( ・∀・) 物語は不思議な壺から飛び出してきたようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:34:22.19 ID:e07ztftgO
- 出会いは突然とは言うけれど、それにも限度があると僕は思う。
そして目の前で微笑む少女との出会いは、明らかに常識の範疇を超えていた。
o川*^ー^)o「初めまして主様!」
(;・∀・)「……」
o川*゚ー゚)o「ささ、早速契約を。
って、あれ? なんだか顔色が悪いですよ?」
亡き祖父所有の蔵にあった壺を開けたらその中から美少女が?
しかもですます口調で?
その上、二人称が主様だって?
(;・∀・)「どこの漫画だっつーの!!」
o川*゚ー゚)o「??」
事態が、一切飲み込めなかった。
( ・∀・) 物語は不思議な壺から飛び出してきたようです
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:36:48.79 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「はぁ、つまり主様は、偶然私を呼び覚ましてしまったと」
頻りに“契約を、契約を”と訳のわからないことを喚き続ける彼女に向け、
こうなったいきさつを話したら、がっかりしたようにそう返されてしまった。
( ・∀・)「それでさ」
o川*゚ー゚)o「はい?」
( ・∀・)「君は一体何者なの?」
o川*゚ー゚)o「ただの有り触れた魔神ですよ」
(;・∀・)「そうか、ただの魔神なんだ」
o川*゚ー゚)o「ええ、ただの魔神なんです」
もしかしなくてもこの子、やっぱりどこかおかしいよな。
まったくまあ、世の中不思議なこともあるもんだ。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:38:46.08 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「そいで魔神さんはどうしてあんな壺の中に?」
o川*゚ー゚)o「それはですね」
そう言って顎に手を当て、何か考え込むような様子を見せる自称魔神。
o川*゚ー゚)o「落ち着くから、とか?」
(;・∀・)「散々捻って絞り出した答えがそれかいな」
o川*゚ー゚)o「まま、そんなことはどうでもいいんです!
それよりも主様、もしかして貴方は何か望みを持っていませんか?」
( ・∀・)「言ってどうなる?」
o川*゚ー゚)o「私が叶えてみせます!」
( ・∀・)「悪魔の三つの願い事の話を思い出させるような展開だな」
o川*゚ー゚)o「私は物語の中の悪魔のように、願いの代償として魂を奪ったりはしませんよ。
叶える望みは一つに限定されちゃうんですけどね」
( ・∀・)「はあ、随分と太っ腹な魔神さんで」
o川* − )o「そうでも……ないですよ」
( ・∀・)「えっ?」
o川*^ー^)o「いえ、なんでもありません」
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:43:12.56 ID:e07ztftgO
- それにしても、願い事を一つだけ、か。
陳腐な展開の癖に、いざ我が身に降りかかると困惑してしまう。
o川*゚ー゚)o「私の入っていた壺はそれを強く求める意志に呼応して出現する。
きっと貴方には何か叶えたいことがある筈です」
と、言われてもな。
僕は特別秀でたものは持っていないけど、大きなコンプレックスがあるでもないし。
もし物を頼むとしたら……、なんだかんだで金が無難なのか?
o川*゚ー゚)o「封印を解かれてから一月が経過すると、
壺はまた別の主を求め、貴方の前から消え去ることになります。
ですから決断は、どうか一月以内に」
一月ってと、きちんと夏休みと被るな。
考え事をする時間は腐る程ある。
( ・∀・)「精々捻り出してみるよ、あんたに叶えてもらいたい願い事を」
o川*゚ー゚)o「ぜひぜひ」
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:46:12.75 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「と、まあ、話も一段落ついたことだし」
o川*゚ー゚)o「ついたことだし?」
( ・∀・)「ちょうど昼飯時だ、ソーメンでも食べよう」
o川*゚ー゚)o「そおめん、ですか?」
( ・∀・)「今から案内するから、出来上がるまで居間で座って待っててくれ」
o川*゚ー゚)o「あのー」
( ・∀・)「ん?」
o川*゚ー゚)o「もしかして私にも、そのそおめんとやらを御馳走してくださるつもりなんですか?」
( ・∀・)「別に気にしなくていいよ、一人分も二人分も作る手間は変わらないさ」
o川;゚ー)o「私は魔神なんですよ?」
( ・∀・)「もしかしてソーメン嫌いだった?」
o川*゚ー゚)o「……いいえ」
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:48:55.00 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「んじゃ、ここで待ってて」
o川*゚ー゚)o「了解しましたー!」
茶の間に置かれた机の近くに魔神を座らせると、僕は一人台所へと足を運んだ。
お湯にソーメンを放り込むと手持無沙汰になった。
しかし僕は居間へは戻らず、一連の出来事について思いめぐらしてみることにした。
( ・∀・)「ほんと、不思議も不思議、大不思議だ」
マスコミに知られたら大騒ぎになるのかな?
どうせ信じてもらえないか。
( ・∀・)「おし、そろそろ頃合いかな」
水切りをした後、氷水の入ったガラスの大皿にソーメンをどばばっ。
あっという間にできあがり。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:52:10.10 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「はい、おまち」
o川*^ー^)o「わあっ、そおめんって白くて綺麗な食べ物なんですね!」
( ・∀・)「あれ? もしかしてソーメン食べたことなかった?」
o川*゚ー゚)o「名前を聞くのも初めてです」
( ・∀・)「はー、そんな人いるんだな」
o川*゚ー゚)o「私は人間ではありませんので」
( ・∀・)「丸っきり人間にしか見えないんだけどね」
o川*゚ー゚)o「それじゃあ、いただきます」
( ・∀・)「うい」
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:56:01.52 ID:e07ztftgO
- o川*-ー)o「ごちそうさまでした」
o川*゚ー゚)o「凄く美味しかったです!」
( ・∀・)「そりゃよかった」
o川*゚ー゚)o「……」
( ・∀・)「ん?」
o川*゚ー゚)o「wktk」
何かを期待するような目で僕の方を見つめる魔神。
ははあ、さてはこいつ、
( ・∀・)「分かった分かった、ちゃんとデザートも用意するから」
o川;>ー)o「違いますっ、私が期待してたのはそれじゃなくって!」
( ・∀・)「ん、もしかしておかわりが欲しかった?」
o川*;ー;)o「いい加減食べ物の話題から離れてください」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 16:59:45.01 ID:e07ztftgO
- 泣く子をあやすにはアイスが一番。多分。
冷凍庫からソーダアイスを二本とりだし、片方を魔神に渡した。
o川*^ー^)o「わああっ、冷たくて甘くて美味しいです!」
( ・∀・)「夏のソーダアイスは美味しいよね」
o川*^ー^)o「あっという間に食べちゃいました」
o川;゚ー゚)o「って、だからそうじゃなくて!」
( ・∀・)「ん?」
o川;-ー)o「私は貴方が何か願いを言ってくれることを期待してたんです」
( ・∀・)「そうだったんだ」
o川;-ー)o「そうだったんです」
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:03:20.91 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「そういえば君ってどんな風に願いを叶えるの?」
o川*゚ー゚)o「契約してそれで終わりですよ」
( ・∀・)「そもそもその契約ってのは何?」
o川*゚ー゚)o「けいやく【契約】〔名・他サ変〕約束すること。
特に,当事者の合意によって法的効果を発生させる約束をすること。
また,その約束」
(;・∀・)「いやいや、辞書的な意味じゃなくてさ。
読点でなくコンマを使ってる辺り、辞書の引用っぽさ出しまくりだし」
o川*゚ー゚)o「まあ具体的なことは必要な時に話しますね」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:07:03.72 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「そういや寝床はどうするつもり?」
o川*゚ー゚)o「夜までに願い事を決めて頂けるのが一番なんですけど……。
壺があった蔵にでも籠もらせて頂ければ十分です」
( ・∀・)「それなら客間に泊まりなよ」
o川*゚ー゚)o「いいんですか?」
( ・∀・)「どうせ今ここに家族はいないから部屋は余ってるしね。
それに女の子を狭いとこに押し込めとくのは、なんか申し訳ないし」
o川*゚−゚)o「……」
( ・∀・)「ん、難しい顔してどうした?」
o川*゚ー゚)o「いえ、何でもないです。
それではお言葉に甘えさせて頂きますね」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:08:39.12 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「んじゃ腹も膨れたことだし、山へ虫取りにでも行くか」
o川*゚ー゚)o「はぁ」
( ・∀・)「もちろん魔神さんも一緒に」
o川;゚ー)o「えっ!? 私も!?」
( ・∀・)「どうせ暇でしょ?」
o川;-ー)o「実際その通りなんですけど、
さも当たり前であるかのようにそう言われるのはどこか悔しいような」
o川*゚ー゚)o「そもそも暇潰しの手段が虫取りなのって、社会的にどうなんでしょう?」
( ・∀・)「気にしない気にしない」
o川*゚ー゚)o「マイペースなんですね」
( ・∀・)「君ほどじゃないさ」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:11:05.23 ID:e07ztftgO
- o川*^ー^)o「わああっ、おっきいカブトムシだ!」
o川*゚ー゚)o「見て下さい、変わったクワガタ見つけましたよ!」
o川*^ー^)o「このちょうちょとても綺麗です!」
( ・∀・)「何だかんだでむちゃくちゃ楽しんでるな」
o川;゚ー)o ハッ
o川;-ー)o「たっ、たまには童心に帰ってみるのも、悪くないと思っただけです」
( ・∀・)「帰るまでもないんじゃない?」
o川#>ー)o「そんなことありません、私は子供じゃないです!」
( ・∀・)「ふーん……。あっ、ヘラクレスオオカブト!」
o川*゚ー゚)o「えっ、どこどこ!?」
( ・∀・)「僕の指の先から数千キロぐらい行った場所に」
o川#゚ー゚)o「騙しましたねー!」
( ・∀・)「やーいやーい」
o川#><)o「こらーっ!」
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:12:51.95 ID:e07ztftgO
- o川#-ー)o「まったくもう」
(;・∀・)「悪かった悪かった、そう怒らないでくれ」
o川*゚ー゚)o「もう嘘をつかないって約束しますか?」
( ・∀・)「それは無理かな」
o川;-ー)o「こういう時は素直にいっときましょうよ」
( ・∀・)「んなことより駄菓子屋行こう。
子供の頃によく行ってた店なんだけど、お婆さん元気かな」
o川*-ー)o「つーん」
( ・∀・)「ん、どうした?」
o川*-ー)o「私はそんな得体の知れない所には行きませんよーだ」
どうやらからかわれたことを根に持っているようだ。
しかもその口振りからして、駄菓子屋とは何かを知らないようでもある。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:14:44.32 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「惜しいな、今ならお菓子をたくさん奢ってあげたんだけど」
o川;-ー)o ピクッ
( ・∀・)「駄菓子屋には美味しい物がたくさんあるのになー」
o川;-)o「そこまで言うなら、私も行ってあげていいですよ」
( ・∀・)「いや、別に無理に着いてきてくれなくてもいいんだけどね」
o川*;ー;)o「主様は意地悪です」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:16:50.84 ID:e07ztftgO
- o川*^ー^)o「凄い、この紐グミって食べ物細長ーい」
o川*゚ー゚)o「わたぱち?」
o川;>ー)o「うわわっ、何これ何これ!!」
一人はしゃぐ魔神を横目に、僕は駄菓子屋の現店主と話をしていた。
('、`*川「そっか、お婆ちゃんがお店番やってた頃のお客さんなんだ」
( ・∀・)「元気な方ったのに、まさかお亡くなりになっていたなんて」
('、`*川「ま、お婆ちゃんは幸せだった筈よ。
貴方みたいに慕い続けてくれる人がいるんだから」
( ・∀・)「だと嬉しいです」
時間は何もかもを変えてしまうということを、改めて実感した。
o川*^ー^)o「主様、このきなこ棒ってお菓子美味しいですよ!」
( ・∀・)「懐かしいな、どれどれ」
やっぱりこの味だけは変わらないな。
ほんと、何だかなー。
('、`;川「主様、ねぇ」
心なしか店主からの視線が冷たい気がする。
一体僕はどんな変態だと勘違いされてるのやら。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:19:31.04 ID:e07ztftgO
- 駄菓子屋の外に出ると、辺りは既に夕の様相を見せていた。
どこかユーモラスな鳶の鳴き声を聞きながら、僕らは家へと足を運ぶ。
o川*゚ー゚)o「主様」
( ・∀・)「ん?」
o川*゚ー゚)o「今日は凄く楽しかったです」
( ・∀・)「気にしないで、僕だって独りじゃ退屈し―――」
不意に魔神の少女が僕の顔を覗き込んできた。
不覚にも可愛いと感じる。
o川* ー )o「……」
一瞬、彼女はそのつぶらな瞳を曇らせた。
だが次の瞬間には笑顔を浮かべ、眩しそうに空を見上げた。
o川*゚ー゚)o「綺麗ですね」
( ・∀・)「そうだね」
o川*゚ー゚)o「自分の都合で貴方の空を奪おうだなんて、馬鹿なことを考えていました」
( ・∀・)「何だい、それ」
o川*^ー^)o「秘密です」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:21:27.76 ID:e07ztftgO
- 僕達は赤光の中を再び歩き出す。
o川*゚ー゚)o「私の本名はキュートというんです」
ぽつりと呟かれたに過ぎない筈のその言葉は、なぜか僕の耳にはっきりと飛び込んできた。
キュート、それがこの魔神の名前か。
o川*゚ー゚)o「一月二日生まれの山羊座で、血液型はO型。
好きなジュースは……オレンジジュース」
( ・∀・)「いきなりどうしたの?」
o川*゚ー゚)o「以前言ったように壺は一月したら自然に消えますから、
後の処理は心配なさらないで」
( ・∀・)「意図が掴めないって」
o川*^ー^)o「つまり、さよならってことです」
(;・∀・)「えっ?」
唐突に吹き抜ける風。
瞬きの一瞬にキュートはその姿を消していた。
(;・∀・)「いったい何だってんだ?」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:23:22.61 ID:e07ztftgO
- 結局、晩になってもキュートは帰ってこなかった。
行く当ても無いだろうに今頃何をしているのやら。
(;・∀・)「まったくもう、分からないことが多すぎるんだよ」
キュートの正体や僕の願いを叶えようとした目的、それと失踪の動機。
何一つ、分からない。
( ・∀・)「その癖、なんかこう」
胸が痛むんだ。
姿を消す寸前にキュートが見せた寂しげな笑顔を思い出すと、自然と。
きっとあいつ、どこかで一人縮こまってるんだろうな。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:25:49.09 ID:e07ztftgO
- 気がついたら僕は家の外に飛び出していた。
( ・∀・)「ったく、世話焼かせる奴だな」
ぼやきつつ、昼に虫取りした辺りへと足を運ぶ。
あいつがそこにいるとの確信を、何故だか強く持っている自分がいた。
( ・∀・)「魔神っていっても要は小学生ぐらいの少女だ」
一人切りで夜を明かさねばならないとしたら、
せめて少しでも見知った場所へ行くだろう。
「ひっく、ひっく」
森に踏み込むにつれ、微かに聞こえてきた泣き声。
o川*;ー;)o「主…様……?」
ほら、やっぱり。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:28:13.99 ID:e07ztftgO
- o川*;ー;)o「私、私……」
(;・∀・)「こんな所で泣くぐらいなら勝手にどこかに行くなって」
o川*;ー;)o「うあぁああああ!」
キュートは泣きながら僕に抱きついてきた。
そして頭を僕の胸に押し付け、何度も何度も繰り返し謝り続ける。
(;・∀・)「いいからほら、泣き止んでよ」
o川*;ー;)o「貴方は凄く優しくて、こんな私を人間扱いしてくれた。
私は貴方を利用しようとしたにも関わらず……」
慰めも虚しく、そう言ってキュートはまた大泣きするのだった。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:30:18.12 ID:e07ztftgO
- 一体どれだけの時間待っただろうか。
ようやくキュートが泣き止んだ時には、僕の服は涙でびしょびしょになっていた。
o川*゚ー゚)o「……」
( ・∀・)「落ち着いた?」
o川*゚ー゚)o「はい。ご迷惑おかけしてすみません」
( ・∀・)「それは別にいいんだけど、一つだけ聞かせてくれ」
o川*゚ー゚)o「……」
無言で深く頷くキュート。
両の眼は僕の顔を真っ直ぐに捉えている。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:31:26.09 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「お腹空いてない?」
o川;゚ー)o「えっ!?」
o川;-ー)o「あのぉ……、もっと他に聞きたいことは無いんですか?」
( ・∀・)「あるにはあるけど、急いで知らなくちゃならないことでも無いしね」
o川;゚ー)o「はぁ、そうですか」
( ・∀・)「んで質問の答えは?」
o川* ー )o「……」
o川*^ー^)o「腹ぺこです」
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:32:50.98 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「はむっ、はふはふっ」
o川*-ー)o「ご馳走様でした」
( ・∀・)「本当にお腹空いてたんだね」
o川;-ー)o「せっ、成長期だからですよ、多分」
( ・∀・)「まだちっこいもんな」
僕はそう言いながらキュートを持ち上げて肩車をした。
o川;゚ー)o「わわっ」
( ・∀・)「ほれほれ、ぐーるぐる」
o川;゚ー)o「まっ、回るのは駄目です! 素で怖いです!」
( ・∀・)「今度は逆回転」
o川*;ー;)o「嫌ぁ、怖い、降ろしてぇぇ!!」
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:34:27.00 ID:e07ztftgO
- o川*;ー;)o「ううぅ」
(;・∀・)「あーもう、いい加減泣き止めって」
o川* ー )o「……」
(;・∀・)「悪かった、僕が悪かったから」
o川* ー )o「……ふふっ」
( ・∀・)「えっ?」
o川*^ー^)o「やーい、騙されたー」
(;・∀・)「もしかして嘘泣きだったの?」
o川*^ー^)o「そんなところです」
うわっ、女ってこえー。
子供でこれだろ、空恐ろしい。
o川; ー )o「……ということにしとかないと、私のメンツが保てない……」
( ・∀・)「ん、何か言った?」
o川;゚ー)o「ななな何でもないです!」
やっぱり子供は子供だったか。
でもどこか安心した。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:37:05.55 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「ところで主様」
( ・∀・)「ん?」
o川*゚ー゚)o「森で色々考えて決めたんです。
貴方が私を見つけにきてくれたら、その時はきちんと全てを話そうと」
( ・∀・)「そうか」
o川*゚ー゚)o「ええと、まずは願いを叶える代償について話します」
タダで願いを叶えるなんて美味しい話は、やっぱり無いんだな。
o川*゚ー゚)o「願いを叶えた人間は壺の中へ閉じ込められてしまいます。
ちょうど私のように」
( ・∀・)「ってことは君は?」
o川*゚ー゚)o「ええ、かつて壺の力で願いを叶えた人間なのでしょうね」
どこか他人事みたいな言い方が引っ掛っかかった。
しかしとりあえずは他の疑問を晴らすとしよう。
( ・∀・)「新しく壺に誰かが閉じ込められた場合、元から壺の中にいた人はどうなるの?」
o川*゚ー゚)o「願いを叶える力を受け渡して壺から解放されます」
“自分の都合で貴方の空を奪おうだなんて、馬鹿なことを考えていました”。
キュートが姿を消す寸前に放ったこの言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:38:49.04 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「壺の中に入った人間は幾年にも渡る眠りにつき、
誰かが壺を開けた時にだけ外に出ることができます」
( ・∀・)「呼び出されても誰かの願いを叶えなかった場合は?」
o川*゚ー゚)o「一月の後に壺に閉じ込められ、そして再び眠りにつきます」
期限に関する言葉は本当だったか。
成る程、それで頻りに急かしてきたんだな。
o川*゚ー゚)o「騙すような真似をして本当にすみませんでした」
( ・∀・)「いや、いいんだ。
こうして正直に全てを打ち明けてくれた今となっちゃ、どうでも」
o川*゚ー゚)o「私をどうするかは主様にお任せします」
しゅんとした顔のキュート。
その瞬間、僕はあることを試してみたくなった。
( ・∀・)「キュート、唐突だけど叶えて欲しい願いが思い浮かんだ」
o川;゚ー)o「さっきも言った通り、願いを叶えると壺の中に閉じ込められるんですよ?
壺の中で眠っていると、徐々に記憶が壊れていきますし……」
さっき自分に関することをまるで他人事であるかのように言ったのは、それが理由だったのか。
ソーメンも、駄菓子屋も、きっと知らなかったんじゃない。
忘れていたんだろう。
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:40:56.37 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「その上、やっと壺から解放されたとしても、
その時にはもう独りぼっちです」
( ・∀・)「独りぼっちになるとは限らないんじゃないかな」
o川;゚ー)o「でもっ、解放されるのは自分の知らない場所でしょうし、月日も経っていて―――」
( ・∀・)「現に君には、僕がついているじゃないか」
我ながら臭いセリフだと思ったが、ついついそう漏らしてしまった。
o川* ー )o「……そうなんですかね?」
キュートは俯き、恐る恐るといった様子でそう言った。
何とかして彼女を安心させてやりたいという感情が、僕の心中で鎌首をもたげる。
( ・∀・)「ああ、その通りだ」
o川* ー )o「私、もう一人じゃないんですね?」
( ・∀・)「そうだ、君はもう一人じゃない」
o川* ー )o「……えへへ」
o川*^ー^)o「凄く嬉しいです」
そうして浮かべたキュートの笑顔は、純粋に可愛かった。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:44:18.03 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「それじゃあ願い事を言うよ」
o川*゚−゚)o「……」
( ・∀・)「壺を、壊して欲しい」
o川;゚ー)o「えっ!?」
( ・∀・)「もう一度言う、君が入っていた壺を壊してくれ」
o川*゚ー゚)o「成る程、そうくるとは」
初めは面食らった顔をしていたキュートだが、すぐに僕の意図を悟ってくれだようだった。
僕の願いはこの胸糞悪い連鎖を、根本から断ち切ること。
o川* ー )o「優しいね。その願いは私を解放する為のものなんだよね。
まったく、かなわないなぁ」
( ・∀・)「持ち上げ過ぎだって」
o川*゚ー゚)o「そんなことありません。大抵の人は他人を救う為には、
得体の知れない存在に深入りしようとはしませんよ」
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:45:30.46 ID:e07ztftgO
- o川*゚ー゚)o「それじゃ、契約を結びましょう」
キュートはそう言うと僕の手を握り締めてきた。
彼女の手は驚くほど小さく、しかし暖かだった。
o川*゚ー゚)o「願い事を言って下さい、主様」
( ・∀・)「モララーだ」
o川*゚ー゚)o「えっ?」
( ・∀・)「僕の名前はモララーだ」
o川*゚ー゚)o「モララーさん、かぁ」
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:47:01.48 ID:e07ztftgO
- 「それではモララーさん、貴方の願い事は?」
「壺を、連鎖を、叩き壊すこと」
「その願い、聞き届けました」
ぱりん
驚くほど軽快な音を立て、彼女の呪縛は砕け散った。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:48:23.19 ID:e07ztftgO
- 壺を破壊してから半月が経過した。
o川*゚ー゚)o「ごっしごしー、ごっしごしー」
結局というかなんというか、キュートは僕が引き取った。
金はまあ、贅沢しなければなんとかなる。
彼女には戸籍が無いのでこの先困る機会もあるだろうが、それはその都度考えるとしよう。
o川*^ー^)o「モララーさん、掃除終わったよ」
よそよそしい言葉遣いは止めてもらった。
初めは慣れないようだったが、最近はすっかり板に付いてきた。
( ・∀・)「おっ、ありがとな」
o川*゚ー゚)o「いいのいいの。
これぐらい未来の妻としては当然の努めだよ」
o川*////)o「……なんちゃって」
( ・∀・)「ませた奴め」
o川;゚ー)o「あーっ、髪わしゃわしゃしないでよ!
いつもいつも子供扱いするなー!」
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:49:50.47 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「そういえば今夜、河原で花火大会があるんだ。
折角だし行ってみよう」
o川*゚ー゚)o「はなび?」
( ・∀・)「ああ、凄く綺麗なんだよ」
o川*^ー^)o「どんなものなのか楽しみだな」
( ・∀・)「きっと満足して貰えると思うよ」
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:52:44.82 ID:e07ztftgO
- ( ・∀・)「キュートはちっこいから、花火を見る時は僕が肩車してやるな」
O川;゚ー)O「うー、また子供扱いする!」
o川*゚ー゚)o「こうなったら……奥の手!」
(;・∀・)「いや、おい、暑いからべたつくなよ」
o川*-ー)o「へへーん、ちょっとはドキドキした?」
( ・∀・)「いや、今の行動のどこにドキドキする要素が?」
(;・∀・)「って、いたたっ、髪を引っ張るな!」
o川#;ー;)o「モララーさんの馬鹿馬鹿、今のは深ーく傷付いた!」
( ・∀・)「ああっ、もしかしてお前、胸を押し当てようとしたのか?」
o川#////)o「今更気付くなあっ!!」
( ・∀・)「押し当てる胸も無い癖に」
o川#;ー;)o「これから育つ予定だもん!!」
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:53:49.88 ID:e07ztftgO
- まあ色々と前途多難だけど。
o川*゚ー゚)o「モララーさん、早く花火見に行こう?」
(;・∀・)「ちょwwwまだ日も沈んでないってのにwwwww」
o川;-ー)o「うー」
僕の夏休みは思いの外充実していた訳で。
( ・∀・)「なあキュート」
o川*゚ー゚)o「ん?」
( ・∀・)「もうじき大学が始まるから下宿に戻るけど、お前も付いてくるか?」
o川*^ー^)o「もちろんだよ!」
なんだかんだでこれから先の毎日も楽しいんだろうなって、そんな予感がする。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 17:56:06.68 ID:e07ztftgO
- 少し時は流れ、花火大会。
o川*゚ー゚)o「わーっ、本当だ、花火って綺麗!
……ンさんにも見せてあげたいなぁ……」
(;・∀・)「綺麗なのはいいんだけど、ちょっと身を乗り出し過ぎだぞ。
肩車って案外しんどいんだからな」
o川*^ー^)o「えへへ、感謝してるよモララーさんっ!」
(;・∀・)「まったく」
http://vipmain.sakura.ne.jp/light_novels/novels_img/092.jpg
o川*゚ー゚)o「あっ、ハート型の花火!」
( ・∀・)「ああいうのってどう作るんだろうな」
o川*゚ー゚)o「不思議だね」
( ・∀・)「うん、不思議だ」
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 18:02:01.08 ID:e07ztftgO
- 熱気に、汗が頬を伝う。
と、一際目立つ大輪が夜空を飾った。
それを皮切りに次々と色鮮やかな花火が打ち上げられていく。
「貴方に会えてよかった」
花火の音に紛れ、そんな声が背中の方から聞こえてきた。
「これからもよろしく」
同じく花火に紛れさせ、僕はそう返事した。
今宵の夜風は不思議と涼やかだ。
〜本編FIN〜
関連作品:o川*゚ー゚)o 物語は不思議な壺から飛び出してきたようです・番外編
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