川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

12: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:23:30



川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

1、長閑な景色広がる孤島



13: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:24:39

空気を思い切り吸い込み、硬いコンクリートに腰を下ろす。
不思議と、都会のコンクリートのような、ごつごつとした無機質な感じはしなかった。

ドクオとショボは、もう私の視界からでは姿が見えなくなってしまっていた。
そのうち戻ってくるだろう、と、私はだらしなくそのばに寝転がって、青い空を見上げることにした。


(*゚∀゚)「やあ! 君たち、この旅館に宿泊するのかい?」

その時、ふと、声がした。

起き上がりそちらを振り向くと、よく日に焼けた褐色の肌に赤いワンピースをきた女性が、
にこやかにこちらを見ているではないか。

女の中では背が高い私よりも、さらに背が高く、
それでいて整った顔をしていて、たおやかな女性だった。

どうやら、山道から歩いてきたらしい。
地元の人か、それとも旅館の宿泊客で、散歩にでも出かけていたのだろうか。



14: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:26:15

川 ゚ -゚)「ええ。私と、あと2人、今は景色を見に行ってるんですが、一緒に泊まりに来ました。
     あなたも、この……なんというんでしょう、一風変わった旅館に宿泊されているんですか?」

(*゚∀゚)「はは、変わった旅館かあ。
     私は、ここの旅館の従業員で、つーっていうんだ。
     確かに、ちょっと変わったところに建ってるんだけど……気に入ってもらえると嬉しいなあ」

川;゚ -゚)「あ、これは失礼……」

つーと名乗った女性は、なんとこの旅館の従業員だった。
変わった旅館と言ってしまったのは、悪い意味で言ったのではないが、失態であっただろう。

それでも、つーさんは明るい表情を見せてくれていた。

(*゚∀゚)「まあ、確かに変わった場所に建っているからね。
     こんな何も無い孤島にあるけど、景色は綺麗でしょ?」

彼女が振り向き、見つめた景色は本当にとても美しかった。
緑の生い茂る林の向こう側には、青い海がどこまでも続いていて、ほのかな潮風は髪を静かになぜていく。

生まれてから暮らしてきた町で、常日頃見てきた無機質な建物の林と比べれば、
こんな孤島の山奥に建っているという変わった点も含めて、とても落ち着いたのどかな場所であると感じた。



15: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:28:06

川 ゚ -゚)「綺麗ですね。
     私の生まれた町には、こんな自然な景色はありません」

(*゚∀゚)「おや? 都会の人なのかい?」

川 ゚ -゚)「ええ。私は東京から来ましたから」

(*゚∀゚)「へえ! 東京かあ、首都じゃん! 凄いなあ!」

川;゚ -゚)「そうですかね?」


話を聞くと、つーさんはこの島で生まれ、この島で育ったと言う。

東京なんていうと、本当にテレビでしか見たことがないのだとか。
逆を言えば、私もこんな孤島はテレビでしか見たことがないものであった。

現地の人と接して初めて、自分が都会者なのだと理解できる。
この自然いっぱいの景色を良いと思っている時点で、私は都会に侵食されているのだな。

と、1人毒づいてみたりした。



16: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:29:04

('A`)「おーい、クー!」

ドクオがのっしりと、旅館の裏手から歩いて出てきた。
すぐに私の横にいるつーさんに気づいたようで、軽く会釈をしていた。

('A`)「こちらの方は?」

私の横に並んだドクオに、旅館の従業員で、つーという名前の女性だと言うことを告げると、
律儀にもドクオは身に着けていた帽子を外して、礼をした。

(*゚∀゚)「へへ、泊まりにきてくれてありがとうね。嬉しいな」

やがてショボもこちらに戻ってきて、つーさんと暫く話をしていると、
もう時刻はあっという間にチェックインの時間となった。


私たちは、つーさんに誘導されて、ロビーへ向かうこととなった。



17: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:30:10

(´・ω・`)「しかし、本当に立派な建物ですね」

(*゚∀゚)「はは、ありがと。この旅館はね、私の宝物なんだ」

('A`)「そりゃあ、宝物ですよねー。こんな美しい景色に囲まれて」

車の中ではそっけなかったと言うのに、このドクオの態度の変わりようは何だろう。

川 ゚ -゚)「だが、本当にいい旅館です。
     私は、ここに泊まることにして正解だと思ってますよ」

(*゚∀゚)「お! 言ってくれるじゃん〜。じゃあ、また来たいと思わせるようにお姉さん頑張っちゃうからね!」

(*'A`)「おっ……おお! 期待してますよ!」

(*´・ω・`)「フヒヒヒ、やっぱり田舎はいいですねえ」

川;゚ -゚)「…………」



18: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:31:02

ロビーに入ると、その内装はいかにも日本風で小奇麗だった。

床は薄黒い石床で、すぐ前にはちょっと洋風な階段があったが、
左の方にはたたみが敷かれている和風な休憩室があって、
右の方に行くと、どうやら露天風呂のある建物に繋がっているらしかった。

しばらくその風景をぼーっと眺めている私たちをよそに、つーさんがすぐに受付のカウンターに立ち、
とりあえずのチェックインを済ませると、つーさんは何やら、これから買いだしに行かなくてはいけないといって、
そそくさと私たちの前を去っていった。


川 ゚ -゚)「さて、これからだが……」

とりあえず部屋の鍵を手に持ち、後ろのほうにいるドクオとショボと話し合おうと振り返った私だが。

(*'A`)

(*´・ω・`)

その二人が妙に内股になってもじもじしている姿を見て、なんだか気持ちが悪くなった。



19: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:32:19

川 ゚ -゚)「どうしたんだ」

冷ややかな視線でたずねてみれば、ぼそっと小声でドクオが言う。


(*'A`)「ちょっと……うん……」

(*´・ω・`)「お通じしたい」


ショボのぷりっとした尻を蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、
私はそれをこらえて、便所に行くよう冷静に催促をした。

幸いにも便所は、私の前方にある階段のすぐ横にあったようで、
二人はいそいそとそこに駆け込んでいった。



20: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:32:54

川 ゚ -゚)「さて、私は……」

私は何をしていようか。
つーさんはいなくなってしまったし、どうにもがらんとしていて、客の気配もない。

孤島にある旅館とはいえ、まさか客が私たちしかいないほどに辺鄙なのではないだろうか。
と、思ってしまった矢先に、休憩室のほうから何か物音がしたのに気づいた。

川 ゚ -゚)「なんだろう」

少し足を進めて休憩室のほうを見てみれば、私の先ほどの立ち位置からは
ふすまの死角で見えなかった部分に、若い男性と女性の姿があった。

その男性と女性も私の足音に気がついたようで、こちらのほうに目を向けてくれていた。



21: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:34:18

( ^ω^)「お? あなたも旅行者ですかお?」

履物を脱ぎ、休憩室にあがったところで、男性のほうが私に話しかけてきた。
私といくばくも歳の変わらなさそうな、おだやかな顔をした人であった。

そしてその男性の横の女性は、男性の腕に自分の腕を組みながら
笑ってこちらを見ていて、金髪のそれはもう美しい人であった。

川 ゚ -゚)「ええ。あなた方もこの旅館に宿泊されるんですか?」

とりあえずの相槌を返す。
初対面の人と会話をするのは苦手であったが、この男性の前では、そういった気分にならなかった。


( ^ω^)「おっおっお。そうだお。
       僕はブーンといって、熊本県の大学生ですお。
       夏休みを使って、僕の横にいるツンと旅行にきたんだお。
       ほら、ツンも挨拶するお」

ξ゚ー゚)ξ「ツンです、よろしく。
      私もブーンと同じ大学の生徒なんです。
      あなたも大学生くらいに見えるけど、そうかしら?」

男性……ブーンさん。ではなく、ツンさんから差し伸べられた手を見て、
私もはっとして立ち上がり、その手を握り返して笑顔を作る。



22: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:35:28

川 ゚ -゚)「私はクーです。
     私は東京都で大学生をやっています。
     この島には友人たちと旅行に来ました。今はトイレにいますけど」

ξ゚听)ξ「あら、東京ですって? 随分と都会から来ているのねえ」

都会という言葉も無理はなかった。
熊本というと実は私の母の実家があるのだが、そこに住んでいる祖父の家から
見える景色ときたら、それはもうこの孤島のような自然いっぱいの景色なのだ。

私がこの島を田舎だと思っている時点で、やはり私は都会の人間なんだと自覚してしまう。


( ^ω^)「東京からというと、遠路はるばるご苦労様だお。
       しかしまあ、旅行といっても、よくもまあこんな辺鄙な島にきましたお」

川 ゚ -゚)「辺鄙、ですかね。
     私みたいな都会の人間からすると、このくらいの環境は羨ましく思いますし、
     なんだか自然に触れられて、とても良い気分ですよ」

ξ゚听)ξ「へー、都会の人でもそんなこと思うんですね。
      てっきり、田舎くさくて性にあいません、って言うんじゃないかと思ったわ」

(;^ω^)「ツ、ツン!」

さらっと、私の胸にグサーッと突き刺さるような言葉を言い放ったツンさん。
あわててブーンさんがその口をふさぎ、私のほうに向かって何度も頭を下げてきた。



23: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:37:04

川;゚ -゚)「お構いなく」

ブーンさんに手のひらを向けて、それを制止している私であったが、
心の中で考えてみると、やっぱり地方の人というのは都会を嫌っているのかなあ、と考えてしまうものだった。

それに加えて、私がこの孤島に旅行にやってきた目的は、不気味な孤島における超常現象の研究
なんていうわけなのだから、それすらも白状したのならば、ブーンさんにまで呆れられてしまいかねない。


ξ゚听)ξ「……ちょっといいすぎたわ。ごめんなさい。
     でも、あなたはどうしてこの島に旅行に来ることにしたの?
     東京から来たって言うんじゃ、新幹線にでも乗って、更にフェリーにでも乗って……大変じゃない?」

川;゚ -゚)「え? えーと、それは……自然と触れ合いたかったからでありましてね。
      この孤島をとあるガイドブックで見かけましてね、その写真に載っていた風景に惹かれまして」


そういうわけでこんなことを言ったのだが、あながち嘘ではないのである。

この島を選んだ理由は、ドクオが持ってきた、
いかにも売れていなさそうな旅行ガイドブックの中から、
いかにも何もなさそう、かつ不気味な雰囲気をかもし出す写真を選び出したのだ。

それがこの島だったというわけだ。



24: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:38:44

( ^ω^)「お……この島の写真、ですかお?
       そのパンフレット、今お持ちではありませんかお?」

川 ゚ -゚)「ん? ああ、ありますよ」

ブーンさんが突然眼の色を変えて、私の鞄のほうを見つめてきた。

視線の先をまさぐり、私が鞄の中から一冊の薄っぺらいガイドブックを出すと、横にいたツンさんも、きゃー!
なんて叫んで、私からそのガイドブックをひったくると、ばらばらとページをめくり始めた。

ξ*゚听)ξ「きゃー! きゃー! クーさん、あなたこのガイドブックを見てこの島に来たのね!?」

川 ゚ -゚)「ええ、まあ」

突然の事態に呆けている私に、そんな言葉が投げかけられた。

どうかしたのだろうか。
そう思っていると、ブーンさんが妙ににやけた顔で私のほうを見てきた。



25: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:39:29

( ^ω^)「フヒヒ、この写真は僕が撮ったものなんですお。
      この島の役所が、島の風景をよく映し出す写真って言うのを募集していましてねお。
      いやー、まさか僕の写真でこの島に訪れてくれる人がいたとは! 感激で涙が出そうだお……」

ξ゚ー゚)ξ「ブーンはね、プロのカメラマンを目指してるの。
     いつか人を感動させる写真をとるんだっ! って言ってね」

ああ、なるほど。
つーさんの言っていた旅行好きの二人というのは、この人たちのことだったのか。

それで私たちがブーンさんの写真を見てこの旅館に来た、初めてのお客なわけだ。

そりゃあ嬉しくもなるだろうと、まあ理解はできるのだが、
ニヤニヤしながら、フヒヒフヒヒと言いながら、私のガイドブックをいつまでも
手放さないことに関してはちょっと感心できないものです。



26: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:41:00

( ^ω^)「ほら、これつーさんって言って、ここの旅館の従業員であり、オーナーの妹さんなんだお!」

ブーンさんが私のほうにパンフレットを向けて、ある写真を指さしながら言った。

その写真は、青い空と青い海、そしてこの白い旅館をバックにして撮られた1枚の写真で、
ブーンさんの指が乗っかっている中央部分辺りにつーさんと、もう一人、その横に男の人がいた。

男の人は年端がつーさんとそこまで変わらないほどに若く見え、ごわごわとした
艶やかな長い黒髪と、浅黒い肌を持った筋骨隆々の青年で、つーさんと同じく笑顔がまぶしかった。

川 ゚ -゚)「彼は?」

ξ゚听)ξ「フサさんっていうの。
     つーさんのお兄さんで、この旅館を一緒に経営してるのよ」

ほう、驚いた。
要するに、この旅館のオーナーが写真のフサさん。
そしてその妹がつーさん。つまり、ここは兄妹で運営する小さな旅館だったというわけだ。

確かに写真の顔を見ると、よく似ている。笑顔の口元なんかそっくりだ。
その写真を見ていると、私は不思議と穏やかな気持ちとなり、
この孤島の旅館に来たことが、幾ばくか楽しくなったような気がした。



27: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:42:09

川 ゚ -゚)「おや?」

その写真の片隅に。
小さく、こちらの様子を勝手口からのぞいている男の姿が見えた。

いかにもやつれたお爺さんという感じの風貌で、だがその眼はぎょろりとしていた。

川 ゚ -゚)「このお爺さんは?」

( ^ω^)「ああ、この人はモララーさんといってお。ここの料理長を務める人なんだお。
     まあ、料理長って言っても、この旅館はお客さんも部屋も少ないから、
     つーさんとモララーさんの二人で料理を作ってくれるんだけどおね。
     モララーさんたちの作った料理はそれはもう美味しくて、ほっぺたがとろけ落ちるんだお!
     あ、ほら、このガイドブックのここにも書いてあるお」


ガイドブックには、確かにそんな見出しがあった。

料理長紹介、モララーさん。
御年はなんとまだ50歳だと言うのだが、年よりも物凄く老けて見える。
ガイドブックに載っている写真を見ると、先ほどの写真ではわからなかったが、
顔には無数に小じわとしみがあり、黒髪が多々混じる頭髪のほとんどは白髪であった。

随分、苦労な生活でもしてきたのであろうか。
その写真にあった笑顔は、冷めているような感じさえした。



28: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:43:58

ξ゚听)ξ「ここの従業員って、実は片手で数えられるくらいしかいないのよね。
     オーナーのフサさんでしょ、妹で従業員のつーさんでしょ、それから料理長のモララーさん。
     それから……えーと……」

( ^ω^)「あとは、もう一人従業員にミルナさんって人がいるんだけど、今は帰省中らしいお」

川;゚ -゚)「では、たった4人で旅館を運営しているんですか……?」

現在、この旅館には私とドクオとショボの3人のほか、
ブーンさんとツンさんと、少なく見積もっても客が5人いる。

旅館の規模は確かに小さいが、やはり従業員が4人ともなると、いささか少なすぎる気がした。
だが、ブーンさんはそんな私を見ても、おっおっおと相変わらずにやけたままなのである。


( ^ω^)「知らないのかお? この旅館は2部屋しかないんだお。
      なんでも、昔から客室を増やさないで、2組様までって決めてるらしいんだお。
      だから従業員もそんなに要らないってわけだお。ちなみに、今回の2組は僕たちとクーさん達ってわけだお」

川 ゚ -゚)「ふた……へや……?」

私は今日の夜中にロビーで睡眠をとることを決意し、それと同時に便所の扉をキッと睨み付けてみた。

するとそのドアが丁度よく開いて、中からいかにもスッキリした顔をした男2人が顔をのぞかせたではないか。



29: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:44:57

(*'A`)「あー、マジスッキリした! 
    スッキリしたら超お腹減ったし♪ なーんちて」

(*´・ω・`)「孤島のWCマジ最高!!
      窓からのぞく自然……これぞ露天便所! なーんちゃって」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「……………」

川;゚ -゚)(うわあ……)

やっちまったナウ!
なーんて言葉では済ませられないくらい、相変わらず気持ち悪い二人でした。

ブーンさんとツンさんは完全にひいていました。
彼らはスッキリしているのでしょうが、わたしはモヤっとしていました。


('A`)「あ、おーい、クー!」

そしてその男は、あろうことか私に手を振って近づいてきたのだから、さあ大変です。



30: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:45:57

(;^ω^)「えーと……お友達、かお?」

いつの間にか私の横に立っていたドクオとショボをみて、ブーンさんがそう言った。
その視線は、ちらちらと私とツンさんの方を行き来している。ツンさんも同じだった。

(´・ω・`)「え? なにクー、もう友達を作ったの?
      あ、初めまして。僕はショボと言います、よろしく」

('A`)「え、あ、俺はドクオです。俺もショボも、クーの同級生なんです。よろしくです」

ドクオとショボが差し出したその手だが、一つ間を置いて
ブーンさんが二人にそれぞれ握り返した。当たり前だが、ツンさんは握らなかった。

(;^ω^)「あー、えーと。僕はブーンだお。
      熊本から旅行にきたんだお。クーさんとは、さっきここで知り合って話してたんだお」

ξ;゚听)ξ「わ、私はツンです。
      ブーンと一緒に旅行に来ました。よろしく……」

ブーンとツンさんがお互いに顔を見合わせて、
それで一緒に私のほうを冷ややかな視線で見たときには、本気で死にたくなりました。



31: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:47:21


( ^ω^)「お、もうこんな時間かお」

ブーンさんがハッとして腕時計を見つめた。
私も何気なく自分の腕時計に目をやると、ブーンさんと出会ってから、10分ほどが経過していた。

よく考えれば、この男二人どもも随分と長いお通じをしていたものである。


ξ゚听)ξ「ブーン、はやくいこうよ」

( ^ω^)「おっおっお、わかってるお」

川 ゚ -゚)「おや、どこかに行かれるんですか?」

ブーンさんを急かしているツンさんの素振りを見て、もしかしたら
ドクオとショボに愛想をつかして、私たちの目の前から去ろうとしているのではないか?
と、思ってしまったのだが、どうやらそういうわけではなさそうであった。



32: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:48:07

( ^ω^)「役所にいって、この孤島のお偉いさんとお話しがあるんだお」

('A`)「お偉いさんと?
    ブーンさん、この島じゃ顔が利く方なんですか?」

ξ゚听)ξ「んーん。別にそういうわけじゃなくて、次のガイドブックに使う写真を選定しに行くの。
     元々、今クーさんが持ってるガイドブックの写真は投稿応募でブーンが出した作品なんだけど、
     ブーンがこの島を大好きって言うことが伝わってくる写真だって言って、この島の市長さんがブーンを気に入っちゃってね」

(´・ω・`)「市長のお気に入りですか。すごいじゃないですか、ブーンさん」

(*^ω^)「いやははは。ありがたいお」


ご自慢のカメラを右手に持ちながら、私たちに笑いかけてきたブーンさん。
その横にいるツンさんも、本当に嬉しそうに笑っている。

そういう風景を見ると、本当に仲むつまじいカップルだなあ、と見ていて私も思わず微笑んでしまった。


それからブーンさんに、少しだけこの島の写真を見せていただいたのだが、どれも本当に美しい風景の写真だった。

目立った観光スポットなどはない島であるらしいが、それでも値段がつけられそうなほどの景色がたくさんあることが分かった。



33: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:49:23



( ^ω^)「じゃあ、行ってくるお」

ξ゚ー゚)ξ「また夕飯時にあいましょ」

ベッドが2つしかないという、とんでもない部屋に荷物を置いた私たちは、
旅館の駐車場で、日光を受けてさんさんと光る白い車に乗ったブーンさんとツンさんを見送った。
役所に行き、戻ってくるのは夕方だということである。


('A`)「さーて、俺たちもどこか回っていくか?」

ブーンさんたちが見えなくなったころ、ドクオはすぐ横に止まっている、
私たちが港から乗ってきた黒い車を指差してそう言った。

(´・ω・`)「いいんじゃない? 旅館にも特に何もないみたいだし。
       この島のいろいろな場所を巡ってみるのもいいかもしれないよ」

ショボの言葉ももっともだったのだが、私はどうも出かける気になれなかった。


それは、先ほどの空気の読めない会話でドクオとショボを嫌いになったからではなく、
笑われる話かもしれないが、ブーンさんたちと話していて、この旅館に興味を持ってしまい、
少しこの旅館をみて回りたくなってしまったからである。

滞在期間はどうせ3日もあるのだから、
島を回るのは明日……あわよくば、ブーンさんたちに案内していただく事もできるだろうから。



34: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:50:07

川 ゚ -゚)「私はちょっと疲れたんでね。
     部屋で休んでいてもいいかな」

ドクオたちからすれば、がっかりさせるような返事だったろうが、彼らには特にそんな素振りもなかった。

('A`)「ん、そっか。なら、俺とショボでちょっとぐるーっと回ってくるよ。
    そんで、明日クーも一緒に島を回る……ってんでどうだい?」

(´・ω・`)「そうだね。一回島を走ったほうが、明日有意義に回れるもんね。
      ま、今日は慣れないフェリーに乗ったりして疲れたよね。休んでなよ」

川 ゚ -゚)「ありがとう。そうさせて貰うよ」

ドクオとショボとは、まだ数年の付き合いしかないが、
それでも彼らは私のことを大切な友人の一人だと思ってくれている。

それが私が、この奇妙な研究会にとどまり続ける理由でもあった。



35: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:51:15

('A`)「んじゃ、また後でな」

(´・ω・`)「なんか美味しそうなものでもあったら、買ってくるよ」

川 ゚ -゚)「ああ。ありがとう」

手を振り、先ほどのブーンさんたちと同じようにドクオとショボを見送った。

彼らの車が向かっていった山道は、まだ青い空に向かって続いていて、
なんだか私は、一人この場所に取り残されたように感じて、物悲しくなってしまった。


結局、私はこれからのことを何も考えてなどいなかった。
自分でも良く分からないほどに、興味をそそられた旅館をもう一度見る。

その建物は、やはり美しかった。

周りの自然と溶け込むようにしてそこに荘厳として建っており、
不思議と神秘的な雰囲気をかもし出している気さえした。

その旅館の裏側に、ロビーのある本館とはまた別の、もう一つの建物を見つけた。



36: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:52:02

確かあれは、露天風呂やらゲームセンターに繋がっている建物であった。

それを思い出したとき、私は本当に自分が疲れていることに気づき、
温泉にでも入って疲れを癒すことにでもしよう、という考えを抱いた。

思えば、朝早くから新幹線に乗り込み、慣れないフェリーに乗り、
ドクオの下手糞な運転でここまで来たのだ。疲労がたまっているものうなずけた。


私はすぐに部屋に向かい、鞄から入浴に必要な用具を取り出し、
しっかりと部屋の鍵をかけて、その離れの風呂に向かうことにした。



37: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:52:47



川 ゚ -゚)「おお……」

露天風呂へと繋がる建物へ行くには、ロビーのあった場所から
中庭へと続く通路へ出て、中庭を経由して行く必要があった。

そのため私が中庭に出たとき、強烈な日差しと共に、その隅のベンチで腰掛け、
タバコをふかしている初老の人の姿が見えた。

麦藁帽子を被っているのだが、その下からは黒混じりの白髪がのぞいていた。
服装も、小奇麗な青いサスペンダーパンツと白いシャツを着ていて、農家の人間を思わせる風貌だった。

しかし、私にはこの人物に心当たりがあり、声をかけてみることにした。


川 ゚ -゚)「もし、そこの方、ちょっと宜しいでしょうか?」

( ・∀・)「んぁ?」

老人はタバコを右手に持ったまま、顔のほうだけを私に向けた。

その人物は間違いなく、先ほどガイドブックで見たモララー料理長だったのだが、
写真でみるよりもずっと顔はしわがれていて、その声も覇気がなかった。



38: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:53:46

川 ゚ -゚)「私はこの旅館に宿泊することになった、クーといいます。
     このガイドブックであなたの写真を見かけまして……挨拶をしておこうかと」

( ・∀・)「ほほー、ガイドブック言いますと、ブーンさん撮られたあの写真ではりますね。
      どれ、ちいと見せては貰えませんかねえ」

私がタバコの煙を疎ましそうに顔をしかめたのを察してか、
目の前の灰皿にタバコを捨てると、モララーさんは私を隣に座らせるように催促して、
そのまま私のガイドブックを手に取り読み始めた。

横に並んでみてはじめてわかったものだが、随分と背の高い人であった。
先ほど会ったブーンさんも背は高かったが、彼は年を食っているのにそれよりも高いのだ。


( ・∀・)「かーぁ、ええですな。私の大好きなこの島がぁ、こうやって紹介されてて。
       それを見たお客さんがこうして泊まりにきてくれるさ、嬉しいことですね」

川 ゚ -゚)「ブーンさんとは、お知り合いなんですか?」

( ・∀・)「んぁ、ブーンさんは毎年この時期になると、この島に滞在しはりますんね。
       そいでさ、私たちのこの旅館にいつも泊まってくれるんです。ありがてえことです。
       いつも一緒に来てるツンちゃんも、えれえべっぴんさんですなあ。いや、どんどん綺麗になってますな」

ガイドブックを私に手渡しながら、モララーさんは遠い目で空を見上げつつ言った。



39: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:54:37

川 ゚ -゚)「ブーンさんは何年前からこの島に?」

( ・∀・)「あー、ブーンさんねえ。5年くらい前かの」

驚いた。
5年前と言うと、どう見積もってもブーンさんは高校生である。

川 ゚ -゚)「5年……というと、この旅館、結構古くからあるんですか?」

( ・∀・)「そらありまさ。この旅館さ、25年まえからありますんね」

25年。これも、驚きを隠せない年数であった。

旅館は勿論、塗り替えや整備を幾度も行っているのだろうが、
それらを考えても、設立からの年数を思わせないほどによく綺麗に整備されている。


川 ゚ -゚)「……オーナーのフサさんやつーさんが、
     この旅館をとても大事に思っているんでしょうね。
     いやはや、この旅館も良い主にめぐり合えて良かったものですね」

うん。ここまで旅館が綺麗ということは、従業員たちが旅館を大切に思っているからに違いない。
勿論、それはこのモララーさんも含めて。すばらしいことである。


だけど、私がそう言った瞬間に、モララーさんの眉が不気味にぴくりと動いた……そんな気がした。



40: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:56:07

モララーさんは懐から一本タバコを取り出そうとして、
しかし私のほうをちらりと見ると、その手をすぐ引っ込め、空を見上げた。

( ・∀・)「この旅館さ、25年前に建っとります。
       当時のオーナーのこと、しっとりますか?」

川 ゚ -゚)「当時のオーナー……ですか? 知らないですね」

つーさんは、その外見から年齢を判断させていただけば、丁度25歳ほど……つまり、この旅館と歳が近いはず。
お兄さんであるフサさんも、三十路を超えているようにはとても見えない。
という事は、確かに彼らの前のオーナーがいるはずである。

( ・∀・)「当時のオーナー、ギコさんとしぃさん言いましてね。
       そりゃーも、ギコさんは良い男で、しぃさんもそりゃあ良い女で。
       もう、お似合いすぎるカップルさんではりましたよ」

川 ゚ -゚)「なるほど。もしかして、その二人の子供が、つーさんとフサさんですか?」

( ・∀・)「さいでやす」

即答。
まさにそんな感じで、モララーさんは間髪いれずに私に返答をした。



41: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:56:59

( ・∀・)「元々この旅館さ、しぃさんの実家がやってはったんです。
      そこにギコさんが嫁ぎましてね、夫婦揃って旅館を始めることになりましたんね。
      そんでもて、お二人さんが結婚してすぐに元気な男の子が生まれはりました」

川 ゚ -゚)「フサさん、ですか」

モララーさんが、小さくうなずく。

( ・∀・)「んでもって数年後、つーちゃんが生まれはりました。
      そらあもう、しぃさんによう似とりましてな……」

彼の目は、昔を懐かしむように空にあった。


川 ゚ -゚)「つかぬ事をお聞きしますが、そんな前のことを知っているとは……。
     あなたはもしかして、そのころからこの旅館に?」

( ・∀・)「さいですよ。私は、25年前からずーっとこの旅館で料理長さ、させていただいとります」

25年前からと、彼は平然と言った。

確かガイドブックによると、モララーさんの御年は50歳であったのだから、
彼は25歳からずっとこの孤島のこの旅館で料理長を務めてきたことになるのだ。



42: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:58:05

( ・∀・)「いろんなことがありましたんね、25年もすると。
       フサもつーちゃんも大きくなりんやして。もう一人前ですなあ」

25年という歳月を、私は未だに生きてはいない。
私は大学三年生であって、誕生日は遅いほうなので現在丁度20歳だ。

それよりも更に5年を、モララーさんはこの島で、料理長をしながら過ごしたと言うのだから驚きである。

川 ゚ -゚)「そういえば1つ気になったのですが、その、フサさんとつーさんのお父さんとお母さんは
     どうなされたんでしょうか? この旅館の従業員としては働いていないようですが、ご隠居に?」

( ・∀・)「あー、あの2人ですかぁ」

モララーさんが、苦笑いをした。

その目は、あのブーンさんに見せてもらった写真のように、冷たくぎょろりとしていたような気がした。

( ・∀・)「ギコさんとしぃさんね、死にましたんね。……そうだ、丁度今から20年前にね。
       お2人で海に釣りに出かけましたときにね、ボートが転覆しやして。
       嵐の中、そのまま行方知れずですが、生きてはいないでしょうね。遺体もあがってませんたい……ひどいことです」



43: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:59:21

川;゚ -゚)「も……申し訳ない」

地雷であっただろうか。

モララーさんが現在50歳なのだから、同年代であろうギコさんとしぃさんが、
まさか亡くなっているとは私は思わなかったのである。


( ・∀・)「いんですよ。何年も前のことですからね。
      2人が死んでからはこの旅館さね、しぃさんの親族さ経営してきたんですが、
      フサが16になったとき、この旅館さ任せましてね。つーちゃんも、料理覚えなすって。
      そいで今に至るんでやすよ」

川 ゚ -゚)「それは、大変なことでしたね。
     モララーさんは、しぃさんの親族が経営しているときも、料理長を?」

( ・∀・)「さいでやす。料理長さ、私は25ん時から続けています。
      料理長なんていっても、ここの旅館は従業員も宿泊客も少ないですからね。
      料理を作っていたのは、実質私1人でしたわ、つーちゃんが料理手伝ってくれるまではね」


モララーさんが、ニカっと笑った。

きっと彼にとって、フサさんとつーさんはとても大事で、息子のような存在なのだろう。
そう、会話をしていて思えた。



44: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:00:06

( ・∀・)「さて、あんた、見たところ風呂に行くようだ。
      ここで立ち往生すんのも難でしょうし、さっさと入ってきたらいいですよ。
      私ぁ、これから夕飯の買出しに行かなきゃなりませんからね」

川 ゚ -゚)「え? ええ……」

買出しならば、先ほどつーさんが行くと言っていた気がしたのだが。
こんな山奥では、やはり携帯電話というものもないのだろうか。

私がそんな事を思っているうちに、モララーさんは本館へと入って、その姿は見えなくなった。



それから私は露天風呂につかり、体を癒した。

露天風呂からは、海と山と空を一望できて、本当に心から休まったと思った。

再びロビーに戻ると、そこはもうもぬけの殻であった。
何の物音もせず、旅館に私1人しかいないのではないかと考えると、少し不気味でひんやりとした。


少なくとも、どこかの部屋にオーナーのフサさんがいるのであろうが、
そのときの私は疲れていたので、さっさと自分の部屋に戻ると、ベッドに横になって眠ることにした。



45: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:00:54

――――――――――――――
――――――――
――――

('A`)「おい、クー。起きろよ」

川 ぅ -゚)「ん……」

次に私が目覚めたとき、窓の外には茜色の景色が広がっていた。
日が水平線に沈むところで、時刻はもう夕方を少しすぎたところだった。

重い瞼をもう少し開けると、ドクオの姿がはっきりと見えた。

川 ゚ -゚)「帰ったのか。ショボは?」

('A`)「まだ風呂に入ってるよ。
   おれはさっさと出てきちゃったんだけどな」

川 ゚ -゚)「長風呂だな。私はさっき、風呂には入ったよ」

('A`)「なんだ、そりゃあ都合がいい。
    これから飯だそうだ。食堂に集まってほしいってさ」

川 ゚ -゚)「ん、わかったよ」

時計を見ると、6時だった。
ちょっと早い飯時であった。



46: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:02:58

食堂に着くと、テレビでしか見たことの無いような白くて長いテーブルが1つあった。

いつの間に戻ってきたのだろうか、既にブーンさんとツンさんが仲良く2人で向かい合うようにして腰掛けていて、
私とドクオはその横にそれぞれ座るようにした。


ξ゚听)ξ「あら、クーさん。おめざめ?」

川 ゚ -゚)「いや、はは。疲れてしまいましてね」

( ^ω^)「無理もないお。東京から来たんなら、朝も早かったんだろうお?」

('A`)「そっすねー。俺も、結構疲れましたよ。
    ブーンさんたちも、役所行ってお疲れじゃないですか?」

( ^ω^)「ブーンたちは慣れてるから大丈夫だお」


そうやって会話に花を咲かせていると、ショボが戻ってきてドクオの横に座り、
今度はつーさんがやってきて私の横にすわりと、段々と人が集まってきた。

そうして気がつけば、つーさんの横には私の見知らぬ……。

いや、先ほど写真でみたことがある、フサさんがつーさんの横に座って、私のほうを見ていた。



47: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:03:37

ミ,,゚Д゚彡「俺がこの旅館のオーナーのフサだから。
      君がクーちゃんだね? つーから話は聞いてるよ、よろしくね」

川 ゚ -゚)「これはどうも」

軽く会釈をすると、フサさんはつーさんと楽しそうに会話をし始めた。


やがてモララーさんがやってきて、各々にワインを注いでくれた。
赤ワインで、ほんのりとぶどうの香りが立ち込めていた。

そうしてモララーさんが次々と持ってきた食事をテーブルの上において、
夕飯の用意が全て整ったようだった。

モララーさんがショボの横に座り、全員が席に着いたところで、
フサさんの掛け声の下、いただきますと言い、私たちは食事にかじりついた。


主に山菜や魚介類などを中心としたメニューで、
白身魚のムニエルなんかは、特にうまかった。



48: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:04:32

(*゚∀゚)「どう、クーちゃん。今日は楽しんだ?」

川 ゚ -゚)「あ、つーさん。いえ、今日は私は寝てしまいまして。
     明日、島中を巡ってみようと思っているんですよ」

(*゚∀゚)「へえ! ま、いろいろな景色を堪能しながら島を周ってみてよ」

川 ゚ -゚)「楽しみにしています。
     この旅館で、つーさんみたいな方と出会えて、よかったですよ」

(*゚∀゚)「私もだよ! ここに来るお客さんは皆心の温かい人でね。
     ほら、これ見て。これね、私のお父さんとお母さんなんだけど、その時から旅館があったんだよ」

つーさんが箸をおき、首にかけていたロケットを開いて私に見せてくれた。
その中には、この旅館をバックにしてとられた、2人の男女の写真が入っていた。

一瞬、それを先ほどのフサさんとつーさんの写真と見紛う程に似ていた2人が、
モララーさんの言っていたギコさんとしぃさんなのだろう。

モララーさんのほうを見ると、彼はショボと話に夢中で、こちらには気づいていないようだった。



49: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:06:02

(*゚∀゚)「この旅館は、私たちにとって本当に宝物なんだ。
     これからも、ずっと大切にしていきたいんだ!」

川 ゚ -゚)「応援していますよ。
     私の知人にも、この旅館を紹介してみます」

(*゚∀゚)「ほんとに? やったね、兄さん!」

ミ,,゚Д゚彡「はは、ありがたいなあ。
      クーちゃんみたいなお客さんにはほら、サービスしちゃうから」

フサさんが私の杯に、ワインをとぽとぽと注ぐ。
お酒には強い私ではなかったが、それを断るわけにもいかず、
ぐびぐびと呑み続けた。


(*゚∀゚)「あ、あとね、私従業員の立場だからみんなには言ってないけど、今日誕生日なんだ!」

川*゚ -゚)「おお、それはめでたい。ささ、つーさんものみましょ」


結局私はその後もフサさんやつーさんと話に熱中してしまい、
食事が終わったときにはべろんべろんに酔っ払っていて、ショボに部屋まで連れいってもらった。

情けないことだった。



50: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:06:57



(;´・ω・`)「ったくもー。2人とも、吐かないでよ?」

すっかり日も暮れ、外も真っ暗となったころ、
私と同じようにドクオもべろべろに酔っ払っていた。

なんでも、モララーさんにせかされて、飲みまくっていたらしい。

(;'A`)「うえ。さっさと寝ようぜ。
     寝ないと吐いちまう」

(;´・ω・`)「きたないなあ。
      でもま、疲れてるし、さっさと寝るに越したことは無いね」

川;゚ -゚)「うむ。早く寝るとしよう」

部屋にはベッドが2つしかなく、女の私が優先的にベッドで寝ることとなっていたが、
公平なじゃんけんでもう1つのベッドはショボが使うことになっていた。


歯を磨き、これから布団に入ろうと言うところで、私はふと、窓の外を見た。



51: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:07:55

川 ゚ -゚)「おや」

ポツリ、ポツリと屋根を穿つ水の音。
それは次第に強くなっていき、ザーザーと激しい雨となった。

窓の外に見える山々の景色は、暗い雲に覆われてしまい、
それは夜の暗さとあいまって、全てを隠してしまうように暗かった。

('A`)「雨かー……。これじゃ、明日は出かけられないかもなあ」

窓の外を見ながら、ドクオがポツリとつぶやいた。
ショボも、そうだねと相槌を返しながら、さっさと布団に入って眠ってしまった。

('A`)「ま、明日のことは明日考えようぜ。
    さて、さっさと寝るとするかねえ……ヒック」

ドクオは床に寝そべると、仰向けになって目を閉じた。

私も寝ようと思い、電気を消して、ベッドに入ろうとする。



52: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:09:10

川 ゚ -゚)「……!?」

その時、なぜだかは分からないし、それが何かも分からないのだが。


背筋がぞわぞわと震えるような、何かを私の後ろで感じた。


川 ゚ -゚)「……」


あわてて後ろを振り返ってみると、そこには
真っ暗な森が広がる窓の外の景色があるだけだった。

川 ゚ -゚)(気のせいか?)


土砂降りの雨が降り、昼間とは打って変わって薄暗くなってしまった景色を目の前に、
私はなぜだか言い知れない不安を抱いていた。

私が感じたそれは、何かの視線だった……そんな気さえ、した。

しかし、とりあえずこの晩は、それを酔いのせいにした。



1、長閑な景色広がる孤島  終



次のページ
戻る