19: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:24:08.38 ID:MWCGbYrQ0
11:私

突然、トランペットの爆音が鳴り響いた。私の身体が立ち止まる。
その音調は、どうやらファンファーレのようだった。

(*゚ー゚)「これは、何なの?」

( ^ω^)「誕生ですお。生命の誕生。ビッグバン、ストロマトライト、シアノバクテリア」

確かに、羽の生えた天使が、世に出た新生児を祝福しているようなメロディーだ。
だが、それが何故、今ここで湧き起こるのだろう。誰も生まれていないのに。
私の身体も、同じ疑問を持ったようだった。

(*゚ー゚)「誰が誕生したの?」

( ^ω^)「さあ、僕には分かりませんお」

どこか飄々とした口調で男は答えた。それにより、私はますますこの男を訝しんだ。
彼が意識上の存在ならば、何故先程の音楽の意味を知っていたのだろう。
それは、私も、おそらく私の身体も知らぬ情報だったのだ。
なのにこの男は知っていた。ならば、彼は私の意識から乖離した存在じゃないのか。

長い廊下に果てが見えてきた。扉。病院にある、手術室へと繋がるような両開きの扉が。
ああしかし、ある種退屈な夢だ。夢の中でさえ眠りかけたが、今の私に目蓋はない。

私の身体が扉の取っ手を掴んだ。開いた。



20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:25:43.26 ID:MWCGbYrQ0
12:誰

泥水。空想。希望の空想。儚いまで生き存えていた絶望感は計り知れない。
笑み嬌笑生理的嫌悪爆発宇宙誕生。
悪魔より天使を好むケーキが赤くて赤くてたまらなく蝋燭は何故か四十五本。
いつまでも損傷し続ける官能の機械吐き出した。

(*゚ー゚)「ここはどこ?」

産声を上げた小さな渡り鳥のような傷だらけの経口剤行動構想。
人形を取り上げられて泣いた笑った怒った生きていた終わったけれど彼は何。
思考回路を啄む電熱線回路回路焼き切れた家族家族心中家族百景。

イデア科学敗走回想あの時はまだ二人一緒だった。
後ろ側。後ろ側。後背に潜む僅かなトートロジーを持った電波。
プラットホーム落ちていく金魚ぐるるるるぐ廻る振る舞う回転椅子。
祈る心信じる心サナトリウムに染められた風景。

孤独を覚えていない知らない十二指腸が導く空間深度四次元。
一本道。一本道。歴史の探訪夢の崩壊。
覚醒剤に染められて脳内は園児と保育園と交感神経を引きずり出す。

感覚。感覚。感覚。
だから誰は何度も感覚だと言ったのに。

(*゚ー゚)「ここに座ればいいの?」

愛撫。宣誓。百足が胎内を走り回っているから手術をしましょう切開しましょう。
痛みはなくても展開する。夢のような暗幕。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:27:33.30 ID:MWCGbYrQ0
341:語り手
・・・・・・・・・・・

そうして世界は巡ります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それでも人物が満足する事はありません。夢の・ある種それは・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まず一つ言える事は、全員気が狂っているという事だけです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そういうものです。人の内的世界に侵入した者は全て発狂します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それを目立たせないのは、正気を装っているからに他なりません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なぜそんなことを知っているかというと、俺も一度内的世界に足を踏み入れたからです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

文体から受け取るのは難しいのかも知れませんが、やはり皆狂っているのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それを理解して次に参りましょう。展開は未だ不明です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は語り手ですが、この先のストーリイを知りません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

読み進めましょう。俺は少しだけワクワクしていますが、あなたはどうですか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:29:17.08 ID:MWCGbYrQ0
13:私

私は、その暗澹とした部屋の中央に置かれた、手術台のようなベッドの上に仰臥した。
いや、実際ここは手術室なのかも知れなかった。扉の形状からしてもそうだし、
周囲に置かれた、よくわからない白色の器具や棚、そして真上で光る、
巨大な笠を被った電灯――手術室など、テレビドラマの記憶ぐらいしかないが、
確かにそれを彷彿とさせる光景なのだ。

男が私の周囲を徘徊している。私にとっては、室内の環境より彼の行動が薄気味悪かった。

(*゚ー゚)「何をするの?」

私の身体が問うた。どこか楽しげな口調でもあった。

( ^ω^)「貴方は妊娠しているお。今から赤子を取り出すお」

その言葉はあまりにも突然で、そして衝撃的だった。
何を言っているのだこの男は。私が妊娠していると。そんなわけがないだろう。
いや、夢だから有り得るのか。本当にこれは夢なのか。その割に、恐怖心は現実味を帯びている。

いややはり有り得ない。私は妊娠に至るような過程を踏んでいない。絶対に踏んでいない。
絶対に踏んでいない。だから妊娠は有り得ないのだ。そうだ。そうに違いない。
だが男はいつの間にかメスを握っている。錆び付いた、巨大なメスを握っている。
そして、私の身体が宣った。

(*゚ー゚)「妊娠しているなら、仕方がないわね」

メスが近づいてくる。私のおなかが。裂かれる。



25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:31:24.94 ID:MWCGbYrQ0
14:僕

画面の中の男は、勢いよく刃物を腹部に突き刺し、そして縦、或いは横に引き裂いた。
僕はその光景を直に見る事は出来なかった。
何しろ、カメラは一人称視点として、天井を見上げ続けているのだ。
皮膚が切られる音、その下の皮下脂肪が破れる音。そして僅かな水音でしか認識できない。
だが、それでも、あまりにも生々しかった。
剥き出しになる内臓が、赤黒く溜まる血液が、イメージとして脳内に流れ込んだ。

( ・∀・)「帝王切開というやつですな」

モララーが呟いた。
僕と彼は、すでに情報交換を済ませていた。だが、特別共通点は見当たらなかった。
住んでいるところも、職業も違うようだし、唯一合致したのは年齢のみである。

( ・∀・)「随分乱暴な気もしますが」

(´・ω・`)「乱暴なんてものじゃないでしょう、スナッフビデオを見せられているようなものだ」

だが、切り裂かれている当の本人は悲鳴の一つもあげない。
映像が少しもぶれないところを見ると、痛みどころか、全く何も感じていないのだろうか。

雷鳴が轟いた。忘れていたが、窓の外では豪雨が未だ降り続いているのだ。

( ・∀・)「この映像は何を意味するんでしょうかねえ」

本業をフリーライターと名乗ったモララーが言った。

( ・∀・)「これは、もしかしたら少女の、現実の記憶なのかも知れない。
      そうすると、今ベッドで寝ている彼女の腹部には裂傷の痕があるのかもしれません」



26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:33:47.79 ID:MWCGbYrQ0
15:私

これはなんだ。これはなんなんだ。痛い。腸を抉られているような痛み。
いや、実際抉られているのだ。小腸を握りつぶされている。赤黒い血液の音がする。子宮が壊れる。
赤子などいるわけが無いだろう。いないのだ。
臓物がかき回されている。痛い、痛いよ、助けてよ。
誰なら助けてくれる痛い、痛い。

(*゚ー゚)「いた? 赤ちゃんは」

畜生。何故お前は平然としているんだ。
やっぱりお前は私の身体を乗っ取っているだけの寄生虫なんだな畜生。
死ね、死んでしまえ。糞野郎。ゴミクズ。痛い、痛いよ、助けてよお母さん。

お母さん、お母さん。お母さん。お母さん。お母さん?
お母さんなんていたっけ。いたはずだ。私にはお母さんが……いなかった。
そうだ。そうだった。じゃあもう誰も助けてくれないのか助けてくれないのか。

( ^ω^)「あ、赤ちゃんがいましたお」

そんなはずがない。そんなはずがないだろう。私は妊娠していない。交接していない……いないよね?
痛い。痛い。更に痛みが増す。何かがもぎ取られる感覚。
視界には入っていないので、それが何かは分からない。

だが、次に視界に入ってきた、男の笑顔と共にに掲げられた腕の中には、
赤黒い血液に塗れた、少し巨大な赤子が抱かれていた。
赤子は私に気付くと、口角を吊り上げ、歯の生えていない、赤々とした歯茎を見せてニかッと笑った。

悲鳴を上げようとしたが、口が無かった。



27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:36:00.06 ID:MWCGbYrQ0
16:僕

突然、けたたましい叫声が響き渡った。
それはスクリーンから発せられたものではないと、直感した。
振り向くと予想通り、ベッドで寝ている少女が、
眼を閉じたまま口を目一杯に開いて、喉が潰れるほどに絶叫していた。

だが彼女は悲鳴を上げるだけで、手足をのたうち回らせたりはしない。
今、彼女の首から下は掛け布団に覆われているため、見えない。
そこは確かに、少し盛り上がっているのだが、
その下にあるのが彼女の胴体である保証など、どこにもないのだ。
ともすれば彼女は首だけの存在なのかも知れない。

不意に、布団をめくってみたいという衝動に駆られた。そうすれば全てが明らかになる。
先程モララーが言っていた、裂傷の有無も知る事が出来る。

でも、僕はそうしなかった。そうするほどの勇気が無かった。
少女は一度大きく息を吸い込み、なおも叫喚した。
スクリーンの中で男が何かを喋っているが、聞き取れない。

( ・∀・)「どうにも納得がいかない」

(´・ω・`)「何がですか」

( ・∀・)「スクリーンの中の彼女は、声一つ上げず平然としています。
      むしろ喜んでいるような面持ちさえ感じられる。
      ですが、そこで魘されている彼女はどうです、男の行為を大きな苦痛として受け取っている」



28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:40:05.00 ID:MWCGbYrQ0
17:誰

徐々に徐々に意識が組み上がっていく思考回路がほぐされていく。
私は永遠にも近い心理を得ているのですから定規の色は何pか。
或いは正常に会話する事が可能かも知れません質問があれば今の内にどうぞ。
それが何やら気絶している彼女と些かなりとも関連性を含んでいるかどうかを私は証明できない。
背中を叩かれているが振り向く事が出来ない背骨を切り開かれているが振り向く事が出来ない。
ふと世の中に意識を発現して記憶の残留している限り私は誰にも希望されていなかった。
私ではなく誰今のは失言失言私は誰であって私ではない失言一人称の錯誤罰の対象。
砂漠を駆け抜けていく新郎新婦の新婦とは私の事だった新郎は死んでいる最早昔に。
首がないのは断末魔に喘ぐ頃に首を切り落とされたからそこには周囲には三人いた。
とうの昔に妄想さえ風景さえ想像さえ赤色と黄色と茶褐色に覆われていた感性も同様に。
瓶詰めの誰袋詰めの誰深遠の海に放り投げられたときそれでもなお恐怖した恐怖をしていた
それまで光を歩んでいたような気がして実際そうなのかも知れないのだけれど最早詮方ない。
過去を振り返る事に注力するぐらいの能力があれば夢に馳せた意思を壊す事に努力するべき。
そうは思っていても最早どうにもならないどうにも出来ない現実と形而下は既に消えてしまった。
形而上に存在する二人の人間人間であるか否かは未だに判別できない五体満足動物。
思い人が宙を舞った誰は眺めていた笑い声怒鳴り声偽装の泣き声全てが嘘だった。
嫌嘘ではなく真実だったのかも知れな再びの破綻次に正常を取り戻す時期が何時になる。
生存の道を模索しているのであればそれが不可解且つ不可能である事に気付くほど賢明で在れ。
今手足が存在する事がとても不思議に思えるそれが幸福か僥倖か知らぬ存ぜぬ気が狂っている。
この複雑にして単純明快な思考理論を組み上げるのは既に命がないからに違いない。
それで構わないそうとしか言えないそうでもなければ最早誰の意識は存在しない。
取り上げられた赤子は確かに誰の子だが誰は否定する否定するそれは新郎の赤子ではない。
赤子は新郎の赤子ではないが誰の赤子かも分からないそれで良いそれで構わない雑音が混じる。
やがて覚醒するのであってそれは自然の摂理であって彼女は形而上で生きている不幸にも。
覚醒するようだ誰にはそれが分かる誰は誰であって同化する唯一の構成要素だから。
深く蒼くそれでも安らかで息を吸い込もうとすれば水が入って苦しいが息をしなければいい。
赤い糸は切れていたそれでもなお幸福だった最後の写真は桜色観覧車記念の写真泡沫の思い出。
何もかもに気付けば壊れるのかも知れないが私は再び覚醒した彼女と同一化する事を希望。



30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:42:23.98 ID:MWCGbYrQ0
18:私

幾らかの時間が過ぎて、私は覚醒した。あまりの苦痛のためか、しばし気絶してしまっていたようだ。
身体はなくとも気絶はするようだ。しかし私は今意識だけの存在なわけで、
そうなるとその意識を失ってしまえば死と同義なんじゃないだろうか。
そもそも、あんな風に強引に腹を裂かれれば普通に死んでしまうだろうに。

どうでもいいか。私は今目を覚ました。それにここは夢の中なのだ。それだけでいい。
私はできるだけ、先程の出来事を思い出さないようにした。あんなもの、嘘っぱちに過ぎないのだから。
気絶する事によって思考回路がリセットされたのか、今の私は恐ろしいほど冷静だった。

私の身体はもう手術室を抜け出し、長い廊下をただひたすら歩いていた。
さっきと少し違うのは、蛍光灯の光量だろうか。いささか暗くなったように思える。

時折ぴちゃり、ぴちゃりと床を跳ねる雫の音は、私の血液に違いなかった。
もう痛みは感じなかった。痛覚が麻痺してしまったのかも知れず、
私にとってはただそれが僥倖だった。
このまま血液を落とし続け、失血死すれば目が覚めるのではないか。そんな期待もしていた。

目の前を、男が血まみれで歩いている。
二つ目の扉が見えてきたところで、私の身体が彼に言った。

(*゚ー゚)「今度は、どんな部屋なのかしら」

その声は、どこか期待に満ちているように弾んでいる。
この時ばかりは、私も賛同した。即ち、私もまた、期待感を抱いていたのである。
男は振り返る、変わらぬ笑顔で答えた。

( ^ω^)「行ってみれば、わかりますお」



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