川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです
- 2: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:07:40
川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです
プロローグ
- 3: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:09:19
- 川 ゚ -゚)「……」
海辺の静かな街道を走る車の窓からは、綺麗な海がどこまでも広がっていた。
地平線の彼方まで続く青い海と青い空は、吸い込まれそうなほどに美しく、
私は自然とその景色に魅了され、ノスタルジックにたたずんでしまっていた。
('A`)「おいクー、そんなに窓ばっかり見ていて楽しいか?」
そんな私に声をかけてきた男が一人。
車の助手席に座る私から見て、すぐ右隣の運転席にいるその男の名は、ドクオといった。
川 ゚ -゚)「ドクオ、私は窓を見ているんじゃないよ。海を見ているんだ。綺麗だろう」
('A`)「海、ねえ」
目の前の赤信号で車が停止すると、首だけ軽く動かして、
ドクオも同じようにその景色を眺めた。
だが、ドクオはすぐにため息をひとつついて、
首を戻すと再びハンドルを握りなおし、フロントガラスを見つめてしまった。
- 4: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:10:56
- ('A`)「確かに海は綺麗だねえ。でも、そんなに見ていて面白いものかね」
青になった信号に目をやり、車を動かせると同時にドクオはそうつぶやいた。
川 ゚ -゚)「なんだい、随分とドクオは淡白だな。
地元では、こんな長閑な景色なんて見ることができないじゃないか」
(´・ω・`)「まあまあ、ドクオは根っからの都会人だからね」
今度は、後部座席に腰を下ろしているショボも笑った。
('A`)「なんだよ、みんなしてさー。
大体、都会人っておまえらもじゃねーかよー」
ドクオの言葉に、3人ともどっと笑う。
相変わらず、私たちは仲が良かった。
- 5: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:12:05
- 私は、名前を沙緒空琉(すなお くうる)と言う。皆からは、クーと呼ばれている。
車を運転している、やつれた顔をした男が毒島武雄(ぶすじま たけお)。通称ドクオ。
後部座席で、しっかりとシートベルトを締めて座っている男は、
倉島庶凡(くらしま しょぼん)といって、ショボというあだ名がついている。
私たちは、東京のとある大学の同じ愛好会に所属しており、今回はその慰安旅行と言うことで
東京からは随分とはなれた、とある孤島に足を運んでいるわけである。
朝早くに新幹線に乗り込み、
そこからタクシーを使って港まで行き、港からは慣れないフェリーに乗った。
乗り物酔いをしやすかったドクオは、広大なる海に液体を戻していたが、
私としてはフェリーから見る景色も新鮮であった。
薄っすらと帯を引くフェリーの通った道は、海の青さよりも更に青く透き通り、
その青い海の上には、ウミネコが私の真横を通るようにして飛び回っていたものだ。
フェリーでの船旅は数時間にもわたったのだが、私はその全てを甲板で過ごしていた。
ショボはというと、寝ていたらしい。
- 6: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:13:44
- 孤島についた私たちは、港のすぐ近くでレンタカーを借り、
そのレンタカーで今回宿泊する旅館に今向かっているのであった。
私たちのいる孤島は、本当に日本の中でも小さな孤島で、
1時間と少しあれば、車で島を1週できてしまうほどの大きさだ。
ちなみに、この私たちが所属している愛好会なのだが、部員は私たち3人しかいないのだ。
愛好会と言う方は、いささか語弊がある。私たちが所属しているのは、
超常現象研究会という、見事に不気味な会なのである。
活動内容はいたって単純で、超常現象を探すと言う名目の元、
実際は部室でぐだぐだと過ごす日々を送っているだけであったりする。
それこそまさに、どこか北高の、なんたらかんたら団と相似しているわけであって、
今回の旅行の名目も、実際は人気のない孤島で超常現象を発見しよう、というものなのだ。
もっとも私は超常現象だなんてものは信じてなどいないし、
それでなぜこの部活にいるかと言えば、この2人が昔から私にとって掛け替えのない友人だったからだ。
だから、変な目的を除けば、この旅行もすごく楽しみであった。
- 7: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:15:11
- (´・ω・`)「お、あの山かな」
ショボの声で、ふと窓から先のほうに視線をやると、
海沿いに1つ、大きな山があった。
私たちが現在走っている道路はその山の中に続いていて、
今回宿泊する旅館は、その中腹にあるのだという。
('A`)「だな。ま、到着まであと10分ってとこかな。
自然がいっぱいらしいなー。楽しみだな」
先ほどまで、景色なんか目にもくれなかったドクオが、自然がいっぱいで楽しみだと言っている。
こいつの考えは相変わらず良く分からん、と思いながらも、私も自然を眺めるのが好きなので、
その点に至ってはすごく楽しみなのであった。
やがて車は山道に入り、長いトンネルを抜けると、狭い車線の道路に出た。
その道路はガードレールなどもなく、周りを背の高い木々におおわれているだけの、
本当にど田舎の山道と言う感じであったので、都会人の私たちには新鮮すぎて、目を丸くしてしまった。
- 8: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:16:21
川;゚ -゚)「ドドドドクオ! 落ちるなよ!」
(;'A`)「おちゃーしねえよ。ったく」
道路の幅は次第に狭くなっていって、それでいながらも、
丁度助手席にある私のほうは、下が谷になっていた。
ドクオは出来るだけ山のほうによって走っていたが、慣れていないものだから、非常に恐怖を感じた。
(´・ω・`)「お、おお!」
やがてショボの歓声が聞こえると、道が一気に広くなって、急な坂道が目の前に迫った。
ドクオが勢いよくアクセルを踏み、坂道を登るともうそこが旅館の駐車場となっていた。
私たちの目の前に現れたその旅館は、山の中に似つかないコンクリートの上に、
しかし木々におおわれながら、どっしりとその白い体を佇めていた。
決して、都会の旅館なんかと比べてしまえば大きくはなかったのだが、
旅館の後ろのほうに見える海と空が合わさって、すごく美しく見えた。
- 9: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:17:43
- 駐車場に車を止め、ドクオがハンドブレーキをひき、エンジンを切る。
('A`)「うん、ここで間違いないな。
うし、降りるとするか」
車のドアを開けると、車の冷房に慣れすぎたようで、
さんさんと差し込む日光が妙に暑かった。
車から降り、改めてその旅館を見ると、
やはり風景美という言葉が浮かんでくるほどに、美しかった。
旅館を美しいと言うのは何か変かもしれないが、
そう思うまでに、旅館が風景に溶け込んでいたのだった。
(´・ω・`)「んー、チェックインまで、あと15分くらいあるね」
ショボが腕時計を見ながら、そう言った。
早く来すぎたようだが、それくらいの心を持っていることは大事であろう。
('A`)「つっても、ここ何もねえしな。
ちょっと、景色みてくるわ」
ドクオはそういいながら、旅館の裏側に回るようにして、海の見える方向へと歩いていった。
私もついていこうと思ったのだが、
私は風に揺れる木々に目を奪われ、暫くここで周りを眺めていようと思った。
- 10: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:18:39
(´・ω・`)「じゃあ、僕もちょっと向こうで景色を見てくるよ」
川 ゚ -゚)「わかった。気をつけてな」
ショボもそう言うと、林の中へと入り込み、そこからふもとを見渡せるような場所に行ってしまった。
1人取り残された私だが、気がつくと私たちの車の横に、白い車が1台止まっていた。
おそらく、既にこの旅館の中に宿泊しているお客さんがいるか、従業員用の車なのだろうと解釈した。
川 ゚ -゚)「んー!」
自然に囲まれた景色の中で、思い切り伸びをする。
なまっていた体の筋肉がほぐされ、うまい空気を吸い込むと、めまいがした。
本当に、気持ちのいいところだ。
幼少から都会で育った私は、そう思っていた。
- 11: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:19:38
本当に、気持ちのいいところだと。
いい旅行になるだろうと。
そう、思っていたのだった。
プロローグ 終
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