( ´_ゝ`)兄者はバルトアンデルスのようです

160: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:18 DI0Bb6fU0
  

バチン――と、炸裂音。
闇の極光術はかき消され、真の極光術だけがその場に残された。
  _
( ゚∀゚)「ハッ! これが切り札と言うんだったら哀れだな!」

その様を見て、ジョルジュは勝ち誇ったように吐き捨てる。
勝利を確信しての余裕か、あるいは傲慢か。
猛る男のその顔には、見ているだけで腹の立つような笑みが浮かんでいた。
  _
( ゚∀゚)「ついに……夢にまで見た闇の極光術が手に入る……!」
  _
( ゚∀゚)「最高に“ハイ”ってやつだああぁぁぁ!」

それに対して、敗者は冷静だった。
こうなるであろう事は予測できていたが、あえてこの手段を選んだのだから。

信じる者に全てを託した彼女は、聞こえない程度の小さな声で呟いた。

川 ゚ -゚)「兄者……後は任せたぞ」



161: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:19 DI0Bb6fU0
  

( ´_ゝ`)「んじゃ……いっちょやるか!」

託された者、兄者の妙案。
それは、自分の能力を使い、他の能力に変化させる事。

バルトアンデルス自体には、極光術に対抗する手段はない。
他のものに化けるだけであるこの能力では、ジョルジュの攻撃を防ぐことは不可能だろう。

ならば。
攻撃を防げるだけの力を持った能力に化ければいいという、ただそれだけの話。

( ´_ゝ`)「ささやき いのり えいしょう ねんじろ」

変化するための呪文を唱え、己がならんであろう姿を想像する。
自分の傍にいる彼女の為に、共に戦えるであろう力を持つ姿を。

( ´_ゝ`)「いくぞ……! 人生最大っぽい一世一代の大バクチ!」

そして、叫ぶ。
敵を倒してこの場を救う事ができるであろう、その技の名前を。

( ´_ゝ`)「“極光波”!」



166: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:49 DI0Bb6fU0
  

どうやら、兄者の賭けは成功したようで。
流石家のロクに手入れもされていない庭の地面から、どす黒い煙のようなものが噴き出した。

もし、この賭けが失敗していたら。
ジョルジュの極光術は何の妨げもなく兄者達に直撃し、重大な被害を与えていただろう。

川 ゚ -゚)「これはまさしく……“闇の極光術”!」

( ´_ゝ`)「よっしゃああぁぁぁ! ブラクラゲットおおぉぉぉ!」

(´<_` )「してねーよwww」

だが。
兄者の極光術が、ジョルジュの極光術に負ければ結果は同じ事だ。
  _
( ゚∀゚)「この程度で! この程度で勝ったと思うなよ愚民どもが!」

予期せぬ展開を目にしても、なおも余裕のジョルジュ。
極光術の威力を高めるために、かざした両手に全身全霊の力を篭める。

しかし。
ジョルジュの極光術は、クーの極光術との衝突で威力が弱まっていた。
力を篭めてはみたものの、兄者の極光波と衝突したのと同時にあっさりと消滅。
どの位あっさりかと言うと、そりゃもう曙の負けっぷりと同程度のあっさり具合。
  _
( ゚∀゚)「……うっそーん」



167: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:54 DI0Bb6fU0
  

闇が唸りを上げ、自分に向かって迫り来る。
予想外の展開を前にして、ジョルジュはあたふあしていた。
  _
(;゚∀゚)「おいおいおい! これってピンチなんじゃねーの!?」

ピンチの男、ジョルジュ長岡。
迫り来る闇は、極光壁で防御しようにも、防ぎきれるようなレベルではなかった。

さて、どうしたものか。
  _
(;゚∀゚)(待て待て待て! 落ち着け、俺!)

あたふたしながらも、ジョルジュは考える。

主人公のピンチには、仲間が駆けつけて助けるモノだ。
そして今の自分には、親友と呼べるような仲間がついている。
「スネーク、危ない!」と言って、我が身を挺してまで助けてくれるような、勇敢な仲間が。

そう考えると、どうにかなるような気がしてきたジョルジュだった。
  _
( ゚∀゚)「よっしゃああぁぁぁ! こいやああぁぁぁ!」

ジョルジュは両手を広げ、「かかってこいよ」と言わんばかりに立ち尽くした。



168: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:54 DI0Bb6fU0
  

「為せば成る、当たって砕けろ」

ああ、なんていい言葉なのだろうか。
これを信条として生きてゆけば、どんな困難も乗り越えられそうな気がする。

まあ、それはさておき。
地面から吹き上がる黒い波動は、徐々にジョルジュを覆い隠し――
  _
(;゚∀゚)「んまあぁぁっ!」

何の障害もなく、ジョルジュに直撃。
ジョルジュは慣性に従って後方に吹っ飛び、その先にいたつー達の足元にドサリと落ちた。

( ´_ゝ`)「何の抵抗もしないとは……諦めたのか?」

川 ゚ -゚)「潔く散るとは……なかなか男らしい金髪だな」

( ´_ゝ`)「決着もついたことだし、宿題の続きでもするか」

川 ゚ -゚)「だな」

(´<_` )「流石だな2人とも。切り替えが早いな」

残ったつーやフサなど気にも留めず、兄者達は家の中へと入っていった。



169: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:55 DI0Bb6fU0
  

青い空、白い雲。
ちょうど仰向けの状態で倒れたジョルジュは、晴れ渡った夏空を見た。

頭を打ったのか、妙に視界が悪く、気分が悪い。
だが、まだ気絶する訳にはいかない。
親友とも呼べるような友人達を見上げ、ジョルジュは呟いた。
  _
(;゚∀゚)「おい……なんで……なんで助けてくれなかったんだ……?」

(*゚∀゚)「だって、あたると痛そうだしさ」

ミ#)Д゚彡「だって、俺ってケガ人だしさ」

悪びれる様子もなく、きっぱりと言ってのける2人。
その様子を見ていると、ジョルジュは言いようのない悲しみを覚えた。
  _
(;゚∀゚)「ですよねー」

なんかもう、どうでもいいや。
ジョルジュはそう心の中で呟くと、そのまま意識を失ったそうな。



170: ◆wUOiOOQQF. :03/02(金) 23:55 DI0Bb6fU0
  

ゆとり教育が嘆かれる、平成の世の中。

そんな時代の中、勇敢に散った男が1人いた。

その男の名は「ジョルジュ長岡」。

悪あがきもせずに、潔く負けを認めた――と、兄者達の記憶には示されている。

事実そうではないのだが、そういう事にしておけばいいのかもしれない――たぶんきっと。



588: ◆wUOiOOQQF. :02/27(水) 09:01 MnOLBqle0

ぼんやりとした意識の中で、ゆっくりと目を開く。

はじめに見えたのは天井。どうやら仰向けで眠っていたらしい。
纏っていたタオルケットは昨晩のままな辺りが、我ながら大した寝相のよさだ。

兄者が言うには寝言が酷いらしいが、そんな事は寝ている私には知りようのない事だ。

……しかし、兄者だけには言われたくないと思う。
自分の部屋で寝ていたのに、朝起きたらトイレにいたりするような男に。

まあ、それはいいとして。

ベッドから上半身を起こし、時計を見る。
朝方なので若干見えにくいが、指針が6時前を指し示しているのが見えた。

……よし、予定通り。
この時間ならアイツはまだ寝てるだろう。

一度寝ると起こすのが難儀だというのは、今までの生活で分かっている。

それはすなわち多少の物音では起きない事に繋がる。
普段はうっとうしい特性だが、こういう時には都合がよくて助かる。



589: ◆wUOiOOQQF. :02/27(水) 09:01 MnOLBqle0

歩いて洗面所に向かい、顔を洗う。
それが蛇口から出るカルキ臭い水道水が残っていた眠気を覚ましてくれる。

そして、鏡を見る。

今の私はどんな顔をしているだろうか。

寝ぼけたようは顔をしてないか。
妙に緊張して表情が引きつっていないだろうか。
あるいは兄者か誰かに落書きされて、額に肉の字が書かれていないだろうか。
あの馬鹿は何も考えないで油性ペンで書いたりするからタチが悪い。書くならせめて水性にしとけよ。

……よし、うん。大丈夫。

いつもどおりの無表情。普段となんら変わらない私だ。
これも寝相のよさのおかげだろうか、変な寝癖もついていない。

これならこのまま出ても大丈夫だろう。
本当ならシャワーでも浴びたいところだが、今日は我慢だ。仕方ない。

さっさと着替えて、さっさと出ないと。

あの馬鹿が目を覚まして、私の事に気付く前に。



590: ◆wUOiOOQQF. :02/27(水) 09:02 MnOLBqle0

さっさと着替えて、せっせと歩く。
できるだけ急ぎつつも、物音は決して立てないように。

まあ、音がしたところで起きては来ないだろうが。念には念を――という言葉もあるしな。

向かう先は玄関。

1歩、また1歩と歩く。
進む度に脳裏をよぎる衝動を抑えつつ。

今なら戻れる、まだ戻れる。
戻れば何も心配する事はなくなる。

戻れば今までどおりに楽しい生活を送れるだろう。
アイツやみんなと馬鹿をやって過ごす、幸せな日々が続くだろう。

だが、もしも。
もしもこのまま進んでしまったら。

……いや、ここを出た後の事を考えるのはやめよう。
それを今考える必要はないし、考えるのなら出た後からでも時間は充分ある。

今は、今の事だけを考える。
後の事は後になってから考えればいい。
私にはそれができるだけの、充分すぎる時間があるのだから。

――なんて事を思いながら歩いていた、その時。

「どうした? 歩くスピードが落ちてるぜ、クーさんよお?」

私の背後から、聞きなれた声が語りかけてきた。



591: ◆wUOiOOQQF. :02/27(水) 09:02 MnOLBqle0

「……ハインか。起きていたのか?」

振り向かずに答える。
振り向く必要もないし、できれば顔を見られたくないから。

それに。
自分では普段と変わらない無表情だと思っているが、他の人からもそう見えるのか分からないから。

「起きてたっつーよりは、起きた――って感じだな。便利な能力のおかげでな」

ああ、そうか。

ハインの持っている能力で、私が動いているのが分かったのか。
それで、声でもかけておこうと思って起きてきた――といったところだろう。

「で、行くのか? ここを出ると後戻りはできなくなるだろうけど」

「……ああ。それに、後戻りする理由もないしな」

ここに留まりたくない訳ではない――とは、あえて言わないでおく。
それを言う必要はないし、言わなかったところでハインには分かっている事だろうから。

「……そっか」

そう言い、ハインは笑う。
……私は前を向いているので、後ろにいる彼女の表情は分からないが。

「なら、俺もついていくよ。1人でいるには時間がありすぎてヒマだろうし」

私はそのまま何も答えずに、ただ黙って頷いた。



592: ◆wUOiOOQQF. :02/27(水) 09:03 MnOLBqle0

ハインが靴を履こうとして、私の前に出る。
そうして彼女の姿が見えたときに、ふと私は気が付いた。

「……ぃょぅは大丈夫なのか? お前と同じ能力を持っていたと思うのだが」

ハインは自身の能力で、私の動きを察知した。
だから、同じ能力を持っているぃょぅも、同様に私の事に気付くのではないだろうか。

「ああ、それなら大丈夫。抜かりはないさ。
 こうやって……こう、ドスッ――とね。だからしばらく起きないさ」

そう言い、ハインは手刀で空を縦に切る。
……ああ、なるほど。当て身を入れてきてくれたのか。

「……ふっ、ハインらしい対処の仕方だな」

「一番手軽で手っ取り早かったからな。それより早く行こうぜ」

ハインが笑う。

「ああ、そうだな」

それに続いて、私も笑う。

そして――

「……後の事は任せたぞ」

誰に言う訳でもなく呟いて、私とハインは流石家を後にした。



598: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:41 DP95AE+a0

( ´_ゝ`)「……しまった。調子に乗って寝すぎてしまった」

さて、どうしたものか。

朝起きてみると、なんと既に誰もいなかった。
これじゃあまともな朝飯にありつけないではないか。

あ、念のため補足な。
別に俺が朝飯を作れないわけじゃない。ちゃんと作れる。
まあ、それが“まとも”な朝飯かと聞かれると答えに困るから、人の作ったものに頼る訳で。

( ´_ゝ`)「それにしても、他の方々は朝が早いな。同じ血が通ってるとは思えん」

血が繋がってないヤツもいるけどさ。
そんな事は今はどうでもいいし、今じゃなくてもどうでもいい。

……つーか、ごめん訂正。

時計見たら午前10時過ぎてました。俺が遅いだけでした。
適当な事を言ってすみませんでした。生まれてきてごめんなさい。

( ´_ゝ`)「……どうでもいいから朝飯でも探すか」

そうだ、メシだメシ。
朝飯を食わんと1日が始まらん。さっさとこしらえねば。



599: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:42 DP95AE+a0

まずは冷蔵庫。

家がボロイ割には、なかなか新しい。
手が塞がってても開ける事のできる、押すと開く仕組みの冷蔵庫。
意味はないけど裏拳で開けようとして失敗し、ただ痛いだけで終わることもしばしばだ。

まあそんな事はどうでもいいから、指で押していざオープン。

(;´_ゝ`)「……ッ!!」

んでもって、一目見るなり即クローズ。

( ´_ゝ`)「……なにもなかった」

そうなんです。
冷蔵庫なのに何もなかったんです。食材が。

まあ、マヨネーズぐらいはあったけど。
「マヨチュッチュ」なんて古臭い上に体に悪い事はしたくありませんので。

……しょうがないな。
コンビニに行って何か買ってくるか。
買いに出るのは億劫だけど、食わない訳にはいかないし。

行くか。めんどくさいけど。



601: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:43 DP95AE+a0

そして、色々あってコンビニに到着。
道中で近道したら足がミゾにはまっちゃったけど、なんとか自力で脱出した。

そんな事はどうでもいいから、さっさと買い物を済まさねば。

腹が減っていて、かつサイフの中身がピンチ。
こういう時は安くて量が多いものを買うのがいい。質より量ってヤツだ。

そう思って、メシを求めて店内をうろつく。
目ぼしいものがあれば手にとって、値段と生産地を確認したりして。

( ´_ゝ`)「でも不思議な事に、気が付いたら雑誌コーナーにいるんだよな」

そうなんです。
メシを探してた筈なのに、気付いた時にはもう立ち読みしてるんです。

読むのはもちろん週刊少年ジャンプ。
なぜなら彼もまた、特別な存在だからです。

あと、どうでもいいけど。
ジャンプの近くにエロ本を置くのはやめてほしい。

店のレイアウトってのは客の都合のいいようにするモンだろ。
エロ本が近くにあると、偶然通りかかった知り合いとかに勘違いされたりするじゃん。



602: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:44 DP95AE+a0

……なんて事を考えながら、立ち読みをしてて。
自分の右方向で、自分と同じように立ち読みをしている人の気配を感じた。

俺の右手側、成人コーナー。
そこでエロ本を立ち読みしている勇者。

そういうのを見ると、無性にソイツの顔が見たくなる。
だから俺は相手に気付かれないように注意を払い、横目で顔を見ようとした。

そして。

チラッ――と、ほんの一瞬だけ。
隣でエロ本を読んでいる人物、勇者の顔を見た。

その表情は、まさに悟りの境地。
深奥を辿り着いた者のみが持ち得るその顔から、俺は世の真理を垣間見た。

エロ本を悟りの境地のような表情で立ち読みする人物。

性別はもちろん男。
しかも、顔見知りだった。

ミ,,゚Д゚彡「…………」

フサだった。



603: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:44 DP95AE+a0

なんか、軽くショックだわ。
こんなヤツから世の真理を垣間見るなんて。ダメだわ俺。

ミ,,゚Д゚彡「……よお、兄者」

しかも、俺に気付いてるし。
なんだよコイツ。ひょっとして賢者?

( ´_ゝ`)「俺がいる事にいつから気付いてたんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「店に入った瞬間からだが……まあ、それはどうでもいいさ」

なるほど。
店に入ったときから気付かれてたのか。

察するところこの男は、店に入ってくる者を逐一チェックしているのだろう。
ある特定の、エロ本を読んでるのを見られたくない人物が来る事に備えるために。
誰だってそーする。俺だってそーする。

ミ,,゚Д゚彡「……なあ、兄者」

( ´_ゝ`)「なんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「前から思ってたんだけど、エロ本って立ち読みする意味ないよな。
      家に持って帰ってこそナンボだろ。コンビニで立ち読みだと使えないしさ」

( ´_ゝ`)「はい、そこ。ぶっちゃけトーク禁止な」



604: ◆wUOiOOQQF. :03/10(月) 08:45 DP95AE+a0

フサは「まあ、暗記して帰るから別にいいけどさ」と言い、そこで話を切る。
その視線はエロ本に向けられいて、おそらく記憶している最中なのだと思われる。

……まあ、色々言いたい事はあるけどさ。
その熱意を他に使えよ――とか、それぐらいなら買って帰れよ――だとか。

でも、ツッコんだら負けな気がするからここはツッコまないでおくことにする。

つーか、そもそもコイツに用はないし。
俺は朝飯を買うためにここまで出向いた訳だから。

話も終わったようだし、朝飯を買ってここらで退散させてもらうとするか。

( ´_ゝ`)「んじゃ、俺もう帰るから」

そう言って、踵を返して立ち去ろうとする。

だが――

ミ,,゚Д゚彡「まあ待てよ、ブラザー」

フサに肩をつかまれ、静止された。
うるせー馬鹿。俺はお前の兄弟じゃなければ友人ですらないって。

( ´_ゝ`)「……俺はお前に用はないんだが」

振り返り、フサを見る。
まだ視線はエロ本に向いたままだったが、なんとなく雰囲気が違う。

……そう。
まるで、今からシリアスに移り変わるような、そんな雰囲気。

そして。

フサはエロ本を閉じ、こちらに向きなおして。

告げた。

ミ,,゚Д゚彡「俺このエロ本買うわ」

超どうでもよかった。



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