こちらスネーク、ラクーンシティに潜入した。

667: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 22:33:04.32 ID:WCMxn8GQ0
  
車内には重苦しい空気が漂っていた。無論、これは帰ってくる筈の人間が帰ってこなかったからに他ならない。
車内には定期的に響く車輪の音だけが支配をしている。それ以外の音は皆無だった。
みな席につき、俯いている。誰一人として口を開こうとはしなかった。
スネークは周囲を見渡す。運転席にはジムが座り、運転に集中している。
他の者は何をするわけでもなく、ただ空虚を見つめていた。
スネークは後方の車両に視線をやる。そこには誰もいないはずだった。
しかし、接続部のドア越しにしっかりと人影がうつっていた。
タイラントであった。

「くそっ!またあいつだ!」
スネークは叫び、まだ後方にいるタイラントを指差す。
「なんてこと・・・早く電車を止めましょう!」
ジルが運転席へと駆け込もうとする。
「停車させたところでここは一本のトンネルだ、各個やられるだけだ」
スネークはジルを咎めた。
「ここでヤツを倒すしかない」

スネークはM4の弾倉を交換し、ボルトを手前に引く。薬室に弾が装填された。
スネークはM4を窓ガラスに向け発砲した。窓ガラスには蜘蛛の巣の様なひびが入る。
すぐにそれは砕け散り、同時に突風が車内に吹き荒れた。風を切る音が響く。

「ジル、民間人を外に出せ。屋根をたどって一番向こうの車両まで行け。リタも民間人の誘導に協力してくれ」
スネークは民間人たちを指差しながら言う。
ジルはその意見をあっさりと否定した。
「民間人がそんなことできるわけないでしょ」
しかしスネークはジルの意見など、聞く耳を持たなかった。



668: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 22:33:21.69 ID:WCMxn8GQ0
  
「ジム!お前もいけ!」
ジムはどうすればいいかわからないという表情を見せた。
「いいから早くいけ!あいつは俺が食い止める!行かなきゃみんなここで死ぬことになる!」
突風に負けじと、スネークは声を張り上げた。
タイラントはもう2両ほど前の車両まで迫っていた。
「早くいけ!」
「スネーク、俺も援護しよう」
レイモンドが割り込んでくる。
スネークは首を縦には振らなかった。
「いや、ここは狭い。一人の方が逆に効率がいい」
「しかし・・・」
すると、民間人の中にいる唯一の女が声をあげた。
「私は行かないわ」
赤のスーツに身を包み、髪はショートにまとめられた綺麗なブロンドだ。見るからに気の強そうな女だった。
「ここに残って、アレの正体を抑えるの」
「あんた、名前は?」
スネークが訊く。
「アリッサ、アリッサ・アッシュクロフトよ」
「そうか、アリッサ。一つ忠告しておこう、勇気と命知らずはまったく違うぞ」
アリッサはスネークの忠告などさらりと受け流した。
「あら、忠告ありがとう。でもこれはは勇気でもなければ命知らずでもなんでもないの。記者には真実を伝える義務があるわ」
二人が口論をしている間に、アリッサを除く全ての民間人が窓から車外に這い出ていた。
その後、すぐにジル、リタ両名も車外に姿を消していく。屋根からは鉄の軋む音がしている。
「スネーク!先に行かせてもらうぞ!すぐに追いついて来いよ!」
スネークはレイモンドに顔を向け、一度うなずく。それから顔をアリッサに戻した。



669: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 22:33:45.41 ID:WCMxn8GQ0
  
「アリッサ、足手まといだ。戦闘時に邪魔になる」
スネークはそう言いながらもしきりに後ろの車両を気にかけていた。
アリッサもそれを察したようで、後ろを振り返る。
するともうそこには、タイラントが車両に侵入をしていた。
アリッサの顔から血の気がさーっと引き、先ほどまでの強気な姿勢はどこへやら、顔が蒼白になっている。
「おい、逃げるならいまのうちだぞ」
スネークは落ち着いた声色で言う。
狭い車内、低い天井、体を覆い隠すようなものは皆無、最悪の状況だった。
アリッサは車外に出る寸前に一度スネークを一瞥した。アリッサは暫くの間スネークを心配そうに見つめていたが、タイラントの雄たけびを耳にした瞬間、驚いたように屋根へとよじ登っていった。
そうして車内の中にはタイラントとスネークの二人のみになった。
イヤホンからノイズまじりに、ジルの声が届いた。
「スネーク、大丈夫!?」
「あぁ」
「私たちに何かできることはある?」

スネークは返事をしようと試みたが、タイラントの攻撃により、無線は中断された。
タイラントは両手を、まるで鞭のようにに振り回す。しかしスネークはタイラントの攻撃を意図も簡単にかわしてしまう。
既にスネークはタイラントの攻撃パターンを頭にインプットしていたのだ。
しかし、攻撃をかわしているだけでは十分ではなかった。
スネークはタイラントがパンチを繰り出す際、大振りになることを既に把握していたため、タイラントがここぞばかりに右手をふりかぶったときに、懐にもぐりこみ、M4の銃床をタイラントの顎めがけふりあげた。
スネークの打撃は見事にタイラントに直撃し、タイラントは千鳥足になる。スネークはタイラントが一瞬ひるむのを見逃さなかった。スネークは左足を軸に、右足をコンパスのようにしてタイラントに見舞う。俗に言う回し蹴りだ。
スネークの右足はタイラントの胸部に見事食い込む。
しかし、タイラントもやられているばかりではなかった。スネークの右足を両手でしっかりとつかむと、タイラントはスネークを投げ飛ばす。
スネークはまるで人形のように軽々と吹き飛ばされた。運転席のドアをやぶり、スネークは運転席の計器にたたき付けられる。
一瞬気が遠のいていくのがスネーク自身、理解できた。視界がブラックアウトしそうになったものの、やっとの思いでスネークは意識を呼び戻す。
スネークは計器にもたれかかるようにしてゆっくりと体を起こす。その際、手にかけていたレバーがいっきに手前まで下げらた。マスコンのレバーだ。
電車はいっきに加速し、あっという間に最大までに加速した。
しかし、タイラントはそんな事はまるで意に介さず、スネークに向かって猛進してくる。



670: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/27(火) 22:34:08.69 ID:WCMxn8GQ0
  
そして手には鋭い爪が構えられていた。
スネークはタイラントをしっかりと見つめている。やはり、タイラントは寸前になって構えていた方の手を大振りにした。スネークは待っていたとばかりに体を回転させ、見事にタイラントの攻撃をかわす。
タイラントの爪は計器類に深く突き刺さっているようだ。タイラントが必死になって自らの腕を計器から引き抜こうとしている。
スネークはタイラントの処分について考えたが、その思考はすぐに停止させられた。

運転席の大きな窓から、崩れたトンネルの光景がスネークの目に飛び込んできたのだ。
距離にすればもう200Mを切っているだろう。このまま走行すれば確実に電車はトンネルの残骸に衝突し、たちまち大破してしまう。
スネークは計器に目を走らせた。
「よし!」
思わず声を張り上げる。スネークは拳を握り締め、マスコンの隣にある『非常停止』と赤く記されるスイッチを押した。
直後、電車の車輪からは断末魔の叫びがあがった。
車両は急速に前のめりになる。タイラントはその際、巨体を宙に浮かせた。
タイラントはそのままガラスを突き破り、車体に吸い込まれるようにして下敷きになった。
それが原因となったかは判らないが、電車は大きく右に傾いたかと思うと、横転した。1両目、2両目と次々に車両は脱線を始めた。



917: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 01:59:00.57 ID:g0b+DNiT0   
スネークは徐々に体の間隔が戻ってくるのがわかった。
ゆっくりと、重いまぶたを起こすとそもそも床であるはずの位置が真上に広がっている。
スネークは体を起こし、立ち上がった。見ると、座席は全て上にいき、つり革や電気が下にある。
すぐに電車が上下さかさまになっていることをスネークは悟った。
スネークは無線の周波数を合わせた。
「ジル、大丈夫か」
帰ってくるのはノイズの音声のみだけだ。
「ジル、応答しろ」
やはり返答はなく、イヤホンからは砂嵐のような雑音ばかりだ。
スネークは上下さかさまの車内を、最後尾の車両に向け、歩みを進めた。スネークが2両ほど通過したときだった、車両の連結部から光が差し込んでいるのが判る。
スネークはそこから外に出た。
先頭3両の車両のみが上下さかさまになり、残りの3両は脱線をするだけで、大した破損も見られないようだ。この状態なら最後尾にいる民間人をはじめとする、ジルたちも無事と思われた。
スネークは一度、自分の乗っていた車両に目をやる。
1両目の破損はひどく、スネーク自身よく生きて帰ってこられたものだと思った。

スネークは最後尾の車両に赴く。見回すものの、人影と見られるものは皆無だ。
どうやらジルたちはすでに脱出をはかったようだった。
スネークはそのまま電車を後にする。
周囲を見回すと、ここは開けた場所になっていて、車庫のようなものにも思われた。
横開きのドアがいくつかスネークの目にとまる。
そしてそのドアがゆっくりと開き、中から警官の制服に身を包んだ一人の男が出てきた。
レイモンドだ。



918: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 01:59:20.53 ID:g0b+DNiT0
  
「スネーク、無事だったか!」
レイモンドがスネークに駆け寄る。
「すまない、脱線が原因で怪我人が出て上に運んでいたんだ」
「そ、そうか・・・上っていうのは・・・?」
「ジムの話によると、ここは旧地下鉄の引込み線になっているらしい。原因は不明だが、切り替えポイントが変更されていたらしく、こっちにきたみたいなんだ。上はラクーン大学になっている。そこの扉から排気塔を通っていけば大学に出られる。既に他の皆は上にいる」
二人は扉の方へと歩みを進めながら、会話をする。
大学が出来る前、ここは炭鉱になっていたらしく、まるでアリの巣のように下水やトンネルが大学の地下には広がっている。
今はそれを排気や電力供給などに使っているとの事だった。
二人は十数分間、長い通路を通り、エレベーターなどを取り次いで、ようやく大学内の広いエントランスに出た。
そこには一人腕に負傷を負っている、つなぎ姿の男がいて、その周りを囲むようにしてジルたちがいる。
男の右腕には包帯が巻かれていたものの、血がにじみ出ていた。
「はぁ・・・ここからどうやって脱出しようか・・」
ジムが間の抜けた声を出す。
唯一の脱出手段であった地下鉄が脱線してしまったため、この街からの脱出はきわめて困難なものとなった。
外にはすでに大量の感染者が地上を埋め尽くしている。下手に出れば生きて帰ってくることは不可能だろう。
幸いこの大学は市街地からは離れていて、市街地と大学の間に大きな川を挟んでいた。
さらにここは高台にあるということから地理的条件で感染者の侵入を極力押さえ込む事ができている。
大学への侵入は地下の旧地下鉄引込み線か、川をまたいでかけられている橋を渡らない限り、この大学までの侵入はできない。
さらに大学の旧引込み線に入るには、一番近い駅でも2キロ以上は離れているため、感染者が地下から来られるとは考えにくかった。
橋にしても、警察部隊が撤退したときに放置した警察車両がそのままバリケードの役割をはたしていた。感染者が乗り越えたとしても数は大幅に削られるだろう。
「ここも一応は安全だけど、いずれは移動しなきゃならないわね」
ジルの発言に、レイモンドが目をしかめる。
そして思い出したかのように声をあげた。
「あっ・・・そういえばここは・・・消防で定められた緊急避難所だ・・・もしかすると、消防の救難ヘリがくるかもしれない」
「何故それを知っている?」
スネークが訊く。
「いや、俺はここの管轄じゃないからよく判らんのだが、警察の無線でいってたんだよ、ここも救出ポイントだってことが。」
スネークは疑念を抱く。しかしその疑念はすぐにリタが払拭してくれた。
「えぇ、彼の言う事は本当よ。うちの警察署からも何部隊か大学にかけられる橋の封鎖として派遣されていたもの」



919: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 01:59:38.85 ID:g0b+DNiT0
  
街ではいくつかの救出ポイントを決めてあり、ラクーン公園、時計台下、大学裏広場という具合に広い場所に災害時は住民を避難させるよう言われているのだ。
会話が途切れたときだった、唐突に正面の観音開き式の扉が開く。
扉の向こうには4人の兵士がいた。
4人のうち二人は目だし帽に上からゴーグルを着用し、上下カーキの服で、上半身には黒のチョッキを着用している。肩にはアンブレラのロゴが入っていた。
もう一人の男も同じ格好をしていたが、目だし帽ははずし、顔を露にしている。
最期の一人は前者のものと服装をはじめ、装備品まで全てが違っている。
ガスマスクにヘルメットを着用していて、全身グレー一色のプロテクターに身を包んでいた。表情はおろか、肌の色すら読み取ることができない。
目だし帽を着用している2人は残りの2人に抱きかかえられるようにして肩をかされている。重症とまではいかずとも、怪我をしているようだった。
ジルたち警官は一斉に兵士たちに銃を向けた。
「動くな!武器を捨てろ!」
レイモンドの怒声がエントランス内に響き渡った。
そのうち、目だし帽を着用していない一人の兵士が声をあげた。
「頼む!撃たないでくれ!怪我人がいるんだ!」
レイモンドは知った事かと言わんばかりに銃を突きつけ、4人を威嚇する素振りを見せる。
「いいから武器を捨てなさい!」
ジルもレイモンドに同調した。
「判った!判ったから撃たないでくれ!」
そう言うと、まず怪我人の2人をゆっくりと床に横たわらせ、首から下げられているM4A1ライフルをレイモンドたちに投げ渡す。
ガスマスクの男は3人とは違い、MP5を所持していた。そしてそれを肩からはずすと、床に置いた。



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