( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

19: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:47:16.24 ID:lScc+WPZ0
  

翌日、内藤は目を覚ますと急いでトーストを頬張りながら制服に着替えた。
何しろ八時半。どう考えても遅刻だからだ。

「マズいお……。絶対間に合わないお……」

サドルに跨ぎ、勢いよく漕ぎ始めると自転車はスピードをつけ学校へと向かった。

「今日の授業は何だったかお……。……おっおっお」

内藤は今日一日の教科を思い出すと、あからさま過ぎるほどに落胆した。
一限目からハードだなとぼやきながら、内藤を乗せた自転車は坂を下りスピードを上げていく。
そのまま自転車は加速を続け、学校へと近づいていく。
曲がりくねった道が続くため、時間が中々確認できないが多分過ぎているだろうと内藤は思った。

九時十分。九時を周り十分も経過している。
校門付近には教師が一人待機しているため、駐輪場に自転車を止めることすらできない。
彼の経験上、一度閉まった門をもう一度開けてもらうには労力を伴う。要するに罰だ。

しかし内藤は臆することなく教師に近づき、口を開く。

「……先生。悪いけど開けてほしいんですお」
「ん? ……ああ、いいぞ。早く入れ。もうすぐ授業だからな」
「ありがとうございますお」



20: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:50:13.67 ID:lScc+WPZ0
  

「……勝ち組。超勝ち組だお。携帯に未来が書かれるよりもずっと便利だお」

ゆっくりと教室へと向かいながら内藤は呟いた。
何も心配することはない。自分にはこの能力がある。そう自分に言い聞かせ、教室のドアを開いた。

「……おい、内藤。テメーの遅刻癖はどうしても治らねえな」
「ぶひひwwwサーセンおwwwww」
「まぁ、外でプギャー先生のお叱りも受けたんだろ? さっさと入れ」

担任のモララーは内藤の机を親指で指し、さっさと座れと促した。
周りのクラスメイトは笑いを堪えながら授業に集中していたのだが、
内藤が席に着き授業が再開したところで周りの席のものはしきりに内藤に話しかけた。

「またかよ内藤。今月は言って何回目だ?」
「うるさいお、ギコ。お前だって対して僕と変わらんお」
「馬鹿め、今月の俺は一味違うぜ。何せ遅刻ゼロだからな!」
「マジかお? ……でも今月の俺は一味違うって何か凄く情けないお。特に今月の辺り」
「うっせぇぞゴルァ!」
「お前がうるさいよ。その年で廊下いきたいのか?」
「ご、ゴルァ……」

モララーの一言にギコは黙ってしまった。
ギコを馬鹿にした目で見る内藤。それを横目で見つめているショボ。



22: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:53:20.41 ID:lScc+WPZ0
  

「おーい、内藤」

か細い声で内藤を後から呼ぶ男。ジョルジュ長岡だ。
内藤は振り返らずに、返事をした。

「何だお?」
「いいブツが手に入ったんだ。鞄に入ってるんだけどどうするよ?」
「それはありがたいお。……ジャンルは何だお?」
「愚問だな。おっぱい! おっぱい!」
「……流石はジョルジュだお。やってくれるお」

拳をつくり親指を立て、後の席に座るジョルジュに向けた。グッジョブの合図である。
それにジョルジュも腕を振って応えるが、内藤は振り向かなかった。

「なぁ長岡。俺達にも貸してくれないか?」
「“達”ってつけるな兄者。俺は要らないぞ」
「あーもう! お前ら黙っとけ!
 ……ったく、今日はヤケに騒がしいな。ドクオが休みじゃなければどれだけうるさかったことか」

その後も兄者と弟者は一向に黙ることはなく、モララーも苛立ちを隠す様子はなかった。
兄者の発言に対して、弟者がひたすらに突っ込み続ける。
それは授業終了の終鈴が鳴るまで続いた。

「内藤。昨日の話だけど」



23: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:56:43.72 ID:lScc+WPZ0
  

授業が終わると、ショボはすぐさま内藤のもとへと駆け寄った。

「……お。分かってるお。屋上にでもいくお」
「うん」

内藤は無心で屋上へと向かった。
自然と、歩くスピードは速まっていた。ショボもそれに合わせ、内藤についていく。

ゆっくりとドアノブを掴み、力込めてドアを押した。
ドアの接合部分が錆びているせいで、中々開かない。内藤は無理矢理にドアを押し開けた。
途端、全身に突風が向かってくる。
一瞬怯みはしたものの、すぐに屋上のネットがかかった手すりへと向かった。

「昨日、ドクオと何処に行ったんだ?」

内藤が一瞬震える。
そのちょっとした動作さえ、ショボは見逃さなかった。

「悪いけど、別れた後に後を付けさせてもらったんだ」
「……そうなのかお」
「うん。でも今となってはそれはどうでもいいんだ。むしろ最初からどうでもよかった。
 ただちょっとした興味本位さ。趣味みたいなもの」

「……嫌な趣味だお」



25: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/10(日) 23:59:51.69 ID:lScc+WPZ0
  

「……それで」
「…………」
「内藤達を追っていると思ってたら知らない路地裏に立っていた。ポルナレフでもバーボンでもない」

急にショボの眼つきが鋭くなった。同時に、内藤を睨む。
ショボは昨日内藤と会った時と同じ、数メートルの間隔をあけた警戒態勢をとった。
しかしそれは好都合だと内藤はほくそ笑む。

「忘れるお。昨日のことを全て忘れるんだお」

内藤の瞳が輝いた。
しかし、ショボの瞳が真紅に染まることはなかった。

「何故? つまり、何かあったということ?」
「えっ……。どうして……え、いや……」
「ドクオは何処に行ったんだ? 昨日から連絡はつかないし、今日も学校には来ていない」

内藤の足が震える。
依然として、ショボは内藤への警戒を解く気はなかった。むしろ余計に強まっただろう。

「昨日、何があったんだ?」



26: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/11(月) 00:01:54.13 ID:5cXqo3G10
  

「う、うわあああぁぁぁ!!」
「内藤!」

内藤はその場から走り去った。
急いで屋上から校内へと戻る扉を引き中へと入ると教室を向かった。
しかし、教室には留まらずそのまま校舎を飛び出した。そして校門を潜ろうと急ぐと、今朝の教師がいた。プギャーだ。
ずっとそこにいたわけではないだろう。たまたま、そこを通りかかったのだ。
そこに内藤が駆け込んだのだ。

「どけ! どけお!」
「ん? ……内藤か。お前、今日ちょっと遅刻しなかったからって……うおっ」

内藤はプギャーにぶつかりながら校門を越え、校舎を後にした。
そのときも内藤は自分の能力を発動していたのだが、どうやら効いていない様だった。

「まただお……。何でだお……。急に使えなくなったお……。ワケ分からないお! 何がいけないんだお!」

自転車で登校していた彼が、自転車を忘れるほどに内藤は動揺していた。
走りながら、何処に向かっていたのかは分からなくなっていたが
見当たりのある道を見れば何となく自分の家に向かっているであろうことがわかった。

「ダメだお、このままじゃダメだお、ショボに、バレるお、ショボに、バレるお!」



27: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/11(月) 00:05:54.81 ID:5cXqo3G10
  

数十分掛け走り続けると気付けば家の前についていた。

途中何度も息が上がり、立ち止まった。
元々体力の無い彼だから、度々戻しそうになった。しかしその度に堪え走り続けた。
ゆっくりと部屋の扉を開け、部屋に入るとすぐにベッドへと潜り、目を閉じた。

「おかしいお……。僕は……僕は手に入れたはずなんだお……。貰ったはずなんだお……あの女に、ツンに……」

唱えるように、内藤は喋り続けた。
部屋の電気を明りを点してはおらず、一室のベッドに掛けられた布団は震え続けていた。

「明日からどうするんだお……。ショボは僕のことを疑ってるお……
 何故だお……? 何故効かないんだお? 昨日は、ちゃんと、使えたんだお……?
 今日だってそうだお。何で急に使えなくなるんだお……。今更、そんな、ダメだお……」

内藤は目を瞑り、眠ることに専念した。
今は何を考えてもダメだからと自分に言い聞かせるが、ただの現実逃避だった。

「何それ。とんだチキンね。やる気あるわけ?」

その声を内藤が聞くことはなかった。



29: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/11(月) 00:07:32.58 ID:5cXqo3G10
  

体が軽い。この感覚を、内藤は知っていた。

「どうしようお、クー……」
「内藤か。どうしたんだ?」
「大変なんだお、危険なんだお、困ってるんだお」

ちゃんと言わないとどうしようもないだろうと彼女は笑っていたが、内藤は必死だった。
思ったように喋れない。夢の中で自由に会話するというのも文字通り現実離れしているのだが
内藤は説明しようと必死になっていた。
しかし、必死になればなるほど、内容はスカスカで表面的なものになっていた。

「落ち着け、内藤。何が大変なのか分からないぞ」
「ごめんお、でも、えっと」
「大丈夫か? 深呼吸でもしてリラックスだ」
「お……」

深く息を吸い、全てを吐き出すように息を吐いた。
全てを、吐き出すように。

「……お……お」

気付けば目を醒ましていた。
内藤はゆっくりと体にかかった布団を剥ぎ、上半身を起こすと体育座りの体制になる。

「……クー。話を……聞いてほしいんだお……。それだけでいいお……」

両腕に顔を埋めた。



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