慣用句のようです  前編

3: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:04:56.75 ID:zN/XJgfQO
ξ;゚听)ξ「あー…… これはちょっとまずいわね」

数々の人形やぬいぐるみで可愛らしく飾り付けられた部屋の窓際、ベッドの上に腰掛けた少女がため息混じりに呟いた。
手に持った財布をしげしげと見つめた後にテーブルの上に軽く放り投げる。

ξ゚听)ξ「あーあ、今月欲しいものいっぱいあるのになあ」

そう言って少女はベッドに大の字になり、携帯電話をスカートのポケットから取り出した。
慣れた手つきでメール画面を開いてメールを打ち始める。

【ごめん。 明日のセール行けそうにないかも】

素早くメールを打ち終えると続いて送信ボタンを押した。
携帯電話を胸元に置き、少女は軽くため息を吐く。
その少し後に携帯電話のバイブレーションが新着メールの受信を知らせた。


【From:クー】
【む。 新作のワンピはいらないのか?】

少女は軽く本文に目を通しすぐにそれに対して返信をした。

【喉から手が出るほど欲しいわよ】



慣用句のようです



4: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:06:52.57 ID:zN/XJgfQO

( ^ω^)「おっはおー」

('A`)「おおう」

とぼとぼとどこかに元気を落としてきたかのような歩き方をする少女の後ろから、二人の少年が声を掛けてきた。


ξ゚听)ξ「あら、ブーンにドクオじゃない
      珍しいわね、こんな時間に来るなんて」

(;'A`)「俺たちだって毎日遅刻してるわけじゃないんだぞ?」

普段から遅刻することの方が多い二人に対して少女が辛辣に皮肉った。

ξ゚听)ξ「まあ遅刻しないのはいいことよ」

言い返したドクオに対して当たり障りのない言葉を吐き出す。

( ^ω^)「今日はツン調子悪いのかお?」

少し体格がいい、と言うよりもぽっちゃりとしたブーンがツンの元気のなさを見咎めた。

ξ゚听)ξ「ちょっと金欠でね」

ツンは肩をすくめて答えると、セーラー服の胸ポケットから携帯電話を取り出して時間を確認した。



5: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:09:28.63 ID:zN/XJgfQO

('A`)「金がないならバイトすればいいじゃない」

ξ゚听)ξ「今日のセールに欲しい服があったのよ」

(:^ω^)「それはさすがにどうしようもないお」



そんな会話を繰り返しながら三人は学校内へと入っていった。




終業のチャイムが鳴り響くと、それ迄机に突っ伏し泥のように眠っていたブーンが飛び起きた。

( ^ω^)「おっお。 今日も一日が早かったお」

大きく伸びをして体を捻ると、後ろに誰かが立っているのに気が付いた。

ξ゚听)ξ「そりゃ移動教室すらしないで寝続けてたら早いでしょうね」

振り向いたブーンに声を掛けるとそのまま目の前の机に腰掛ける。


( ^ω^)「おっ? 今日はセール行くんじゃなかったのかお?」

ブーンは皮肉られたことも意に介さずマイペースに話し始める。



7: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:13:13.29 ID:zN/XJgfQO

ξ#゚听)ξ「朝お金ないって言ったでしょ
      喧嘩売ってるの?」

(;^ω^)「お……そうだったお、完璧に忘れてたお」

嫌な現実を思い返させられたツンは上目遣いにブーンを睨み付ける。

川 ゚ -゚)「そういうことだ
     内藤は金のかからない所でツンを癒してやってくれ」

二人の間に割り込むようにして、ストレートの黒髪をなびかせた女子生徒が話し掛ける。

( ^ω^)「ん?クーはどうするんだお?」

そう言われた黒髪の少女クーは後ろを振り返りながら答える。

川 ゚ -゚)「ああ、私はしぃと二人でセールに行くつもりだ」

そう言いながら、教室の後ろの席に座っている一人の少女を手招きしている。
手招きをされた少女は周りの友人に手を振り、荷物を手にして歩いてきた。

(*゚ー゚)「なーに? もう行くの?」

別段身長が高い訳でもないクーと並んで立っても明らかに小さな少女は軽く見上げる様にして喋りだす。

( ^ω^)「おっ、じゃあしぃと二人で行くのかお」

椅子に座ったままのブーンがしぃの方を見やると、ほぼ同じ高さにあるしぃの目と目が合った。



8: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:15:17.17 ID:zN/XJgfQO

(*゚ー゚)「うん、ツンちゃんはまた今度って事で」

ξ゚听)ξ「悪いわね、私から誘ったのに」

ツンはしぃに軽く謝ると残念そうな表情でため息を吐いた。

(;゚ー゚)「あ、また次はツンちゃんもお金を貯めて一緒にね?」

慌てて元気づけるようにそう言いながらツンの肩を軽く叩く。
笑いながらその様子を見ていたクーは軽く黒板上の時計に目をやると、しぃに声を掛け連れ立って教室を出ていった。



9: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:17:54.26 ID:zN/XJgfQO

先生に呼び出しを食らったと言って職員室へ向かったドクオを置いて、二人は川沿いの道を歩いていた。
二人は少し傾きかけた太陽に照らされ、じりじりとした暑さに汗が滲んでいる。

(;^ω^)「あっついおー」

ξ;゚听)ξ「これも温暖化の影響ね」

二人は暑さに茹ってしまいそうになりながら話していた。

(;^ω^)「うち寄ってなんか飲んでいくかお?」

ξ*゚听)ξ「べ、別に寄ってもいいけど変なことするんじゃないわよ?」

ブーンの提案に対し、ツンは軽く顔を赤らめると意味のわからないことを口走った。

(;^ω^)「変なことってなんだお……」

ブーンはいつものことなのか呆れたように肩を竦める。

ξ////)ξ「なっ! 別になんでもないわよっ!」

ツンは顔を真っ赤にしながら手に持った鞄を振り回す。
手ぶらのブーンは両手を使って防ぎながら苦笑いをしていた。



10: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:20:10.64 ID:zN/XJgfQO

(*゚ー゚)「あっ! これ可愛いっ!
     こっちのシャツもいいなあー」

市内にあるデパートの中のブランド店で、しぃは小さな子供がおもちゃ屋に来たかのようにはしゃいでいた。

川 ゚ -゚)「ふむ……これなんかさっきのに似合いそうだな」

二人はそれぞれに商品を見定め気に入った物を探しては手にとっていく。
ふ、とクーの足がある商品の前で止まった。

川 ゚ -゚)「これは……ツンが欲しがっていた新作の……」

手にとってワンピースを眺めるクーは値札を見て値段を確認する。

柳原「そのワンピ気になっちゃう感じですかー?」

ワンピースを手に動きを止めていたクーの後ろから、ぽっちゃりとした女が鼻に付く喋り方で声を掛けてきた。

川 ゚ -゚)「いや、少し見ていただけ……」
柳原「それこの夏の新作でー、チョー人気で今手にされてるものが最後の一着なんですよー」

クーの返事を最後まで聞かずに、柳原と書かれた名札を付けた女はつらつらと言葉を紡いでいく。



12: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:21:48.32 ID:zN/XJgfQO

(*゚ー゚)「クーちゃん何かいいの見つけた?」

店員のペースに圧倒されていたクーの所へ紙袋を手にしたしぃがやってきた。

川 ;゚ -゚)「いや、このワンピが……」
柳原「よかったら試着とかしてみちゃいますぅー?」

あくまでもマイペースに接客を続ける店員にクーは一歩引きながら答える。
が、それすらも気にせずにいつの間にかクーの手から取ったワンピをクーの身体へ合わせている。

(*゚ー゚)「あ、それツンちゃんが欲しがってた新作の?」

その光景を半笑いで見ていたしぃが店員の持つワンピースを見て気付く。

川 ;゚ -゚)「あ、ああ
ラスト一着だそうだ」

(*゚ー゚)「そうなんだ……それのサイズ見せてもらえる?」

尚もチョー似合ってる、や可愛い等と喚く店員の手から商品を取り上げてタグを確認する。

(*゚ー゚)「サイズはツンちゃんなら大丈夫だね
値段は……」

しぃは値段も確認し、店員にセールスされまくっているクーにある提案をした。



14: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:24:54.97 ID:zN/XJgfQO


( ^ω^)「それじゃあ気を付けて帰るんだお」

ξ゚听)ξ「気を付けるもなにもここから5分くらいじゃない」

ツンは自宅の方向を見やりながら靴を正すために、地面を爪先で二、三度蹴りながら言った。

ξ゚听)ξ「それじゃまた明日ね」

そう言ってブーンに背を向けるとすぐ近くの自宅へと向かい始める。
背中越しに聞こえるブーンの大きな声を少し恥ずかしく感じると同時に不思議な安心感に包まれて。



15: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:27:10.88 ID:zN/XJgfQO

ξ゚听)ξ(あーあ、結局ワンピース買えなかったわね)

ツンは自室のベッドに腰掛け、テレビから流れる映像を見るともなしに目にしていた。




あー、ここは夢の中だなあ。

やけにはっきりとした意識の中で、ツンはそう確信を持った。
いつの間に寝てしまったのか、ツンは自意識の中、真っ白で空虚な空間に一人佇む自分自身を見下ろしていた。

何にもない空間を肩を落としながらツンは歩いていく。
白い空間には上下や重力といった概念がないのか、時に逆さまに、時にはそれに対して90度の直角を向きながらもツンは歩き続けていく。

と、突然ツンは足を止め、何もない空間に手を伸ばした。

ξ゚听)ξ(何をしてるのかしら?)

その様子をじっと見つめていると、徐々に真っ白な空間に、縦長の長方形に黒線が浮かび上がってくる。

ξ゚听)ξ(扉、かしら?)



17: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:30:29.31 ID:zN/XJgfQO

ツンはぽっかりと切り取られた白を見、黒い空間に入っていく自分を追い掛ける。



やあ (´・ω・`)

ようこそ、バーボンハウスへ。
今回はサービスだから、まず落ち着いて欲しい。

うん、「夢」なんだ。済まない。
夢は心理を顕わすって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この夢を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「欲望」みたいなものを感じてくれたと思う。

満たされない世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って君の夢に入り込んだんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。



扉の向こうには男が立っていた。
部屋に踏み込んだツンに対し、つらつらと台詞を読み上げるかのように話し掛ける。

声が聞こえるわけではない。 その証拠に男の口元は堅く閉ざされたままだ。
しかし男の声はどういうわけかツンのもとへと確実に届いていた。



18: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:32:14.43 ID:zN/XJgfQO

ξ゚听)ξ(一体誰かしら……)

(´・ω・`) 僕が誰かって? 僕はショボン
   この店の店長だよ


ツンの頭の中を覗いたかの様な言葉と同時、男の前にはカウンターが、そして背後には大きな棚が出現していた。

気が付くとツンは夢の中のもう一人のツンと並び、カウンター前の椅子へと腰掛けていた。


(´・ω・`) 君はよっぽどあのワンピースが欲しかったようだね

ξ゚听)ξ ええ とてもね

ξ゚听)ξ「そう、私は確かにあのワンピースが欲しいわ」


ショボンと名乗る男のグラスに琥珀色の液体を流し込みながらの問いに、二人のツンはほぼ同時に答えた。


(´・ω・`) そんなにほしいのかい?



ξ゚听)ξ ええ 喉から手が出るほどに



22: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:38:06.98 ID:zN/XJgfQO

夢の中のツンが即座に答え、差し出されたグラスの中身を一気に流し込んだ。

(´・ω・`) そうかい
      それ程までに欲しいんなら僕が与えてあげるよ


そう言ってショボンが指を鳴らした。
その音の響きにツンは自分が飲み干した訳でもない液体に、喉が焼けるような気がした。


(´・ω・`) ほら そろそろ目を覚ます時間だよ


夢の中のツンはそう言われると、喉元を押さえて泡の様に消えていった。


ツンはそれを見ながら自分の意識が目覚めようとしているのを感じていた。
ふいに訪れた重力のような力にツンは両目を力一杯に瞑ってしまった。



24: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:41:45.38 ID:zN/XJgfQO


喉の焼ける様な渇きにツンは勢い良く身を起こした。


ξ;゚听)ξ「あ゛ー、喉渇いたわね」

ツンはベッドから身を起こして立ち上がった。
何かが自分の体から滑り落ちたことに気が付き、ツンは俯きそれを見咎めた。


ξ゚听)ξ「これ……」

ツンはしゃがみ込んでそれを拾い上げると、広げて身体に当ててみる。

ξ゚听)ξ「新作の……」

確かにそれは前からツンが欲しがっていた新作のワンピースだった。


ξ゚听)ξ「どうしてこんな所に……」


身体に当てたままで姿見の前に立ち、鏡を覗き込む。
ぴったりとツンの身体に合ったワンピースはまるで誂えたかのようだった。



26: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:42:44.91 ID:zN/XJgfQO

少しの間、惚けたように鏡を見つめていたツンだが、その目に左右対称になった時計が飛び込んだ。
時計の短針は反転した9の字を指そうとしていた。


ξ;゚听)ξ「ヤバっ!!遅刻する!」

そう叫び慌てて制服に着替えると、呼び止める母の制止も振り切り家を飛び出した。



29: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:46:37.32 ID:zN/XJgfQO

始業ベルの鳴り響く中、廊下を歩く担任を追い越し教室へと駆け込んだ。

( ^ω^)「おっはおーだお」

('A`)「今日は珍しいヤツらが遅刻だな」

額に汗を浮かべて走り込んだツンに、ブーンとドクオが声を掛けた。


ξ;゚听)ξ「ちょっと、寝坊、しちゃって」

息も切れ切れにそう言って、自分の机に荷物を置いた。

ξ゚听)ξ「ん?そういえば今珍しいヤツ“ら”って言った?」

一息付いて呼吸を整えたツンは、先刻のドクオの言葉が気に掛かった。

('A`)「ああ、今日はしぃの奴もまだ来てないんだ」


顎をしゃくる様にしてしぃの席を示す。
そこには普段しぃの使っている鞄はなく、持ち主の不在を明らかにしていた。


ξ゚听)ξ「あら、確かに珍しいわね」

ツンがそう答えた時、担任の教師がやってきた。
三人はそれぞれの席へと戻り、号令に合わせて席に腰掛けた。



31: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:54:36.04 ID:zN/XJgfQO
一限目が終わり、その日初めての休憩時間を迎えて、教室内は喧騒に包まれた。

ξ゚听)ξ「遅刻かと思ったけどまだ来ないわね」

ツンはクーの隣の席へと腰掛け、伸びをしながら声を掛けた。

川 ゚ -゚)「しぃのことか?」

机の上に広がる、びっしりと文字が書き込まれたノートを鞄へと仕舞いながら答える。

川 ゚ -゚)「夏風邪でもひいたんじゃないか?」

無言で頷いたツンを横目で見ながらそう言って、クーは次の授業の教科書とノートをテーブルに出した。



('A`)「ういーす」

会話を続ける二人のもとへ、悪怯れもせず遅刻してきたドクオがやってきた。

ツンが座っている席の横に中身のほとんど入っていない鞄を置いて、机の上に腰掛けた。



32: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:55:55.11 ID:zN/XJgfQO

ξ゚听)ξ「席空けようか?」

ツンが座っていた席はドクオの物であるため、ツンは席を立とうとした。

('A`)「んにゃ、別にいいよ」

そう言ったドクオの言葉に、隣にいるクーが大きく頷いた。

しなやかな長髪が輝くようになびき、ドクオは反論すら忘れ誰にも聞こえないよう呟いていた。


('A`)「相変わらず綺麗な髪してんなー……」

( ^ω^)「確かにクーの髪はさらっさらだおね」
いつの間にか近づいていたブーンの声に、ドクオは体を跳ねさせる。


(;'A`)「うわっ、いつの間に後ろに!」

ξ゚听)ξ「ふーん、ドクオがそう言ってたの?」

ツンがすかさず質問を投げ掛ける。
にやりと笑いながら頷くブーンを見て、ドクオは小さくため息を吐いた。

川 ゚ -゚)「一応髪には気を遣っているからな」

少しはにかみながらそう言うクーと目が合い、ドクオは無意識に顔を赤らめ俯いていた。



35: ◆MXtNoToSc. :2008/09/28(日) 23:58:25.88 ID:zN/XJgfQO
( ^ω^)「にしてもどうやったらそんなサラサラになるんだお?」

ブーンは自分の頭に手をやると、然程長くはない髪を掴んだ。

ξ゚听)ξ「本当よね、私なんか手入れしてるのにバサバサになってきてるわ」

ふんわりとした巻き髪に触れながらそう言ったツンに、クーは考えながら答えた。

川 ゚ -゚)「ツンの髪色は自毛だろう?パーマを当ててるのか?」

クーは右手を伸ばすと、ツンの髪に手櫛を入れた。

川 ゚ -゚)「確かに少し傷んでいるな」

ξ゚听)ξ「パーマは当ててないんだけど毎朝自分で巻いてるからね」

ため息と共に呟くと、小さく頭を振った。

( ^ω^)「やっぱ髪は女の命なんだお」

('A`)「確かに髪で印象って変わるよな」

そう言った二人を思い切り睨み付けて、ツンは低い声で切り込んだ。

ξ#゚听)ξ「じゃあ髪が傷んでる私は女じゃないのかしら?」

慌てて弁解する二人をよそ目に、クーは一人楽しそうに笑っていた。



37: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:01:36.35 ID:eKGnMwkPO


沈みかけた太陽を背に、街灯が照らす道をツンは一人歩いていた。

ξ゚听)ξ(髪は女の命……かあ)

力なく落ちた肩を、灯りが照らしだしている。

ξ゚听)ξ(私もあんなサラサラの髪の毛が欲しかったな……)

ξ#゚听)ξ(それにしてもブーン!
      あんな嫌味みたいなこというなんて!
      あんなこと言うブーンは大嫌いよ!)



どこかで吠える犬の声を背にし、ツンは自宅の扉を開いた。



41: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:09:46.58 ID:eKGnMwkPO

――ぴぴぴぴぴぴぴぴ

目覚まし時計のアラーム音が、部屋中に鳴り響いた。
重い目蓋を擦り、ツンは腕を伸ばして目覚ましを止めた。

ξ--)ξ「んー……」

軽く目を閉じて伸びをすると、いつものように階下に降りていき朝食を口にした。



42: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:11:08.20 ID:eKGnMwkPO

ツン母「あら、口元に髪が付いてるわよ」

ツンの母はそう言って、ツンの口元に付いた黒い髪をごみ箱に投げ捨てた。

ξ゚听)ξ「ありがとう」

ツン母「そう言えばあんた最近夜中によくうなされてるわね」


炊事場で洗い物をしながら顔だけツンのほうを見て、母は言った。


ξ゚听)ξ「そう? 自分では覚えてないけど」

ツン母「飲んで帰ってきた日のお父さんみたいになってるわよ」

母はそう言いながら次々に食器を洗い終えていく。


ξ゚听)ξ「そんなはずないわよ
じゃあ行ってきます」

笑いながら家を飛び出したツンの後ろ姿に、母は言い知れぬ不安感に体を固まらせていた。

そんな思いを知らずに、ツンは金髪をさらさらとなびかせて学校へと向かっていった。



45: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:17:07.28 ID:eKGnMwkPO
ツンが教室に入った時、目の前には信じられない光景が広がっていた。



普段クラスメイトの誰よりも遅く、最悪の場合最後の授業すら遅刻するドクオが席に座っていた。

ツンは慌てて黒板の上に掛けられた時計に目をやるが、十分に始業までは時間があった。

ξ;゚听)ξ(遅刻したかと思ったわ)

安心に胸を撫で下ろしたツンの目は、隣のクーの席へと移った。


ξ゚听)ξ(あら……?)


ドクオとは正反対に、普段クラスメイトの誰よりも早く学校に来て、予習復習をしているクーの姿がない。

ξ゚听)ξ「色々と珍しいわね」

ツンは先ず自分の席へ行き荷物を起き、ドクオに声を掛けた。



50: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:28:09.16 ID:eKGnMwkPO

(;'A`)「俺がいることがそんなに珍しいか」

少し拗ねたようにそう言って、まあそうか、と小さく呟く。

ξ゚听)ξ「アンタがいることもだけどクーがまだ来てないのもよ」

ドクオはああ、と声を上げてズボンのポケットから携帯電話を取り出した。


('A`)「クーなら今日は休むってよ
    今日の朝にメール来たんだ」

ドクオは携帯電話をツンに見せてそう言った。


画面には簡素に、しばらく学校を休むからノートをとっておいてくれ、と映し出されていた。
それを見たツンは何かに納得したかの様に大袈裟に頷いてドクオに笑みを向けた。

ξ゚∀゚)ξ「道理でアンタが早く来てるわけねwww」

(;'A`)「べ、別に! たまたま早く目が覚めたんだよ!」

耳まで顔を赤くし、反論するドクオだが、その姿には全く説得力は備えられていなかった。



51: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 00:29:00.41 ID:eKGnMwkPO

ξ゚听)ξ「でもクーが休むってのも珍しいわね
しぃの風邪でもうつったのかしら」

('A`)「そうかもな
    そういえばブーンのヤツも来てないな」

不安げにそう言ったツンとは対照的に、ドクオは別段気にした風もなくそう言った。


ξ゚听)ξ「まあブーンならそんなに珍しくもないじゃない」

('∀`)「確かにな」


ツンは笑いながら自分の席へと戻っていった。



67: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 03:40:51.31 ID:eKGnMwkPO

( <●><●>)「それでは先日のテストの答案を返しマス」

ツン達のクラスの担任が、クラス全員分の答案用紙を持っていた。
順に生徒の名前を読み上げ、答案用紙を次々に渡していく。

ξ;゚听)ξ「うーん……この点は微妙ね」

ツンの手には右下隅に67と書かれた数学の答案があった。

担任が言うには平均点が63点のこのテストでは正に微妙な得点としか言い様がなかった。


( <●><●>)「次、今回もあなたが満点なのはわかってます」

担任がそう言いながら、机に突っ伏して寝ているドクオの頭に、答案を叩きつけた。

(;'A`)「うおあっ!!」

ドクオが叫んで飛び起きると同時に答案がひらひらと机の上に舞い落ちた。

その様子を見たクラス中には、テスト結果に沈んでいた生徒にも笑いが蔓延した。

('A`)「あー、うん
満点か」

当然のように答案を手に取ると、四つに折り畳んで鞄の中へと放り込んだ。



68: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 03:42:27.71 ID:eKGnMwkPO

ξ゚听)ξ「全く……ほとんどの授業は寝てるくせになんでいつも満点なのよ」

鞄に放り込まれた答案用紙を摘み上げ、それを広げながらツンが言った。

('A`)「まあ睡眠学習ってヤツだな」


ツンが広げた答案を取り上げて、再び鞄に投げ入れると、ドクオはまたもや机にもたれかかった。

ξ゚听)ξ「結局また寝るのね
そんなんでいい点を取れる頭脳が私にも欲しかったわよ」

そう呟いたツンは、自分の答案を小さく折り畳んでスカートのポケットに詰め込んだ。

ξ;゚听)ξ「いっ……」

いきなりの頭痛にツンは頭を押さえ、そのまま髪をとくように手を滑らせた。
いつもよりも滑らかな髪に、昨日から新しく変えたトリートメントが合っていたのかな、そう考えながら自分の席へと戻っていった。



69: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 03:44:34.24 ID:eKGnMwkPO

ξ゚听)ξ(そういえばブーンは結局休んだわね
メールでもしとこうかな……)


ツンは自宅の一階、リビングでテレビを見ながら携帯電話を手に取った。

適当に言葉を選び、ブーンに休んだ理由を質問する内容のメールを送信する。

携帯電話をテーブルの上に投げ出し、見るともなしにテレビを見つめていた。


ツン母「あんたまたそんな番組見てたらうなされるわよ」

母の声にテレビを注視すると、いつの間にかお笑い番組は終わりホラー特集へと変わっていた。

ξ゚听)ξ「そんな記憶ないんだけどなー」

ツンはチャンネルを片手に惚けたように声を出す。

ツン母「なんていうのかしら、二日酔いで吐こうとしてるのに思うように吐けない
そんな感じにうなってるわね」


ツンはテレビのチャンネルを無造作に回し、電源を切って立ち上がった。

ξ゚听)ξ「とりあえず今日はもう眠いから寝るわ」

そう言って二回への階段を上るツンを、母は不安そうに見上げていた。



71: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 03:57:27.33 ID:eKGnMwkPO

('A`)「やっべー禁断化ノイズウザいな」

菓子の空袋や漫画本、ギター等が散乱した部屋の中で、窓枠の下にもたれる様にしてドクオが携帯ゲーム機をプレイしていた。


軽く伸びをして体を回すと、腰の間接が立てた音が部屋に響いた。

('A`)(今日はカーチャン達は旅行だし……一晩中バッジを集めてやる!)


1人でガッツポーズをしたドクオは、ゴミに埋もれたテーブルの上の時計を目にした。

短針が既に2を回っているのに気付き、一旦ゲームを置いて飲み物を取りに冷蔵庫へと向かった。



72: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 03:59:18.08 ID:eKGnMwkPO

グラスに入れたオレンジジュースを一息に飲み干し、ペットボトルを冷蔵庫へ閉まった。


――みしっ……



どこかから音が響いた気がした。
両親は旅行に出て、自分しかいないはずの一軒家。
考えた瞬間にドクオは寒気を感じ、それと同時に両腕には鳥肌が立っていた。


(;'A`)「気のせいだよな……」


――みしっ……


まただ、そう思ったドクオは脳裏に泥棒という言葉が浮かんだ。

(;'A`)「上から聞こえたよな……」

食器乾燥機から果物ナイフを手にして、二階にある自室へと歩みを勧める。

もし泥棒が襲ってきたら、そんな考えがドクオの頭を支配していた。

はち切れそうな程に弾む心臓の鼓動を抑え、自室のドアを押し開けた。



73: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:02:35.93 ID:eKGnMwkPO

部屋の外から手探りで電気のスイッチをオンにする。
用心深く直ぐにその手を引っ込め、呼吸を整える。


――ぴちゃっ


何か液体が落ちる音にドクオは大きく体を飛び上がらせる。
ひとしきり辺りを見回し、最終的に俯いた時に、それがいつの間にか滴る程かいていた自らの汗だということに気が付いた。


(;'A`)「だ、誰かいるのか?」

尚も顎を伝う汗を拭い、震える声で音の正体に問い掛ける。

始めは時折床の軋む音がする程度だったものが、今ではかさかさと何かが擦れる音が断続的にするまでになっていた。



75: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:05:57.86 ID:eKGnMwkPO
ドクオは恐る恐る部屋の中を覗き込む。
音源を探る様に視線を忙しなく動かすが、誰かが隠れたりできるスペースもなく誰かがいるわけでもない。
摺り足で部屋へと一歩踏み込み、改めて周りを見回すが特に異常は見受けられない。

(;'A`)「ふう……」

とりあえず最初の部屋には誰もいなかったことに安心し、ドクオはため息を吐いて天を仰いだ。



(;'A`)「え……?」



ドアを押し開いて入り込んだ一歩目の位置、まるで訪問者を待っていたかのように。


天井にそれは張りついていた。



76: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:10:12.77 ID:eKGnMwkPO

(;'A`)「な、なんだっ!
    っ!?」


声を上げたドクオは後ろに下がろうとして、何かに躓いて尻餅をついてしまった。
その拍子に果物ナイフが、音を立てて手から滑り落ちる。

それに反応したのか天井に張りついたそれ、まるで人間の腕の肘から先だけを切り取ったようなもの、が、ぼとりと音を立て落ちてきた。


(;'A`)「うわっ!」

思わず叫び声を上げたドクオに向かって、それは血の気のない土気色の指を動かし蜘蛛の様に近付いてくる。

ドクオは慌てて立とうとするが、焦れば焦るほど身体は言うことを聞かない。

かさかさと音を立てるそれが徐々にドクオへと近付く。

廊下の壁に縋る様にして何とか立ち上がり、取り落としてしまった果物ナイフに目をやった。

(;'A`)「なんだよっ!なんなんだよこれは!」

叫びながら果物ナイフに飛び付こうとしたドクオの眼の前に、顔を包み込むように掌が飛び付いてきた。


(#'Aと)「うわぁぁぁああああ!!」

ドクオ達が動く以外の物音は一切ない住宅内に、ドクオの悲痛な叫び声が轟いた。



77: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:12:57.23 ID:eKGnMwkPO

異常なまでに冷たい掌が左頬に張りついている。
顔面に張りつく冷たさの中に、ドクオは奇妙な感触と焼ける様な熱さを感じていた。


(#'Aと)「ぁぁぁああああああ!!」


右目から大量の涙が零れ落ちるのとほぼ同じ、ドクオの顔を引っ掻くような動きで掌が飛び離れた。

放射線を描く腕の跳躍を追い掛けるように、赤い液体が飛び散っていた。


(#'A,)「ぅぅぅう゛う゛」

襲い来る激痛に眩暈を感じながら、それでもドクオは飛びすさった腕の指先に、小さな白いくしゃくしゃの袋のようなモノを見てしまった。


(#'A,)「ぁぁあああ……!
    俺の……!俺の……!」

ドクオはふらふらとよろめいた末に壁にもたれかかり、滑り落ちるように廊下にへたりこんでしまった。

指先に持ったドクオの左眼球を、興味を失ったかのように握り潰し、腕だけの化け物は再びドクオへと迫っていった。



79: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:15:46.37 ID:eKGnMwkPO


妙な寝苦しさを感じ、ツンは身を起こした。
時間を確認するために携帯電話を取ろうと手を伸ばした時、違和感を感じた。

何かが顔にまとわりついている感触に、ツンは手の平で顔を拭った。

ぬるり、とした感触に全身に鳥肌が立った。
勢い良く跳ねるように立ち上がり、慌てて電気を付けて姿見の前に立ち覗き込むように顔を見る。

ξ;゚听)ξ「ひっ……!」


鏡に映る自分の姿に、彼女は一歩後退り、茫然と立ち尽くした。


蛍光灯の明かりが照らしだす室内で、鏡に映し出されたツンの口元を中心に、赤黒い何かが付いていた。

ξ;゚听)ξ「何これ……!」

ツンは大急ぎで階下の洗面所へ駆け込んだ。
震える手で蛇口をひねり汚れを洗い落とす。

何度も鏡を確認し、汚れが落ちた後も何度も何度も繰り返し顔を洗い続けた。



80: ◆MXtNoToSc. :2008/09/29(月) 04:19:19.02 ID:eKGnMwkPO

どれほどの時間そうしていただろう。
掛けられたタオルで顔を拭いて、ふらふらとした足取りで自室へと戻っていった。

ベッドに潜り込んだツンは、全ては夢に違いないと頭まで布団を被り震えていた。






翌朝目が覚めたツンは、昨日の深夜に起きたことは忘れ去っていた。

ゆっくりと身体を起こし、いつもの様に登校の支度を始める。

だが、心の隅に引っ掛かりは残るのか、顔色は優れないままだった。



  慣用句のようです  前編  ――終



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