- 31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:44:40.51 ID:MWCGbYrQ0
- 19:僕
絶叫がぴたりと止んで、むしろ僕は吃驚した。
まさか彼女を襲っていた苦痛が完全に消え去ったわけでもあるまい。
( ・∀・)「さて、そろそろ私たちが何故ここに導かれたかを考えましょうか」
(´・ω・`)「考えるだけ、無駄じゃありませんかね。共通点は見つからなかったわけですし」
彼はフリーライター。僕はしがないサラリーマン。
彼は関東在住、僕は、昔は関東に住んでいたが、今は転勤で九州在住。
年齢だけが、三十五で同一。ただそれだけなのだ。接点など有るはずもない。
小中学校時代の級友であると言う事は……有り得るかもしれないが。
それが今まで尾を引くような事態に発展している事は、無い。無いはずだ。
( ・∀・)「……貴方、過去に罪を犯した記憶は?」
その、刑事尋問するかのような台詞に、僕は一瞬、心臓が裏返るような不快感を覚えた。
(´・ω・`)「突然、失礼な質問をしますね」
( ・∀・)「不躾である事は謝罪しますが……いえ、私にはもう分かっているのです」
彼はずいと、僕に身を寄せた。
( ・∀・)「貴方にも、私にも、過去に重大な罪を犯した事実がある」
- 32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:46:18.38 ID:MWCGbYrQ0
- 20:私
扉の向こう側、二つ目の部屋は明るく、また華やかな内装に飾られていた。
赤い絨毯に、応接五点セット。ガラス製の机には妙にごつごつした灰皿が乗っかっている。
壁には、ほとんど隙間無く本棚や洋箪笥が取り付けられていて、
それらがあまりにも高価である事は、私にも理解できた。
(*゚ー゚)「綺麗な部屋」
( ^ω^)「まあ座って、コーヒーでもどうですかお?」
男に言われたとおり、私の身体は革張りのソファに腰を下ろした。
血液がボトボトと床に垂れ落ちた。だが、赤い絨毯なのでさほど目立たない。
ふと、違和感を覚えた。だが、それが何に起因するものなのかは分からなかった。
男は、いつの間にか用意したコーヒーカップを、私の前に置いた。
だが私の身体は、やんわりと首を振って立ち上がった。
(*゚ー゚)「今飲んだら、傷口から零れてしまいそう」
そして、部屋にある装飾物を見て回り始めた。
本棚には、古びた書物が敷き詰められている。難しそうな本ばかりだ。
洋書と思しきものまで並べられている。
ここに住まう人が居るとして、その人は博識な大富豪なのだろうか。
そのうちに、私の身体は書棚のガラス戸の中にある、一つの写真立てに目をとめた。
飾られた写真に、私が写っていた。私がピースサインをカメラに向け、無邪気に笑っていた。
やがて私は、違和感の正体を掴んだ。
嗚呼。既視感だ。
- 34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:48:42.10 ID:MWCGbYrQ0
- 21:僕
(´・ω・`)「いい加減にしてくれ! 訳の分からない主張を聞かせた後には、
人を犯罪者呼ばわりか」
僕は溜まりかねて彼を怒鳴りつけた。しかしこればかりは当然で、
何故見ず知らずの人間から、突然さも何もかも知っているかのような口ぶりで、
覚えのない罪を指摘されねばならないのか。
状況も状況であるというのに、勘弁してほしい。
彼は、モララーは目を細めている。その、狡猾じみた表情がまた、僕を苛立たせた。
( ・∀・)「事実がない、と仰りたいわけですね」
(´・ω・`)「当然だ」
( ・∀・)「ですがねえ、貴方も自ずと気付く事になるでしょうが、既に私には分かっているんです。
いや、分かってしまったんです」
(´・ω・`)「大体、私とあんたは今日まで知らぬ間柄だったんだ。
どこにも接点は無い。なのに」
彼は僕の口上を途中で遮った。
( ・∀・)「接点がない……それは、真実じゃないのですよ」
ニヤッと笑った。
( ・∀・)「同じ穴の狢じゃないですか。ねえ、しょぼん」
- 35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:50:10.31 ID:MWCGbYrQ0
- 22:私
既視感。私はこの部屋に訪れた事がある。そう遠くない過去の事だ。
気付くと同時にせり上がる嘔吐欲。だが私の身体は一向に平気らしく、
おそらく高校時代の運動会で撮影されたと思われる私の写真を微笑んで眺めている。
(*゚ー゚)「どうして、こんなところに私の写真が?」
( ^ω^)「それも、貴方の心象ですお。さっきの部屋もそうでしたが、
この世界に貴方の心に無いものなんて、存在しないのですお」
つまり、さっきの手術室のような場所にも、私は訪れた事があるのだろうか。
いや、記憶にはない。あるのかもしれないが、回想することを本能的に拒んでいた。
私の身体は未だに写真を眺め続けている。
ふと、嫌な予感が背筋を走った。この写真を見つめていてはいけない。
視線を外せ。見てはいけない。この写真はダメ。いや、この部屋自体が。
意味不明なままに訴えかける事も空しく、私の身体は言う事を聞かない。
そして次の瞬間、写真から私の姿が消えて、背後に写るグラウンドと、
高校の校舎の風景のみの写真に変貌した。
(*゚ー゚)「あれ?」
やがてその風景さえも姿を消した。写真はまったくの、白色の厚紙になってしまったのだ。
( ^ω^)「どうかしましたかお?」
彼が問うと同時に、違う景色が、まるでペンキで塗りたくるかのように描かれていく。
春。晴天。遊園地。観覧車。二人の人物。ピースサイン。笑顔。
一方は私。もう一方。
- 37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:51:26.02 ID:MWCGbYrQ0
- 23:誰
或る春に出会ったあの人は優しかった。そういう幸福。そういう不幸。そういう怨恨。
或る夏に出会った奴は気が狂っていた。そういう幸福。そういう不幸。そういう悲哀。
性善説なんて嘘っぱちだ。奴は最初から悪だった。最初から魔だった。
全てが壊された。季節も時間も欲望も恋愛も希望も電話も心理も。
それでも最終的に生命を壊したのは、他ならぬ誰自身だった。
誰の一欠片は愛していた。誰は誰を愛していた。
- 38: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:53:42.43 ID:MWCGbYrQ0
- 24:僕
どこか親しげな言葉に、僕は明確にうろたえてしまった。
(´・ω・`)「なんのこと、ですか」
彼はスクリーンを見ながら、ニヤニヤと笑い続けている。
だが僕には、彼が徐々にこちらへと近づいてきているように思えた。
腰が砕けそうになる。なんとか踏ん張る。拳を握り締め、手のひらに爪を立てる。
歯がガチガチと音を立てる。ここまで狼狽するのは、自身に何か覚えがあるからなのか。
( ・∀・)「十五年ほど前、私と貴方、そしてもう一人……三人で、人を殺した」
彼は幼児に童話を読むように、ゆっくりと、温和に喋り始めた。
( ・∀・)「といっても私たちは共犯……所謂リーダーではありませんでしたが、
被害者には関係ないでしょう。同じ加害者に違いない。
随分いろんな事をやったじゃあ無いですか。
最終的には。ズタズタに引き裂かれたあの人を、海に投げ込みました」
理解した。記憶が蘇った。
あの時、僕は狂っていたのだ。それは確かであるが、何故今。何故今その話が持ち上がる。
( ・∀・)「浮かび上がっていないようですよ、死体。十数年経った今でもまだ。
もしかしたら、死体は、そのまま形而上へ消えてしまったのかも知れません」
(´・ω・`)「これは、復讐なのか」
( ・∀・)「妥当に考えれば」
- 39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:56:16.70 ID:MWCGbYrQ0
- 25:私
浮かび上がった一枚絵は、モザイクがかかったようにぼんやりとしていた。
それでも私は、それが何の写真であるかをすぐに判別する事が出来た。
当然なのだ。それは私の大切な写真。記憶の深淵に刻まれた夢の最期。
あれは……いつのことだっただろう。
私とあの人は出会った。陳腐に表現するならば、それは運命的な出会いだった。
どちらからとか、いつ頃からとかは覚えていない。
私があの人を好きになり、あの人は私を好きになってくれた。
幸福だった。それまでの人生で、至上の時間が私に訪れた。
嬉しかった。楽しかった。面白かった。大好きだった。ああ、言葉とはあまりに貧弱な表現技法だ。
この写真は、そんな一時の最後に撮った写真。忘れもしない、三月二十四日。
満開の桜の下、私はあの人と遊園地に行った。その時の写真。観覧車に乗る前の写真。
何もかもが美しかった。世界はあまりにも素晴らしかった。
壊れたのはいつだ。
私の身体が立ち上がった。そしておもむろに、写真を写真立てから引き出した。
何をする。何をするつもり。そう思う間もなく、私の身体は、両手で写真を真っ二つに引き裂いた。
紙の乾いた音がした。それは私の神経が断絶した音だったのかもしれない。
なんてことを、なんてことをするんだ。畜生。
お前には何もわからないだろう。それが私にとってどれだけ大切なのか。
わからないだろう。だから引き裂いたのだろう。そうだろうなそうなんだろうな。
( ^ω^)「分かっていると思うお」
男が声を発した。それは明らかに、私に向けられた言葉だった。
- 40: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:58:04.79 ID:MWCGbYrQ0
- 26:僕
何故今まで忘れていたんだ!
僕は絶叫した。そうだ、常識的に考えて、あの出来事を忘れるはずがない。
のうのうと暮らせるはずがない。そもそも生きていけるはずがない。
思い出してしまった。モララーのことも、少女のことも。
そうだ、そうなのだ。彼女を殺したのは僕たちなのだ。
頭を抱える僕に、モララーは言った。
( ・∀・)「私もさっきまで忘れていました。ですが、この映像に感化され、思い出したのです」
(´・ω・`)「お前は何故、そんなに冷静でいられるんだ!」
僕はもはや泣きそうな声で喚いた。
( ・∀・)「それは……いや、貴方だって、その気になれば落ち着けるはずなのですよ。
若者風に言えば、ノリというやつですか。
自分の罪を知った故、あなたは懺悔、自省せねばならないという、
一種の義務感を背負ってしまったのです」
そんなはずがない! 僕たちは人を殺したんだ、それも二人、二人も……
そんなはずがない。僕は殺した、二人……たった二人。
……体内の汚泥を全て吐瀉したかのように、ふっと気が楽になった。
僕たちは人を二人、凄惨な方法で殺した。
そうか。たった一文で終わる罪など、大したことないのか。
私は落ち着いた気分で、スクリーンに視線を戻した。
- 43: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:00:15.47 ID:MWCGbYrQ0
- 342:語り手
・・・・・・・・・・
ほうら、狂っているでしょう。理解しましたか。
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理解できないかも知れませんが、それは貴方が悪いのではなく俺が悪いのです。
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申し訳ありません。俺には文体も読解も存在しないのです。
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詫びるため、私は死にます。
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- 44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:02:23.29 ID:MWCGbYrQ0
- 27:私
気付けば、そこはもう豪華な応接間ではなくなっていた。
薄暗く、湿っぽい空間。カビ臭いにおいが鼻腔を刺す。雰囲気だけで吐血してしまいそうだ。
周りには土嚢や頭陀袋が積み上げられていて、鉄製の棚にはワインか何かの瓶が並べられていた。
(*゚ー゚)「ここはどこ?」
私の身体が言った。声色が、以前よりやや緊張しているのは気のせいだろうか。
( ^ω^)「倉庫ですお」
初めて、男が具体的な言葉を発した。
視線がぶつかっている。男が見ているのは私の身体の方か、それとも私なのか。
きっと後者だ。奴は私の存在を知っている。
いや、私の意識上の人物なのだから知っていて当然か。
それでも、私はあの男を知っていない。いや、知っているのか。何も分からない。
( ^ω^)「この倉庫は普段誰も使いませんお。だから、見つかる心配はありませんお」
その台詞に、私の身体は微笑んだようだった。
何故だ。見つかる心配が無いってどういうことなんだ。
いつの間にか、男は右手にナイフを持っていた。
そして、左手で私の手を掴んだ。私の身体は抵抗しない。なおも笑顔のようだった。
( ^ω^)「愛しているお、しぃ」
そして男は、私の手の爪と肉の間に、ナイフを入れて引き裂き始めた。
- 46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:04:01.94 ID:MWCGbYrQ0
- 28:僕
(´・ω・`)「まず両手の爪を全部剥がしたんだ。
肉と接着している部分を、ナイフで切り落として」
( ・∀・)「血だらけになった、爪のないつるつるした指に熱した針を突き刺しました」
僕たちは、二人同時に笑い声をあげた。
(´・ω・`)「次に髪の毛を全部引っこ抜いたんだったなあ。尼僧みたいになってた」
( ・∀・)「それではあまりに可哀想だから、代わりに赤い糸を縫いつけましたよね」
呼吸困難になるぐらい笑った。
それは、子供の頃の悪戯を思い返し、懐かしむような感情だった。
( ・∀・)「口角にナイフで切り込みを入れて、口裂け女にもしましたよね」
(´・ω・`)「そうだったそうだった。それからペンチで歯を抜いたんだ。
折れた歯から剥き出しになった神経を、ペンチで潰したりもした」
( ・∀・)「あの時は、流石に彼女も気絶していましたね」
(´・ω・`)「その後右脚をノコギリで切り落としたけど……それだけじゃあ、死ななかったね」
( ・∀・)「案外丈夫なものですよ。腕の皮をバーナーで炙ったりもしましたが、死ななかった」
笑った。笑い続けた。いつまでも笑い続けた。
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