1: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:02:04.71 ID:MWCGbYrQ0
1:僕

( ・∀・)「つまりですねえ、形而上的な問題として、
     彼女の中ではもう、世界が終わっておるわけです」

ビシャアンと、雷鳴が窓を叩きつけた。未だ雨は降り止む気配を見せない。
シャンデリアが不規則に揺れ動く。僕は赤い絨毯の上を徘徊しながら彼の言葉を聞いていた。

( ・∀・)「それ自体はさしたる問題ではない。植物人間など、それほど珍しいものではないですから。
      問題は、彼女の形而上に潜んだ意識が、形而下に降りてきたときのことだ」

(´・ω・`)「しかし、それ自体現実的には有り得ないのではないでしょうか。
      大体、一個人の意識が形而下に発現したからといって、
      この、あまりにも広大すぎる世界に如何なる影響を及ぼすのです?」

僕がそう反駁すると、彼は皺だらけの顔をぐしゃりと歪めて、泣き顔のような笑顔を作った。

( ・∀・)「それが果たして、有り得ないと断じれる現象であるのかどうか……。
      私は思うのです。この世界など、すでに××××や、××××××××……」

雨の音が一層酷くなり、僕は彼の言葉を最後まで知る事が出来なかった。

( ・∀・)「まだまだ、強くなりそうですなあ」

彼は僕に叫んだ。僕も「そうですなあ」と叫び返した。
背丈の低い箪笥の上に飾られた、オッドアイの洋風人形が笑みを浮かべたように思え、シャンデリアの光は一瞬明滅した。
窓外を眺めても、闇と雨のせいでほとんど眺望する事など出来ない。
僕は改めて部屋の隅に置かれたベッドを見遣り、そこでは少女が未だ寝息をたてている。
本当に、終焉が足音を立てて近づいてきているようにも思えた。
僕は溜息をついて、再び巨大なスクリーンに視線を戻した。



5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:04:47.05 ID:MWCGbYrQ0
2:私

多分、これは夢の中だ。何故なら、私は私自身をコントロールできていないから。
でも、感覚だけは明確に残存している。その証拠に、視界は目まぐるしい変化を続けているのだ。

ああ、でも私にはここがどこなのか分からない。
一向に、所謂デジャビュも感じないし、経験的な感覚も湧き起こらない。
そもそも現実に於いて、今目の前に現れているような風景を体感する事はないのではないだろうか。

私は繁華街を歩いている。周囲には、眩しいばかりの紫色のネオンが光り輝いている。
それだけ見れば、賑々しい風景のようだけど、ここには私以外誰もいない。
灰色の空からはとめどなく雨が流れ落ちている。その勢いはあまりにも強く、視界がほとんど利かない。
一歩進むたびにビシャリ、ビシャリと水音が響いた。

私はどこに向かって歩いているのだろう。
歩行を止める事も出来ない、足を動かしているのは私の意識ではないのだ。
だからこそ夢の中。或いは私は誰かに身体を乗っ取られているのかも知れない。
そんな逡巡にも関係なく、景色は緩やかに、順調に後ろの方へ流れていく。

私は、自分の意志では眼球を左右させる事さえ出来ない。
自分の身体なのに、私は五感を受動的に甘んじている。
ふと、肩を叩かれて、振り向いた。

( ^ω^)「貴方はどこにいくのですかお?」

そこに男が立っている。見覚えのない顔だ。懐かしい顔だ。
これが夢の中ならば、この人は私の創造物なのだろうか。私はもう少し正常を望むべきだった。
また、私は意志を失したままに口を開いた。

(*゚ー゚)「わかりません。あなたが何か知っているのならば、ご教授願いたいところです」



7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:06:41.34 ID:MWCGbYrQ0
3:僕

( ・∀・)「わかりましたか、これが彼女の夢であると言う事が」

僕と一緒に、画面を見つめていた彼は、今一度声をあげた。
画面の中では、暗澹とした街並みの風景に、紫色の光が弱々しく光っている。
映像は、ただただ誰かの一人称視点として進行していく。
コマーシャルが挟まれるわけでもなく、かといって国営放送でも無さそうだ。
それは僕がこの部屋に来たときからずっと、流れ続けていた。
そして、彼はこれを、傍のベッドでいつまでも眠っている彼女の夢だと断ずる。

前述のように、常に一人称視点で場面が進行していくため、鏡でも無い限り、
誰の視点であるかを知る事は出来ないのだ。
なのにこの、壮年の彼は既知の事実であるような自信に満ちている。

(´・ω・`)「そろそろ聞かせてもらえませんか。何故それほどの確信を得ているのか」

( ・∀・)「私や貴方の意識はこの場に現存している。
      現存していないのは、彼女の意識だけだからですよ」

僕は彼の台詞に当然の違和感を覚えた。

(´・ω・`)「それはまるで――この世界には私と、貴方、そして彼女しかいない……
      そういうような口ぶりですね」

( ・∀・)「現にそう言っているのです。何しろ、もう世界は終わっているのですから」

「貴方はどこに行くのですかお」という、聞き慣れない声が耳に入り、
僕はスクリーンを眺めた。
映像の中に初めて、人物の姿が映り込んでいた。



8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:08:40.40 ID:MWCGbYrQ0
4:私

( ^ω^)「貴方が知らない事を、僕が知っているわけありませんお。
      僕は貴方の意識上の存在であって、貴方の頭脳以上には賢く無いですお」

男は、どこまで無機物的な笑顔を絶やすことなく、ただ私を見つめ続けている。
若干の戦慄を覚えた。しかし私の口は至って冷静に台詞を吐いた。

(*゚ー゚)「つまりあなたは、私の中にあるイメージの存在なの?」

( ^ω^)「ある種、感情と言ってもいいかもしれませんお。
      その証拠に、貴方にはすでに感情は無く、ただただロボット的に向かっているだけですお」

そんなことはない。そんなことはないのだ。
私はここにいる、今の男の言葉に怒りを覚えるほどに感情を持っている。
やはり、私と私の身体はすでに乖離してしまったのか。誰かに乗っ取られてしまったのか。

いや――
或いは私が寄生していたのか。
私は私……しぃでは無いのだろうか。そうかもしれない、そうかもしれない。
だがしかし、それが一体どれほどの意味を持つだろう。
私は今まで、確かにこの身体で十数年と生きていたのだから。

(*゚ー゚)「私はどこに向かっているの?」

また彼女が喋った。聞きたくない。耳を塞ごうとした。手は動かなかった。

( ^ω^)「僕の知った事じゃありませんお。でも、ともすれば終焉かもしれませんお」

聞きたくない。鼓膜を破ろうとした。アイスピックを探す。無かった。



10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:10:17.43 ID:MWCGbYrQ0
5:誰

空想と妄想の融合は超現実と世界と骨組みの無い観覧車を生み出した。
サイレンが響き渡った時の倒錯は砂漠を走る新郎新婦に首は無かった。
狂いだした時計の短針と長針は順調に回り続けている。あくまでも。

意識はすでに破綻しているが誰の人物がすでに破綻していた。
思考回路はデカルトとネグレクトに支配されていつか貴方の背中。
薄暗い赤い糸は皮膚色の血を流しながら朴訥と佇んでいた。

(*゚ー゚)「つまりあなたは、私の中にあるイメージの存在なの?」

狂躁狂躁狂躁。闇。誰が見た宇宙の始まりが暗渠と罪悪に満ち満ち。
停止。










盲目。

(*゚ー゚)「私はどこに向かっているの?」

終焉です。終焉に向かっているのです。神様。アレは人間の内的世界。
タイプライタアは新しい解答を導いた。



11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:12:36.85 ID:MWCGbYrQ0
6:僕

(´・ω・`)「人が出てきたじゃありませんか」

僕は半ば、誇らしげに言った。それは、自分を励ますような意味があった。
彼は先程、この世界には僕たち三人の他に人がいないと言った。
その仮説が、今まさに崩れたという事になるのだ。

だが彼は苦笑するばかりで、自分の主張を曲げようとはしない。

( ・∀・)「そりゃあ、夢の中ならば人も登場するでしょう。あれさえ、彼女の創造物です。
      問題とすべきはこの世界なのです。現実なのです。
      現実には、私と貴方と、彼女しかいないのですよ」

(´・ω・`)「無茶苦茶だ、あんたの言ってる事は」

( ・∀・)「あなた、この部屋から出られますか?」

唐突に、彼は扉の方を指さしながら尋ねた。
木製の扉。僕にはその扉を使った記憶が一つもない。
気がつけばここにいたのだから、当たり前といえば当たり前だ。

僕にはしばらく、彼の意図するところが理解できなかった。
扉から外に出れるか、という質問であろうが、そんなものそもそも尋ねるに値しない。
僕は健常者だ。必要とあらば自分の足で歩き、自分の手で扉を開き、外に出て行く事ができる。

尋ねるに値しない質問に答えるのも無意味だ。
僕はただ黙っていた。彼は執拗に答えを求めようとはしなかった。



13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:14:51.77 ID:MWCGbYrQ0
7:私

私の身体は男と共に再び歩き出していた。
私は疲労に襲われ、ある種なすがままに感覚を受け入れていた。
ほんの少し、狂気に絆されたのが良くなかったのだろう。
それにしても、男は何故私についてくるのだろうか。
分からない、分からないが、何か内臓を掻き毟られるような不快感を覚える。
夢なら、夢なら本当に、はやく覚めて。夢なら本当に。

(*゚ー゚)「そういえば、貴方の名前を聞いていなかった」

( ^ω^)「僕に名前はありませんお。強いて言うなら、貴方と同じ名前だお」

(*゚ー゚)「それは、貴方が私の意識だから?」

( ^ω^)「そうですお」

私の身体が頬を緩ませて、くすりと笑った。私はちっとも面白くない。
ふざけるな。貴方が意識だけの存在なら、それは私と同義じゃない。私は私だ。お前は誰だ。
熱さを感じた。怒っているからに他ならないだろう。

笑った……私の身体は笑ったのか。ふと思う。ここには三つの意識が存在している事になる。
私の身体は私の身体だけの存在じゃない。そこにはきっちりと意識が介在している。
目の前の男も意識を有するならば。ゲシュタルト崩壊が近い。

やがて道の果てが見えてきた。そこに、灰色のビルが聳えていた。



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:16:16.41 ID:MWCGbYrQ0
8:僕

( ・∀・)「そういえば、まだお互い素性を知らぬままでしたね」

しばらく沈黙し続けていた彼が、極めて友好的な口調で話しかけてきた。
そういえばそうだった。僕は彼の、名前すらも存ぜぬままなのだ。
だが、そんなことは非常に些末なことだとも思えた。

何しろ、この状況自体が異常なのだ。見知らぬ男と二人、これも知らぬ少女の部屋に放り込まれている。
いや、それすらも、僕にとっては取るに足らない問題なのかも知れなかった。
理由は分からない。深層意識が下した結論を判定する事は不可能だ。
「なんとなく」と言ってしまえば分かりやすい。だが、底の方に何かが介入している気もする。

(´・ω・`)「それは、果たして意味のあることでしょうかね」

( ・∀・)「多少なりは。ほら、この状況は、客観視すれば誘拐されたようなものですよ。
    互いの事を知れば、その辺りについて何か分かる事があるかも知れない」

客観視すれば、誘拐。確かにそうだ。家族は心配している事だろう。
だがそれはあくまで客観視である。視点を変えれば違って見えるのだ。
現に僕は、攫われた事による悲壮や絶望を微塵も感じていない。

まるで自分から望んでこの場所に来たような、そんな倒錯さえ覚えた。
確信に変貌するまで、さほど時間はかからなさそうだ。

僕は彼と、情報交換を始める事にした。
だがまさにその時、彼はスクリーンを見て言った。

( ・∀・)「おや、そろそろ場面が転換するようですね」



16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:19:13.40 ID:MWCGbYrQ0
9:私

それは灰色の、朽ち果てた死者のようなビルディングだった。
天にまで届きそうな直方体。首を動かし、見上げている私の身体(?)も驚いているようだ。

(*゚ー゚)「これは、何?」

( ^ω^)「ここは貴方の内的世界ですお。
      ならば、これは貴方の創造物――心象に他なりませんお」

内的世界……それは、夢とは違うのだろうか。
此処が私の意識と密接した風景を有しているならば、いや、それは有り得ない事だ。
私の心象風景はこんなに荒廃していない。もっと美しいはずだ。
人並みほどには充実した過去を持っている。順調にここまでの人生を歩んできた。
少なくとも、私の記憶ではそうなっている。

必死に、自己の世界観を編み出そうとしていて、気がつくと私はもう、ビルの中に入っていた。

先程とは打って変わった、眩しいぐらいに輝いている蛍光灯の下に、
一本の長い廊下が彼方の方へどこまでも続いていた。
私は少々の落胆を覚えた。
展開の進行を望んでいたのは紛れもない事実だ。
しかし、これではまた延々と歩く事になり、それではさっきと少しも変わらない。

だが私の身体は、不満一つ漏らさず、意気揚々と歩を進めていく。
そこには何か、途轍もない確信のようなものが潜んでいる気がした。

ねえ。ねえ。私は、私の身体に向かって呼びかけた。反応があるかも知れないと思ったのだ。
ねえ。私の身体。何をしようとしているの。何を知っているの。誰なの。
ねえ。ねえ。



17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:21:54.67 ID:MWCGbYrQ0
10:僕

(´・ω・`)「ふと思ったのですがね。彼女、起こしてしまえばいかがでしょうか」

僕は、ベッドで寝息を立てて眠り込んでいる少女を指さした。
スクリーンの中の一人称視点は長い廊下を歩き出し、
これがまた相当な時間単調に進むのであれば、退屈極まりない。
だが、それは少女を起こしてしまえば終わってしまう事だ。
そして何より、彼女の素性を知る事が出来る。

しかし、案の定とでも言うべきか、彼は首を縦には振らなかった。

( ・∀・)「そんなことをしてしまったら、それこそすぐに形而上の意識が降りてきてしまう」

歯を剥き出しにして笑った。

( ・∀・)「そんなに、死にたいですか」

(´・ω・`)「あんたが言う事が正しければ、この世界にはもう三人しかいないことになる。
      そんなところで生きていても、仕方無いでしょう」

僕は苛立って叫んだ。だが、彼は動じず、未だに僕を蔑むように笑い続けていた。

( ・∀・)「ま、貴方がそうしたいと言うならば止めませんが。
      私は反対ですよ。もっと、この映像を見続けていたい」

そう言ったきり、また彼は映像に没頭していった。
結局僕は、彼女に近づく事も出来ぬまま、彼と同じように立ち尽くしていた。

( ・∀・)「そういえば情報交換を忘れていました。私はモララーと言いますが、貴方は?」



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