こちらスネーク、ラクーンシティに潜入した。

920: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 01:59:52.94 ID:g0b+DNiT0
  
「ジョージ、怪我人を見てきてくれる?」
ジルがそう言うと、民間人の中からねんきの入ったコートを羽織る、中年の男が出てきた。
ジョージは倒れている怪我人2人の元へと駆け寄ると、脈を取ったりと作業を始める。
「あんた医者か?この2人は、助かりそうか?」
アンブレラの兵士が訊く。
「ん、まぁ一応外科医をやっているよ。よくは判らないが、この2人は感染者に噛み付かれたのか?」
ジョージは兵士に顔は向けず、作業を続けながら答えた。
「あぁ、俺たちがマンションにいる子供たちを救出しようとしたときに──」
「嘘よ」
ジルがさえぎる。
「なにがだ?」
「あなたたちは市民を助ける気などさらさらないでしょ」
敵愾心をこめた声色でジルが言う。
「あんた、何を言ってるんだ・・・?俺たちは市民の救助を命令されてここに・・・」
「私たちはあなたたちと同じ格好をしたアンブレラの兵士に襲われて、殺されそうになったのよ」
「なんの話だ?」
「とぼけないで!」
ジルは兵士につかつかと詰め寄る。
「あなたちのせいで何人もの警官が死んでいるの」
「おい、本当になにもしらねえよ。こっちはカネもらって上から命令されたことをへいへいやってるだけなんだ。傭兵なんだよ」
2人の会話をよそめに、ジョージが割り込んできた。
「そこの君・・・えっと、名前を教えてくれないか・・?」
ジョージが兵士に訊いた。
「カルロスだ。カルロス・オリヴェイラ」
「そうか、カルロス、私はジョージだ、よろしく頼む。それで・・・この2人の兵士なんだが・・・」
ジョージが俯き、人差し指で目をこする。どうやら言いづらい報告のようだ。
「噛まれた傷が浅かったのが幸いしたのか、ウィルスの進行が遅かったみたいなんだが、もう・・・そろそろゾンビ化をはじめるころだと・・・」
「特効薬か何かはないのか?」
カルロスの問いもむなしく、ジョージは無言のまま首を横に振ってあっさりとそれを否定してしまった。



921: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:00:05.56 ID:g0b+DNiT0
  
「お前らも既に感染しているぞ」
今まで話に興味を持ってない様子であった者たちも、一斉に声の方向へと視線がそそがれた。
声の主は、ガスマスクの男だ。
「どういうこと?」
ジルが標的を変える。
「このウィルスはごく少量ながら、空気感染もする。このまま市外に出ればいずれ発症して、たちまち全世界に飛散する」
男は続けた。
「合衆国は夜明けと共にここを核攻撃する」
「そんな・・・」
ジルが崩れ落ちる。エントランス内に陰鬱な空気が漂い始めた。
「まだ話しは終って無い。この大学内ならワクチンの生成が可能だ」
カルロスが眉間にしわをよせた。
「そんな話聞いたことないが・・・」
マスク越しに男が鼻で笑うのが聞こえる。
「そりゃそうだろうな、お前らはただの傭兵だからな。こっちは特殊部隊だ」
「何故今まで言わなかった。」
カルロスの表情に憤りの色が垣間見え始めた。
「大学にきたら言おうとは思ったが、まさかここまで生存者がいるとは想定していなかった。お前ら3人だけを助けようと思ったが、ここまできては全員助けなければならんだろう」
カルロスはそうか、と一言こぼすとその場に座り込んだ。
「どこでワクチンが精製できるの?」
ジルが訊く。
「ここの最上階だ。俺はもう行くぞ、早くしないとそこの2人が豹変してしまうからな」
男はそう言い、銃を拾うと、そそくさと正面向かって右側のドアへと歩き始めた。
「まて、お前一人でいかせるわけにはいかない」
スネークは男の後を追った。
「逃げなどしない」
「一応だ」
二人はそのままドアの向こうへと姿を消していった。



922: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:00:59.69 ID:g0b+DNiT0
  
二人はドアを抜けると短い通路に出た。ロッカーやパソコンなど、様々な道具がところせましとおいてある。
一番奥に申し訳なさそうにエレベーターの扉が見える。

「あんた、名前は?」
スネークが唐突に訊く。
「ハンクだ。そっちは?」
「スネーク。ソリッド・スネークだ」

2人はエレベーターの前に立つ。ハンクが胸のポケットからカードを取り出す。
エレベーターのスイッチの横に設置してあるカードリーダーにそれを滑らすと、ドアが開く。
2人は最上階にある3階のスイッチを押した。
エレベーターを降り、廊下を抜け、実験準備室を通過して、ようやく実験室についた。

実験室内は試験管やビーカーをはじめとする、容器や薬品などがきちんと整理され、おかれている。
その中に一つ、巨大な機械が『試薬生成機』という字を掲げて、堂々と陣取っていた。
ハンクはその前に立つと、ビーカーほどの大きさのカプセルを2個取り出し、機械の中に投入する。
「スネーク、下には何人いた?」
ハンクは作業の手を休めずにスネークに訊いた。
「俺とあんたを含め12人はいたはずだ」

2人の会話が途切れると同時に、徐々に機関銃の連射音のようなものが近づいてくるのがスネークの耳に届いた。
スネークは周囲を見回すと、ブラインドの降りている窓ガラスのほうへと近寄った。
会話が聞き取れないほど、爆音は近づいてくる。すぐにヘリのローター音だということが判る。
「ヘリか?」
ハンクが爆音に負けずに声を張り上げた。
「あぁ、みたいだな」



923: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:01:43.43 ID:g0b+DNiT0
  
『こちらは消防です、生存者の方がいましたらすぐに大学裏広場へ来てください。繰り返します──』
ヘリからは拡声器を通し、男の声が大学全体に響き渡るほどに発せられた。
ヘリは大学の上空を通過し、広場のほうへと飛び去っていく。
着陸を始めたのだろうか、ふいに爆音が鳴りを潜める。
「あとどれくらいかかりそうだ?」
「わからん」
2人の間にわずかな沈黙が訪れる。
スネークは思い出したかのようにとぼけた声を出した。
「メタルギア」
ハンクの作業がその言葉が発せられると同時にとまった。
「なぜ・・・それを?」
「やはりアンブレラがメタルギア開発の下請けを請け負っていたか」
ハンクがしばらく考える素振りを見せた。
「いや、実際は違う。施設を提供し、周囲の警護を任されていただけだ」
スネークはふっと笑い、声を出す。
「それでも同罪だ。場所はわかるか?」
「ここからはそう遠くはないところにあるが・・・まさかいくつもりか?」
スネークがうなずく。
「ならやめておいた方がいいぞ。いっても死ぬだけだ。旧米軍の基地を改良して研究施設に転用しているが、なりは要塞のままだ。単身でいくなんて自殺行為だ」
「そのような状況なら慣れている」
「なんてこった、とんでもない命知らずがいたもんだ。その調子なら引き止めても無駄ってことだろ?」
マスクにより、笑い声はくもっていたが、ハンクは腹から湧き上がるような笑い声をあげていた。
スネークもそれに同調し、一緒になって笑っていた。
「ここから行くとなると・・・そうだな・・・」
ハンクは手をあごにあて、考えはじめる。
「橋をわたったところにハイウェイがあるからそいつを使えばすぐにつく」
「重要な施設なのに、随分適当な場所にあるんだな」
「いや、研究施設などは地下に集中している。表層は廃墟のままだ。それに近くには民家も何もない。侵入者がきたら射殺するように命令されている」
会話の沈黙を察したように、機械から、ビー、っという電子音が発せられる。
と同時に、機械から試験が飛び出してきた。



924: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:02:41.65 ID:g0b+DNiT0
  
試験管の中にブルーの液体が中に入っているのが見て取れた。
「スネーク、ワクチンの生成が完了したぞ」
ハンクは言いつつも出てきたワクチンのカプセルを一つづつ慎重にケースに入れ込んだ。
「そうか、なら早く行こう。ヘリも待っているだろうから」
2人は足早にエントランスへと向かっていった。
エントランス内はがらりとしていた。
ただ1人、ジルがたたずんでいたのが見て取れた。
「早くして。ヘリがもうきて離陸の準備をしているわ」
ジルはそう言うと、2人を裏口の広場まで先導をする。
広場には既にヘリがローターを回転させながら離陸の待機をしていた。
いつでも離陸できるという状態だ。
パイロットは黒の服に蛍光色のラインが入った防火服を着用していた。
コ・パイロットも同じ防火服を着用している。どうやら2人とも消防の職員なのだろう。
コ・パイロットがドアを開け、降りてくる。黒人で高い身長、スキンヘッドといういかめしい男だった。
コ・パイロットである消防士がスネークたちに駆け寄ってくる。
「すみませんが、あのヘリは定員が11人までなんです」
男はヘリを指差しながら言う。
大きなヘリであったが、双発ほどの大きさではなかった。UH−1というヘリだ。
色は白で塗装されていて、ドアに『R.F.D』という消防のロゴが記されてある。
「誰かここに残っていただくし──」
スネークは消防士の言葉をさえぎった。
「心配するな、俺は乗らない」
消防士はきょとんと顔をしている。



925: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:03:08.06 ID:g0b+DNiT0
  
「俺も乗らない」
声の主はハンクだった。
スネークは驚いたような表情をして、顔をハンクのほうへと向けた。
ハンクの表情はガスマスクにより読み取る事ができない。
「おい、女」
ハンクがジルの方へと寄っていく。
「こいつがワクチンだ」
ハンクはケースごとワクチンをジルに押し付けようとしたが、思い出したかのようにして、すぐにケースを引っ込めた。
「すっかり忘れていたよ。スネーク、お前にまだ渡していなかったな」
ハンクは胸のポケットから注射器と注射針を取り出し、スネークに押しやった。
「使い方は判るよな?」
「あぁ」
するとハンクは消防士に2個のワクチンと2本の注射針を投げ渡す。
消防士は慌ててそれを両手で受け止める。
「あんたらパイロットのぶんだ」
スネークがはっとして、顔をハンクのほうへと向けた。
「心配するな、俺はしっかりパイロットのぶんも考えていたんだよ」
スネークは微笑した。同時にぬかりのないやつだ、と感心する。
消防士は相変わらずきょとんと目を丸くしていた。
「あぁ、注射器はそこのバンダナをまいた男からもらってくれ」
ハンクは残りのワクチンを、今度こそケースごとジルの胸元におしやる。
そしてハンクはそのまま大学の方へと駆け出していった。



926: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:03:55.11 ID:g0b+DNiT0
  
「あっ」
スネークが声をあげた時にはもう遅く、既にハンクは大学の中へと姿を消している。
みなハンクを目で追うだけしかできなかった。
「スネーク・・・本当に行かないの・・・?」
ジルが不安そうにしてスネークを覗き込んだ。
「あぁ、やり残した仕事がある」
「仕事、って?」
「悪党退治だ」
スネークはそう言うと、注射器を消防士へと押し付けた。
「俺はそろそろ行く。今まで色々と助かった」
スネークが駆け出そうとしたときだった。スネークの手首にとても暖かい感触が広がる。
ジルが手をつかんでいた。
「待って。アンブレラのところに行くつもりなの?」
「そのつもりだ」
ジルは暫く考える素振りを見せる。
「わたしも行くわ」
「だめだ」
スネークは考えもせず、すぐに否定した。
「どうして」
「次の相手はゾンビや大男なんかじゃない。れっきとした人間だ。戦場で女は足手まといになる」
スネークは一喝するが、ジルは食い下がる。
「わたしも警官よ。それにS.T.A.R.Sにだって所属してるの。足手まといにはならないわ。わたしもアンブレラの事が許せないの」
スネークの脳裏に『S.T.A.R.S』の文字がこびりつく。そしてすぐにオタコンの言葉がよみがえってくる。
「あんた、S.T.A.R.Sの隊員だったのか」
スネークは笑いたい衝動を必死にこらえたが、思わず笑みがこぼれてしまった。



927: 1 ◆uOC5Omg9jw :2006/06/29(木) 02:04:22.37 ID:g0b+DNiT0
  
「なに?」
「いや、なんでもない」
スネークは笑いながら否定をする。
「まさか探していた人間がこんな近くにずっといたとはな。そういうことならこちらから頼む」
スネークは一拍おいてからジルに言う。
「俺をサポートしてくれ」
ジルはにこやかにうなずく。

ジルは注射器を消防士から奪い取ると、ワクチンを左腕に注入し始めた。
ジルは鋭い痛みから、わずかに下唇を噛む。

ジルは試験管の中が空になったのを確認すると、それを地面に投げ捨てる。ぱりん、と音を立てて試験管は砕け散った。
注射器を消防士のもとへと再度渡し、ジルが言う。
「これ、ありがと。みんなにワクチンを渡してちょうだい。それじゃ」
2人はそのまま大学内を通り抜け、大学と市街地をつなぐ橋へと駆け出す。
途中、ヘリが大空へと飛び立つのが目視できた。



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