こちらスネーク、ラクーンシティに潜入した。

515: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 00:20:56.58 ID:WCMxn8GQ0
  
スネークは先頭車両付近で一人たたずんでいた。
レイモンドが階段を一段飛ばしに駆け下りてきたのが目にとまる。
「あったぞ」
レイモンドは鍵を握り締めたままスネークのいる先頭車両まで駆け寄る。
運転席のドアに鍵を差し込み、回す。がちゃりという鍵のはずれる音があたりに響いた。
狭い運転席に入ると、今までに見たことのないような計器があちこにあった。
錆もほとんど見当たらず、ランプも全て正常に灯っている。古い車両ながらしっかりと整備されているようであった。
「電力はしっかり供給されているようだな」
「スネーク・・とか言ったな、電車の運転はできるか・・?」
「いや」
「そうか・・」
スネークは運転席にある、小さなイスに腰を降ろした。
計器にはブレーキの油圧などをはじめ、さまざまなスイッチやレバーなどがところせましと配置されてある。
スネークの目に、『加速』の文字が目にとまった。
その隣には上下にのみ稼動するレバーのようなものが設置されてある。
マスコンと呼ばれる、いわばアクセルのようなものだ。
それは真ん中で『停止』という位置に固定されてあった。
「レイモンド、これで動くんじゃないか?」
スネークはそう言い、マスコンに手を乗せる。
レイモンドはマスコンに目をとめ、少し考えるような素振りを見せた。
「待て、こちらの路線は上り路線だ。つまりこの状態で動かした場合、列車は市街中心へと向かってしまう」
「あぁ、それもそうだな。つまりこの車両とは違う、最後尾の車両の運転席でなければ操作できないということか」
「そうなるな」
二人は会話を中断し、運転席を後にした。



516: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 00:21:35.07 ID:WCMxn8GQ0
  
車両内部は外の喧騒や凄惨な景色を忘れさせるほど綺麗なものだった。
車両が停止した直後に乗客は一斉に逃げ出したものと思われる。
スネークたちは車両の中間ほどに差し掛かっていた。
ふと、二人の視界にいくつかの人影が目にとまる。
車両接続部にドアがあるため、その影をはっきりと確認することは難しい。
「感染者だと思うか?」
スネークが問う。
「いや、判らない。だがその可能性は薄いだろう。あの強度のガラスやドアをヤツらが打ち破れるとは思えない。警戒するにこしたことはないが」
レイモンドはそう言うと、ショットガンに弾を装填する。
「俺が先頭を行く。後ろは任せた」
スネークは腰を落とし、小走りに人影の方へと向かっていく。
杞憂に終ればいいが、スネークはそう抱懐した。
スネークは見覚えのある服装を目視した。
黒のタイトスカートにブルーのタンクトップ姿の女、ジルだ。
その隣には警察服の二人の男女、おそらくケビンとリタだと思われる。
他にも何人かの姿を見受けとるができたが、見たことの無い姿だった。
スネークは感染者でないことだけを確認し、多少安堵の表情がよみがえってきた。
スネークにとって感染者でないということが判っただけで、十分に不安材料を取り除いてくれる事象になったのだ。
「レイモンド、どうやら彼らは感染者ではないようだ」
「・・・そうか・・・」
レイモンドの表情はまだ硬い。
相手の何人かがスネークらの姿を視認したようで、一瞬動きが慌ただしくなった様だったが、すぐにこちら側も感染者でないことを確認したようで、すぐに警戒心の色を薄めた。
スネークたちが最後尾の車両に到達する。
やはりジル、ケビン、リタの3名に加え、地下鉄職員1名に民間人が3名いた。
「スネーク、生きてたのね」
ジルが少し驚いたような表情で言う。
「ああ、そう簡単に死んだりはしない」



517: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 00:23:16.93 ID:WCMxn8GQ0
  
レイモンドは二人の会話をよそ目に、話に入り込んできた。
「スネーク、それより電車を。」
「ああ、そうだったな」
二人は人の合間を縫うようにして運転席へと足を運ぶ。
「無駄だよ」
男の割には、甲高い声が二人に投げかけられる。
黒人の地下鉄職員の声だった。
「なぜだ?」
スネークが訊く。
「ここの駅から下り方面の駅に行くつもりなんでしょ?」
「ああ」
「じゃぁ無理だよ」
職員は続ける。
「ここの駅より前の路線、下り方面の電車は電気を直列で流して運行をさせているんだ。そしてここを基点として並列と直列を入れ替えてる。つまり下り方面の駅に行くためにはここの駅で電力供給の配置を換えなきゃならない」
「この駅内でその配置を変更できるのか?」
「うん」
「その場所まで案内できるか?」
職員はあからさまに怪訝な表情を浮かべた。
「無理だよ・・・あんな所を通ってまで電力制御室まで行くなんて・・・」
「やはり化け物か」
「この地下鉄なら頑丈だし、電力も供給されてる。食料だって売店からかき集めてきたから救難のヘリが来るまでなんとか持ちこたえられるはずだよ!」



518: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 00:23:52.36 ID:WCMxn8GQ0
  
スネークは少しにやけながら首を左右に振った。
「そいつぁ、望み薄だな」
先ほどまでまるで関心をしめさなかった民間人たちが一斉にスネークの方へと視線をやった。
「ジル、まさか襲撃の話しをしてないのか?」
「ごめんなさい、わたしたちもついさっき、たまたまジムに見つけてもらったばかりだったから」
ジルは職員の方へと目をやる。どうやらこの地下鉄職員の黒人男性がジムなのだろう。
「とりあえずだ、アンブレラの連中は目撃者という目撃者を一掃している。ここから生きて出たいなら自力で脱出するしかないってことだ」
「残念ながら、これは事実なのよ」
ジルもなだめる様に言った。
「だからその電力制御室まで案内してくれ。どの道ここにいたって死ぬぞ」
スネークは食い下がる。
「わかった、わかったよ。案内するからちゃんと助けてくれよ!」
ジムは顔を赤らめながら言った。
「助かる」
スネークはそう言い、装備の点検に取り掛かった。



528: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 01:57:52.83 ID:WCMxn8GQ0
  

「心配するな、最悪の場合ここまで逃げてくりゃいいんだ」
ケビンが笑いながらジムに話しかける。
「・・・」
ジムは相変わらず暗い表情を浮かべていた。

「もし何かあったらこっちの無線に連絡して。駅の構内の地図もあるからサポートできると思うわ。周波数は141.85よ」
ジルは無線と地図をみなにみせながら言った。
「民間人の護衛は任せた」
スネークたちはそういって、返事も待たずにプラットホームを後にし、コンコースへと姿を消していった。

階段を上ると、『職員用』と表示される鉄製のドアが見える。ジムは一瞬躊躇した素振りを見せたが、観念したようですぐに開錠した。
職員用通路とある通路はとても狭く、人が2人ほど平行になってぎりぎりで通れるほどだ。
通路の蛍光灯は消え、非常用の裸電球の赤のみが頼りだった。
一番奥の扉まではざっと50Mはありそうであった。
「電力制御室はどこにある」
「一番奥の扉の手前に一本通路が左から交差してるから、そこを曲がってずっとまっすぐ行って、さらに地下に行くとあるよ」

スネークを先頭に、ジム、ケビンという順に3人は一列になって行進を始める。
すぐに別の通路と合流し、3人は流れるようにしてそちらの通路へとうつっていった。
そちらの通路にも同じように直進の通路が続いていて、一番奥に分厚い扉があった。
3人はそこも直進し、先ほどと同じ鍵をジムは使用する。
分厚い扉が開くと、階段がずっと続いていた。角ばった階段は2回屈折し、20Mほど下の扉まで伸びている。
ごおっと下方から吹き上げる風が3人を襲った。生暖かい風だった。
同時に地下鉄特有の硫黄の臭いが鼻を突く。



530: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 01:59:57.11 ID:WCMxn8GQ0
  
3人は一定の間隔を保ちながら下の踊り場まで降り立った。
こちらも上と同様に分厚い扉があり、鍵を開け、中に侵入する。
職員用通路よりさらに薄気味悪い通路であった。プラットホームやコンコースなどと違い、こちらは全く清掃の手が行き渡っていないようだ。
天井や壁など、いたるところにパイプが伸びていて、まるで軍艦の中にいるような気分になる。

「ほら、この先にドアがあるの、わかる?あそこが電力制御室だよ」
ジムは指で場所を示しながら言う。
電力制御室までは一直線だった。電力制御室内はボイラーのような巨大な装置が中央にどっしりと構え、その横にひっそりと制御盤がある。
ジムはそれに近寄り、ファイルを片手に操作をはじめた。
「案外楽勝だったな」
ケビンが能天気に言った。
「油断は禁物だ」
「でもここまでなんもなかったんだから、多分大丈夫だろ」
「・・・だといいが」
暫くの間、制御室内にはジムのいじるキーボードの音のみが響き渡っていた。
「OK、電力配置の切り替えは終ったよ。後は電車を動かすだけだ」
「よくやった。早くここから出よう」
3人は足早に制御室を去ろうとした、そのときだった。
通路側のドアと向かい合わせにある、反対側のドアが突如黄色い音をたて、変形しはじめたのだ。
3人はその様子をじっと凝視していた。
ドアのボルトが勢いよく吹き飛び、鉄製のドアがいとも簡単に押し倒された。
そして、ドアの向こうには、緑色のコートに身を包んだ大男の姿ある。
タイラントだ。



531: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 02:00:49.86 ID:WCMxn8GQ0
  
忍者に切断されたはずの両手は、以前より強靭な爪を装備し、復活していた。
「ちっ!またコイツか!」
ケビンは悪態つくと、同時にM4をタイラントめがけ、乱射する。
その間にスネークとジムはドアをくぐりぬけ、階段のあるドアへと駆け出した。
「ケビン!早くこい!」
スネークが叫ぶ。
ケビンは二人が出たのを確認すると、通路へと踵を返した。後ろ手にドアを閉める。
しかし、タイラントはドアをあっという間に蹴破った。
耳をつんざくような雄たけびを上げたかと思うと、タイラントは最後尾にいるケビンに向かい突進をする。
ケビンはタイラントに押し倒される形で、通路に身を投げ出された。
スネークは一瞬振り返り、その光景を目の当たりにした。
すぐに体を反転させ、M4をタイラントに向ける。

「スネェェェェク!行け!」

ケビンの怒声が響く。銃声に負けないほどの大音声だ。
その直後、タイラントは剣のごとく伸びる爪を横たわるケビンの体に突き立てた。
ケビンの体は一度びくん、と痙攣したかと思うと、すぐに事切れた。
スネークは歯を食いしばり、再度階段の方向へと向き直る。
分厚いドアは開け放たれていた。既にジムは階段を上り始めているようだ。
スネークも階段に飛び出し、即座に上を確認する。ジムはまだ大した距離にはおらず、タイラントにすぐに追いつかれる可能性があった。
「ジム!振り返るな!走れっ!」
スネークはドアを閉めたが、タイラントにかかれば破壊されるのは時間の問題だ。
二人がちょうど階段を上りきったとき、下のドアが引き剥がされた。
「ジム行け!」
二人はコンコースに向かい駆け出す。その間、スネークはジルに無線交信を呼びかけた。



532: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 02:02:11.02 ID:WCMxn8GQ0
  
「ジルか!?」
最初はノイズのみが帰ってきたが、すぐにそれは明瞭な声へと変わった。
「ええ、聞こえるわ」
「電車のドアを開けていつでも発進できるように準備しておいてくれ!緑コートの大男がまた現れた!」
「なんですって・・・わかったわ!あまり長くは待てないわよ!」
スネークはしきりに後方を振り返っていたが、まだタイラントの姿は目視するまでの距離にはいない。
2人はコンコースに飛び出し、プラットホームへと通じる階段を全速力で駆け下りた。
先頭車両まではほんの数十メートルだ。先頭車両のドア付近ではジルが外で待機していた。
「早く!」
ジルの悲鳴が二人の耳に届く。
2人は半開きになった車両のドアに体を滑り込ませるようにして入っていく。
二人を収容し終わっても、ジルはまだ車両に入ろうとはしなかった。
「ケビンは!?ケビンはどうしたの!?」

「もうダメだ!ケビンは帰ってこない!」
ジルは苦虫を噛み潰したような表情をする。そしてすぐに二人の後に続き、車両に体を戻した。
ジムはそのまま運転席へと移動し、マスコンに手をかけ、手前いっぱいに振り絞った。
電車は、がくん、と一度前後に振動し、勢いよく発進する。



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