( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

3: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:01:26.20 ID:z7/sXiEc0
  

―― 二年前

「君がクーさんだお? おいすー」
「ん? ……君は」
「僕は内藤ホライゾンだお。一応同じクラスなんだから覚えててほしいお」

少年は一瞬、寂しそうな顔を見せたがすぐに元に戻った。
一方、話しかけられた少女はと言えばただただ唖然としていた。

「その内藤君がどうしたのだ?」

誰だこいつ的な視線を送り続けているが、どうやら内藤と名乗る少年には届いていないようだった。

「別に用があったわけじゃないお。ただ、クーさんがどんな人なのか気になったんだお」
「そうか。……君が思ったとおりでいい」
「本当かお? それじゃクーさんは優しい人だお」

屈託のない笑顔で彼は言った。
クーと呼ばれた少女は、戸惑いながら、精一杯に反論をする。

「そんな嘘をつかなくていい。他にもあるだろう? 根暗とか、友達が居ないとか……」
「友達居ないのかお?」
「……そう呼べる者は居ないな。欲しいとも思わない」
「なら僕が友達だお!」
「いや、だから、いらないって……」
「僕がなりたいんだお。ダメかお?」



4: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:05:22.46 ID:z7/sXiEc0
  

「…………」
「…………」

急に彼女は立ち上がり、内藤の顔を覗き込むように見つめる。
彼女の行動に驚いたのか、内藤の顔が強張る。しかし彼女は見つめることを止めようとはしない。

「……いいぞ」
「……お?」

長い沈黙のあとの言葉に内藤は一瞬反応できなかったが、
頭の中にしっかり巡らせると、だんだんと嬉しさがこみ上げてくる。

「本当かお? やったお!」

無邪気に笑い喜ぶ内藤をどこか寂しげに、しかし嬉しそうに見守るクー。
そこでクーに一つ、疑問が湧いた。何故彼は自分などと友達になりたがったのか。
その真意を知る術を彼女は知っている。しかし。

「クーさん、この前苛められてる子を助けてたお?」

彼の言葉で脳裏に数日前の自分が過ぎる。
しかし、それは彼女に言わせてみれば内藤の勘違いだった。
彼の言うように弱者を助けたことがあったが、強者に対して自分で立ち向かったわけではないからだ。
それでも自分を見ていてくれた内藤の存在に、彼女は少なからず喜びを感じていた。

「クーさんは強いお。憧れるお」

後々、クーはこの言葉に苦しめられることになるのだが、それを内藤が知ることはなかった。



5: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:09:33.84 ID:z7/sXiEc0
  

「……それはなんだ?」
「お? これかお。これは僕の昔からの癖だお」

両腕を広げ、ぶーん、といいながら走り回る内藤を見て、当然の疑問をぶつけるクー。
それをさも当然のように返す内藤に、クーは呆れ気味に笑う。
高校生にもなってその場で走り回ってしまうのは正直どうかと思うが、それも彼の個性だとクーは考える。
とりあえずは突っ込まずに溜め息を吐いた。

「嬉しいことがあると、こう、走りたくなるんだお。ぶーんって言いながら走ると気持ちがいいお!」
「へぇ……。君は面白いな」
「だから子供の頃はよく友達にブーンって呼ばれてたお」
「ブーン、か」

ふと何かを思いつくが、しかしダメだと大袈裟に首を振ってその考えは捨て去る。
その様子を見て、内藤が笑いながら言う。

「クーさんも面白いおwww」
「え?」

何を言われているのか分からなく、ただただ内藤を見つめるクーに、内藤は後ろ髪を掻きながら言う。

「これからよろしくお」
「あ、あぁ……。うん、よろしく」



6: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:12:24.16 ID:z7/sXiEc0
  

数日が経ち、数ヶ月が経つ。
内藤がクーに話し掛け、交友関係を持ってから数ヶ月が立った。
内藤が机に突っ伏し陽の光に当たりながらうとうととしていると、数人の男子が彼の元に集まってきた。

「おーい、内藤。何? 最近クーのやつと仲いいじゃんよ」
「お? そう見えるかお?」
「見える、見える。お前、あんな女のどこがいいの?www」
「……お」
「暗ぇし、話しかけても反応しねぇし、ちょっと顔がいいからってスカしてるよな」
「な! 調子に乗ってるよなwww」
「俺達のこと見下してるつもりじゃねーの?www」
「うわ、うっざ。マジ死ねwwwww」

話しかけてきた連中は、どうやらクーのことを罵倒するために来たようだ。
内藤はゆっくりと立ち上がり、握った拳に渾身の力を込めると、目の前の生徒を力の限りに殴り倒した。
突然のことに殴られた相手は思い切り吹っ飛ばされ、その場に背中から倒れこむ。

「イテェ……」
「もう一回言ってみろお、長岡」
「あぁ……?」
「誰が暗いんだお? 誰がスカしてるお?」

起き上がろうとする長岡の近くまで詰め寄り、胸倉を掴むと内藤は問う。

「誰に向かって死ねとかほざいてるんだお?」



7: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:15:55.56 ID:z7/sXiEc0
  

「止めないか、内藤!」

声に鋭く反応し、振り返ると、そこにはクーがいた。
その場にいた全員がクーに注目している。常に沈着を貫いていた彼女の怒鳴り声によほど驚いたのだろう。
何より内藤が驚いていた。

「お……。クー、どうしたお?」
「どうしたもこうしたもない。何をやってるんだ、君は」
「いや、こいつらが……」
「言い訳を聞きたいんじゃない。その握った拳で、どうするつもりだったんだ?」

右手では長岡と呼ばれた男の胸倉を掴み、左手はしっかりと握りしめられ、いつでも殴れますと言わんばかりの姿勢だった。
指摘され、内藤はゆっくりと両手から力を抜き、それに伴い長岡は内藤の手を払いのけ立ち上がる。

瞬間、長岡は内藤の腹を蹴飛ばし、痛みにしゃがみこむ内藤を踏みつけた。

「テメェ調子に乗りやがって……。ざけてんじゃねーぞ、内藤!」

悪態をつきながらも尚、内藤を踏みつける長岡に、クーは何かを言おうとしたが
その前に内藤は立ち上がり、もう一度長岡を思い切り殴る。長岡も負けじと内藤に拳をぶつける。それが繰り返し行われた。

気付けば既にその場は乱闘騒ぎとなっており、クー一人では場を抑えることは出来なくなっていた。



8: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:19:25.42 ID:z7/sXiEc0
  

「謹慎5日間。異議は認めん」
「……分かってますお」
「……うぃっす」

校内で騒ぎを起こした二人には謹慎処分が降され、担任のモララーは溜め息をつきながら二人に問いかけた。

「珍しいじゃないか、内藤。お前が問題起こすなんてな」

内藤は返答に困り、言葉を濁す。
同じくして視線を向けられた長岡も言葉を濁した。どちらかと言えば、話すら聞いていないようだ。
以前より、問題を起こしていた長岡にとってこれは些細なことだったのかもしれない。

「まぁ、いい。しっかりと反省しとけ。それじゃ来週な」

追い出されるようにして内藤と長岡は職員室を後にする。
すると職員室前にはクーが座って待っており、出てきたことに気付くとすぐに内藤の元に駆け寄った。
それに気付き、長岡はふらふらとどこかへ行ってしまった。

「…………」
「おっおっお。やってしまったお。……今週は学校に来れないお」
「……君は本当にバカだな」
「ごめんお」

「……でも、ありがとう。私を庇ってくれたんだろう?」



9: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:23:32.31 ID:z7/sXiEc0
  

「……別に、気にしなくていいお。ついカッとなっただけだお」
「そうか」
「だお」

その場に沈黙が流れる。静かな職員室がよりいっそう静かに感じられる。
二人とも下を向き、顔を合わせようとはしない。それが何故なのか、二人にも分かってはいなかった。

「……しかし、私もバカだな」
「お?」
「先ほどの者達を始末していたら見つかってしまってな。私も謹慎処分だそうだ」

ははは、と笑うクーに疑問が湧いた。
全員。彼女は全員を倒してしまったという。たった一人で。
そんな筈がない、と内藤が発する前に、彼女が先に口を開いた。

「さぁ、帰ろう。明日も明後日も明々後日も、どうせ休みなんだ。学校にいても良いことなんて何もない」
「お……」

今この場で追及するべきか。しかし聞いたところで彼女は本当のことを言わないことを内藤は知っていた。
ならばと内藤は思考を止め、今この時間を楽しもうと彼女の手を引く。

「そうだお。帰るお、クー」
「あぁ、帰ろう」

「……内藤。その、少しいいか?」



10: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:26:23.74 ID:z7/sXiEc0
  

「お。なんだお?」
「ちょっと歩かないか? 話したいことがあるんだ」
「おっおっお」
「歩きながら考えたり、話したり。その方が上手くいくんだ。たまにね」
「そうなのかお」

「……前から。その、考えてはいたんだが……」

少しだけ顔を朱に染めながら、クーはゆっくりと口を動かす。
しかしその声はか細く、内藤の耳には届かない。聞き返すと余計に頬は赤を帯び、顔は俯いてしまう。
困ったような顔をしながら、歩みを止めずに内藤は彼女の言葉を待つ。

「……呼んでもいいか?」
「お?」
「その……。君の事を、ブーンと呼んでもいいだろうか?」
「……お?」

一呼吸をし、真剣な目つきになる。同時に、それを見ていた内藤の顔も強張る。

「君が、初めてだったんだ。私を見ていてくれた。人はたったそれだけのことと言うかもしれない。
 それでも。話しかけてくれたのも君だけだった」

恥じらいながらも、クーは自分の気持ちを隠さず素直に伝える。
内藤は、そんなクーを見て素直に愛おしいと思った。それは、だからこその行動だ。

内藤はクーの手を引き、歩き始める。



11: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:30:03.68 ID:z7/sXiEc0
  

「悪かったお。長岡」
「ん?」
「常識的に考えて、いきなり殴りかかるのは自分でもどうかと思ったお」

頭を下げ謝罪する内藤に、止めてくれ、と肩を持ち上げ視線を戻させる長岡。
続けて申し訳なさそうに話し出す。

「俺も悪かったと思ってる。悪ノリだったんだ。正直言えば、あいつのことは何とも思ってない」

あいつとはクーのことだろうと内藤は思った。
良くも悪くも、何とも思っていない。それは喜ぶべきことではない。

「把握したお。……でも、少しでいいお。クーを見てあげてほしいお」
「ん……。クーねぇ」
「あ、少しでいいお。いや、ほんの少しだけだお! いや、やっぱりダメだお!」
「なんだよそれwww」

内藤と長岡が交友関係を持ったのはこのときだ。
同時に、ドクオやショボとの仲がよりいっそう強まったのもこの時期になる。

クーが死んだ。



12: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:33:55.80 ID:z7/sXiEc0
  

「ほら、起きなさいよ。ブーン」

肩を叩かれ、目を覚ますとそこには見知らぬ女性が座っていた。いや、内藤はこの女性を知っている。
忘れるはずも無い。動き出せずにいる自分に“足”をくれた恩人なのだから。

「学校に行く時間でしょ?」

時計を指差し、彼女は不敵な笑みを浮かべ内藤を見据える。
内藤もゆっくりと立ち上がり、支度を始める。

「そうだったお」

家のドアを勢いよく開け、内藤は飛び出していった。右手には鞄。その足取りは軽い。

「ケリをつけてやるお、ショボ。……そして復讐してやるんだお」
「ちょっと待ってよ。私も行くからさ」



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