へと向かい、その場に座ると言葉は自然と出てきた。
口にしたからどうと言うわけでもなかったが、内藤にとってはそれすらも自己嫌悪の材料だった。
友情の変わりに得た手駒。それは決して気分のいいものではなかった。

「さっさと寝るお。もう疲れたお」

衣服を脱ぎ、シャワーを浴びる準備をする。その時、ポケットの中の携帯が鳴った。

『行けどもけものみちー♪ 獅子よ虎よと吠えー♪』

内藤は急いで携帯のディスプレイを確認した。そこには予想通りの人物の名前が記されていた。
分かりやすいように、各々には違う着信音を設定している。
だから確認しなくとも内藤には分かっていた。

「……ショボかお」

内藤は着信のボタンを押した。



15: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:41:21.08 ID:lScc+WPZ0
  

「おっおっお」
「あ、内藤? 僕だけど」
「……どうしたお?」
「話したいことがあるんだ。今、時間あるかな」
「えっと……ごめんお。丁度今から風呂に入るつもりだったんだお」
「そうか。分かった。なら明日、学校で少し時間貰えるかな」
「……いいお」
「ありがとう。それじゃまた明日。こんな時間にすまないね」

内藤の通話を切る指が震えた。
疑っていた。ショボは内藤を疑っていた。それが何故なのか、内藤には分からない。

「何でだお……。何であいつは……。……僕の邪魔をするんだお!!」

上下の奥歯に力を込め、必死にそれを磨り潰すかのように擦り合わせた。
歯や歯茎が痛くなるほどに歯軋りを続けるが、尚も止める素振りすら見せずに内藤は叫んだ。

「黙って言うことを聞いていればいいんだお! 何故それが出来ないんだお!」

内藤の叫びは整った防音設備によってかき消され、殴った壁は隣人に向け、微かに響いていく。
苛立ちは睡魔とともに消滅した。



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